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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
55/93

夜中の訪問者

惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変わってしまった。


世界のほとんどが亜人たちの闊歩する悪魔の大地と化し、絶望の中に生きる僅かなヒト達。


それから時は過ぎて1005年。


シュラハティニア大陸東部にある「エスケリト城」を拠点にしたワオリたち。


ユズナとゼフィルートによって鍛えられ指揮が高まる中、かつて封印のあったドワーフの王国へと

探索に向かう事となった。



 シュラハティニア大陸…惑星エアルスにおいて、北半球と南半球を隔てる様に通る「黄線」を跨いで存在する南北に長い大陸である。ほぼ森林に覆われた地域で、黄線周辺は高温多湿で異常発達した植物が多く生い茂っている。

 黄線より南に行った大陸中央部に「ジャバル火山」があり、そこから北に向かって「ジュレーム川」が流れている。

 その川の傍に小さな集落があるが、実はそこが地底王国ジャバルヴァースへの入り口となっている。

 地底王国は以前、ドワーフ達が暮らしていた活気ある王国だったが、亜人たちが攻め込み、封印が解かれたことで今では廃墟と化してしまった。豊富な鉱物資源が採れた地下坑道は瘴気に溢れ、広い地下王国はかつて亜人たちが攻め込んだ時の荒れ果てた状態のままだ。

 当然そこに生物がいるはずも無く、地上にある集落も今は誰の姿も見えない。『死に絶えた街』そう表現できるほどにかつて栄えた王国は静かだった。


 そんな中で音がしていた。それはつるはしで岩を叩く音。カツーン、カツーンと規則的に岩を砕き続ける音は、瘴気満ちる炭鉱の中で響き渡る。誰もいないはずの中で、ずんぐりとした体格の者がいた。全身を覆い尽くす鎧を着こみ、両手で持ったつるはしを振って横壁を掘って行く。

 只ひたすらに手元を照らすカンテラの灯りを頼りに、鎧の者は作業を続けた。

 やがて一際甲高く「カチン」と鳴ると、鎧の者はつるはしを手放して手で壁を掻き始めた。鎧の指先が鈎爪の様に尖っており、それを使って丁寧に壁を削って行く。すると先程つるはしで打ち当てた鉱石が顔を出し、鎧の者は更に丁寧に鉱石の縁を削っていった。

 それは20cm程の大きな鉱石で、鎧の者はそれにカンテラを近づけて凝視した。

「…ハズレか…。」

 そう言いながら鎧の者は背中の収納袋に鉱石を放り込み、再びつるはしを振い始める。

「カツーン カツーン

 カツーン カツーン…」

 止まらず振い続けるつるはしに打ち付けられ、硬質な壁は悲鳴を上げる。そんな時だった。

 唸るような音が坑道内に響き始める。

「こりゃいかん!」

 鎧の者は急いでカンテラを拾い上げるとそのズングリと鈍行な体格からは想像できないほどの素早さで坂を上がり始める。緩やかでやや広めの坑道を息を切らせて走る鎧の者。左手にカンテラ、右手につるはしと背負い袋の肩掛け紐を握りしめ、逃げるように走って行く。

 唸る音は次第に大きくなり、やがて鎧の者を捕食しようと姿を見せた。

 天井からボロボロと石や土砂が崩れ落ち、その中から黒っぽい筒のような物体が現れた。やがてそれは筒のような体をうねらせながら下の地面へと突っ込んで行く。そのまま地中へと潜って行くが、その間現れた天井から地面までの距離を同じ黒っぽい筒状の身体が続いて行く。かなり長い身体だ。

 鎧の者は焦る気持ちを抑えながら懸命に走り続ける。そして今走り去った場所の地面から、先ほどの筒状の生物が勢いよく顔を出した。

 バチンッ!

