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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
39/93

リュナエクラムでの戦闘(前編)

旅の最終目的地へ向かうリオン達。

もうすぐ終わるという時に集落から逃げてきた子供たちと遭遇し、集落の現状を聞く。

北からはヒトの軍勢が、南からは万を超す数の亜人たちが攻め寄せ、集落はどうしようのない状態。

それを聞いて姉シーニャは、倒すべき亜人と共謀して獣人たちを苦しめるヒトの軍団を許してはいけないとリオンに教え、悲しむ獣人たちを助けるよう願い出た。

それを聞いてリオンは竜の力を発動させる!

 挟まれるように侵攻を受けたリュナエクラム。生け捕りと殺戮。二方向からの容赦ない侵略によって最早風前の灯火であった。

 ヒトの軍勢は3人で一人を相手に攻撃を繰り返し、しかもその刃には痺れ薬を塗っているため、少しでも掠れば数分も持たずに倒れてしまう。

 そうして倒れた獣人は縛り上げられ、連れ去られてしまう。その繰り返しによって戦士が減っていくと、当然後方の守りにも影響が出てしまう。亜人相手に戦う住民たちであったが、先の奇襲による勢いを盛り返すことは出来ず、次第に倒れていった。


 集落の中央部に政を執り行う大きめの建物があり、数刻前に子どもたちを逃がす一団とダークエルフへ救援を求める一団を逃がしたのだが、救援組がヒトに捕まったと報告が来た所だった。

「クソっヒト共め!」

 怒りに震える亀の獣人『タトール』が悪態を吐いた。隣に座る鳥人『バーデュン』が歯噛みする。

「我らが飛んでいければ問題ないというのに…。」

 多種族の中には鳥のように羽をもつ者もいる。しかし、今回飛び立った時点で矢や魔法に狙われてしまい、既に甚大な被害が出ている。

 集落の政を行ってきた両者だが、流石に今回のような状況は想定外であり、良い案が浮かばずにいた。

 そんな両者の前で窓から西の方を見つめる女性がいる。黒い長髪にスラリとした身体。その頭部には狐のような耳があり、太い一本の尾がある。この女性こそリュナエクラムの長『マドカ』であった。彼女の見つめる先は子どもたちの逃げた森。

「…あの子たちはうまく逃げられたであろうか…。」

 心配は尽きぬが、集落で最も頼れるダンガとエイルを付けたのだ。そしてセーラがいれば子どもたちも寂しさが紛れるだろうと願った。

 そんな呟きをタトールの『ゲンドー』が答える。

「ヒト共は森にはおらぬ様子。そしてダンガたちがおるのです。きっと森の奥へ逃げられたでしょう。」

「そうであれば良いが…。」

 マドカは感じていた。西の向こうで強力な力を持った者が現れた事を。それがこちらに向かって動いている。それがセーラの言っていたエルフの者であれば良いが、今となっては確認のしようもない。集落が危機に瀕した中で、長が逃げる事など出来るわけがない。だからこそ旧くからの戦友に子どもたちを託した。

 そう己に言い聞かせマドカは振り向いた。

「ここまで来たら覆すのは困難。ならば我らの誇りをかけて一人でも多くの敵を道連れに討って出ましょう。」

 その言葉は毅然としており、恐ろしいまでの殺気を伴っていた。言葉通りに討ち死に覚悟で獣人たちの恐怖をヒトや亜人に刻み込む。それこそが我らの生き様だと思いを込めると、その場にいた腹心たちが雄叫びをあげた。

