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The Law of the World  作者: k2taka
第2部
53/93

歌う者と滅する者

惑星エアルス。神々が作り上げた光天歴は1000年を迎えて終わり、新たな時代は悪魔たちによる魔天歴へと変わってしまった。


世界のほとんどが亜人たちの闊歩する悪魔の大地と化し、絶望の中に生きる僅かなヒト達。


それから時は過ぎて1005年。


シュラハティニア大陸東部にある「エスケリト城」を攻め落としたワオリたち。仲間を呼び寄せて勝利と再会を祝した宴を催した。

だがその最中に上級悪魔『バーロン』が現れ、たちまちその理不尽な力の前に叩きのめされてしまった。

そして今、ここまで皆を率いていたワオリがバーロンによって…

 それは突然だった。

 ワオリの耳に歌が聞こえた。

 それはワオリだけではなかった。

 ダンガの耳にも、レイラの耳にも、ナッチョンの耳にも聞こえた。

 もちろん仲間たち全員が聞こえている。

「誰かが謳ってる…?」

 ナッチョンが呟く。それはとても美しい歌声だった。

 その歌声にバーロンはワオリから手を離す。そして自分の頭を抱えうずくまった。

「やめろぉ、だれだ!誰がうたっている。」

 先ほどまで愉悦に浸っていた顔が歪み、苦しみを見せている。そんな悪魔の手から逃れたワオリはドテッと地面に尻もちをつく。覚悟を決めていたが無事に助かった。そして苦しむ悪魔でなく、聞こえる歌声に気を向ける。

「誰が謳っているですか?」

 ゆっくりとした音程に透き通るような声。心地よい歌声だ。それは優しく、聴こえる者に安らぎをもたらせてくれる。共に聴こえてくるのは弦を弾く調べ。歌声をより美しく惹きたてようと奏でられた。

 その清らかなる歌が悪魔には耳障りで堪らなかった。だが、歌声はどうしても遮ることが出来ない。音を消す為にはその発信源を消すか己の耳を落とすか、もしくはその場から逃げるかだ。

 それでバーロンが選んだのは羽を広げ上空へと飛ぶことだった。勢いよく跳ねると音の聞こえない高度まで一気に飛んだ。そしてようやく落ち着きを取り戻すと足下に目を凝らす。

「あれか?」

 城を囲う城壁の外に人影二つがあった。そしてそのまま城門をくぐり、中へと入って行く。

「仲間…?どちらにせよここで殺しておくべきか。」

 ゆっくりと高度を下げながら、その人影を睨みつけていた。



 悪魔が飛び立ったことで一まず安堵するワオリ達の前に現れたのは、目深にフードを被った二人のヒトだった。二人は皆の状況を確認すると急いで鞄から筒を取りだし、手当たり次第に倒れた者たちの口に筒を傾ける。

「な…何をするですか…?」

 ワオリが尋ねる。悪い気配はないが、突如現れた二人が仲間に何かを飲ませているのだ。それが心配で苦しい体を起こしながら声を発した。

 すると一人がそっとワオリの傍に寄り添う。

「心配しないで。これは痛みを和らげるお薬だから。」

 そう言って筒を一つワオリに渡す。それを受け取ったワオリはそっと口に含んだ。

 正直苦みがあって飲み難いと感じたが、その効果は直ちに表れた。体の痛みが和らぎ苦しかった呼吸も随分楽になったのだ。

 そして周囲を見ると、薬を飲んだ仲間が不思議そうな顔をしながら身体を起こす。その間ももう一人が筒を飲ませて行き、次第に身体を起こす者が増えて行った。

「ありがとうです。おかげで助かりました。」

 ワオリが頭を下げた。するとそのフードのヒトはそれを後ろへと剥がした。そこから現れたのは小麦色のさらさらとした長い髪で朗らかな瞳が印象的な女性だった。その美しい顔がにっこり微笑むと、

