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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
42/93

グランデュシュテルン潜入

ナハトイデアール大陸南部に巨大な多種族共有の街が出来て、ようやく軌道に乗り始めた中、リオンはエルフの郷にてエルフの長セルディアとの約束を果たそうと、シーニャとエフェメル、インセクティアのエイル、そして強い想いを持ったポォムの5人で、強大なグランデュシュテルン王朝へと向かったのだった。

【第8章】

 光天歴982年 ブルームの月の26日目。新しい年を迎え未だに賑わう庶民たち。暖かな陽気にヒトは歌い、高らかに笑う。既に20日以上も過ぎていようと、その賑わいは衰える様子がなかった。

 ここは惑星エアリス南半球に位置するナハトイデアール大陸。その東側一帯を支配するのはグランデュシュテルン王朝であり、ヒトが支配する領地である。

 その西側で多種族からの驚異を阻むのは、王朝の主グランデュシュテルン家に連なる一家、ラビューズ家の治める『ランヴァステリ―城』と長大な壁の使命である。長さ250㎞にも及ぶ壁は高さ80mもあり、巨人たちとて突破することは難しい。

はるか上空を飛ぶ鳥たちであっても、その1羽ごとを魔法で察知され、悪意ある場合は結界によって阻まれる。完全なる防御を備えているのだ。

 そんな壁を通る方法としては、城下町へ通じる門を抜けるしかない。高さ12mの巨大な門は進軍する時以外は閉じられており、その脇にある5mほどの高さ門が通行口として開けられている。もちろんそこには門を守る兵たちが駐屯しており、通るための審査が行われている。

 この審査にはヒト以外の者だけが通ることはまずない。それはこのグランデュシュテルンというヒトの国が他の種族の者たちを見下し、または敵と見做しているからだ。故に他の種族で門を通る場合はヒトに仕えた者かその身を売買される者だけである。

 その門にさほど長い列ではないが、獣人を従えた商人や、周辺でハンターとして野生動物や植物を採取してきた者が並ぶ。そんな彼らを調べていくのは、ラビューズ軍の兵士たちだ。

「よし、次。」

 門の扉を抜けた場所で、採取に出かけていたハンターを確認し終えた審査番兵が叫ぶ。その声に倣って扉で長槍を持った兵士が停車させていた馬車に進むよう命じた。

「進んでよしっ!」

 そう言われて一台の馬車がゆっくりと動き出した。栗色のしっかりとした体格の馬に牽かれ、帆の張られた荷馬車が動く。そのまま前進した馬は、再び兵士の槍で進行を防がれると、歩を止めて馬車は停止した。

 その馬の綱を扱っているのはまだ幼い少年だ。その横にふんわりとした長い紺色の髪をした女性が座っており、その帽子を見て審査番兵『ボニカル』はホゥと溜息を洩らした。

 やがてその女性が馬車から降りると、ボニカルの前まで来て一礼した。

「その帽子、医者か?」

 ボニカルの問いかけに女性は肯いた。

「はい。医療学院にて学び医療に携わっております。」

 白い衣装を身に纏ったその女性はまだ若かった。しかしその返答に医師としてのプライドを感じさせていた。

「身分を証明できるものはあるか?」

「はい。」

 そう言って脇の小さな衣装鞄から羊皮紙を取り出す。それを丸めたままボニカルに渡す。

「拝見する。」

 ボニカルは羊皮紙を広げてそこに書き込まれた文字を読んだ。

(ヒスリナ…どこかで聞いた覚えがあるな…)

 そう思いつつ一通りの文を読む。

「シーニャ・E・ヒスリナと申すか。その医療学院の帽子は確かに医療学院卒業の証。念のために聞くが、それは確かにそなたのものか?」

 問われてシーニャは一瞬ハッとしたが、帽子を外すとそれをボニカルへ差し出した。

「ご確認頂くと分かると思いますが、その帽子は私のために作られた帽子ではありません。」

 その言葉に周囲の兵士が訝しむ。だがシーニャの言葉は何の動揺もなく続いた。

「訳あって私は急いで学院を旅立ちました。その際、先生が私にその帽子を自分のものとして授けてくださいました。」

 そう言われて帽子に取り付けられたメダルを確認する。するとボニカルの目が大きく開き、驚きのままシーニャの顔を見た。

「なっ、ま、真か?…もしやそなた、ネビュル氏ゆかりの者か?」

 メダルに刻まれた文字。それは衣装学院学長の証であった。つまりそれは世界中の医者の頂点であるヒュナンに認められたという事である。そしてヒュナンの名を思い出したことで、ヒスリナという名前が何を意味するかも思い出す。

