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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
61/93

シュラハティニア大陸、平定

惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変わってしまった。

世界のほとんどが亜人たちの闊歩する悪魔の大地と化し、絶望の中に生きる僅かなヒト達。

それから時は過ぎて1005年。


ワオリたちが悪魔大公の一人『パルドス』を討伐した頃、世界もまた様々な動きがあった。

かつてリオンが訪れたオルハノコス大陸北西部、北の集落にはパァムが集落のヒト達と共に精一杯暮らしていたのだった。

 6年前。シュラハティニア大陸にて悪魔大公パルドスが復活を遂げた。ジャバルヴァースが陥落し、深奥にあった封印の水晶が破壊されたことが原因である。

 悪魔大公が復活すると、瞬く間にシュラハティニアに多くの悪魔が出現し、他の大陸へと侵攻を開始。各地で抵抗を試みるが、ナハトイデアール大陸南部、サインブラハッド大陸北部沖にあった封印が破られた。

 世界各地で破られていく中、オルハノコスにおいてもシールゾルダーの祠で、イデアメルカートゥン城塞都市の総勢力が決死の覚悟で食い止める。かつて海魔との戦いで得た経験は悪魔たち相手に何とか死守し続けた。

 その時の事をパァムは覚えている。というよりも、忘れることなど到底出来ない。双子の弟、ポォムと一緒に戦いに向かい、亜人はもちろん、多くの悪魔を倒した。共に向かったリオンおにぃちゃんも凄まじく、このまま悪魔たちを退けられると思った。

 だけど、それはいかに甘い考えであったかと思い知らされた。

 やがて各大陸の悪魔大公達が集まると、リオンおにぃちゃんは腕が6本ある悪魔で精一杯となり、私とポォムはユキダルマーでパルドスと戦う事になった。そして老紳士の悪魔が封印を解いてしまい、悪魔王が復活してしまったのだ。

 悪魔王を相手にリオンおにぃちゃんは全く歯が立たず、ユキダルマーはパルドスに壊されてしまった。

 あの時、ポォムが意識朦朧とした私を庇って殺されてしまった。そして、大ケガを負った私はそのまま意識を失って戦線を離脱し、気が付いた時にはこの北の集落で寝かされていたのだった。

 そして私は知る事となった。サーシェス様も私を救うためにいなくなってしまった事を…。

 正確には私の中にサーシェス様の魂が宿っている。危篤の状態になった私を救うため、サーシェス様は秘術を使って私に自分の命を授けてくれたのだ。

 更にはあの戦いで敗けてしまったという事。

 気付いた時には全てを失った私は哀しみに暮れた。

 毎日泣いて、何をどうすればいいか分からなかった。

 だけど、こんな私を集落のヒト達は見守り、そして支えてくれた。

 そのため、私はここで共に生き続ける決意をしたのだ。


「眠れないのですか?」

 傍にいる女性が尋ねた。その声に顔を向けると、困った顔をした女性がいた。私の身の回りを世話してくれる『ミキ』である。

「えぇ、色々考えててね。」

 無理に笑ってみせる。そんな私にベッドからそっと抜けたミキは、私の側へと寄り添ってきた。

「何か飲み物でもお持ちしましょうか?」

「ううん、大丈夫。ホント大丈夫だからゆっくり休んで、ミキ。」

 マキの妹で姉と似てはいるが、勝気なマキは目が鋭いのに対し、ミキは柔らかに目尻が下がっているのが特徴だ。その瞳が細められると、

「失礼しますね。」

 そう言ってスッと自然な動きで私を抱き締めた。

「ミキ?」

「嫌な夢を見られたのでしょう。顔が強張ってますよ。」

 少し顔が厚くなる思いをしながら、私はその抱擁に甘えることにした。

「あれから5年。時々怖い時もありますが、今は何とか生活して行けてます。これも皆パァムさまのおかげです。

 ですから何か気になった事などありましたら、どうか遠慮なくお申し付けくださいね。」

 ミキが言うのは、この集落が氷によって守られているからである。元々平野にあった集落を氷山の麓に移動させ、集落を丸ごと護る様に氷の壁を張ったのだ。かつて住んだペルルークの様に、外敵から見れば単なる氷山にしか見えないが、その中は光が射し、外の様子を見る事も出来る。

 周辺を動物が通れば狩りを行い、一方ゴブリンがいれば撃退可能と判断した場合は昼間の様に倒している。そのような生活をしながら、この集落は生き長らえているのであった。だからこそ、パァムを守り神の様に呼んでいるのだ。


