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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
33/93

オークションハウス

ようやく再開できたリオンと姉のシーニャ。

これからは共に生きていこうと誓い、次なる目的へと向かう。

南の大陸にある多種族の集落へ向かうため、海賊レイラに連れられて未知なる土地へと向かう。

そこは北の大陸とは全く違う世界。

はたしてリオン達にどのような旅が待っているのか?

第7章、始まりです。

【第7章】

 惑星エアリスの南半球にある大陸は2つ。

 一つは一部分が北と南を跨っており、完全に南半球に収まる大陸と言えば『ナハトイデアール大陸』だけである。東西に長く、地形は複雑に入り組んでいる。

 東側は南から洞穴を開けたように内海があり、その中心に大きな島が存在する。

 この島こそグランデュシュテルン王朝の首都『皇都グレンシェル』であり、グランデュシュテルン皇帝の居る場所だ。それを護る様に内海を隔てて6家が城を建てて治めている。

 そこから東に向かうと森林が多く、海に削られた陸地ばかりになる。特に南西部はどこかから島がくっついたのではないかと思えるほどに本陸と隔離した形をしている。

 だがこの地形によって、この大陸は様々な種族が生息できる一方、果ての無い種族間での抗争が続いている。

 グランデュシュテルン王朝はヒトの種族が繁栄する世界に対し、西側は様々な種族が生活する世界。その中には当然亜人の棲家も存在する。

 種族の違いによって、この大陸では長い戦いが続けられているのだ。

 そんな大陸の最も南西に位置する場所には、様々な種族が住む西側の地域においてヒトの町がある。その町の名は『ライディン』。大きな港町だ。

 ここは様々なヒトが出入りしており、グランデュシュテルン王朝とは違って独自の発展をしている。この町を仕切る町長が絶大な財力をもって、この町を巨大な商業地区にしているためだ。

 実際この町に足を運ぶヒトは、財力のある者か、武力を持つ者。またはスネに傷がある様な荒くれた者たちが集まる。そうした者たちがいるこの町には、彼らのための施設などもある。飲食はもちろん、普通では出回らない物品を扱う闇市、また女性を買う店なども多くある。

 その中で最も賑わいを見せるのがオークション会場だ。多くの富豪がこの会場にやってきては、高額のコイルやマガルを落としていく。

 世の珍しい武具や調度品もあれば、この大陸に存在する『身分制度』によって人身売買まで行われている。その身柄を売られる者は『奴隷』とされ、買い取った者に一生を委ねなければならなくなる。

 かつてシーニャが失意のまま連れ出されようとした時、このオークションに出される可能性もあったのだ。ここに商品を納めるバイヤーは世界中に存在しており、隠密ギルドはそういったバイヤーの動向も捜査している。

 誘拐や拉致という事件は後を絶たず、特に子供たちは時には集団で消えることもある。

 そして今日もまた新たな子供が連れられてきた。


 薄暗い地下で子供の泣き声が聞こえる。その後ろには大きな大人が付いており、その手に握られた鎖は、泣いている子供にはめられた首輪へ繋がっている。

「うるせぇ、大人しく観念しやがれ!ひっぱたくぞ。」

 怒鳴られて子供が悲しい顔のまま口を真一文字に結ぶ。その頬には痣があり、すでに叩かれていることが伺える。

 やがて地下の大きな部屋に辿り着く。大きな部屋に扉は無く代わりに鉄格子が填められており、男は鉄格子の一角にある入口の鍵を開けてその子供を放り込むと、再び鍵を掛ける。

 放り込まれて倒れた子供は痛みで再び泣き始めた。するとそこには他にも子供たちがおり、皆がつられて泣き始める。

「えーい、泣き辞めお前らっ!」

 鉄格子を手にある棍棒で叩きつける。その大きな音にびっくりして鳴き声はピタリと止まった。

「いいか?これからお前たちは新しい主人の下に売られるんだ。ちっと大人しくしてねぇと、魚のエサにするぞ。」

 そう言い残して去っていく男二人。階段を上がる時には耳障りな笑い声を発していた。

 やがてそこに入れられた男の子がぐずりだす。するとそこに居た他の子どもたちが集まってくる。

「大丈夫?」

 様々な種族の子供たちがいた。黄色の肌で青い目をした髪の長い『ケニテム』という人種の少女に、褐色肌で短い髪型をした『チャンカー』という種族の男の子。ネコミミが特徴的なキャッティアの少女もいるし、特に人種的身体特徴が見当たらない『アウロピネス』の幼い少女もいる。