「はい、ネビュルは私の義母です。義母と先生にはたくさん教えて頂きました。そしてその帽子を私に下さいました。」

 その自信に溢れた顔。ここまで堂々と世界的に有名な医師二人の名を語ることに嘘ではないと判断し、これ以上は医療学院との関係を悪くさせると考えて、質問を変えた。

「では次に、今回ここを通る目的について申せ。」

「はい。私は学院で学び、さらに研鑽を重ねるための旅をしています。そしてこの大陸の南で薬草類を研究しながら北へと向かっているのです。」

 その説明には何も疑いはなかった。そして馬車に乗る少年に目を向ける。

「なるほど。では同行者について聞こう。」

「はい。こちらは私の弟のリオン。そして馬車の中にはライデンにて雇った護衛のエイルさん、薬草について同行して貰っているノスティーヌさん、それと私の患者であるポォム君がいます。」

 それを聞いて馬車の後部から兵士が中を覗き込んだ。すると、

「隊長、ダークエルフです!」

 エフェメルを見て叫ばれると、突然周りはざわつきだした。直ちに兵士たちは武器を構えて馬車を包囲する。

「何事ですか?」

 シーニャは慌てた素振りで周囲を見回しながら問いかける。

「シーニャ殿。この国へヒト以外の者の出入りは許可しておらん。故にダークエルフを中へと通す訳にはいかぬ。馬車の中の者は速やかにこの場へ出ろ。」

 厳しい口調で命令するボニカル。シーニャは後方のリオンに目をやると頷いて合図した。それを見てリオンは後部に「降りよう」と声をかける。

 兵士たちに囲まれる中エイルが先に降り、続いてエフェメルがポォムを抱いたまま降りて来た。一応エフェメルは旅用のマントを羽織っている。だがダークエルフの顔立ちは美しく妖艶で、一部の者たちから「ホゥ」というつぶやきが漏れていた。

「フム、確かにダークエルフだな。…抱いておるのは赤子か?」

 ポォムの体の小ささから問われるが、シーニャは毅然とした態度で応じる。

「いいえ。ただ病気によって体の成長が遅れていると思われます。だからこそ私が受け持っているのです。」

「なるほど、言われてみると顔色も悪いな…。」

 コロプクルと言う種族は雪の小人だけに肌が白い。おかげでボニカルはシーニャの言葉に納得を見せた。

「その言い分は分かった。しかしダークエルフは承知できぬ。」

 厳しい口調で言い放つと、エフェメルへ視線を向けた。

「貴様、何を企んでいる?白状せよ!」

 それに準じて兵士たちの槍先がエフェメルへ向けられた。それに怯えた素振りを見せるエフェメルとポォム。エイルはそれを庇うように一歩前へ出る。

「護衛の女よ、下手に庇い立てせぬように。貴様も同じく罰する対象となるぞ。」

 見た目はヒトそのもののエイルだけに、その態度を快く思わない兵士たち。するとシーニャが大きな声を発した。

「おやめ下さい。その方もまた私の患者ですよ。」

 そう言われて皆の目がシーニャに向けられる。

「ノスティーヌさんは旅の途中でゴブリンたちに襲われていた所を助けました。幸いにもケガは軽く済みましたが、助けた恩返しに私の研究の手伝いをしてくれることになったのです。ここまで共に過ごしてきた以上、このままイデアメルまで一緒に来て貰う約束もしています。彼女を疑う事は止めて下さい。」

 毅然とした態度だった。だが、ボニカルとてそこは引かない。

「ここは審査する場所。疑いを持つのは当り前であろう。そしてこの国は他種族の者を通さぬようにしているのだ。ならばそれに準ずるべきではないか?」

 そう問うように言われてシーニャは少し考える。

「それは絶対ですか?」

「そうだ。」

「ならば先程通られた方々の中に、獣人の方々をお見受けしました。他種族と言うのであれば、彼らはどうなのですか?」

 丁度二組前にここを通って行った馬車には、獣人族の者が大きな荷物を持って同行して行った。それを指摘したのだ。

「あぁ、あれはあの商人に買われた身だ。故にここを通る許可を持っている。」

「ではノスティーヌさんも私が雇ったらいいのですね?」

「それとこれとは別の話である。」

「どう違うと言うのですか?雇えばその身を買うと言う意味ではないのですか。」

 食い下がるシーニャ。これがシーニャでなければボニカルは簡単に「奴隷」と言う言葉を使っただろう。しかし医療学院の者や一部の『教会』に仕える『信者』たちは、この奴隷という言葉に嫌悪感をみせる。それもそうだろう。医者は分け隔てなく救済することを誓い、教会においては平等を諭している。どちらも世界的に活動しているため、いくらグランデュシュテルン王朝と言えども軽視する訳にはいかないのだ。

