エスケリトでの対決(町の拡大計画)
惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変わってしまった。
世界のほとんどが亜人たちの闊歩する悪魔の大地と化し、絶望の中に生きる僅かなヒト達。
それから時は過ぎて1005年。
悪魔王復活において、最強の一人であったリオンさえ悪魔王には歯が立たなかった。
更には多くのヒト達が亡くなり、パァムはコロプクル唯一の生き残りとして北の集落で過ごしている。
そしてワオリたちはパルドスを倒して一年と半分が経ち、シュラハティニア大陸最強の種族巨人たちと相対した結果、見事に彼らを仲間に入れて、この大陸を平定させたのであった。
エスケリト城にワオリ達が戻った時、城内及び町の皆が警戒体制をとっていた。
出発前に巨人たちを連れて来ると言っておいたのだが、彼らの巨体が歩けばもちろん地響きは起こる。ましてや13名もおり、途中で狩った巨大な獣たちを運んでいるのだ。近づくごとに地面も揺れた訳である。
それに驚いて戦う準備をしていたのだが、巨人の肩に乗って戻って来たワオリ達を見て騒動は解消されたのだった。
「みんなぁ~、ただいま戻ったですよ~。」
ガナンに肩から降ろして貰いながら、ワオリが元気に呼びかけた。それに応じて城内外至る場所から歓声があがると、皆が城壁の外へと集まってきた。
「おぉ、これだけの者が居るとは…。」
最初にいた頃からヒトは増えて、今では500人以上の人口になっている。様々な種族が集まって生活圏を築いていることにケシューは驚いた。
「種族が違えど、こうして共存しておるとは…。」
すでにライディンの町で出来ていた共存体制により、このエスケリトも大きな問題が起きずに過ごせている。それがどれほどまでに大事であるか。ケシューは今一度、その事実に驚きつつワオリを見直すのだった。
「これは本当に大きいのぅ。腕が鳴るわい。」
ドワーフ達が巨人たちを見上げる。最大にして8mあるガナンの身体に13名分の巨人たちの住まいをどうするか、デコールは頭を捻らせながらも建造意欲を沸かせた。
「ワオリの嬢ちゃんや、巨人の皆の家は少し時間が掛かるぞ。」
「あい、よろしくですよ。」
「家?」
ガナンがデコールに問いかけると、デコールは見上げて言った。
「お前さんたちの住まいじゃ。流石にそれほど大きいのを作るのは初めてじゃが、手伝ってくれれば何とかなりそうじゃ。頼まれてもらえるかの?」
それまで家など無く、雨風を洞窟などで過ごしてきた巨人たちにすれば、家や住まいという感覚がない。だが、自分たちの為に何かしてくれるという事が分かり、カシューが代表となってその申し出に感謝と共に応じた。
「それは願っても無い。我らのためにして貰えるならば、喜んで助力させて頂きたい。お願い申し上げる。」
早速互いに助け合おうとする様子に、周囲が微笑む。
一方で狩った獲物を運んできたガナン達が、草原の上へとそれらを置いた。
「途中で狩ったのはこっちで良いか?」
それを見てやって来たのは料理長であるナッチョンと、バオたち調理班であった。
「うおぉ~、すごい量だなぁ…。腕が鳴るどころじゃなぁーーーい!」
あまりの獲物の量に一人ツッコむナッチョン。何せ巨人たちが食べる量なのだ。普段の人数分の食事量が一人分に相当しそうな肉の量に、流石に頭を悩ませている。
そこへ頭上から覗くようにナッチョンへ話しかけるガナン。
「なんか威勢のいいちびっ子がいるな。」
その瞬間、ナッチョンの額にピキッと青筋が立った!それに気づいて隣にいたバオがアワアワと慌てだす。他の調理班の皆も同様だ。