 勢いよく何かを閉じた音。それは筒の先端が十字に裂け、そして閉じた音だった。つまり筒の生物は鎧の者を丸呑みしようとした訳である。

 『ロックワーム』それがこの生物の種族名だ。体長は大体10m程の筒状で、普段はこうした炭鉱の鉱石などが混ざった岩や土を食べている。

 しかし自分の領地に侵入されると、それを察知して襲い掛かる習性を持つ。今、鎧の者はその領地に侵入してしまったのだった。

 カンテラの灯りを頼りに薄暗い坑道を走り続ける。もちろん背後からは唸るようなロックワームの移動する音が聞こえる。鎧の者は必死に足を運び、何とか坑道から外に出た。

 広がる地底世界。そこにはかつて栄えた地底王国が広がっている。坑道に入って行く事前準備を行う建物。その向こうにそびえたつのはドワーフ王たちが過ごしていた『バルマ城』だ。そして数kmに及ぶ王国都市。

 だけどもう今は静まり返っている。死した者たちの骸も白骨化し、異臭と瘴気が漂い続ける廃墟と化していた。

 その中を鎧の者は変わらず走り抜けていく。かつてはヒトがいて、活気もあった。そしてこの町を守るための防衛結界も貼ってあった。だが住人のいなくなった今では結界は既にない。侵入されて怒るロックワームの追撃はまだ終わらないのだ。

 地中から勢いよく突き出たロックワーム。5mまでその筒状の体を突き出すと、ゆっくりとカーブを描くように体を曲げ、逃げていく鎧の者に頭を寄せていく。

 やがてその楕円の形をした筒の先が十字に裂け、めいっぱいに口が開かれた。そこにあるのは無数の牙。土や鉱山を食べるロックワームだけに、その牙の硬さは容易にその鎧を噛み砕くだろう。

 廃墟と化した住居に隠れても、その巨体で建物もろとも丸呑みされるのは目に見えている。だからそこ走り続けているのだが、最早その大きな口は鎧の者に届こうとしていた。

「ガツンッ!」

 勢いよく口が閉じて、その中で物が砕けた。それからバリボリと音が繰り返され、やがて「ぺっ」っとロックワームの口から吐き出される物があった。

 それは革の残骸だった。そして静かになった周囲に満足したロックワームはズズズと唸らせながら巣へと帰って行った。


 その音も遠ざかり聞えなくなった後、ゴソっと音がした。

「行ったか…。」

 そう呟きながら体を起こしたのは先ほど追われていた鎧の者だ。その背にあった背負い袋が紐だけ残っている。ロックワームに食われる寸前に鎧の者はバタリとうつ伏せで横たわった。その際、背負い袋がロックワームに食われてしまったが、そのまま大人しく静観したことで食われずに済んだのだった。

 ロックワームは見ることも臭いを嗅ぐこともできない。常に土の中でいるため、そういった感覚は必要ないのだ。

 だが、その体の触角が音に気付き、そして逃げる者を追いかけて行ったのだ。

 大人しくなった鎧の者に気付かず、逃げた者は食ったと思ったロックワームは、自らの巣に戻っていく。生物として帰巣本能が働いたためだ。

 鎧の者はそれを知っていた。だから奴が背後から襲ってくる場所まで誘導した。坑道内ではうつ伏せても地面ごと丸呑みされる可能性が高く、広い町まで逃げたのはその為だった。

 そんな命からがら逃げられた鎧の者であるが、千切れた背負い袋の紐を見つめて深く息を吐く。

「ハァー…、せっかく集めたんじゃが…。」

 時間をかけて集めた鉱石。背負い袋の半分以上は集めていた『ハズレ』ではあるが、費やした時間の代償としては十分なものだった。

「だが、命あっての物種じゃな…。今日は帰るとするか…。」

 「よっこらせ」と掛け声を掛けながら立ち上がった鎧の者。その言葉通りに彼は年老いている。そして時たま深く息を吐きながら、廃墟の中を歩いていくのだった。



「戻ったぞい。」

 そう言いながら鎧の者が階段を降りきって扉を開けた。

 ここはジャバルヴァースから南東へ向かった先にある大樹の下。森の中で最も大きな樹の下には、太い無数の根が重なり合ってちょっとした洞穴のようになっている。そこに扉を取り付け、地下を掘って住処にしている。今彼が開いた扉は上ではなく、地下に設けた住処の入り口だ。