「あの者たちはその身を買われ国内での永住権を得ている。しかしその方たちは取得していない。これは理解できるであろう?」

 ボニカルはこれまで何度もこうしたやり取りをしているだけに、経験を踏まえて相手の言葉を遮ろうとした。

「確かに住むつもりはありません。ですが北側に行くには、ここを通るしか手は無いのではないですか?」

 しかしシーニャもここは引き下がる気など無い。だから一方的に突っ張らずに尋ねる方向を変えることにした。

「もちろん。この壁はこの大陸の南北を隔てている以上、ここしか通る方法は無い。」

「ではどうやったら通れるのでしょうか?」

「あなた達だけならば問題ないと言う事だ。」

「ではノスティーヌさんはどうやったら北へ向かえるのでしょうか?」

「ここ以外を通る事だな。」

「でも手段は他にないと仰いましたよね?」

「…。」

「話は戻しますが、雇うことはその身を買われる事と見なされないと仰られました。つまり雇う以外にその身を買うと言う事は隷属させるという意味でしょうか?」

シーニャの質問攻めにボニカルは言葉を詰まらせるしかない。そしてシーニャはトドメの言葉を発した。

「これを先生やお義母様がお聴きになったらどうなさるでしょうか…。」

 ボニカルは苦虫を噛み潰したかのような表情を露わにした。

 先にも触れたように国としては多種族の者を通さない事にしている。ボルニカが永住権と言う言葉を使ったが、本当は奴隷やそうなる者であれば問題なく通しているのだ。しかし「他種族は奴隷のみ許可する」と示しては世界中の医療機関や一部教会から非難を受ける。そのため文言には「雇われた他種族は通行を許可する」とされており、事実は暗黙の了解となっているのだ。

 だがここまでの会話で他種族を隷属させる事を伺わせた以上、それに対して避難される事は目に見えている。そんな事を医療機関のトップに知られたとなったら、大変な事になってしまう。

 そんな何も言えなくなったボニカルにシーニャは続ける。

「私たちはここを通らせて頂ければ良いだけですし、何も悪い事は致しませんので通して頂けるようお願いします。」

 丁寧にお辞儀して願い出る。するとボニカルは深く止め息を吐いてから兵士を引かせた。

「良いだろう。そなたを信用してここを許可しよう。だがくれぐれも問題など起こさぬよう心掛けよ。」

「はい、ありがとうございます。」

 こうして馬車に乗り込んだシーニャたちは、無事に門を通ることが出来たのだった。


「シーニャねぇちゃんって、偉いヒトだったんだね。」

 ポォムがシーニャを見ながら言った。既に門を通り抜けて街には寄らずに北へと進む馬車。こちらは街道が整っており、広い道をヒトや馬車が行き交う。そこを目立たぬよう、北へと周囲の流れに合わせて進んでいた。

「私は全然だよ。先生やお義母様が偉いだけ。」

 荷馬車の帆の中で向かい合って話している。少し困った様子で答えたシーニャにポォムは容赦なく賞賛を向ける。

「でも、シーニャねぇちゃんも偉いから通してくれたんだよね。すごいや!」

 さっきのやり取りを見てからポォムの尊敬のまなざしはずっとシーニャに向けられていた。同じく、彼の隣に坐するエイルも感心した様子だった。

「うん、先程の堂々とした対応は立派でした。」

「も~、やめて下さい。」

 照れて顔を赤らめるシーニャ。そんな彼女を可愛く感じた隣に座るエフェメルが、その肩を抱き寄せて言った。

「シーニャちゃん照れて可愛いですね~。ともあれぇ無事に門を抜けました~。」

 そんなご機嫌なダークエルフにシーニャが問いかけた。

「そう言えばエフィーさん、こっちにはギルドは無いんですか?私てっきりエフィーさんは普通に通れると思ってました。」

 するとエフェメルは首を振って残念そうに語る。

「この国にもギルドはありますよ~。ですが隠密ギルドは建物がありませんね~。」

「どうしてですか?」

「それじゃちょっとお勉強ですね~。

 そもそもギルドとはぁ働くヒトたちの組合です~。だからそこに働くヒト達が集まってできるモノなんですね~。なのでぇこの王朝も国であるためにぃギルドというモノは存在していますしぃ、それらは世界のギルドと連絡を取ったりもしています~。

