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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
47/93

旅のおわり

ようやく長いリオンの旅が終わります。

多くの出会いと別れを得て、成長したリオン。


これから新たな道を進もうとするライディンのため、

そして亡き友トーマスのため、

リオンは最後の戦いに挑みます。

 身体を丸めてすすり泣くミムジアナ。そんな彼女に声をかける者はおらず、再び迫り来る亜人たちに悲壮感を隠せない警備隊の面々。

「トーマス…。せめて残りの亜人たちは何とかしよう。」

 ボルが言うと、周囲の生き残った者たちが頷いた。

 トーマスだけに限らず、仲間も半数近くが倒されていた。マドカ達のおかげでリザードマンを抑えられてはいるが、逆に言えばマドカも抑えられている訳である。

 オーガーの魔法の為にサーシェスの魔法も抑えられている今、せめて他の亜人を倒して戦況を優位に持って行きたいと願う所だ。しかし数は未だ2万ほどいる亜人軍。1200名の負傷した自分たちでどこまでできるだろうかと弱気になるが、もう後がないのは事実だった。後ろを向けば町の外壁が見えているのである。

「とにかく、町に着かない様ここで出来る限り喰い止めよう。」

 ボルがそう言っていた時だ。突如空から声が聞こえた。

「パァム―ッ!」

 双子の弟の声にパァムが空を見上げる姉。そして喜びの声をあげた。

「ポォムー、リオンおにいちゃーん。」

 降りてくる二人を見ながら、警備隊やマドカ達はついに訪れた助っ人に歓びの声をあげたのだった。


「そうか。トーマスさんが…。」

 ようやく来たリオンにサーシェスが経緯を話した。それを聞いて表情を沈めたリオンだが、すぐにミムジアナの下に向かう。

「ミムジー…。」

「リオン…。トーマスが…トーマスがぁ~」

 ようやくその存在に気付いた涙顔のミムジアナ。そんなミムジアナにリオンは言う。

「事情は聴いたよ。トーマスさんのおかげで今こうやってみんなが助かってる事も。

 そんなトーマスさんの命を賭して作ってくれたこの時間、ミムジーはただ泣いているだけでいいのかい?」

 それを聞いてムッとするミムジアナ。

「リオンはいニャかったからそんニャ事言えるんニャ!」

「うん、必死にこっちに向かってたからね。そしてここできっと再開できると信じてた。」

 そう言われてミムジアナは自分が酷い事を言っていると理解し、更には自分のせいで相棒の命を奪った事を思い出す。

「ミムジー、トーマスさんは最後に君に何て言ったの?」

 そう言われてミムジアナは思い出す。最後に交わされたくちづけとその後で彼が何度も言った言葉。

「生きろって言ったニャ…。」

「うん、きっとそう言うと思ったよ。トーマスさん、一緒に旅してて気づいたけど、すごく仲間を大事にするヒトだもん。きっと誰かを助けようとしたんだって思う。

 それがミムジーだから尚更、考えるよりも体が動いたはずなんだよ。それだけミムジーの事を大事にしていたもん。

 そうやって助けて貰った以上、ミムジーはただ泣いてるだけでいいの?トーマスさんの思いを継いであげなくていいの?」

 そう言われてミムジアナの瞳に力が宿った。その目を肉球でグシグシ拭うと、頬をぽよぽよと肉球で叩いた。

「分かったニャン。リオン、あたいがんばる。トーマスの代わりに町を守るニャ。」

「うん、頼むよミムジー。」

 そう言って踵を返したリオン。その背中にミムジアナが声をかけた。

「リオン。」

 その声に顔を振り向かせると、ミムジアナが照れた様子で言った。

「ありがとニャ。」

「うん。」

 そう言って歩いて行くリオンを見送り、ミムジアナは静かに瞳を伏せる。

「トーマス、見ていてニャ。みんなで絶対生き残るから、皆を見守ってニャ。」

 そう固く誓い、拳を握りしめた・・・。


「どうやらエルフの子は救い出せたようだね。」

「うん、シーニャおねえちゃんにすごく懐いてたよ。僕が救おうと思ったのに、シーニャおねえちゃんにとられちゃってね…。」

「まぁ、ポォムったら。」

 久々に会ったコロプクルの三人。もうすぐそこまで亜人たちが迫ってると言うのにそれほど緊張していなかった。それはマドカ達もそうである。

「無事に助けられたのですね。」

 そう問いかけるマドカにリオンは頷いた。

「うん。それとね、あの国の皇帝へーかに会ったよ。」

「ええっ!」

 それには聴いていた皆が驚いた。

「いやぁ、実はおねえちゃんが槍で刺されたから僕怒り狂っちゃって…。」

「ちょっと、シーニャさんは無事なのですか?」

 聞いていたサーシェスが慌てて尋ねる。パァムやマドカ達も同じく頷いて見せた。

「うん、その時僕を止めておねえちゃんを助けてくれたのが皇帝へーかなんだよ。ほんと強いね。師匠以外で負けたのは初めてだよ。」

