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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
44/93

逆鱗

グランデュシュテルン王朝で無事にエルフとヒトの子を保護したリオン達。

同じくして隷従されていた多種族の者たちを開放して南へと移動する一行であったが、

その行く手を塞ぐのは10万という数のグランデュシュテルン軍であった。

「さてと、最後の大仕事ですね~。」

 鶴翼の陣形を組んだグランデュシュテルン軍10万。それを前にエフェメルが声をかけた。

「どうやら敵さんは相当な戦力を持って来たみたいですね~。」

 エフェメルの言葉にエイルは息をのむ。同時に獣人たちの中から数名が話し合いに寄ってきたが、その表情は非常に固い。それもそのはずだ。ここまで来てもうすぐという時に、見渡す限りに並んだ軍隊。その数を前にして絶望しか出てこない。

「さて、どうしましょうかね~。」

 エフェネルの問いかけに答える者はいなかった。誰もが逃げることも叶わない事は承知していた。ならばこのまま向かって倒れるだけしかない。

 しかし、ここにきてリオンが平然と言ってのけた。

「全部倒そうか。」

 その軽々しい物言いに驚く。だがエフェメルもそれに溜息一つだけついて、

「それも一つの方法ですね~。ですがぁ全てを倒す必要は無いですよ~。私たちはぁこの国を滅ぼす訳じゃないんですからぁ、相手が退いてくれるならぁそれで良しとしましょ~。」

 全くものともしない考えにただ驚くしかなかった。

「ちょっと待って!…確かにリオンの強さは認めるけど、相手は正規の軍隊なのよ。しかもあれだけの数がいるのだから、そう簡単な問題ではないでしょ?」

 エイルが獣人たちの気持ちを代弁していった。しかしそれでもリオン達の態度に変わりはない。

「あぁ、エイルおねえちゃんは知らないんだよね。リオンにぃちゃんの本気。」

 ポォムがあっけらかんと言う。皆の視線を受けながら、ポォムは頭の後ろで手を組むと片目を瞑って自慢げに言った。

「リオンにぃちゃんが本気出したらあれくらい倒しちゃうよ。それにぼくだって戦えるからね。」

 それを聞いて信じがたい獣人たちであったが、今はそれに頼るしかないと思い直した。今回解放して南下している3000人の中にいるのは何も戦士たちばかりではない。中には女性や子供も交じっている。獣人なら女性でも戦える者もいるが、バードゥンやホビットと言った種族は装備がなくては戦いに向かない。

 いまいち納得は出来ていないが、彼らはその話に乗るしかなかった。

「それではぁリオン君が先行するとしてぇ、私とポォム君は魔法などで後方援護するとしましょ~。只これはぁあくまで戦争となります~。だからこちらを突破した場合はぁエイルさんや戦える方も助力くださいね~。」

「えぇ、それは当然だし構わないわ。」

 代表してエイルが答える。その視線は今一度核装備のチェックを行うリオンに向けられていた。

 そんなリオンにそっとシーニャが寄り添う。その胸にはエルフの少女が抱かれたままでいた。

「リオン…。」

 そう声をかけるシーニャにリオンは振り向いて笑顔を見せる。

「大丈夫だよ。心配しないでおねぇちゃん。」

「うん。でも無茶はしないで。それに無闇にヒトの命を奪う事もしないでね。…酷い事を言ってるのは承知だけど、やっぱりリオンには優しいあなたでいてほしいから…。」

「うん、約束するよ。これが終わったらまた一緒に楽しく暮らしたいもんね。」

「…うん。」

 幼い時に二人だけで暮らした日々を思い出す。大変だったが、それでも楽しく生活できていたと思う。

 やがて準備の済んだリオンはシーニャに挨拶を送る。

「それじゃ行って来るよ。」

「行ってらっしゃい。気を付けてね。」

 笑顔を送って送り出す姉に弟は力強く頷き、そして駆けだした。

「リオン君っ、ご武運を!」

「行ってらっしゃい、リオンにぃちゃん。」

 皆の声を受けながらリオンは2km先にいるグレンデュシュテルン軍へと向かったのだった。


「伝令!目標に動きありました。蒼銀が一人、こちらへ駆けて来ます。」

 鳥が翼を広げた様な横に広がる布陣、鶴翼の陣を布いたグランデュシュテルン軍中央に天幕で覆った本陣があり、ここに物見から走ってきた伝令がもたらされた。

「なんと!奴一人で我らを相手するつもりか?侮りおってぇっ。」

 一人の武官が憤り叫ぶ。周囲の者もその言葉に乗る一方で、たった一人で10万を相手にする事に不満をぶちまけた。先日のリュエナクラムの敗戦によって国民に不評を得ていただけに、相手を調子付かせたと思っての言動だ。