「おぉ帰ったか!どうじゃった?」

 期待に満ちた声。ずんぐりとした体に濃い顔、そしてふさふさの長い白髪と顎髭が特徴的な老人だ。

 それに対して鎧の者は首を左右に振る。

「ハズレじゃった。しかもワームに出くわして、鉱石全部喰われてしもた…。」

「なんちゅうこっちゃ!ケガはないんか?」

 白髪の老人の言葉に鎧の者は肯く。それを見て安心した白髪の老人は奥へと入っていく。

「まぁええ。よくぞ無事に戻ってくれた。さ、鎧外してこい。飯にしよう。」

「うん。」

 そう言うと鎧の者は横の部屋へと入っていく。そしてつるはしを所定の場所に立てかけると、兜を外した。

「ふぅ~。」

 汗にまみれて黒髪がべったり頭に張り付いていた。そして小手を外して鎧を脱いでいく。

 鎧掛けに装備を取り付け、一通りのチェックを行う。自分にとっては大事な装備一式だ。また食事の後でも行うつもりだが、ロックワームから逃れるために幾らかぶつけている。ほんの少しの歪みが命取りになるため、それを怠ることはしない。

 そうした物に対するこだわりが、彼ら『ドワーフ』の誇りであるからだ。

 やがて一通りのチェックが終わり、着替え終わったその姿は白髪の老人のようなずんぐりとした体格でぼさぼさの黒髪に口ひげを生やした老人だった。そして彼は部屋を出て奥へと向かう。

 そこには先ほどの白髪の老人の他、3人の人物が大きなテーブルを囲んで座っていた。

 皆が同じずんぐりした体型で、白髪の老人の横に座っていたヒトが入ってきたのを見て立ちあがる。

「あ、ベントおかえりなさい。すぐに用意するわね。」

 唯一の女性で若いドワーフ『バオ』は用意していた料理を取りに厨房へ入っていく。そんなバオの向かいにいたのが赤茶色の髪を生やした『ドゥイ』が席に着いたベントに顔を寄せる。

「おぅベント、お疲れだ。聞いたぞ、ワームに追われたらしいな。」

 顎髭が長い老人で、ベントの友である彼は捲し立てるような喋りをする。慣れたベントはその言葉に頷きながら返した。

「そのとおりじゃ。坑道を西に向かって掘ってみたんじゃが、これからという所で唸りが聞こえてな。慌てて逃げ帰ったとこじゃ。」

「そうじゃったか…。そりゃ災難じゃが、奴らがおったという事は良質の鉱石があるかもしれぬな。」

 ドゥイの言葉にベントもまた目を光らせる。

「ウムっ、それは十分あり得るのじゃ。」

 二人して共に腕を競い合った鍛冶師だ。危険だったとしても興味が注がれるのは仕方ないだろう。

 そんな二人に白髪の老人『デコール』が注意する。

「気持ちは分からぬではないが辞めておくのじゃ。我らではワームは相手できぬし、今は無理をするべきではない。どうか無茶だけはしてくれるな。」

 そう言われて二人は互いに顔を見合わせてから「仕方ないな」と嘆息した。するとそこに料理皿を持ったバオが戻ってくる。

「ハーイ、お待ちどうさまぁ~。」

 幾つもの焼いたパンと焼いた燻製肉を載せた大皿2枚をテーブルの上に置く。そして再び厨房へ戻っていくとスープを入れた鍋を持ってきた。

「今日はタケキノコが採れたから入れてみたよ。」

 そう言ってスープ皿によそいながら、それぞれに配っていく。それを手伝うのはそれまで大人しく座っていた『ドンク』の出番だ。ほとんど喋らない大人しい性格の若いドワーフだ。