「出陣せよ!」

 マドカの号令で一斉に皆が出ていく。その中でゲンドーとバーデュン『ハクカ』はマドカに最後の挨拶をした。

「長よ。長き間共に楽しき日々を過ごせたこと、感謝申しますぞ。」

「私も良き日々を過ごさせてもらえた。長、ご武運を!」

「うん、二人共今まで支えてくれて感謝してます。あとは思う存分に暴れ、またフレリア様の下で会いましょう。」

 その言葉に二人は一礼を返し出ていった。

 因みにフレリアとは彼らが進行する『戦いと死の女神』だ。戦いで死すればフレリアの下へ向かい、神の先兵になると教えられている。

「さて、私も参るとしよう・・・。」

 マドカの身から溢れんばかりの力が湧きあがり、その黒髪が金色に変わっていく。同時にしっぽが金色に輝き、9本の尾が現れた。これこそマドカの真の姿、幻獣系『キュウビ』である。その身から力が溢れだし、顔つきも温和な表情から好戦的な顔になる。

(あの子にはこの顔は見せずに済んだ…)

 少し寂しげに逃げた子どもたちの中にいる愛娘を思いながら、マドカは南へと向かうのだった。


 迫るゴブリンたちを相手に戦う住民たち。その爪や体術を使って撃退していく。すでに大半の仲間が倒れ、住民たちは中央にある広間へと向かいながら戦い続ける。

 しかし如何に強くとも彼らもヒトであり、疲れは生じてしまう。休む間もなく襲い掛かるゴブリンたちに倒れる者は少なくなかった。

「喰い止めろ!これ以上行かせてはならぬっ。」

「次から次に…、手が足りん!」

「くそぉ、助けは来ないのか。」

 次々に迫りくる亜人たちの波に獣人たちは傷つき、思い思いに叫びながら倒れていく。数匹のゴブリン程度ならば戦士でなくても獣人は倒す事が出来る。だが次々に迫るゴブリンに体力は消耗し、奴らの持つ武器に塗られた毒が肉弾戦を得意とする獣人たちの体内に蓄積されていく。少しばかりの毒ならば効きはしないが、何度も掠ったりして受け続けると効能は高まって十分な致命傷となる。

 ホビット族はゴブリンの毒への耐性はあるが、小柄で肉弾戦には向いていない。また鳥人も地上においては動きが取れず、今となっては飛び立つこともままならない状態だ。暴虐の波を前にして逃げ惑うしかできなかった。

 そんな中、集落の奥から3人の戦士がやってくる。常に長の警護を担当している近衛の者たちだ。走って来たかと思うと、そのままゴブリンの中に跳び掛かり、瞬く間に周囲を爪で切り刻んでしまった黒豹の獣人。それに遅れてゴブリンたちと正面から当たり、力任せに弾き飛ばす熊の獣人。更に遅れはしたが、身の丈3mを超す象の獣人がその長い鼻を振り回しながらゴブリンたちに突進していく。

 僅か3名だが集落において最強クラスの者がやって来たことで、ゴブリンたちの勢いは止まった。

 そして、まだ無事な住居の屋根にふわりと舞い降りた九の尾を持つ金色の女性。その姿を見て住民たちが騒ぎ出す。

「長!」

「マドカ様だわ。」

 その歓声にマドカは手にした扇子を頭上に掲げて応える。

「皆の者、突然な不埒者どもの襲撃によくぞ耐えた。これより我も迎え撃つ。共に不埒者どもを撃ち滅ぼそうぞ。」

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!」

 静かだが良く通るマドカの言葉に、住民たちが一斉に雄叫びをあげた。その声を受けながらマドカの掲げた扇子がゴブリンたちに振り落とされた。

「かかれぇ!」

 掛け声と同時にマドカの振り下ろした腕から風が巻き起こる。それは真空の刃となり一直線にゴブリンたちの身体を切り裂いて行った。

 その声と攻撃に住民たちが勢い付き、攻撃に転じた。それまで不安を抱えていた者たちが戦意を取り戻して立ち向かっていく。そう、一人一人が戦士と化した様だ。

 これは長であるマドカの持つ戦術技『戦神の鼓舞』の影響である。この術技は仲間の戦闘意欲を高め、不安などのネガティブな感情を最小まで抑え込める力を持つ。それによって術技を受けた者は強靭な精神力を持ち、更には身体能力自体も向上している。言わば自分に従う者たちを強靭な戦士団としてしまう恐ろしい術技なのである。

