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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
37/93

姉として(シーニャの決意)

エルフの隠れ郷に迷い込んだリオン達。そこでヒトであるシーニャやダークエルフのエフェメルが疎まれ、神代の時代より生きるハイエルフ・セリディアからヒトとの確執を聞いた一行。

その原因であるヒトとエルフの間に生まれた子どもの存在を知ったリオンは、その子を救い出すことを約束した。

そして話は続く…。

「それはそうと気になった事があるんだけど。」

「なんじゃ?」

 一先ず話が終わり、リオンが思い出したように尋ねる。その質問に耳を貸す一同。

 するとリオンは平然とした顔でとんでもないことを言い出した。

「んとね、エルフとヒトじゃ子どもの宿し方って違うの?」

「そうじゃな、さっきも言うたがエルフは森の精気を分けて貰い、それに己の精気や魔力を与えて子を宿す。じゃから母体にさほど危険は無いのじゃが、ヒトは母体に子を宿す。故に母体に危険がある訳じゃ。」

 理知的に説明するセルディア。それに対して好奇心から尋ねるリオン。子どもならではの追及は続く。

「ん~、女のヒトじゃないと子どもは宿らないの?」

「そうじゃな。ヒトの子の宿し方ならば女の身体に宿すしかできぬ。もちろん、他の種族もじゃな。」

「ふ~ん、男じゃ子どもは宿らないのかぁ~。」

 そう関心を見せるリオン。その横でシーニャとサーシェスが冷や汗をかいている。いきなり女性の身体についての講義?が始まり、周囲の精霊もざわめいている。一方でエフェメルは口元を手で隠しながら、目を弓のようにして微笑んでいる。

 そして危惧していた言葉が発せられた。

「それじゃ、どうやって子供を宿すの?」

(((キタ―――――ッ!)))

 シーニャ、サーシャス、エフェメルが心ではもる。それまでエルフの長を前にしていたと言う緊張感は、別の緊張へと変わる。約1名は緊張から解放されているが…。

「何じゃ知らんのか。男が女に種を植え付けるのじゃよ。」

「え!男は種を持ってるの?」

「そうじゃよ。それを女の・・・・」

「「ストップです!」」

 セルディアが言葉を発する途中で、シーニャとサーシェスが大声で遮った。

 それによってセルディアの言葉は止まり、二人は注目を受ける。

「なんじゃ?無礼であろう。」

 言葉を遮られて不快を現すハイエルフ。彼女からすれば子を授けるという行為は崇高な行為であり、羞恥など感じることはない。だからこそ平然と語っていたのだが、二人は様々な問題を感じてしまう。

「お話を途中で遮ってしまったことは謝ります。ですが少しお待ちください。まだそれを教えるのは早すぎます。」

 サーシェスが申し出た。それを聞いて「お?」という表情を見せるセルディアはリオンに視線を向けた後、他の面々へと順に視線を動かす。

(なるほどのぅ、そういうことか)

 それぞれの表情を見て察するハイエルフ。そして面白いことを思いついた彼女は一瞬ニヤリと微笑み、悲しげな貌を作ってリオンに言ってみせた。

「そうであるか…。リオンよ、どうやらわらわからは教えてはならぬようじゃ。」

「え~。」

 せっかく聞いていたのに残念がるリオン。そこでセルディアは話の方向を変えた。

「なのでわらわからでなく、仲間から聞くと良かろう。何よりエルフと違って人の事じゃから、仲間の方が詳しく教えてくれるはずじゃろうからのぅ。」

 そう言いながら視線を二人に向けた。話しを止められた腹いせもあるが、何よりこの状況をどのように回避するかお手並み拝見である。

 そしてセルディアの視線を追ってリオンの円らな瞳が2人に向く。途端にシーニャとサーシェスはビクッと背筋を伸ばした。

(は、謀られた!)

 そう感じる間もなくリオンの口が開く。

「おねえちゃん、何で聞いたらダメなの?」

(私にキタ―――ッ!)