「何とか間に合ってよかったわ。でも、身体はまだ治ってないから安静にしてね。」

 柔らかい物腰にワオリは頬を微かに染めながら頷く。その時気付いたのは女性の耳が尖っている事だ。耳が尖って美しいことからワオリはこのヒトがエルフだと思った。

「エルフの方ですか?」

 傍で倒れるダンガに筒を渡す女性に尋ねる。すると女性は振り返って少し困った表情をしながら、

「うーん、半分正解かな。」

 そう言ってまた別の倒れているヒトに筒を渡す。もう一人の方はフードを被ったまま淡々とした動きで筒を倒れた者に飲ませて行った。

 次第に起き上がる仲間たち。その様子にワオリは安堵のため息を漏らすと、状況を確認しに見まわす。

「ワオちゃん。」

 顔に汚れの付いたナッチョンが涙を流しながら寄ってくる。それを笑顔で出迎えるワオリは互いに抱擁し合った。

「無事でよかったですよ。」

「それは私のセリフ―! 一人で突っ走らないでー。」

 そう言い合ってから互いに笑顔を見せ合う。その傍らでダンガが筒を配る女性に声をかけた。

「危ない所をかたじけない。おかげでお嬢共々我らも助かった。」

 そう言って礼をする。するとようやく配り終えた女性は首を振って答えた。

「とんでもない。でも、何とか間に合ってよかったです。」

 するとレイラがやってくる。

「ホント助かったよ。」

「遅くなってごめんなさい、レイラさん。」

「いや、こうして間にあってくれたんだ。感謝してるよ。」

 そんなやり取りを、ワオリやダンガが不思議そうに見つめる。そしてナッチョンがみんなの思いをまとめて言った。

「えっと~、二人は知り合いなの?」

 そう言われて女性がレイラに問う視線を送る。それを受けてレイラは「あ~」と言いながら視線を逸らした。

「言ってなかったって事ね。それじゃ改めて…」

 女性がそう言いかけた時、いつの間にか来たもう一人のフードの人物が一歩踏み出て言葉を制した。

 何事かと見ればそのフードが空を見上げている。それに従い、みんなの視線が向けられた先には先ほど飛び立ったバーロンの姿があった。

 皆の視線が向けられたのを知るとそれまで静観していた状態からスッと地上に降りて来た。さっきまで悪魔のいた場所は今も誰もおらず、そこに悪魔が降り立つと、ワオリ達は一斉に構える。

「珍しい物を持っているな。エルフか?なるほど、エルフの薬か。」

 筒を見て女性を見た後、納得するバーロン。そしてそのまま女性を睨みつけた。

「先ほどの耳触りを発したのもお前か?」

「耳障り?あぁ歌ね…。素敵な歌だって分からないようだからもう一度聞かせてあげようかしら?」

 耳触りと言われて不機嫌になる女性。するとバーロンは直ぐに殺そうと攻撃を繰り出したが、その拳が突き出される前に手首を掴まれて止められた。

 「何事?」という驚きの表情をしながら掴まれた先を見る悪魔。そこには自分の手首をガシッと握りしめるフードの人物の姿があった。ついさっきまで女性の横にいたはずだ。なのに一瞬にしてしかも接近を許してしまった。

 バーロンは危険を感じながらその人物に注視する。その向こうでワオリ達も驚いた顔を向けていた。

「彼女に攻撃はしないから放してくれないか?」

 バーロンは落ち着いた様子で申し出る。それに対してフードの人物から渋い男性の声がした。

「その言葉に嘘が無いならな。」

 そして解放される太い腕。その掴まれていた手首を擦りながらバーロンは笑みを見せた。

「なかなかやるようだな。」

 その言葉にフードの人物は答えない。互いに見合う緊張の一瞬。

 やがてナッチョンが瞬きした瞬間、バーロンの右拳がフードの人物に襲いかかった。それを軽く手で叩き落とすフードの人物。すると今度は左拳が顔に飛んでくると、その拳を受け止めたフードの人物はその腕を持って、空いたバーロンの脇腹に蹴りを放った。それを右手で防いだ悪魔は蹴りの勢いを利用して後方へと下がる。

