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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
64/93

母の愛

惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変った。

そしてワオリたちの活躍によってシュラハティニア大陸が解放され、世界は悪魔や亜人たちを倒そうと動き始める。

そして1007年。


ナハトイデアール大陸へと戻ってきたワオリたち。

そしてヤーグが偵察に行って得た情報により、廃墟となったライディンの町でマドカの姿があった。

それを聞いて居ても立っても居られないメンバーたちは、しっかりとした計画も立てず急いで救助へと向かうのであった。

 ライディンの町へは1日かかる距離だが、鍛えられたワオリたちの足は速く、早朝に出発して昼前には町近くに辿り着いた。昨夜のヤーグ侵入に対応した魔物はまだ石の状態で、廃墟からは生物の気配は感じられなかった。

「ヤーグの言っていた通りだな。」

 翼が傷ついたヤーグは隠れ家で休ませている。そんな彼が傷つきながらももたらせてくれた情報。

「町舎に暗い青色の水晶があり、その中にマドカ様がいた」

 誰もが慕い憧れた獣人族の族長であり、町の指導者の一人。そして、ワオリのたった一人の肉親である母親。

 この町が悪魔たちに攻められた際、マドカは僅かの手勢と共に悪魔を食い止めてワオリたちを逃した。それからは消息などなく時間は経ち、誰もが亡くなったと思っていたのだ。

 それが生きていると知って動かない訳にはいかない獣人たち。娘であるワオリはもちろんであるが、共に長い時間を戦った戦友であるダンガにしても必ず助けたいという強い想いがあった。

「他の存在は見当たらないな…。よし、始めるぞ!」

 そうダンガが言うと、ユズナがすでに竪琴から変形させている弓を構えて弦を弾いた。風が刃となって飛び、石像のままのガーゴイルを斬り砕いた。

「進めぇー!」

 ダンガの声に150名のメンバーが故郷であるライディン内へと駆けていく。一方の北の入り口では、ゼフィルートが駆け出して変化しようとしたガーゴイルを一撃のもとに粉々に砕いた。

 町の中へ一気に雪崩れ込むメンバーたち。中は廃墟と化し、建物は崩れて物は散乱している。長い月日によって風化した物も多く、死体の白骨化した者は振動だけで粉々になっていった。

「よくも俺たちの町を…。」

 誰かが町の風景を見て漏らす。だけど今は感傷に浸っている時ではない。とにかく急いで町舎へと向かうのみだ。

 ライディンは発展して東西10kmもの距離がある。南北もまた12kmもあり、その中心部に町舎が存在する。多少入り組んだ配置になっているが今のワオリたちの足ならば10分程度で辿り着くはずだ。

 しかし、それは障害がいない場合での話。昨夜のガーゴイルの動きによってこの町の警戒態勢は強化され、地面から湧き出るようにホブゴブリンが現れる。

「チッ、無いとは思っていなかったが湧き出るなんてありか!」

 レンが走りながら叫ぶと、現れたホブゴブリンに蹴りを食らわせて倒す。更に数名のヒトや獣人がワオリたちの前に出ると、ホブゴブリンを押し返して道を作った。

「ワオリ様、先を行ってくだせぇ!」

 目の前のホブゴブリンを爪で斬りつけながら、レンが叫ぶ。そのまま周辺の敵を倒しながら逃げ道を確保しておくつもりだ。

 その意図を汲んで前を進むワオリたち。出てくるホブゴブリンはキリがないが、その都度メンバーが前に出てワオリたちを先に行かせようとした。

 やがて町中央の広間に出る。町舎前は集会が出来るように広場が設けられており、もう建物は目の前である。だがそんな広場を簡単に抜けられるような状況ではなかった。

 足を止めたワオリたち。その前には3体の悪魔が待ち受けていた。どれもが見覚えのある姿で、この町を襲ってきた時の悪魔たちであった。

「昨日反応があったからもしやと思ったら、やはり来たか。」

 槍を肩に担ぐ半身半馬の馬顔が言う。その隣にはでっぷりとしたお腹の緑色の肌をした一本角の鬼らしき悪魔が、ヨダレを垂らしながらワオリたちを眺める。

「お、おで・・・、喰いたい…」

 そして二人の前には軍服のような衣装を着崩した女性型の悪魔がいる。

「あらぁ?どこかで見たことあると思ったら、ここから逃げ出した連中じゃないかい?」

 人差し指を唇に添えて、ワオリたちを眺めながら問いかける悪魔。妙な色っぽい悪魔だがその目の辺りは黒い革の眼帯で覆われていて、どうやって見ているのだろうかと不思議に思える。