 ですがぁ、地域によっては必要のないギルドだってある訳です~。

 シーニャちゃん、3大ギルドは分かりますよねぇ?」

「はい、戦士・魔法使い・商工の3つですね。」

「はい~、よくできましたぁ。それら3つはぁどこにも需要があるからです~。戦士はぁこの世界の亜人や魔物からぁヒトを守るためにあります~。魔法使いはぁ魔法を扱う以上はぁ絶対に入らなければならないとされていますね~。私もぉ魔法を使うから登録だけはしてるのですよ~。

 そしてぇ商工はもちろん世界中と貿易する以上はぁ欠かせぬギルドですね~。それ以外も地域に必要であればぁ必然的にギルドは生まれる訳です~。」

 そこまで聞いてエイルが口を挟んだ。

「と言う事は、建物がないと言うとギルドは存在していないと言う事かしら?」

 それに頷くエフェメル。

「はい~、そのと~りなんですよ~。隠密ギルドはぁこの国内には存在していないのです~。隠密ギルドと言えば~その国の暗部に精通しぃ、調査などを依頼されるのが主な仕事ですね~。

 ですけどぉ、この国はそう言う機関が存在しているためにぃ、ギルドは必要とされていないのです~。」

「じゃ、この国の情報などはどうやって調べてるんですか?」

 不思議そうにシーニャが尋ねると、待ってましたとばかりにエフェメルが口元を緩めた。

「ギルド自身は無くてもぉ、ヒトは居る事が出来るじゃないですか~。だからギルドの者をぉ、それぞれ潜ませている訳ですよ~。ごく一般の住民のようにです~。」

 それを聞いて納得する3名。でもポォムが気付いた事を尋ねる。

「それじゃ、そのヒト達とはどうやって連絡取るの?」

「そこは手紙ですよ~。貿易をしていますからぁ、こっちに住むギルドの者がぁ手紙を書いて出すんですよ~。他の国にいるギルド員宛にぃ。そうすればぁギルドだとばれないでしょ~。」

 納得する一方、シーニャが問題点に気付いた。

「そう言う事ですか。でもその為に情報が遅くなったりするわけですね。だからこれから向かう場所の情報がなかったと言う事ですか。」

「うぅ~、シーニャちゃん手厳しいですね~。でもそのと~りでぇ、この国の情報はぁどうしても古いものになっちゃうわけなのですよ~。この国の情報を扱う機関はぁそれなりに手練れでぇ、ギルドの者たちもぉ正体を知られないよ~に毎日注意を払ってますからね~。」

 するとここに来て操縦席のリオンが言葉を寄越した。

「それでか~。どうやらその調査するヒトが後からついて来てるよ。」

 突然の言葉に荷馬車内の4人が後ろの帆の隙間を見た。だけど行き交うヒト達の中、そんな怪しい様子のヒトは見当たらない。

 それでも流石は隠密ギルドの副長。エフェメルは一人馬に乗って離れた位置から後を付けて来る旅人に目をつけた。

「リオン君、いつから気付きましたか?」

「門を出て少ししてからだよ。街中から見かけてたけど、この街道に出てからは距離を変えずについて来てるもん。逆に怪しく思うよ。」

「正解ですね~。あれはこの国の『暗部』と呼ばれる我々と同じ職業の者ですよ~。」

 それにエイルが近くに置いている弓矢を掴もうとしたが、エフェメルがそれを止めた。

「エイルさん、止めておきましょ~。こんなヒトのいる中で攻撃したらぁ相手の思うつぼですよ~。このままどこまで付いてくるかぁ見てみましょ~。

 みんなもこのまま気付かないよういつも通りに居ましょ~。上手くいけば、このまま離れてしまうかもですからね~。」

 広がる街道に沿って、馬車は追手を付けたまま進むのだった。


 街を離れて3日目。ようやく暗部の者の姿は見えなくなった。それまで、途中で森林があれば薬草を見に入ったり、途中で怪我して困っているヒトがいれば診てあげるなどいかにも旅をしているように振る舞いながら進んだ結果である。こうしてようやく追手の気配が無くなった事で、当初の予定通りにエルフの子を探す事にした。