 瞬きする一瞬の間に起こった攻防。ナッチョンからすれば目を閉じて開けた一瞬で悪魔の姿が移動していたから、「瞬間移動だ!」と驚いた事だろう。

 しかしその攻防を見た者たちはバーロンよりもそのフードの人物に注視した。

「攻撃が効いてる?」

 バンが驚きのまま呟いた。先ほどあれだけ攻撃を繰り出した自分たちだが、その纏う障壁によって尽くが効かなかった。ダンガの攻撃でさえも簡単にあしらわれたのに、その腕を掴み一瞬の攻防を繰り広げたフードの人物の強さを実感してしまった。

「何者かね?まさか上級悪魔の私に攻撃できるとは、お前もエルフかい?」

「いいや。只のヒトだ。」

 バーロンの問いかけにフードの人物は素っ気なく言う。その態度にバーロンが怒りを露わにした。

「只のヒト如きが私に攻撃を当てられる訳がないのだよ!」

 そのカエル顔が怒りに震えた。だが、フードの人物は気にも止めず、後ろの女性に声をかけた。

「一気に片を付ける。」

「いいわよ。」

 女性は許可すると、大きなカバンに入れていた竪琴を取りだして全ての弦を一気に奏でた。

「地脈発動」

 そう告げると男性の周りに強大なオーラが噴き上がった。そのオーラに被っていたフードごとマントが吹き飛び、中からヒトの姿が現れた。ザンバラの黒髪がオーラで舞い上がり、その顔は端正で整っていた。そして男は腕を腰に添えて静かにそして轟くように言った。

「アサシネイション!」

 その言葉に男の身体に光が纏い、一瞬にしてその全身を黒い攻殻が覆い尽くした。そのフォルムはシンプルだが美しい調度品の鎧の様であり、額にカブトムシのような一本の角が伸びていた。

 バーロンはそれを見て戦慄する。そしてわななくように呟いた。

「貴様、インセクティアか…!?」

「いや、俺はインセクティアではない。」

 そう言うと一瞬にして間合いを詰める男。

「ただ、お前は弱かった。それだけだ。」

 そして男の右拳が真っ赤になるとそバーロンの顔面に打ち込んだ。

「魔壊拳!」

 そう言ってバーロンの顔に突き込んだ拳が、その中枢である『魔力の(コア)』を掴む。悪魔や魔獣が心臓よりも大事にしている魔力の源。つまり悪魔たちにとって無くてはならない部分なのである。

「終滅!」

 男がそう言うと同時に掴んでいた拳がバーロンのコアを握りつぶしたのだ。

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」

 断末魔の叫びをあげながらバーロンの体はひび割れ、そして砕け散りながら霧散していった。上級悪魔の消滅である。

 そしてそれを成した漆黒の攻殻を纏った男は、握りしめた拳をそのままに女性の方へと歩いてきた。

「お疲れさま。」

 笑顔で迎える女性。すると差し出された拳にそっと右手のひらを向けた。

「頼む。」

たった一言そう告げると、女性は歌うように唱え始めた。その言葉に乗って男の手黒々とした魔力の塊が浮かびあがる。それはこれまでバーロンが奪ってきた者たちの『マナ』だ。それが男の技によって壁が壊され、女性の歌声によって次第に色鮮やかな緑色となっていく。元の自然なカタチへと戻っていくのだ。

 やがて女性の口が閉じると、男は拳を開いた。それによって緑色の魔力は霧となって消えていく。だけど周囲の空気が清浄化し、城の周辺一帯に閉じ込めていたような嫌な雰囲気が、かつての世界のように清々しさを感じさせていた。

 そんな空気を吸って、ワオリはかつて住んでいたライディンの事を思い出す。あの楽しく暖かかった日々を…。

 思わずこぼれそうになる涙を拭うと、ようやく女性たちと会話する雰囲気になったことを知った。


「途中になっちゃったですが、改めてお礼を言うです。危ない所を助けてくれてありがとうございました。」

 深くお辞儀するワオリ。それに伴ってその場にいた270名が同じように頭を下げた。

「あたいからも礼を言うよ。本当に助かったよ。」

 レイラも頭を下げる。それを見て女性は慌てる。

「いえいえいえ!頭を上げてください。」

 そう言われて皆が顔を上げた。それでようやく女性はニッコリと微笑み、男性は攻殻を解いてヒトの姿になっていた。


「それでは改めまして。私の名はユズナ。ヒトとエルフの間に生まれた混血、エルフ女王には『ハーフエルフ』と教えられました。」

「なにっ?…という事はあの時リオン殿が救いに行った時の子か?」

 ダンガが思い出して問いかけると、女性は大きく頷いた。

「はい、あの時救って頂いたのが私です。」


 十数年前、ダンガたちの危機を救い、そして彼らの故郷『リュナエクラム』を救い、新たな土地『ライディン』をもたらせてくれた彼らの英雄。竜の如き力を持った14歳の少年。

