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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
56/93

滅びの王国

惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変わってしまった。

世界のほとんどが亜人たちの闊歩する悪魔の大地と化し、絶望の中に生きる僅かなヒト達。

それから時は過ぎて1005年。


シュラハティニア大陸東部にある「エスケリト城」を旅立ったワオリたち。

かつて栄えたドワーフの生き残り5名と会う事が出来て互いに打ち解けあったが、

彼の故郷『ジャバルヴァース』にて『精製の炎』という神より授かった宝物を取りに行きたいと

申し出され、ゼフィルートと案内役の『ベント』は廃墟と化した王国へと向かうのだった。



 翌朝早い時間から出発したベントとゼフィルート。距離にして1日かかる為に早くに出たが、途中にベントがこの数年で敷いた地下トロッコがあるおかげで日が隠れ始めた頃には到着出来た。

「速い物なんだな。」

 ゼフィルートがトロッコから飛び降りながら呟く。するとベントが「よっこらせ」と言いながら地面に降りてから言った。

「ワシらドワーフの大事な運搬車両じゃ。多くの鉱石などを乗せて走らにゃならんからな。ワシらだけであったら十分スピードが出せるのじゃ。」

 そして二人は薄暗い洞窟の先へと進んでいく。その先はいくつかの地下道の分岐点なっており、そこからまっすぐ進むと広間に出た。

「ここからがジャバルヴァースじゃ…。」

 最早ヒトの気配のない恐ろしいまでに静かな街並みが目に映る。崩れた建物、散乱した装飾物、そして無惨に転がる白骨…。鉱石を採掘する度に目にしたベントであるが、やはりやり切れない思いが心を蝕む。

 かつては様々な音で騒々しい程賑やかだった故郷。採掘の音、鉱石を熱い熱で溶かす音、鍛冶でそれら熱した鉱石を叩く音が潰える事など無かった。

 街中では女性たちが朗らかに話し、男たちは酒を片手に唄えや騒げやで、時々起った殴り合いのケンカはどちらかが倒れるまで周りが野次りながら続いていた。だけど最後はやり合った者同士が肩を組み合い、ジョッキを片手に仲直りしていたものだ。

 そうした楽しかった思い出がベントの目尻に煌めきを作る。だがそれは零れる事無く本人の指で拭き落とされた。

「どこへ向かえばいいんだ?」

 涙を拭う老人へゼフィルートが声をかける。するとベントは拭った指先を右前方にそびえるバルマ城を指した。

「城じゃ。城の中に特殊な細工をした扉がある。その中にあるのじゃが、その手前にワームが巣を拵えておってな…。どうしようもないのじゃ…。」

 その指示した方を見ながらゼフィルートが問う。

「すでにワームに喰われているということはないのか?」

「それは無い。あの扉と共に部屋全体にワームどもに砕かれる事のない封印が施してある。ライタル様より授かった物じゃから、ライタル様かそれを解除する許しを得たものでなければ無理じゃ。」

 ゼフィルートは頷きながら顔を向ける。

「ということは、それを解除できるという事だな?」

 当然封印が解けなければ、行っている意味がない。だからベントはヘルムを付けた顔を向けて言う。

「もちろんじゃ。ワシは解除する許可を持っている。だからそこまでよろしく頼む。」

「あぁ、承知した。」

 二人は広間を駆けて城へと向かった。


 広間から300m程で城に辿り着いた。特に迷うことは無く、広間が各場所への中継地点であったようで、そのまま一本道で城門をくぐる事が出来た。その間は商店が並んでいたが、侵略の際に破壊されて瓦礫や残骸が転がっていた。