「誰がちっちゃいだってぇー?」
ギロリと見上げるナッチョン。それを見てガナンが豪快に笑う。
「ガッハッハッ、すまんすまん。元気なちびっ子を見て感心してしまったのだ。」
体長8mもあるガナンからすれば、足首程しかないナッチョンを小さく見て仕方ない。しかし、相手を小さいと言ってしまうのが巨人族の悪い癖であり、巨人族一という己の強さにガナンが無意識に相手を侮ってしまうのは正すべき点であった。
「また言ったなぁー!もう許さないよっ。」
可愛い顔で睨み見上げるナッチョン。それでも全く脅威に感じないため、ガナンは平然と言ってのけた。
「面白い。せっかくの機会だから挑んでみるがいい。我ら巨人族の力を見せてやろう。」
そう言って仁王立ちする。更に腕を組んで「どこからでもかかって来い!」とばかりに挑発した。
「その余裕しゃくしゃくの顔に痛みを味あわせてやるぅ―。」
ナッチョンは背中から愛用のフライパン(大)を取りだした。それを見てバオが慌ててワオリを呼びに行く。
「ほう、そんな板で何が出来る?」
ガナンは面白がって挑発する。他の巨人もやれやれと言う風に微笑ましく見ていた。そして周囲のヒトや獣人たちは固唾を飲んで見守る。
ナッチョンはフライパン(大)を両手で持ち、その両手を空に突上げた。
「ナッチョン流飛翔板格闘術奥義ぃー!」
そう高々と叫ぶと、ガナンの右足に向かって走り始めた。
予想通りに足を叩きに来るのを見て、ガナンは鼻で笑う。あんな板でどう叩こうと効く訳など無いと侮っていた。
そしてナッチョンは大きく跳躍。獣人として高く跳ぶことができ、一瞬ガナンも注視したほどだった。
しかしいくら跳んでも膝に辿り着くほどの跳躍は出来ず、ナッチョンはフライパンもろとも落下する。
「一瞬驚いてしまったが、届かなかったようだな!」
ガナンは攻撃に失敗したと思い気を抜いた。巨人たちも密かに笑ってみせる。誰もがナッチョンの技が不発に終わったと思ったのだ。
だがそれこそこの技の恐ろしい所だと誰が分かろうか!
落下体勢になったナッチョンは勢いそのままに大きくフライパン(大)を振りかぶる。そして狙い通りに着地地点に向けて渾身の力を込める。
突然ですが、読者の方々は経験ないでしょうか?
歩いていて不意に壁や机の角で、足の小指をぶつけた事は?
硬い物が落ちてきて小指の先の方に当たった事は?
その小指の痛み…。それこそこの技の狙いどころなのである。
「小指クラッシャァーーーーッ!」
ガナンの右足小指のつま先目掛けて、フライパン(大)に全体重を載せて叩きつけた。しかも面ではなくえげつないフライパン側面の角を「ガツンッ」と音が鳴るくらいに叩いたのだ!
つま先、それは神経の集中している一つ。硬い皮膚を持っていても、ナッチョンが料理の傍らで編み出した技に、ドワーフのベントとドゥイが酔った勢いで作り上げた超合金製フライパン(大)。それら無駄に高スペックな武器と技によって巨人の痛覚を強烈に刺激した。
「いってぇええええーーーーーー!」
ガナンが悲痛に叫んだ。その声に周囲の皆が耳を抑える程の音響が走り、次の瞬間、ガナンの大きな体が小さく丸まり、両手で右足小指を押さえた。
突然の大音量に頭を揺さぶられたものの、ナッチョンはフライパンを肩に下げてガナンの正面に立った。ガナンは小指にフーフーと息を吹きかけながら涙目になっている。
「どうだ!このナッチョン様を舐めたらあかんぜぃ!」
勝ち誇るナッチョンだが、あまりの痛みにガナンは歯を食いしばるしかできなかった。そこにユズナが薬を持ってやってくると、その小指に降り注いだ。