 そんな彼らが救ったもう一つの命がこの少女『ユズナ』である。生まれて間もなく幽閉されて20年。何も知らずに只生きて居ただけの彼女に素敵な世界を見せてくれたのは、その英雄リオンたちである。


「私はあの後エルフの郷にいたのですが、女王様が居住を移動する際、こちらの世界に残ったのです。」

 ユズナが語る。それを聞いてナッチョンが尋ねる。

「確かエルフのヒト達は、魔陰暦になる前に引っ越していったんだよね?」

「ええ、その通りです。森が枯れていき、最早どうにもならない状態だった。だから『エルフの杜』へと向かわれたのです。」

 その返事に今度はダンガが尋ねた。

「ならば、なぜ一緒に行かなかったのじゃ?」

「…行けなかったというとこですかね。エルフという純血でなければ入れない世界だったという事なのです。だから混血である私は皆と離れ、こっちに残ったのです。」

「それじゃ、この4年もの間ずっとこの世界を生きていたの?」

 ナッチョンが驚くのも無理はない。彼女たちが隠れ住んでいた理由がそれに当たるからだ。亜人たちが我が物顔で闊歩する世界。そして更に悪魔たちが彷徨っているのだ。

 上級であったバーロンほどではなくても、悪魔は強い。そんな世界で女性一人で歩くなど考えられないことだった。

 だけどユズナは笑みを浮かべて語る。

「はい。私ひとりじゃなくて彼も居てくれましたから。」

 その視線に皆の目も男性に向けられた。先ほどの黒い攻殻は解け、ヒトの素顔がそこにある。

 ざんばらの黒髪に端正な顔。その整った顔立ちはナッチョンたち女性の心を弾ませるほどの美形だった。

「私から紹介してもいい?」

 ユズナからの問いかけに男は肯く。

「彼の名前は『ゼフィルート』。エルフの郷に居たヒトです。」

「ヒト?」

 その紹介にダンガたち元リュナエクラムにいた者たちが、疑うように呟いた。

「はい。ヒトです。」

 すると慌てたようにダンガが指摘した。

「ちょっと待ってくれ。さっき攻殻を纏っていたじゃないか。インセクティアではないのか?」


 リュナエクラムでいた者なら覚えているだろう。かつての仲間エイルの事を。優しく凛々しかった強者。彼女は『キラービー』というハチの攻殻を纏った戦士だった。

 だけど彼女もまた、悪魔王の戦いに出向いて帰らなかった…。


 しかしその問いかけにゼフィルートが否定する。

「違う。」

 それを聞いて皆が男を見た。だがゼフィルートはそれ以上語らず、ユズナが話す。

「正確には違います。彼自身はヒトです。私がエルフの郷で過ごし始めて数年後に彼は運ばれてきました。」

「運ばれてきたですか?」

 ワオリの問いかけにユズナは肯く。

「彼はケガを負い、重症だったのです。」

 するとそこまで黙っていたレイラが口を開いた。

「ゼロ、良いかい?」

「ああ、問題ない。」

 ゼフィリュートに確認をとってレイラが話を続けた。

「ゼロ…あぁ、彼の愛称さね。彼をエルフまで運んだのはリオンとシーニャだよ。」

 それを聞いてさらに驚く一同。ナッチョンたち西から来た者たちも散々聞かされてリオンとシーニャがどういう二人か知っている。

「ある事件で酷い重傷を負っちまったらしくてね、リオン達にエルフの郷まで行きたいと連絡を受けたあたいはイデアメルまで向かったのさ。そこで初めてゼロに会ったのだけど、とても生きているとは思えなかったよ…。」