 戦慄するシーニャ。するとサーシェスはホッとしながら回避を試みる。

「わ、私はヒトでは無いので分かりかねますね。ただパァムとポォムの手前、二人は何でも真似をしたがりますから、そうした行為をマネしない様にさせねばなりませんので…。」

 そう視線を逸らしながら双子の方へ向く。それを見て救いを求め伸ばしかけたシーニャの手がピタッと止まる。

(サーシェスさん逃げた!)

 サーシェスの背に針で突くような冷たい視線を投げるシーニャ。だがそれどころではない。とにかくリオンを説得せねばと語りかけた。

「えっとねリオン。これは大人になってから教えられるもので、まだリオンは子どもだからお話したらダメなんだよ。」

 もっとも一般的に回避する方法を伝える。だがその言葉はリオンの機嫌を損なう。

「え~。僕もう大人だよ。ちゃんと判断できるよ。」

「たしかにそうじゃのぅ。下手な成人したヒトよりしっかりしておるのう。」

 文句を言うリオン。そこにセルディアが加担すると、シーニャが驚いた顔を向けた。

(何てこと言うんですか!)

 批難の目を向けたが、退屈していたハイエルフは面白がって挑発をする。

 それに感づいてシーニャは怒って見せるが、このままリオンの機嫌を損ねたままにする訳にいかないので、そちらに思考を巡らせる。

 するとエフェメルがリオンに向けてウインクして見せた。

「リオンくぅ~ん♡、子どもの宿し方はぁ、言葉では言い表すのは難しいんですよぉ~。」

「え、そうなの?」

 リオンの驚きの表情がエフェメルに向けられた。シーニャもまた、思いがけない援護に笑みを向ける。

(エフィーさん、ナイスです!)

 シーニャの視線に胸に手を当てて任せなさいとジェスチャーを送るエフェメル。そしてニヤッという微笑を浮かべながら次なる言葉を発した。

「そうなんですよ~。だからぁ、おねえちゃんが手取り足取りリオン君に実戦でぇ教えてあげますよぉ~。」

「却下です!」

 下心丸出しでリオンに告げるエフェメル。言い終えるや否や、シーニャは怒り露わに否定した。

「でもぉ、シーニャちゃんは教えられないでしょ~?そう言った経験ないでしょうし~。」

 いつもならそこで諦める様なセリフを告げるエフェメル。それが挑発するような言葉を発した。その事にサーシェスがじっとエフェメルの顔を見た。

 そんな態度にセルディアも気付く。そしてまたしても楽しそうな様子で会話を聞いていた。

「だからぁ私がリオン君に教えてあげますよぉ~。」

「だめです!」

「それじゃ、シーニャちゃんがリオン君に教えてあげるんですかぁ~?」

「そ、それは・・・。」

 シーニャは困り果てた。そしてなぜエフェメルがここまで意地悪するのかが分からない。エフェメルがリオンに好意を抱き、更にはリオンみたいな年下の可愛い男の子が好きだとは知っている。

 だけどここまで多少は冗談交じりで言う事はあっても、ここまで食い下がった事は無かった。何よりシーニャも大事にするエフェメルは彼女を困らせるような事をしたことがなかったのだ。だからこそ、今の状況が分からず困り果ててしまう。

 リオンの姉として弟を大事に育てなければと頑張ってきたシーニャ。再開してもリオンを大事に思う気持ちは変わらない。そして今はそんなリオンが子供の宿し方について興味を持ち、その方法を知ろうとしている。

 それは年頃の子どもなら当たり前なのだが、シーニャは今まで男性の淫らな姿を見て来て嫌悪している部分がある。イデアメルカートゥンでいた時、数々の男に言い寄られ、陰でどんな事を言っているかも聞いた事もある。

