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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
58/93

強襲!ダーケルハイト城

惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変わってしまった。

世界のほとんどが亜人たちの闊歩する悪魔の大地と化し、絶望の中に生きる僅かなヒト達。

それから時は過ぎて1005年。


エスケリト城はドワーフたちの合流によって更なる増強を行った。

そして皆が悪魔たちに対抗できる手段を手に入れたのを機に、ユズナの提案で

シュラハティニア大陸における亜人たちの拠点『ダーケルハイト城』を攻める事になった。

50名という僅かな手勢で、万を超すかつて難攻不落と言われたダーケルハイト城へ向かうワオリたち。

はたしてワオリたちは無事に城を落とすことができるのだろうか?

 森の奥深くにそびえる黒き城の名はダーケルハイト城という。禍々しい雰囲気を纏うそこは亜人たちによって建造された城で、城の周囲には多くのゴブリンたちが跋扈している。そして城の中には黒い鎧を着た『ブラックゴブリン』達が警備しており、今までこの城を攻め落とした者はいない。更に現在では、悪魔四大公の一角である『パルドス』の居城となっていて、悪魔たちもなかなか寄り付かないほどの場所となっていた。

 それもこのパルドスと言う悪魔の性格が物語っている。大公という悪魔王に次ぐ地位でありながら、自分の欲望にしか興味を抱かないのである。『強欲』という異名を持つほど欲望に生きており、特に食欲は飽くことを知らない。最近では喰うか寝る事しかしていないが、その醜く太った身体にある魔力は強大なだけに他者を圧倒している。

 そんなダーケルハイト城に朝が訪れた。最早ヒト科の姿は稀に見るしかなくなった世界でゴブリンは退屈そうに体を起こす。前までは家畜としてバーナリーの女たちを飼っていた。着ていた衣類などは引き裂き、柱に括り付けて身動きをとれなくすると、自分たちの仲間を作る為にひたすら交尾を行った。泣き叫ぶ声に悦び、ありとあらゆる残虐な行為を繰り返した結果、最後の一体が壊れて動かなくなってしまったのは2ヶ月前の事だ。それからはつまらない日々を送っている。

 そして城の方を見上げると、城壁の上から黒い鎧がこちらを見下ろしていた。「偉そうに見下しやがって!」とそのゴブリンは舌打ちする。

 その妬みの要因は、ブラックゴブリンは城に入ることが出来るが、自分たちは許されていない。城を建てる時は散々使われたのに、出来てからは近づく事さえ拒まれる。そんな状況から、あそこには面白い物があるに違いないと思った2匹のゴブリンが近づいた事があった。

 しかし近づくと瞬く間に黒い鎧たちが取り囲み、一瞬で殺されてしまったのだった。それで今では城から50m以内の範囲へゴブリンは近づこうとはせず、ブラックゴブリンも城から離れることがないため、誰もいない奇妙な空間が出来ている。

 すると突然、何か硬い物が擦れる音がした。それは段々と大きくなり、突如として何も無い空間の地面一画が隆起すると、ロックワームが勢いよく顔を覗かせた。

 それを見て不思議がるゴブリンたち。その一方でブラックゴブリンたちは一斉に戦闘態勢をとる。城の入り口を守る二体のブラックゴブリンが手に在る槍を突き込もうと構えると、ロックワームは素早く穴の中へと引き込んでしまった。何だ?と確認にその二体が穴を覗き込んだ時、その赤く光る目の部分に矢が突き刺さると、二体は後ろによろめき倒れた。そしてその穴から次々と獣人たちが出て来ると、城に向かって走り出したのだった。

 突然の奇襲にブラックゴブリンたちが城の上階から矢を射る。しかしその矢は獣人たちを貫くことはなかった。矢避けの魔法が掛けられており、矢はかれらの1m頭上の当たりで向きを逸らされていく。逆に這い出てきたヒトの射る矢が、ブラックゴブリンを倒していく。その間に門が開かれ、先頭を行く獣人たちが一気に城へ雪崩れ込んでいった。

