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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
32/93

二人の夜、そして新たな旅へ

海上というリオンにとって不得意な場面での戦闘。

しかし、成長したパァムとポォムの召喚魔法によって見事に海の敵を倒した一行。

海賊とも良い関係が築けた矢先に、アジトまで行くことになった一行。

そこで待ち受けたのは、海賊たちの宴でした!

そして目を覚ましたリオンとシーニャはこれからどうするのか?

そう言ったとこまとめて今回のお話、はじまりはじまり。

 イデアメルカートゥン城塞都市から東、オルハノコス大陸の南東沖にいくつかの島が連なる『ゼーロイバー諸島』がある。その周辺は海賊のアジトとして有名で、商船はまずこの海域から離れて航海する。

 しかし、このゼーロイバー諸島の位置は大陸間における重要な場所に位置している。というのもこの諸島の4方角にそれぞれ大陸があり、大陸間で貿易を行うとすれば、この諸島を移動するのが一番早いからだ。

 だからこそ、狙い目と言う事でここに海賊たちが集まってしまった訳でもある。いくつかの海賊たちがいる中、このレイラは一目置かれる海賊であり、クィーンエストリア号は海賊船の中では最速とされている。

 そのアジトのある島では、客を招いての盛大な宴が催されていた。

 海賊たちは呑み、唄い、踊る。仲間たちと騒ぎ、今生きていることを感謝する。


 時間は遡り、港近郊に着いた海賊たちは船内で亡くなった者たちを樽に入れて海に流した。それぞれ亡くなった者たちの荷物も一緒に入れて、酒と少しのコイルを持たせ海に流す。これが海賊たちの弔いであり、涙を流しながらまた来世も共に生きようと願う。

 それから港に着いてから来客たちを宴会場へと迎え、そのまま宴が始まったのだ。

 さっきまで死者を弔ったのにと言う思いがシーニャたちにはある。だけど彼らは彼らの主義があるのだ。せっかく招いて貰えたのだから、それにケチをつけるようなことはしなかった。

「やぁ呑んでるかい?坊や~。」

 出された料理を次々に頬張るリオンの前に、酒瓶を手にやって来たレイラ。

 シーニャはリオンの食欲に呆れた表情のままレイラを迎えた。

「坊やは食い意地の方だったかい。いやぁ~、惚れ惚れする食いっぷりだねぇ。」

「うん、美味しいねこれ。」

 咀嚼しながら返すリオン。そのすぐ隣でシーニャは薄いブドウ酒を飲みながらリオンの世話を焼いていた。

「うんうん、しっかり食べとくれ。招いて旨そうに食ってくれるのは本当に嬉しいもんだね。…あ、お姉さんも食べてるかい?」

「はい、美味しく頂いてます。」

「ああ、あんたはこいつらの命の恩人だ。おかげで仲間を失わずにすんだよ。感謝してる。」

 そういって座り込んだレイラは頭を下げた。というのも、ついさっきまでシーニャは傷ついた海賊船の船員たちを次々に治療していたのだ。その手際の良さで重傷だったものから順に一命を取り留め、今は安静に眠っている者もいる。すでに事切れていた者たち以外全員が助かった事で、レイラはシーニャに涙を流して感謝したほどだった。

「もう、お礼はいっぱい頂きました。私こそ、リオンを海から拾ってもらって感謝してるんですから。」

「いやぁ、それはそれさ。正直言ったら、坊やをうちで使いたいなんて考えてたんだよ。

 だけどあんたは医者として命を救う一心で助けてくれた。一緒にしちゃ~何だか悪いよ。」

 さっきからこの会話は会う度に続いている。シーニャも最初はリオンを奪おうとしたことに憤るモノがあったが、この船長の性格を知ってからはそんな気持ちは微塵も起こらない。