 皆がそれぞれ不安そうな表情をしており、もう何度も泣いたためか、顔には泣き跡が残っている。

 その中で一番身長の高いケニテムの少女が声を掛けていた。

「うん…。痛いけど大丈夫。ここに来るまでに何度も叩かれたから痛いのは我慢できるよ。」

 新しく入った男の子が腕で目を擦りながら言う。涙を拭きとると、少年は尋ねた。

「ここはどこなの?」

 するとチャンカーの少年が答えた。

「多分だけど、オークションハウスの地下だと思う。」

「オークション?」

「うん。俺たち、金持ちに売られちゃうんだよ…。」

「それじゃ、パパやママに会えないの?」

 その問いかけには答えが無かった。両親に会えないという現実を認めたくないから、あえて言葉にしないのだ。

 返事はなくても、他の子達の悲しそうな表情や俯く姿を見て、もう会えないんだと悟る男の子。

「うぅぅ・・・、パパとママに会いたいよぉ…。」

 再び悲しくて泣き始めるが、チャンカーの少年がその口を押えてきた。驚き、その少年を見つめる。

「言うな。俺たちみんな同じなんだ。でもどうしようもないんだ。

 それに泣いてご飯が貰えないなんて事もあるから、大人しくしてくれ。」

 そう言われてコクンと頷く。すると押さえていた手は離れ、少年は「すまない。」と言って離れていった。


 それからお互いに接することもなく時間だけが過ぎていく。

 広い部屋は入口側を鉄格子で阻まれているものの、奥にはトイレの部屋とベッドが置かれていた。

 一応、商品という立場であるため、商品価値が損なわないようには気を付けているみたいだ。

 しかし、商品として価値が見出せない場合はどうなるか…。それはさっき連れてきた男が言った魚のエサになるという事だろう。

 膝を立てて座り、そこに頭を付けてうずくまる男の子。最早どうしようもない状況に泣くことも許されず、感情を押し殺すしかできなかった。

 思い出されるのは両親の優しい笑顔と暖かなぬくもり。彼はごくありふれた集落の子供で、このライディンから西にある小さな集落で育った。

 それがある日、集落近くの林で木の実採りに出かけていたところを攫われてしまったのだ。そしてそのまま船に載せられてライディンまで来た所である。 

 さっき連れてきた男二人はここの守衛らしく、攫ったのは小汚い服装をした初老の男だった。この上の階で幾らかのコイルの入った小袋と引き換えに再び攫いに行ったと思われる。

 突然の事ばかりでずっと泣いていたが、こうして時間が出来ると両親の事ばかり思い浮かぶ。そして涙が流れる。

 何とかならないか?両親が助けに来てくれるんじゃないか?そう言った甘い考えが巡るが、今この時の寂しさは拭えるものではない。

 声に出さずとも、うずめた膝に目を当てて涙を流す。声は出さないが、鼻がスンスンと鳴ることで、周囲に泣いているのが丸わかりであった。

 そんな男の子を見ながら、他の子達も来た時はそうだったと思い、同じように生まれ育った土地や親の事を思い出す。

 そんな悲しい雰囲気のまま時間は過ぎ、再び男たちがやってきた。

「よしお前たち、出番だぞ。今から濡れ布巾を渡すから身体を拭いて、こっちの白い服を着ろ。」

 そう言って布巾を渡すと、それぞれ着ていた服を脱ぐよう言った。

 流石に子供でも、異性の前で裸になるのに抵抗がある。しかし男たちは怒鳴り、皆がしぶしぶ服を脱ぎ捨てた。

「もうお前たちには必要のない服だから、これは捨てるぞ。」

 そう言ってそれぞれに服を拾い上げていると、ケニテムの少女がそれを拒んだ。

「やめてぇ、それお母さんが誕生日に買ってくれた服なの!」

 すっかり埃にまみれているが、確かにリボンやフリルが付いた可愛らしい服である。ケニテムの少女は背が高くスラっとしており、なかなかの美形だ。だからこそ似合う大事な服だが、男たちにしたら関係ない話だ。