 そして城の中に入ると、薄暗い広間が奥へと続いていた。ジャバル火山の麓だけに気温は高めだった町に対し、城の中は冷めた空気がはびこっていた。

「城の中は特別な技術が使われておってな、外の温度を遮断する壁や床で出来ておるのじゃ。」

「ドワーフの技術か…、大したものだな。」

 少し嬉しげなベントの言葉に感心するゼフィルート。床などは争いの跡が残って荒れているが、壁の上部や天井は模様などが刻まれて美しい造りとなっている。

「こうした技術はワシらの誇りであり文化なのじゃ。じゃからそれが廃れぬように代々受け継いでおる。そしてそれには創製の炎があればこそ成し得た技術ばかりなのじゃ。」

 廊下を進みながら語るベント。それを聞く中でゼフィルートは抱いていた疑問を問いかけた。

「その創製の炎なんだが、確かに神より授かったというならば大事な炎なのだろう。だが種火などで炎を分ける事も出来るんじゃないのか?」

 一般的に炎と聞くと燃え盛る火を連送する。当然ゼフィルートはそう思っていたのだが、答えは全く違う物であった。

「あぁ、違うんじゃ。名は炎となっておるが、それ自体は水晶なのじゃ。その水晶に念じれば炎が発せられる。してこの城の封印の間は創製の炎を填めこんだ炉があるんじゃ。

 それによって如何なる鉱石も焼きつけられる。焼けたら叩き、冷めればまた焼く。その繰り返しで物が出来る訳じゃが、そこには素材に対して適切な温度調整が必要となる。創製の炎はそれに適した温度で炎を生み出してくれる『神器』なのじゃ。」

「なるほど、納得した。」

 素材に熱を与えすぎると溶けてしまうし、低温では形が変わらない。ましてや微妙な温度差で製作物に焦げが付いたり、上手く形がまとまらなかったりする事もある。鍛冶士にとって温度を見分けることは重要な事なのだ。そうした温度を勝手に調節してくれる水晶。確かにドワーフにとっては大切な宝物である。

 そして二人は目的地の直前までやって来た。前には観音開きの扉があり、重そうな石で出来た扉である。

「あの扉を開けば宝物庫前の広間に出る。じゃがそこにはワームが地下から侵入して巣にしておる。巨大で硬い体じゃぞ!」

 ベントの緊張した声。それに対してゼフィルートは変わらぬ態度で素っ気なく返す。

「大丈夫だろう。開けてくれ。」

 世間知らずゆえの無謀か?それともまことに豪胆なる勇者なのか。ベントは扉の右側を引いて開けた。

 するとそこには巨大な黒い筒がうねっていた。床は幾つも穴があり、壁や天井も穴だらけ。唯一、奥にある精巧な作りの扉と周辺だけは無傷で、そこが礼の場所であると確認できた。

 やがて筒上の巨大な生物は開かれた扉に頭部分を向ける。そして威嚇するようにその頭が十字に割れて牙だらけの口を開いた。

「グギヤァァァァァァ」

 吼える。その腹の底から発せられた音はゼフィルートとベントを襲う。すかさずベントは左の石扉に身を隠すが、ゼフィルートはジッとその姿を見つめて立っていた。

「鉱石を食べるだけあって酸がきつそうだな。」

 ワームの咆哮に乗ってきた臭いにゼフィルートは推測する。

「ベント、ここで待っててくれ。」

 そう言い残してゼフィルートはまっすぐに歩いて行く。思わず呼び止めようとするが、悠然と進む姿についつい見惚れてしまうベントだった。


 まっすぐに歩いて行くゼフィルート。淀みなくしっかりとロックワームの頭を見つめながら進む姿に恐れなど微塵も感じない。逆にロックワームの方が危機感を募らせていた。ロックワームは口はあっても目や耳は無い。呼吸器官に酸素を送るための鼻はあっても臭いは分からない。ただし、身体の触覚はその分敏感である。

 今、前方から伝わるのは恐ろしい気配だ。巨大で自分などすぐに殺されてしまいそうな存在だ。しかし気配は大きくても体は小さい。それがどのようなものか見たことないロックワームには想像がつかない。単調な考えしか浮かばない為、ロックワームは怖いという意思を持っていた。

 だから近寄るなと口を大きく開けて息を吐いた。

 それなのにその巨大な気配は近づいてくる。その行動にロックワームは身を震わせた。

(怖い…)

 そう思って身をよじる。いっそのこと食べてしまおうかとも考えるが、きっと食べようとした時に殺されると勘が働く。

(殺される…)