 そんな騒がしい者たちを一瞥するのはこの軍の総司令官、グランデュシュテルン王朝総司令『グラーベル・シュタイナー』総帥であり、溜め息の後で静かに告げた。

「沈まれ。」

 その言葉に周囲は一瞬にしてしんと静まる。その中で言葉は続いた。

「これだけの数を前にして堂々と一騎で来るなど、貴公たちに出来るか?」

 そう言われて口を紡ぐ武官たち。

「ライルビーを認めさせ、更には倒した程の強者。更に一騎で10万を相手に臆せず来る豪胆さ。敵ながら見事としか言いようがない。」

そう言い切ると立ち並ぶ諸将の中から一人を見る。

「クォーツェン、先陣を任せる。だが焦らず相手を見極めろ。」

「承知いたしました。先陣の任承ります。」

 グラーベルの指示に武官たちの中で若い青年が指名された。それに姿勢正しく一礼をする青年。『クォーツェン・ベルヴァイド』という26歳の若き准将だ。

 貴族として生まれ、次男故に騎士の道を目指したこの青年は真面目で努力家の好青年である。

 武家の誉れとされる先陣を受けて早速向かおうとした矢先、グラーベルの言葉に異を唱える者がいた。

「お待ちくだされ司令。何も若きクォーツェン殿を向かわせずとも、我にお任せ下さらぬか?」

 先ほど騒いでいた武官で、顔に2本の深い傷を持つ中年の男だった。『バブロッグ』と言う名の戦士団長でラビューズ軍の将軍の一人だ。

 そんな彼に皆の視線が集うと、彼は待ってましたとばかりに口を開いた。

「たった一騎とは言え、奴はライルビーを倒した猛者。そればかりか我がラビューズ軍の者たちも討たれている。その仇を討つチャンスを頂けぬだろうか?」

 そう伺うバブロッグの顔には僅かながらに暗い笑みがあった。言葉とは裏腹に、彼は先陣を切ると言う名誉を欲っし、更にはライルビーを倒したリオンを討つことで、ライルビーより自分が優れていると自慢したいと考えていたからだ。

 これほどの大きな規模の軍になると、もちろん欲に塗れた者が数多といる。そんな者たちを従えるグラーベルは当然そうした心理などお見通しであった。

 しかしそこでふとグラーベルは思い、その申し出を受けることにした。

「なるほどな。それもまた分からぬことではない。ならばバブロッグ殿も共に向かえ。そしてクォーツェン、お主はまず相手と交渉をしてみよ。その結果、戦うとなった場合は二人で共闘すればよい。」

「かしこまりました。」

 クォーツェンは礼儀正しく一礼する一方、バブロッグは不満そうに愚痴る。

「そのまま我にお任せ下さっても良いのだが。」

 流石にそれは看過できぬとグラーベルはギロッと睨み一言告げる。

「なんだ、意見を聞き入れたが不服か?」

「いいえ!滅相もございませぬ。」

 慌てて礼を返す。それを見てグラーベルは出撃を命じ、各将は本陣を後にして出て行った。


 10万の兵を前にリオンは500m前辺りで立ち止まった。最早見渡す一面に兵士がおり、どう攻めようかと考え始めた。

「う~ん、流石に多いなぁ。だけどまぁ、相手を退かせるなら頭を落せばいいって師匠が言ってたからな~。このまま突貫かな。」

 全く物怖じせずに呟く。最早ここまで雄叫びや足踏み、そして金属の鳴らす音などが轟音となって響く。数による騒音は並みのヒトであれば圧倒されて足を竦ませるほどであるが、師匠であるレッドドラゴンと比べれば全く大したことはなかった。

 そんな中、正面から騎馬が数騎駆けて来た。向こうから来たかと思ったが、その手には青い旗を持っている。この世界で青い旗は争わないと言う意思を示すもので、主に負傷者などを診る医療地域に立てている。だからリオンはそれに対して武器を下ろして迎えた。

 やがて辿り着いた騎馬は3騎。1騎を先頭に残り2騎は旗を持っている。そして一直線に辿り着くと、先頭の騎馬から下馬する騎士。そしてその馬を片方の旗持ちが従え、下馬した騎士はリオンの前まで歩み寄った。

 リオンを見下ろす騎士はもちろんクォーツェン。彼はフルフェイスの兜のフェイス部分を持ち上げると、リオンをまっすぐに見据えた。

「お初にお目にかかる。グレンデュシュテルン軍准将、クォーツェン・ベルヴァイドと申す。」

 名乗りをしたことでリオンも顔を見せて返す。

「僕はリオン。おにぃさんが一番偉いヒトなの?」

 先に准将と名乗っているため、その問いかけは本来おかしいのだがクォーツェンはそれを気にせず言葉を返す。

「いや、私は貴公と話をするよう仰せつかっただけの者だ。」

「そうなんだね。それはわざわざ来てくれてありがとう。」

 屈託のない笑顔。それはまだ幼い少年の顔であった。そして同時にその顔に刻まれた痛々しい程の傷に目が行ってしまう。

(このような幼い少年が…本当なのか?)