 ここに来てようやくゴブリンたちも動き出す。突如現れたヒト達に襲い掛かる中、ふとその目に入った美しきヒトの雌の姿。小麦色の長い髪にスラリとした体型。それを目の当たりにしてゴブリンたちのドス黒い欲望が溢れだす。


 我先にと周囲の者たちを気にする事も無く、ゴブリンたちは女性に血走った目を向けながら走る。当然、穴から這い上がったばかりの者たちに瞬殺される輩もいるが、そこはゴブリンだけに数が多い。

 傍にいたゼフィルートが一気に倒そうかとしたが、その女性ユズナが止めた。

「数が多いから私がやるわ。少しだけ時間ちょうだい。」

「わかった。」

 迫り来るゴブリンたち。数だけで言えば数万が城の周りで生息している。それらが一気に押し寄せてきているのだが、ゼフィルートが片っ端からいとも簡単に仕留めると、共にいるヒト達もユズナに近づけさせないように壁を築いていた。

 その間にユズナは竪琴を取りだすと、歌い始めた。

「ナ・ムル・ミョーホー・レ・スゲヌク・ヨーゲン・キョール・グ…」

 まるで呪文を唱えるかのように紡がれる歌詞。竪琴は端的に奏でられ次の瞬間…

「トラースッ!」

 全ての弦を一気に弾きながら、ユズナが高々と叫ぶ。するとその竪琴が眩い光を発しながら形を変え、大きな弓のような形状へと変化した。銀の三日月のような形状であるが、その弦は5本もある。とてもではないが矢を放てるような形ではない。

 しかし、ユズナはそれを射る様に持ち、ちょうど真ん中の弦に人差し指を引っかけた。

「みんな、伏せて!」

 ユズナが叫ぶ。その声にヒト達は目の前のゴブリンを叩き伏せるとすぐに屈む。ゼロに至っては有り得ない程に高くジャンプした。

 その合間にも迫り来るゴブリンの波。そこへ弓と化した竪琴を横向きに構えたユズナが、引っかけていた弦を弾いた。

 その瞬間、弓の形をした風の刃が発せられた。それを受けてゴブリンたちが真っ二つに斬り裂かれていく。距離にして50m程、射角範囲は弓の湾曲にそう140度の角度で扇形の刃が広がっていった。その範囲内にいたゴブリンたちが一瞬にして斬り裂かれ、黒い霧と化していく。それでも前に来るゴブリンたちに対して、再びユズナは真ん中の弦を軽く弾く。

 再び発せられた風の刃が襲い来るゴブリンを斬り裂く。その様子に味方のヒト達も驚くが、ユズナの声に我に返った。

「5人だけ一緒にここを守って下さい。後の方は城内をお願いします。」

 そう叫びながら迫るゴブリンたちを斬り裂いて行くユズナ。城を背に向きを変えながら3方向を射続ける彼女に死角は見当たらないのだが、退路を確保するには人手がいる。ましてや敵地だからどこから来るか分からない。残った5人はユズナの邪魔にならないよう、彼女の背後から周囲に気を配った。そこに飛びあがったままだったゼロがようやく着地した。

「上の奴らは倒したが、また出てくるかもしれない。気を付けろ。」

 城の上にいたブラックゴブリンたちを全て倒したゼロ。単独であればそのまま城内に潜り込んだところだが、今回はワオリ達の身を案じて同行するために戻ったのだ。

「うん、ワオちゃん達をお願いね。」

 そう言葉だけを告げるユズナに頷くと、ゼロは城内へと走って行った。

「さ、がんばってゴブリンを退治しましょう。」

 ユズナの言葉に5人はそれぞれ気合を入れる。そんな向こうでパックンがゴブリンたちを地下に落とし込んだり、直接襲い掛かるなどの援護をしてくれたおかげで、そのまま一気にゴブリンを倒すことが出来たのだった。