「せっかくの命なんですから、助けられるなら助けたいって思いだけです。」

「そう言えるとこがまた惚れちまうねぇ。どうだい?坊やと二人、一緒に海賊やらないかい?」

 これまた何度目かの誘い。レイラはとにかくこの姉弟を気に入ったのだった。

「せっかくだけどごめんなさい。私はリオンと一緒にあのヒト達を南へ連れて行かなきゃいけないから。」

 そう言う視線の先、サーシェスの両隣に成長したパァムとポォムが一生懸命食事している。パァムの隣にミムジアナ、ポォムの隣にエフェメルが座って、楽しそうに踊りを見ながら、食事している。ミムジアナの向こうにトーマス、そしてエフェメルの隣はブリュムが座り、続いてシーニャが座っているのだ。

 ちなみにギルドの船員たちは対面側の向こうに座って、恐縮しているヒトがいれば、海賊たちと楽しく酒を酌み交わして唄っているヒトもいる。海で生きる者と言う事で、気が合うみたいだ。

「あぁそうだったね。でも気が向いたらいつでも言っておくれよ。あたいたちはいつでも歓迎するからね。」

 その言葉に笑みで返した。するとブリュムがジョッキを下ろしてから会話に入ってきた。

「ところでレイラ。一つ聴きたいんだがいいか?」

「あいよ、何でも聞いてくれ。」

 酒瓶をグイッと飲んでから腕で拭う。そんな姿もレイラには似合う。

「あぁ。昼間のシーゴブリンどもだが、あんな船団でいるのを今まで見たことあるか?」

「かぁ~、あいつらの顔を思い出すとせっかくの酒がまずくなるぜ…。

 だが言われてみると今日のは初めてだったな。いつもなら中型船1隻に小舟2~3隻程度だ。

 あれほどの船団は今まで見たことない。」

 愚痴りながらも真面目に答える。その辺りは流石生活に関わるだけに切り替える。

「ふむ、私も今日初めて知ったのでな。あのような船団がいるとなれば、うちの船も装備が必要かと思った所だ。…嫌な事を思い出させたな。許せ。」

「いやいや、良いって事よ。こっちも気を付けるようにするさ。」

 そう言って酒を飲み躱す。だが互いに気付いていた。亜人たちの勢力が強まっていると言う事。それが何を意味するのかという事も。

「な~につまらないお話してるんですかぁ~マスタァ~。せっかくのもてなしに固いことはぁ~言いっこなしですよぉ~。」

 陽気な感じでエフェメルがブリュムにもたれ掛る。すっかり酔って出来上がっているようだ。

「お~、ダークエルフの姉さんはいい感じだね~。そういやさっき、あたいらの部下が酒誘ってなかったかい?」

 ダークエルフの美貌の上、エフェメルは何かと体のラインが分かる服装をしている。更に酒の席と言う事で、エフェメルを酔わせて淫らな姿を拝もうと海賊たちは一気飲みを挑んだのであった。