 実際に軍内部で意思統一された蒼銀の装備をした戦士である。だがその顔を見るとどうしても信じられなかった。

「先に問う事を許してほしい。君が本当にライルビー将軍を倒した蒼銀の戦士なのかい?」

「あ、あの剣のおじさんだね。うん、ぼくが倒したよ。」

 平然と答えられて密かに冷や汗を流すクォーツェン。彼自身、何度かライルビーに手合わせを願い、剣を教えて貰った事もある。そんなライルビーの剣術は王朝内でも指折りの使い手であった。そんな彼を倒した事もそうだが、こんなまだ幼い少年が倒したと言う事が信じられないでいた。

「そうか…。では、改めて話をさせて頂こう。今こちらは10万の兵がいる。そんな数を前に堂々と来る君を、我らが司令官は高く評価している。

 我が軍に加わらないかい?」

 そう言われて少し驚いて見せるリオン。

「それって僕に仲間になれって言ってるの?」

「そうだよ。我らの仲間にならないかと誘っている。」

 クォーツェンはしっかりと頷いて返事を待った。

「それじゃ、あっちにいる僕の仲間や一緒にいるヒト達はどうするの?」

 2km先にいるシーニャたちを指差して問う。それに対してクォーツェンは予め用意していた言葉を発した。

「もちろん迎え入れよう。」

「迎え入れるっという事は、ヒトじゃないみんなもちゃんとヒトとして扱ってくれるの?」

 そう問われてクォーツェンは少し言い淀み、首肯して見せた。

「そこは上と相談せねばならないが、努力はしよう。」

「う~ん、それは余り期待できそうにないね。」

 ズバッと言い切るリオン。その返答に旗を持った二人が反論を試みるが、クォーツェンが先に言う。

「遠慮ないね。…うん、確かにそうだ。多分期待には乗れないと思う。」

「ならそのお話は乗れないなぁ。」

「そうか、残念だ。」

 本当に残念がる顔にリオンは笑みを見せた。

「でも、こうしてちゃんとお話してくれるおにぃさんには感謝してるし、誘ってくれたことは嬉しいよ。」

 そう言われて僅かに口元を緩めるクォーツェン。だがその顔は残念がったままであった。

「ならば戦うしかないが、本気で我ら10万と戦う気かい?」

「うん。僕一人で相手するよ。だからあっちには戦えないヒトたちがいるから絶対に手を出さないでほしい。それは約束して貰えるかな?」

「君を倒した場合は、彼らを捕虜とする。その際抵抗した場合はその約束を破ることになるが?」

 質問に質問で返すが、リオンは納得したように頷いた。

「うん、その時は仕方ないよね。そうならないように僕ががんばるよ。」

 またも屈託のない笑顔で言われ、クォーツェンは言葉に詰まる。本来なら相手を馬鹿にしていると取れる言動だが、リオンが言うと何とも言えない感情が溢れる。

(この少年は純粋なんだな…死なせるには惜しいのだが…)

 そう思うが頭を振り払う。そしてフェイス部分を戻して最後の言葉を告げる。

「ならば交渉は決裂。あとは互いに力の限りを尽くして戦うのみ!…こう言うのはおかしいのだが、武運を願っているよ、リオン。」

「うん、おにぃさんもね。互いにがんばろう。」

「あぁ、ではサラバだ!」

 クォーツェンはそう言い残して踵を返すと、馬に乗って陣地へと戻って行った。それを見送るリオンはそっと呟く。

「あのおにぃちゃんは戦いたくないなぁ。生きていてね。」

 かつて自分に優しく接してくれた亡き将校を思い出し、それから迫り来る時に気持ちを高揚させていった。


「どうだった?あの蒼銀て野郎は。」

 戻ってきたクォーツェンをいち早く迎えたのは先陣を共に任されたバブロッグだった。その問いかけに少し思うとこを持ちながらも准将は返答する。

「交渉はダメでしたが、好感を持てる戦士でした。」

「ケッ、ダメだったわけか。まぁ最初から分かっていたからな。」

 そのバカにした言い方に対して共をした旗持ち二人は兜の下で憤るが、クォーツェンは変わらず応じる。

「それだけに決意を持っているということでしょう。たった1騎で立ち向かうその度胸に適った力を持っていると見ました。侮っていたら足元を掬われかねませんね。」

 その言葉にバブロッグが片眉を挙げた。

「あぁ?テメェは俺があんなのにやられると言ってるのか?」

 そう言うとクォーツェンは見られぬ兜の下でため息を吐いた後、言葉を発した。

「気を引き締めるべきという意味です。たった1騎と言ってもライルビー将軍は討たれ、他に兵も討たれたと仰ったのは将軍ではありませんか。ならばそうならぬよう気を引き締めなければと言ったのです。」

 そう言われてフンっッと鼻で荒く息を吐いたバブロッグはニヤリと怪しい笑みをこぼした。

「まぁ良い。何にしてもこちらが負けるはずなど無いのだ。オラ、そろそろ行くぞ。」

 その厭らしい笑みに何かあると感じ取ったが、それが何かなど分かる訳も無く、今はもはや昂った兵士たちの戦意を、相手に向かわせるだけであった。

(リオン、出来るならばわが手で…)

 惨たらしく散らせずにしてやりたいと願いながら、クォーツェンは控えていた歩兵からランスを受け取る。

 そして周囲を確認した後、バブロッグに頷き進軍の声を受けた。

「正面、敵は1騎ッ!第2大隊、進めぇー!」

 その声に空が割れんばかりの叫び声が轟き、1VS10万の戦いの火蓋が切って落とされたのだった。


 それは有り得ない状況だった。

 本陣で戦況を眺めるグラーベルは冷静沈着な男である。そんな彼がその心を掻きたてられてしまう現状。予想をはるかに超えた状況に一武人としての血が騒いだ。

 彼は王朝内の全軍を指揮する者として、全兵が強い者たちだと信じている。当然今向かっているラビューズ軍もそうであり、特に他種族との戦いが多い彼の軍は王朝内でも上位の戦力だと思っていた。