 ユズナ達がゴブリンを殲滅する一方で、城内に入ったダンガ達。城内では早速ブラックゴブリンたちが侵入者退治に襲い掛かる。

 亜人の中でも強力な戦闘能力と装備を持つ彼らだが、ドワーフ達によって作られた装備と、ゼフィルートによって鍛え上げられた戦闘力は、いとも簡単に彼らを倒していく。黒い大きな盾を突き出しながら迫るブラックゴブリンの背後に回り込むと同時に斬り付けたり、背の低い者は足下を狙って斬り、相手が倒れた所に止めを刺したりしながら、1階のエントランスホールにいたブラックゴブリンの姿が次第に消えて、その身を覆っていた鎧や武器だけが遺されていく。

「バンたち20名はこのままこの場を確保しろ!」

「了解です。」

 ダンガが叫ぶとバンが応答し、階段を背に20人が隊列を組んだ。入口の扉からはゴブリンたちの叫び声が聞こえる。外に残ったユズナ達を気遣うが、次第にその声は断末魔の叫びとなり、バンたちは何が起こったのかと驚く。

 やがてゼフィルートが入場してくると、階段を見つけて上に上がっていこうとする。そこでバンが外の事を尋ねるが…、

「心配はいらない。集団相手ならユズナは俺よりも強い。」

 そう言い残して駆けあがっていってしまったのだった。その言葉に残った20人が首を傾げたが、城の奥からやって来たブラックゴブリンの姿を目認すると、気を引き締めて退路の死守を行うのだった。


「騒ガシイナ…。」

 ベッドで寝ていた7mもの巨体が苛立たしげに呟いた。その呟きを聞いて長身細身の老人が瞬時に姿を現せた。

「お休みの所失礼いたします、パルドスさま。」

 紳士然とした態度で礼をすると、パルドスは姿勢を変えずに口を開く。

「ナニガアッタ?」

 ぶっきら棒な物言いであるが、寝ていた所を起こされたにしては大人しい口調であった。それに気づき老人は素直に報告する。

「はい、奇襲にございます。」

「ナンダトォ…?」

 憎らしげである物言いだが、どこか楽しそうな様子が伺える言葉に老人は更に告げる。

「城前の地面に穴が開き、そこから50名ほどのヒトや獣人が城内へとなだれ込みました。現在雑兵どもを向かわせておりますが、全く役立たずな様子…。私が出ようかと考えております。」

「ホホゥ…久々ノ余興ダナ…。シテ、ソノ中ニ雌ハイルノカ?」

 視線のみを老人に向けたパルドス。その双眸は欲望が溢れていた。

「はい、確認できているのは城門前にてゴブリンを殲滅しているエルフらしき娘と、2階にて雑兵どもと交戦する獣人の小娘の2体でございます。」

 それを聞いてパルドスの目が大きく開かれた。

「ソレハ悦イナ。」

 重そうな右手が持ち上げられ、手のひらを顔の前で広げるパルドス。するとその掌と同じ大きさの黒い球体が現れると、その球体の中に少女の姿が映った。

「オォ~、コイツヲ我ガ前ニ連レテ来イッ!他ノ雄共ハイラン。コノ雌ヲ直ニ連レテ来ルンダッ!」

「御意。」

 興奮した主の姿に、老人は返答を返すと直ちに姿を消した。球体から見えた少女を送り届けるために。

「グヒュヒュヒュヒュッ…愉シミガ出来タナァ…。」

 巨大なベッドに横たわりながら、パルドスは不気味に笑っていた。


 そんなパルドスの居城『ダーケルハイト』2階。階段を上がって突き進むダンガ達の中、ワオリもまた新しい魔刀を手にしながら突き進む。 

 先頭をダンガを中央に二人の獣人の3人が進み、その後ろにワオリ、そしてその後ろを6人のヒト達が続く。1階からの階段を上がった所で2人が深手を負ったため、他に傷を負っている3人を護衛を兼ねて待機させた。そして進む途中で二手に分かれ、上へ向かう階段を探しての行動だった。

 広めの通路を進む中、ダンガが何かに勘付いて、左右の者を手で制しながら足を止める。それに倣ってワオリ達も足を止めた。

「どうやら準備運動は終わりのようだな。」

 そう言ったダンガの声が僅かに震える。皆が凝視する前方に、ゆっくりと、しかし確かな足取りで一人の老人が歩いて来た。長身で細見、その身は上等な執事服を纏っている。白くふさふさした髪と髭がその素顔を分かりにくく隠している。

