銀世界の亜人たち
惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変わってしまった。
世界のほとんどが亜人たちの闊歩する悪魔の大地と化し、絶望の中に生きる僅かなヒト達。
それから時は過ぎて1005年。
かつて難攻不落と言われたダーケルハイト城を強襲したワオリたちは、遂に悪魔大公の一人『パルドス』と戦い、ゼフィルートによって見事討伐することに成功した。
これによって西の大陸「シュラハティニア」は大きく勢力が変わることとなる。
その一方で、世界もまたこの戦いの結果に動き始めるのであった…。
【第3章】
椅子がある。玉座の様な立派な大きい椅子だ。そこに座するは端正な顔立ちをした青年風の男で、長い黒髪に貴族風の衣装を身に付けている。左ひじで頬杖をつき、右手は椅子の肘掛けに置かれたままだ。そしてその隣には銀髪の美しい女性が控えている。
その椅子の少し前方に二人の男性がいる。一人は紳士風の老人で、もう一人は巨漢で勇ましい武人風の男だ。左右対称に6本の腕がある。その二人の後方には姿勢正しい黒い騎士の鎧を纏った男と、鎧武者の様な格好の男、それに妖艶な雰囲気を持つ半裸の女性が控えていた。
物音ひとつ立たない静寂とした空間。そこにドタドタという荒々しい足音が近づいてくる。
やがてその勢いのまま、静寂した部屋の扉が乱暴に開かれる。そこから姿を見せたのは小柄な体格のリザードマンだった。そして入って来るなり怒り任せに叫ぶ。
「パルドス様がやられたって本当か?!」
憤怒するリザードマン。力いっぱいに拳を握りしめ、怒りで尻尾がドタバタしている。このリザードマンの名は『ゲルジェシーモ』と言い、パルドスの部下で悪魔たちの中では大将軍の地位を得ている。今回、他の大陸で活動していたため、パルドスが倒されたという情報はこの召集を受けた時初めて知ったのであった。
「ゲルジェシーモ、控えろっ。」
黒い騎士鎧の男が片膝を付いたままの姿勢で叱る。しかし感情任せに怒鳴ったゲルジェシーモは止まらない。
「クソォッ、クソックソックッソオオォォォ!どこのどいつだ。殺してやるっ、殺してやるぞぉ!」
幼い時より持った異能によって、ゲルジェシーモは様々な迫害を受け続けて来た。そんな彼を引き取って育ててくれたのがパルドスだったのだ。実際は彼の異能を欲しただけで、食事などもエルキュレムが与えていたのだが、本人にすれば大事にしてくれたことと悪魔大公という絶大な地位に憧れを抱いていたのだった。
怒り納まらない中、黒い騎士鎧の男が抑え込もうと動きにかかる。しかしそれより早く、一本の剣がゲルジェシーモの喉元に突きつける。その体の芯から冷える様な刃に、流石のゲルジェシーモもピタリと動きを止めた。
その剣は椅子の前に立っていた武人風の男の物であり、一瞬で間合いを詰めていたのだった。そして単に剣を抜いて突き出しただけの姿であり、特に戦う素振りなども見せていなかった。
誰かがその洗練された動きにゴクリと喉を鳴らす。すると武人の後ろにいた老紳士がカツカツと音を立てて歩いて行くと、ゲルジェシーモを覗き込むように見た。
「ここをどこだか分かっているのかね?」
老紳士の右目に掛けたモノクルがきらりと光る。途端にゲルジェシーモの左頬に線が入り、ボコボコと煮えたぎった湯の様に線周辺が泡立ち、ドロリと溶け始めた。
「グワッ!」
咄嗟に左頬を押さえるゲルジェシーモ。その押さえた手も、ボコボコと泡立ち溶け始める。
「どうか御許し下さい!」
その様子に黒い騎士鎧の男が嘆願する。その言葉に老紳士は一瞥すると元の位置へと戻って行く。武人も剣を鞘に納めて戻って行く。
残されたリザードマンは緊張が解けて崩れ落ちる。そこでようやく溶けていた症状が止まり、ゲルジェシーモは傷を修復させた。
「デュート様、お待たせいたしました。」
二人が元の位置に戻ったのを見計らって、椅子の傍にいた美しい女性が声をかける。その言葉に椅子に座る男『デュート』が口を開いた。
