かんざし
惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変った。
そしてワオリたちの活躍によってシュラハティニア大陸が解放され、世界は悪魔や亜人たちを倒そうと動き始める。
そして1007年。
ワオリたちは次なる作戦を開始していた。
1007年ブルーム。温かい気候になってワオリ達はレイラの船に乗って東へと向かう。目指すはナハトイデアール大陸。
そこはワオリ達の生まれ育った故郷。生まれたリュナエクラムは滅び、第2の故郷として育ったライディンの町も今では廃墟と化している。
また巨大な大国グランデュシュテルン王朝が栄えていたが、悪魔たちの台頭に今ではそのほとんどの主要都市が陥落している。
大陸にあった各種族の集落もそのほとんどが滅ぼされた。その報せに住み慣れた土地を去る種族もあって、今では亜人…つまりゴブリンの集落のみが残っている。
だがそんなゴブリン達もこの大陸を牛耳る悪魔を恐れている。四大公の一柱、『斬殺のジルデミオン』がこの大陸を支配している。この悪魔は六本の腕を持つ鬼神で、その手にある剣や斧、槍で敵を斬り殺すことを喜びとしている。特に強者と闘い、その強者を斬り倒す事は最上の悦びであり、その欲望は燻り続けている。
というのも、悪魔王復活の時リオンと戦ったのがこの悪魔であり、そのまま決着がつかぬままデュートに譲ってしまった事が原因である。それ以来、気晴らしとしてゴブリンたちをまとめて斬殺したり、複数の悪魔たち相手に戦うなどするのだが、悪魔はまだ復活できてもゴブリンはそういう訳にいかない。だからこそゴブリンたちは大公に遭わぬことを願っている。
片や悪魔たちにとっては大公と闘い、経験値を上げられることを喜ぶ者もいる。完全に身体を失って復活するには時間が掛かるのだが、身体の部分を欠損したくらいならば、たちまちの内に復活してしまう。
そうやって上級から超級にレベルアップした悪魔たちが巣食う大陸が、今のナハトイデアールである。
ワオリ達は身を隠した南の隠れ家であった洞窟へ上陸した。2年近く放置していた事で埃まみれになっているが、当時の事を思い出して想いに浸る獣人たち。
「やっと、帰って来たでしゅよ…。」
自分が使っていた机に手を添えてワオリが呟く。それを後ろから見ながら、ダンガ達は我知らずと奥歯を噛み締める。
屈辱の日々であった。自分たちの長と共に戦う事も許されず、潜み続けた5年の月日。悔しさに心を燻らせながらも、いつか復讐するのだと心に誓ってこの地を去った。
ここで苦い日々を送った者たちが塞ぎこむ中、ユズナがそっとワオリの肩に手を置く。それを見上げたワオリに、美しいハーフエルフの顔が頷きながら言った。
「これからだよ、ワオちゃん。まずは皆の住んでいた所を取り戻そう!」
「はいですっ!」
その返事にダンガ達もまた力強く呼応した。今回はレイラの2隻の船で200名のメンバーが上陸した。レイラは当初海沿いから一気にライディンへと攻め上がるつもりだったが、全く偵察もしていない状況でその意見は却下され、船が着岸できる入り江となっている南の隠れ家へ身を寄せたのだった。
エスケリトには300人の者が残り、巨人たちを中心に守りを固めている。ガナン達は付いて行きたがったが、渡航するには巨人の乗れる船が必要であり、デコールが早速設計を始めている。だが巨人たちの居住が完成していないため、それから作るために時間が掛かるだろう。
今回戦闘員だけでなくドワーフからベントと食事の用意にナッチョンとバオが付いて来ている。
「一先ず、腹ごしらえをしておこう。その間に偵察も帰ってくるはずだ。」