 やがてダンガ達の10m前まで来ると、老人は足を止め、深々と一礼した。

「ようこそ、ダーケルハイト城へ。私は主パルドスさまに仕える『エルキュレム』と申します。」

 そう挨拶をすると、ワオリがダンガの前に進んで深々とお辞儀した。

「こんにちは、あたちはワオちゃんですよ。」

「お嬢、丁寧にあいさつを返さなくても良いぞ。」

「ダメですよ、ダンガおじちゃん。母さまが挨拶はちゃんとしなさいと教えてくれたですよ。」

 ダンガの言葉を聞いても、亡き母の教えを忠実に守る『よい子』ワオリ。そのやり取りにエルキュレムは笑って見せた。

「フォッフォッフォ…おっと、これは失礼いたしました。

 さて、ここは四大公の一角であられる我が主の居城…。まさか知らぬということは無いでしょうが、一体どのようなご用件でございますか?」

 笑った後、急に威圧を掛けて尋ねるエルキュレム。不意にかけられるには重い圧力に、ダンガ達はガクッと身体をよろめかした。しかしそれぞれが気合を入れてその圧力に抵抗を見せると、エルキュレムが「ほぅ」と小さく感嘆して見せる。

「さすがは階下の雑兵どもを駆逐してきただけはあるということですか…。ということは?」

 その問いかけにダンガが答えた。

「分かりきった事だ。この城を落としに来た。」

「フォッフォッフォッフォ。」

 その答えにエルキュレムが愉快そうに笑う。その笑いに後ろに控えていたヒト達が憤りを見せた。

「何を笑っている!」

「フォッフォ…。何を?当然でございましょう。あなたがた如きがよくもまぁここに来たものだ。その程度のチカラで我が主を害す?…不届きにも程がアルゾォォォ…。」

 会話の最後辺りから急に怒りを滲ませるエルキュレム。尊敬する主パルドスを傷つけようとする虫けらのような存在に、流石の冷静な仮面が外れたのだ。その怒り任せな声と共に、先程より濃厚な殺気を纏った威圧が掛かってくる。

 必然的にダンガ達は戦闘体勢をとる。そうしなければ保てない程にエルキュレムの殺気は強かったのだ。ワオリは「うぅぅ~」と唸りながら堪え、後ろにいた数人はその濃厚な殺気に思わず嗚咽を漏らす。

 すると突然、スッと殺気は消えてエルキュレムは先ほどの紳士然とした姿を見せた。それによって嗚咽を漏らした者たちはどさっと崩れ落ち、他の者たちも僅かに肩で息をしている。

「あまりの無礼さにお恥ずかしい姿をお見せしてしまった…。だが、軽く殺気を見せた程度でその体たらく。身の程を分かった事でしょう。

 故に我が主からあなた方に救済の手を差し伸べて下さいました。」

「救済だと?」

 ダンガの訝しむ姿に、エルキュレムの目がワオリを捉えた。

「そこのワオちゃんと申された者。その者をパルドス様はさぞ気に入れられたご様子だ。ワオちゃん様を差し出すのであれば、お前たちを見逃してやっても良い。パルドス様は他の者は要らぬと仰られました。ならば見逃しても良いことでしょう…。如何かな?」

 その言葉にワオリ以外のヒト達は非常に驚いた顔をしてエルキュレムを見た。そしてダンガが代表して尋ねる。

「ちと聞くが…、お前の主はこういった小さな幼女が好きなのか?」

「ん~、そうでございますなぁ。小柄な者を可愛がる事はよくございます。」

(え?悪魔大公ってロリ?)

 一様に思い浮かべたヒト達。そしてダンガは更に質問する。

「念のために問うが、門前でハーフエルフの美しい娘がおるが、知っておるのか?」

「もちろん。我が主はすでにあなた方を見ております。その中でワオちゃん様を欲っして御座います。」

(うわっ、これホンマもんや!)