「お母様を返しなさいっ!」

 ダンガが声を掛けようとするが、その前にワオリが魔刀を構えて叫ぶ。するとその女性型の悪魔が納得したように笑みを浮かべる。

「やっぱりそうなのね。ウフフッお母様って言うのはアレの事かしら?」

その悪魔が町舎の方に顔を向ける。それに合わせてワオリたちも視線を向けると、町舎の壁が壊された二階部分にブラックゴブリン2体が水晶を担いで現れた。暗い青色の水晶は2mほどの四角い大きさで、その水晶の中には、簪をした女性の姿が映っていた。そこに映った姿は紛れもなくマドカであり、随分衰弱した様子であった。横たわっていると聞いていたが、今は何かで両腕を吊り上げられ、だらんと身体を俯かせた状態でいる。

「おかぁさまぁーーーー!」

 ワオリが叫んで飛び出そうとしたが、そこはダンガが腕を掴んで止める。

「落ち着けお嬢。飛び出しても何もできないぞ。」

 一瞬ダンガに顔を向けるが、落ち着かせようと深呼吸して前を見据えるワオリ。しかし、その視線が母親しか映っていないのは仕方ない事だろう。

「お前たち、あの女性をどうしてあんなとこに閉じ込めているんだ?」

 ダンガはワオリの腕を掴んだまま問いかける。それに対して女性型の悪魔は鼻で笑ってみせる。

「フッ、気になるかい?そうだねぇ、そこのお嬢ちゃんの大事な大事な母親だものねぇ。とりあえず教えてあげるよ。あの女は生きている。」

 その瞬間、ワオリがハッとしてそして涙を流した。

「アラアラ泣かせちゃったかい?そりゃそうだよねぇ、あんたたちを逃がして私たちに挑んできたんだ。当然死んだと思ってたよねぇ。酷いもんだ。」

「何が酷い?」

 ムッとしてダンガが聞く。すると女性型悪魔はくねくねと体を揺さぶりながら移動を始める。

「そりゃぁあんたたちは生きさせてもらった訳さ。なのにそうした本人は生け捕られ、こんなに長い時間ずっと苦まされてたんだ。その間あんたたちは今日まで生きているかも確認しに来ないでいたわけだ。誰にも助けて貰えず、あたいの拷問に耐え続けてかわいそうだよねぇ…。」

 そう言い終えた時、その悪魔はスーッと空中を移動して水晶の横に立つ。そしてその水晶に手を掛けながら叫ぶ。

「こんな風にね!」

 その瞬間、水晶の中で黒い闇がマドカの体を蝕んでいく。体中に痛みが発生し、水晶の中でマドカはからだを仰け反らせて悲鳴を上げる。だがその声は水晶の外には聞こえない。

 母親の苦しげな姿にワオリが駆けだそうとするが、ダンガがその手を放さない。

「行かせて!ダンガおじちゃんっ。」

 そう叫んだが、ダンガはじっと水晶を見つめながら動かない。今、こうして見せつけながらこちらが突っ込んでくるのを待っているのだ。だから下であの馬面と肥満体の悪魔が待ち構えている。戦友が甚振られているのを奥歯を噛みしめながら我慢するダンガ。そして女性型悪魔の仕打ちは止まった。