 だが今、その強いと思っていた軍が押されているのである。

 先ほど始まった時、一気に突撃で弾き飛ばすか踏み倒すことを予想していた。その予想は大きく外れ、相手はたった一人物凄い速さで突撃してくると、自分より大きい騎馬兵たちを弾き飛ばして行くのだ。巨大なランスと盾を前面に構えて一筋の矢の如く向かってきた蒼銀。そして1万もの騎馬兵からなる第2大隊を貫いていく。突貫という言葉通りに味方の陣地に深く潜り込んだ蒼銀は、やがて突撃の型を解除する。

 深く潜り込まれたことで足を止めた第2大隊は取り囲もうとしたのだが、蒼銀は動きを止めずにそのままランスを薙ぐようにくるりと体を回す。同時に盾を浮かすと盾の底部の刃が触れたモノを切り刻んでいった。

 随分小柄な体格なのだが、その回転力もさながら物凄い怪力なのだろう。薙いだランスによって騎馬兵たちが次々に弾き飛ばされて、蒼銀の周囲にスペースが生まれる。そのまま回転しながら蒼銀はそのスペースを広げる様に動き、騎馬兵たちは瞬く間にその竜巻に弾かれるか、刻まれて倒れていった。

 ようやく騎馬に乗ったままでは不利と感じた者たちが下馬して剣を構えるが、相手はたった一人だけに身動きが取れない。その間にも弾かれた兵士の身体や騎馬が飛んできて、その下敷きとなる者まで発生した。

「おい、一旦退かせろ。あれでは無駄に兵たちを死なせるだけだ。」

 グラーベルの指示に伝令が直に手にしていた笛を2回吹く。それによって離れた場所にいる伝令たちも同じく2回笛を吹いた。

 その音にクォーツェンが叫んだ。

「第2大隊後退。敵から離れて陣形を組み直せ。」

 その言葉に兵士たちは我に返った表情をして戻って行く。引き際も見事で、リオンの攻撃を避けられた騎馬兵は振り返りもせずに下がっていった。

 結局その数分の戦闘によって200名もの命が失われた。密集のまま何もできず、多くの者が倒れたのである。今まで聞いた事も無い戦力差からの戦闘において、この被害は聞くだけの者にすれば明らかに司令部の恥部と判断されるだろう。

 しかしグラーベルが退避を命じたことは彼の有能さを物語る。あのままではイタズラに兵を死なせるだけだった。しかもそのままでは状況が分からず兵士の士気が落ち、最後は勝手に逃げ出すことも予想できた。

 とにかく圧倒的な戦力差ではあるが、戦況が見えない状況で仲間のやられる悲鳴などが聞こえると言うのはどれだけ訓練された者であろうと恐怖に捕われる。いつ自分がやられるか等と言う不安が限界まで来れば、当然逃走するハズである。その前に指揮する者が指示を与えてやるべきなのだ。

 あまりの状況に誰一人として指示できなかった中で、グラーベルだからこそ指揮出来た訳である。だからこそ、リオンも指揮者の能力を評価して追撃は行わなかった。

 そんなリオンを数多の視線が見つめる。恐れる者、驚きを隠せぬ者、そして是非とも戦いたいと思う者など様々だ。そして先ほど言葉を交わしたクォーツェンはあまりの戦闘力に自らの考えを大幅に変更させていた。

「よもやこれほどまでとは…。ライルビー様が敗れたのも頷けるほどだ…。」

 年端もそれほどいかない少年と思っていたから、よくもこんな少年がと侮った自分を戒める。一方で如何なる方法で戦うべきかを考え始めた。

 その近くで同じく先陣を任されたバブロッグは恐怖を感じて怯えた。

「な、何だありゃ…、あんなの相手できる訳がねぇ。」

 そう呟きながら、秘かに練っていた作戦を実行させる事にしたのだった。


「たった一人を相手に大軍は無用の長物だな。」

 グラーベルがふと呟く。彼の目に映るのはリオンだけが立つ大地。その周辺には幾つもの兵士や騎馬の死体が転がっていた。倒れた者たちに哀悼の言葉を綴ると、グラーベルは即座に指令を出す。

「騎馬兵は戦線から離れろ、替わって重装隊を蒼銀へ。」

 その命令は直ぐに通され、自らの直属の部隊が前線へと進んでいく。

 グラーベル直属の重装備戦士大隊、略して重装隊は3000名からなるその名のとおり重厚な装備を身に纏った戦士たちの事だ。この重装隊ともう一つの部隊がグラーベル直属の中で最も優秀な部隊である。いわばグランデュシュテルン軍におけるエリート軍団と言っても過言ではない。

 その重装備によって如何なる軍や魔物の進行も防ぎ撃退する。また、強力な装備と、特殊な訓練によって培われた陣形などで攻撃の要としても信頼されている。

 そんな強力な一団がリオンの前へと並んだのだった。

「へぇ~、硬そうだな~。」

 リオンはそう呟くと、再び突撃の構えをとった。すると正面に10名の者が進み出ると横3列、後ろ3列に並び、その正面に一際厚い盾を持った兵がリオンと真正面に向かい合って盾を地面に突き立てて構えた。その後ろの3人がその兵を後押しするように盾を構え、その後ろの2列の兵たちも同様な構えで前の者を支えるように盾を構えた。明らかにリオンの突撃を真っ向から受けてみせると言う態度だ。