 だからこそリオンにそんな男になって貰いたくないシーニャは、性的行為をリオンに教えることに拒否感を持っていた。

 エフェメルはそんなシーニャの考えを見抜いている。共に過ごす中でその考えが態度に現れていたからだ。更には一緒に寝ていても二人はすやすや仲良く眠るだけ。

 それはそれで微笑ましくて良いのだが、二人がこのまま姉弟で暮らせるわけなどないのだ。だからこそ教えるべきことは教えてあげなければいけないと思う。それはシーニャ自身の為でもあるのだから。

 それともう一つ気になるのは、長く離れて過ごしたためにシーニャは未だにリオンを幼い子ども扱いしている。エフェメルはここまで危惧していたことが以上である。

「シーニャちゃんが教えられないならぁ、私が教えちゃいますから~。」

「だからダメです!」

 意地になるシーニャ。するとエフェメルが鋭い視線を向ける。

「あれもダメこれもダメ…、シーニャちゃんはどうしたいんですか?」

「わたしは・・・。」

「今、リオン君が成長過程として知識を欲しているんですよ。そして教えてほしいと言ってるのに、シーニャちゃんはダメしか言わない。これじゃリオン君が可愛そうじゃないですか。」

 それを聞いて俯くシーニャ。

「シーニャちゃん、姉としてリオン君を大切にしたい気持ちはわかります。でも、リオン君はここまで様々な知識や経験を得ながら成長してきたんです。そしてこれからも成長していくんですから、ちゃんと教えることは教えてあげないとどうするんですか?リオン君の将来をシーニャちゃんの思い通りにしていいわけじゃないんですよ。」

 黙り込むシーニャ。そしてここまで自分が行った行動を顧みる。色々口出ししてきた面があるが、言われて思い当たる節ばかりだ。だからこそ、ショックが大きかった。

「リオン君に選ぶ権利は与えてもいいんじゃないですか?」

 一方的な意見の押し付けでなく、様々な知識を教えたうえでそれをどうするのか。そこを教えるべきだとエフェメルは伝えたかった。普段見せる事のない頼れる姉の態度に、賢いシーニャはその意図に気付く。

 だがこの状況で自分はどうするべきか思い浮かばない。どう言うべきか?何を伝えるべきか?悩みは晴れることが無かった。

 そんな状況でリオンが口を開いた。

「エフィーおねえちゃん、おねえちゃんをいじめちゃダメ。おねえちゃんは僕の事を思ってくれてるんだから、きっとそれを聞くのがいけないんだよ。だからもうこれについては聞かないよ。」

 シーニャを庇うリオン。その優しさに姉は驚きつつ、改めて間違いに気付いた。言葉を聞いたエフェメルもシーニャに「気付きましたか?」という風に見つめて来る。

 リオンを思う気持ちは確かだが、そのせいでリオンが自分の言いなりになってしまう怖さ。エフェメルが遠巻きに指摘した言葉がそのまま現実となって表れたのだ。これは確かに良くない。

 そしてもう一つ気付いたこと。それは知識を得ることを諦めてしまう寂しさ。知識欲の大きいシーニャだからこそ自分が逆であればどれほどのショックだろうか。これもまたリオンの成長を妨げる事になり、自らを改めるに十分な理由だった。

(私自身が成長していないじゃない!このままじゃダメだ)

 シーニャはリオンに向くとジッとその顔を見つめた。

「リオン。」

「うん、おねえちゃん、僕もういいから心配しないでね。」

 笑顔のリオンに大きく首を振る。

「いいえ、それはいけないわ。そしてごめんリオン。私、気付いてなかったよ。リオンがそこまで私を信じてくれてる事に。そしてそれにちゃんと答えられてなかったことも。」

 真剣に語る姉にリオンもまっすぐに見つめる。

「リオンは私にとって世界で一番大事な存在。だから大切だし心配もする。

 だけどそれが過ぎるとリオンが自由じゃなくなっちゃうよね。それは絶対してはいけない事。

 だからリオン、知りたいことはちゃんと教える。そしてそれを良く考えて行動できるヒトになってね。

 あなたが大人になるために自分で判断して、そして間違わない様に私は見守ることにするから…。

 覚えておいてリオン。どれだけ色んな事を知っても、絶対にヒトを思いやる気持ちを忘れないで。そうじゃないと、相手を傷つけることが平気な人になっちゃうから。そんなヒトになってほしくないから、これは忘れないでね。」