 思わずとある地域の言葉使いになってしまうほどに驚くヒト達。

「かような少女をどうするつもりだ?」

「どうするも何も、気に入ったモノは飽きるまで愛でるのが主様です。思いつく限りの欲望を満たし、そして飽きれば己の血肉となるよう食されます。その愛でたモノを我が血肉としてしまうほどの愛情。実に素晴らしいことではありませんか?」

(あかん!これは絶対アカン奴やっ)

 誇り高く訴えるエルキュレムを前に、ヒト達がドン引きする中、ワオリが自分の身体を抱いてブルブル震える。

「い、嫌ですよ。あたちは行きたくなんかないですよ。」

 その言葉にヒト達は改めて戦意を取り戻し、ワオリを護る様に前に立ち塞がった。それを見てエルキュレムが目を細めて問いかける。

「…ご理解して頂けないようですな。せっかくの命乞いの機会をよろしいのですかな?」

 それに対してヒト達は不敵に笑い、ダンガが指差して告げた。

「変態趣味に我らのお嬢をくれてやる訳にいかん。それに貴様程度が倒せずお前たちの主を倒せる訳がないからな。断固断わるっ!」

 そう答えた刹那、エルキュレムがそれまで見せた老人の姿から獰猛なゴリラの姿に変身すると、その大きな腕を横薙ぎさせた。目的はヒト達の首。しかしその腕はダンガや他の者の盾によって止められる。

「おっと、ようやく本性を見せたか。」

ダンガが苦し紛れに言うと、4つの目を持ったゴリラの頭が牙を剥き出しに吠えた。

「私程度だとぉ…、身の程も弁えズヨクモ言ッタナァー!ギザマラァァァー、ゴロジデヤルウゥゥゥゥ!」

 怒りに震えるエルキュレムの背中から更に二本の腕が伸び、合計4本の腕が一斉に襲い掛かってきた。

「散開っ!」

 ダンガの叫びに皆が左右に飛び退いた。そこに4本の拳が叩き込まれ、床に穴が開く。

「ウラアァァ!」

 避けて直に攻撃に転じる二人の獣人とヒト。爪と槍が突き出してがら空きの脇腹を襲う。

「イカンっ、防げ!」

 ダンガが叫び、即座に防御体勢をとった二人に強力な蹴りが襲い掛かった。突き出した4本の拳を軸にして、エルキュレムが開脚で蹴りを放ったのだ。

 その強烈な蹴りを食らって左右の壁に身体を打ち付ける二人。命は助かった様だが、その衝撃に直には立てなくなった。そんな弱って横たわるヒトにエルキュレムが追撃を放つ。開脚蹴りから着地すると、その反動を使って大きく右にジャンプし、再び4本の腕でヒトを殴り付けようとした。

「危ないっ!」

「避けろっ!」

 仲間が叫びながら跳ぶエルキュレムに攻撃を仕掛ける。何とか攻撃を逸らせようとするが、4本のうち3本の腕を使ってそれらを撃退すると、残る右腕を倒れ伏せたヒトへ突き出した。

 だがその瞬間、倒れたままのヒトの前に飛び出して、魔刀を構えて守ろうとしたワオリの姿にエルキュレムは舌打ちしながら右手を手前で落とし、それを軸にして誰もいない場所へと身体を移動させた。

「ワ、ワオリ様・・・。」

 ようやく事態を把握した槍使いの戦士。自分を守ったワオリに声をかけると、ワオリは視線をエルキュレムから外さず言う。

「危ないから避難するですよ。」

 そう言う間に他の者がその槍使いを抱き起してエルキュレムから遠ざかる。それを目で追いながらエルキュレムはワオリに言った。

「主様からあなたを連れてくるように命じられた。故に傷を負わせる訳にはいかぬ。退いていてくれないか?」

 落ち着いた口調は先ほどの老人のようだった。しかしワオリは首を振って否定する。

「そんな訳にはいかないですよ。あたちがみんなを連れて来たですよ。だからあたちは皆と一緒に戦わないといけないですよ。怒られちゃうのはごめんなちゃいですが、言うことは聞けないですよ。」