 今まで感じたことのない恐怖にどう対処していいか分からず、ロックワームは必死に「来るな」と願った。

 だけどそれは目の前までやって来てしまった。もう逃げられる余裕もない。ならば死を覚悟で戦うしかないと思った時、その存在が止まった事に気付いた。そしてその存在が自分に触れる。

 それは温かな感覚だった。熱いとか寒いとかではなく心地よい感覚が生まれた。

(殺されても仕方ない…)

 とてつもない強大な力を前に恐怖していたが、嫌な感じが全くなかった。この存在ならば命をとられても構わない。

 そんな思いになったロックワームは大人しくなり、身体を全て地面に下ろすとゼフィルートに、口を閉じて頭を下げたのだった。


「信じられん…。」

 ヘルムの面をあげて凝視するベント。目の前では大人しくなったロックワームが身体を横たわらせてゼフィルートの前で頭を少しだけ浮かせて下げている状態だ。見る限りにゼフィルートに懐いているかのような状態。そんなロックワームの下げた頭に手を置くゼフィルート。撫でてやるとくすぐったそうに身を震わせている。

「ベント、もう大丈夫だ。」

 呼びかけられるがあまりの事にすぐ動けないベント。ようやく決心して歩き出すとロックワームが顔を向けて来た。

「大丈夫だ。俺の仲間だ。」

 ゼフィルートが撫でると、再びロックワームは頭を伏せた。それを確認してベントはその横までやってくる。

「信じられん…。」

 それしか言葉が出てこない。するとゼフィルートが撫でながら言う。

「そうか?こうして撫でてやると嬉しそうだ。大人しいし可愛いもんだぞ。」

 これまで多くの仲間を喰ってきた相手に、ベントはどうしてもそんな気にはなれない。

「そう言えるのはお前さんじゃからじゃ。ワシの仲間は喰われ、ワシも何度も襲われた相手なのじゃ。」

「そうか…。だがこいつも生きものだからな。恐怖で襲い掛かったんだろう。許してやってくれ。」

 随分な物言いであるが、そこは弱肉強食の世界。仲間の無念を抱きながらベントはムスッと言う。

「命はとらぬが、仲間がやられた事は許せん。」

「あぁ、仲間を思えばそれしかない。命をとらないでくれて礼を言う。」

 ゼフィルートがそう言うと、ロックワームもベントに頭を向けて僅かに下げた。

「謝ってるよ。」

「なんじゃと!分かるのか?」

「あぁ、さっきも言ったが生きものなんだ。言葉は無くても心は存在している。」

「…信じられんな…。」

「そこは信じて貰うしかないさ。」

 漏らしたような言葉に苦笑しながら返すゼフィルート。ベントは空かさずその意味を正した。

「信じられんのはお前さんの事じゃよ。ワシらはこやつがそんな感情を持つなど考えたことはなかった。じゃがお前さんはしっかりワームの事を生きものと認めて、そして心を通わしておる。

 それは長く接してきたワシらには無かった感情じゃ。それを成せるお主の優しさと強さに感服しての言葉じゃよ。」

 そう言ってからベントはロックワームに近づく。そして小手を外すと、素手でロックワームの身体に触れた。

「なるほど、ワシら好みの感触じゃな…。仲間の事は許せぬが、お主の命をとることはせぬ。それは約束しよう…。」

 そう言って撫でる。するとワームは嬉しそうに頭をベントに擦りつけた。

「おぉ、こいつめ。」

 満更でもないように喜ぶベント。それを見ながらゼフィルートは頬を緩ませたのだった。


 ロックワームを躾けた後、ようやく封印の扉の前に来た二人。その後ろでロックワームが体をくねらせながら様子を見ている。

 ベントは小手を外した右手で拳を作ると、スッと扉に突き出す。彼の中指には指輪が填められており、その指輪から一筋の光が飛び出すと、精巧な扉の模様をなぞっていった。

 それが終わると思い音と共に扉の鍵が外れ、自動で扉が開いた。

「中に入ろう。お前はそこで待ってておくれ。」

 ロックワームに声をかけて進み入る二人。中に入るとそれほど広くない部屋の真ん中に炉があった。火を入れて燃やし続ける炉であるが、その炉は全く燃やされた跡は無かった。それどころか少し埃をかぶった様子はあるが、随分と新しい感じがする。その中央部分に紅く輝く水晶が填めこまれている。創製の炎である。

