違える道 (兆し)
「失礼、大変お見苦しい態度を見せてしまった。」
焼いた白身魚と千切りにした野菜をあっさりしたソースで彩られたポアソンを頂いていると、席に付いたエルディヴァンが呟いた。そして彼の視線はリオンに向けられる。
「リオン殿。あなたの申し出を快く受けたいと思う。私にお金を貸して頂けないか?」
それを聞いてリオンは首を振る。
「貸すんじゃなくて、これはあげ・・・寄付するよ。ぼく自身あんな悲しいことが起きるのは見たくないから、これを使って助けてあげて欲しい。」
途中あげると言いそうになったのを、シーニャが横から「寄付って言うのよ」と耳打ちされて言い変えたリオン。
「了解した。あなたの願いを叶えるよう精一杯努めるとここに誓う。だが、それによってこの町が繁栄する事は許してほしい。」
リオンの希望に添えるよう努力はするが、それによって生じる利益を町が頂くことになると断りを入れる。もちろんそれも込みでリオンは大きく頷いた。
「ありがとう。」
エルディヴァンは席を立つとリオンの横まで歩み寄り、手を差し出した。
「うん、よろしくね。」
それに握手を返し、笑みを向けると、シーニャやエフェメル、レイラが拍手する。伴って周囲にいたメイドや使用人も盛大な拍手をした。
今ここに未来における『多種族共存都市』が誕生するきっかけが出来たことはまた後の話である。
それから食事は進み、口の中をリセットさせるためのソルベには柑橘果物の汁を爽やかな風味で凍らせたグランベ。続くメインのアントレは肉料理だった。各自好みの焼き加減でスライスした肉と付け合せの野菜に濃厚なソースが掛かって出された。
肉は飼育している牛肉ステーキなのだが、程よい噛み応えと深い肉の味わいが感じられる上質の物だった。それにピリ辛のソースがよく合い、口に入れて飲む甘口のワインが混ざることで、更に新しい味覚を刺激してくれた。
そんな中でリオンは無理を願って調理可能な1kg単位で肉を焼いてもらい、スライスなしを自分で切り分けて食べた。
最後の料理としてデセートが出ると、女性陣が喜んだ。一枚の丸皿の上に花のように並べられた季節のカットフルーツ。その横にサイコロのように切り分けられたスポンジケーキが並び、生クリームが添えられている。好みで使えるよう小皿にチョコやジャムが置かれ、好みの食べ方が出来る様に工夫されていた。
単体でも良いし、ケーキのように合わせても良いしで楽しく食事が出来るシェフ自慢の一品だった。
レイラも満更ではなく、エフェメルやシーニャと色々組み合わせて楽しむ傍ら、リオンはただひたすらに口へと運んでいた。
そして今、カフェ・ブティフールでくつろぎの時間を過ごしている。皆が紅茶を選ぶと、それに合わせたビスケットが出された。バタークリームとチョコクリームが小皿で出され、食事の余韻に浸る。
「ご満足して頂けたでしょうか?」
奥からシェフが現れた。まだ若いと言う印象の細身の男性。そしてもう一人、デセートを担当したスーシェフの若い女性が続いた。二人とも、キラキラした瞳で招待客を見つめる。そこには自分の精一杯のもてなしがどうだったかを知りたいと言う気持ちが伺えた。
「すばらしかったです。美味しく頂きました。」
シーニャが笑顔で感謝を述べると、続いてエフェメルも
「お見事な腕前でしたぁ。舌だけでなくぅ、目や香りも楽しませてくださってぇ、貴重な時間を頂きました~。ごちそうさまでしたぁ。」
続いてもう一杯ワインを飲むレイラが、
「あたいはこういう趣向の料理は苦手なんだが、考えを改めさせて貰ったよ。すごくうまかったよ、ごちそうさん。」
ワイングラスを持ち上げて笑顔で答えた。
そして視線が集まるリオンだが、
「すごくおいしかったよ。でも、もうちょっと食べたいかな…。」
「リオンッ。」
慌てて良い咎めようとするシーニャ。だけど実に子どもらしい意見だと周囲は笑い、エルディヴァンはシェフに軽く手をあげて合図を送った。
「分かりました。それではいくらか残った分をお持ち帰りいただけますようご用意いたします。」