「やかましい!もうお前は売られるんだよ。せっかく美人に生んで貰ったんだから、金持ちに可愛がられてもっと良いのを買ってもらいな。」

 そう言ってその服を目の前で引き破った。

「ああーっ…ひどい…うぅぅ。」

 顔を手のひらで覆って泣き崩れる少女。そんな少女を見て男は陰湿な笑みを浮かべると、濡れ布巾を手にした。

「時間がないんだ。…仕方ないから俺が拭いてやろう。」

 そう言って少女の体をまさぐるように布巾で拭いていく。

「おら、お前たちも早くしろっ、時間がねえんだよ。」

 そう言われてのそのそと支度にかかる子供たち。あのようなことを見せられて、もうどうしようもなくなったと観念するしかなかった。

 重い空気の中、子供たちは白いポンチョのような服を着せられ、その手に手錠をはめられた。その手錠と首輪を鎖でつなぎ、子供たちは男たちに連れられて部屋を出ていくのだった。


「さぁ、お待たせしました!皆様、ここからはとびきりフレッシュな商品をご覧頂きましょう。」

 オークション会場にて、進行役の男がパフォーマンスを加えて宣言する。それを聞いて対面で座る顧客たちが感嘆を漏らす。

 その場にいる者はそのほとんどが豪華な身なりをしていた。当然それなりのコイルを所持しており、ここから離れたグランデュシュテルン王朝の各都市から赴いた者ばかりである。中には一稼ぎした盗賊や海賊もその場に居合わせている。

「それでは商品の登場です。」

 進行役の声に、その隣にある大きな入り口の天幕が上げられると、そこから子供たちが身なりの良い衛兵たちに連れられて入ってきた。

 まだまだ幼さ残る少女もいれば、キャッティアの少女もいる。中でも暗い表情の背の高い少女は見栄えがする。その姿にニヤリとほくそ笑む男が何人かいた。

「さてこちらに揃った子供たちは戦いなどによって里を失くしたり、孤児として彷徨っている中で保護した子供たちです。この子たちの成長のためにも、どうかこの先しっかり育ててくれる優しい方はいらっしゃいませんか?

 それではまずこの少女から参りましょう。」

 衛兵によって、背の高い少女が一歩前に押し出される。小麦色の長い髪に黄色肌。そして青い目をしたケニテムの少女。

「ご覧のように、ケニテムの少女です。ご存知のように魔力値の高い人種ですが、彼女はまだこれと言って学んでおりません。故に学ばせれば生活用の魔法を使いこなせるでしょう。

 またこの容姿をご覧下さい。このように整った顔立ちの少女はなかなかいませんからねぇ。しかもまだ生娘ですから、さぞ自分の娘のようにしたいと思っている方も多いはず!

 さぁ皆様、振るって競り合い下さいませ。

 それでは、5000コイルからスタートです。」

 5000コイルと聞いて騒ぎ出す客たち。コイル硬貨として最大の価値を持つ金硬貨。この上の桁からマガルとなるため、ヒトの子一人に対して提示される金額としては破格である。

 だけど進行役はこれでもまだ釣り上ると踏んでいた。

 しばらくのざわめきの中、早速予想が的中する。

「1マガル!」

 少し太った中年男が右手を上げて入札する。少女に対して淫らな視線を向けながら、周囲に対して「貰った」と言わんばかりにニヤリと笑った。

 そこから次第に声が高まっていく。

「2マガル」

「では2倍で4マガルだ」

「ならば私は5マガルで」

「55000」

「62000で」

 ごく一般的には5マガルは50000コイル。これだけあれば大きな屋敷で使用人を迎えて暮らせる金額だ。

 しかしここに居座るは並の金持ちではなかった。己の欲望を満たさんと金に糸目をつけない。

「10マガル」

「12マガルだ」

「16マガル出すぞ」

 異様な雰囲気の中、高々と声が上がった。

「25マガル!」

 おおーっという声と共に最高額を入札した男性が立ち上がる。

 途端に少女の顔が明るくなり、目に涙をためながら笑みを浮かべた。

「おとうさん!」

 娘を連れ去られて探した結果、ここのオークションに掛けられる可能性を考えてやってきた両親。少女に似た母親と、娘の元気な顔にひとまず落ち着きを取り戻す厳格そうな父親。二人して、知り合いからお金を借りて参加したのである。

(ちっ、親が来やがったか。こいつをさらった奴とは終わりだな)