早速料理の用意を始めるナッチョンとバオ。数名の者が手伝う中、ワオリは秘密の抜け穴からそっと外に出た。
すでに日は沈み星も見えぬ暗雲の中、ワオリは大木を登って太い枝に腰かけると北を見つめる。隠れ潜んだ時よくこうして北を見ていた。ここから200km先にライディンがあり、故郷を取り戻すのが一つ目の目標だ。
「お母様、やっと帰って来たですよ…。」
亡き母を思い毎日泣いていた。そしていつか仇をとると誓って努力してきた。その思いがやっと叶えられる時がやって来たのだ。
「絶対…絶対に取り戻すですよ……だからお母様、見守って下さいです。」
強い想いを告げると、握り拳を胸の前へ寄せ力を込めた。
偵察には夜目が利き、空を飛べるバードゥンが向かった。夜に眠る必要など無い悪魔たちであるが、カラスのように漆黒の翼を持つ『ヤーグ』だと発見される可能性が低い。
そんな彼が夜闇に紛れて空高く舞い上がる。高度を上げることで大陸全土を見える位置まで来ると、自分で戻ってきたと言う喜びを感じる。
「帰って来れたんだなぁ…、おっと早くしねぇと夜が明けちまう。」
そこからライディンの町を確認すると、そのままものすごい速度で滑空していく。こうすることで遠距離も短時間で向かう事が出来るのが空を飛ぶ者の強みだが、実際高度を上げることはそれだけ気温が低く、酸素も希薄になるため、それなりの修練をしなければならないのであった。
ヤーグは元々大人しく戦闘もこれと言って得意な訳ではなかった。そのため特に目立った事が出来る訳ではなかったのだが、その隠密性をゼフィルートが見出し、パルドスを倒した後で地獄の様な特訓を経て今に至る。自分では気付かなかったが、ヒトに気配を悟られない能力に特化しており、おかげでよく仲間たちから「あれ、あいつどこ行った?」などとすぐ横にいるのに言われてきた。更に漆黒の翼は余り縁起が良くないと蔑まれてきたものだが、ワオリはそんなヤーグを仲間として接してくれた。
だからこそ、がんばるワオリを手助けしたいと言う思いにゼフィルートの厳し過ぎる修行を耐えた。
「やはり、灯りは付いてない…。生存者は…」
物凄い勢いで大地へ落ちて行く中、ライディンの状況を隅々まで確認していく。建物は崩れ、壁の狭間で身を隠している可能性はあるが、見える範囲でゴブリンの姿は無い。そして少し羽ばたきをして速度を落とすと、町周辺を眺める。
「くそっ、荒らすだけ荒らして捨てていきやがった…。」
周辺にも生物の姿は確認できなかった。夜目によって見渡す故郷は、まさに廃墟と化しており、かつての賑やかで華やかだった景観はどこにも残っていなかった。
壊され汚された故郷の姿に涙がにじむ。ヤーグは少しの間すすり泣く。
ごしごしと前腕部で目を擦ってもう一度町を見下ろした時、その瞳に思わぬものが映った。
「え…?あれは、まさかっ!」
町の真ん中、かつて町舎として町の運営を行っていた建物。戦いで崩れた中、一瞬きらりと光った事で気付いたのは大きな水晶だった。暗い青の水晶は夜では分かり辛かったが、一瞬きらりと光ったのはその水晶の中の物だ。
それは簪であった。銀に輝く簪が刺さった髪。そして水晶の中で眠る様に横たわる女性の姿。その姿をヤーグは覚えている。この町で過ごす前から自分たちを先導してくれた偉大なる女傑。そして今我らのリーダーであるワオリの母…。
「マドカ様っ!」
確認しようと急降下して町に向かう。
しかしその行動を察知する姿がそこにあった。ライディンの四方に置かれていた獣の石像の内2体が動き出し、その背に蝙蝠のような翼を広げると、ヤーグを襲い始めた。
「くそっ、やっぱりいやがった!」
確認したいが、一先ず偵察としてこの情報を持ち帰ることを優先としたヤーグは、急旋回して高度を上げる。