「アラアラ、薄情だねぇ。あんたたちの大事な仲間がやられてるのに。」

「そうした挑発は止めろ。飛び出したらそこにいる悪魔たちが仕掛けてくる手筈だろ。」

 ダンガが睨みながら返すと、女性型悪魔は驚いた表情で手を叩いた。

「おぉ~、見え透いた挑発は効かないとはなかなかやるわねぇ。だけど、こうしたらどうかしら?」

 再び闇がマドカを襲う。そして今度は水晶からマドカの悲痛な叫びが聞こえた。

「キャアアアアアアアー!」

「せっかくだよ。良い声で鳴くからあんたたちにも聞かせてやるよ。」

 ケタケタと笑いながら女性型悪魔が言う。広場にはマドカの悲鳴が響き、流石にダンガも我慢できなくなった。

「キッサマァー!」

 その瞬間、掴れた手が緩んだのを察知してワオリは振り切って駆け出す。ハッとするダンガだが、直ちに号令を出した。

「皆行けっ!マドカ様を救え。」

「オォッ!」

 ワオリが一直線に水晶へ向かう中、まずは半身半馬の悪魔が横槍を入れようと動く。

「では早速頂くか。」

 だが、パラヤが投てき用のナイフで牽制をかけ、そのまま二刀の大型ナイフで襲い掛かった。

「ワオリ様に手出しはさせんっ!」

 馬顔は槍で飛んできたナイフを弾き、パラヤを迎えた。

「ほぅ、面白い。槍にナイフでどう立ち向かうか見せて貰おうか。」

 戦いを好む悪魔。故に嬉々としてパラヤと戦い始める馬面の悪魔、名を【バテューユ】という。

「子どもの肉は柔らかくて美味いんだなぁ…」

 肥満体の緑鬼【ドンキ】が左手でジャンプしたワオリを掴み取ろうと伸ばした。

「させるかぁー!」

 大盾を持ったバンが他のメンバーと一緒にドンキに突進した。ドンキの体は3m弱もある。その足に体当たりを受けて流石によろめくと、左手はワオリに届かなかった。

「デカブツめ、俺たちが相手してやる。」

 追いやった状態から、バンたち10名パーティーが勢いのまま攻撃を仕掛ける。

「なんだぁ?お前らから喰ってほしいのかぁ?」

 常に腹を空かせたドンキ。その要望も相まって、底知れぬ恐怖を感じさせながら、迫るヒト達を掴み喰らおうとした。


 そして一直線に飛ぶワオリは、魔刀を振りかぶって女性型悪魔【リズィアン】に斬りかかった。その前に二体のブラックゴブリンが立ち塞がるが、すぐに魔刀を操って大盾を構えた二体を横薙ぎに叩き斬った。そして戻す刃でリズィアンに挑むが、腰にあった剣を抜いてそれを防ぐ。鍔迫り合いになる状態だが、やはり体型はリズィアンの方に分があるため、ワオリは押されて下がる。だが、壊れた壁に足をかけて、再びワオリは斬りかかっていく。

「へぇ、戦い慣れてるじゃないか。」

 見直したような言葉を呟きながら、ワオリの魔刀を弾き返す。そこから互いに剣術の応酬を始める。鍛えられたワオリの剣筋をリズィアンはことごとく防ぎ、合間に攻撃を入れるがワオリもまたその素早さで躱す。互いに一進一退の攻防の中、リズィアンは悔しそうな声を上げてワオリを力いっぱい押し退けた。