 すると前で一際大きな盾を持つ者が叫んだ。

「蒼銀よ!我らはグラ―ベル司令直属の重装隊である。我らがここに来た以上は、貴様の武功もこれまで。その突撃を止めて見せようぞ!」

 自信に溢れたその叫びにリオンは口端をつり上げる。

「うん、いいよ。真っ向勝負だね!」

 リオンは決して戦いが好きというワケではない。しかし己の全力をもって何かを成そうとするのは好感が持てるし、こうやって挑まれた以上は応じるのが礼儀だと思っている。だからこそ、その申し出を正面から受けて立つ事にしたのだ。

 そんな両者をグランデュシュテルン側は固唾を飲んで見守っている。と言うのもこの重装隊が敗れるようなことがあれば、最早こちらの軍ではリオンに立ち向かえる者がいないという事になる。そうなれば彼が力尽きるまでこちらの戦力をすべて投じるという最も無駄な戦法しか残らないのだ。

 互いに向かい合って気持ちを高調させていく両軍。やがて音は風の音のみとなり、あまりの緊張感に初陣の騎士見習いが手にあったランスを落してしまう。

 その「ガチャン!」という音が鳴った瞬間、リオンが動いた。50mという距離を一瞬で駆け抜けると、巨大なランスが一番前の盾に刺さる。それを一番前にいた重装隊員がガードインパクトの要領で衝突場所をずらすが、リオンにすれば特に問題など無い。刺さった盾ごと押すリオンによって先頭の者は身体を後ろへと追いやられる。

 そんな先頭車を後方の3人が盾を使って支える。また後方にいる3列が前方を支える様に盾で押し込む。それでもリオンの勢いによって10名の身体は後方へズルズルと押し込まれた。

「押し込めぇー!」

 先頭の者が叫ぶ。それによって後方の9名が再度盾に身体を預けて押し込んだ。

重武装という重い装備とそれを操る強力な筋力。それら9名分が合わさってリオンの突進とぶつかり合う。そして遂にリオンの足が止まったのだった。

 重装隊の中で防御に特化した10名は、普段から攻城武器である『衝角車』という城門をこじ開ける為の太く大きな丸太を積んだ車を相手に修練を積んでいる。様々な状況を想定しながら陣形を組み、防御に関しては自身を持つ部隊なのだ。

 だからリオンの足が止まった事に、周囲の者たちは甲高い歓声を上げて喜び、重装隊を称えた。足を止めたリオンにホッと溜息をもらす者や、それ見たことかと罵る者もいる。そんな歓声の中、リオンと重装隊10名は未だそのままの状態で止まっていた。

  やがてその様子に歓声は消えていく。止めたはずのリオンと重装隊の間で今も尚、せめぎ合いが行われていたからだ。

「すごいね。こうして止められたのは初めてだよ。でもここからが本番だよ。」

 リオンはそう言うと腰を少し下ろした姿勢になって重心を下げる。そのまま右足をズズッと摺り足で前に運んだ。

 たった一歩だが、その一歩によって戦闘の大きな盾に先ほどより強い圧力がかかる。続けて左足が摺り足で前に運ばれると、そこから交互に摺り足でリオンが前に出ていく。その圧力に先頭者は盾を身体に押し付けられ、更に後方の押す力とに挟まれていく。

「グ、グハッ!」

 重装備が仇となって圧力で押し潰された鎧に身体が耐え切れず、肺の空気は押し出され、内臓圧迫による吐血で命を落とす。そうなると陣形が瓦解し、リオンの突進に残る9名が押し負けて吹っ飛ばされた。

「さぁ、次は誰かな?」

 そう言いながらランスを引くと、先頭でいた重装備が音を立てて地面に崩れ落ち、兜や鎧の隙間から赤い血が大量に流れ出した。また吹飛ばされた者たちも、受け身もとれずに地面に叩きつけられて苦しむ者や、運悪く下敷きとなって死んだ者まで現れた。

 その様子に恐れを感じ始めるグランデュシュテルン兵たち。だが、重装隊の残りの者たちは各々の武器を構えてリオンに襲い掛かった。

「よくも仲間を!」

「相手はたった一人だ。やってやるぞ。」

 口々に叫んでは恐怖を誤魔化し、重装隊の残る2990名はリオンへ戦いを挑んだのだった。


 怒りに震える重装隊であっても、そこはしっかりと修練を積んでいるエリートたち。感情に流されず2・3人で挑みかかりながら隙を伺いつつ攻撃する。しかしリオンに隙を突かせる動作など無い。迫る者を次々と一蹴し、死体の山が築かれていく。その様子に周囲の兵士たちは恐慌に陥っていた。

 重装隊の装備は文字通り重装備で、その鉄壁の鎧とその重さを苦にもしない卓越した者たちで出来た部隊が重装隊である。そんな猛者たちが弄ばれているかのように次々倒れていく。しかもその装備が木のように簡単に貫き斬り裂かれていく。

 まるで悪夢のような状況に震え、腰を抜かす者も出始めた。それも仕方ないことだ。実際訓練は受けたとしても、グランデュシュテルン王朝において大きな戦争や戦いを経験した者は非常に少ない。それだけ平穏に暮らせる世界であり、これが初の実戦だという者がほとんどなのだ。