 そして皆にスープ皿が回ると、デコールが皆を代表して神に祈りを告げ、そして食事が始まった。


「くはぁ~、上手い。」

 3日ぶりの温かい食事にベントが唸った。鉱石掘りに出れば時間がかかるため、大体数日分の携帯食を持って出かける事になる。そんな感想を聞いて料理したバオが喜ぶ。

「良かった。」

「いやぁ、バオの料理は次第に旨くなってる。大したもんだぞ。」

 燻製肉を頬張りながらドゥイが言う。その隣でドンクも数回大きく頷いて同意を示した。

「も~、みんな褒めても何も出ないわよ。」

 嬉しそうに照れるバオを見て皆が笑った。

「しかし、本当に上手くなったのぅバオ。ダナよりも旨いぞ。」

「そんなことないよおじいちゃん。お母さんの料理はもっとおいしかったよ。」

 デコールの言葉にバオが否定した。

「そうか?…いや、そうかもしれんな。じゃが、ワシはこの味の方が好きじゃぞ。」

 ふと言いかけた言葉を飲み込み、そうは孫娘に笑みを見せた。それに対してバオは微笑みながらスープを啜る。


 982年、彼らの故郷ジャバルヴァースは亜人たちの大攻勢に敗れ、町へ多くのゴブリンが雪崩れ込んだ。

 破壊や殺戮によって多くの命が失われる中、地の竜『グランドラゴン』によって全滅の危機は避けられた。

 傷癒えぬとも何とか復興を目指すドワーフ達。そしてようやく昔の町並みが戻った995年、再び亜人たちが攻め込んできたのだった。

 それ以降、数度にわたりドワーフと亜人は争った。ジャバルヴァースより北西にある『ダーケルハイト城』から送り込まれる大軍に、ドワーフ達は次第に疲弊していった。

 やがて守護していたグランドラゴンが討ち取られると、時のドワーフ王は残る全軍で打って出た。その一方でドワーフの血と技術を絶やさぬため、数名の者たちを逃がしたのだ。

 その生き残りの中で、今日まで残ったのが「デコール」「バオ」「ベント」「ドゥイ」「ドンク」の5名だった。

 今いる隠れ家は最初の襲撃後に用意した避難場所で、他にもこうした棲家を用意していた。そしてこの5名以外に十数名のドワーフ達が分かれて隠れ住んだのだが、先が見えず絶望し他界したり、病にかかって息を引き取ったり、またはベントの様に鉱石を求めに行ってワームや亜人に殺されたりした結果である。


 やがて食事を終えて余韻に浸る中、ドゥイがふと呟いた。

「それにしても、世界はどうなっちまっとんじゃろうなぁ。」

 それを聞いて皆が俯く。隠れ住んでから、この大樹の近くは比較的安全で注意すれば亜人たちに見つかることなくキノコなどを採取できる。だがあくまで大樹周辺しか出歩く事が出来ず、装備を持つベントにしても、慣れた採掘場までしか行くことが出来ない。だからこそ、世界がどのような状態なのかも知る由も無いのだ。

