海上での攻防(再会、その時…)
ブリュムたちを下ろして少し離れた位置で待機するギルドの船。
その甲板上では固唾を飲んで海賊の船を見守る一方の姿があった。
「あー、なんかもう終わりそうだニャ~。」
船の高い場所から手を目の上に添えて眺めるミムジアナ。その視線の先ではすでに甲板上が落ち着いてきたのが見えた。
「そうですか。でも、あれだけまだ海にいますから戦いは続くでしょうね。」
サーシェスが船の向こうに見える小舟の集団を指摘する。そう、未だにシーゴブリンの小舟は20隻ほどが海賊船にまとわりついており、更に奥には30隻ほどの小舟と中型船が見える。
「もう少し温度が低ければ、私が凍らせてしまえるのですが…。」
サーシェスが悔しそうに呟く。実際ここは黄線ではないが、近い地域であるため北の方面に比べるとかなり気温が高い。そのせいでサーシャス自身熱にやられてしまわないよう熱遮断効果のある『火鹿のマント』を纏っている。
「仕方ありません。誰にでも得手不得手はあります。今はブリュムさんたちを信じて待ちましょう。」
リオンの傍にいるシーニャが言った。その視線は海賊船を見ているが、手はリオンの頬を触れたまま離れようとはしない。
(もう、離れたくないという気持ちの表れですかね)
サーシェスは穏やかな視線を送った。ようやく会えた姉弟なのだから、彼女もまた2度と二人が離されることが無いよう願っている。
「リオンはまだ起きそうにありませんか?」
「はい。やはり無理をしてたみたいでもう暫くかかるかと思います。」
「船ではずっと食事を摂っていなかったところで海魔と戦ったのですから、無理もありません。」
ここに来る間に船でのリオンの状態はシーニャに話していた。それを聞いて焦る気持ちを抑えながら今に至っているわけだ。
ただ、彼女が医師であって良かった。先ほど手持ちの薬を水で溶いて栄養剤を作ると、リオンの唇に湿らせるように飲ませたのだ。おかげでリオンの顔色は少し楽に見える。
ここまで幼い体に無理をさせてきたのだ。今はゆっくり休んで欲しいと願う。
「目を覚ますまでは待つことにしましょう。体を休めること。それがリオンにとって今一番必要でしょうから。」
早くお話したいと願う気持ちはある。だけどそれはまたこれからの楽しみにできる。今はただ、こうしてぬくもりを感じられることにシーニャは感謝した。
「あ、こっちに向かって来てるニャ。」
ミムジアナが叫んだ。海賊船の向こうから中型船1隻と小舟5隻がこちらに向かって進んできた。
「船長、逃げるニャ!」
ミムジアナの叫びに応じて船が動き出す。速度のある船だけに余裕で逃げられるだろう。だが、こちらもまた問題が発生していた。
「蒸気機関が熱でやられています。暫く冷却が必要です。」
乗員が叫び、船内が慌ただしくなる。ただし、通常航海はできるので帆を張って進む。
「これで何とか大丈夫でしょう。」
船長がシーゴブリンの船を見ながら、互いの距離を目測し判断する。確かに蒸気が無くてもこの船は風の魔法を用いた航海が可能である。
「ここまで休みなく使ってましたからね。そして先ほどの急速航行で負担が一気にかかったのでしょう。速度重視のため、大砲はありませんから注意は必要ですがね。」
そうお道化て見せるが、確かに緊張感は残っている。海は何が起こるか分からない。今は逃げながらも周囲に気を配るようにしていた。
そんな時だ。後方から追って来ているシーゴブリンたちの1隻の小舟が海面から消えた。
「何だニャ?」
ヒト5~6人ほどが乗れる木の舟だが、一瞬のうちに見えなくなったのだ。そしてその隣の舟も消える。
「何か見えたニャ!」
消える前に船体に何かがまとわりついたようだった。そして残されたシーゴブリンたちは、ワイワイギャーギャー騒いで停まっている。