「よく集まってくれた。思わぬ事態が起こったため、それについて皆と話そう。ミューリア、頼む。」
「はい。」
姿勢を変えずそう告げたデュートの指示に、美しい女性ミューリアが恭しく返事をする。そして視線を前にいる者たちへと移すと、その美しい声で語り始めた。
「もうご存知の方もいると思われますが、昨日シュラハティニアのダーケルハイト城が奇襲され、大公パルドス、配下エルキュレム及び亜人たちの全てが消滅させられました。」
それを聞いての態度は特に変わらない。
「それによって彼の地の瘴気が祓われ、その影響は大陸の全土に及んでいるようです。そして、それを成した相手は城を破壊した後、地下へと潜っていったようです。」
地下と聞いて、初めて意見が出される。口を開いたのは老紳士だ。
「地下ですか…。という事は、ドワーフがやったという事ですかな?」
その言葉に、6本腕の武人が言う。
「ドワーフは滅びたはずだ…。ましてやゴブリンの大軍相手に滅びた様な種族がパルドスを殺れるとは思えん。」
その会話に、デュートが尋ねるように入った。
「そうだな…私が感じたのは巨大な闘気だった。だとしてだ、君たちはこれについてどう動く?」
パルドスを倒した者たちについての事であるが、老紳士も武人も特に関心なく答える。
「王よ。確かに脅威やもしれないが、放っておいてもよいかと存じますぞ。それにあの大陸は既に調べ尽くしており、無理に今取り返さずとも、あとで如何様にも出来ましょう。」
老紳士が言うと、武人もまた頷いて賛同する。二人の意見にデュートは隣にいる女性に視線を配ると、ミューリアは微笑みながら頷いた。
「そうか…。パルドス自身は残念だが、それよりも『奴』を探し出すことが先決だ。引き続き、各地で探索を進めてくれ。」
「かしこまりました。」
「御意。」
「はい。」
老紳士と武人はここで初めて最敬礼の態度をとって承諾した。ミューリアは隣で片手を胸に当てて一礼する。この3名こそ、悪魔王デュートの側近である悪魔大公達である。そしてデュートの視線はその後ろでかしずく4名に向けられた。
「君たちも引き続き奴の捜索に当たってくれ。では以じょ…」
「デュート様っ、パルドス様の仇を討たせてくれぇ!」
デュートが会議の終わりを口にしようとした瞬間、かしずくゲルジェシーモが言葉を重ねて遮る。絶対的な悪魔王の言葉を遮るという行為に周囲の者たちが驚き、すぐに殺気を漲らせる。
「貴様ッ、何様のつもりだ!」
流石に武人がこれを戒めて怒鳴りつける。老紳士に至っては鋭く冷たい目を向け、穏やかなミューリアでさえ、その眉を吊り上げている。
同じくかしずく3名は顔をそちらに向けて殺気を込めて睨む。一度に超級以上の悪魔たちから殺気を向けられて、流石のゲルジェシーモも金縛りにあった様に動けなくなる。だが、どうしても譲れない思いはあるのだ。
「無礼は重々承知。だがパルドス様の仇を討たずにいられないっ。」
重苦しい空気。強い殺気によってその場の空気が体に圧し掛かる。だけどゲルジェシーモは強い意思を持ってそれを耐えた。
「静かにせよ。」
デュートの呟きによって殺気は途端に霧散した。突然体の重みが消えて大きく息を吐くゲルジェシーモ。そんな彼にデュートは淡々と言葉を送る。
「ゲルジェシーモ。君がパルドスの世話になり、彼のおかげでここにいられることは理解しよう。だからこそ、その敵討ちがしたいということだな?」
「そうです!」
思いが伝わったと感じて嬉々と返事する。しかし、その願いは叶わない。
「だが、今はそのタイミングではない。やるべきことをやってくれ。」
「何故ですか?!」
期待通りにならなかったため、ゲルジェシーモは激高する。しかしその怒りの熱は直ぐに身震いするほどの冷気に消されていく。デュートの眼差しを受けて、体の芯から冷やされてしまったのだ。
「今言っただろう?まだそのタイミングじゃないと…。」