「元々ワシらの国は、他の種族とそれほど進んで慣れ合ったりしてこなんだ。遙か『ノルズウェッド大陸』の奴らは盛んにヒトらと貿易をやっておったらしいがな。

 結局、そうしたツケが今になって来てしまったということじゃ。」

 デコールがしみじみと告げる。そして肩を落とす孫娘の背中にポンと手を置いた。

「じゃが、こうしてワシらは生きておるのじゃ。ワシらが生き抜く限りにドワーフは滅びぬ。

 こうして若いお前やドンクもいるのじゃ。これから子を宿し、ここで未来を作っていく事が出来るぞ。」

 優しい祖父の言葉であったが、言い終えるとバオは顔を真っ赤にさせた。

「もぉ、おじーちゃん!何を言い出すのよっ。」

「ん?変な事言ったかの?」

 とぼける様なデコールの視線の先、端の席でドンクが恥ずかしそうに顔を真っ赤にして俯いていた。子を宿すということにまだまだ純情な若い二人である。

「はっはっは、ドンクよ、未来は任せるぞ!」

 ドゥイが大笑いしながら、恥ずかしがるドンクの背を叩く。だが、大人しいドンクは叩かれながらも俯くしか出来ずにいた。

「何にせよ、こうして居られることが何よりじゃ。皆、協力し合ってやって行こう。」

 デコールがそう締めくくると、顔を赤くした若い二人も、熟練の鍛冶士である二人も力強く頷いたのだった。


 そんな時であった。突如としてベントが立ち上がる。

「何か来たぞ。」

 そう言って自分の部屋へ戻って行く。もちろん、装備を身に付ける為だ。

 その言葉にバオは祖父に抱き付き、ドゥイとドンクは奥の部屋へと向かう。装備を身に付ける為だ。

 そして3分後、食堂兼皆で集まる大広間に3人が戻ると頷きでドンクが非常はしごを登る。その先には覗き穴があり、外の様子を見る事が出来るからだ。

 隠し窓を開けてそっと覗きこんだ先、そこにはいつもの夜の森が見えた。

「誰もいないな?」

 そう思いながら目を凝らしていると、突如として穴を覗き込む目が映った。

「うわぁあああ!」

 思わぬことに驚いてはしごから滑り落ちるドンク。幸いにも尻もちをついただけで済んだが、5人は緊張のまま天井を見上げた。

 するとそこから声が聞こえた。

「声が聞こえたな。」

  渋い重みのある男の声だ。

「ここから美味しそうな匂いがしたですよ。そしたら人がいたみたいですよ。」

 少女の声がした。

「んー、うん。ワオちゃんの言うとおり当たりの様ね。」

 澄んだ美しい女性の声がした。

 そしてその声が続けて、こちらに語りかける様に言った。

「驚かせてしまってすみません。私たちは亜人たちと戦う者です。もしよろしければお話をしませんか?」

 それを聞いて素直に信じることは出来ない。だが既にこの場所は気付かれたのだ。黙っておくことなどできなかった。

「どなたか知らぬがほっといてくれんか?」

 ベントが代表して叫ぶ。すると再び声がかけられた。

「突然の来訪に驚かれていることと存じます。ですがここまで来たのはあなた方とお話をするためなのです。少しでもいいのでお時間を頂けませんか?」

 その美しく優しげな声に5人は互いに見合う。どうしたものかと考える中、バオが発言した。

「会ってみてもいいんじゃないかな?」

 その声に驚く4人。一方で疑り深いドゥイは難色を示す。

「会ったら悪魔だったらどうする?奴らは騙す事もすると聞いた事があるぞ。」

 そう言われるとバオは視線を落とす。だがそこでドンクが発言した。

「ぼ、僕は、あ、会ってもいいかなと、思うな。」

 あまり喋らないドンクだけに違った驚きを向ける4人。それらを見てデコールは判断する。

「せっかくだ。さっき世界を知りたいと思っていただけに、話くらいしてみよう。じゃが、一応外に出向き、ワシとドゥイとベントが行く。二人はここで待機じゃ。」