 レイラが見た時、ゼフィルートは布に包まれていた。その布も普通の布ではなく、魔法などによって特殊な作用を及ぼすものだった。包まれ横たわるゼフィルートは苦しそうで、子どもの好きなレイラの心を乱したのは言うまでもない。

 だいたい6年ほど前だろうか。リオン達がペシャルカトルに暮らし始めてしばらく、リオンが旅した中で会ったヒト達に挨拶をしに旅へ出たのだった。そんな中、西風商団のキャラバンとイデアメルへ向かう途中で発見したのは、他のキャラバンが下級悪魔と亜人たちに襲われていたのだった。

 リオンによって悪魔や亜人は倒されたが、キャラバンの人々はほぼ全滅。唯一生き残ったのがこのゼフィルートだった。

 しかし、その体の8割が傷を負い、挙句は悪魔の呪いによって異常な『魔力中毒』を起こしていた。

 魔力中毒とはその生物個体が有するマナを大きく上回る魔力を体内に宿してしまう事で、例えたら水風船に限界以上の水を入れた状態になることだ。限界を超えた場合、溢れるならまだしも、その器を壊して漏れ出してしまうのだ。

 ゼフィルートの体の至る部分が裂け、そのままでは体の内部から破裂してしまう恐れがあった。

 だが、そこに居たのは世界最高の名医シーニャだ。同時にキャラバンの長老的存在であり、シーニャも教えを請うた薬物関係のスペシャリスト プリュフの薬学知識によって何とか一命を取り留められた。

 そこからイデアメルカートゥン城塞都市で魔術師ギルド達の協力を得て手術を行ったが、溢れそうな魔力を除去しなければならないことを知ったリオン達は、この世界で最もマナに詳しいハイエルフ セルディアに助けを求めて向かったのだった。


 セルディアによって助かる手立ての見つかったゼフィルート。だがその代償はマナを体内から排除してしまう事だった。魔力中毒の一番厄介なことは、少しでもマナを体内に宿すと拒絶反応が出る事である。生物は必ずマナを持っており、それが無くては生きていけない。だから大半の者はそのまま死んで逝くことになる。

 しかしここで登場するのが、魔力操作の得意なユズナであった。セルディアに言われた通りにゼフィルートの体内からマナを取り出し、セルディアが召喚し作りだした臓器をシーニャによって移植させていく。その結果、魔力の要らない体にしてしまったのだ。そしてマナの代わりに霊力を用いて代用とし、ゼフィルートはヒトでありながら、世界で初めての人口手術を受けた存在となったのだ。


「それであたいは二人を知ってたッてワケさ。その後はたまにリオン達に会いに行く足代わりになったりしてね、実は今回のこの城の情報も二人から受けてたってワケさね。」

 そう言ってレイラの言葉は終わる。これでレイラとの接点と、彼がヒトであるという理由は分ったが、結局攻殻についてがわからない。

「それじゃそこは私が説明しますね。」

 ユズナがゼロの横に移動してから説明を始めた。

「彼の体内に移植された臓器に、霊蟲のものも幾つかあったのです。その組織が彼の体と合わさり、霊力を高める事で攻殻を纏う事が出来ます。」

「つまり、その体に入った臓器の影響で攻殻化したってわけか。」

 ダンガの確かめるような物言いに、ユズナは肯く。

「端的に言えばその通りです。だけどそうするには高度な霊力操作が要求されますし、それに耐えられるほどの体作りもしなければなりません。

 手術後以来、彼の弛まぬ努力の結果が作り上げたと言えるでしょう。」

 誇らしげにゼフィルートを見上げて微笑むユズナ。美人のそんな微笑みにゼフィルートは素っ気なく頷いて見せるだけだ。

「それにしても、上級悪魔を簡単に倒せるなんて信じられないよねー。」

 ナッチョンがワオリに同意を求めるように言った。それにワオリは肯き、二人に問いかけた。

「うん。…ユズナさん、ゼフィルートさん。我々は何とか悪魔を倒し、またみんなで楽しく暮らせる世界を取り戻したいと思っています。どうか一緒に協力してもらえないですか?」