「はい~。美味しいお酒をいっぱい頂きましたよぉ~。でもぉ~せっかくついでくれたヒト達はご覧のとおりなんですぅ~。」

 見れば、向こうで酒に酔って倒れてしまった者が何人も転がっていた。中にはギルドの者もおり、介抱されるまでも無くぐったりと酔い潰れていた。

「あれまぁ・・・情けない奴らだねぇ。しかしまぁきちんと酔い潰すとは姐さん酒に強いねぇ。惚れ惚れするよ。」

「あははぁ~、ついついおいしかったので呑み過ぎてしまいましたぁ~。」

 そう言うと立ち上がり、よろよろ千鳥足でシーニャのもとに向かう。そして座ってすぐ、シーニャを後ろから抱きしめた。

「シィ~イ~ニャアちゃん!」

「うわっ。驚かさないで下さいエフィーさん。」

「にゃはは~、ごめんね~。お姉さん楽しくてぇ仕方ないんですよぉ~。」

 そう言うと片方の腕でリオンの肩を抱く。

「リオンくぅ~ん、おねえちゃんは会いたかったですよ~。」

 そうされながらももぐもぐと食べるのを止めないリオン。

 一先ずくちの中のモノを呑みこむと、視線を向けて微笑んだ。

「ぼくもまた会えてうれしいですよ、エフェメルさん。」

 そう言ってまた食べ始める。するとエフェメルが急に不機嫌な顔を見せた。

「むむぅ~、いけません!いけませんよぉ~リオン君。」

 咀嚼しながら視線だけを向けるリオン。何を言いたいのかと不思議そうだ。

 そこにエフェメルが恨めしそうに言う。

「私の事をぉ、ちゃんと呼ぶですよぉ~。」

「モグモグ…だからエフェメルさんて呼んでるじゃないですか?」

「ち~が~い~ま~す~。違いますよぉリオン君。リバーサイドで別れた時に呼んでくれたじゃないですかぁ~。」

 半べそを掻きながら訴えるエフェメル。そんなエフェメルを驚きの表情で見つめるシーニャと思わず口の中のモノを吐き出しそうになったリオン。

「さ、遠慮せずに呼ぶですよぉ~。おねえちゃんは待ってるのですぅ~。」

 一気にご機嫌モード。そんな表情の変化が激しいエフェメルを横に、シーニャが首をひねる。

「どうしたのエフィーさん。リオン、何を言ったの?」

 そう問われて言葉に詰まる。リオンにとったら「おねえちゃん」という言葉は特別なモノなのだ。そしておねえちゃん=シーニャ以外に他ならない。

 だけどあの時、常に気にかけてくれるエフェメルの優しさに、別れを惜しんで言った言葉は確かなものだ。今更覆せはしない…。

「実はですね~。リオン君がぁ、『エフィーおねえちゃん』て呼んでくれたんですよぉ~。」

 困っている間に、エフェメル自ら暴露してしまった。途端にリオンは慌てる。

「うわぁ、あー、エフェメルさん…。」

「う~、また他人行儀ですぅ~。」

 遂に涙を流すエフェメル。泣き上戸ではないが、絡んでいるうちにすっかり酔っていることが伺えた。

 そんな二人を見ながら、シーニャがリオンを見つめた。

「リオン。」

 呼ばれてビクッとする。でも、そこで言われる言葉は厳しくも、優しかった。

「エフィーさんにそう呼んだのなら、ちゃんとそう呼ばなきゃダメだよ。私にとってもエフィーさんは命の恩人でもあるし、いつも見守ってくれてたから、私自身もお姉さんと思ってる。

 だからリオンもそう感じたんだったらそう呼んであげなきゃね。」

 そう言い聞かせるシーニャ。

 正直な気持ちは、リオンの『おねえちゃん』という言葉は自分だって特別な呼び方だと思っている。

 でもそれは強要する事ではないし、さっき言ったエフェメルに対する気持ちも本物だ。だからリオンがそう決めたならそう呼ぶべきだと感じたのだ。

「エフェメルさんは一緒に旅する中でずっと色んなことを教えてくれて、あの夜に一緒に泣いてくれたんだよ。だから、やっぱりエフェメルさんて呼ぶのはなんか違う気がして…。

 だからこれからはエフィーおねえちゃんて呼ぶね。」

 そう言うと、エフェメルは凄く嬉しそうに微笑んだ。そしてリオンはシーニャを続けてみる。

「でもね、ぼくにとって『おねえちゃん』はおねえちゃんだけだから、これからも『おねえちゃん』って呼ぶのはおねえちゃんだけだからね。」

 強調するリオン。そこはやはり譲れないものがあるのだろう。

 その言葉に嬉しさが込み上げるシーニャ。

「はい、分かりましたリオン。ありがとう。」

 そう感謝を言うと、エフェメルも嬉しそうに二人の肩を抱き締めた。

「嬉しいですね~、私にかわいい妹と弟が出来ましたぁ~。」

 そう言うエフェメルは本当に嬉しそうだった。ずっと同族と離れて一人ヒトの世界で暮らし、心細かった時もあった。でも、隣にいつもブリュムと名乗る親友メリサがいてくれた。そんな彼女とも家族同然な存在である。

 故にエフェメルは二人から離れると、ブリュムの横に戻ってそっと呟いた。

「メリサ~。私たちの妹と弟ですよ~。」

 上機嫌な言葉に、ブリュムは微笑むだけにした。感情をあまり表すことを自ら禁じているため、大きく反応する訳にはいかなかった。ただ、そうして思って貰えることは嬉しかった。