「そんな…。」

「待っておじいちゃん!」

 若い二人がそれをさせまいとするが、年老いた3人は未来を二人に託そうとした。

「いざとなったらここを完全に封鎖する。そして二人でドワーフの未来を作っておくれ。」

 自分たちの誇りを重んじるだけに、若い二人はそれ以上言葉を出さなかった。

 そんな二人に老人たちは微笑んでみせる。

 そこに少女の声が聞こえた。

「だいじょーぶですよー。あたしたちは絶対に攻撃しませんよー。約束しますよー。早くお話しましょーですよー。」

 何ともまだ幼い感じの少女の声。せっかくの雰囲気がそれによってぶち壊され、結局5人は揃って外に出て来たのだった。


 入り口を開いて出て来た5人の目に留まったのは夜でもぼんやり明るい魔法の光だった。それを手元で灯すのは小麦色の長い髪の美女だ。

 その横に長身の黒髪の男が立っており、彼らの前にはイヌ耳と尻尾を持ったクリクリした瞳の少女が立っていた。

 そして5人が横並びに立つと、美女が一礼をしてから語りかけた。

「お初にお目にかかります。ユズナと申します。こちらはゼフィルート。

 そして、」

 美女が足下に視線をやると、イヌ耳の少女は大きく頷いてから右手を挙げた。

「はじめましてー、ワオちゃんですよー。」

 明るく無邪気な挨拶に5人は毒気を抜かれた思いをした。バオに至っては「かわいい~」と感嘆している。

「では、こちらはワシが代表として相手しよう。ワシはデコールじゃ。」

 白髪のドワーフが二度ほど頷く様に挨拶した。

「では、デコール殿。まずは突然の来訪を失礼いたしました。さぞ驚かれたと存じますが、このような状況故お許しください。」

 ユズナが丁寧にお辞儀して謝罪を述べた。それにデコールは首を振る。

「いやいや、特に大きなケガも無い事じゃ。謝罪を受け入れよう。」

「ありがとうございます。では早速ですが、いくつか質問してもよろしいですか?」

 そう切り出したユズナに、ドゥイが口を開いた。

「それより先にそちらの素性を明かせ。話しはそれからじゃ。」

「これドゥイ!」

 疑いケンカ腰な物言いをデコールが諌める。それに対してユズナは微笑んで見せた。

「そうですね。押しかけているのはこちらですから、まずは信用頂くためにこちらの話が先ですね。」

 そう言うと腰を下ろして座り込んだ。訝しげに見るドワーフ達だが、ユズナはワオリを抱き寄せて膝の上に座らせると、ゼフィルートも腰を下ろした。

「立ち話もなんですから、腰を下ろしてお話させて貰いますね。」

 そう言われてドワーフ達は互いに顔を見合わせた。あまりに自然体なユズナの態度に警戒心が薄れていく。

「おじいちゃん、この方たち信用していいと思うけど…。」

 そっと耳打ちするバオ。ドンクもその意見に同意して頷く。一方でベントは態度を変えず、ドゥイは未だに「あれは油断させるためかもしれん」と疑っている。

 するとユズナは大樹を見上げて話しかけた。

「ここはこの樹のおかげで清浄な空間が保たれているのですね。」

 彼女の見上げる大樹は葉が生茂り、半径1km内に清浄なる影響を与えていた。だから木の実などが熟し、野生動物が生息している。

「分かるのか?」

 ベントの言葉に微笑が帰ってくる。

「もちろんです。この大樹は地脈に繋がってますから。」

「地脈が見えるじゃと?・・・お主、何者なのじゃ?」

 大きな地脈の流れは普通誰も見る事などできない。単にそうれだけ言っても信じないものだが、実際に大樹のおかげでドワーフ達は生き長らえている。この大樹と地脈が関係していると言われて信じない訳にはいかないのだ。