 それによって一旦間合いを取るワオリ。すかさず構えをとるが、未だに水晶はリズィアンの傍にあるため、それが気が気で仕方がない。

「やるねぇ。まだ幼いと思って甘く見ていたが、しっかり戦えるじゃないか。悔しいけど、剣技は勝てる気がしないねぇ。」

 そう言って剣を床に突き立てる。

「降参でしたら、お母様を返すですよ!」

「アハハハハ、誰が降参だってぇ?舐めんじゃないよ!」

 そう言って手を上げるリズィアン。

「あたいたちだけだと思ったかい?ちゃんと兵たちを用意してあげてるよっ。さぁ、お前たち、出番だよ!」

 そう叫ぶと、ワオリは周囲を警戒する。そこにやってきたダンガたちもまた注意を促す。しかし少し待っても何も出てくる気配はなかった。

「あれ?何してるんだいっ、さっさと出てくるんだよ!」

 再度叫ぶと、ワオリの隣に人影が立った。黒く輝く人型のフォルム。その姿にワオリがニコッとする。

「せっかくだが伏兵は全て倒させてもらった。諦めろ。」

 攻殻を纏ったゼフィルートだ。北から一人で攻め込み、そのまま周囲のゴブリンたちを尽く消滅させてここまで来たのだった。

「くぅっ、何だいお前は!」

「俺か?俺はヒトだ。」

 お決まりのようなセリフを返すゼフィルート。だが、その加勢にワオリたちの気運が高まった。

「さぁ、早くお母様を返しなさい!」

 その声に悔しそうに口を歪めるリズィアン。そんな時だった。

「ワオ・・リ…?」

 微かな声が聞こえた。消え入りそうではあるが、はっきりと聞こえる。信じられないという確認の声は水晶から聞こえた。その声にワオリは即座に耳垂れた耳を弾ませ反応する。

「お母様ぁー!」

 間違うはずがない母親の声。その返答にマドカが問うように言った。

「ワオリ!ワオリなの?なぜここに…?」

「お母様を助けに来たですよ!」

「わしも居るぞ!」

「ダンガも!あぁ、無事だったのね…」

 すすり泣き声が聞こえた。その声にワオリも思わず涙するが、今はまだ泣く時ではない。

「待ってて下さいですよ。すぐに助けるですよ!」

 母親の声を聞いてようやく落ち着きを取り戻したワオリ。このまま無事に救出できると期待が膨らむ。だが、それを拒む声があった。

「ワオリ…気持ちは嬉しいけど、もう私はダメなの…。だからかまわず逃げなさい。最後に声が聞けて嬉しかった…。」

 マドカ自身からの言葉にワオリは驚く。もちろんダンガたちも同様だ。

「何言ってるんじゃ!ここまで来て無理なわけなかろうっ。」

 思わずダンガが叫ぶと、それを聞いていたリズィアンが笑い出した。

「アーッハッハッハ、思ったよりも愉快だわ。あたいからばらそうかと思ったけど、本人から言われた方がすごい顔するわよねぇ。」

「何がおかしい!」

 愉快そうな姿に怒鳴りつけるダンガ。すると笑みを消したリズィアンは手を腰に当ててワオリを指さす。

「説明してあげるわ。いい?そこのお嬢ちゃん。あなたの母親はね、この水晶の中でしか生きられなくなったの。」

「なに言ってるですか!」

 噛みつきそうな顔で怒りを見せるワオリ。

「嘘じゃないわよ。だってあの時この獣人は死んだのだから。」

 その言葉に皆が押し黙る。そして視線が水晶に向かうと、中からマドカが悲しげに、そして残念そうに告げた。

「その通りなの…。あの戦いで私は全妖力を使い果たし、そして最早死ぬしかなかった…。なのにそれは許してもらえなかった…。この水晶に入れられて私は死ぬことも出来ず、ただただこの悪魔の拷問を受けるだけの日々を送っているの…。

 もう、死にたいと願うだけの日々だった…。

 でも、こうしてワオリの声が聞けて生きてて良かったと今は思えるの。

 だからもう、私の事はいいから逃げなさい。そしていつかこの町を…。」

 涙ながらに訴える言葉に、ワオリが承知する筈が無かった。しかしその現実に、ダンガたちは意気消沈する。目的はマドカの救出だっただけに、それが叶わぬと知らされて先ほどまでの戦勝ムードは鳴りを潜めた。


「魔力枯渇か?」

 ワオリたちが静まり返り、リズィアンだけが喜んでいる中、ゼフィルートが静かに問う。その質問にマドカが肯定する。

「ええ。私の場合は魔力でなく妖力。しかも膨大な妖力を必要とするため、ここを出た瞬間に生命力を維持できなくなります。」

 それを聞いて尚更気持ちが下がるワオリたち。一方でリズィアンが更に笑みを深める。

「酷い奴だねぇ。味方の癖に更に心に傷を負わせてなんて奴だい。」

 だが、ゼフィルートは気にも留めずに語った。

「だったらユズナに頼めばいいんじゃないか?」

「「「ああ!」」」

 その場にいたメンバーたちが声を揃えて納得した。地脈を操るユズナだから、即座とはいかなくても生命維持のための妖力くらいは供給できるのではないか?

 そう思った時、皆がやる気を見せた。そして一人が急いでユズナを呼びに向かう。

「助ける可能性があるです!だからもう、やれる事をやるだけですよ!!」

 ワオリは再び魔刀を構えた。

 そんな様子にリズィアンは不思議がるも、ハァ~っと溜息を吐いた。

「何かわけがわからない事を考えているらしいが、そうそううまく事は運ばないってことを覚えときな。」

 その言葉と同時に、階下で叫び声が上がる。バティーユと戦っていたパラヤが、傷を負って膝をついている。バティーユは槍で肩を叩きながら膝つくパラヤを蹴り飛ばした。それによって吹き飛び、廃屋に突っ込む。