 進行役はそう思って、舞台袖の向こうにいる衛兵に視線を送る。するとその衛兵は頷いてからその場を去って行った。目的は一つ。少女を連れてきた仕入れ人を処刑するためだ。

 こうした場に親が来ると、変に警備機構やギルドから嗅ぎ付けられるため、その足は徹底的に消しておかなくてはならない。

 だがこうした場合は過去にもあり、進行役は微塵の焦りも見せずに進める。

「さぁ、大きな金額が出ました!25マガルっ、250000コイル。他にいらっしゃいませんか?」

 このオークション会場で、出品物に持ち主が出てこようとも、身内がいようとも、この場で暴力は許されない。このライディンという町はコイルがモノを言う町で、オークション会場で暴れようものならば、その場で処刑されても文句は言えないとされている。

 ましてや所有者で盗まれたモノだと主張しても、こちらは買って入手していると突っ撥ねることができる。この大陸にある身分制度によって、その辺りは法の闇の部分として守られているのだ。

 そして少しの間が開いた時、進行役の目に手が上がる。最初に1マガルを入札した男だ。

「50マガル出そう」

 倍の値段だった。その声に驚きの声が響くと、父親と母親が青褪めた。

「50マガル出ました。さぁ他にいらっしゃいませんか?」

 進行役の声が明るい。それもそうだろう。まさかの50マガルだ。

 この少女にそこまでの価値はないと思うが、あの男は大富豪で気に入った美しいものなら金を出してくれる上得意なのだ。

 このままだとあの肥えた醜い中年の慰み者になるのだろうと、少し少女を哀れんだが、頂ける額に感謝しかない。

 そこに父親の苦しそうな声がした。

「51マガル…。」

 再び驚きの声。親として当然であろう。金など関係なく娘を取り戻したい。そう思うのは当たり前の感情だ。

 しかし世は残酷である。必死に集めた金額さえも、凌駕してしまう金持ちは存在するのだ。

「しかたない、一気に勝負と行こうじゃないか!100マガル出すぞ。」

「「「うおぉぉぉ―――!!」」」

 会場内が騒然とした。100マガル…つまり100万コイルであり、1メガルという単位になる。この金額は小さな国の国家予算に匹敵するのだ。

 さすがに進行役もすぐに反応できなかったが、視線の先で少女の父親が項垂れるように机に体を預けている。その横で母親が泣きながら俯いていた。

(勝負あったな)

 見れば少女も泣き出しそうな顔で両親を見ていた。その姿を見て悟ったのだろう。もう親の元に戻れないと。

 だがおかげでこちらは大儲けさせて貰えると笑みを浮かべると、進行役は最後の確認を行う。

「1メガルが出てしまいました。いやはや驚きですが、失礼ながらお支払いは大丈夫ですよね?あとでなかったとは無しですよ。」

 少しジョークを交えるみたいに場を納める。その雰囲気で、両親と少女の辛気臭い空気を打ち消すためであった。

「それでは他にいらっしゃらないようなので、1メガルで―」

「待ちなーっ!入札するよ。」

 言葉が挟まれて進行役が黙る。同時に会場中が静まり返り、その声のもとに視線が向かった。

「おっと、さらに入札ですか。でも大丈夫ですか?1メガルもの大金ですよ。」

 進行役の煽りを、その声の主は笑い飛ばした。長い足を前の机に載せて組んでいる。椅子にはふんぞり返り、組んだ腕がはちきれそうな胸を持ち上げ、海賊帽の下で美しき女海賊が笑みを浮かべていた。