 その効果によってマドカを慕う獣人はおろか、ホビット族やバーデュン族たちも武器を持ってゴブリンたちを押し返し始めた。

 既に優勢だったゴブリンたちは、突如として盛り返し始めた集落の者たちに驚き、やがて倒されることとなる。元々の身体能力からして大きく違う所に鼓舞の術技が加わったのだから、ゴブリンでは到底太刀打ちできるものではなかった。

 やがてゴブリンたちの代わりにホブゴブリン達が前に出てくる。ゴブリンと違って戦闘に特化し、体格もそれなりに大きい。そしてラゼットゴブリンもそこに加わり、戦いは苛烈を極める。

「デカいのはわしがやる。ここは任せるぞ!」

 ゾウの獣人がラゼットゴブリンへと向かって行った。それを見送って熊の獣人が住人たちに加わりながらホブゴブリン達に立ち向かう。一方で黒豹の獣人は単独で逃げるゴブリンを倒していく。

「アグラッ、深入りするでない!左舷を固めよ。」

 マドカが叫び黒豹の獣人『アグラ』が進行を止めた。そして周囲を見渡すと集落の左手側、つまり東側よりゴブリンたちが攻め寄せていくのを確認した。

「了解です、長よ。」

 そう叫ぶと周囲を爪で引き裂きながら東のゴブリンたちへと駆けて行く。

「ボルよ、お主はそのまま正面を抑えよ。エウゴス、体躯の差はないが挟まれぬようにせよ。そこで抑えておくだけで構わぬぞ。」

 あとの二人にも声を掛け、マドカは戦況を見つめる。北側のヒトはゲンドーとハクカが対応している。ならばこちらを抑え込むのが自分の役割だ。

 そんな中で西側からゴブリンたちが回り込んでくる。それを見てマドカは手の扇子を大きく振り払う。それによって風が起こると、鋭い真空の刃となってゴブリンたちを切り裂いていく。

「我が領土を侵す愚か者どもよ。その命を持って償うが良いっ!」

 魔力と違う『妖力』を操るマドカ。獣人は魔力を帯びると『魔獣』と化してしまう。魔力の代わりに獣人はその体内に『妖力』を宿しており、魔法を使わぬ代わりに『妖術』を操るのである。長であるマドカは妖力の保有量が大きく、その溢れる妖力を駆使して押し寄せる亜人たちを血祭りにして行った。


 それから時は経ち、勢いのついた住民たちによって亜人たちの数は減っていった。しかし相手は自分たちの倍もの数を有した軍勢。いくら鼓舞を受けていようと住民たちの疲労はどうしようもなかった。

 戦い慣れていない者が長い時間戦うことなど不可能であり、次第に疲労は溜まり戦況は傾き始める。また時間を得ることで亜人たちも戦い方を変えていた。

「亜人共めっ、まだ沸いて来よるか。」

 マドカが愚痴る。半数近くのゴブリンは倒しているのだが、ホブゴブリン達は弓矢を使って攻撃し始めたため、マドカは『矢避けの風』を使って住民たちへの矢も防ぐ。しかしその術を使う間は真空の刃を繰り出すことができないために、敵の進行を許すことになってしまう。

「おのれ、敵ながら上手い攻め方じゃ。」

 そう呟いた時、東側で叫び声が上がった。慌てて視線を向けると、そこではホブゴブリンによって背後から槍で腹部を貫かれたアグラの姿があった。

「アグラッ!!」

 そこから更に幾本もの槍に貫かれ、アグラは血を吐きながら絶命する。そんなアグラの体を突き刺したままの槍でホブゴブリン達は頭上へと掲げる。

 掲げられたアグラの遺体。敵将を討ち取った見せしめと思う住民たち。しかしゴブリンたちに殺した相手が何者だ等という感情は無い。奴らにあるのは己の欲求のみ。しかもそれは自分たち以外の者へ絶大な効果をもたらせる。