「良いもんだなぁ。血の繋がりはなくとも、共に過ごして信頼し合える家族か…。あたいらもそんなもんだよ。」

 レイラも嬉し壮夫に笑みを浮かべると、グイっと酒瓶を飲み干した。


 宴も酔い潰れた者が増えてきて自然と終わりとなる。

 夜も深まり、眠たげな双子を連れてサーシェス達は船に割り当てられた部屋へと戻って行く。

 一緒にミムジアナも付いて行くと、トーマスも船へと移動していった。

 酔い潰れた者はそのまま天気も良いので星空の下で眠らせている。

 レイラやブリュム・エフェメルが飲み直しと言って酒を酌み交わす隣で、未だ残る料理を前にリオンはまだ食べていた。

「リオン…、大丈夫なの?」

 一体どこにこれだけ入っているのかと不思議で仕方ないシーニャが尋ねるが、リオンのペースは落ちる事無くしっかり噛んで食べ続ける。

「うん。良く寝てたからかまだ食べられるよ。」

 今まで色んな医学書などを読んできたが、ドラゴニクスというリオンの種族が書かれた文献など見たことはなかった。一体どうなっているのかと興味はあるが、愛する弟を研究対象として見る事などシーニャにはできない。

 呆れ半分可愛さ半分で美味しそうに食べるリオンを眺める。

「坊や、よく食うねぇ。流石にあたいも大丈夫かって思っちまうよ…。」

 レイラがジョッキを煽る。そう言うレイラもワインから蒸留酒をストレートでずっと飲んでいるのだ。酒豪と言うより底抜けである。

「何にせよぉ~、元気になって良かったですね~。」

 相変わらず上機嫌なエフェメル。彼女も様々なアルコールを飲み続けているが、実はある一定量のアルコール値を過ぎると酒精成分が勝手に分解されるのだ。ダークエルフは基本的に酒や毒物などに耐性があり、更に隠密ギルドで情報収集をするにあたってこの能力を身に付けた。

 だからいくら飲み比べを挑まれようと平気なのだ。ズルいようだが、ばれなければ問題など無いのである。

「さて、少し酔い覚ましに話をさせてもらう。」

 ブリュムがそれまでの和やかな雰囲気を変えて語りかけた。だが、レイラは態度を変えずにジョッキを傾けたまま笑顔で頷いた。

「今回こうして知り合えたのも縁なわけだが、雇われる気はないか?」

 その言葉にレイラがジョッキを放し吹出しそうになった。

「…オイオイ、もしやとは思ったが直球で来るねぇ。」

「ややこしいのは嫌いでね。その方がそちらも良いだろ?」

「フフ、違いないね。」

 それまで横柄な態度で椅子に座っていたレイラだが、ブリュムへ向かって真っすぐに座ると足を組む。態度はどうあれ、相手の話を聞くと言う意味で相対を示したのだ。

「それで、どう言った形であたいたちを雇おうってんだい?」

 組んだ膝の上に頬杖を突き、その左拳の上に顎を乗せて尋ねる。ここからはビジネスだ。酔ってなどいられる訳がない。

「あぁ、まず確認だが君らは海賊を辞める気はないのだろう?」

 前もってレイラが考えていたのは、海賊として情報を回すと言う事だ。隠密ギルドに加担して海での情報を流すと言う事。だが、それはレイラが好む形ではない。だからその問いにはすぐに返す。