その内、海面に巨大な影が浮き上がってきた。その影はシーゴブリンの船を覆い尽くす広さで、次第にその姿が浮かんでくる。同時にシーゴブリンたちの船は、影の浮上に伴う波に煽られて転覆。そして海に落ちた亜人たちは浮かび上がったモノに捕食されたのだった。
その姿は言い表すと巨大な頭足類だった。タコに似た大型の頭足類生物。しかしギョロッとした目玉は頭の中央に一つだけで、その下は大きく裂けたような口に無数の大きな牙が並んでいる。そして蛇のように船やシーゴブリンを握る複数の腕。一瞬のうちに巻き付いて締め付ける力は恐るべき怪力で、今や船自体が粉々にされてしまった。
「アルダイトス!」
船長が真っ青な顔になって呟いた。
この星の広大な海において船乗りたちが恐れる対象は3つある。
一つが「海魔」であり、二つ目は北の海に生息すると言われる神獣「ブルードラゴン」だ。ブルードラゴンに至っては海神トリスタンの忠実なる僕であり、悪しき者を襲うとされている。
そして3つ目が目の前にいる『アルダイトス』である。この生物は先に挙げた海魔やブルードラゴンと違って個体種ではない。つまり種族であって世界中の海に生息している訳である。もちろんそんな大型の生物がゴブリン並に増殖している訳ではないが、野性的なその生物は本能のままに他者を襲い、そして喰らう。
今まさにその野生頭足類生物が目の前に現れたのである。
「ニャんか、このままだと危険ニャ気がするニャ…。」
ミムジアナの直感がそう伝えてくる。しかし、それを否定する意見をサーシェスが言う。
「で、でも海の生き物ならば、女神さまの加護を持つシーニャさんに襲ってきたりしないはずでは?」
そう、海の女神ティリュースによって与えられた女神の加護。海で如何なる困難も遭遇しないという加護であるが、今この状況が遭遇していると判断できる。ましてやシーニャ達でなく海賊やデュリュヴであるシーゴブリンが招いた悪運には適応しているとは思えない。
実の所、女神の加護は天候などに影響されず航行が出来るというご利益があり、生物に関しても自分の眷属たちからの影響を受けないというものである。つまりデュリュヴであるシーゴブリンは効くわけがなく、アルダイトスなど大型で中立的なモノは遭遇率が低くなるという程度である。
そのため、アルダイトスの巨大な目が見開き、サーシェスやミムジアナを捉えた。
「ニャニャニャ!あれは獲物を狙う目ニャン!」
「こうなっては仕方ありません。」
サーシェスは海へ魔力を送りアルダイトスを凍らせようとした。途端に海面が凍ってアルダイトスの体も凍り始める。
しかし、アルダイトスの腕が力任せに振られると、氷の表面は簡単に割れてしまった。
「クッ、やはり凍りませんか。」
海水は凍りにくく、特に海は流れがあるため凍結させるには難しい。寒い場所でならまだ何とかできたかもしれないが、この暑い気候の中では厳しい状況だ。
「かくなる上は、私自身が氷となってあれを抑えます。そのうちに逃げてください。」
サーシェスは自分の身を犠牲にと考えた。ここまで一生懸命尽くしてくれたリオン。ようやく会えたシーニャと、碌に再開を喜ぶこともできず死んでしまうなど、到底許されることではない。
せめてここまで来れた恩返しをと身を乗り出そうとした。
しかしミムジアナがその体を抱いて止める。
「ダメニャ!サーシェスが死んだら双子ちゃんたちが悲しむニャ。」
「でもこのままじゃ皆が食べられてしまいますよ。」
「それでもダメニャっ!こんな熱い海水だから先にサーシェスが死んでしまうニャ!」
ミムジアナの言葉に、サーシェスは黙る。確かにこの熱さではどれほど保つだろうか?それでも足止めで皆が助かる可能性があるならばと覚悟を決めた。
そこで呟かれる一言。
「・・・・・おねえ・・ちゃん?」
戸惑いながらの声。その声にその場にいる皆の視線が向けられた。
「リオンっ?気が付いたのね。」
シーニャが喜ぶ。同時にサーシェスとミムジアナも笑顔を見せた。
だが、時間は待ってくれない。白い大きなタコの腕が船体を捉えようと伸びてきた。