 そう問われてユズナは少し憂いを見せた。それは幼き時の事に関するから…。今はもう思い出したくはない記憶だ。

「幼い頃から地脈に触れていましたから…。」

 そう言うと、すぐに表情を元に戻した。

「でも、おかげで今は生きる術として役立てられてます。」

 にこやかに笑って見せるが、辛い日々を過ごしたのだということが感じられた。そしてその時、デコールの目にユズナの尖った耳が映った。

 だがその耳は短く、デコールは不思議に感じた。

「お主はエルフと見受けられるが、どうも話しておるとワシの知るエルフらと違う気がしてならぬ。あまり込み入った事を聞く気はないが、あと一つだけ聞きたい。

 お主等はここに何しに来たのじゃ?単にワシらと話す為だけじゃなかろう?」

 エルフという言葉にドゥイとベントが反応を示したが、デコールの視線はユズナをまっすぐに見据えた。それに対してユズナは先ほどまでと変わらずしっかりと返答する。

「当初の目的は情報収集です。今こうしてあなた方に出会うまで、ドワーフがいらっしゃるとは思っていませんでした。

 ご存知のとおり世界は悪魔に支配され、亜人たちがのさばっています。満足な情報が得られぬ今、我々ヒトは地域ごとで厳しい生活を強いられています。

 ですがそんな世界を変えたいと私たちは動き始めたのです。」

「待ってくれ。世界が支配とはどういうことじゃ?」

 ドゥイが慌てて尋ね返した。彼らは王国が攻められ、あれ以来ずっとここで暮らしている。当然世界の良く末など全く分かっていなかった。

「ご存知なかったのですか…。実は世界は悪魔王復活によって亜人が我が物顔で闊歩しています。かつて栄えたヒトの世界は壊され、いくつもの町や集落が落ちました。

 でも、それに負けずにワオちゃん達は動き出したんです。」

 そう言うとユズナは膝に座るワオリに合図を送った。

「あい。あたしたちは向こうのナハトイデアール大陸から海を渡って来たです。東にある城を拠点にしてこの大陸から頑張って行ってるですよ。」

「城?拠点?」

 ワオリでは上手く説明できないため、ユズナが再び説明する。

「先日、私たちはここから南西にあるエスケリト城を落しました。そしてそこを拠点として活動を始めた所なのです。」

「お主等で亜人の城を落としたというのか!」

 驚くドワーフ達。ドゥイが聞き返すとユズナは頷いた。

 するとベントがヘルムの前部分をあげて顔を見せると、訝しげに尋ねる。

「確かあそこは小規模な城だったが、周辺を悪魔が飛んでいた筈だ。それだけの戦力があるのか?」

 するとワオリが自慢げに語る。

「お城はあたしたちが落としたですよ。そして少ししたら強い悪魔が来たですが、ゼロおにぃちゃんがやっつけてくれたですよ。」

 ドワーフ達の視線がゼロに向けられた。普通のヒト。そうとしか思えないが、ワオリの物言いから嘘ではないと感じられる。

「あたしたちは今の世界が嫌なんです。だから、またみんなで楽しく暮らせる世界にしたいと思っているですよ。」

 少し興奮気味に語るワオリ。薄暗い魔法の灯りでもその大きく円らな瞳は輝いていた。

 そんなワオリを抱き締めながら、ユズナが言葉を繋げる。

「私たちはそんな思いを支持して共に進むことにしました。そして今回はジャバルヴァースへ偵察に赴いたところで、あなた方と会うことが叶いました。

 今の暮らしもあると思います。ですが良ければ共に戦って下さらないでしょうか?」

 そう言われてドワーフ達は互いを見合い、言葉を無くす。自分たちはその日その日を必死に生きて来たが、世界はそんな状態になっていたとは思ってもいなかった。

「ワシらは…、自分たちの事で精一杯じゃった…。あの日、ゴブリン共に我らが王国は攻め込まれ、グランドラゴンさえも倒されてしまった。

 以来ここで過ごしながら、ドワーフの血と技術を絶やさぬことだけを考えてきた…。」

 デコールが語る。その声には力は無く、後悔しているかのような自責の念が感じられる。

「ワシら以外も何人かこの周辺で暮らしておったのじゃ。しかし今となってはワシらしか残っておらん。」

 ベントが目を伏せながら言う。

「じゃが、そう聞かされては考えねばならぬ時期かもしれんのぅ。確かにここは何とか生きていける。しかしそれでこの先ずっと生き続けられるとは限らぬ。」

 何かに決心した様なデコール。するとドゥイが苛立たしげに言う。

「あのゴブリン共に仕返しが出来ぬことがワシは悔しくてならんっ!

 なぁお前ら、城を落としたって事はゴブリンたちを倒したんだよな?」

「もちろんですよ。」

 尋ねられてワオリが胸を張って言う。それを聞いてドゥイがデコールに進言する。

「翁よ、ワシはここを出て共に戦いたい。奴らに壊された王国の仇をとってやりたいぞ。」

 それに続いてバオも言う。

「おじいちゃん。私も外の世界が見たいの。危険だって分かってるけど、このまま何も知らずにいるより、もっと色んなことを知りたいよ。」

 懸命に願う孫娘と、その後ろにいるドンクも同じように頷く。それを見届けてベントに視線を送ると、彼だけは少し違う意見を出した。

「確かに共に行くのは良いかもしれん。じゃが一つだけ気になることがある。」

 そう言ってデコールに顔を向けると、彼は承知したように頷いた。それを確認して再び向き直るベント。その顔は悔しさを孕んでいた。

「ワシらドワーフはライタン様を敬っておる。火を起こし鉄を叩き様々なものを作る。それこそワシらドワーフの生業であり、ライタン様への奉公でもあるのじゃ。その為、物を作るための火は我らにとって大事な物であり、城にある『創製の炎』はライタン様より賜り、皆がその炎を分けて貰って鍛冶に営んでおるのだ。