「もちろんさ。あたいらは海賊であって、それを辞める気はないね。」

「だとしたらギルドとして雇う訳にはいかない。海賊はあくまで略奪行為を行ったりするわけだから、商業ギルドと対峙する訳にはいかないからな。」

 やけにあっさり答えが返され、ブリュムもまた想定していたようだ。

「という事は、あんた自身が雇うって事かい?」

「その通りだ。君たちに仕事を依頼したい。」

「一先ず聞かせて貰おうか。何をあたいたちにさせる気だい?」

 ここからが本番。レイラは一言一句を聞き漏らさないよう注意する。

「明日、我らはイデアメルに戻るんだが、君たちでこちらにいるリオン達を南の大陸に運んでほしいんだ。」

 それを聞いて驚くのはシーニャであった。リオンは相変わらず食事を続けている。今は大皿に乗ったシーフードの炒め物を平らげている。

「さっきもお姉さんが言ってたね。…詳しい話を聞かせて貰えるかい?」

 レイラが体を起こし神妙になった。想定と違うが、難しい話では無いと断定した。でもそれならば、あの船で送ってあげればいいと思うため、事情を聴くことにした。

「あぁ、このリオン達は南の大陸にある多種族の住む集落を目指している。その為南の大陸に渡る必要があるのだが、この船は任務中だったのを私の一存でこちらに回したんだ。これから更に南を目指すとしたら時間が掛かる。