「来たニャ!」
ミムジアナの毛が総立ち、サーシェスが手を出してアイスボールの魔法を放つ。
しかしその攻撃にさほど効いた様子もなく腕の先端が船の柵を掴んだ。
「ニャ―ッ!」
ミムジアナが飛び掛かって引っ掻く。それによって表面が裂かれた腕は柵を放して一度退いた。
「一体、どうなってるの?」
体を起こすリオン。その手助けをしようと寄り添うシーニャが言った。
「今海の上で、大きな海洋生物がこの船を襲って来てるの。リオン、戦える?」
「…十分じゃないけど、守るくらいしかできない。今は飛ぶことが出来そうにないから。」
「うん。ごめんね、休ませてあげたいのにあなたに頼るしか出来なくて…。」
悲し気に俯く姉。そこにリオンが笑顔を見せた。
「ううん、こうやっておねえちゃんに会えたんだ。だからおねえちゃんや皆を守るのが僕のできることだから、がんばるよ。」
「・・・ありがとうリオン…。でも無理はしないでね。」
そう会話した後、シーニャは持っていた活力剤をリオンに渡して飲ませた。
その効果によって、リオンは船酔いが消え、気力が戻る。
「すごいやおねえちゃん!気分悪いのが消えたよ。」
そう言うと、ミムジアナの隣に向かいその大きな楯を前に向けた。
その後方で、シーニャは皆の無事を祈った。
リオンの参戦でアルダイトスの腕から船を守ることができた。咆哮できないが、リオンの装備は巨大な腕を物ともせずに押し返す。またミムジアナもその腕に乗りながら縦横無尽に飛び交って攻撃していた。
「くそぉ、キリがないなー。やっぱり本体を攻撃したいけど遠すぎる。」
リオンが愚痴る。そこに1本の腕を飛び蹴りしたミムジアナが隣に着地した。
「そうだニャぁ。サーシェスの攻撃が熱くて通じニャいからじり貧だニャ~。」
「攻めて飛べたらいいけど…。」
「ダメニャよリオン。体が悪いのに無理したら、せっかく会えたシーニャが悲しむニャ。」
そう言われるとどうしようもない。
「ごめんなさい。私の魔力がもう少し強かったら…。」
アイスボールの魔法で牽制するサーシェスが呟く。
「そんなこと無いですよ。こうして牽制してくれるだけでもこっちはずいぶん楽なんですから。」
同時に数本が来るとどうしても船自体に被害が出てしまう。だからこそ海水を凍らせて腕の進行を遅らせるサーシェスの行動はありがたかった。
「もう少ししたら、きっと蒸気も動くはずニャ!それまで頑張るニャ。」
今暫くは防御に耐えるしかない3人であった。
一方、海賊船では船内のシーゴブリンを一掃した。だけど船の壁を破壊されて、そこからゴブリンが侵入して来る。なんとかそれを食い止める海賊たち。そしてブリュムはシーゴブリンの舟に乗り、足場を確保しながら次々と斬り伏せていった。
トーマスもまた、足場を確保してゴブリンたちを殺していく。ただ海の上であるため、足場に気を付けることで暴走せずに済んでいた。それがトーマスを苛立たせるが、海に落ちてはどうしよう無いことは理解しているため作業的にゴブリンを斬っていった。
「マスター!」
突如エフェメルの声にブリュムは目の前の1匹を屠った後、壁を走って登り甲板へ戻った。そこで自分たちの船を見ていたエフェメルを発見し、視線を向ける。
「なっ!」
さすがに驚いた。巨大なタコみたいな生物が船を襲おうとしていた。
「どうして逃げない?」
端的な質問はいつものこと。エフェメルは聞かれたことを理解して答える。
「どうやらここまで負担かけたせいで蒸気機関が動かないみたいです。今は何とかミムジーやサーシェス姉さん、それとリオン君も気が付いたみたいで守ってくれていますが、どこまで持つか心配なとこですね~。」
「お前では無理か?」
「はい~。残念ながらあのオオダコは魔法耐性が高いんです。ましてや私のぉ魔法は大地が主なのでここでは効果が薄いですぅ。」
「船の再起動を待つしかないのか…。」