 そう言う少女の強い意思に、エルキュレムは大きく息を吐いた。

「ならば仕方ない。少々痛い目を見て貰うとしよう。」

 そう言った瞬間、そこにいたエルキュレムの姿が消えた。

「え?」

 驚きと共に間抜けた声をあげたワオリ。その瞬間、

「ワオリ、しゃがめ!」

 訓練で散々叱られたゼフィルートの怒鳴り声に頭を抱えて身体を低く屈ませるワオリ。そのすぐ後を巨大な腕が通り過ぎた。

 周囲にいたダンガ達も驚く。彼らの間近にエルキュレムの姿があり、その左手がワオリを掴もうとしていたのだった。

「離れろっ!」

 即座に次の怒鳴り声がして、エルキュレムの傍にいた者たちがその場から飛び退く。そしてやって来たゼフィルートの傍で集まると、一斉に戦闘態勢を整えた。

 それを見てエルキュレムは笑って見せた。

「ホホゥ、よく訓練されているようだ。お前がリーダーか?」

 その質問にゼフィルートは一瞥してからワオリに言った。

「違う。…それよりワオリ、もっと集中しろ。今のは十分対処できるはずだ。」

「あい、了解です。」

 ワオリが両拳を顔の前で作りながら奮起した。その様子にエルキュレムはその大きな左手を口元に添えながら、じっくりと観察する。

「……フム…、どうやらあなたは否定しているが皆があなたの登場に様子が変わった。ならばあなたを倒せば戦意が失われると見ました。

 せっかく会ったばかりですが、死んで頂きましょう。」

 エルキュレムが4本の腕に拳を作り、攻撃態勢をとった。同時にゼフィルートが「来るぞっ!」と叫ぶと、4本腕のゴリラはその場から消えた。と同時にゼフィルートの真正面にまで肉薄してくると、それらの拳が一斉に殴りかかる。しかしその攻撃をゼフィルートはいとも簡単に避けたり逸らせたりすると、近くに居たダンガ達がその体に攻撃を仕掛ける。

 ダンガの爪がエルキュレムの脇腹に突き立つ。それに合わせて他のメンバーの刃や爪もゴリラの身体を襲うが、強力な魔力の障壁を持つエルキュレムの身体に傷を与えられない。辛うじてダンガの爪が通じた程度であるが、どう見ても大したダメージを与えられている様子はなかった。

「クソッ、効かないだと!」

「せっかく鍛えて貰ったのに?なぜだ。」

 攻撃が通らない事で動揺するメンバーたち。そんな様子にエルキュレムは笑う。

「当たり前だ。その程度のチカラで私に敵う訳がない。」

 エルキュレムは寄っていたダンガ達を振り払うように背中の両腕を振り回す。それを躱して距離をとるダンガ達。そうした間もゼフィルートへの攻撃は続けられた。

「あなたも攻撃してはどうですか?それとも避けるだけが得意なのですか?」

 左右の腕で果敢に攻めるエルキュレム。それをゼフィルートは冷静に対処して躱していく。その動きの中、未だに一度も攻撃は行っていない。

「俺が仕掛ける必要は無い。」

「ぬかすわ。ならばこれはどうだっ!」

 エルキュレムの攻撃がもう一段階素早さを増した。先ほどよりも速い拳に数人のメンバーが驚きを見せる。しかしゼフィルートはそれらを変わらず躱し続ける。

「なんだ、この程度なのか?」

「ギザマァーッ!」

 ゼフィルートの呟きに、エルキュレムは怒り露わで攻撃速度を上げた。それまで何とか目で追えていた者も、今では腕が見えなくなっている。

だけどゼフィルートはそれを変わらずに躱し続けていく。

 やがてエルキュレムが間合いを取ろうと後方に飛んだ。さっきまで平然としていたが、今は少し上体が上下しているのが分かる。疲労が見えているのだ。

「もう終わりか?」

 息も乱さずゼフィルートが尋ねると、ゴリラ顔が悔しげに歪む。

「ギザマァ、何者ダァ?」

 エルキュレムはパルドスに仕えるだけあって悪魔の中でも『特級』と位置付けられるほどの強者である。先ほどのパンチにしても、その一つ一つに纏った魔力の強さは、並の中級悪魔を軽く消滅させるほどに強力な攻撃なのだ。