「うん、わかったよおねえちゃん。」

 ふたりは互いに見合うと、とっておきの笑顔を見せ合った。それによって場の空気が爽やかで微笑ましいものに変わる。精霊たちも陽気で明るい光を放った。

「エフィーさん、ありがとう。おかげで気付く事が出来ました。」

 シーニャは礼を述べると、エフェメルはニコッと笑う。

「さすがシーニャちゃん、ちゃんとわかってくれておねえさんは嬉しいです~。」

 こちらもまた、仲直りできた。そうした和やかな空気に、その場の持ち主が感想を述べた。

「ほぅ、これは面白いものが見えた。なるほどのぅ、ヒトも様々な者が居る訳じゃな。」

 話を振ったセルディアが呟く。そしてシーニャやエフェメルが慌てて態度を改めた。

「申し訳ありません。御前を忘れてお見苦しいモノをお見せしてしまいました。」

 それまで様子を見ながらも双子やマフモフを相手していたサーシェスとミムジアナもまた謝罪の礼を見せる。

「よいよい、おかげで面白いものが見えた。何よりわらわから話を振ってしまったことじゃ。

 子を宿すことについてはもう暫く時を重ねてからで良いぞリオン。子を宿すという事は親になるという事じゃ。その覚悟も無い者が知ると、宿る子が哀れとなってしまう。それをわらわは望まぬ。

 じゃからお主が信じる者から、その重要性を学んでからで十分じゃ。」

「うん、わかったよセルディアさん。僕はまだ親になれるほどじゃないから、それから教えて貰うね。」

 こうしてリオンの疑問はセルディアが上手く悟らせて持ち越されたのだった。


「それにしても良いことを知ることが出来たものじゃ。わらわたちもヒトを憎むだけではいかんということじゃな。そなたのように正しい判断をしようとする者もおると言う事に気付けた。良い経験をさせて貰えたな。」

 セルディアが大きく頷いてから言うとシーニャに視線を向けた。

「シーニャと申したな。そなたの性根、とても良い心地じゃ。気に入ったぞ。そしてエフェメル。そなたも相手を思いやる気持ち、そしてその話術は見事じゃ。 

 二人をこの郷の客人としてもてなそう。今宵くらいは泊まっていくが良い。」

 セルディアはそう言うと一度咳をした。そして立ち上がるとそれまでとは違う厳格な声を響かせた。

「エルフの郷に住まう者たちよ。これから告げることをしかと胸に刻め。

 ここにいるヒトであるシーニャと、黒き肌の者であるエフェメルをわらわは認め、この郷に客としてもてなす。故に不服あるならばわらわに申せ。この者たちは他と違うと認めた以上、わらわの名をもって大事にもてなすのじゃ!」

 そう告げると再び座ったセルディアは穏やかに言った。

「これでお主たちは郷におっても無碍にされぬ。心配などせずゆるりと疲れを癒すと良いぞ。」

「「ありがとうございます。」」

 二人は深く頭を下げて感謝を述べる。それを聞いて一番感激したのはエフェメルであった。

 ダークエルフは袂を分かった存在で、エルフからは目の仇にされ、ハイエルフに対してはこうして話す事すら恐れ多いモノだったのだ。それが名前を憶えてくれた。自分たちの祖であるハイエルフはダークエルフであろうとも大事な存在なのだ。存在を認められたと言う事に涙が溢れた。