言葉と同時に細められた目から、背筋を凍らされたかのような痛みと冷たさが襲う。先ほどまで耐える事が出来た大公や同じ大将軍たちの殺気とは全く違うレベルで死を感じる。最早恐怖どころではない。悪魔王との力の差を痛感し、ゲルジェシーモは何とか頭を下げると「畏まりました」と答えた。その瞬間、背中にあった痛みや冷たさは消え、身体の重圧が無くなる。そして体中を大量の汗が流れた。
「では以上だ。」
そうデュートが宣言すると、皆が一斉に最敬礼を行いそのまま姿を消していった。ゲルジェシーモも同じく姿を消す。そしてそこに残ったのはデュークとその隣にたたずむミューリア、そして黒い騎士鎧の男だけになる。未だ礼を止めずに跪く騎士鎧の男にデュートが声をかけた。
「どうしたディアールノ?」
「ゲルジェシーモの行為、申し訳ありませんでした。」
主人の問いかけに心より謝罪をする黒い騎士鎧を着た『ディアールノ』。何故彼がゲルジェシーモの事で謝るかというと、彼の地位が大将軍より上であるからだ。彼の地位は『元帥』。大公の次に偉い立場で、大将軍たちを束ねる立場である。
実際、悪魔は自分より強大な力を持つ者には従順である。しかし基本的な所では自分が第一で、隙あらば伸し上がろうとする狡猾さがある。そんな中でこのディアールノは仲間思いであり、デュートに対しては心から従属している。
「お前は相変わらずだな。そこまで気にしなくても構わないだろ。」
ディートが微笑みながら言う。その様子にミューラルも微笑む。そんな二人にディアールノは変わらず発言する。
「いえ、本来ならば厳しくあのような態度を戒めねばなりません。されど、私があ奴の立場であったと考えたら強く言う事が出来ませんでした。」
その言葉に対して、ピクッと眉を動かすデュート。
「それは私がもしも倒されたらという事か?」
その言葉に床に頭を擦りつけるほどに低頭するディアールノ。
「申し訳ございません。決してデュート様が傷を負わされるなどは思っておりません。ただ、自分の慕う方に何かがあった場合という事に対する考えです。」
自分の言葉で気分を害してしまったと感じる悪魔元帥。その姿は親に見捨てられないように必死に謝る子供の様である。というのも、このディアールノを推挙し成長させ、この地位を授けたのは悪魔王自身であるからだ。なので育ての親同然なのである。
そんな姿にミューラルが優しい声をかける。
「そこまで卑下することはありませんよディアールノ。その思う気持ちはとても大事な事です。」
「あぁ、お前の忠義は大変嬉しい。ゲルジェシーモもその気持ちがあっての事だったと了解しよう。だが、今はまだ仇をとらせる時ではない。放っておいても向こうから来るはずだから、それまではしっかり働くようお前が見ていてやりなさい。」
「ハッ、仰せのままに!」
デュートの言葉に快く返答したディアールノは、立ち上がると一礼して部屋を出ていく。
それを見送ってから、デュートは椅子の背もたれに深く体を預けた。
「ふぅ。」
一息つく姿に隣でミューリアが笑みを浮かべながら労わる。
「お疲れ様でした。」
「あぁ、君もご苦労だった。これでひとまずゲルジェシーモは勝手をしないだろう。」
予め考えていた出来事だったが、上手くまとまったと考えるデュート。それに対してミューリアが頷きを返す。
「そうですわね。それにしてもパルドスを倒した者たち…。今後の動きが心配です。」
「そうだな。あの時感じたのは少し前に上級悪魔を倒した者の霊力と似ていた。つまりはパルドスを倒すほどの強者がいるという事だな…。」
二人が神妙な面持ちで考える。そしてすぐにミューリアが尋ねた。
「そうとするならば、その者を交えた者たちは確実に我々の障害になると思われますわね。」
「いずれはな。だが今はまだそれほどの脅威ではない。パルドスはここ数年、全く戦わずに遊び呆けていた為にやられても文句は言えぬだろう。」
淡々としたデュートの言葉に、ミューリアは眉を下げながらも納得を示す。
「それでは私も行って参ります。」
「あぁ、頼む。」