 悪魔はその身に強大な魔力を秘めている。そしてその魔力を使って攻撃や防御を行っており、上位者になれば、相手の魔力を打ち消しながら攻撃をするために、その拳や武器に魔力を纏わせて攻撃をするのだ。

 だから先程ダンガ達の攻撃も、強大なエルキュレムの防御障壁の前では通じなかったのだ。だが、その魔力障壁も相手の魔力が落ちれば当然防御力も落ちる。

「俺はヒトだ。それ以外の何者でもない。」

「ひと如キガ私ヲ倒セル訳ガナイッ!」

 そう叫んだエルキュレムは気付いていなかった。激しい怒りと疲労によって魔力は低下しているという事に。

「なら、今からそれを証明してやる。」

 そうゼフィルートが言うと、ワオリやダンガ達が一斉に攻撃を仕掛けた。

「ハハハッ、無駄無駄無駄ダァッ!貴様ラ如キニ私ヲ傷ツケラレルモノカ。」

 そう言って自信満々に相手を待つエルキュレム。防ごうという動作さえもせずにじっくりと迫る相手を見ていた。攻撃を繰り出した隙に、一撃を持って葬ることを狙っての行動だった。

「全員、もっと闘気を高めろっ!」

 ゼフィルートが更に叫んだ。その途端、ワオリ達の身体から強大な力が溢れ出す。魔力や妖力ではなく、ゼフィルートの修行によって身に付けた「戦う」という思いを込めた『闘気』。それがそれぞれの魔力や妖力をさらに強力な力へと昇華させる。

 やがてワオリが上段に振りかぶると、その新しい魔刀が青い光を放つと、その刀身が2倍の長さに伸びた。

「ナンダトォ!」

 気付いた時にはすでに手遅れ。

「てやぁああああああああああー!」

 気合と共に振り下ろされた青い刀身が、エルキュレムの頭から股下までを一直線に斬りつけた。遅れてダンガの爪がその顔を深く突き刺すと、それぞれメンバーの武器がエルキュレムの身体の至る所を突き刺し、また腕などを斬り落とした。

「バ、バカ…な…。」

 エルキュレムはそう呟くと、残る魔力を振り絞って傷を癒そうとする。しかし、その間を与えるほどゼフィルートは甘くなかった。その右腕だけを攻殻化させて…、

「魔壊拳」

グシャッという音と共にエルキュレムの喉下に突き刺さる。先ほどワオリが斬りつけた際にその場所を確認していたのだ。

 自分の核を掴まれ、エルキュレムがここで初めて慌てふためく。

「待て、待ってくれぇ!」

 しっかりと握り込まれた事に、その後の自分がどうなるかを予想しての叫びだったが、ゼフィルートがそれを聞く筈もなかった。

「滅っ!」

『グギャァアアアアアアアア……』

 握り潰され、エルキュレムが断末魔の叫びをあげたが、消滅と共にその声もすぐに消えてしまった。

 エルキュレムが消えた事で、周囲に漂っていた不穏な空気が薄れる。それによって刀から青い光が消えると、ペタッという感じで座り込んでしまうワオリ。ダンガ達も、強力な悪魔と戦った事で膝を付くほどに疲労していた。

「はぁはぁはぁ…、まだ次がいるです。頑張るですよ…。」

 魔刀を杖代わりに、ワオリは次なる敵を目指すのだった。


お読み頂きありがとうございます。


体調不良と、多忙のために相変わらず遅れてしまっていることにお詫び申し上げます。


今回はユズナの武器に関して色々考えていたこともあり、そこが一番時間かかったとこかもしれません。

ユズナは歌で戦いに参加することも出来るのですが、最初からエルフの血を引くだけに弓を使わせたいという事からこういう形になりました。


さて、次回はいよいよ悪魔大公戦です。

お楽しみ頂けるよう頑張って創作いたしますので、どうぞよろしくお願いします。


では、また次回まで。

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