「ミキ、ありがとう。私の方こそ、皆がいてくれるから助かってるよ。一人ぼっちだとぜったい生きていられなかった…。だから私こそ感謝してるからね。」

 そう言ってぎゅっとミキの身体に抱き付く。それを優しく受け止めてくれるミキ。

「がんばりましょう。いつかきっとリオンお兄様が助けてくれるはずですから。」

 それを聞いてハッとしてしまうが、それを気取られないように私は頷きを返した。

 ミキにとってリオンおにぃちゃんはヒーローだ。もちろん、マキやボーアも慕っている。

 かつてこの世界を一緒に旅したリオンおにぃちゃん。あの時、最後はどうなったか見ていないが、私はもう気付いている。

(リオンおにぃちゃんは…)

 この数年でずっと気配を探していた。馴染みあってあれだけの強い魔力を持っているのだ。世界のどこかにいれば気付く筈である。

 私以外に世界を見渡している気配もあるが、それに気付かれない様に注意して魔力を探ったこの5年間。

 だけど、それは感じ取れなかった。あるのは世界を覆う気持ち悪い瘴気と、巨大な悪魔王たちの魔力だけ。

 自分でも信じたくないだけに、彼女たちの希望をへし折る事などしない様に心掛けている。

「きっと、いつかまた自由に暮らせるはずだね。」

 儚い願いを込めてそう呟きながら、私はミキの胸の中で安らかな寝息を立てたのだった。


 それから数日後、私は気付く事となる。あの憎きパルドスの魔力が消えて、世界を覆う瘴気が少し晴れたのだ。つまり、パルドスが倒されたという事だ。

 そんな事が出来るのはリオンおにぃちゃんしか思いつかない。だけど気配は全く感じられない。

 では誰が倒したのか?…そう言った疑問が次々に浮かぶが、いつかそのヒトたちに会えるような気がした。

 だから私はそれを希望にして、今は出来る限りのことをしようと誓うのでした。



 場所は変わる。

 そこは真っ白な空間だった。只ひたすらに真っ白なだけの空間に足を着けられるこれまた真っ白な地面がある。

 その地面にたった一か所だけ3m四方の白い壁があり、それに別の色が貼り付けられている。

 それは肌色。その色はヒトの形に似ている。頭部と胴体部分は女性としての姿を認識できるのだが、四肢のほとんどが壁に埋め込まれている。

 言うなれば、女性が壁に埋め込まれている状態なのだ。

 女性的な湾曲が壁から突き出しており、後ろ手に引っ張られるようになっている姿から、頭は項垂れて俯いたままだ。その表情は美しい銀色の長髪によって伺うことは出来ない。

 その女性は確かに生きている。正確には生かされていると言っても良いだろう。彼女には大きな使命があるのだから…。

 この気が狂いそうになる真っ白な空間で、女性は生きている事だけしかできない。何もできず、何も感じられず、只そこに存在しているだけという恐るべき監獄に捕われているのだ。

 もうどれくらいそうしている事か…。彼女は感情の一切を断っていた。最初は何とかできぬものかと抗ってみたが、結果は変わらなかった。行動を止め、思考を閉ざし、そして希望を持つ事さえも諦めたのだ。

 最早どうしようもなく、自分の存在意義も失われ、如何なる感情も持たない存在。

 そんな彼女だが、不意にその銀髪が揺れた。風など無い。動くには彼女の意思しかないのだ。

 そして項垂れていた顔が真っ白な空を見上げる。次にゆっくりとその双眸が開かれると、紅い瞳が虚ろながら周囲を見渡した。

「…拘束が弱まった…?」

 壁の中で手足の力が僅かだけど入ることに気付いた。そして白い空間の中、立ち込める様な圧迫感が少し薄らいだ。

「誰か消滅した…?」

 この白い世界は悪魔大公4柱によって構成されている。それだけの強大な魔力をもって、女性は拘束されているのだ。

「いったい誰が…。いえ、それは問題じゃないわね。まだ少し時間はかかるでしょうけど、あと一人誰か倒して。もう一人倒して貰えたら、自力で何とかできる。その為に彼女も一役買ってくれたんだから…。