「さて、外の者たちがお主たちを歓迎するであろう。良い時間であったぞ。」

 そう言ってセルディアは深くそのソファーに身を預けた。謁見は終わりということであり、リオン達はその場を去っていくのだった。


 そして建物から出た一行は階段下に群がるエルフたちに出迎えられる。その様子は来た時とはまるで違い皆が歓迎してくれていた。何より、入り口脇に控えていた衛士が近寄り、開口一番に謝罪したのだ。

「先ほどは申し訳ございませんでした。」

 シーニャは深く一礼する態度に驚きたが、すぐに笑みを浮かべてそれを受けいれる。

「謝罪下さりありがとうございます。これからは仲良くしてください。」

 そう言うと、衛士は頬を染めながら頷いたのだった。

 そして一行は階下に降りると、すぐ前に用意された大きな木のテーブルに招かれる。その上に並ぶ様々な料理の数々。

「御方様のお客様に召し上がって頂こうとご用意いたしました。お口に合えばよいのですが。」

 美しいエルフの女性たちがにこやかに告げる。リオンは感激して早くも手を出そうとしたが、シーニャが「まずはお礼を言うんだよ」と注意を促す。それに納得してリオンはエルフの人々に礼を述べると、それぞれ席につく。

 エルフも皆が寄ってきて席に着き、楽しい宴が開かれた。

 エルフは森の住人で風や水を愛し、火は木を燃やしてしまうのでいない。代わりに光の精霊によって明かりは灯り、夜もまた幻想的な風景を見ながら音楽を奏で、歌や踊りを楽しむ。

 出された料理は果物や野菜ばかりだが、見たこともない果物は皆の舌を十分に満喫させた。料理としてはパンやスープなどもあり、火も使わないのにと思ったら光の精霊と風の精霊に雷を起こしてもらい、それを使って熱で料理するらしい。他にもエルフの知恵と工夫は様々あり、シーニャは知識欲を掻き立てられて楽しそうに女性たちと会話していた。

 男たちはリオンに話を聞いている。エルフにしてもドラゴンは崇める存在であり、その弟子であるリオンは憧れの存在なのだ。子どものように目をキラキラさせるエルフをエフェメルは珍しそうに見ながら、サーシェスと共にエルフ自慢の果物酒を呑んでいる。その傍らでミムジアナとマフモフは料理を存分に頂き、パァムとポォムはエルフの歌や楽器を興味深げに見たり聞いたりしていた。

 皆が思い思いに楽しく過ごし、素敵な夜は更けていくのだった。


 明けて翌日の朝、リオン達はセルディアに一泊のお礼と別れの挨拶に向かった後、いよいよ目的地であった多種族の集落へ馬車を走らせた。

「さて、森を抜けたらすぐに到着ですよ~。」

 エフェメルの言葉に期待を膨らませる一同。長かった旅もようやく終わりを迎え、そしてまた新たな旅へと向かわなければならないだろう。ここまでずっと一緒にやって来ただけに、サーシャスは寂しさを感じた。

「エフィー、ここまでありがとう。ここまで来れたのはあなたのおかげよ。」

 改まって挨拶するサーシェスに首を振るエフェメル。

「何言ってるんですか姉さん、最初に約束したじゃないですかぁ。ちゃんと送り届けるって~。それとぉ、一先ず着いてからですよ~。ちゃんと住めるかどうか確認しなきゃですからね~。」

「そうね・・・。」

 南半球は南下するほど寒く、ライディンは少し寒いくらいだった。そして今北上しているが、それほど温かくも寒くも無い状況である。魔物の気配がないのは確かだが、果たして受け入れてもらえるかどうか。それが心配であった。

 その時、パァムが声をあげた。

「右から何か来るよー!」

 その声の後、馬車が停車する。リオンもまたただならぬ気配を察知したからだ。そして伝達管からリオンの声が聞こえた。

「ゴブリンだ。僕が迎撃するから、馬車の守りをお願い。」

 そう言うとリオンは運転席から飛び出して右の森の中に入っていく。そしてエフェメルとミムジアナが後部から外に出ると、サーシェスと双子は運転席の方へ向かう。シーニャとマフモフは馬車の中で待機だ。