「こっちは任せる。」

 ゼフィルートが救助へと向かった。一方のドンキを相手するバンたちは、危ないながらも上手く連携して重傷を受けずに立ち回っていた。

「それじゃ、お母様を返してもらうですよ!」

 ワオリが両手で魔刀を持ち、突きの構えでリズィアンを狙う。

「チッ、劣勢だねぇ…。だがね、奥の手ってのは後にとっておくものなんだよ。」

 そう言って目の眼帯を外す。するとそれまでヒトの女性の形でいた姿が、状態は裸の女性で下半身は蛇の様になってとぐろを巻いている。見開いた眼は金色にぎらつき、口は裂けた。

「さぁ、これがあたいの真の姿だ。」

 半身半蛇の姿。これがリズィアンの正体であり、強力な魔力を持つ特級悪魔となっていた。

「負けないですよ!」

 そう言うワオリとダンガたちは、攻撃を開始したのだった。


 一方、ユズナを呼びに行った足の速いホビット族の戦士。急いで西へ走る中、町の入り口まで行かぬところで向こうからユズナが走ってきていた。

「ユズナさん!」

 声を掛けると向こうも気付いて手を振る。そして手前で立ち止まると、ユズナが慌てたように問いかけた。

「戦況はどうなの?」

「一先ず無事が確認できました。ただ、妖力枯渇による死の恐れがあるため、それでユズナさんを呼びに来た所です。」

「わかったわ。それより大変なの。」

「どうしましたか?」

「敵の増援がこっちに向かってるわ。かなりの数だから急がないと危険よ。」

「なんですって!」

「さ、案内して。急ぎましょう。」

 二人は急いで町舎へ向かうのだった。


「ぐわっ!」

 ワオリの攻撃をリズィアンは右手の爪で防ぐ。しかしその刀の威力に爪はひび割れ、次には砕けることが予想できた。

「クソ、厄介だねその刀は。」

 そう悪態を吐く間にもダンガたちの攻撃が迫り、リズィアンは懸命に防ぐ。そして一瞬の隙に腕を振るって風の刃を発生させた。それによって傷つく者もいる中、一旦間合いが開く。

 そんな戦闘を水晶の中から見ていたマドカは、強くなったワオリに驚きながらも、成長を嬉しく思った。

「ワオリ…、本当に強くなったわね。よくがんばったね…。」

 涙し喜ぶ母。だが次の瞬間、その意識が急に暗闇の中へと追いやられる。

「え?」

 水晶の中でまた闇が発生すると、今までと違って闇が体内へと入ってくる。

「いや、入ってこないで!ワオ……」

 そして意識は真っ暗な中へと落ちて行った。


「こうなったら、せっかくの玩具を使うしかないね。お気に入りだったんだが仕方ない…。」

 リズィアンは水晶に手をかける。

「やめなさい、なにするですか!」

 ワオリが制止を呼びかけたが、その瞬間水晶はパリーンと甲高い音を立てて割れた。そして中から女性の姿が出てくる。キュウビの姿のマドカであった。しかし、その体は真っ黒に染められており、顔は獣のように怒り狂っていた。

「お母様!お母様に何をやったですかぁ!」

 驚きのワオリ。するとその声に反応して襲い掛かるマドカ。ワオリは咄嗟に躱そうとするが、その身体能力に反応が遅れて魔刀でそれを受け止める。

「何をしている!」

 ダンガが止めに入ろうとするが、そこにリズィアンの風の刃が飛んできて躱すのに精一杯となる。

「やめて、やめてですよお母さまっ!」

 悲痛な娘の叫び。しかしその声は母には届かず、蹴りが繰り出されて壁に飛ばされるワオリ。そしてそのまま壁に衝突して悲鳴をあげるが、そこへ更にマドカの追撃が迫る。

「アーハッハッハッハァー、いい気味だよ。母親が娘を殺そうとしてるなんてねぇ。」

「貴様っ、何をしたんじゃ!」

 ダンガが爪で斬りかかるが、それを同じく爪で止めたリズィアンは期限良さそうに語る。

「教えてやるさっ、今まであの体にイヤというほどの闇を与えてきたのはね、こういう時にあたいの兵隊となって貰うためだったんだよ。つまり今あの体はあたいの言うとおりに動く人形ってワケさ。そしてすでにお前の母親の意識は闇に落とした。最早そこにいるのは母親の体をした敵ってわけだよ。ほら、殺さなきゃお前が死んじゃうよぉー、アーッハッハッハ。」