 ならば今一度眠りにつきましょう。今度は力を蓄える為に。」

 そして女性は再び眠りについた。いずれ来る戦いの為に力を蓄えるため、そしてそれが自らの破滅に繋がることを覚悟しながら。



 時は経ち、パルドスを倒して1年半が経った。シュラハティニア大陸のほとんどが浄化され、亜人たちも減っていったのだった。

 もちろんそれまでに悪魔たちの襲撃はあった。個が強い悪魔であるため、強い悪魔には従っても、いなくなれば自分の天下だと傍若無人に振る舞う。そしてなにより、悪魔は戦う事が好きなのだ。当然のように大陸の悪魔たちがゼフィルートに挑み、そして浄化されて逝った。

 中には弱い悪魔もいて、ワオリ達もまた戦いに挑んだ。

 パルドス相手に今一歩及ばなかったことから、更に精進を重ねていくワオリ達。この一年間で100体の悪魔を相手しており、今では上級悪魔も退ける強さにまで成長していた。

 そんなシュラハティニア大陸に、亜人たちだけがいる訳ではなかった。ジャバル火山西側に兎の獣人『バーナリー』の隠れ里があり、50人のバーナリーがそこで生存していたのだ。そして北にもヒトの集団が洞窟などで隠れ住んでおり、エスケリト城はにわかに騒がしくなったのだった。

 人口は増え、土地を広げて家屋を建てる。そうしている最中も、大陸全土を平定するため、ワオリ達は今日も戦いに赴いていたのだった。


「小さい奴らが何のようだ?」

 そこにいるのは体長8mの巨人だった。シュラハティニア大陸南にある渓谷『カリムマクバル』は巨人たちの住む地域で、目の前にいる8mの巨人以外にも複数の巨人たちがいる。そんな巨人たちの目の前で見上げているのは、虎の獣人『トルーガ』のダンガであった。

「突然の来訪ですまぬな。そう警戒しないで欲しい。今回は共に戦わないかと思って参った次第だ。」

「共闘だと?」

 訝しむ巨人にダンガは続ける。

「そうだとも。共に悪魔たちと戦わないかと誘いに来たんだ。」

 それを聞いて巨人たちは笑う。

「がっはっはっは、何を言い出すかと思えば。あ奴らを倒す為に我らの力を欲したか?」

 高圧的な態度に対し、ダンガは顔色を変えずに答える。

「まぁ、無理にとは言わぬ。只せっかくなので共に戦わないかという呼び掛けだ。」

 その返答に巨人は眉をしかめる。

「何だと?それは我らの力は必要としていないという事か?」

 粗野な印象を受ける一方で、意外に話術能力があるんだなと感心する。

「いや、そういう訳ではない。共に戦って貰えるならば、これ程心強いことはない。しかし共闘とすれば互いに協力することが大事だ。そうすることが出来るかどうかを確認している。」

 その体格差などもあり、過去において巨人族が他の種族と仲良くしていたなどという記録は無い。何より、巨人は共闘という言葉を家来になると言う風にしか捉えていなかった。

「お前たちの様な小さき者が我らのように戦えると言うのか?これまた戯言をぬかすな!」

 巨人はドラゴンさえも叩き潰すと言われる種族だ。その大きさから繰り出される破壊力は凄まじい限りである。そんな者からすれば、獣人たちなど取るに足らないと考えてしまう。