 住民たちの目の前で、掲げられたアグラの遺体に槍が突き刺さった。続いて剣が突き刺さる。死んだ者の身体を愉快そうに傷つけていくゴブリンたち。モノを傷つけ破壊する事への悦び。それこそゴブリンの欲求なのである。

「おのれぃ、よくもアグラをぉー!」

 仲間の無慈悲な姿に怒りを燃やす獣人たち。近くで目の当たりにした象の獣人『エウゴス』が憤怒し、アグラの遺体を奪い返そうと動いた。だが、それこそ亜人たちの思うつぼである。相手の怒りを嘲笑うゴブリンたち。その中で黒い鎧の亜人は隙が生じることを見逃さなかった。エウゴスの視線が逸れた瞬間、その手にあった黒い槍を力いっぱい投げつける。黒い鎧には仲間意識などないため、ラゼットゴブリンの脇を掠めながらその槍の先がエウゴスの胸に突き刺さった。

「ぐふうぅぅ・・・。」

 エウゴスがおびただしい程の吐血をする。そこにラゼットゴブリンの棍棒が振り下ろされ、大地に倒される。

「ギャギャギャー。」

 地に倒れることによってその巨体にゴブリンたちが群がる。そして立ち上がる間もなく体に無数の刃が降り注いだ。

「ぐおぉぉぉぉぉ」

 傷を負いながらも鼻や腕を使って暴れるエウゴス。それによってゴブリン数体が弾き飛ばされるが抵抗はそこまでだった。

 ふとエウゴスの顔に影が現れる。ラゼットゴブリンの足だ。そして勢いをつけて頭へと踏み落とされた…。

「エウゴスっ!」

「待ちなさいボル。」

 熊の獣人ボルが怒りに燃えて突貫しようとするが、即座にマドカがそれを制す。怒りにまかせてボルまで攻め込んでは無駄に命を落とすだけだ。それよりも可能な限り亜人たちを討つ方が大事である。

 だが戦況は一気に不利へと傾いた。戦っていた住民たちもそのほとんどが不安や恐怖を感じていた。ゴブリンたちの狂気によって強者が2人倒された。更に死した後の扱いで、自分たちもそうなるのかと知ってしまうといくら鼓舞されていても恐怖が上掛けされる。

(最早ここまでね…)

 群れるだけの脆弱な存在だと思っていた亜人たち。しかしその予想は見事に外れ、その悪行は脅威であった。

(あとは力尽きるまで倒すのみ)

 そう思い扇子を胸元に納め、虚空を掴んだ。するとそこから一振りの太刀が姿を見せる。黒をベースに金で装飾されたとても美しい刀。マドカが生まれて間もない頃から愛用しており、ここまで共に生きて来た相棒でもある。

「皆の者、これまで大儀であった。ここで潰えるは我が力の無さゆえ。されどこの身を持って奴らに我らの最後の意地を見せ付ける。命惜しくば北へ向かえ。隷属な生を好まぬならば我に続け!我らが誇り、特と見せ付けようぞっ!」

 そう叫ぶと、住人達から雄叫びが上がった。誰が見ても状況は芳しくない。死にたくなければ北でヒトに身を委ねればいい。しかしそれはもう自由ではなくなると言う事だ。だったら後はどうするべきか。残されるは今まで信じた長と共に力尽きるまで戦う事だった。