「ハハンッ、このレイラ様がそんなはした金を出せないと思ってるのかい?」

 女海賊レイラが強い視線で進行役を威嚇した。それによって進行役は改めた態度を示した。

「これは失礼いたしました。それでは入札金額をご提示ください。」

 内心では「海賊風情が」と憤っているが、それを見せないのがプロだと自らを律する。

「ああ、その前に一つ提案があるんだが良いかい?」

「…まぁ宜しいでしょう。お聞きしましょうか。」

 今更何を言い出すのやらと、もしも金額出せないようなら散々赤っ恥をかかせてやろうと思う進行役。するとレイラは足を下ろして立ち上がると、指先で子供たちを指した。

「その子たち全員まとめて頂こうじゃないさ。金額は一人2メガルとして、併せて10メガルでどうだい?」

 その瞬間、会場内は静まり返った。10メガルもの大金を耳にして、我が耳を疑う者たち。だが、そこで先に入札していた中年が叫んだ。

「何を馬鹿な!海賊ごときがそんな大金を出せるものかっ。」

 もう少しで我が物にできると思っていた少女を横から掠められ、額に青筋を立てて怒る中年。だが、そんな声などモノともせず、レイラは胸元から棒を取り出した。

 それは金塊であった。しかも金ではなく白く輝く白金の延べ棒。この世界では最高の価値を表す10メガル=1000万コイル相当の金塊だ。

「おいおっさん、これが目に入らねぇのか?」

 ワイングラスを揺らすように指で金塊を揺らすレイラ。その様子に中年は呆けた顔になり、やがて力なく椅子に腰かけた。

「ほら、これで文句なはいだろ?」

 中年が座ったのを確認して、会場中に見せびらかす。それを前に、文句など言える客など一人としていなかった。同時に、進行役が手にもった白い木槌を叩いた。

「子供たち全員、10メガルで落札っ!」

 この日、過去最高額でオークション会場は盛大に幕を下ろした。


 オークションを終えて売買交渉となる。客が引き上げる中、レイラが座ったままでいる少女の両親に声を掛ける。

「なぁあんたら。そこで少し待っておきな。」

 そう言って進行役の方へと向かうレイラ。後ろから数名のマントを深く被った仲間が付いて行く中、両親は何を今更と思いながらも、言われ間通りにその場に居座った。せめて最後の瞬間まで娘の姿を見るために。

 そしてレイラが進行役の前まで来た時、衛兵たちが子供たちの首輪と手錠をとる。それを横目に、進行役が笑顔を張り付けて話してきた。

「いやぁ、今回は過去最高額でお買い上げいただきありがとうございます。まさか白金塊をこの目で見られるとは思いもしませんでした。」

 レイラの手にある金塊に視線が注がれる。

「あぁ、実際はこんな金じゃ足りないんだろうけど、何とかこの子たちを受け入れ出来て良かったよ。」

「なんと、まだまだ入札して頂ける予定でしたか。それはそれは何とも豪気な話ですね。」

 相手が金持ちだからこその下手対応なのだが、相手の言いたいことは理解できなかったようだ。そしてレイラの後方にいるマントをかぶった者たちに視線を向ける。

「そちらの方々も、子供ですか?レイラ様は子供好きなのですかね。でしたらこれからもより多くの子供たちを仕入れ…いや、保護させておきます。」

 良く回る舌が、より大きな利益を狙って滑った。その言葉にレイラは冷ややかな視線を向けた。

「とりあえず取引だ。子供たちを渡してくれ。」

 そう言って金塊を差し出す。それを見て進行役が衛兵に「おい」と言って引き揚げさせると、大きめのトレイを差し出して金塊を受け取った。

「失礼ながら鑑定させて頂きます。」

 受け取ってから金塊が本物か確認する進行役。一方でレイラの後ろに控えていたマントの人物たちが動き、子供たちの手を引く。

「出回っていなかった様で、とても美しい金塊です。よくぞこれほどのモノを…。どちらで入手したのですか?」

 進行役の鑑定が終わって、あまりの高品質に舌が止まらなくなる。

「あぁ?そんなの簡単に言うわけないだろ。それじゃ、この取引は無事終了って事でいいんだな?」

「はい、もちろんです。この度はありがとうございました。またのご利用を心よりお待ち申し上げております。」

 丁寧な挨拶を見せる進行役。同時に衛兵たちも深く礼をした。

「あぁ、それならついでにもう一つ話させてもらおうかい?」

 レイラの口調に、進行役は新たなビジネスと見込んで恭しく聞き入る。

「それはそれは是非ともお聞かせください。こちらでご用意できるならば何でも…。」

「そうかい。それなら頼もうかね…。」

 そう言ったレイラの顔が鋭くなる。そして進行役の胸ぐらを掴んで視線ガンを飛ばした。

「もう、ここで子供たちを売るんじゃないよ。あんたら見てたら、反吐が出るんだよ。」

 そう言って襟首掴んだ手を突き飛ばすように押し出した。それによって後ろの衛兵まで飛ばされる進行役。いきなりの事で面食らった感じだったが、次第にその顔に陰湿そうな怒りが表れた。

「いきなり何しやがるこのくそ海賊がぁ。お前こそふざけるなよ。この会場はこの町で作られ、ガキの売買は法律で決められたことだ。そう許された商売なんだよ。たかが海賊風情がどうこうできる問題じゃねぇんだよ。」

「ほほぅ、仮面が剥がれて良い顔するようになったじゃないさ。あたいだってこの町に寄らせて貰ってるからそんくらいは知ってるさ。

 でもね、さっきみたいに親を前に金勘定してるとか、子供たちが泣いても気にしないとか、そんな外道をあたしゃ許せねぇんだよ!