 それを聞いてまたも驚いてしまう面々。リオンを倒すってどれほどなのかと想像し辛かった。

「だけど、ちゃんと話が分かるヒトで、これからはヒトじゃなくてもちゃんと門を通らせるし、大事にするって言ってたよ。」

「そ、そうなの…?」

 一体どのような流れでそうなったのか理解に苦しむマドカであったが、また後ほど説明を聞く事にした。

「うん、あとでおねえちゃんたちが戻ってくるから、それからまた説明するよ。

 とりあえず、あいつらを倒そうか。」

 そう言ってリオンは迫ってくるオーガー達を見た。それに倣って皆も戦闘態勢を作りながら亜人たちを見る。

「リオンにぃちゃん。」

 そんな中でポォムが呼ぶ。リオンが振り向くと、パァムと一緒に手を繋いで親指を立てる二人の姿が飛び込んできた。

「僕らも戦うからね。」

「ああ、よろしく頼むよ。」

 共にエルフの少女を救いに行った事で、ポォムももう共に戦えると認めたリオン。その言葉に笑顔を返す双子は皆より前に駆けていくと詠唱を始めた。

「「われは求め訴えたりぃー!

 いでよー、大いなる雪のけっしょー!」」

 二人の頭上に大きな雪玉が現れ、次第に大きく膨らんでいく。

「「フュージョーン!」」

 雪玉にそれぞれ吸い込まれていく二人。そんな様子を唖然として見つめるナハトイデアール大陸の住民たち。一度見たことあるリオンはワクワクしながらそれを眺めていた。

「「きゅーきょくがったぁーい!」」

 二つの大きな雪玉がゴツンとぶつかり合って合体すると、回転が始まりかつてのあの姿が現れた。

「「完成っ!合体召喚戦士」」

 右腕を突き出しながら「「ユキーっ」」

 今度は左腕を突き出しながら「「ダルーっ」」

 最後に両腕を空に付き上げながら「「マァ―――――!」」

 太陽の光を背中に受けながら純白に光り輝くユキダルマー。皆が呆気にとられる中でリオンが手を叩いてはしゃいだ。

 ところがそれだけで終わらなかった。

「「サーシェスさまーッ」」

 二人の呼ばれて恥ずかしげにするサーシェス。

「「あれを使わせてくださーい」」

 そう言われて頬を濃く染めながら頷いたサーシェス。でも、それを双子がいう。

「「承認ですよ~。」」

 セリフを言わせたい双子に言われ、周囲の視線を気にしながら、恥ずかしげに叫ぶサーシェス。

「承認します―!」

 それによってユキダルマーの両腕が空に向かって合わさる。するとそこに特大の氷の結晶が出現する。その結晶は更に大きくなっていくと、空を覆うかという程の大きさになった。

「「せつぞくがったーい!」」

 柄の部分に両手が伸びる。そしてハンマーと大槌が一体化した。

「「行くぞ―ッ!アイシクルハンマーッ!!」」

 そのまま亜人軍に向けて突撃していくユキダルマー。そんなユキダルマーにバンデッドゴブリン以下の亜人たちが逃げようとする。しかし氷の大槌の大きさからは逃げられそうにない。

「「真っ白になりなさ―――い」」

 振り込まれたアイシクルハンマー。オーガー達は「ヌオッ!」などと叫びながら防御をとる。

 そして叩きつけられた大槌によって野原は一気に雪原と化し、亜人たちは逃げようとする姿のまま氷漬けとなる。

 『超破壊魔法アイシクルハンマー』ユキダルマー専用の必殺技として二人が編み出した究極魔法。その大槌に叩かれた範囲は瞬時に雪原と化し、そこにいる生き物は全て氷漬けとなる恐るべき大魔法なのだ。

 魔法が終わると同時にアイシクルハンマーは消える。だがそれで終わらないユキダルマーの攻撃を双子は叫んだ。

「「ブリザードバスター!」」

 突き出した両手の先から荒れ狂う大吹雪が凍りついた亜人たちを襲う。無数の氷の刃によって凍りついた身体は削られ、やがて跡形も無く消え去って行ったのだった。

 だが、そうはならなかった者もいる。オーガー二体は凍っていた体を自ら動いて割る。また、ドラゴニュートや黒い鎧は何とかその冷気を魔力で防いだようだ。

「ヌゥウウ、ほとんどがやられてしまったか!お前たち、あの白いのはワシがやる。お前たちはあのヒトの集落を攻めよ。」

 二本角が命令するとドラゴニュート達はユキダルマーを躱しながら駆けていく。

「「行かせないっ…!!」」

 ユキダルマーがそれを阻止しようとした時、目の前に炎の弾が飛んできた。慌てて右手を突き出して炎を止めるが、その熱によって右手が無くなってしまった。

「貴様の相手はワシだ!」

 続けざまに金棒を振り下ろしてきたが、それを難なく右に動いて躱す。ユキダルマー目掛けて振り下ろされた金棒は大地を叩き、その部分を深く凹ませた。

 ユキダルマーを躱して進む亜人たち。それを迎え撃つのはマドカやボル達警備隊の面々であった。

「その方たち。それ以上は進ませぬ。」

 金色のマドカがドラゴニュートへ斬りかかる。同時にボル達もまた黒い鎧にぶつかっていった。中にはミムジアナの姿があり、その闘志は警備隊の中で一番多くの亜人を倒していくのだった。