ミューリアはデュートの前まで移動して一礼をすると、柔らかく優雅な動きで部屋を出ていく。その後ろ姿に、優しさのこもった言葉が送られた。
「気を付けてくれ、ミュー…。」
その言葉に立ち止まったミューリアが顔だけを振り向かせる。そして微笑みながら頷くと再び歩き出し、そして部屋を出ていった。
広い玉座の間でたった一人残った男は瞳を伏せる。そして深いため息を吐いてから瞑想に入るのだった。
エアルスという惑星を我が物としていた悪魔たち。その一角が崩れた事は、意外なほどに早く世界に知られる事となった。
それまで絶対に敵わぬと諦めていた者たちも、その報せに希望を見い出し、世界中のあちこちで潜んでいたヒト達が動き出していた。
真っ白な雪の積もる大地。銀世界の中でぞろぞろと歩いて行く集団がある。ゴブリン達である。寒い中、緑色の肌は腰布以外を露出させており、裸足の足跡が真っ白なキャンパスを汚していく。
そんな格好でありながら流石に寒いのか、時折ブルブルと身を震わせ、身体を抱くようにして両腕を擦る動きを見せるが、根本的な問題が解決されていないために次第に動きは鈍くなっている。
オルハノコス大陸北西部、旧バトリスク王国…世界でも特に寒いとされるこの地域も悪魔の侵攻によって王国は滅びた。
やがて亜人たちが徘徊するようになったが、この地で生活するには寒さと食料の確保が重要であり、元々この地に住みついていなかったゴブリンたちは次々と姿を消していく。そう、ここに来るのは自虐的な行為であるのだが、自分たちを従える者に命令されてはそうするしかない。今も嫌々ながら、命令されて雪の中を進むゴブリンたちなのである。
進む中で獲物や食物でもあれば気持ちも変わるのだろうが、ただ真っ白に広がる雪原にうんざりとする。そんな時だった。それまで晴れ渡った空が次第に曇り、やがて吹雪が起こった。
寒さに身を震わせながら、どこにも逃げだせないゴブリンたち。視界が悪く、立ち往生する中で「ヒュン」という音が聞こえた。
「グギャッ!」
一匹のゴブリンが悲鳴を上げて倒れる。その頭部に一本の矢が突き刺さった為に…。
仲間が倒れた事で臨戦態勢をとるゴブリンたち。しかし相変わらず視界は吹雪によって遮られてしまう。そんな中で再び風を切る音がする。音は3つ。同時に矢が3本飛んでそれぞれゴブリンの頭部や胸部を貫く。
ゴブリンたちは喚き、矢の飛んできた方向へと駆け出した。矢を射るという行動から、相手はヒトの形をした者だと推測する。
よくも仲間をという意識は無く、やられる前にこっちが殺るという考えからの行動だ。その中で欲深い者たちは思う。
(見えない所から攻撃するとは卑怯な奴だ)
(だったら見つけて倒しちまえば良い)
(卑怯な奴だから捕まえてしまえばこっちのモノだ)
(久々の獲物だ)
(オスなら喰い、雌なら犯せ)
(ほら、どこだ?さっさと出て来い!)
自分たちの事を差し置いて身勝手な事ばかりを考えるのがゴブリンだ。当然向こうも吹雪だからなかなか逃げ出せないだろう駆けていく。
再び矢が飛んできたが、今度は音が聞こえた途端にしゃがみ込むことで矢が後ろへと逸れる。ちょうど後ろから追いかけていた一匹が犠牲となったが、当たった奴がドジなだけだとそのまま突き進む。
数十メートルを走ると突如として吹雪は消え、目の前が鮮明になる。そしてヒトの姿が目に映る。防寒用の毛皮を被り、こちらへ向かって弓矢を構えている。その姿と匂いにゴブリンたちはほくそ笑んだ。
(メスだ!)
ドス黒い感情剥き出しにゴブリンたちは寒さも忘れて襲い掛かる。何せ久々の獲物で、しかもメスだ。我慢していた欲望が一気に溢れ出す。
狂気じみたその醜いゴブリンたちの標的とされても、その女性は落ち着いて矢を射った。僅か30mも無い距離で外すことは無くても、矢は一本。1匹を沈めた所で、迫ってくるのはまだ10匹以上もいる。
崩れ落ちた仲間の事など気にも止めず、ゴブリンたちは我先にと目の前に現れたヒトに手を伸ばす。それを避けるように女性は僅かに後方に飛び退くだけだ。
(捕えた!)