 流石にこれ以上はギルドマスターとて許されない。そこで君たちに彼らを南の大陸まで送って貰えないかと思ったんだ。」

 その話には一先ず頷ける部分もあるが、腑に落ちない事もある。

「質問だけど、南に行くならイデアメルからも客船が出てるだろ?そっちを使わないのかい?」

「確かに出ているが、目的地に行くならここから大きく南に迂回して『ナハトイデアール』南西部に向かうのが一番早い。

 それにイデアメルからの客船は全て『グランデュシュテルン領内』に寄港する。…解るだろ?」

「あぁ。」

 南の大陸『ナハトイデアール大陸』は、エアルス南半球で東西に長く広がる大陸だ。そして東は強力な国家『グランデュシュルテン王朝』が治めている。 

 この王朝はグレンデュシュルテン皇家に連なる七家から成り立っており、『グランデュシュルテン皇帝』の統治によって国民は豊かな暮らしをしている。

 世界でも生活水準が高い国であるが、それはあくまでもヒトの生活においての事。ヒト以外の人種は如何なる立場であろうと冷遇される社会になっている。

 そうした領地とイデアメルカートゥン城塞都市の連絡船は繋がっており、ミムジアナはもちろん、サーシェス達がそんな場所へ言ったらどうなるかなど容易に予想できる。

「だからあの海域を越えて大陸南西部まで送ってほしいのだよ。」

 ブリュムの説明にレイラは納得した。そして少し考えた後、その依頼を受けることにした。

「わかったよ。あんまり綺麗な場所じゃないけど、それでいいならあたいが連れて行ってやるよ。クィーンエストリア号でね。」

「感謝する。それで報酬だが・・・」  

「それはぼくが払うよ。」

 話に割り込んだリオン。口の周りに色んなソースがついて何だか微笑ましいが、シーニャによって口元が拭かれる。そんな微笑ましく拭き終るのを待ってブリュムが言った。

「いや、我々都市の協議会で海魔から救ってくれた君に謝礼を考えている。一方的だが、この費用をそれに充てたい。」

「それは必要ないよ。僕はおねえちゃんを助けたかっただけなんだから。」

「しかしだな・・・。」

 このまま互いに言い合う様子だ。そんなのを見せられると鬱陶しくて仕方ないレイラは会話を遮った。

「やめやめ、お代はいいよ。さっき坊やを助けたって事でたんまり貰ってるからね。それに欲出して追いかけて、挙句は救って貰った身なんだ。これ以上貰う気はないよ。

 それに何だか楽しそうじゃないか、坊やたちの旅っていうのも。あっちにはライディンって港町があるから、そこまで連れて行ってやるよ。」

 獰猛な獣の眼みたいに瞳を輝かせる。海賊レイラとして楽しそうなことにはどうしても首を突っ込みたがるのだ。

「いや、でも・・・」

 それでも子供であるリオンは主張しようとしたが、そこはシーニャが口を塞いで止めた。それを見てブリュムがまとめる。

「それなら頼むとしよう。私は付いていけないからよろしく頼むよ。」

 するとエフェメルが手を挙げて陽気に言った。

「私は付いて行きますからねぇ~。」

 その宣言にブリュムが難色を示した。だが、

「だって集落への案内がいないと行けないじゃないですかぁ~。それに気になるでしょ?マスターだって南の状況~。」

「あぁ…。まぁリオンがいるから大丈夫だろうが、用心してくれ。」

「はぁ~い。」

 その会話に首をひねったリオンだったが、その場はそのままお開きとなった。


 そして夜。エフェメルはニヤニヤしながらリオンに、

「今夜はシーニャちゃんに甘えちゃっていいですからね~。」

と言いながら、ブリュムと自分たちの部屋に向かう。

 割り当てられた部屋にシーニャとリオンが入ると、シーニャは服を着替える。

「それじゃリオン、寝よっか。」

「うん。」

 リオンは着替える必要が無い。鎧を脱いだ後、海に落ちたままだったので、シーニャから着替えを受け取って着替えている。そしてベッドに腰掛けると、着替えるシーニャをじっと見つめる。そんな視線に気づいてシーニャは動きを止めて問う。

「どうしたのリオン?」

 下着姿のままだ。普通ならば恥ずかしがってもおかしくないと思うが、シーニャにとったらリオンには裸を見られても恥ずかしいと思わない。

「うん。やっとお姉ちゃんと一緒に居られるんだな~って思ったんだ。」

 その返事に微笑むと、上の下着を外してゆったりとした大き目のシャツを着た。

「そうだね。あれからもう8年にもなるね…。」

 そう言うシーニャは服の中に納まった後ろ髪を両手で外に掬い出す。紺のサラリとした長髪が一本一本流れ落ちた。そして着ていた物を畳む。明日には海賊船で南に向かうため、荷物を今のうちに整理した。

「リオンは用意良いの?」

「うん。旅してるからあの一式で大丈夫だよ。」

 視線の先、部屋の隅に置かれた装備一式を収納した背負い鞄。ほつれもあり、萎びれた鞄にシーニャは胸を締め付けられる。

「大変だったよね…。あの時私が手を握ってたら…。」

 ここまで苦労させてしまったことに心が痛む。自分自身もつらい思いをしたが、それよりも大事な弟の事を思うと罪悪感でいっぱいになる。

 だけど、リオンは全く動じていない。

「そんな事ないよおねえちゃん。僕はあれから色んなヒトに会えたし、師匠のおかげで強くもなれた。そしてまたこうやっておねえちゃんと会えたんだから、何もつらいことなんてないよ。」

 そう言って満面の笑顔を見せる。今では成長して顔つきも凛々しくなった。そして何よりその痛々しい大きな傷痕はシーニャの胸を締め付ける。理由は聞いた。でも、一緒にいてやればこんな傷はなかっただろうと思えて仕方ない。

「ここまで…、ホントがんばったね。私なんて…、ずっと落ち込んで、終いには諦めたりしちゃったのに…。」

 手は止まり、俯くシーニャ。ネビュル達から説得されたとは言え、亡くなったと思ってしまっていたことに自己嫌悪する。

 そんな悲し気な姉にリオンは精一杯気持ちを伝える。

「それも聞いたよ。でも仕方ないと思うよ。何より、ぼくは絶対におねえちゃんとまた会うって思ってたんだ。その気持ちのおかげでここまで来れたんだもん。何よりおねえちゃんも元気でいてくれて良かったよ。こうしてまた会ってくれて、ありがとう。」

 とびきりの笑顔。その笑顔があの幼いころの笑顔とダブる。あれから忘れる事の無かった笑顔を前に心が大きく高鳴った。

(もう絶対にはなれたくない!)