「少し西に来ていますがぁ、セルディア様に付けて貰った印はぁこのまま北に向かうと辿り着く筈ですね~。」

 地図を確認しながらエフェメルが言う。主な街道が東に向かっているが、リオン達は目的地へ向かうために脇道を選んだのだった。

「何だか寂しい感じのとこだね。」

 操縦席の後ろまで来たポォムがリオンの背中越しに景色を見ている。それまではヒトの往来があって賑やかな感じもあったが、今はヒトの気配は感じられない。また景観も緑が減り、荒れた大地が目立ち始める。

「あっちは山があるね。」

 リオンが見つめる先は岩山が見える。そこはもう緑は乏しく、生物の気配も感じられない場所だ。

「慣れぬ場所だから用心して行くしかないね。」

 次第に木は減って視界は広がっていく。草が生えず剥げてしまったような場所が目立ち、木もその肌が渇いて葉がついていない枝がある。土は黒く、エフェメルは顔をしかめてその様子を見ていた。

「リオン君、ちょっと止まってくれますか?」

 エフェメルの声に馬車が停まる。いつもと違って間延びしない事に、ダークエルフである彼女の心境が伺えた。

 停まってから降車したエフェメルは黒くなった地面に手を添える。

「精霊が弱ってます。どうやら大地の霊力を奪っているようですね。」

「大地の霊力?」

 聞き慣れない言葉に尋ねるシーニャ。しかしいつもは直ぐに教えてくれるエフェメルから答えは来なかった。ただ、眉をしかめたまま地面に触れている。

 どうやら精霊と会話しているようなので、リオンが代わりに説明した。

「この世界の全てに生命力はあって、植物などの生命力の源になるのが霊力なんだよ。精霊はその霊力で活動してるんだけど、霊力が無くなると精霊は居なくなっちゃうわけなんだ。」

 その説明に3人が頷き納得を示した。

「リオン、よく知ってるね。」

「そりゃ、お師匠が教えてくれたんだもん。」

「あぁ、そう言えばそうだったね。」

 姉弟が会話をしている間にエフェメルは手を離して北へ向いた。

「どうやらエルフの子と関係がありそうですねぇ。」

 そう言って固い表情のままエフェメルが話し始めた。

「この先にヒトの町があるらしいのですが、そこで多くの獣人たちが鉄鉱を掘っているらしいのです。その採掘があまりに乱暴で、枯渇したら新しい穴を掘って行く為に、次第にこの周辺の大地が痩せて、遂には霊力の供給が途絶える場所まで出来ているらしいのです。

 …そして最近はその霊力さえも奪おうとしているようで、そこにエルフの子が関わっていると精霊が言ってますね。」

「えっ!それじゃエルフの子が悪い事をしているの?」

 ポォムが驚きのまま聞く。それにエフェメルは首を振って答える。

「そこは分かりません。どういう経緯で霊力を奪っているのか分かりませんが、関与していることは事実みたいです。」

「やめさせなきゃ!」

 ポォムが急いで行こうとせがむ様に言った。しかし、リオンはそれを止める。

「待ってポォム。急ぎたいのは山々だけど、それよりまずは状況確認が先だよ。」

「そんな事言ったって、早くしないと大地が死んじゃうよ。」

「ポォムっ!」

 リオンが一際大きな声で呼んだことで、ポォムはピタリと身を固めた。

「いいかいポォム。確かに急ぎたい事だけど、まずは行って何をするべきかを決めなきゃダメだ。」

「だから行ってエルフの子にやっちゃダメだって…」

「じゃエルフの子がいる所がすぐわかるの?」

 話の途中を遮るように言葉をぶつけるリオン。その内容にポォムは口を閉ざす。

「行ってすぐに会えるわけじゃないし、何よりここは僕たちの知らない場所なんだ。どんな状況下も分からない所に突っ込んで行っても、そこで兵士たちと戦うだけだよ。」

「それじゃ、その兵士を倒してしまったら…」

「そこにいる働かされてる獣人たちも巻き込むの?」

 再び発せられた言葉にポォムは言い返す事が出来ない。リオンは一先ずポォムが落ち着くのを待って言葉を続けた。

「…いいかいポォム。君をここに連れて来たのはエルフの子を助けたいと言う気持ちだろうし、僕たちの手伝いをすると言う約束で来たはずだよ。なのに勝手に動いたりしたら、連れてきた約束を破ることになるよね。」