 あんたじゃ話になんないんだったら、上の奴呼んできなっ!!」

 見事な啖呵をきるレイラ。対する進行役の顔は真っ赤になって憤っていた。

「このぉー、こうなったら痛い目見て貰おうじゃねぇか。ヤロー共、こいつらやっつけちまえ。」

 その声に奥からも衛兵がやってきてレイラたちを取り囲む。子供たちが悲鳴を上げる中、レイラが突っ立ったまま視線だけを動かした。

「おい、観念するなら持ち金全部出したら許してやるぞ。」

 進行役が嬉しそうに叫ぶ。さっきのような金塊がまだ出てくると予想して、この際ついでに頂こうと欲を出したのだった。

 しかし、そのような脅しに全く脅威を感じていないレイラは後ろに顔を向けた。

「ついついやっちまったけど、これで良かったかい?」

 その言葉にレイラの後ろにいた背の低い人物が被っているマントをはぎ取った。

 そこから現れたのは、まだ幼さ残る少年。しかし、その顔には大きな傷があった。

 そしてその少年は笑みを浮かべて進行役を睨んだ。

「もちろんだよ。武器とかを見に来たけど、こんなくだらない事やってるなんて思いもしなかったよ。

 僕だって子供たちが売られるなんて見たくないし、何も心配ないよ。」

 まっすぐな瞳で訴えるリオン。その言葉にレイラが微笑む。

「フフッ、あんただって子供だろ。ま、だからこそこんな汚い商売は許せないってとこだね。」

 そう言うと太ももから隠し持っていたダガーナイフを取り出す。オークション会場では武器の持ち込みが禁止されており、入り口で預かりとなるためサーベルは所持していなかった。だが護身用としてレイラは長いスカートに紛れてナイフを隠し持っている。

「エフィーおねえちゃんとミムジーは皆を守って。トーマスさんはそっちをお願い。」

「了解ですよ~。」

「わかったニャ。」

「・・・・・仕方ない。」

 リオンに指示されてそれぞれがマントを剥ぎ取り動く。中心に子供たちを置き、シーニャとサーシャス、双子は子供たちと一緒に囲まれる。それを護る様にエフェメルとミムジーが構えると、トーマスが後方の衛兵を睨んだ。

 そしてリオンとレイラが左右前方を相手する。

「なんだ多種族ばかり集めて!女海賊は趣味が多いと見えるな。」

 見たことないコロプクルやダークエルフを見て、進行役が悪態をつく。だが、レイラはそれをサラリと聞き流す。

「フフッ、いいだろう?あたいの自慢の仲間さ。」

 そう言うと進行役はニヤリと笑う。どう見ても数はこちらが優勢で、武装もしているんだ。それによく見たら珍しい人種だし、美形ぞろいだ。捕まえて次の目玉に出そうと欲が出た。

「よしお前たち、あいつらを大人しくさせろ。男共はいいが、女は売り物になるからな。出来る限り取り押えろよ。」

「オゥ。」

 衛兵たちが応答すると、それぞれが襲い掛かった。

 向こうは子供でしかも無手。こちらは重装備で人手もある。楽勝だと思い、衛兵が軽く小突く感じで槍を突き出す。

 だけどその衛兵の思惑は大きく覆される。一瞬でその子供の姿が見えなくなると、次の瞬間、盾から強力な衝撃を受け吹き飛ぶ。そのまま後方にいた仲間を巻き込み、会場の壁に身体を強く打ちつけて気を失った。

 激しい激突音と、そこに伸びる重装備の衛兵二人。それを目の当たりにして残る衛兵たちの顔つきが変わった。

「何してやがる!さっさとあいつらを取り押えろっ。」

 進行役が血相を変えて叫ぶ。だけどその命令が遂行される事はなかった。

 向こうでは長身のトーマスが、一人の衛兵から奪った槍を使って叩き伏せていく。レイラもまた、ナイフを巧みに操って攻めて来る衛兵を躱していた。

 そして何よりもリオンであった。全く姿の見えない動きで衛兵たちを次々に吹飛ばして行く。その小さな拳と脚で、鉄製の盾や鎧を易々と凹ませながら壁に当たって気を失う者ばかり。