そう女性が言うと、奥へと戻って行った。
「まだまだ未熟ながら、精一杯の料理をご用意させて頂きました。満足頂けたようで、嬉しい限りです。ありがとうございました。」
シェフはそう言うと一礼して戻って行く。
その姿が見えなくなると、エルディヴァンがリオンに言った。
「彼らもまた、ここに引き取って料理の腕を磨かせたのだよ。町にある様々な料理人に教えを乞いながら常に精進している。そして自分たちで考え、このような料理を用意したのだ。
また周囲にいる者たちも、同じく私がオークションから雇用した者たちだ。彼女たちも厳しい修行を耐え、こうして働いている。
リオン殿。貴方が与えてくれた機会は、この者たちのように立派な職人に育ていくことを約束しよう。」
その顔はやる気に溢れていた。今まで燻らされていた思いが実行できる喜び。そう、この町長は熱い男なのだ。最初に出会った物静かな感じは仮面で、リオンのおかげによってようやくその本性が曝け出された。
「うん。ぼくは難しい事はわかんないけど、きっとうまく行くって信じてる。だからまた何か困った事があったら言ってね。協力するからね。」
「その時は改めてお願いするよ。」
机越しだが、再び握手を求めたエルディヴァン。リオンは席を立つとそれに応じた。
こうして、楽しい夕食会は幕を下ろしたのだった。
「ズルいニャ~。こんなおいしいモノ食べたニャンね!」
海賊船に戻って、頂いたお土産をみんなで頂きながら話す。船員はみな町に出て酒場に行っているため、残っているのはリオンの仲間と子ども4人だ。そこにレイラが加わって、大きな円卓で話をしている。
「だったら付いてきたらよかったんだよ。」
ミムジアナの不満をリオンがバッサリ切る。
「ニャニャニャ!でも良いニャ。こうしてお土産食べられるから大丈夫ニャ。」
そう言って魚を切り分けて幼いキャッティアの子どもに食べさせてあげる。
「それで、結局この話は上手くいったと言うことなのですね?」
サーシェスが安心している。心配性な彼女は大丈夫とは思いながらも、相手の陣地に出向いて行ったリオン達を案じていたのだ。そんなサーシェスを双子がずっと「大丈夫だよサーシェスさま」と言って宥めていたのは内緒である。
「はい~。逆にリオン君が出資者となってぇ、この町はぁこれから生まれ変わると思いますよ~。」
経緯を説明して、子どもたちの処遇に話は変わっていく。
「さて、それじゃ子どもたちはあたいが送るとしようかね。」
レイラがお腹が膨れて眠そうにしている子どもたちを見る。そして横にいるチェンカーの少年の頭をなでた。
「一緒に行かないの?」
てっきりここから船で連れて行ってくれると考えていたリオン。だがレイラは少し困ったように笑う。
「ホントはそうしたいと思ったんだがね、ここから北は船が入れない浅瀬みたいなのさ。そしてあたいは海賊だからね、船を置いて陸を旅する訳にいかないのさ。
だからあたいは一旦コイツらを故郷に帰してやって、それからまたここに寄るとするさ。今まではあまり好きじゃなかったが、今日からは楽しくなりそうだ。
そんな訳で、あんたたちとはここでさよならって事さね。」
笑いながら言う。それに対してリオンは残念そうに応える。
「そっかー。残念だけどそれが海賊なんだから仕方ないよね…。ここまで送ってくれてありがとう、レイラさん。船の旅、思ったより楽しかったよ。」
ここまで船酔いで苦しむことなく来れた。最初はやはり気分悪くなっていたが、薬のおかげで嘔吐することは無かった。
更にはレイラが様々な海での楽しみ方を教えてくれた。シーニャに付与された女神の加護のおかげもあるが、大きな揺れの無い船旅でリオンは慣れて行き、普通に過ごせるほどになっていた。
「いや、あたいこそ貴重で面白い経験をさせて貰ったよ。また縁があったら何でも言っておくれ。海ならどこまでだって連れて行ってやるよ。」
「うん。その時はよろしくね。」
お互い笑顔で別れを告げた。そしてそこにトーマスが話をしてきた。
「リオン、俺もここで離れさせて貰う。」