「こんな愚かな長に最後まで付き従ってくれること、礼を言う。・・・さぁ、参ろうぞ!」

 そう言ってマドカ達は亜人たちに向かって襲い掛かったのだった。


 リュナエクラム住民は100に満たないほどに減っていた。それでも果敢に戦い続ける住民たち。彼らには不安はない。悔いはあれど、それは自らの弱さが招いた結果だと潔く受け入れる。そしてそれらを率いて戦うは金色のキュウビなるマドカ。生まれながらに強大な妖力を纏い、様々な分野でヒトを導いて来た。そんな彼女の本気の戦いを目の当たりにして、戦意が高揚してならない者ばかりだ。

 中には矢を受けて倒れる者もいる。ホブゴブリンに叩きのめされる者もいる。

 だけど彼らはその命の炎を最後まで燃やして散っていく。戦士ではないが、それが獣人としての生き様だと言うように。

 もちろんバーデュンやホビット族たちもいるが、彼らだってそこで共に生きた仲間を思い、誇り高く戦い続けた。

 そして最後の時を迎えようとした。

 ホブゴブリンの更に上位者である『ゴブリンウォーリア』30匹によって包囲されるマドカ達。その向こうにはまだ1000程のゴブリンたちがいる。万を超える亜人たちがいたことを考えれば、彼らはおよそ9000もの亜人たちを倒したのだ。

 だが、もう疲労困憊で武器も折れた。なによりゴブリンウォーリアの部隊は集団で統率された軍隊そのもののように洗練されており、個人で戦うのは無理であった。そしてそれらを率い、強者であるマドカに対しても黒い鎧の上位者が立ちはだかった。普通の黒い鎧は角の無い兜をしているが、この上位者は2本の角が額から突き出している。そしてその戦闘力も角無しを軽く凌駕していた。黒く輝く鎧に盾を持つ角有りはマドカの太刀や妖術を尽く防ぎ、右手のロングソードで斬り付けて来る。防御主体で相手の隙を突くカウンタースタイルだ。一方のマドカは嵐のように剣戟や妖術で攻めるアタッカースタイルであり、こちらの攻撃を防げる時点で角有りに分がある。

(ここまでのようね・・・)

 他の亜人ならば倒す事も出来ようが、そうすれば角有りに隙を突かれてしまう。下手に手が出せない状況にマドカは腹をくくった。

 そんな時に、背後より声が上がる。

「ゲンドー様、ハクカ様討ち死にされました!」

 北側で一際大きな歓声が上がり、傷ついた一人のホビットが報告に走ってきた。それを耳にして愕然とする住民たち。マドカに至っても心の動揺が走った。

(ゲンドー、ハクカ…私も直に参る)

 おそらく敵の手に落ちることを嫌う二人は最後まで戦い抜いたのだろう。自刃はフレイヤに嫌われる行為だからこそ、その信徒が自刃することはない。

 戦友たちが逝った以上、自分も追わなければと考えたマドカ。しかしその脳裏に娘たちの笑顔が浮かび上がる。

(…母は参るが、あなたたちは元気で生きてね)

 子どもたちの笑顔を思い浮かべ、我知らず微笑む。寂しさを感じはするが、自分は長として全うすることを子どもたちに心で詫びた。

「諸君、共にフレイヤ様の下で会おう!」

 フレイヤを崇める信徒たちが戦場で使う覚悟の言葉だ。最早退路の無い状況に決死で挑み、死してフレイヤ様の下に集う事を祈る言葉。

 そう叫ぶと住民たちは涙を流しながらも力強く頷き、決死の覚悟を決める。

 そんな彼らにもう不安はなかった。口元に微笑を浮かべて目の前のゴブリンウォーリア達を睨みつけた。

 そんな視線に亜人たちは武器を握りしめる。ゴブリンウォーリアは戦いに悦びを得る亜人たちだ。一般のゴブリンたちと違って強者との戦闘は望む所であり、それに打ち勝つことを楽しむ。そうして生き残って来たからこそゴブリンウォーリアとして生きているのだから。