自分を追う2体の翼を持った獣。くちばしはあるが手足を有しており、何よりも禍々しい姿だ。危険を感じたヤーグは更に速度を上げて飛翔する。何とか振り切れればと思うが、もの凄い熱量を背後に感じて咄嗟に錐もみ状態で横にスクロールする。するとそれまでいた場所に大きな火球が飛び超えて行った。
「火球の魔法!」
身を震わせて背後を見ながら逃げる。どうやら口から吐き出したらしく、もう一体もまた口を開いており、そこから赤い炎が見えた。
「魔法じゃない!くそっ、当たるものかよ。」
ヤーグは速度を上げて上昇を続ける。見つかってしまった以上は相手を倒すか、逃げ切る事のどちらかしか選択は無い。ヤーグは戦闘に強くないため、この場合は後者一択だ。
石像から生体反応を確認することで獣に変わると言う魔獣『ガーゴイル』2体。上級悪魔が使役するため、その強さは中級悪魔並みである。その1体が逃げるヤーグを追跡する。ヤーグよりも速いことはないが、遅れる事も無い。一定の間隔を保ってずっと追いかけるガーゴイル。それにヤーグは焦燥する。
(このままではみんなの元へ戻れない…)
偵察に出たのに、逆に敵を連れ帰ってしまうなど絶対あってはならない事だ。今一度チラリと後ろを見ると、ただ追いかけてくるだけで攻撃をしてこない。
どうしたものかと思案しながら飛んでいたから、そこでようやく気付き、慌てて回避しようとした。
追いかけてくるガーゴイルの更に上空。斜め上へと上昇するヤーグと追跡するガーゴイル。そして先ほどいたもう1体は、そのまままっすぐ上空へと高度を上げたのだった。そして自分たちより高い所から追って来ると、ヤーグの死角から火球を放った。
思いもしない上空からの火球。回避しようとすると、その視界に追いかけて来たガーゴイルの口が真っ赤に燃えているのに気付いた。
つまり回避した所で狙い撃ちされる…。
そう悟った瞬間、上からの火球が迫り咄嗟に身を捻る。だが少し反応が遅れたために火球はヤーグの翼に当たる。
「痛っ!」
右翼に穴が開き、浮力を失ったヤーグの身体が重力に引かれる。
「しまった!」
そう言った瞬間、追いかけて来たガーゴイルの火球が襲い掛かった。
翼が傷ついて避ける事も出来ず、ヤーグは正面から飛来した火球に直撃し、そのまま大地へと墜落して行った。
落ちて行くその姿が見えなくなった後、ガーゴイルは互いに見合ってから北へと戻って行く。すべき事を成し、再び監視と防衛の任を実行するため石へと戻るのだった。
その町の中心に鎮座する様に置かれた暗い青水晶。そこに写るのはまぐれも無くワオリの母であるマドカそのヒトの姿であった。
「ヤーグ君、しっかりするですよ!」
満身創痍なヤーグ。心配そうな声に目を開けると、そこにはワオリがいた。更にはゼフィルートもおり、ヤーグはひとまず安どする。しかし体の傷は重傷で、身体中に痛みが走る。
「ワオリさ、アグゥゥ!」
「無理に話さなくていいですよ。じっとするですよ!」
心配するワオリ。外で丁度町の方角を見ていた事で、上空での戦闘を発見することが出来た。そして周辺の偵察に出ていたゼフィルートもヤーグの姿を捉え、二人は急いで落ちたヤーグの元へと駆けつけた訳である。
火球によって傷ついた右翼。そして落下する際狙い撃ちされた火球を更に傷ついた右翼で受け止め、火球による被害を最小限に食い止めた。
それより深刻だったのは高度からの落下であった。左翼だけでは飛ぶことなど出来ず、そのまま地面に落ちるしか無かったヤーグだが、落下先が森の中であったことと、残った左翼を目いっぱい開いて落下抵抗を行った。