「ハッハッハッ、その腕では戦えぬか?」

 二本角の攻撃を躱して行くユキダルマー。後方は警備隊たちに任せ、そちらに被害が出ないように北の離れた場所へと誘導していく。

「フン、逃げてばかりでは面白くなど無いぞ。」

 二本角の挑発だが、双子は全くそれに乗らない。二人の察知能力でオーガーの攻撃を察知して躱すのみだ。

 やがてパァムが気付くと、ポォムもそれに気付き立ち止まる。

「どうした。観念したか?」

 ユキダルマーが動くのを止めたのに二本角は振りかぶりながら問う。

「「観念するのはそっちだよ。」」

 そう言うと、二本角は額に血管を浮き上がらせて怒る。

「ほざくなぁ―ッ!」

 そう言って振り下ろす金棒。それに対してユキダルマーは右手を突き出す。その無くなっていた右手から巨大なツララが突き出ると、振り下ろされた金棒と衝突してそれ止める。更にはツララがドリルのように回転するとそのまま金棒をへし折る。

「なんだとっ!」

 驚き叫ぶ二本角だが、回転するツララはその顔を襲った。

「「ツララドリルアターック!」」

 ツララの先端が二本角の口に入ると、その回転によって頭を貫き弾け飛ばした。だがその生命力は恐ろしい程高く、右手を突き出したままのユキダルマーの頭その両手が掴んだ。

「「うわーっ!」」

 ガシッと掴まれた頭部に双子は叫ぶと、力いっぱいその頭部を潰しにかかるオーガー。すると次第に吹飛ばしたはずの頭部が元に戻って行く。

「グハハハハ、やるではないか!流石に命拾いしたぞ。だがここまでだな。」

「「何で死なないの!」」

 不思議そうに思う双子の声にほぼ元に戻った二本角の顔が笑みを浮かべて言う。

「当たり前だ。我は悪魔『ジルデミオン』様の副官『ニカク』。『イッカク』と共にジルデミオン様復活の為に進軍しておるのだ。これしきの攻撃でやられるワシではないわ。」

 そう言うと同時にユキダルマーの頭が割られ、規定ダメージを越えたために召喚魔法が解ける。そこからパァムとポォムが地面に投げ出されてしまった。

「ん~?何だちっこいの。お前たちのゴーレムであったか。なかなかの物であったぞ。」

 そう言うと地面に両手をつく双子を踏み潰そうと足をあげた。

「パァム、ポォム!」

 駆けるミムジアナに抱かれながら来たサーシェスが、慌てて二人を救わんと氷の柱を発動する。それによって何とか双子は守られたが、柱を踏み潰そうとニカクの足が体重をかけて来た。

「足掻け足掻け、そして絶望を見せるが良いぞ!」

 笑みを強めるニカク。その足元ではもう逃げようもない双子が抱き合って震える。その周囲を守る氷柱が次第に軋みだし、そして次の瞬間、大きな爆発音がした。

 ズドンという音と共にニカクの身体が後ろに倒れる。そして大きな音を立てて地面に落ちたニカクは煙を上げるダメージを負った顔を押さえながら、上空を睨みつけた。

「何故貴様がここにいる!」

 その言葉の先にいたのは真っ白な鎧を身に纏ったファンネルゼだった。


 一方、一本角の『イッカク』はリオンと戦闘に入っていた。小柄ながらに物凄い速さで動くリオンはイッカクの戟捌きを躱しながら時折突撃するが、それもまたイッカクの檄に阻まれて互いに膠着していた。

「強いな。その翼、竜の力を持つ者か。」

「うん。そう言うおじさんも強いね。」

 互いに少し距離を取って会話をする。リオンの言葉にニヤリと笑みを浮かべるイッカク。

「当たり前だ。我は悪魔四天王『ジルデミオン』様の僕なのだ。よもやヒトの世で我を手こずらせる者がいようとはな。」

「悪魔?」

「そうだ。かつて神どもに異次元へ追いやられた我らだが、ようやく傷は癒えて復讐の時を迎えている。どうだ、竜の力を持つ者よ。共に我らと来ぬか?」

 そう勧誘してみるがリオンは乗るつもりなど全くない。

「興味ないね。何よりせっかくみんなが平穏に暮らしている世界を壊そうって言うのは関心しないよ。」

「ぬかせ、偽りの世界など壊さねばならん。」

「偽りの世界?」

「そうだ。故にこの世界を壊して一から作り直そうとしておる。」

 イッカクの言葉に全くぴんと来ないリオン。かつて神と悪魔が争い、壊れたこの世界を勝利した神たちはその身を以って修復させたとされている。

 その事を思い出したリオンは首を傾けながら問う。

「神たちが戻したことが許せないの?」

「む?フハハハハ。」

 それを聞いて笑い出すイッカク。リオンの首が更に傾くと、不機嫌に問いただす。

「何がおかしいのさ。」

「ハハハハハ。そうか、そうであるか。そうやってあ奴らは真実を隠したか。

 まぁよい。我が仲間にならぬ貴様に教える必要は無かろう。」

 そう言って構えたイッカクであったが、不意に気配を感じて視線を外す。リオンもまたその存在に気付いてそちらに目を向けた。

 二人の視線の向こうにいたのは白き鎧を纏って空中に浮かぶファンネルゼであった。


 混戦状態だったマドカ達と亜人たちの戦いも、数が減った事で勝機を見出した警備隊側に軍配が上がる。マドカ自身、手に持つ愛刀『黒天夜叉丸』に己の霊力を乗せてドラゴニュートの首を斬り落としたのだった。