「この外道がぁっ!」

 怒るダンガとメンバーがリズィアンを攻撃する。しかしさすがは特級だけあってそう簡単には攻撃が届かない。

「ほらほら、早く殺さないとあんたが死んじゃうよぉ。」

 甲高く笑いながらほくそ笑むリズィアン。


 そしてその横で魔刀で母の攻撃を受け止めるワオリは悲しそうな顔で呼びかける。

「しっかりしてくださいお母様、がんばるですよ!あんな奴になんか負けちゃダメですよ、おかあしゃまぁ!」

 涙を零しながら必死に訴える娘に、闇に呑まれしマドカの体は攻撃を緩めることはない。娘にはずっと見せたことのなかったキュウビの姿で、その体躯から全盛期のように繰り出す攻撃は、強くなったワオリをしても凌駕する。

 やがて防ぎきれなくなったワオリは、強烈なマドカの爪によって魔刀を手放し、床に伏せてしまう。その魔刀を拾い上げるマドカ。そしてそれを持つと伏せたままのワオリの傍に立つ。

「お嬢っ!」

 その状況にダンガが叫んだ。

「やめろっ、何をしてるか分かってるのか!マドカァーっ、お前のその子を産むときの誓いはどこに行ったぁー!」


 その時、マドカの体がピクッと震えて止まる。そして掴んだ魔刀を音を立てて床に落とすと、両手で頭を抱え込んだ。

 声は出さないが苦しそうに体を震わせる。

「何してんだい、さっさとその子を殺すんだよ!」

 突如として制御できなくなったことに腹を立てるリズィアン。だが、そんな命令の中で闇に落とされた母の愛の心は目覚めていた。


「お前、分かっているのか?子を産むという事は、お前の力が弱まるのだぞ。」

 寝床で上体を起こしたマドカの傍らに、ダンガや亀の獣人タトールのゲンドー、白きバーデュンのハクカが腰を下ろしてみ見舞う。そこはまだ平和な頃のリュナエクラム集落。長であるマドカの腹は大きく、その子を産もうとするマドカに苦言を伝えに3人は来たのだった。

 獣人族は子が生まれたら皆で育て愛を育む。だが、長であるマドカに関してはそれは認め辛い事であった。

周囲の状況から考えて、長は強き者が成るとされている。それによって集落の者達は安心して暮らせるからだ。

 それともう一つ。マドカは突然身籠り、子を産むというのだ。相手が誰かもわからず、そんな状況ではどんな子が生まれるかもわからない。

「弱まろうとも、その分また強くなれば良いじゃろ?」

 ダンガの言葉にそう返すマドカ。お腹を摩っては愛おしそうに見つめる。

「しかし、どこの誰が相手かもわからず突然身籠るなど、聞いた事がないわい。下手をすればマドカ様のお命にかかわるやもしれませぬぞ。」

 ゲンドーの説得にも、マドカの表情は変わらない。

「確かに、どんな子が生まれるか解からぬ。だけど、こうやって私に生んで欲しいと願って来てくれた。そんな子がどうして危険なのかしら?分からぬと言えば、生まれるまではどの子もわからぬであろう?」

 そう言われて何も言えないゲンドー。そしてハクカが確認した。

「では、マドカ様は何が何でもお産みになるという事ですな?」

「そう。私は何が何でもこの子を産み、そして愛を持って育てる。それが私の誓いであり、一番の望みだよ。」

 そう言った時の顔を見て、三人はそれ以上言う事を辞めたのだった。そこにいたマドカは長としてではなく、紛れもなく母として優しく愛情に満ちた笑顔だったからだ。

 それから間もなくしてイヌミミの少女が生まれた。イヌミミは今まで全く種族がなく、誰もが不思議がり、不安もあった。しかしマドカの愛情はワオリを心優しい少女へと成長させたのだ。


 そして時代は戻る。


 今、闇に支配された身体の中で、母であるマドカの心が闇を追い払おうとしていた。

「私の娘に手は出させない!」

 強き心が闇の支配を遠ざけていく。そして苦しむマドカの傍で、起き上がったワオリが一所懸命呼びかけていた。

「お母様、お母様っ、がんばるですよ!」

 そんな声援に応えようと、抱える長い髪が、黒から金色へと少しずつ変わっていく。

 それに怒りを見せるリズィアンはより強い闇を与えようと試みる。しかしそれを今度はダンガたちがせめて隙を与えない。

「貴様だけはワシが殺す!許さんぞ。」

 マドカへ意識を向けた僅かな隙に、ダンガはその腹に爪を立てた拳を入れた。まともに入ったダメージに苦痛で顔を歪めるリズィアン。そこへ更にメンバーの攻撃が続き、その蛇の下半身が斬り刻まれた。