片翼に全体重と落下による衝撃がかかる。千切れそうな痛みに耐え、ヤーグは森に落ちると、鬱蒼と生い茂る枝に何度も当たって衝撃を殺し、最後は駆けつけたゼフィルートにキャッチされて一命を取り留めた状態である。
「もうすぐ薬を持ってユズナが来るからがんばるんだぞ。」
ゼフィルートもそのボロボロになった姿を労わる。自分が奨めた偵察任務。それを全うしようとして傷ついたのだ。それなりに責任を感じているゼフィルートであった。
するとヤーグは苦しそうな呼吸の合間に言葉を発する。
「ワ、ワオリ様・・・。」
「喋らなくていいですよ、じっとするですよ。」
困り顔のワオリ。でもヤーグはこれだけは伝えないとと口を開いた。
「町に敵はほとんどいません…。そして…ハァハァ」
「いい、あとで報告は聞く。」
ゼフィルートも声をかけたが、ヤーグは最後の力を振り絞って言った。
「庁舎の中に水晶があり、その中にマドカ様が…」
そこまで言うとヤーグは気を失った。焦って生死確認するゼフィルートだが、心臓は動いていることを知って安堵の息を吐く。それをワオリに伝えようとすると、その表情に眉をひそめた。
ヤーグの言葉にワオリの目から輝きが消えた。思いつめる様な表情の後、今にも駆け出そうと身を翻す。そこでゼフィルートがワオリの腕を掴んで止めた。その静止に睨みつけるワオリ。そんな表情を見たことがなかったため、ゼフィルートは一瞬たじろぐも、きっちりと諭す。
「一人で何をする気だ?」
「だって、お母様が!」
顔を町の方角へと向ける。だがゼフィルートは強い口調で制す。
「今行ってどうする!ヤーグが命を懸けて持ち帰ってくれた貴重な情報だ。それを精査し、次の手を考えるべきだろう。闇雲に突っ込んでは救える者も救えないぞ。」
歯を食いしばって俯くワオリ。でも気持ちはどうしても向かいたくて仕方がない。
「それにヤーグをこのままにしておく気か?せめてもう少し話を聞いて行動すべきだ!」
気を失ったヤーグに視線を向け、ワオリは悲しげな表情のまま力を抜いた。一旦引きとめられたと悟って、ゼフィルートは手を離す。
そこにユズナが駆け付けて、ヤーグに薬を与えてから隠れ家へと戻って行った。
隠れ家にて意識を取り戻したヤーグから偵察で見た内容を聞き、一同は動揺した。その原因は水晶の中に横たわりし女性の姿。見間違いではないのかとの声が上がる中、簪の輝きを聞いて疑う者はいなかった。
かつてライディンで過ごした者たちからすれば、見過ごすことなどできない情報である。マドカが必ず肌身離さず大事にしていた物だ。ライディンにて平和に過ごす中、ワオリが母に初めて贈ったプレゼント。それがいかに安いものであろうとも、町の鍛冶職人たちのお手伝いをしながらワオリが母のために頑張って入手したものなのだ。それを渡された時のマドカの涙を流しながらも喜んだ笑顔。近くで見ていたダンガは、決して忘れることの出来ない母としての美しいマドカの笑顔だった。
「それで、あの追って来た魔物はあれだけなのか?」
ゼフィルートが問いかけるとヤーグは一度目を瞑り、確認した限りを答える。
「見たのは全部で4体。石像でしたが、それが近付くと2体の石化が解かれて襲い掛かってきたンス。いきなり火球を吐いてきたから、急いで逃げたんでそれ以上は分らないです…。」
「石像が魔物に…、使い魔かしらね?」
顎に手を置きながら考えるユズナ。思いつく限りの正体を語るが、ダンガが先を促す。
「それなら石のまま壊してやればいい。明朝出立して取り戻そう。」
その言葉に元ライディンのメンバーたちが威勢よく応答する。だがそれをユズナが制す。
「待って!使い魔だとすればそれを使役する悪魔たちが必ず集まってくるわ。それを確認せずに行くのは危険よ。」