「見事な戦いぶりだったぞ。」

 そう最後の手向けに語ると、ドラゴニュートはニヤリと笑いながら霧と化していった。それを見送って周囲を見ると、黒い鎧たちの姿も尽く消えており、残るは向こうで戦うオーガー二体のみとなっていた。

「マドカ様!」

 ボルたちが集まってくる。マドカは再び黒い髪に戻ると、全員の様子を見た。みんな多少の傷はあるが、無事に乗り切ったことを確認すると黒天夜叉丸を鞘に戻しながら向こうの様子を伺う。

「あとはリオン殿たちに任せるしか…!」

 そう思った瞬間、優位に戦っていたユキダルマーが消え、双子が地面へと落ちる。

「パァム、ポォム!」

 その名を叫んだサーシェスを咄嗟に背中へ乗せて両手両足で走り出すミムジアナ。もうこれ以上誰かがいなくなることなど許せない彼女はサーシェスと共に双子の下へと急ぐ。

 しかしまだ距離はあり、巨大なオーガーの足からは小柄な双子は逃げようもなかった。

 そこへサーシェスが氷柱の魔法を唱えて二人を覆う。氷柱にオーガーの足が乗って一先ず助かるが、オーガーの足は更に体重を乗せて来る。

「くっそーーーー!」

 大好きな双子まで失うことは許せないミムジアナ。だが、巨大なる敵を前に自分では何にもできない事に涙が溢れた。彼女の肩ではサーシェスが必死に氷柱を維持させる。それでも氷にひびが入り怯える双子の名前を叫んだ。

「パァム、ポォム―!」

 その時だ。突如オーガーの顔で爆発が起こった。それによって後ろへ倒れると、その間に双子の下へと辿り着いたミムジアナとサーシェスは二人を抱き上げてその場から遠のいて行った。

 そして見上げる向こうで白い鎧を着た女性の姿を見る。

「誰ニャ?」

 駆けながら呟くミムジアナの問いに、サーシェスに抱かれたポォムが笑みを浮かべて言った。

「フェンネルゼさまだよ。」

「ファンネルゼさま?」

 パァムが隣で問いかけると頷いて更なる答えが帰って来た。

「リオンにぃちゃんが負けたこーてーへーかだよ。」

「「「ええぇー!」」」

 逃げながら驚きの声で叫ぶ三人。それを耳を覆いながらポォムは言った。

「せっかく倒そうと頑張ったけど、まだまだぼくらは弱かった。後は任せるね、ファンネルゼさま。」


 皆の注目を受けながら空中でカノンちゃんを構えた姿のファンネルゼ。倒れたニカクは気にも止めず、一先ず去っていくポォム達を見てホッと胸を撫で下ろした。

「まさか、こいつらがいるとはね。リオンでも大変でしょう。」

 視線をリオンに向けると、イッカクまでもが自分に気付いた事を知る。そして足下から聞こえるのは憎しみのこもった声。

「何故貴様がここにいる!」

 顔が黒くなったニカクが吼える。そしてその左腕が掴もうと伸びて来たが、スッと身を翻してその手を躱してみせた。

「それはこっちのセリフ!あなたたちこそ何してるのかしら?」

 ニカクは背中で跳ねるとその身を起こして、当たり前だと言う風に答える。

「知れたこと。傷が癒えてようやく奴らに復讐する時が来たのだ。」

 ファンネルゼは哀れな者を見るような顔でニカクを見た。

「大丈夫?頭おかしくなってないかしら?って、元々あなたはそうだったわね。」

 その態度と言葉にニカクは憤る。

「貴様っ!」

 拳を振り上げた所で背後から迫る声に動きを止めた。

「待てニカク。」

 イッカクが歩み寄り、同じくリオンもファンネルゼの方へと飛んで行く。

「ファンネルゼさん!」

「あらリオン、ご機嫌如何って状況じゃないわね。」

 近づくリオンに言いかけてため息を漏らすファンネルゼ。その合間にニカクの隣に来たイッカクが言う。

「まさかあなたがいるとは…。」

「当たり前でしょう。ここは私の国があるのですもの。あなた達の気配を感じて急いで来たわけよ。あなた達こそどうしたのかしら?」

 ニカクと違い、イッカクに対しては会話をするファンネルゼ。その様子にリオンは知り合いなのだと確認できた。

「長き時で傷を癒していた。そしてようやくその時を迎えた。

 今こそ復讐をする時なのです。」

「賢いあなたまでそんな事を言うとは…。いい?もうあなた達の戦った神たちはいないのよ。それともこの世界に恨みをぶつけるつもり?」

 説き伏せようと言う感じのファンネルゼ。その言葉にイッカクは静かに首を振った。

「我らの憎むべき敵、それはあなたもご存じのハズ。デュート様に汚名を着せたあれを倒す事…」

「待ちなさいっ!あなた達は知ってるの?あの存在を!」

 言葉を遮って問うファンネルゼの顔が焦りを見せた。それに対してイッカクは深く頷いて見せる。ニカクもまた視線を受けて頷いた。それを確認して心を落ち着かせるファンネルゼは静かな、それでいてよく通る声で言う。