「それが目的の水晶か?」

「ああ、そうじゃ。」

 質問に答えながら水晶の前に進むベント。そして水晶の横にある四角の突起部分に指輪を掲げると、再び光が出て突起部分の表面を撫でていく。そして見たことのない文字が浮かび上がると、ベントは水晶に手をかけて引き抜く。それによっていとも簡単に水晶は炉から離れたのだった。そしてその水晶を予め用意していた革の袋に入れると、それを大事そうに腰の小物入れに仕舞った。

「これでよしっ。ゼフィルート、恩に着る。」

「気にするな。大したことはしていない。」

 ロックワームを手懐ける様な事をしておいても、当然のように語るゼフィルート。もうそう言う男だと観念したベントは口元を緩めながら辺りを見回す。

「ここでは色々と作ったもんじゃ。」

 もう帰って来る事は無いと思い、感傷に浸る。するとゼフィルートが改めて問いかけた。

「気になってたんだが、炉が新しいのは取り替えた為か?」

「ああ、そうじゃ。この炉は何度も何度も取り替えている。というのもこの創製の炎にずっと耐えられる物ではないからじゃ。古に伝わる『ドワルニュウム』であれば持ち堪えられるやもしれぬが、最早その伝えも失われてしまいおったからなぁ。」

 初めて聞く金属名にゼフィルートが反応を示した。

「ドワルニュウム?」

「うむ。我らの祖先が編み出した金属でとても硬く、一般で知られる金剛石ダイヤモンドさえも砕くとの事じゃ。熱にも強いと伝え聞いておるんじゃが、それももう今では手に入らん…。」

「伝えられていないのか?」

 ドワーフは技術を残す種族だ。それを思えば伝わっていない事が不思議である。

「伝えられておらんのじゃ。編み出した者が製法を遺す前に逝っちまったらしくてな。そのため誰にも解らぬのじゃ。」

「そうか。それは残念だ。」

 そう語り終えてから二人は部屋を出ていく。もう二度も戻ることはないであろうが、せめてドワーフの文明があった証として、ベントは再び封印をかけたのだった。


 封印を終えて城の外に出る二人。後は隠れ家まで戻るだけだ。

「ロックワーム、お前どうする?」

 ゼフィルートが問いかける。言葉は分からないが、その思いが届いたようで、一緒について行きたそうにした。

「ついてくるとしても、地下でいるしかないだろう?それよりこの近郊でいた方が住み易いんじゃないか?」

 ロックワームは岩石や鉱物を食べる。だとすればジャバル火山の近いこの周辺でいた方が食べる事に困らない。そう思ってベントが言ったのだが、ロックワームが突如として尾をこちらに向けた。何ともスムーズな動きをするなと見ていたら、尾の先に穴が出来てそこから石が転がり落ちて来た。だがその石はただの石ではなく不純物を取り除いた様々な鉱石だった。穴から転がり出る鉱石は、やがてベントの膝くらいまでの高さにまで積もった。

「うおぉぉいぃっ!なんじゃこれは!!」

 思わず叫ぶベント。鉄や銀、翡翠やクリスタルもある。中には希少なルビーやダイヤも見受けられる。ドワーフにとっては正に宝の山である。

「ほぅ、どうやらロックワームは石だけを食べるらしい。そしてそれら鉱石や土は吐き出すと言っている。連れて行ってくれたら鉱石を渡すと言っているぞ。」

 それを聞いた途端にベントはロックワームに触れて叫んだ。

「よしっ、共に行こう。」

 鉱石を掘りだしたら、その中に混ざる石などの不純物を取りだすのに何度も熱して溶かさなければならない。その労力もそうだが、不純物と一緒に大事な鉱石も溶け出したりしてしまう。しかしここに出来た鉱石の山は完全な純正物だと一目で判る。鍛冶士としてこれほどありがたいことはない。状況からするとロックワームの排泄物扱いなのだが、正真正銘の鉱石を前には些細な事であった。