ガーゴイルを操る者が先ほどの異変に気付いていない訳はない。だとすれば、必ず町に防衛のための戦力を置くはずである。だが、いつもなら冷静にそれらを判断するダンガが反論する。
「ならばそれらも皆倒してしまえばいい。そうすれば今後もやりやすくなるはずだ。」
「ちょっと!そんな簡単に行く筈が無いじゃない。もう少し状況を把握してからにしましょう。」
思わぬ言葉にユズナが言い返す。それでもダンガは退かない。
「さっきヤーグが確認してくれたんだ。少なくても他の場所からならば我々が明朝一気に行くより時間がかかるだろう。その前に攻めてしまえば良いのだ。」
「ダメよ。まだ細かな情報が得られてないのに危険だわ。一体どうしたのよ?いつものダンガさんらしくないわ。」
何とか思いとどまらせようとするユズナだが、ダンガの意志は強かった。そしてダンガはユズナを睨みつけると、その右手に拳を作って語る。
「ユズナよ、確かに何かあるやもしれん。じゃがワシらは行かねばならん。」
「なぜ?」
「知れたこと。我らが長であったマドカ様がそこに居るとあれば、直ちに救い出すのが臣下の務めじゃ。我らを救うためにその身を犠牲にされたが、それが生きておられると分かったならば、何が何でも救いに行く。それが我ら獣人族なのじゃ。」
その決意は固く、周囲の者達も鋭い顔つきで頷く。でも、ユズナは納得できない。
「それは…。もしかしたら罠かもしれないし…その中の女性が別人かもしれないでしょ?」
水晶の中の人が違うことは十分にあり得る事だ。そして廃墟と化した場所にわざわざ水晶を置くなど何かあると思っても間違いではない。
そんなユズナの言葉に、それまで俯いて椅子に座っていたワオリが呟くように言った。
「お母様の簪は…あたちが町のお手伝いをして初めて買った物です…。それをお母様はとても大事にしてくれました。寝る時も必ず直ぐ傍に置いて、いつも肌身離さず付けてくれてました。
だから町でいたヒト達は…、ヤーグ君がその簪を見間違うことはないんです。」
そして俯いていた顔を上げると、今まで見たこともない程に眉を吊り上げて怒りの表情をしていた。
「だから、きっとお母様のはずです。あそこで助けを待ってるはずです。だから救いに行かないといけないんです!」
愛する母親への想いを強く語るワオリ。その決意にメンバーたちも力強く頷く。最早覆すことなどできる雰囲気ではないが、ユズナは再度呼びかけようと口を開く。
しかし肩を掴まれて言葉は消えた。振り向けばゼフィルートがいて、何も言わず首を左右に振るだけ…。
「でもぉ…。」
そう弱く呟くユズナに、ゼフィルートは溜息を吐いて言う。
「もう、止まらないだろ。リーダーであるワオリが決めてしまったんだ。ユズナだって分かってるだろ。母を思う気持ちは…。」
「…うん…。」
ここから北の森でわずかな期間だったが、思念体となった母と暮らした日々。それがどれほど尊く子どもにとって大事な時間であるか。もしも自分がワオリの立場なら、同じようにするだろうと思ってしまう。先ほどのワオリの言葉はそれほど強かった。
消沈したユズナの肩を労わる様にポンポンと叩き、それからゼフィルートはワオリに言った。
「明朝は了解した。それで、これは町を取り戻すのか?それとも母親を取り戻すのか?」
ゼフィルートの問いかけに、何を言ってるんだとレンが口を開く。
「何言ってるんスか、両方に決まってるじゃ無いっスか。」
勢いづいて軽く語ったその言葉にゼフィルートは一睨みすると、それまで狂ったように湧き上がっていた皆の声が静まり返った。そこにダンガが問いかける。
「ゼロ…、反対なのか?」