 間もなくして森の方からくぐもった悲鳴が聞こえる。ゴブリンたちの泣き声だ。もちろんそれは次々と倒していくリオンのせいである。

 だが森と言う事は木で覆われた世界である。すばしっこいゴブリンは緑色をしており、草木に紛れながら通り抜ける者もいる。

 そうした亜人が嬉しそうに目に入った馬へ襲い掛かる。

「ギャッギャッギャー。」

 森の中で滅多に得られない肉だ。早速殺して齧りついてやろうと涎を垂らしながら駆け寄る。

 しかしその進行は見えない壁によって阻まれる。サーシェスが張った氷の結界によって馬たちは守られており、それに触れると凍らされてしまう。見事なまでに顔から結界にぶつかったゴブリンは、そのまま顔を氷づけられ、そのまま息も出来ず脳も凍り付いて息絶えた。

 だが続いて2匹のゴブリンが今度は運転席へと向かってきた。

「ギャブギャー!」

 仲間がやられた怒り任せに掛かってくる醜悪な顔。ヒトから比べれば小さいが、コロプクルからすれば同等以上の大きさだ。そしてその手に握られた棍棒がサーシェスを狙う。

「「アイスボールっ。」」

 二つの幼げな声が呪文を発動させた。氷の結晶が出現し、ゴブリンの身体に命中する。その瞬間、ゴブリンの身体は凍りつき失速。棍棒が届く前に凍りついたゴブリンは地面に落ちて割れた。

「やったぁー。」

「やったやったー。」

 呪文を唱えたのはパァムとポォム。以前はユキダルマーで戦っていたが、今回初めて生身で戦闘に加わっている。そして初めての魔法が成功して喜びの声をあげた。

「安心してはいけませんよ。戦闘中は気を引き締めて!」

 サーシェスが注意を促すと、二人は「はーい」と返事して警戒を行う。

 そんな馬車の後方ではエフェメルとミムジアナがそれぞれ迫ってきたゴブリンを倒した。

「結構な量がいますねぇ。回り込んできましたか。」

 斬り捨てたレイピアを振って血糊を飛ばすと、森の中に潜むゴブリンに気配を配る。

「リオンを避けて来てるようニャ。」

 叩き伏せたゴブリンを蹴り飛ばすミムジアナ。息絶えたゴブリンが宙を飛んで木にぶつかると、その脇から新たなゴブリンが掛かってきた。

「とにかく迎撃ですよぉ。」

「了解ニャ!」

 そのまま戦闘は繰り返され、5分ほどして戦いは終了した。


 戦闘が行われる中、シーニャはマフモフを抱いて馬車の中に座っていた。

「みんなが守ってくれるから、大丈夫だからね。」

 震える幼い少女に声をかける。だがシーニャも恐かった。戦闘は何が起こるか分からない。だからこそ、皆の無事を祈るのだ。

 やがて馬車の後ろの入り口が開く。ビクッとした二人の目にニコニコ顔のエフェメルが映った。

「無事に終わりましたよ~。」

 ホッと胸をなでおろすシーニャ。そしてマフモフを解放すると、自分のカバンを取りだす。

「ありがとう、お疲れ様でした。ケガはありませんか?」

 戦闘が終わると自分の役目である。各自の負傷を治療するのが医師としての使命だ。

「私は大丈夫ですよ~。ミムジーがちょっとかすり傷ですね~。」

「分かりました。」

 直ぐに外に出るとピンピンしてミムジアナが体操する。いきなり戦闘に入ったので、急激な運動による筋肉をほぐす為だ。武闘士であるために肉弾戦になり、大きな拳の他、擦り傷や切り傷が数か所できている。