 じゃが、最早あの町は廃墟…。城もまた誰もおらんがそのような場所に放っておく訳にはいかん。一度は取りに向かったのじゃが、ワームの巣になっておって近寄ることも出来ぬのじゃ。

 あれを見捨ててこの地を離れることはワシには出来ん。」

 一人の職人として、そしてライタンを敬う信者として、ベントは離れられなかった。

「「ワームですか?」」

 ユズナとワオリがはもって尋ねた。それに対してデコールが答える。

「そうじゃ。王国は鉱山の麓から地下にあり、その先は採掘場になっている。そこにはロックワームという生き物がおってな、自らの縄張に入って来た者を…、大丈夫かね?」

 視線の先で明らかに顔色が悪くなったユズナ。幼いころの記憶が蘇り、表情が固くなった。当時は何も思わなかったが、知らぬがために多くの寂しさを抱いていた事を思い出す。その場所が採掘の町だったため、採掘という言葉に反応してしまったのだった。

「…だ、大丈夫です。続けて下さい。」

 強がるような物言いに不思議がるも、デコールは話を続けた。

「ウム、つまりロックワームによって創製の炎がある場所に辿り着けんでおるということじゃ。」

 掻い摘んで伝える。それに質問するのはゼフィルートだった。

「で、そのロックワームとはどんな奴なんだ?」

「大ミミズじゃ。体長は大体10m、鉱山で岩や鉱石を喰って生きておる。そのせいか体は硬く、ワシらではどうすることも出来ん。」

 ベントが説明すると、ゼフィルートはユズナに視線を向けた。

「お前はワオリと共にここで待っててくれ。」

「うん…、念のためにそうするよ。」

「あたしは大丈夫ですよ?」

 ワオリが付いて行こうとするが、ゼフィルートがそれを制した。

「いや、ここでユズナと一緒に居てくれ。このヒトを守りながら行くとしたら少ない人数が良い。」

「わかったですよ。気を付けてくださいね。」

「ああ。」

 そう3人で話し合いが終わると、ベントが慌てて声を掛けた。

「おいおい、まて!まさかお主は行くというのか?」

「あぁ。それが大事というのは分かった。ならばそれを取りに行けば良いという事。案内してくれたら取って来よう。」

「正気か?危険じゃぞ!」

 ドワーフたちが驚き慌てるが、ゼフィルートはいつものように静かに言った。

「この世界の悪魔たちを倒そうというのに、ワーム如きに恐れてどうする。それにそれがあれば、より強い装備を作ることも出来るのだろう?」

 その問いかけに頷くベント。その額に汗が流れる。

「何と豪胆なやつじゃ…。しかし、悪魔を倒したというならば期待もできるな。

 翁よ、明日ワシが案内して見てくる。その間にこちらの荷物をまとめていてくれんか?」

「…わかった…。すまぬがよろしく頼む。」

 デコールが頭を下げて願った。それに続いて他の4人も頭を下げる。それほどまでに創成の炎はドワーフにとって大事なものであった。

「ああ。了解した。」

 ゼフィルートは肯いてその願いにこたえることを約束したのだった。


 そしてそのまま3人はドワーフたちの隠れ家に招かれた。1m弱の身長であるドワーフだが、住まい自体は2mほどの高さに作られている。これは彼らが製作したものが大きくなる場合があるため、住居などは大きめに作るようにしている。

 そしてバオの料理をごちそうになり、打ち解けようと話し合ううちにそのまま居間で眠りについたのだった。



お読み頂きありがとうございます。


ドワーフの登場ですね。

本当は1部でも登場させようかと考えていたのですが、

こちらで活躍してもらおう事になりました。


今回のお話の中、ユズナの採掘という言葉に対して顔色を変えた場所がありますが、

これはどうしようか迷った部分でもあります。

実際幼く何も知らなかった時の事ですから、ユズナが顔色を変える必要はないかと

思ったのですが、読み返している中でその時寂しい想いなどは確かにしていたと考え、

こうして書くことに致しました。


さて次回はゼフィルートとベントの廃墟潜入になります。

ロックワームにどう立ち向かうのか?

それはまた次回のお楽しみにして頂ければと思います。


それではまた次回まで。

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