 そこから逃げ出す者がいても仕方のない状況だった。しかしそれは未然に防がれた。

「双方待てぇい!」

 よく聞こえる大きな声で重装隊が動きを止める。そしてリオンもまたその声に突き刺しかけたランスを止めると、死の目前であった重装隊員がヘタレ落ちる様に尻もちをついた。

 ランスを持ったまま仁王立ちするリオンは、その声の方を見た。するとそこには深い青の鎧を身に纏った精悍な顔つきの男が、馬に乗っていた。白に赤い裏地のマントを翻し、鋭い視線がリオンを見る。

「…グランデュシュテルン総司令のグラーベル・シュタイナーだ。蒼銀の戦士よ、名を聞かせて貰えるか?」

「リオンだよ。」

 グラーベルの問いかけに対してスッと立ち上がったリオンは、正面に向きなおしてはっきりと答える。その返答にグラーベルは頷くと、周囲の者に下がるよう命令した。

 戦いの最中だったが最高指揮官の言葉に、倒れた者を含めて後ろへと引き下がっていく重装隊たち。そして皆が直立して見守る中、グラーベルはリオンを見て話しかける。

「戦いの最中でこのように話すのもなんだが、貴公の戦いぶりは実に見事だった。何よりこれだけの大軍を前にして一騎で挑むその豪胆さは我が兵たちにも見習わせたいものである。

 そこでリオン、一つ提案であるが我が軍に来ぬか?」

 その問いかけに周囲の者たちが驚く。リオンも同じく驚くが、すぐに確認を行う。

「それは僕に仲間になれって言ってるの?」

「あぁ、その通りだ。貴公ほどの強者なればそれなりの待遇をすると約束しよう。」

 そう聞いた兵士たちは納得しながら成り行きを見守る。我が軍が誇る重装隊を手玉に取るほどの強さだ。当然仲間に出来るならしたいと考える事だろう。

 しかし中にはそれを良しとしない者もいる。危険だと考える者もあれば、いずれはグラーベルの地位を奪おうとしている者はリオンが妨害になると考えてしまう。そんな欲望に塗れた中で総司令という地位を掴んだグラーベルという男は、類稀なる才能と戦闘力を持った人物であり、人望も厚い。

 そんなグラーベルの問いかけにリオンはジッとその顔を見てから答える。

「んー、おじさんは良いヒトっぽいけど、そのお誘いには乗れないね。」

 そんな返答に珍しくも片眉をあげるグラーベル。

「ほぅ、良いヒトっぽいか…。だが、自分は貴公が言うようなヒトでは無いぞ。

 もしも貴公が断ると言うのであれば、後方にいる者たちも討伐対象となる。だが貴公が仲間になるならば全員壁の向こうへと行かせると約束しよう。如何かな?」

 そう言いながら向こうでいる獣人たちに目を向ける。するとリオンは平然と言い退けた。

「もしそうすると言うなら、僕はおじさんたちを皆殺しにするよ。逆に僕たちをこのまま壁の向こうに行かせてくれるなら、もうこの国にこれ以上の攻撃はしないよ。」

 そう言うと少し威圧する様に睨みつける。仮面越しだがその気迫はしっかりとグラーベルに届けられ、その周囲にいた者たちが尻込みして数歩後退してしまった。

 しかしグラーベルは仁王立ちのままその威圧を受けきると、同じくリオンを睨みつけた。こちらもまた強者ならではの気迫が発せられていた。

 互いに睨み合いでの戦いが起こる。激しい程の闘志がぶつかり合い、その周囲ではあまりの雰囲気に兵士たちの中で息が出来ず過呼吸する者や、立っていられない者が現れる。

 数刻の間睨み合い、ようやくグラーベルがその威圧を解いた。それに気づいてリオンも闘気を引っ込める。それによってようやく兵士たちも落ち着きを取り戻せた。

「どうやら思った以上のようだな。」

「おじさんもやるね。」

 グラーベルの呟きにリオンが屈託ない意見を述べる。それを聞いてグラーベルはニヤリと笑いを浮かべた。

「良いだろう。我が自慢の部隊を倒すほどの者だ。今回は自分の負けとして通過させるとしよう。」

「ホント?」

「あぁ、だがこれはあくまで自分の負けだ。我らグランデュシュテルンが負けたとは思わないでほしい。」

「おじさんすごく強いけどね…。分かったよ、行かせて貰えるならそれで構わないよ。ありがとうね、おじさん。」

 リオンはそう言うと踵を返してシーニャたちの元へ向かおうとした。その時だった。

突如としてシーニャたちに向かってグランデュシュテルン両翼から矢が射られる。

「え?」

 高々と上がった大量の矢は大きく放物線を描きながらシーニャたちのいる地点へと豪雨のように降り注いだ。そして大きな音と共に騎馬たちが一斉に突撃を開始したのだ。

「何をやっている!」

 グラーベルが怒鳴り声をあげた。その状況に周囲は追惑うばかり。するとすぐにクォーツェンが駆け付けて状況を説明した。

「ラビューズ国の者たちが一斉に攻撃を開始した模様です。」

「何故だ!誰が許可などしたぁー。」

 それに怒鳴り声で返すグラーベル。ビクッと身を震わせる兵士たちの中、クォーツェンが苦々しく報告した。

「予想ですが、バブロッグ殿の姿が見えません。戦闘前にかなり戦功を欲していたため、あの者の仕業かと…。」

「クソッ、すぐに止めさせろっ!」

 そう聞いて伝令たちが走り出そうとした瞬間、それは周囲に轟いた。そしてグラーベル達は圧倒的な闘気に晒される事となった。

 それは咆哮であった。この世で最も強き種族とされるドラゴン。その怒りの声に聞いた者は震え、戦意を失う。そしてその方向を放つ少年の身体は蒼銀に輝き、その背に同じ色に光る翼が伸びた。