 ものの数分で衛兵たちは皆床にキスする事になり、残るは進行役だけとなった。

「さてと。」

 レイラが周囲が落ち着いたのを確認して呟く。それを耳にして進行役の顔が引きつった。

「あたいにケンカを売ったんだ。落とし前はどうつけてくれんだい?」

 ナイフを器用に回しながら、歩み寄るレイラ。その一歩一歩に進行役は尻もちをつき、後ずさっていく。

「ま、待て。来るなっ。いや、来ないで!」

 呆れるほどの弱腰で右手を前に突き出し逃げようとする姿は、余りにも滑稽だった。だが、レイラの歩みは止まらない。ゆっくりと歩を進めて相手を追い詰める。

「だったらどうするか分かってんだろ?」

 やがて進行役の背に壁がはだかった。それに気づくと急いで土下座して、命乞いを始める進行役。

「お許しください、ホンの出来心なんです。反省してますから命ばかりはどうか、どうかぁ~。」

 情けなさに見ている皆が呆れた。ただし、レイラは容赦しない。海賊ならではで相手を追い詰める。

 右手で進行役の髪を掴むとグイッと引き上げる。

 それによって「ヒィーッ」っと情けない悲鳴を上げながら進行役の顔が面を上げた。涙でぐしょぐしょになり、哀れ過ぎて言葉が出せない。だからそこら辺でもういいかとシーニャやサーシェスが止めようとすると、エフェメルがそれぞれの肩に手を置いて制した。

「まだですよ~。あれ位は平気でしますからね~。」

 そんな会話の前で、掴みあげられた進行役の手が腰に伸び、ちょうどレイラから死角になる場所からナイフを取り出す。

 やられたフリをしながらも本心では色々と手を考える狡猾さ。これ位でなければこのようなオークションの進行役など任されるわけがない。

 だけどそれはレイラだってわかっている。迫りくるナイフを持つ手の甲に、ダガーナイフを思いっきり刺し込んだ。そしてそのまま床に貼り付ける。

「ぐぎゃあぁぁぁーっ!」

 痛みで進行役が叫んだ。先ほどまでの情けない泣き顔ではなく、本気で痛がる姿は憎しみを現したような顔だ。

「オイオイ、あたいを馬鹿にしてるのか?あんたみたいなのがやることくらい、こっちはお見通しだよ。」

 そう言ってダガーナイフを引き抜くと立ち上がり、刃に付いた血を掃うように振る。そして丁度近くにあった布切れで残った血糊を拭き取ると、刺した傷口を足で踏みつけた。

「ぎゃあぁぁぁーーー!」

 再び悲鳴が上がり、流石に子供たちの顔が蒼白になる。だが、レイラは止めない。

「いいかい?もう一回いうよ。今後ここで子供たちで商売するんじゃないよっ。

もちろん他のヒトもそうさ。それを飲むんだったらこの場は退いてやるよ。」

 すると進行役は苦しそうにしながらも言う。その声は先ほどまでの情けなさは微塵もない。

「オレはそこまで許されてない。だから約束などできん。」

 痛みを堪える声にやっと本性が現れたかとエフェメルが呟く。それを耳にして驚きを隠せないシーニャとサーシェス。裏の顔を持つ者など、信用してはいけないのだ。

「だったらそれが出来る奴を呼び出しなっ!」

 それを聞いて痛みを忘れたように顔を上げる進行役。その顔は驚き、やがて恐れを見せた。

「馬鹿な事言うな。あの方を怒らせると、お前たちでも生きていられないぞ。」

「ほ~っ、あの方ねぇ。別に取って食おうって訳じゃないんだ。話すだけだからここに連れてきな。出来るんだろ?」

 レイラは足を除けると皆の方へ向かう。その途中で落ちた状態の白金塊を拾い上げると、進行役に投げてよこした。

「とりあえずそれを持って行けばあんたの面目は立つだろ。そして取り次いでおくれよ。海賊レイラ様が話をしたいってね。」

 そう言い残してレイラはリオン達を連れて出ていく。


 その途中で、先程買い取ったケニテムの少女へ手を差し出す。

 少女は怖いものを見た後だから差し出された手にビクッとしたが、刃向う事などできないと思い手を取った。

 もしも自分のせいで反感を買ってしまったら、そこにいる両親に害が起こることを恐れたからだ。

 やがてレイラは少女を連れて両親のいる前に向かう。身動きのできない父親に対し、母親が少女の名前を呼ぶ。少女もまた母を呼ぶが、握られた手によってそこに向かうことは出来ない。

 そんな悲しみの雰囲気の中で、レイラは冷たく両親に言う。

「今回の件で、あんたたち少しは反省してるかい?」

 そう言われて二人の視線が向いた。父親に至っては怒りを見せている。それはレイラに対してなのか、それとも娘を救えない自分への憤りなのか?