「ならば問おう。巨人たちは悪魔と戦った者はいるのか?」

「当たり前だ。」

「それで結果は?」

 ダンガの問いかけに対し、急に言葉を失う巨人。周囲も隣と視線を交わすのみでこちらに合わせようとしない。

「やられたのか?」

 ダンガが察して問うと、憤慨したように巨人が言った。

「馬鹿を言うなッ!…あの時、奴らが大軍で攻めて来た。我らは激突し、互いに多くの者が倒れ、やがて奴らは去っていったのだ。」

「ならばここにいる者たちはそれで残った訳か。」

「そうだ。多くの仲間が倒れ、ここにいるのみが生き残った。だからこそ、我らはやられてなどおらぬっ!」

 戦いにおいて自尊心の強い巨人だけに、負けを認めたくはないのだろうと察する。確かにこの渓谷に踏み入った時、多くの巨大な白骨があった訳だ。

「お前たちでは到底叶わなかっただろう。」

 巨人が見栄を張る。自尊心の強い巨人族だけに、相手を見下した物言いは変わらない。

「そうでもなかったかもしれないぞ。」

「なにっ?」

 想像と違う返答に巨人が睨む。そんな視線をどこ吹く風と言う風にダンガは続けた。

「悪魔たちとはすでにやり合っている。この大陸の悪魔たちはほとんど倒しているぞ。」

 それを聞いて巨人たちの目が大きくなる。

「偽りを言うなっ!貴様ら小さき者が奴らを倒せるなどあるものかっ!」

「嘘ではない。これから共に戦おうと言う相手に嘘を言ってどうなる?」

 激高する巨人に対して、ダンガは冷静だ。

「確かに…、だが信じられん…。」

 巨人からすればかつて苦汁を飲まされた相手を、自分より非力な存在が倒したとは到底認められない。

 そんな時に、ダンガの後方から可愛らしい声があがった。

「それなら戦ってあげるですよ。」

「お嬢…」

 ダンガよりもさらに小さな少女が進み出る。ワオリである。そんなワオリを巨人は目を凝らして尋ねる。

「小さき者よ、今なんと言った?」

「あたしたちの言う事を信じられないと言うですから、分かる様に戦ってあげると言ったですよ。」

 思いも寄らない言動に、驚いたのはダンガだった。

「お嬢、無理に戦わずとも…」

「ダンガおじちゃん、このヒトたちは分かってないですよ。自分たちの中だけでしか見てないから、ちょっと世間を教えてあげるですよ。」

「言いおったな小童!出来るものならやってみろっ、捻り潰してやる!!」

 激怒する巨人。それを見上げながらプンプンと怒って見せるワオリ。互いに衝突するしかない状況に、ダンガはやれやれとため息を吐いた。

「だったらワシがいこうか?」

「いや、行くなら私が。」

「俺が行くよ、任せてくれ!」

 ダンガが名乗り出ると、控えていたパラヤとレンが前に出る。三人とも、巨人に対して恐れも何もない。だけどワオリはそこを譲らなかった。

「いいえ、あたしが行くですよ。」

 すでに魔刀を取りだしているワオリが進み出る。いつになく好戦的な態度に首をひねりつつも、ダンガ達は任せることにした。

「さぁ、あたちが相手するですよっ!」

 魔刀を抜かず鞘のまま手にするワオリが、その先を巨人へ向けた。その態度に巨人は怒り、その右拳を振り下ろす。

 物凄い勢いで振り下ろされる拳をワオリ達は跳ねて躱すと、ワオリはその腕に飛び乗って駆け登っていく。

「ちょこざいなっ!」

 巨人は左手で蚊を叩き落とすかのように右腕を叩く。だがそれよりの素早く駆け上がったワオリは巨人の肩口に来ると、目一杯その右頬に鞘付きの魔刀を叩きつける。「バチィン」と物凄い音を立てて頬を叩くと、巨人の顔は弾かれたように左へ向き、身体が傾いた。


 その様子に他の巨人たちが驚き、ダンガ達もその威力に目を瞠った。

「おいおい、いくらなんでも効き過ぎだろ…」

 ダンガがワオリの攻撃にふらついた巨人の評価を下げた。するとパラヤが

「いえいえ、あれはワオリ様の力が強くなられたためです。」

と、ワオリをべた褒めする。それにつられてレンも頷いた。

「この一年で更にワオリ様は強くなった。あれ位当たり前だぜ。」

 今や上級悪魔さえも倒すワオリ。その努力と成長は誰もが認める事だが、それにしても体格差を無視したワオリの攻撃は信じ難いモノである。僅か1m30cmの小柄なワオリの体格からして、遙か8mもある巨人の体格。例えるなら小山を子どもが力いっぱい踏みつけても、何ら効果のないほどの差である。それなのに効いたという事実。

 実の所、ワオリ自身の力も関係あるが、何よりもあの魔刀の威力のおかげである。ワオリの妖気を獲て、魔刀は強力な武器と化しているのだ。そして傷つけまいとしてワオリが鞘に納めたまま使っているが、ドワーフ達渾身の作がそんな生易しい物であるはずがない。

 その鞘は魔刀の力を増幅させる効果を持っている。つまり今の状態でワオリが妖気を魔刀に与えると、その魔力は数段階も増幅されており、もしも抜刀した場合、その一撃は大地を裂くほどの威力を有している。

それほどの力を溜め込んだ魔刀だからこそ、巨人相手に有力な攻撃が繰り出せている訳である。

 ちなみにその鞘に関する説明はされておらず、出来た時にベントが刀身の伸びたことに驚いて言い忘れたのが原因である。


 そんな強力な一撃に巨人はふらつくもすぐに踏ん張り、自らの顔に左手を叩きつける。再び「バチン」と物凄い音が鳴るが、ワオリは直ぐに踏ん張った左足側から下りていって巨人を見上げる。