「うぎゃああぁぁぁ」

 悍ましい呻き声に身の毛もよだつが、ダンガたちの攻撃は手を緩めない。せっかくのチャンスで仕留めてしまうつもりだ。それまで魔力の障壁が強かったが、腹の傷で障壁が弱まり、次々と傷が増えていく。

「トドメだっ!」

 ダンガがその顔面に爪を立ててやろうとした時、リズィアンはするりとその体を残して逃げ出す。蛇だけに脱皮して、大きな半身半蛇の体から抜け出したのは最初の女性型の体だ。しかし無理して脱皮した為か皮膚がズルズルで一見ゾンビかと見間違うほどだ。

「かくなる上は、あの子供だけでも殺して…。」

 途中で自分の剣を拾って駆ける女悪魔。気付いた時にはもう少しで後ろを向くワオリに辿り着く。それに気付いてダンガが叫ぶ。

「お嬢、避けろっ!」

 苦しむ母に寄り添っていたワオリが気付いた時、そこには剣を突こうとするリズィアンの姿が目の前にあった。

(もう間に合わない!)

 そう誰もが思った時、リズィアンの首が飛んだ。

「な…なぜ…」

 飛んで床に転がったその首は次第に霧と化して消えていく。そしてからだもまた霧と化していった。

 その首を刎ねた正体。それは金色の髪をしたマドカの姿であった。愛しき我が子の体を抱き寄せ、伸ばした左手はそれまでの恨みを晴らすようにリズィアンの首を斬り飛ばしたのだった。

「お、お母様!」

 驚いた顔で見上げるワオリ。そして抱きしめてくれる母の体に腕を回して抱き返す。

「お母様、お母様ぁ~。」

 喜びで泣くワオリにマドカは右手で優しくその頭を撫でる。

「ワオリ…もう一度この手で抱けるなんて…。」

 喜ぶ母親。親娘の久々の抱擁であった。

「ワオリ…、これからも頑張って生きていくのです。私はずっと見守っていますからね。」

「はい、頑張るですよ!そしてこれからもお母さまと一緒に頑張るです。」

 母の温もりに抱かれながらワオリは決意を語る。

「そう…そうしたいわね…。でも、それは叶わないの。」

「え?」

 そう言って目を開けたワオリ。その瞳に目の前のダンガの姿が移る。その顔は信じられないという顔で固まっていた。

「ワオリ…、本当に強く優しい子供に育ってくれました。母は、そんな和織を誇らしく思います…。私の子供に生まれてくれて…ありがとうね、ワオ・・・ィ…」

 その瞬間、ワオリの体にマドカの体が乗っかるように重くなる。それを抱きかかえるようにしたワオリの手に、温かいものが触れた。何だろうと思って母の体を見やると、その背中に刃が突き抜けていた。それには赤い血がべっとりと付いており、ワオリは一瞬思考が止まった。

 リズィアンと交錯した際、ワオリを庇ってマドカは心臓に剣を受け、代わりにその首を刎ねたのだった。

次第に重みで尻もちをつくワオリ。その体に次第に温もりが抜けていく母の体が乗っかかる。

「え…え…え…?おかあさ…ま?おかぁしゃ…」

 脳裏に巡りゆく母親との日々。そして、最後に笑顔のマドカが「ありがとう」と言って思い浮かんだ。

「ヒック…ヒック…ハッ・ヒッ…グスッ…ウウゥゥゥゥ~おかぁちゃまぁ~、うぅわあぁぁぁぁぁぁ」

 大声でなくワオリ。そんな姿を目の前にしてダンガもまた膝をつく。右手を額を押さえながら項垂れる。

「なんてことだ…ウウウッ」

 戦場の中で、ワオリの泣き声が響き渡っていた…。


お読み頂きありがとうございます。

昨日に続いて何とか投稿することが出来ました。


今回のお話に関しては、様々な葛藤をしながらこの結果を選びました。

私としては、マドカとワオリ親子が大好きです。

だから、書き上げる際は大泣きしながら書いております。


そして、この戦場はまだ続きいています。

次回もまだ辛いままのお話ですが、どうかワオリを応援してあげてください。

よろしくお願いします。


それではまた次回まで…。

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