 一触即発。その緊張が最高に張り詰める。

「行くぞっ!」

「ウゥガァーーーー!」

 そうマドカと角有りが叫んだ時、それよりも怖ろしき声が聞こえた。

 それは声と言う生易しいものでは無き叫び。聴く者たちの心を鷲掴みにするかのような絶対者の咆哮であった。

 一瞬にして戦意は奪われ、マドカ達はおろか亜人たちもその声の聞こえた方向に目を向ける。

 方角は西。森の上空に光が在った。蒼銀の輝きを放ちながら、もの凄い速さで光はこちらへ近づく。そしてその姿を目にする。

 それは羽の生えた鎧を纏う者だった。左手にその体をすっぽり覆うほどの大きな盾を持ち、右手は巨大な刃のようなランスがある。その羽は蒼銀の光を放ち、鎧も同じ色に輝く。亜人の黒い鎧と比べて美しい姿だが、そこから発せられる存在感は圧倒的で、恐怖を感じて腰を抜かすゴブリンもいるほどだ。

 やがてその蒼銀の光は上空で制止すると周囲を見渡し、ゴブリンたちの集まる真っ只中へ勢いをつけて飛び込んでいった。


「フレアヴァーストォー!」

 リオンは大地に突撃すると、そこでフレアヴァーストを発動させた。密集したゴブリンやホブゴブリンたちがいる中で魔力が爆発が起こし、半径50mの空間にいた亜人たちが吹き飛ぶ。肉片と化した亜人たちはやがて黒い霧となって消えていく中で、リオンは突撃体勢で滑空した。ランスに貫かれるモノ、突撃をまともに受けて砕けるモノの他、翼によって切り裂かれる亜人たち。ラゼットゴブリンや黒い鎧がいても、全てが一瞬にして霧と化していく。

 1000匹にも及ぶゴブリン達が僅かな間で消え去り、その突進を食い止めようと10匹のゴブリンウォーリアが盾を前に密集陣形で激突する。だが、竜の進行がそれで止まる訳がなく、ゴブリンウォーリアたちが吹き飛んだ。

 すると続いて左右から3匹ずつが挟み込むように襲い掛かる。しかしリオンはそれを物ともせず、光の翼を羽ばたかせてそれぞれを地面へ叩きつけた。

 羽ばたきによってリオンは突撃姿勢を解除すると、すかさず残りのゴブリンウォーリアへと距離を詰める。地面に降り立ったリオンの動きもまた素早かった。

 まず目の前のゴブリンウォーリアをランスで貫くと、ランスを捻って刃を横向きにする。そして右に薙ぎ払い、隣の亜人を横一線で斬り裂いた。そこを左側から剣で斬りかかってくるが、盾でそれらを受け止めるとそのまま腕力で押し返す。間合いが空いた所で身体を捻りながらランスを素早く二突き。押し返されて怯んだゴブリンウォーリア二匹を穿った。

 そこへ遂に角有りが動きリオンに接近戦を仕掛けて来る。ゴブリンウォーリアより格段に速い動きでリオンの右背後から斬りかかってきたが、リオンもまた速度をあげてランスを振る。斬る体勢に入っていた角有りは、ランスに気付いてそれを剣で受け止めた。互いに強い攻撃を繰り出したために物凄い衝撃が生じる。

「おっ!」

「グウゥ」

 互いにそう声を漏らすと間合いを広げ向き合う。そんなリオンの背後から残るゴブリンウォーリアが攻撃を仕掛けるが、そちらに気を取られた隙を突いてマドカが2匹を斬り捨てた。

「どなたか知らぬが、こやつらは任せてほしい。」

 そう言うとボルと残る住民たちがゴブリンウォーリアに襲い掛かった。数十人しかいないが、残り8匹のゴブリンウォーリアであれば問題ないだろう。

 リオンは頷くと角有りに意識を集中させた。

「さてと、なかなか強いね。」

「グルゥゥゥ」

 リオンが興味深そうに声をかけるが、角有りは威嚇するように唸るだけだ。

「だけど、僕の攻撃を防げるかな?」

 リオンは構えをとる。それに対して角有りも盾を前に構えを見せた。リオンの構えはランスを前に突っ込んでくるはずだ。ならばその攻撃を躱し、必殺のカウンターを叩き込む。角有りはジッとリオンの動きを見つめその瞬間を待つ。