 そんな中でレイラの言葉は続く。

「多分大事にしてたんだろうね。そして僅かな隙を突かれて攫われた…。だいたい読み取れるよ、そんなことくらいは。

 だけどねっ、そんな隙を許したあんたたちのせいで、この子がどれだけ苦しんだか分かるかい?知らない奴らにいい様にされて、そしてここまで連れ出されちまった。その間も散々な目に遭ったはずだよ。」

 それを聞いて泣き出す母親。一方で父親が反論する。

「それくらい言われるまでも無い。わたしたちだってどれだけ・・・」

「違うッ!あんたたちはあんたたちだ。それよりも大事な娘の事を考えなってんだ。

 いいかい?ホントに大事なら片時も目を放すべきじゃないんだよ。

 世の中にはあたいみたいに悪い奴は幾らでもいる。その中で自分を守るのは当然だけど、子どもは親が守ってやらなきゃどうするのさ。」

 その言葉に父親が目をつぶって項垂れる。レイラの言葉に言い返す事などできる訳もない。母親もまた涙が溢れる。

「いいかい?下手したらこの子は苦しい世界に捕まっちまうとこだった。そうならないためにも、これからはしっかりこの子を守ってやっておくれよ。」

 そう言うレイラは少女や他の子どもたちに目を向ける。

「あんたたちも、いつか親になる時が来るはずだ。そん時に、自分の子どもがこんなつらい目に遭わなくて済むよう、しっかり守ってやれるヒトになるんだよ。」

「うん」「はいっ」

「うん、良い返事だね。」

 それまで怖い顔をしていたレイラが優しい微笑を見せた。そして握っていた手をそっと放してやった。その手が離れたことで少女が驚きの目を向けた。

 それに対してうんと頷くレイラ。それに対して少女は深く一礼すると、両親のもとに進む。そして驚きと喜びの表情で母親が少女を抱き締めた。

「もう、離すんじゃないよ。」

 レイラはそう言うと会場入り口へと向かう。それに続く様にリオン達が後を追った。

 後に続くリオン達もそれぞれ嬉しそうだったり、感動して泣いていたりする。

 去っていくレイラたちに少女と、その両親がそれぞれに感謝を述べた。

 感謝を背に受けながら、レイラたちは会場を後にしたのだった。


お読み下さりありがとうございます。

冒頭、もしかしたら男の子がリオンじゃないかと思われたでしょうが、今回は少し違った形にしてみました。

当初は双子が攫われるのを考えていたのですが、前回ユキダルマーを出してしまったことで、

「この双子、どうやったら攫えるんだ?」と真剣に悩んだ末に辞めました。

ましてやリオンだって捕まりそうじゃないので、少し違う視点からこのようなお話にしました。


今回はレイラの人気が出そうな内容ですが、なぜこんなに子供に対して真剣なのかは、今後明らかにしたいと思っています。

なにより、現実世界で子供の虐待をよくニュースで目にします。

私自身子供は好きで、この間横断歩道で待ってる子供に「一緒に渡ろうか?」と言うと、そっと私の手を握ってくる暖かな手がありました。それから一緒に手を挙げて渡ったのですが、やっぱり小さな子供に頼られた時、守ってあげなきゃという本能が働きました。

そんな子供たちを蔑ろにする今の時代に憤りを持ってしまい、ついついレイラに頑張って貰ったお話となったわけです。

個人的な意見を取り入れてしまって申し訳ないのですが、この話が後々繋げることになりますので、これからもまたお読み頂けますようお願いします。


次回はまたちょっと違った感じの内容になるかもですが、最近笑えるとこ(エウバみたいなの)が無いなーと反省もしております。

そう言うキャラも今後入れていきたいと思います。


それではまた次回まで。

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