そう思ったゴブリン達であったが、次の瞬間目の前が白から黒に変わる。同時に体の至る場所に痛みが走る。激しい痛みに狂気は冷め、表情を歪める。そして自分たちの状況を知る。
そこは土の中であった。2m程の穴が掘られ、その下には無数の木の杭が突き立っていた。見上げれば先ほどの女性が蔑んだ眼差しでこちらを見ている。また、その周囲にもヒトの姿が見えた。
「グギャアァァ…。」
憎々しげに見上げながら、怒り交じりに声を出す。周囲には一緒に落ちたゴブリンたちがいた。ちょうど急所を杭で突かれ絶命した者、上から重なって落ちた仲間たちの重さで圧死した者、杭が刺さって深手を負ってもまだ息のある者。様々だが無事という者は全くいなかった。
やがて落ちた自分たちに槍先が落とされる。止めとしてでなく、様々な憎しみを込めて何度も何度も無数の槍先がゴブリンたちを突き刺した。それによって、ゴブリンたちは絶命するが、その姿が霧と化すまで、執拗に突かれ続けたのであった。
ゴブリンたちが消えると、それまで起こっていた吹雪も止んだ。ある一定範囲内のみに起こった吹雪であり、上級魔法『ブリザード』が発生していたのだ。その魔法が晴れて、ヒト達は一先ず周囲に注意を払う。そして何も無いことを知ると、一斉に穴を塞ぐ作業を始めた。
「無事に済みましたね。」
作業するヒト達に歩み寄る人影。身長は低く80cm程しかなく顔立ちも可愛い白い肌の少女が現れた。その姿に弓を持つ女性が微笑みながら対応する。
「はい。パァムさまのおかげです。」
「いいえ、マキが引き付けてくれたこと。そしてみんなが一致団結して作戦に取り組んだ結果です。みなさん、お疲れさま。」
パァムの言葉に、作業をする面々が照れたように微笑み返す。
そう、かつてこの地の北にあった『ペレルーク』に住んでいた双子の姉「パァム」がそこにいるのだ。愛らしかった姿も、今は少し大人びた雰囲気を見せる。
そして「マキ」は、かつてリオンがこの地で世話になった『北の集落』の少女で、今では立派な成人女性となっている。元々行動力があり、今では弓矢を用いた狩猟者『ハンター』となっていた。
そんな二人の所に一際大きな体格の男が来る。熊の毛皮を着こんだマキの幼馴染「ボーア」である。
「ひとまず、穴を塞ぎましょう。パァムさまぁ、お願いします。」
「はい。」
特徴的なイントネーションを持つボーアに頼まれ、パァムは微笑んで了承する。そして穴へ向かって左手を向けると、瞳を伏せて念じ始めた。
それによって、穴の空洞はそのままに表面に薄い氷の幕が張った。その上に皆が雪を載せて氷を隠していく。
完全に凍った所で、パァムは念じるのを止める。そしてその中央部にマキが進むと、腰から一本の矢を取りだし、突き刺した。矢羽が無く、代わりに赤い糸を巻きつけたそれは、穴の場所を特定できるように拵えた物である。鏃においても刺々しく、押し込む毎に周囲を傷つける形だ。
こうした作戦で事前に表面を割れやすく矢を貫通させると、そこに複数名のゴブリンの体重だけで氷は割れて先ほどの様な落とし穴となる。この周辺だけでもこうした穴は幾つも用意されており、パァム達はここを通りかかるゴブリンたちを討伐していたのだった。
「さて、それでは戻りましょう。」
マキが声をかけると皆が頷き、そして一目散に近くの森の中へと駆け込んで行った。
人の気配が消えると、つい先ほどまでゴブリンが闊歩していたなど分からぬよう雪がその足跡さえも消して、静寂した銀世界が広がっていた。
お読み頂きありがとうございます。
今回から第3章となります。
今回は世界の様子を書くことにしました。
第2部に入ってずっとワオリたちの活躍などをクローズアップしてきましたが、お読み頂いてる方々の中には、悪魔の世界になった結果だけしかお伝えしていませんでした。
それでは今、世界はどのような状態になっているかを少し掘り下げるため、この第3章を当てようと考えています。
ちょうど第1部で3章もペルル―クが出たわけですが、これは狙っていたわけでなく、書きながら確認していて気付きました(笑)
一先ずパァムもリオン達と旅していたころから20年近くが経っています。
その辺りも上手く感じ取って頂けるよう、これから頑張って参ります。
それでは今回はこれまで。
また次回もよろしくお願いします。