 気持ちは今すぐに向かいたいと言うのはやはり子供だからだろう。幾ら歳をとっていても、子どもゆえに感情が先立ってしまうのは仕方ない事だ。だからこそ、その考えを基に約束させることにする。

「もう一度言うけど、ポォムが助けに行きたいと思う気持ちは分かるよ。だって僕らも同じ気持ちでここまで来たんだから。

 でもね、何も考えずにただその気持ちだけで行くことは失敗するだけなんだよ。

 何かをしようとしたら、その為にどうやればいいか調べて、それから色んな準備をするんだ。それらがちゃんと終わってからじゃないと、助けたくても助けられないからね。」

 そう言い聞かせる言葉に、ポォムは真剣に聞いた。

 尊敬するリオンが強いのは知っている。だからリオンが動いたら何でもできると思っている。だからそうなりたいと、男の子であるポォムは憧れている。そんなリオンが言っている話に、ポォムは素直に聞き入った。

「うん、わかったよにぃちゃん。助けたいのは一緒だもんね。絶対にエルフの子も、この精霊たちも助けようね。」

「ああ、もちろんだよ。」

 そう言ってリオンは笑顔を見せるとポォムの頭を撫でた。撫でられて照れくさそうに微笑むポォム。

 そんな微笑ましい様子にエイルは、

「なるほど、ただ強いだけでなくしっかり物事を捉えられているのね。」

とリオンを褒める。その横でシーニャが我が事のように嬉しそうに見ていた。


 それから再び馬車を進めながら、エフェメルが精霊から聞いた情報を基に作戦を練った。

 目的地はかなりの広さのある採掘場らしい。そこで多くの獣人たちが働かされており、兵士が絶えず巡回している。

 そして一番の目的であるエルフの子であるが、厳重な警部の中、地下でずっと閉じ込められているとの事だった。やって来てからずっとその場で過ごしており、1日2回、地脈の霊力を抽出しているとの事だった。

「地脈って何なの?」

 ポォムが尋ねて、それをシーニャが説明した。

「この世界に溢れる霊力や魔力という様々なエネルギーは、この星から与えられているの。それらのエネルギーが絶えず行き交っているのが地脈という道で、その地脈が行き交う事でその土地は生命力にあふれた自然が生まれると言われてるのよ。

 だけどその地脈からエネルギーを取られると言う事は、ご覧のとおり自然は痩せ生物の住めない場所へと変わってしまうの。」

「そうなんですよ~。そしてその霊力の量はとてつもなく大きく~、並みのヒトではそのエネルギーに触れただけで死んでしまうでしょうね~。」

 エフェメルが続けた言葉にポォムがまた慌てだした。

「そんなっ、それじゃその子死んじゃうかもしれないじゃないか!」

「まぁまぁポォム君、落ち着いて下さい。確かに危険ですがぁ、エルフは魔力に優れた種族です。だとしたら~、魔力を使って少しずつ抽出することは可能でしょ~。

 実際に毎日2回は少しの量ずつ取ってるらしいですよ~。」

 だけどポォムの焦りは決してなくなるわけではなかった。まだ会ったことも無い筈のエルフの子に何故かポォムは何とかしてあげようとしている。そう思ったら、逆に大人たちの方が不思議に感じた。

「それはそうとポォム君、どうしてそんなにエルフの子を助けてあげようとするの?」

 シーニャの問いかけにポォムはごく当たり前と言わんばかりに顔を向けて答える。

「だってかわいそうじゃないか。」

「うん、そうだよね。でもなんだかすごく親身になってる気がするんだよ。パァムちゃんはそこまでじゃないように思うからかな?」

「ん~、パァムだって心配はしてるの同じだよ。だけどね、パァムは色んなことを考える奴なんだよ。だから本当は助けに行きたいとは思ってても他にするべきことを考えちゃうんだよ。だからぼくは代わりに行動するんだ。」