 そしてリオンが動く。1歩目を力強く踏み出す。そして2歩目3歩目…。

 空を飛んでいる時よりも速い動きで間合いが縮む。驚き躱しようがないと判断した角有りは盾で受け流す事にした。

 そして切っ先が盾に触れたのを見計らって盾に角度を持たせるが、触れた部分からランスが盾を貫く。リオンの膂力が強すぎて盾で受け流すことが出来ないのだ。そのためランスは盾を突き破るとそのまま角有りの左腕を裂き胸部へ突き刺さった。

「グオォォォォ!」

 痛みによるものか、それともやられた事への怒りなのか、角有りは絶叫する。しかしリオンは油断せずにトドメの一撃を唱える。

「フレアヴァーストッ!」

 体内で爆発が起こり、角有りは木っ端微塵に破裂した。

 それと同時に残っていたゴブリンウォーリアも一掃され、亜人の驚異は消え去ったのだった。


 亜人たちが霧と化して消えると、生き残った住民たちはガクリと崩れるように倒れた。緊張と疲労によって限界だったのだ。そして亜人たちが消えたことで安堵したのだろう。衰弱しきった様子で空を仰いでいた。

 そんな中でマドカも金色の髪が黒に戻る。九つの尻尾も1本に戻り、何とか膝をつかずに居る。それもそうだ。まだ脅威は去らず、しかも目の前に得体の知れぬ強者がいるのだから…。

 だが、まずは亜人たちを退けてくれたことから敵ではないと感じている。だからこそ自分から礼を述べた。

「そこの戦士殿。まずはお礼を言わせてほしい。私はこのリュナエクラムの長をしているマドカと申す。この度は住民たちの危機を救ってくれたこと、心より感謝申し上げる。」

 そう言って頭を下げるマドカ。それをリオンは肯いて受け入れた。

「どういたしまして。僕の名前はリオン。実は仲間と一緒にこちらへ来ていたんだけど、途中で子供たちに出会い、事情を聴いて僕だけ先に来ました。

 直に子供たちを連れて仲間が来ると思います。」

 幼い声にマドカは驚くも、まずは子どもたちが無事なことに胸に手を当てて安堵の息を吐いた。

「そうでありましたか。子どもたちが無事でよかった…。」

「うん。さてそれじゃ僕は北に向かいますね。」

「! 待たれよ。北は今ヒト共が我らの仲間を攫いに来ている。もし行くなら我らも共に参ろう。」

 するとリオンは首を振った。

「そんな状態で行っても捕まっちゃうでしょ。ここは僕に任せて休んでて下さい。その内おねえちゃんが来るはずだから、傷を治してくれますよ。」

「おねえちゃん?」

「うん。僕の大事なおねえちゃん。医者だから、さっきも牛のお姉さんと蛇の子を治してたよ。だから来ても襲わないでね。それじゃ行ってきます。」

「あ、ちょっと待って…」

 マドカが呼び止めようとする間にリオンは走って行ってしまった。すると入れ替わりで一台の馬車がやってきた。その馬車を先導するようにダンガが走っており、間もなくして住民たちは助かるのだった。


お読み頂きありがとうございます。


長らく忙しさのために間を開けてしまいすみませんでした。

少し短めですが、リュナエクラムの戦い前編をお送りしました。


今回の話は苦労しました。

今まで出していない様々なキャラを登場させそして戦いの中で散っていく辺りは、少し乱暴な展開にしてしまったと反省もしています。

一先ず後編も仕上げたうえで、落ち着いてからこの辺りは編集しなおそうと思います。


それではまた次回まで失礼します。

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