 するとユズナはにっこり笑って承諾する。

「ええ、是非とも協力させてください。」

 その返答にワオリたちも笑みを浮かべる。一方でゼフィルートは…、

「一つ問いたい。」

 そう言いだしてワオリを見つめる。横でユズナが止めようとするが、ゼフィルートは構わず言葉を発した。

「お前たちは戦えるのか?」

 そう問われて目を見張るワオリたち。

「先ほどの戦闘、あの程度の悪魔に太刀打ちできぬお前たちは、これからどうやって戦っていくつもりなんだ?」

 その言葉に誰も何も言えなかった。この二人が来てくれなかったら、自分たちは全滅していたという事がわかっている。世界にはまだまだバーロンやそれ以上の悪魔がいっぱいいるのだ。これから戦うと言っても、自分たちではどうしようもないことはさっきで証明されてしまったのだ。

 ゼフィルートの言葉に返す言葉が思いつかない。ナッチョンが何か言いかけようとするが鋭いゼフィルートの視線に気圧されて黙り込む。ユズナが何かを言おうとするが、その口元に手を向けられて話せない状態でいる。

「もしも敵わないと分かったのなら、静かに隠れていればいい。その間に俺が全てを倒そう。」

 そう言われて皆が憤る。ゼフィルートの言葉にではない。自分の弱さにだ。だからどう言い返そうにも、実力の無い者として言葉を出せないでいた。

 しかしそれまで俯き加減だったワオリは、意を決してゼフィルートを見上げた。そのつぶらな瞳でまっすぐ見つめて。

「確かに私たちは弱いですよ。さっきも助けて貰わなければ死んでいました。

 だけど、これで逃げるワケにはいかないですよ。4年前に住んでいた町を壊され、大事な家族や仲間を殺され、力無いばかりに逃げるしかありませんでした。

 だけどようやく自分たちも戦えるようになったから、みんなでまたあの町で過ごした頃のようになろうと誓って出て来たです。確かにこのままではやられてしまうですが、もう私たちは皆でこの世界を変えたいという思いを持ってやってるです。

 だから戦います。戦いながら強くなって、この命尽きるまで諦めないです!」

 力強い言葉だった。ワオリの揺るぎない決心を示す発言だった。様々な思いを得て、ワオリはここにいる。確かにさっきは死にかけたが、その覚悟はもうしているのだ。

 何より倒す事が出来ると知った以上、自分たちもそうなれる様強くなっていくだけだ。その前に死んでしまう事もあるだろうが、それはそうなった時の話だ。

 そのワオリの宣言に他の仲間たちも誇らしげに頷く。皆が同じく戦っていくという気持ちの表れだ。

 それを確認したユズナはゼフィルートを見てにんまり笑う。「それ見た事か」と言わんばかりに。

 ゼフィルートは瞳を伏せるとワオリに謝罪した。

「すまない、試させてもらった。君たちの戦う意思を…。

 その揺るぎない意志に、俺も協力させてもらう。」

 そう言われてワオリは微笑むと首を大きく振った。

「とんでもないです。私たちこそよろしくお願いするです。」

 それからワオリはユズナとゼフィルートと握手を交わす。


 こうして今日ここに新たな勢力が誕生した。

 悪魔や亜人の支配する世界に立ち向かう軍というにはまだまだ小さな集まり。

 だけどその秘めたる力は、やがて惑星エアルスを揺るがすことになる。


 進み始めた抗う者たちの物語、始まります。

お読み頂きありがとうございます。


いよいよ第2部の主役が出そろいました。


今回登場した「ユズナ」と「ゼフィルート」、実はもっと前に書いていた物語のキャラで、

ユズナは「結絆」と漢字で書きます。これは見ての通り、結ぶ絆という意味を含めて考えた名前で、

たくさんの絆を結ぶ子になってほしいという願いを込めてます。

ゼフィルートは…テキトーですかね~(笑)

でも、私自身気に入っている名前なので、今回出て来た最強戦士として応援してあげてください。

そしてワオリたちを含めて、この集団が第2部の主人公たちです。

どうぞこれからもよろしくお願いします。


次回から第2部1章になります。

それでは、また次回まで。

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