「ミムジーお疲れ様、治療するよ。」

 それを聞いて毛を逆立てるミムジアナ。

「だ、大丈夫にゃ!舐めたら治るニャ。」

 そうやって今までやって来たミムジアナ。キャッティアは自然治癒力が高いために放っておいても問題はない。しかし慣れぬ土地でゴブリンと接触したのだ。どんな病原菌が居るか分かったものではない。

「ダメ!もしかしたらばい菌がいるかもしれないからちゃんと治療して。」

「い、嫌ニャ~。ひりひりするから嫌ニャ~。」

 ばい菌を殺すために消毒するのだが、そのせいで傷口が沁みるのが嫌なミムジアナ。キャッティアだけに感覚は鋭く、この時だけはいつもシーニャから逃げようとする。だが、シーニャもまた予想しているだけに対応する。

「もしもばい菌がいたらマフモフに移っちゃうんだからダメだよ。」

 同族の幼い子を出されると流石にミムジアナも黙るしかない。

「あぅ~、痛くしニャいでほしいニャ。」

「はいはい、努力するからね。」

 そうして治療が始まる。もちろん、消毒だけに痛みは出るのだが、幼いマフモフが見ているためにミムジアナは我慢する。以前痛がっていたらマフモフに頭を撫でられたことがあり、示しがつかないとミムジアナは思ったからだ。

「う~、やっぱり沁みるニャ。」

「それだけ病原体がいたって事だよ。ゴブリンは特に穢れたものを好むからね。ちゃんと清潔にしておこうね。」

 シーニャが言い聞かせながら治療を行っていると、リオンも戻ってくる。そしてポォムに荷物を取って貰うと、返り血を浴びた服を脱ぎ捨てて着替える。ゴブリンの体臭は酷く、その血はやはり病原菌を含むため、その都度着替える様にシーニャから指導を受けたのだった。

 エフェメルは鎧やレイピアに付いた血を拭き取り、その布きれを捨てる。

「結構いましたね~。リオン君どれくらい倒しましたか~?」

「えっと、覚えているので30はいましたね。そこからも結構倒しました。」

「そうするとおよそ50匹の集団ですかねぇ。うーん、結構な数ですね。どこかへ向かっていたのでしょうかねぇ?」

 するとサーシェスたちがやって来てパァムが語る。

「ねぇねぇ、向こうにまだいるみたいだよ。」

 察知能力の優れたパァムが馬車の向かう先を指差した。それを知ってエフェメルが眉間にしわを寄せる。その先こそ、自分たちの向かう目的地なのだ。

「もしかしたら、亜人たちが攻め入っているかもしれませんねぇ。」

 嫌な予感を含ませた言葉に、、皆の緊張が高まる。それを振り払うかのようにリオンが叫んだ。

「もしそうなら大変だよ。用意したら急ごう。」

 それぞれ治療と身支度を整えると場所に乗り込み、急ぎ目的地へと向かうのだった。


お読み頂きありがとうございます。


「もう、どうするんだ?」

これが今の私の気持ちです。エルフの郷にて勝手に指が動いてタイプした結果、最初の設定と随分違っちゃいまして、また文の内容を考え直しています。

最初は話に出てきたヒトとエルフの間の子が、エルフの郷でぞんざいに扱われるのを見てリオンが怒るって言いうのが当初の形だったのです。

でもお読み下さる皆様ならわかりますよね。リオン怒らせたらエルフの郷どうなっちゃうかって…。

だからそっちは却下して今回のようになりました。

あと前回出てた衛士のフィリップさんは、ヒトの町に攻め入った兵士の一人で生き残った方です。

その辺りを絡ませようかと思いましたが、セリディアに命を救われて絶対服従してるヒトだから特には触れずに済ませました。


そういう感じでエルフの郷を過ぎ、いよいよ最終目的地です。なのにまた良からぬ状況の感じですね…。(ドウナルコトヤラ)


また新しい登場人物が出る予定で、第2幕に繋がる人物も出していきます。

その辺りも含めながら、また次回以降もお読み下さると幸いです。

今後もよろしくお願いします。

それでは次回まで。

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