 そして瞬く間に駆けだした蒼銀はそのまま一直線に自分たちの仲間の下へと飛んで行った。


「負傷者を中心にみんな固まって。」

 エフェメルが叫ぶ。先ほど風の精霊が教えてくれたことで矢に対して矢避けの魔法を展開できたのは幸いだったが、数本の矢が数名の獣人に当たってしまった。そしてすぐに東西から一面を覆うほどの騎馬が襲い掛かってくる。

「ポォム君、足場を凍らせて進行を阻止!」

 その声にポォムが迫る騎馬たちの足場を凍らせる。それによって止まる者もいるが、数に任せて勢いは止まったものを踏み潰して更に迫ってきた。

「ランドゲイザー!」

 エフェメルが大地の起伏をさせる魔法で侵攻を阻止する。だが、その範囲は限定的でとてもではないが迫る全面を覆うことは出来ない。

 やがて回り込んできた騎馬に、エイルが攻殻を展開して倒していく。

「くっ、思った以上に厄介な。」

 次々に魔法を展開しながらエフェメルが愚痴る。僅か3000人へ迫るのは1万の騎馬たち。その圧倒的物量を前に壁を作って防ぐのがやっとである。

「エフィーねぇちゃん、ちょっとだけ我慢して。」

 大地の壁を展開し続ける中、ポォムが叫び召喚を展開する。

「勇猛なる雪原の王よ 我が呼びかけに応じその猛き力を敵に示し給え」

 召喚魔法、詠唱による呼びかけで様々な世界に交信し、己のマナを代償として一時的に使役する魔法。以前使ったユキダルマーはパァムと二人で行わなければできないが、双子はそれぞれ単独でも呼び出せる召喚獣がいる。

「いでよ、ポラベーダー!」

 詠唱が終わるとポォムの目の前に体長3mもの大きな白い熊が現れた。その額には大きな一本の角が伸びており、凶暴な顔が迫る騎馬を睨む。

「行けっ!」

 そう命令するとポラベーダーは唸り声をあげて迫る騎馬へと襲い掛かった。4本の足で騎馬へと突進し、当たった全てを弾き飛ばして行く。そのまま敵の中に来ると縦横無尽にその両腕を振り回しながら蹂躙し始めた。

 それによって一方向の騎馬たちの進行を止められるが、他は執拗に攻め込んでくる。土の壁で防いではいるが、迫る騎馬たちが手斧などで壁を壊そうとする一方、開けた方向へ次々と殺到する。

 攻殻展開したエイルは地面を素早く動きながらその手のカマキリのような刃で騎馬や兵士を斬り倒していく。本来なら空から攻撃するのが得意だが、弓矢で狙われ易いことからこうした戦法をとっている。

「エイルさん、無理しないで。」

 エフェメルもレイピアと足止めするバインドの魔法で対応しながら、暴走しないようエイルに注意する。それはエイル自身分かっているが、今の状況ではかなり厳しい状態であった。

 1体倒せばすぐに次が来る。その攻撃は流石は正規の軍隊であるために手強く、気を抜くことは出来ないでいた。実際数名の獣人が落ちた武器などを持って助力してくれているが、まともに戦えるのはエイルだけである。

「大丈夫よ、危なくなったら解くわ。」

 そう返事するのが関の山で、ただひたすらに迫る敵を斬り伏せる一歩であった。

 そんな時だった。ふと騎馬が来なくなったと思った時、目の前に大きな火球が飛んできた。そしてそのままエイルに直撃する。

「エイルさんっ!」

 後ろでエルフの子を抱き締めたままのシーニャが叫ぶ。だが、エイルは何とも無いように振る舞った。

「大丈夫よ。攻殻に魔法は効かないのよ。」

 そう言って腕を高速で振る。それによって前腕の鎌から真空の刃が放たれ、魔法を唱えていた術士の首を刎ねた。

 その間にも土の壁は削られ、遂には兵士たちが崩れ起伏した地面から飛び降りて来る。

「く、こっちから来ます。みんな警戒を!」

 武器の身を持つ獣人たちがエフェメルを中心に壁となって迫る兵士と激突した。いよいよ崩れた壁から押し寄せる兵士たち。その数に今前捕えられていた獣人たちでは対応しきれず倒れていく。エフェメルに至っても混戦ではその肌に傷が付き、何とか大きな傷を作らないでいられるのが関の山だった。