「目は醒めたですか?今の攻撃で、本来なら終わりですよ。」

 巨人は体勢を立て直すとジッとワオリを見据えた。先ほどまでの怒りや驕りなど無く、ただ真っ直ぐに一人の戦士としてワオリを見る。

「なるほどな…。これは我が間違っていた。お主等は戦士だ。体の大きさで相手を判断した我の過ち…。許されよ。」

 そう言って巨人は近くにある棍棒と盾を手にした。

「我は『アルタナ族』の戦士、ガナン。今一度手合わせ願う。」

 木を一本削ぎ落として作った棍棒と、大きな木の板に様々な獣の皮を重ねて作った盾。それを手にしたガナンは一介の戦士の姿となっていた。

「良いですよ。覚悟して下さいね。」

 ワオリが魔刀を抜いた。その鞘から抜き出た刀身は青く光り、凄まじいまでの魔力を発していた。

 それを見てガナンは改めて己の未熟さを痛感し、同時に死を覚悟する。今その魔刀から発せられる力は到底防ぎようのない強大な力だと認識し、振られれば盾はおろか自らも無事では済まないだろう。

 しかし今自らが手合わせを願い出たため、巨人としてそれを無かった事になどできはしない。最早自らの命をもって、仲間をお願いしようと決心する。

 するとワオリの方が空いた左手をこちらに向ける。

「ちょっと待ってほしいです。」

 流石にその刀身を見てワオリ自身が危険を感じていたのだ。そしてそのままダンガに声をかける。

「ダンガおじちゃん、これちょっと危な過ぎですよ!どうしたらいいですか?」

 その言葉にダンガ達も気付いていたらしく、冷や汗をかきながら思案する。

「なんか今まで見た事も無い魔力だな…。うん、それは絶対悪魔以外に当てたらダメだ。」

「それは分かってるですよ!それよりどうしたらいいですか?」

 振り向くワオリにダンガ達が焦る。

「ちょっと待てお嬢!それをこっちに向けるんじゃない!」

「そんな事言っても、向こうに向けたら危ないですよ!」

「こっちだって一緒だ!」

 何とも締まらない状況になると、そこに歌が流れて来た。とても優しく美しい歌声と、清く力強い弦の響き。

「猛き力は光と化して 母なる大地へ降り注ぐ♪」

 その歌によってワオリの魔刀から次第に魔力が霧散していくと、刀身は微かに青く光る元の長さへと戻っていた。そしてワオリは歌声の方へ向く。

「ありがとですよ、ユズナおねえちゃん。」

 ダンガ達の後方から竪琴を持った美女がやって来た。小麦色の髪を揺らし、竪琴で最後の一音を旋律する。その音が消えると、周囲に漂ったワオリの魔力は静まり返った。

「間にあって良かったわ。すごい魔力を感じたから急いで来たよ。」

 少し驚きの表情でユズナは返答すると、竪琴を懐に抱える。そして周囲を見ながら状況を悟った。

「これから戦うの?」

 そう言われてワオリは頷く。

「そうですよ。今から力比べをするですよ。」

 思い出したかのようにワオリは言うと、ガナンへと向き直って構えをとった。

「さぁ、お待たせしたです。それではお手合わせしましょー!」

 準備万端と言ったワオリに対し、ガナンは直ぐには構えをとれなかった。としても仕方ないだろう。自分では到底防げないと思った力を持つ者と、その力を一瞬にして霧散させる者。それを目の当たりにして力比べなどするまでも無く分かってしまったのだ。

 しかし、自ら挑んだ事だ。後には引けぬと気を引き締め直すところで、巨人側から声があがった。

「はっはっは。お待ち下され、大きな力を持つ娘よ。」

 それは女性の声だった。見れば5m程の大きさの巨人がいた。白い服を身に纏い、長い木の杖を手にしている。そして白髪の長い髪を後ろに流した年老いた女性。さほど立派な体格ではないが、周囲の巨人に比べて強い存在感がある。そして何より、その額には縦向きの瞳が一つある。そう、三つ目なのだ。その三つ目は一度ワオリを見つめると、すぐに閉じた状態になった。