 一方のロックワームは、一緒に行けると知って頭を左右に何度も振る。それが嬉しい表現なんおだとようやく理解できた。

「なら行くとしようか。」

 ゼフィルートがそう言った時だった。突如としてロックワームが天井に顔を向けると、ゼフィルートも同じ方向に目を向ける。

「どうしたん…こいつは!?」

「来るぞ!」

 ゼフィルートがそう叫んだ瞬間、地面が揺れ出した。上下に激しく揺れ、轟音がジャバルヴァース全体に轟く。それは1分ほど続いた後でようやく静まり返った。

「地震か?ずいぶん久しぶりじゃのう…。」

 ベントが安堵のため息を吐きながら語るが、ゼフィルートは早足でトロッコの方へと向かう。

「ベント、ロックワーム、急げ!」

 そう言われてロックワームが巨体をうねらせる。そして頭でベントを掬い上げると、自分の背中へ乗せて移動を開始した。

「ぬぉっ!ふぅ~。一体どうしたというんじゃ?」

 ロックワームの背中に乗ったベントが叫ぶ。するとゼフィルートが先導しながら叫び返した。

「噴火するぞ!」

 「まさか?」と思うベント。今までそんな事は無かったが、ロックワームの様子からして異常事態だと察する事が出来た。

 しばらくして地響きが再び起こる。地下のマグマが勢いよく火山火口へと押し上がっていく。そして溜り貯まった大地のエネルギーが空へとどけとばかりに噴き出した。

 唸るマグマの音と吹き荒れる火山の音が轟音となって周囲を轟かせる。大地は揺れ、当然麓であるジャバルヴァースは激震となっていた。

 溶岩と共に火山弾が周辺を襲う。幸いにも地下であることで、空からの落下物の心配はなかった。しかし天井から小石交じりの土が落ちて来る。

「こりゃいかん!天井が崩れるぞっ。」

 ベントが叫ぶ。その間にも彼を乗せたロックワームは身体を必死にくねらせて先頭を行くゼフィルートを追う。そしてトロッコのある場所までやってくるが、当然ロックワームはそれに乗れない。レールの敷かれた穴はロックワームが通るにも十分な広さであり、ゼフィルートは叫んだ。

「この穴をそのまま突っ走れ。」

 ロックワームは言われるがまま、レールの敷かれた穴を進み始めた。

「お前さんはどうするんじゃ?」

 立ち止まったゼフィルートにベントが叫ぶ。

「ここを塞ぐ。」

「何じゃと?」

 目を剥きだしにして怒鳴るベント。だがゼフィルートは変わらず言う。

「このままだと溶岩が流れ込む。そうなる前に塞ぐしかないっ!」

 そんな会話の間に向こうに見える王国が赤く染まっていく。溶岩が流れ込んできたのだ。ベントの瞳に、かつての栄えた王国の姿が垣間見える。そしてすぐにそれは消え、溶岩に飲み込まれていく街並みが映り、瞳が濡れた。

「…任せるっ!」

 轟音の中、涙に濡れた声が響いた。その声にゼフィルートは頷いた。

「スマン…、アサシネイション!」

 故郷を失くす痛みに謝り、攻殻を纏うゼフィルート。全身を黒い攻殻が覆う。そして両拳に力を込めると足下に叩きつけた。

「豪・砕破!」

 叩きつけた拳の周辺から前方に向かって地面が削れ、5mほど前で天井に届くほどに地面が噴き上がった。それが穴を塞ぐ壁となると、削れた地面が左右の隙間に飛んで挟まった。

 そこに溶岩が押し寄せて壁に当たる。堰き止められてしまうものの、その高熱は壁を溶かし始める。僅かな綻びから焼かれて穴が開き、マグマがドロリと流れ出る。そして次第に穴が溶かされ広がっていく。