「えっ?」
予期せぬことだったので驚く。だがその先はミムジアナが語った。
「さっき決めた事ニャンだけど、この近くに亜人の集落があるニャンね。トーマスはやっぱりそこが気にニャるニャンよ。
でもトーマスだってわかってるニャン。一人で行ってもダメだって。だからこの町で暫くは傭兵としてやっていくらしいニャン。
そしていつかこの町が亜人の集落を攻める時は、一緒に行くらしいニャン。」
この町に着いてずっと気にしていたのが亜人の集落だったトーマス。以前ならばすぐに一人で突っ走って行っただろう。だが、リオン達と旅を続ける中で仲間と共に戦う事を覚え、次第に感情も回復していたのだ。
そして今回のリオンの話を聞いて、ここで亜人を倒していくことにした。迫る亜人を倒しながら相手の戦力を覚え、いつか攻め滅ぼそうと考えている。
何よりここはオークションハウスがあるため、様々な武具が流れて来る。より良い装備を手に入れるにも都合が良かったのだ。
「それじゃミムジーは?」
「あたいはリオンと一緒に行くニャ。トーマスは心配ニャンだけど、この子を集落まで連れて行ってあげニャいと行けニャいニャンね。」
ここまでずっと一緒だったために寂しそうに語るミムジアナ。同族の子の頭をなでながら、トーマスへは視線を向けようとしない。トーマスに至っては特に気にしている様子もなかった。
「そっか。それじゃトーマスさんはここで残って、町を守るのを手伝ってあげてよ。エルドおじさんにそのことは伝えておくから。」
エルディヴァンと別れ際、親しい者に許している『エルド』と呼んでほしいと言われ、リオンはそう呼ぶことにした。
「ああ。世話になったなリオン。」
「ううん、こちらこそだよ。今までありがとうトーマスさん。でも、ぜったい無茶して暴走したらダメだよ。」
「…努力はする。」
そう言うと互いに微笑を浮かべた。最初の無表情から、ここまで心を開くようになったんだなとサーシェスは見ながら思った。
「それじゃ今日は休んで、明日それぞれの道を出発しようじゃないか。」
最後にレイラが仕切ると、皆は自分たちの寝室へと戻って行った。
翌朝、早い時間にエルドが港にやって来た。何でもここから北に向かうと伝えていたため、物資などを揃えて馬車を用意してくれていたのだ。
馬に関してはここまでずっとがんばってくれた北の集落の馬だが、長い距離をがんばった結果、やはり足に疲労が溜まっているようだった。
これ以上無理をして倒れてしまうのは忍びないから、エルドの牧場でのんびり過ごしてもらう事となった。
「長い距離をありがとう。」
「おうまさん、ありがとう。元気でねー。」
サーシェスを始め、双子も慣れ親しんだ馬に別れを告げる。この馬は賢いために別れが解っており、それぞれに頬擦りして挨拶すると、エルドに従って牧場へと向かった。
そして新たに迎えたのは2頭の馬だった。逞しく、利口そうな茶色の毛並みをしたのと、黒い毛並みの馬だった。
「この馬たちは持久力のある馬で、脚力もある。ここから北は道なき道になるかもしれないが、この2頭ならしっかり運んでくれるはずだ。旅の無事を祈るよ。」
こうして荷物を載せ替える一行。その間にリオンはトーマスとエルドを合わせて話をしておく。
「それは心強い。良ければ私が雇おう。そしてオークションでもこれというのがあれば言ってくれ。必ずそれを君に渡そう。
代わりにこの町の守衛と、兵士たちの訓練をお願いしたい。そして時が来たら、亜人の集落へ攻めることを約束しよう。」
「わかった。よろしく頼む。」
互いの利点が噛み合ったことで、リオンは大丈夫そうだと思った。
「それじゃエルドおじさん、トーマスさんの事よろしくね。それと昨日の話、向こうの偉いヒトに会えたら話してみるからね。」
「よろしく頼みます。」
頭を下げてお願いするエルディヴァン。会食後に多種族と話し合いたいと願ったのだ。ヒトとヒト以外の種族がいがみ合うこの大陸。しかし亜人が現れたことで事態はより深刻になっている。