「分かったわ。あの件についての真相はあの場にいた者しか分からない。遠い昔に起こったあの事件によってあなた達も被害を受けたと知っている。

 だけどもうアレは動かず、神たちも今はもういない。そしてここは新たな生ある者たちが懸命に暮らしている。

 あなた達が復讐すべき相手はもういないとしても、気持ちは変わらないのかしら?」

 威厳を込め相手を圧する言葉だった。帝国皇帝という立場以上の、更に上の高位な存在としての威厳を感じさせることばだった。

 だがオーガー達の返事は変わらなかった。

「それは我らの王が決めたこと。我らはそれに従うのみである。」

 その返答にファンネルゼは小さく「そう。」と呟くだけであった。

 少し考える様子を見せた後、

「リオン。」

 そう声をかけられて「何?」と続きを待つリオン。

「この者たちを倒しなさい。それが出来ないなら、この世界に未来は無いでしょう。」

「…わかったよ。」

 雰囲気が全く違うファンネルゼの言葉にリオンは頷く。先日自分を倒したファンネルゼ同等の存在だと考えられるオーガー二体。少なくとも先程やり合ったイッカクは相当の手練れである。

 正直「世界の未来がない」と言われてもピンとこない。だけど今必要なのはこの二体を倒さなければ仲間たちが危ないと言うことだ。だからリオンはその言葉を聞き入れることにした。

「あ、少し待ちなさい。」

 構えるリオンを見てファンネルゼが止める。するとファンネルゼはリオンのランスを見る。

「あなた、その子の力を使い熟せてないわね。ちょっと貸してみて。」

 そう言われてリオンは躊躇う。自分以外の者が持てばかなり重いのだ。もっとも、重そうな盾などを持つファンネルゼだからと渋々ながらランスを手渡す。

 それを受け取ってファンネルゼは呟き始めた。

「やっぱり封印されたままね。『ウィ・ン・リターム・フォー・フレームブル』」

 そう唱えた瞬間、ランスの先端から蒼い光が漏れ出すとガキンと音がして隙間が出来るように割れる。そして柄に小さなフックが現れるとその隙間とフックから蒼く薄い膜が現れた。それは伸びて刀の形状をしていた。

「うん、やっぱりね。カノンちゃんと一緒に作られた子だわ。鎧と盾が揃った装備だからもしやと思った通りだったわ。

 これは魔力を与えると見たとおり魔力の刃が生まれるの。その形状は扱う者のイメージに寄るけど、その分の魔力を吸い取られるから十分注意しなさい。」

 そう言うとリオンに返す。すると先程まで出ていた魔法の刃が消え、ランス自体も元の形状に戻った。

「試して御覧なさい。」

 ファンネルゼに促されて魔力を与える。すると体から魔力がランスに流れていく感覚が生まれ、ランスの形状が変わり魔力の刃が発生する。しかしそれは荒々しく燃え盛る様な蒼い炎だった。

「もっと魔力を抑えなさい。そうしないと直に魔力が無くなるわよ。」

「抑えるってどうやるの?」

「刃をさっき私が出したようにイメージしなさい。」

 そう言われて早速イメージすると刃は膜となって魔力も微量な分だけで納まる。

「うん、それで今は十分だわ。それじゃやっちゃいなさい。」

 ファンネルゼが言うと、リオンは頷いてランスを構えた。

「ほぅ、これは面白い。」

 向かえるイッカクが檄を振り回し、やがて両手で持って腰辺りで構えた。そしてニカクはギロリとファンネルゼを睨む。

「ワシは先ほどの借りを返させてもらおう。」

「あら、私に勝つつもりなの?」

 笑顔で返すファンネルゼ。ニカクは言った。

「いずれはお前とも戦わねばならない。ならば先に倒しておいて問題は無いだろう。」

「へぇ~、リオン予定変更よ。こっちは私が殺るわ…。」

 リオンは素直に了承する。触れてはいけないものと判断しての事だった。

 そしてそれぞれが戦闘準備を終えると戦いは始まった。


 ライディンの町からも見えるほどオーガーは大きく、住民たちは不安を感じながらその戦いを見ていた。

 町の代表であるエルデュヴァンは邸の2階からそれを見つめていた。

「あとはもう、リオン君に任せるしかない。」

 その勝利を願ってオーガーと戦う蒼銀の光を見つめていた。


 町の物見からもその戦いは見えた。残った衛兵たちや住民が見つめる他、木の上から見ていたのは獣人の子どもたちだった。木の下では落ちたりしないかと不安げに見守るセーラの姿がある。

「リオンにーちゃま、やっちゃえでしゅよー!」

「がんばれー。」

「やっつけちゃえー!」

 ワオリやマフモフ達が枝に座ったりして応援する。日頃から木登りなどで遊んでいるから子どもたちにとっては特等席であろう。蒼銀の輝きは美しく舞い、オーガーを翻弄していた。


 そして戦場では大きなオーガーの攻撃に巻き込まれないように離れて見守る警備隊たちの姿があり、サーシェスの胸にはパァムとポォムがいた。

「リオンにぃちゃん、やっつけちゃえ!」

「ファンネルゼさまもがんばれー!」

 それぞれに声援を送る二人。その戦いぶりにマドカや獣人たちは目を見張っていた。

「これが高次元の戦い…。我らでは到底適わないわね。」

 マドカが呟く。そしてミムジアナは両手を祈るように合わせて願う。

「トーマスゥ、リオンが戦ってるニャ。どうか見守ってあげてニャ!」

 多くのヒトの声援や願いは力となって闘う者の心を奮い立たせ、力を与える。

 様々なヒトの思いを受けながら、リオンは全力を持って戦っていた。イッカクは神や悪魔の中でもかなりの実力者で、檄を操りながらリオンの攻撃を防いでいく。握り潰せるほどのリオンだけに、武器で防ぐ一方で徒手による攻撃を繰り出す。小回りが利くからこそ、素早くいかようにも対応できる徒手を選ぶ辺りは流石である。