「やはり自然は強い…。」

 ゼフィルートは直ぐに後方へ飛び退くと、再び両拳を地面に叩きつける。そして壁を作るとすぐにまた後方へ飛んで豪・砕波を繰り出す。

 8mおきに壁を5枚作った所で溶岩が押し寄せる様子が無くなった。

「…これで大丈夫だろう。」

 そのまま一気に飛び退くと、攻殻を解きながらベントの横に降り立った。

「すまんが乗せて貰うぞ。」

 そうロックワームに伝えながら屈みこむゼフィルート。横でベントが信じられないという顔で見ている。

「お主、ヒトでは無いのか?」

「いや、ヒトだ。まぁ細かいことは戻ってからにしよう。今はこの場を離れる事だ。」

 そう言って周囲を見回す。時々狭い部分があっても、ロックワームが口を開いて削り広げていく。そして穴を突き進むロックワームの速さは全速のトロッコほどでなくとも十分に速く、そのまま2人と1体はジャバル火山から無事に離れられたのだった。


 深夜に起こった火山によって、シュラハティニア全土は混乱に陥った。鳥たちは飛び去り、動物たちは避難した。しかしゴブリンたちは状況に慌てふためくだけで、火山近くに居た数か所のゴブリン集落は、溶岩に飲み込まれて消えていった。

「ナニゴトダァ~?」

 それまでイビキをかいて寝ていた悪魔が喚くように言った。その声に瞬時に現れた長身細身の老人の姿をした悪魔が頭を下げながら伝える。

「ハッ、南のジャバル火山が噴火したようでございます。」

「ナンダト~。ナニカ予兆ハアッタノカ~?」

 横になったままの姿で尋ねる悪魔。それに対して老人は答える。

「いいえ、全くでございます。」

「マッタク・・・、セッカク寝テルンダカラシズカニサセロッ!」

 悪魔が苛立たしげに言うと、老人は冷や汗をたらせながら「直ちに!」と急ぎ音の遮断を行う。一瞬にしてその大ホールのような部屋の中が静寂に包まれた。

「ウン、ソレジャネル~。」

 悪魔はそう言って再びイビキをかき始めた。それを見て老人は安堵のため息を吐く。巨大なベッドに横たわるのは7m程の巨人で、体付きは醜い程に肥えている。それが大の字になってベッドで寝ているのだ。

 そしてイビキは肥えた腹から聞こえる。膨らんだ腹が裂け、ギザギザの牙が息をする度に見え隠れする。

 悪魔の中には『大公』という地位がある。下級・中級・上級とランク分けされ、上級悪魔を超越する『特級悪魔』も存在する。更には『超級悪魔』と位置付けられる九柱の悪魔がいる。その九柱のトップが『悪魔王』であり、次いで『大公』という地位が続く。この眠っている悪魔はその大公の一人なのである。

 名は『パルドス』。『強欲のパルドス』と呼ばれ、その飽くなき食欲を満たすために腹にある口は何でも喰らう。

 今は眠っていた所を火山が噴火して眠りを妨げたのだ。癇癪でも起こされたら自らもただでは済まないと判断した老人。彼は特級悪魔であるが、パルドスにかかれば虫けらの如く死ぬことになるだろう。

「さて、お休みの間に状況の確認をしておくとしましょうか。」

 そう呟いてその場から消える老人。亜人の城 ダーケルハイトはこうして危機から脱したのであった。



「あ、帰って来たですよ。」

 大樹の前でユズナと一緒にいたワオリが、ゼフィルートとベントの帰りに気付いた。昨夜の火山噴火から半日。翌日お昼前に辿り着いた二人を、引っ越し支度をするドワーフ達も出迎えた。