会食までは考えもしなかったが、リオン達は様々な種族が集まって一緒に行動するパーティーだ。だとしたら、自分たちもそれが出来るようになるのではないかとエルディヴァンは考え、これから向かうリオンに接触できるよう頼んだわけだ。
そう言葉を交わし終えると、ちょうど荷物搬入が終わって出発できるようになった。
「リオンーッ、用意できたよー。」
シーニャに呼ばれリオンは馬車へと向かう。そしてレイラに別れを告げる。
「レイラさん、ここまで送ってくれてありがとう。」
「いいさね、こっちも楽しめたよ。それに、これでもう会えないって訳じゃないだろ?この子達を送ったら、またここに来るさ。そして暫くはこの辺りを航海するつもりだからさ、どこか行きたくなったら気軽に言っておくれ。」
「うん、また北の大陸に行くことがあると思うから、その時はここで会おう。」
互いに笑顔を見せ合った。レイラ曰く「別れに湿っぽいのは要らない。また会う日を誓って笑い合おう」と考えているらしい。だからこそ、互いに笑顔のまま強く握手しあった。
すると横から声をかけられる。
「おにいちゃん、ありがとー。」
そこに控えていた子どもたちが礼を述べた。お金を出したのがリオンだと聞いた為だ。」
「うん、みんなも元気でね。レイラさんはきちんと送ってくれるはずだから、安心してお家に帰ると良いよ。」
「うん。」
3人の子どもたちが元気に頷いた。そして別れの挨拶が終わり場所へ乗り込むリオン。2頭の馬に引かれるだけあって、頑丈でかなり大きい馬車は木で囲われている。中には大きなベッドが二つ並んでおり、そこに座ったりできる。ベッドだけあってクッション性があり、馬車でお尻が痛くなることは無いだろう。またベッドの下は収納棚があり、食料や携行品が用意されている。
後と右に扉が付いており、一応走行中でも中に移動できるよう左前に内開きの扉が横向きにある。また、クィーンエストリア号のように伝達管が屋根にあって、中と運転席で連絡し合える作りになっていた。
「それじゃ、出発しようか。」
リオンの声に皆が返事する。ただ、いつも元気なミムジアナの声が小さい。
「ミムジー。」
リオンが声をかけるとビクッとした。
「ニャ、ニャにかニャ?」
「ちゃんとお別れ言ったの?」
もちろんトーマスにだ。だがそこに返答はなかった。そこでサーシャスがミムジアナの手に自分の手を重ねて伝える。
「ミムジー、気になるなら残っても良いですよ。この子は私がちゃんと連れて行きます。」
「だ、大丈夫ニャ!この子はあたいが一緒に行くニャ。」
「ならばなぜそんなに迷ってるのですか?精霊たちが心配そうにしてますよ。」
サーシャスやエフェメルは精霊が見える。だから今、ミムジアナの周りで感情を司る精霊たちがぐるぐるぐるぐる渦を巻いて迷っていることを現していた。
「ちゃんと自分の気持ちを整理するためにも、トーマスに挨拶して来なさい。」
出会う前から二人は仲良く旅していたのだ。特に感情が乏しかったトーマスに、ミムジアナはずっと世話を焼いて来た。だからこそ心配で仕方ないのだろう。一緒に居るべきではないかと考えているのだ。
でも今目の前にいる同族の子『マフモフ』はまだまだ幼く、ずっと寂しい思いをしてきたことがわかる。だからこそ、一緒に居てあげなければと感じているのだ。
そんな答えを出せないまま、成行きに任せるミムジアナ。そこでサーシャスが後押ししている。
「言いたいことをぶつけて良いのですよ。今の彼は合った時と全く違います。」
それを聞いてミムジアナはハッとして、周囲の皆を見回す。それから力強く頷くと、隣にいたエフェメルに抱いていたマフモフを任せる。
「ちょっと待ってニャ。挨拶してくるニャ。」
そう言って馬車から下りて行く。そんな彼女をみんなが笑顔で送り出していた。
「トーマスゥ~。」
馬車から下りたミムジアナはトーマスへ一直線に向かった。そして目の前まで行くと、じっとその顔を見つめた。
「…もう出発だろ。早く行け。」
「ニャに行ってるニャ!相棒とお別れくらいちゃんとするニャ。」
あまりな言葉に怒って見せる。するとハッとした表情を見せたトーマス。