 一方で武器が魔力を帯びたことで、防御に専念しなければならなくなった事も理由の一つになる。悪魔はその体を幾つもの膜が貼っており、それらは魔力を含まぬ攻撃であれば一切を通さない。だから先のランスの状態であれば少しあたって態度なら特に問題はなかった。

 だが今は魔力が乗り、しかも武器が古の武具であると分かった以上は気を抜く訳にいかなくなった。一瞬見せた蒼い炎の刃。あれは強力な魔力を持つ証明である。

(侮れぬ!)

 今回の侵攻を簡単に考えていたが、狂戦士を見てヒトを見直した所だ。そしてこの蒼銀の戦士。思わぬ好敵に武人として笑みが零れる。

 やがてリオンの刃がイッカクの肩を掠めた。そして続けざまに足も斬られる。魔力の刃についてやっと慣れて来たのだろう。出力が安定して戦いも洗練されていた。

(強いな…されど負けぬ!)

 少し間合いを取ったイッカクは檄を片手で持って腰に据える。そして左手を前に突き出すと力を貯め始めた。

「名を聞かせて貰って良いか?」

 そう尋ねるとリオンは構えたままで憮然と言う。

「ヒトに名前を聞くときは、先に自分が言わなきゃだよ!」

 そう言われて思わず笑みを浮かべたイッカク。

「左様か。我が名はイッカク!」

「リオンだよ。」

「リオンか。ウム、覚えておこう。そして次が最後の攻撃とする。互いに最大の攻撃を持って力比べと行こう。掛けるは己の命。どうだ?」

 その問いにリオンは肯定する。

「うん、のった。」

 そして互いに力を高めていく。体格差はあっても、その魔力はほぼ同格。互いの闘志も高まると、周囲は立ち入れぬ空気が漂う。

 そして高まった状態で互いが動く。イッカクは腰の檄を長く持つとそのまま突き出した。檄の遠心力が加わって超高速で目標であるリオンへその先端の槍先が襲う。

 一方リオンはいつもの突撃のスタイルで魔力の刃を展開してその槍先を迎え撃つ。

 両者の先端がぶつかり合い、その衝撃波が周囲に振動を与えた。

 固唾を飲んで見守る中、両者の力は拮抗する。イッカクの腕は緊張のまま檄を繰り出し、リオンは全身全霊を持ってその攻撃とぶつかり合う。

 そのまま膠着するが、すぐに見守るみんなの声援がリオンを後押しする。だが前へ進めない。互いの力量などが同格であるため、その体格差がリオンを不利にさせていた。

「見事だリオン。その名と姿、忘れぬぞ!」

 イッカクが叫ぶ。そして足を一歩前へ踏み出すと、その分グイッと押されるリオン。歯を食いしばって耐えるが、どうにも分が悪いと感じ始める。

「負けられるかぁ~。」

 そう思うリオンの耳にふと聞こえるみんなの声援。そしてその中で聞き慣れた声が耳に入った。

「リオン君、ファイトですよ~!」

 エフェメルの声だ。馬車が辿り着いた事を知らせる。そして、それに乗っているのは…。

「リオン―ッ、がんばってぇー!」

 聞き間違える事など無い愛する姉シーニャの声援だった。その声を受けたリオンは奮起する。

 そう、幼い頃にシーニャと二人で暮らしたあの時、シーニャの喜ぶ顔が見たくて精一杯がんばっていた。あの時の思いが思い出され、リオンは腹の底から吼えた。

 それはドラゴンの咆哮でなく、リオン自身の叫びだった。自分の力を引き出させるために自然と出た声。

 同時に魔力が噴き出し、魔力の刃は荒々しい青い炎が放出される。その青い炎を纏いながらリオンの身体は前へと突き進んだ。

「…見事だ。」

 そうイッカクが呟くと、檄は粉々に割れ、リオンの身体はイッカクの首を捉えた。そしてそのまま貫くと、蒼い炎に焼かれながらイッカクは霧となって霧散したのだった。


 イッカクを倒したリオンはそのまま地面へ落下する。魔力を使い果たしたために身体が動かなくなったからだ。

 そんなリオンにシーニャたちが駆け付けて行く。

「リオン!大丈夫なのリオン?」

 落ちて仰向けのリオンに寄り添って声をかけるシーニャ。もちろん他の者も周囲に群がる。

 するとリオンはフェイス部分を開けると汗にまみれた幼い顔を見せた。息は荒いが、しっかりと生きている。それを見て皆の顔が安心を見せた。

「魔力が枯渇したんでしょうね。しっかり休むと良いわ。」

 そんな集まりの頭上から声が掛かる。もちろんファンネルゼだ。

「もう一体は?」

 苦しそうにリオンが尋ねると、ファンネルゼは済ました笑顔で答える。

「あれくらいどうってことないわよ。」

 リオンが戦い始めた時、魔法を繰り出すニカクをファンネルゼは30%のカノンちゃんで倒してしまったのだった。

「30%で消えちゃったから、リオンの方が強いって事よ。」

 そう言いながら地上に降りたファンネルゼ。そこに獣人たちが相対するように立つ。これまで散々煮え湯を飲まされてきたグランデュシュテルン王朝のトップが目の前にいるのだ。それまでの事に尾を引く彼らからすれば憎らしい相手なのである。