即効性のある薬だけに次第に痛みは治まり、ガナンは薬の効果に目を見開く。するとその前でユズナがナッチョンに人差し指を立てて注意した。
「ナッチョちゃん、だめだよ。もしも巨人が暴れでもしたら大変なんだから!」
「だってさ、小っちゃいって言ったんだよ。」
唇を尖らせるナッチョン。それを見て優しく微笑むユズナ。
「はいはい、ナッチョちゃんも立派に成長してるじゃない。自分に自信があったら目くじら立てなくても良いんだから、そんなの気にしちゃダメよ。」
「うぅ…ユズナッちは立派な物あるから良いじゃないか!」
ナッチョンにとってユズナのある一点だけは羨ましくて仕方ない。しかしそれにユズナは気付いておらず、てっきり身長差の事だと思って話を進める。
「そんな事ないよ。ワオちゃんもナッチョちゃんも一年で立派なレディーになってるわよ。」
「エヘヘ…そうかなぁ~。」
レディーと言われて照れるナッチョン。それを聞いていたバオたち皆が「ちょろいなぁ」と思った。
そこにガナンが体を起こす。ハッとしてフライパンを構えるナッチョンと微笑むユズナ。そしてその大きな口が開いた。
「侮っておった。すまん。まさかこれ程の痛みを知るとは思ってもいなかった。
先日はワオリ殿から一撃を貰い、今日はお主から痛みを教えられた。今一度我ら巨人族は鍛え直さねばならないと知った。
感謝と共に、これからも色々と教えて貰いたい。良いか?」
はるか上に頭はあるが、まっすぐに視線を向けるその姿は、ナッチョンを認めた感じであった。ユズナに顔を向けると笑顔で頷かれ、ナッチョンは胸を張ってドンと左拳で叩いた。
「もちろんだよ、これから一緒にがんばろう!」
こうして元々いたメンバーたちの中に巨人たちは自然と混ざり合って行けたのだった。そこにタイミングよくやって来たワオリ。
「それじゃナッチョンちゃん、今日は宴ですよぉー!」
「分かったよ、ワオちゃん。今日は腕に選りをかけてがんばるぞー!」
こうして巨人たちを迎えたワオリ達は楽しい宴の準備に取り掛かったのだった。
「そう言えば、巨人族ってどんな料理するの?」
ナッチョンが興味深そうに尋ねた。するとガナンはふと空を見上げて考え、ケシューを見る。
「巫女よ、料理とは何だ?」
するとケシューは深く頷いて答える。
「食べ物を様々な手法で味付けする事じゃ。まぁ、我もそこは受け売りでな、我ら巨人たちは焼くか煮るしかせん。」
「エエッ!それじゃ味付けとかはしないの?」
「ああ、焼いて噛めばその獣の味がする。煮ればその獲物の味が滲み出る。それで十分だ。」
それを聞いてナッチョンのテンションが上がる。これは是非とも自慢の料理を食わせて「美味い!」と言わせたいと…。
「だったら私が料理を教えてあげるよ。でも私じゃ大きい料理は出来ないから、誰か料理できる巨人のヒトはいないの?」
その問いかけにケシューが閃く。
「ならばナーゼに任せると良い。おい、ナーゼ。」
「はい。」
巨人の中から6m程の長い黒髪の巨人が現れた。引き締まった筋肉質の身体であるが、ガナン達と比べたら女性だけに細く見える。他にも3名ほど女性はいるが、誰もが強そうな印象を受けるのに対し、柔らかい物腰を感じさせる。
「ナーゼは我らの腰布や飯の支度をしていた。こやつに料理を教えてやっておくれ。」
そうケシューが紹介すると、長い黒髪のナーゼが微笑んで見せた。
「ナーゼと言う。あまり戦いは得意じゃないけど、肉を焼いたりするのは出来るから教えてほしい。」
おっとりしていて、垂れ目な感じからバオたちは優しそうな人で良かったと喜んだ。そして肝心のナッチョンは思った。
(クッ、なんてでっかくてエロい!)