「ああ、達者でな。」
実に彼らしい端的な挨拶。それをミムジアナは憤慨する。
「ホントに困った奴だニャ。相棒としては上手くやっていけるか心配で仕方ニャいニャ。」
横にいたエルディヴァンが拳を口元に寄せて笑った。そして「おっと失礼」と言って二人から離れる。邪魔をすべきではないと察した態度だ。
「も~、笑われちゃったニャ。トーマスのせいニャ。」
だが、そういうセリフに返事は来ない。それは一番最初に言い合った時から変わらない。
二人で旅を始めて、最初に寄った町でトーマスの態度に宿のとある客が怒った。それを宥めるのにミムジアナが苦労した事がある。その時も同じようなセリフだったが、トーマスはどこ吹く風と言った感じでしかなかった。
依頼何度もそのような事はあったが、トーマスは何も言わない。それを思い出してミムジアナは懐かしく感じた。…そしてそんなやり取りはもう無いのだと考えた。
「・・・トーマスぅ、あたいたちはこれから違う道を行くニャ。だけど、ぜったい無茶をして死ぬことだけはしないでほしいニャ。」
それがミムジアナの願いだった。ここまで面倒見ただけに、どうしても心配は尽きない。でもこうして別れることは必ず起こる。だから自分の気持ちだけは伝えておかねばと語ったのだ。
「…努力はする。」
それに返されるのはいつもの返答。こんな時くらいと思う一方いつもこうしてやって来たと思い、半ば呆れながらも最後へ笑って別れようとした。
でも、トーマスもまたヒトなのだ。きちんと別れだと言う事は解っている。
「おまえも死なない様気を付けろ。今まで世話になった。感謝している。」
ポンポンポンと立て続けに言われた言葉。普通ならもっと感情込めてと言いたいが、トーマスだから仕方ない。というよりも、そのトーマスがミムジアナを思って言葉を紡いだのだ。
思いも寄らない言葉にミムジアナは止まる。少し間が過ぎて、ようやく言葉は返された。
「よ、余計ニャ…お、お世話ニャン・・・。」
瞳からあふれ出す涙を必死に拭いながら、何とか返すミムジアナ。ここまで一緒にがんばってきたことが思い出され、涙は止まらなかった。
「ほら、待ってるぞ。」
「うるさいニャ。」
泣いてる女の子を前にそれは無いだろうと思うが、最後の最後はやっぱりトーマスらしいと納得し、ようやく泣き止む。
「よし、それじゃまたこっちに来る事もあるかもしれニャいニャ。それまでは元気にしてるニャよ。」
そう元気に言うと、ミムジアナは馬車へと駆けて行く。
「ミムジー、お前もだよ。」
呟かれた言葉は海風の音にかき消されたが、耳の良いキャッティアには十分届く音だった。
それからリオンが綱を持って走り出した。町の皆が門から見えなくなるまで手を振ってくれて、レイラもまた同時に出航した。
「速い!」
今までの馬車と違って2頭が引いている。荷台が今までの物より倍くらい大きいが、それでも若く逞しい2頭によってかなりの早さが出ていることは確かだった。
「すごいなぁ。よろしく頼むね、お馬さんたち。」
リオンが感心していうと、それが分かったのか馬たちは更に速度を上げた。
こうしてリオン、シーニャ、ダークエルフのエフェメル、コロプクルのサーシェスとパァムにポォム、キャッティアのミムジアナとマフモフの8人は多種族の集落に向けて再出発した。
これから待ち受けるのは未知なる土地。そしてヒトとヒト以外の種族が睨み合う世界。いよいよ旅も最後に近づく中で、異変は刻々と迫りつつあった。
場所は変わってナハトイデアール大陸の西にある大陸『シュラハティニア大陸』。北半球と南半球に跨る縦に長い大陸。ここは森林が多くヒトは少ない。その中心には世界3大火山の一つ『ジャバル火山』がある。そしてその周辺一帯には広大な地下資源が眠っており、そこから北にあるドワーフの町『ジャバルヴァース』はこの地下資源を集めながら日夜鍛冶に励んでいる。
その町にて急遽警報の鐘が響き渡った。
それぞれドワーフ達皆が対応に動き始める。皆が武装し、様々な兵器が準備されていく。