 そこを取り持とうとリオン達が呼びかける前に、マドカがそれを制した。

「やめっ。こうして我らの為に来てくれた恩人なのだ。礼節を弁えよ。」

 その命に従う獣人たちは下を見ながら立ち尽くす。そんな中でマドカはファンネルゼの正面に立ち一礼する。

「助けて頂いた御仁に無礼を働いたことご容赦ください。元リュナエクラムで長をしていたマドカと申します。此度は我らの新たな地ライディンをお助け下さり、心より感謝申し上げます。」

 優雅に振る舞うと、その美しい長い黒髪がさらさらと礼に合わせて流れていく。それを見ながらファンネルゼは軽く低頭して見せた。

「丁寧な挨拶、ありがたく頂戴する。我はグランデュシュテルン王朝皇帝 ファンネルゼ・ア・メル・グランデュシュテルンである。」

 威風堂々とした振る舞いは流石大国の王と言わざるを得ない振る舞いだった。

そう告げたファンネルゼは真顔で続ける。

「これまで我は下々に全てを任せていたがために、そなたたちに辛い思いをさせてしまった様じゃ。これに関しては我の怠慢がそうさせた。赦せ。」

 そう言って目礼する。王が許しを請うこと自体その国の信用に関わる為に有ってはならない事だ。それが皇帝という立場である者が謝罪を口にしたのだ。その事態に驚く者たちがいる一方で、何を今更と憤慨する獣人の姿もある。あくまで皇帝というのはヒトの世界が勝手に決めたこと。獣人には関係ないのだ。しかしマドカがそれを手で制すと、周囲は静まった。

「陛下、上に立つ方がそう仰るのはよほどの覚悟があってとお見受けします。謝罪に関しては御受け致します。」

 一先ずそう言って謝罪を受け入れるマドカ。しかし面をあげると毅然とした態度で口を開く。

「ですがそのお言葉がこれから先にどう関わって行くのかをお話頂けますでしょうか。これからもお互いの関係が変わらぬとするのでしたら、我らは牙を研がねばなりません。出来れば、我が子・孫の世代も良き関係を気付いていければと願うのですが。」

 単に謝っただけでは意味がないと釘をさすマドカ。亡くなった者たちもいる中で、仇を討とうとするのは誰にでもできる。しかしそれでは何も解決にならないと知っている。復讐で一時の満足を得られても、心が満たされはしないのだ。それが癒されることは時間をかけて受け入れるしかない事を経験してきた。

 また亡くなった者たちを思う一方で、逆に彼らが願うのは残った者たちの安寧であってほしいと思う。そう信じてマドカはファンネルゼに問いかけた。

 その真意をファンネルゼは理解する。古より生き続けるファンネルゼ。皇帝として生きるのは表の顔で、本来の目的はこの世界を見続ける事である。

 ヒトの世界を作り出して文化を築かせる。他の種族より劣った能力を持つヒト。それがどのように変わるかを見ようとしたのがきっかけであった。

 そんなヒトの仲間を集って起ち上げたのがグランデュシュテルンという国であった。小さな国であったが、仲間たちのキラキラとした瞳や熱い情熱に心地よさを感じて共に発展させていった。

 その当時、周囲を様々な種族が闊歩しており、脆弱なヒトではすぐに餌食となることから、軍隊を編成させ強力な武器などを持たせた。その頃から他種族との因縁は始まったのである。

 時は経ち小さな国はやがて大国となり、王朝と化すと華やいだ世界が誕生した。だが繁栄する一方でヒトの欲望が高まって醜くなっていく。その醜さはヒトの情熱を失わせ、互いの信頼を平気で蔑ろにし、強力になった力は他種族へ傲慢な態度をとるようになる。その様子にファンネルゼは嫌気がさして、自らの邸へと引き籠ってしまったのだった。

 以降はつまらぬ日々を過ごし、唯一の楽しみは珍しくおいしい料理を食すことだけだった。一度は全てを壊してしまおうかと思ったが、一番親しかった今のモラード公爵の祖先との思い出が思い留めさせた。今も退屈な日々を送ってでも我慢できたのはモラード家の存在が大きい。余談であるが、代々モラード家当主はファンネルゼに絶対的な信頼を得られるよう努力し続けている。

 そして先日、リオンと出会って新たな決意をした。かつてヒトは他種族から虐げられ、強くなって受けたことをやり返した。更に虐げると言う醜い行い。あの混血の少女にしてきた事は正にヒトの蛮行である。それを他種族ながらも助けようとする姿はファンネルゼの心を刺激させたのだった。

 そして今、マドカの言葉と態度は未来のために成そうとしており、共に生きようとする態度に共感できた。それで新たな時代を作り出そうとファンネルゼは言葉を綴る。

「うむ、我もそれを成したいと思っておる所。先日そこのリオンに伝えたが、我が国で他種族に対する冷遇を改善して行く所存じゃ。直には難しいやもしれぬが、共に生きていく方法を模索して参ろうと思う。じゃからそなたの意見なども是非聞かせて貰いたい。」