「無事に帰って何よりじゃ。精製の炎はどうじゃった?」

 デコールの迎えにベントは鞄からそれを取りだす。

「おぉ、ちゃんと持って来れたか。」

 喜ぶドゥイやバオ、ドンクがベントを囲む。

「お帰り、ベント。無事で何よりだわ。」

「おかえりなさい。」

 一方でゼフィルートに笑顔を送るユズナとワオリ。

「おかえりですよ~。」

「おかえり、お疲れ様。」

「ああ、今戻った。」

 ただ一言返すゼフィルート。

「火山噴火してたけど、どうだったの?」

 ユズナの質問に、ベントが答える。

「町を離れた時じゃったよ。突然地鳴りがした後、溶岩が王国を埋め尽くしたんじゃ…。」

 そう語る傍らでドワーフ達が俯く。自分の故郷が失われたことに心が沈んだ。

「…それでワシらも危なかったが、ゼロのおかげでこうして戻ることが出来た。改めて礼を言うぞ、ゼロ。」

 ベントが礼をすると、デコール達も一斉に感謝を示した。

「ああ、それに俺だけじゃないだろ。」

 そう返事したことで他の者たちの視線がベントに向けられる。するとベントが何やら言いづらそうに、鼻の頭を人差し指で掻きはじめた。

「あぁぁ…そうじゃった…。うむ、実はじゃな…。」

 ベントにしては珍しい態度にドゥイが焦れる。

「何じゃベント。お前らしくも無い!言いたいことははっきり言え。」

 そしてデコールが何やら期待した風に自らの白い髭を撫でる。

「先ほどの物言いだと、他に誰かいるのか?」

「え!ホント?」

 生き残った仲間がいると期待したバオ。同時に周囲も期待が高まる。

「これは実際に見て貰った方が良さそうだな。」

 ゼフィルートの提案にベントは頷き、4人に注意する。

「そうじゃな…。ただ、一つ約束してくれ。絶対に攻撃したりせんでくれ。約束じゃぞ。」

「攻撃?」

 バオが不思議がって呟くと、ゼフィルートが地面をつま先で「コンコン」と鳴らした。そしてユズナとワオリをドワーフ達の方に押しやると、地面から呻く音が聞こえた。

「ちょっと待て!この音、覚えがあるぞっ。」

 ドゥイが顔を蒼ざめさせる。デコールも同様だ。

 そしてゼフィルートの背後にボコッと地面が盛り上がったかと思うと、そこから3m程の高さまで黒っぽい筒状の者が姿を現した。そして見るからに堅そうな身体を曲げて、ゼフィルートの隣に頭を寄せて来た。

「ドッヒャァ―!」

「何でこんなとこにロックワームがっ!」

 ドンクが目が飛び出す様に驚きの悲鳴を上げて、ドゥイが戦慄しながら叫ぶ。その横で口を開けたままのバオと、言葉を失って固まるデコール。ベントはゼフィルートの横に行くと、その頭に手を差し出した。

「危ないっ!」

 咄嗟に声をあげたドゥイだったが、これまた信じられない状況が目に映る。ベントの手がロックワームの頭を撫でると、懐くようにベントへ頭を寄せていくではないか。

「おぉぉ~、おっきいですね~!」

 その大きさに目を大きくするワオリ。その顔に恐れは無く、興味津々という感じだ。ユズナもまた、笑みを浮かべてその姿を見つめる。

「懐いちゃったの?」

 そんな問いかけに頷くゼフィルート。

「ちゃんとこちらの言うことが分かる。あまり複雑な事は無理だが、きちんと聞いてくれるぞ。」

 そう聞かされてユズナとワオリがその頭に手を差し出す。ピクッとロックワームの顔がその手に向けられるが、

「大丈夫だ。心配ない。」

 そうゼフィルートが言うと大人しくその手を迎え入れた。

「お~、なんかかっこいいですね~。」

「うふふ、よろしくね。」

 触れ合ってしまえばもう知れた仲だ。ユズナは抱き付き、ワオリは更にその頭に載せて貰った。

 そんな慣れ合える面々に対して、ドワーフ達は複雑な心境であった。

「ベントっ!」

 ドゥイが怒りを見せる。

「お主どういうつもりだっ!こいつは仲間たちを喰った奴じゃねぇか!!」

 それに対してベントは静かに言う。

「確かにそうじゃ。多くの仲間が失われた。」

「だったら何故…」

「じゃが、ワシらは知らなんだ。あれもまた生き物だということを。」

 そう言われて4人のドワーフが衝撃を受ける。

「ワシもな、あの扉を開けるまでは倒すべき相手としか考えておらんかった。確かに城を食い荒らしたり、戦いに挑んだ仲間もやられた。

 じゃが、ワシらはあ奴と心を通わそうとしなかったのは事実じゃ。ゼロはな、扉を開けた後、一度も拳ですら交える事無く近寄り、そしてその肌に触れて説き伏せたのじゃ。」

 皆の目がゼフィルートに向けられる。

「その後、ワシも触れ合って分かったが、あ奴は寂しかったみたいなんじゃ。それを邪魔者扱いしたのはワシらじゃ。最初から心通わすことを目指しておれば、また違った世界になったやもしれん。