ナッチョンが一目見て思ったのは、細身なのに胸の部分が物凄く大きく、そして獣の皮で胸と腰の辺りを巻いているだけだから、今にもこぼれそうになっている。しかも長いストレートの黒髪と、細身で垂れ目な感じが何とも欲情的であるため、これは危ないと感じてしまった。
「わかったよ!ナーゼさんは私が大事にしてあげるから、安心して!」
「???お願いします…???」
妄想から少し的外れな事を言ったナッチョンであったが、こうして料理班にも新たな戦力が出来たのだった。
「それじゃみんなで宴の用意をするですよー!」
ワオリの号令で一斉に宴の用意が開始されたのだった。
ワオリ達が平定したシュラハティニア大陸、そこから北西に「ノルズウェッド大陸」がある。エアルスの北半球に位置し、オルハノコス大陸の東にある大陸は、ちょうど中央に「ウェドノ火山」があり、そこから四方に流れる川によって、人々は生活をしていた。特に火山があることで豊富な鉱石が埋蔵されており、もちろんドワーフ達が大国を作っていた。
しかし今では悪魔たちの襲来によってその勢力は大きく崩された。大陸南から攻めて来た亜人たちの軍によって、幾つもあった城は崩され、ドワーフ達自慢の武器や防具はゴブリンたちに使われている。誇り高いドワーフの勇士たちは命の限り戦ったが、悪魔たちによって倒され、ゴブリンたちの残虐により受け入れ難い最期を遂げている。
ドワーフ達は次第に北へと追いやられ、飢えと寒さで倒れる者もあり、その人口は減少の一途であった。そんな時、ここで北に住むヒト科アコースたちと出会う。彼らもまた亜人たちの襲撃にひたすら耐える日々を送っていた。
この両種族はどちらも誇り高く自尊心が強い。以前ならばいがみ合うであろうと容易に想像できたが、ボロボロになって寒さに震えるドワーフ達をアコースのヒト達は見捨てるなど出来ず、ドワーフもまたそうしたアコースの施しに心より感謝した。そして互いに酒を愛する種族であり、その結果手を取り合う事となったのだった。
ドワーフの鍛冶によって魔力を帯びた武器を携えたアコース達。彼らは勇猛な人種で、大柄でがっしりとした体格から丈夫で力強い。それから亜人たちが度々襲撃に来るがそれらを殲滅し、遂にはやって来た中級悪魔をも討伐したのだった。
それまで悪魔には敵わないと考えられてきただけに、その功績に彼らは喜び、より戦力の拡充を目指す。
北の地にいる他のアコース達に声をかけて召集し、装備と訓練を行いながら南への侵攻を画策し始めたのだった。
「此度もご苦労じゃった。」
攻めて来たホブゴブリンの集団およそ100体を相手に殲滅させてきたアコーズの戦士たち。そんな彼らを迎えるのはドワーフ族の王「ドルッセン」たちであった。アコースの戦士たちは一様に装備を外すと、ドワーフ達に整備を任せ、そのまま食事や休憩に向かってしまう。
そんな中でドルッセンに答えたのは戦士たちの長「ソルブガット」だ。
「迎えの言葉、感謝する。だがホブゴブリン100体であれば、最早問題ではない。」
一際大きな体で厳しい顔つきの男。眉間のしわは深く、平時から怒り露わな印象を受ける顔つきをしている。ソルブガットは鎧を着たままドルッセンと共に議事堂へと向かう。
「それで、新しく入った者たちへの装備はどうなっているんだ?」
ソルブガットが歩きながら問う。アコースでも体格の大きな彼の一歩は大きく、その身長の半分ほどしかないドルッセンは早足で追いながら答える。
「ホッホッ・・・、出来上がった物から順には渡しておる。予定では二月で終わる予定じゃ。」
「もっと早くは出来ないのか?」
「無理じゃ。・・・ホッホッ・・・、今全員で事に当たっておるが、やはり限りがある。ましてや装備も良い物を作ろうとすれば時間はかかるものじゃ。ホッホッ」
「分かった…。一先ず冬を越して南進するとしよう。」
諦めた様子で歩くソルブガット。彼としては早く南下して長く厳しい冬を脱したいと言う気持ちがあった。雪に覆われて十分な食物が実らぬ環境で、彼自身南への強い思いがあったのだが、下手に進んで亜人たちの糧になるなどまっぴらである。
「冬の間に十分な戦力を養い、どう進むべきか模索しようぞ。」
ドワーフ達だって早く温かな地方へと戻りたい。そうした思いを押しとどめてしっかりと計画し、戦力を準備しなければ全滅する事になる。
自分の思いを留めながら、北の地の指導者たちは寒い冬を迎えるのだった。
お読み頂きありがとうございます。
今回は短めですが、楽しんで頂けたら幸いです。