 そう言って右手を差し出す。それにマドカは笑顔を持って握手を交わした。

「是非ともお願い申し上げます。」

 周囲の者たちから盛大な歓声があがった。それぞれに様々な思いはあるが、しかしこうして手を取り合って進もうとする姿を疑う者はいなかった。

 こうしてライディンに押し迫った亜人軍は倒され、同時に今までいがみ合ってきたグランデュシュテルン王朝とも同盟を気付いたこの町は、数年のうちで更に大きな都市へと発展していくのだった。

 またこの防衛戦で亡くなった者たちの中で防衛隊長のボロボロになった戦斧と、それを握ったままの右腕が見つかった。皆が冥福を祈った後に小高い丘が作られ、そこに亡くなった兵士たちの墓標が立てられる。

 そして皆をために単騎で1万もの亜人を倒した防衛隊長の勇姿を称え、その丘を含む平野一帯を『トーマス平野』と皆が呼ぶようになったのだった。


 こうしてナハトイデアール大陸は長年いがみ合ってきた種族間での対立が緩和し、大陸全土で物流が行われて発展していく。もちろんそれまで甘い汁を吸ってきた一部の商人たちからは不満が出るが、商人でも獣人とともに新たな道を作る者たちが現れ、次第にその波に飲み込まれて消えていくのだった。

 新たな時代へ向けて南の大陸は動き出したのだった。


 そして、同時に少年の長き旅は終わりを告げる。

 そのまま町の発展に協力してほしいと言うみんなの誘いを丁寧に断り、共に旅した仲間たちと別れ、少年は大好きな姉と共に北の大陸へと戻って行くのだった。


「ようやく、旅が終わったんだね…。お疲れさま。

 そしておかえりなさい、リオン。」

「うん、ただいま!おねえちゃん。」


「あ~、私も忘れちゃだめですよ~。」


 








【終章】

 波がさえずるかのように浜辺を行き来していく。波によって湿った白い砂浜は日を浴びて直に乾き、再び波を迎える。そんな中にズシャッと音を立てて足が踏み込まれた。その足はもう片足と交互に前へ前へと進み、足跡を残して行く。そんな足跡を波が消して行く…。

 その足の主は海から出て来たのだった。逞しい身体に無数の傷を持ち、身長はあまり大きくはない。それでもその体より大きな魚を右肩で担いで砂浜から陸地へと向かう。

 それを見て洗濯物を干していた女性が笑みを浮かべる。

「お帰りなさい。すごい大漁ね。」

 最後の一枚を干しきって、女性は魚を持つ青年へと向かう。歩くたびにその紺色の長い後ろ髪が揺れた。そして青年は大きなテントに向かうと、そこにある木の台に持って来た魚を下ろした。結構大きな木の台であるが、魚は更に大きく、尾ひれが台からはみ出て地面に付いていた。

「うん。おいしそうだったからね。」

 魚を下ろした顔に大きな傷を持つ青年は、やって来た女性ににっこりと笑って見せた。

「それじゃ料理しよっか。もうすぐ帰ってくるはずだね。」

「うん。」

 今日は仕事で暫く外に出ていた青い肌の姉が帰って来る日だ。きっと、返ってきたらすぐに抱き付いてくるだろうと想像して青年は少し身震いする。

「食べ切れるかな?」

 魚に包丁を入れ始める女性。すると傷のある青年はニカッと笑って言った。

「残らないよ。ぼくが食べちゃうからね。」

「ウフフ、リオンたら!」

 互いに笑い合う姉弟。かつて過ごしたペシャルカトルで、ようやく平穏な日々を過ごしていた。

 そんな二人の島に、一隻の船がやってくる。大砲を積んだ大きな船だ。そこには蒼い肌の女性はもちろんいるが、他にも小柄な女性や双子、それに様々な種族の子達もいた。

 内緒の来訪者に、大きな魚ではとても足りない賑やかさが待ち受けていることを、まだ二人は知らなかった。


第1部 完


お読み頂きありがとうございました。

ここまでお付き合い頂いた事に感謝が尽きません。

本当にありがとうございました。


これにて第1部が終わりました。

よくぞここまで続けられたとわがことながら褒めてやりたいです(笑)


さて、今回のお話はもっと長くなりそうでした。

ここまでの長い旅を通じて色々な出会いをしたリオンですから、

無事にシーニャと会えたことの報告などをして行くお話なんか考えておりました。


だけど、それ書いてたら絶対に今回終わりにならないと思って諦めました。

ですので、また機会がございましたら短編的な感じで書かせて頂こうかと思っております。

一先ずはこれにて、リオンの旅は終わりです。

本当にありがとうございました。


さて、これから第2部に入って行きます。

その前に人物紹介や設定資料をまとめてしまうようにします。

特に人物は多くなって、分からない方が出ると思いますし、第2部にも出る方はいます。

なのでそこはきちんと整理しておいて、新たな物語に入らせて頂きます。


既に第2部の構想は出来ておりまして、最初の展開に皆さんがどう反応されるか少し不安もあります。

ですが新たな話はこの「The Low of the World」の完結に繋がるお話なので途中で辞めるわけにはいきません。

ですので、宜しければまた第2部もお読み頂けましたら嬉しく思います。


では、ここまでの第1部をお付き合い下さり、本当にありがとうございました。

人物リストを1枚にまとめたり、設定資料を追加した後に、第2部に入らせて頂きます。

これからもどうぞよろしくお願いします。


では、また次回まで。

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