その理由は明確だ。数年前より500km北に出来た亜人たちの城『ダーケルハイト城』から武装した亜人たちの軍が動き出したからだ。かつて隠密ギルドが内部を調査して、規模が分かったのに陥落できない城。
その理由としてその城が強力な結界を張っており、魔法が効かないと言う事が一つ。これによって、強力な攻城魔法を繰り出しても城には効かない事が証明されている。
二つ目として城周辺が迷宮化しており、攻めようにも迷宮攻略に時間が掛かることだ。最初の調査は入り込めたのだが、以降は迷宮が複雑化してとてもは入れる様なモノではなかった。逆にそこに時間をかけると、亜人の軍隊が取り囲んで侵入者を殺してしまうのだ。
三つ目は強力な亜人がいる事だ。以前の陽動で隠密ギルドのサブマスター『ガング』が出向いた際、一騎打ちにおいてガングは盾を持った左腕を斬り落とされたのだ。大剣を持ったその亜人は全身を黒い鎧で覆い、赤く光る目をしており、全身からは禍々しいオーラを発していた。
様々な武器を使い熟すガングは全身をフルプレートで覆い、ハンドアックスとラージシールドを装備して戦いに向かった。
そしていざ一騎打ちとなり最初5合ほど刃を交わし、黒い鎧の亜人が大きく振り抜いて来たのを盾で受け、すかさずカウンターを入れようとガングが盾を突き出した時だった。亜人の大剣は受けた盾を斬り裂くと、そのままガングの腕を握り込んだ拳から肩まで真っ二つに切り裂き、そのまま体当たりでガングを吹飛ばした。
それによってギルドのメンバーが直ちにガングを救助したが、腕は縦半分で裂かれており、繋げることは不可能という事で肩から先を切断。また体当たりによって内臓に甚大な被害を受けたガングは、医療学院に入院したまま数日後に息を引き取った。
ガングがやられて作戦は中断となったが、それによって城の警備が手薄になり、目的であった城の調査は上手くいったのだった。その事からあの黒い鎧が城主なのだろうと結論付けたが、結局あれからその黒い鎧を見た報告は無い。 こちらから数度攻めることはあったが、迷宮や亜人の防衛によって侵攻は出来ず、今日に至っていた。
それまで動きを見せなかった亜人が突如として軍隊を出撃させたことは、瞬く間に監視係の目に映ると狼煙を上げてその報を告げた。一定ごとに櫓が立てられ、そこから狼煙が次々昇る。
それはドワーフだけでなく周辺の部族全てに知れ渡り、シュラハティニア大陸全土に緊張が走ったのだった。
やがて戦争の準備を終えたドワーフ達は、まっすぐダーケルハイト城のある北北西に向かって進軍。少し開けた北の平野に陣を構えて亜人たちを迎え撃つ。
それから3日後、現れた亜人軍とドワーフ軍は激突した。
お読み頂きありがとうございます。
さて今回は料理のお話を前回から進めました。
コース料理については、フランス料理のコースを手本にさせて頂きました。
実際リオンには足りなかったと思いますが、本当のところ、リオンは無理に食べなくても
魔力を返還させて空腹感を紛らわせる術を持っています。
レッドドラゴンから教わっているのですが、彼の場合口から摂取することが大好きなので
よほどのことが無いと使いません。
それとお金に関してですが、ここは勉強不足な部分がありまして改めて書き直すかもしれません。
経済の話を持ってこようとしたのですが、あまりに面倒で難しい書き方しか出来ず、
結果として今回の内容になったわけです。
これに関しては、また改めて世見直ししながら考えてみます。
最後に世界情勢を入れておりますが、これは第2幕の兆しとして加えております。
なので、サブタイトルに(兆し)という言葉を入れさせて貰ってます。
このような単語が入ると、いよいよ第1幕最終が迫っているわけですが、
実は「これまだまだ続きそうじゃね?」と書きながら思っております。
話が当初の設定から変わり始めておりまして、現在設定をまとめなおししております。
ともかく自分もそうですが、お読み頂く方々に楽しんで頂けますよう努力するだけです。
それではまた次回まで。