「了解したといっただろ。だがどっちも出来るなど甘い考えは辞めて貰おう。はっきり言っておくが、向こうの大陸が上手くいったからと言ってこちらもそうなるとは限らない。即座に行動するにしても、向こうに罠があるという事は十分考えられることだ。
だから今一度問うぞ。町を取り戻すのか?母親を取り戻すのか?それによって作戦も変わってくる。それ位は考えてくれ。」
ヒトの救助と町の占領ではかかる時間がまず違う。ヒトであれば救出して逃げればいいが、町を占領となれば時間がかかり、更に増援が送り込まれることを考えておかねばならない。ここはまだどこも開放しておらず、敵地の真っただ中で戦うつもりなのだ。準備期間もないまま街も奪還するなど出来るはずがなかった。
「…そうだな…、今回はとにかくマドカ様救出を目的としよう。
作戦としては、明朝出発して町を包囲。南は海のため、西からお嬢とワシらが向かい、ゼロは北側から20名と頼む。ユズナは30名と共に外で待機し、増援などがあれば即座に連絡をしてくれ。
着き次第まずはその石の魔物を倒すこと。ただしこちらは中央にあ町舎に向かう事を優先する。」
そうダンガがいつものように作戦を立案する。そこにゼフィルートが意見を言う。
「俺は一人でいい。地理が分からんし、敵を倒すだけだ。」
「わかった、よろしく頼む。
では西側からの我々は町舎に向かい、水晶を発見次第中を確認。マドカ様であれば何とか救出する。しかし水晶から出せないと分かった場合は水晶ごと持ち去ることも考えよう。
そしてマドカ様を救出したら全軍即座に後退。ここまで戻ることにしよう。
その際、殿はワシが行く。各自必ずここへ戻って、マドカ様と再会するのじゃ。」
「「「オオォ――――!」」」
ダンガの説明を聞いて皆が気合を込めて叫んだ。大陸に着いた矢先に、強くなったワオリたちが
戦いに挑む。思いもしなかった母の存命に、ワオリはやる気を漲らせて腰の魔刀に手をやる。
その目の前で不安が拭えぬユズナは口を堅く結び、隣にいるゼフィルートの手を無意識に握って心を紛らわせていた。
そんな広間の端で、2人の少女が料理の乗った皿を手に立ち尽くしていた。
「なんか、ご飯って言える雰囲気じゃないねぇ。」
「そうだね…。お料理醒めちゃう…。」
ナッチョンとバオがみんなの様子を見ながら呟くと、その後ろからやってきたベントが口を開いた。
「腹が減っては何とかやらだ。用意しておけば喰うじゃろう。それよりもじゃ…。」
部屋にいるみんなを見回してから願うように語る。
「無事に皆が帰ってくることを願う…。」
「当たり前じゃんか!みんなちゃんとワオちゃんのママと一緒に戻ってくるよ。」
「うんうん。」
ベントの不吉な言葉を吹き飛ばさんとナッチョンが元気に言うと、バオがそれに大きく頷いた。
もう半日もすれば始まる救出作戦。3人は皆の無事を願うしか出来なかった。
お読み下さってありがとうございます。
いよいよナハトイデアール大陸に戻ったワオリたちです。
かつての苦渋を覆そうと獣人たちが血気に逸ってますね。
今回はそんな中で皆がワオリの母、マドカをいかに慕っていたかを書こう乙思ったんですが、
それよりもワオリとの思い出の一つを優先させて貰いました。
「町を降り戻せば済むんじゃないか?」と思われそうですが、それよりもマドカを救う事を獣人たちは決断します。
それだけ彼女は慕われ、カリスマがあったわけです。
ダンガにすれば二度も共に戦う道を許されなかったため、何とか救い出して共に戦いたいという思いがあります。その辺も含めて、今後お読み頂ければと思います。
何にせよ、次回は大作戦です。ユズナの不安などが当たらないことを願います…。
次回もどうぞよろしくお願いします。
それではまた次回まで。