 されどワシとて仲間の無念が消えることはない。それについても心通わせたが、あ奴は素直に謝ってくれたんじゃよ。」

「そんなっ、信じられん!」

 ドゥイが否定し叫ぶ。

「嘘ではない。ちゃんとワシ自身が確認したんじゃ。何より見てみぃ、ワオリ達と戯れる姿を。」

 視線の先でワオリを頭の上に載せて、喜ばせている姿。あれほどまでに恐怖を感じていた事が嘘のように思える。

「互いに過去を水に流し、これからは未来を見据えねばならんのではないか?」

 ベントの語りにドゥイは俯く。言いたいことは分かる。しかし彼は自分の考えをそう簡単に覆す事が出来ぬ頑固者である。そんな一方で、デコールがうんうんと頷いた。

「ベントの言うことはよく分かった。確かにワシらはあ奴らを迫害してきた。これからはあれよりも強大な敵を相手せねばならん。少しでも仲間が増えることは喜ばしい事じゃ。」

 その言葉にドンクも納得を示して頷く。またバオはずっと楽しそうにワオリの姿を見ていた。

「ワオちゃんがあんなに楽しそうなんだもの。きっといい子なんだね。」

 直接見るのは初めてのバオだったが、自分より幼いワオリに懐く姿を見てすんなりと受け入れることが出来た。

 残るはドゥイだが、やはりそう簡単には折れない。

「ワシは納得いかん!」

 腕組みをしてそっぽを向いてしまう。さてどうした物かと困り果てるデコールに、ベントは違う方向から攻めることにした。

「実は翁よ。ロックワームのすごいことが判明してのぅ。」

 そう言ってベントは鞄を地面に下ろす。その瞬間「ズシリ」と重い音がした。その音にチラリとわき目を送るドゥイ。

 その視線を確認しながらも、ベントは鞄から鉱石を一つ取りだす。その輝きを目にしてドゥイが驚愕の顔で振り向いた。

「ロックワームは石を喰うらしいのじゃ。そして一緒に喰った鉱石類は排出してしまうのじゃが、これはさっき貰った物じゃ。」

 手のひらほどもある金剛石。それを受け取りながらデコールも驚きが隠せない。

「何じゃこの輝き具合は…。これほどの大きさで混ざり物がないじゃとっ!」

「そうなんじゃ。ロックワームの体内で石が溶かされ、他の鉱石と綺麗に分離するため、採れたままの形で入手できるんじゃ。」

 するとデコールが鞄を見たので、その口を開くベント。中には様々な鉱石が詰まっていた。

「精製の炎と、これらがあればまた新たなものが作れそうじゃ。」

 デコールの言葉に頷くベント。するとすぐ隣にドゥイがやって来ていて、鞄の中を注目している。

「クリスタルに、コランダム…、アディミアライトまであるじゃと!宝の山ではないか。腕が鳴るのぅ…。」

 そう呟いたドゥイにベントが意地悪く言う。

「なんじゃ、ロックワームに文句があったんじゃないのか?」

「馬鹿を言うなっ!ワシは始めから賛成じゃ。」

 僅かに頬を染め、腕組みしながら言うドゥイにベントとデコールは顔を見合わせて笑った。

 こうしてドワーフとロックワームを仲間に迎えて、ワオリ達は仲間たちのもとへと戻って行ったのだった。


お読み頂きありがとうございます。


いよいよドワーフが仲間入りし、これから装備面も充実していく予定ですね!

そして今回これという戦闘シーンはなかったですが、ロックワームを仲間入りさせました。

10mという巨体の生物で、口を開いたら牙いっぱいという見た目可愛い要素がない

ワームですが、ここで生き物という事を考えるお話になっちゃいました。

実はすごく臆病な性格で、心の触れ合いによって人懐っこいという生き物です。

これから結構活躍する予定ですので、名前も考えています(笑)


そして第1章が終わって第2章へと次回から移ります。

敵の姿も見えてきましたので、これから戦いが始まる事でしょう!(他人事)

どうぞこれからもよろしくお願いします。


それではまた次回まで。


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