 その中をエイルが縦横無尽に倒し続けるが、そろそろ攻殻化のタイムリミットを迎えようとしており、動きも少し鈍くなってきた。そこに背後から矢が当たると、動きが少し止まり、その体へ槍が突き立てられた。ちょうど攻殻の継ぎ目に入った刃はエイルの腹に食い込む。

「しくじったわ…。」

 吐血しつつ何とか槍から体を抜き出すが、そこに更なる槍が迫り、攻殻化した身体を突き刺して行く。

 致命傷とはいかないが、中には関節部分を傷つけられて動けなくなるエイル。すると今度は向こうでポォムの呼び出したポラベーダーが遂に倒されて消えて行った。

 やがて兵士たちの暴挙は戦えぬ者たちにまで襲い掛かり、その狂気の刃がシーニャにも襲い掛かった。

「あぶない!」

 突き出された槍がエルフの子に刺さろうとして、シーニャは咄嗟に身を翻した。そしてその背後から迫った刃はシーニャの身体に突き刺さる。

「…?」

 エルフの子はふとその顔を見上げる。するとそこにあるシーニャの顔はとても優しく微笑み、やがてその口端から赤い血が流れ出した。

「あ、あああ…。」

 エルフの子は感じていた。その口の赤い液体が見えるのはよくない事だと。そして何かを言いたくても言葉を知らないから出せない。だからこの女性と会話した中で覚えている単語が自然と言葉から出された。

「おかあさん!」

 その言葉に気付いたエフェメルが異常に気付いた。

「シーニャちゃん!!」

 急いでその槍を持つ兵士を斬り捨て、槍を柄の部分で切断した。抜いて出血がひどくなることを防ぐためだ。そしてシーニャに必死に呼びかける。

「シーニャちゃん、シーニャちゃん!大丈夫だから、絶対に助かるからしっかりするんですよ!」

 その間にも兵士たちが群がる。それをエフェメルの怒りが襲う。

「黙れ!」

 咄嗟に唱えたのはウインドカッターの魔法。それによって真空刃が迫り来る兵士たちを斬り裂いた。

「ポォム君!」

 そしてポォムを呼びつけるが、一足早くその状況を見たポォムがあまりの事に顔を真っ青にして震えていた。

「ポォム君、部分的にシーニャちゃんの傷を凍結して!」

 傷を凍らせて一時的に出血を止める方法。サーシェスが使う事で学んだが、今のポォムはそんな声が聞こえなくなっていた。

「そんな…シーニャねぇちゃんが…うわあぁ…」

 動揺して周囲が見えないポォム。そこでエフェメルはポォムの頬を叩き気付かせる。

「ポォム君!今はまず出来ることをやって。まだシーニャちゃんは死んでません。だから止血するために傷を凍らせてください。」

 そう言われてようやく目の焦点が戻ったポォムは慌ててシーニャの背中に手を置いて傷を凍らせる。何とか獣人たちがエフェメルたちを庇おうとする中、ようやく蒼銀の翼が周囲の兵士たちを一掃してやって来たのだった。

「おねえちゃん!」

 降り立ったリオンの目の前にはエルフの子を抱いて横たわる愛するシーニャの姿。その横にいたエフェメルが涙に顔を濡らしながらリオンに伝えた。

「ごめんなさい、シーニャちゃんが…。」

 リオンが現れたことで兵士たちの動きが止まる。だが、動かない事を知って今だとせせら笑った瞬間、その一帯に途轍もない恐怖が発生した。

 かつて感じたことも無い程の恐怖感。それによって兵士たちの震えは体に自由を奪い取った。

 それは近くにいる獣人たちも同様で、ヒトより敏感故に震えて涙が止まらなくなっている。

「リ、リオンく…ん…?」

 それはエフェメルでさえも言葉を失くしたほどだった。動かないリオンに声をかけると、リオンはそのままスッと浮かび上がる。そして数m上空に浮くと、周囲を見渡しそして聞こえるように呟いた。

「消えろっ」

 そして巨大なランスが左から右へとスイングされると、その直線上にいた兵士たちの中に真空刃が起こり、やがて大爆発が連鎖して起こった。その爆発に巻き込まれ、辺りにいた兵士たちが吹き飛び死に絶える。今度は右腕を前から後ろへと振りきると、その延長線上に真空刃が放たれ、地面に触れた途端に爆発の連鎖が起こった。

 爆発などに巻き込まれて死に絶えた兵士たち。それを見て恐怖になりふり構わず逃げだす者たち。だがそれを見逃すなど今のリオンに選択は無かった。

「逃げるなっ」

 呟きと同時に姿が消えると、飛んだ状態で突撃モードに入るリオンは逃げる兵士を横から次々に貫いていく。また蒼銀の翼を最大に広げ、翼に触れた者は蒼い炎に焼かれて逝った。

シーニャたちのいる場所を中心に円を描くように一蹴したリオン。それによって攻め込んだ1万の兵たちは全滅したのだった。


お読み頂きありがとうございます。

そして遅くなって申し訳ありません。


やはり戦闘シーンは書いてる中で色々手直ししていくためにどうしても遅くなってしまいまして、

お待ちいただいてる方々に申し訳なく思います。


さて、内容に関しては続きを早くと言われそうなので近いうちに続きを掲載するよう約束いたします。

(遅くても1週間以内で)


それでは今回は短い挨拶ですがここまででご勘弁くださいませ。

次回またよろしくお願い致します。

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