「他にすべきこと?」

「うん、僕にも分らないけど、パァムはいなきゃいけないからって言ってた。」

「ふ~ん、双子だからわかり合えるモノなのかもね。」

 実際の所は子どもだけに分からないが、そんな子どもだからこそ、助けたい気持ちが強いのだと察した。

「とにかくぅ、着いたらまずは警備兵の確認をしてぇ、リオン君がそれぞれ倒しちゃってください~。そして騒動を起こしてもらってぇ、その間に私とぉエイルさんはぁ獣人たちを開放していきましょ~。」

「開放とはどうするのかしら?」

 エイルが首を捻って尋ねた。

「獣人の足には枷がつけられてます~。それを壊せばいいのですがぁ、そう簡単に壊せられるなら、とっくに獣人も皆さんは逃げ出してますよね~。

 なのでこれを使ってください~。」

 そういうと、エフェメルは手のひらを上に向けた。するとそこに煙が出たかと思うと、とても小さな岩でできた人形が姿を現した。

「土の精霊です~。彼らにぃ鍵について教えましたのでぇ、枷の鍵を開けて貰いましょ~。枷に近付ければぁそのまま開錠してくれますよ~。」

 そう言ってエイルに土の精霊を渡した。その姿を不思議そうに見ていたエイルだったが、頭を横に大きく揺らせながら立っている姿に微笑みを見せた。

「ウフフ、可愛いわね、この子。」

 毅然とした女性の雰囲気を持つエイルであるが、実は可愛いもの好きであった。

「よろしくお願いしますねぇ。多分~数人が自由になればぁ、一気に大暴動になって動きやすくなると思うんですよ~。そうなったらエルフの子を探しに行きますのでぇ、そこからは私が潜入しますよ~。その間ぁ、リオン君とエイルさんはぁ、獣人開放とぉ地上の占拠をお願いしますね~。

 シーニャちゃんはケガ人の手当てをお願いしますね~。そしてポォムくんはぁ、シーニャちゃんを守ってあげてくださいね~。」

「僕も一緒に行きたいよ!」

 咄嗟にポォムも名乗り出るが、それは許されなかった。

「いいえ~、それはダメですよ~。ポォム君がぁ戦えるのは知っています~。だからこそぉ、シーニャちゃんを守ってもらいたいんですよ~。エイルさんやリオン君はぁ陽動に回って貰ってますからぁシーニャちゃんを守れるのはポォム君だけなんですよぉ~。」

 エフェメルに続いてシーニャも言う。

「私からもお願いだよ、ポォム君。ポォム君がいるから私もみんなを診てあげられるの。だからポォム君が出来ることをがんばって。」

 二人に言われても、いまいち納得し辛いのが子どもである。しかし、リオンが前を向いたまま呟く。

「僕の代わりに誰かおねぇちゃん守ってくれないと困るんだけどなー。」

 その言葉にポォムは奮起し、大きく頷いた。

「うん!僕がシーニャねぇちゃんを守ってあげるよ。」

 そんな様子に、一同は思わず微笑んだのだった。

「はい、それじゃお願いしますね~。ではもう間もなく到着するようですから最後におさらいです~。

 まずは敵の警備兵を引き付けにリオン君が戦います。その間に隙を見て獣人たちの開放をエイルさんと私が行います。

 そして騒動が大きくなったらエルフの子を救いに行きますので、そこまではシーニャちゃんはケガ人の手当てなどを、ポォム君は警護をお願いします。リオン君は可能だったら街を占拠しちゃってください。

 それからエルフの子を連れだしたら獣人たちと一斉に逃げましょう。壁などの問題もありますが、場合によったら強行突破で全員で南まで逃げましょう。

 以上、何かあったらぁその都度臨機応変でいきましょ~。」

 その話に皆が頷くと、馬車はようやく目的である採掘の町「ベデラード」に着いたのだった。

お読み頂きありがとうございます。

重ねて、なかなか続きが出来ず遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。


ようやく最終である8章に入りました。

ちょうど元号が変わる時期で、長い休みがございましたが、設定資料や、地図を作るのに時間がかかってこうしてようやく43話をお送りいたしました。


まだまだ色々設定を書き足さなきゃとは思いますが、まずはこの物語の第1幕を終わらせることを主にしたいと思っております。

それから第2幕も少し書き始めました。

自分の思い描く世界が上手く伝わると嬉しいのですが、そこはまた努力しかないかと思っております。、

どうぞあと少しですが、お付き合いいただけたら幸いです。

次回もまたよろしくお願い致します。

では、また次回に。

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