「巫女…」

「ガナンよ。お主の負けじゃ。分かっておるだろう。」

「…あぁ、そのとおりだ。」

 巫女なる三つ目の老婆に促され、ガナンはその場で膝を折りワオリ達へ頭を垂れた。

「先ほどの力を前に、我は悟った…。我の負けだ。」

 潔い態度にワオリは「へっ?」っと呆けた態度を見せたが、ダンガやユズナは「仕方ないか」と納得して見せる。

 そんなワオリ達を見ながら、三つ目の老婆が声をかけた。

「初めましてじゃ獣人の娘よ。我は巨人族の将来(さき)を見る神代(かみしろ)のケシュー。ガナンは今ここにいる巨人たちの中では最も強い。それが負けを認めた以上、わしらはお主達に従おう。されど我らとて意志あるものゆえ、場合によっては従わぬ時もあるがのぅ。」

 従うと言っても自分たち巨人が無駄死にしようものであれば、命の限り抗うという言葉だ。悪魔たちと戦って生き残った僅かな者たちだからこそ、種族の絶滅は避けたい。それはどの種族とて同じことである。子孫たちに未来を託したいと言う思いに、ワオリ達はもちろんだと答えた。

「では、これから一緒にがんばって悪魔たちと戦っていくですよ。」

「あぁあぁ、よろしくたのむよ。」

 ケシューはそう言うと、巨人たちに向いて叫んだ。

「巨人たちよ、聞くが良い!我らは何物にも負けぬ強者であった!されど悪魔なる者たちによって多くの仲間が戦って命を落とした。

 その仇を討たんと我らは機を見ておったが、遂にその時が来たと我が上の目が是と申しておる。

 故にこれよりはこの者たちと共に進まんとする。否を申す者あれば、今ここで我が上の目に申してみよ。」

 老婆の三つ目が見開かれる。その巨人にしては小柄な方の身体が、この時ばかりは大きく見えた。そしてそんな老婆へ巨人たちは皆片膝を付いて頭を垂れた。ガナンも同じくする。

「巫女よ、かねてよりその御目が示す未来に我らは信を持って従ってきた。それはこれからも変わらず、その方針に従って参ろう。」

「うむ、よく分かった!」

 そう言うとケシューは踵を返してワオリたちを見た。

「では改めてここに居る我ら13名の巨人は共に行くと誓おう。」

 その申し出にワオリがにっこり笑って答える。

「あい、それではよろしくお願いするですよ。」

「して尋ねるが、お主たちの長はどのような方かの?何か土産でも持っていくべきかと考えておるのじゃが…」

 巨人族では挨拶に向かう時は獲物を仕留め、それを土産に向かうのが習わしとしている。だからどのようなものが良いかと考えていた所だった。それを聞いてワオリは首を傾げる。

「ん~、特に土産は要らないですよ~?」

「そうはいかん。これから世話になるのじゃ。それ位はさせてほしい。」

 そう言われて更に困るワオリ。そして後ろを向いて助けを求めた。

「ダンガおじちゃーん、何かいる物あるですか~?」

 すでにケシューの言葉を聞いていたため、ダンガは直ぐに応じる。

「帰ったらすぐ食い物がいるだろう。巨人たちも含めて皆で食える分あればいいんじゃないか?」

「そうですね!という事で、帰りに皆で狩りをして帰るですよ。」

 勢いよく言ったワオリは早速振り返って帰路に就く。

「あっ待ってワオちゃん。」

 ユズナが急いでそれを追いかけると、ダンガがケシューに声をかけた。

「言っておくが、お嬢がワシらの大将だ。こまごましたことはワシに言ってくれて良いぞ。」

 それを聞いてケシューをはじめ、ガナンや他の巨人たちもその日一番の驚きを見せたのだった。

 こうしてワオリ達は巨人たちを仲間に迎え、その勢力を拡大させていった。シュラハティニア大陸を取り戻した今、次なる一手へと目を向けるのであった。


お読み下さりありがとうございます。

またも長く間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。


リアルもそうですが、実は今年三度目のハチ刺されで利き腕の甲が腫れ上がってしまい、暫く何もできない状態でした。

ようやく治ったことで、こうして文章を打つことができますが、皆様もくれぐれもハチ刺されはご用心くださいませ!三匹一斉に刺されると、凄まじい痛みと痺れですので…


さて本文についてですが、パァムの現状ともう一人の現状を書き、ワオリたちに戻しました。

まだ他にも活動しているのですが、そこを今書いてしまうと少し不都合がありまして、他の場所については順次書いて参りますのでお待ちくださいませ。


次回は少し穏やかな内容にして、いよいよ新たな大陸へと向かわせます。

どこに向かうかはお楽しみにして頂くとして、巨人族の仲間入りと、大きくなったエスケリト城周辺をお楽しみ頂ければと思います。


それではこれからもよろしくお願いします。

では、また次回まで。

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