 強い想いによって、瞳に涙を滲ませながらリオンに抱き付いた。

「お、おねえちゃん?」

 跳び付かれても受け止められるリオンだが、いきなり抱き締められて驚く。

「リオン、会いたかったよ…ずっとずっと会いたかったんだよ…。」

 シーニャはリオンの首に両腕を回し力いっぱい抱きしめる。その声は涙で濡れていた。込み上げる思いが止まらなかった。

 そしてリオンもまたシーニャの背に腕を回して抱きしめる。

「ぼくだって、ずっとずっと会いたかった。おねえちゃんに会うためにずっとがんばったんだ。」

 辛かったことが思い出される。挫けそうになった事もあった。でも、きっとシーニャに会えると自分に言い聞かせて来た旅。その願いがやっと今叶ったのだ。

 リオンの瞳から喜びの涙が流れる。

 シーニャの瞳からも涙が流れる。

 二人はやがて抱き合いながら声を出して泣いた。

 その後お互いに言葉はなかった。

 互いの涙と泣き声が相手に伝わる。

 お互いの悲しみを分かち合い、会えた喜びが二人を包み込む。

 やがてそれが安心へと繋がると、二人はそのまま共に眠りについたのだった。


 翌朝、顔を泣き腫らせた姉弟。リオンはそのままであったが、流石にシーニャは顔を洗い、出来るだけみんなに見られないように努めていた。

「あらあら~、どうしたんですかシーニャちゃん~。昨夜はリオン君ハグしすぎて眠れなかったんですかぁ~?」

 早速エフェメルがからかうが、そこは彼女らしい「気にしなくて良いよ」という分かりにくい気遣いだった。

 そんなやり取りの中、ブリュムから一同に話があり、メンバーは支度を始めた。

 そして皆が支度を終えて下船すると、ブリュムはエフェメルに声を掛ける。

「気を付けてくれ。」

「マスターもですよ~。」

 いつもの簡単な別れを告げて、隠密ギルドの船はイデアメルカートゥンへと向かった。すっかり蒸気機関も休まっており、数日で辿り着けるだろう。

 そしてリオン達一行は、レイラの指示によって資材などを積み込んだクィーンエストリア号へ乗り込む。大型の帆船で、それなりに部屋数もある海賊船だ。移動する傍らで船員たちは気合を入れて出港支度をしている。出航前だから気持ちが入っているのかと思ったが、レイラ以外の女性たちが乗り込むことで船員たちのテンションが止め処なく上がっているらしい。

「お前たち。客人だから粗相するんじゃないよ!」

 さすがにレイラから注意が促される。だが、どこまで聞いているか分かったものではない。

 飢えた男たちの中にいては、気が気でないだろうと、レイラは女性たち用に厳重な部屋を割り当てる。

 流石に世界の海を跨駆ける海賊だけあって、船内の作りはしっかりしており、女性たちの部屋はレイラの隣にあって防熱・防音対策がされていた。

 一方リオンとトーマスは簡素な部屋を割り当てられた。これから数日は海上での生活だ。リオンはシーニャに酔い止め薬を作って貰い、出来るだけ大人しくしておくことにする。

「それじゃぁ野郎どもっ、行くよぉーっ!」

「「「オオォ――――!!」」」

 物資を運びこんだクィーンエストリア号の甲板にて、レイラの号令が叫ばれた。

 同時に船員たちが威勢よく返事する。

 こうして海賊船に乗り込んだリオン達は、南へ向けて新たな旅が始まったのだった。


お読み頂きありがとうございます。

ここで第6章が終わるとともに、『オルハノコス大陸編』が終了しました。

そしてリオン一行はシーニャが加わり、新たな旅が始まります。

次回から南半球『ナハトイデアール大陸編』となります。

ヒトの町だけでなく、目的地みたいに多種族の集落がたくさんあります。

それによる様々な問題も起こる予定ですが、ここからはまた読んで頂ければと願っております。


さてここからは独り言で…。

今の気持ちとして、よくぞここまで続けられたと正直思っている所です。

一応ここまで予定通りですが、昔書いていた内容だったら、31話で既に終わりを迎えていたかもしれないような稚拙な内容でした。

だけど、こうして物語を書いているうちにキャラたちが本当に生きてきて、「こう喋るんじゃないかな?」「こんな行動するんじゃないかな?」などと考えてしまう幅が広がり、結果、物語自体が大きくなってきています。

これ収集つくのかな?なんて思ったりしてますが、そこはきちんと最後までやり切るつもりですので、宜しければ今後ともお読み頂けますようお願いします。


次回からまた新しいキャラが増えますが、あまりに女性率が高過ぎますね…。

これはちょっと考えなくちゃですね(笑)

人種もまた増やさなければいけませんね。


これからも皆様に楽しんで頂けるよう頑張って参りますので、

どうぞよろしくお願い致します。

それではまた次回まで。



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