向かおうにも離れすぎた場所だ。陸地ならともかく、海上を走ることは不可能。歯痒い思いをするしかなかった。
そんな時、エフェメルは気付いた。船の方から巨大な魔力が発生したのだ。それも二つ。
「なんて強い魔力…、この魔力は…まさか!?」
馴染みある独特な魔力は甲板に姿を現すのだった。
隠密ギルドの蒸気船内にある客室。そこに二つの白い珠がある。雪の様なそれぞれ二つの珠に突然亀裂が入った。
亀裂はみるみる珠全体に広がり、やがて音も無く霧散すると、中から色白の良く似た子供が現れた。それぞれ男女で、大きさは60cm程の身長だ。
二人は第1次成長を終えたパァムとポォムだ。それまでの頭でっかちな人形のような容姿ではなく、ヒトの幼少期の様な姿形をしている。幼げな顔に水色の髪、前の様なクリっとして大きな瞳。鼻は低い。
二人ともサーシェスの様に美形であるが、パァムは女の子らしい容姿に、ポォムは男の子らしい姿になっていた。
「おはよーポォム。」
「おはよーパァム。」
二人はにっこり笑いながら互いに挨拶を交わす。そして手を上に伸ばして大きく背伸びしながら床の上に降りた。
「おっきくなったね。」
「うんうん、おっきくなれたね。」
以前の2倍の高さ。そして二人は周囲を見て様子を伺う。誰もいない状況で、パァムが斜め上を見上げた。
「みんなお外だね。サーシェス様も外だし、リオンおにいちゃんもいるよ。」
「うんうん。遠いトコにエフィーおねえちゃんもいる。あと、なんか気持ち悪いのもいるね。」
二人は魔力を感じ取る。以前よりも研ぎ澄まされた感知能力は、より詳しい状況を二人に教える。特にパァムは感知能力に優れており、船内の乗員やシーニャ、ミムジアナの様子も捕えていた。
「リオンおにいちゃん、調子悪いのかな?魔力が弱いね。」
「うん。この間ので疲れてるんだと思うよ。だから、あの気持ち悪いのを倒しに行けないんだね。」
「あと、船が壊れてるみたい。逃げられないので、サーシェス様たちが戦ってるね。」
「うん。それじゃ僕たちも行こう!パァム。」
「そーだね、あれ使おう!ポォム。」
そう言い合うとお互いににんまりと笑顔を見せ合い、衣装を着ていない二人は近くにあった火鹿のマントを羽織ると、部屋を出ていった。
甲板で様子を伺うシーニャ。その横の扉が開き、中から二人の小さな子供が二人出て来た。咄嗟に誰か分からなかったが、目の辺りが双子に似ていた事でパァムとポォムだと理解する。
「パァムとポォムなの?」
「うん。」
「そーだよー。」
問われて二人は笑顔で応じた。シーニャは直ぐに二人を抱き締める。
「わわわっ!」
「なになに?シーニャおねえちゃん。」
「今こわい怪物が襲って来てて、皆戦ってくれてるのよ。だからここでみんなを応援しましょう。離れたら危ないからね。」
すると二人は互いに見つめ合い、シーニャににっこり笑って見せた。
「だいじょーぶだよ、シーニャおねえちゃん。あんなのやっつけてやる。」
ポォムが自信たっぷりに言い放つ。
「シーニャおねえちゃん。わたしたちはまほーが使えるから倒せるよ。」
パァムが心配しないでという顔で言った。
そんな二人に面食らうシーニャだが、幼く愛らしい二人をあのような危険な場に行かせたいとは思わない。
「ダメよ、危険だわ。」
「だいじょーぶだよ。だって、リオンにいちゃんは今疲れてるんでしょ?代わりに僕らがやっつけるから任せて!」
ポォムの言葉に面食らうシーニャ。リオンの体調が分かっていることに驚く。
「シーニャおねえちゃん。このままじゃ危ないでしょ?だからわたしたちに任せて。お願い。」
パァムの一生懸命なお願いに、シーニャは言葉が出せずに頷いた。
「…分かったわ。でも、絶対ケガしない様にしてね。無茶な事もダメだよ!」
「「あーい。」」
二人は元気よく返事した。そして抱かれていた腕から解放されると、二人は少し前に出る。
「サーシェスさまー。起きたよー。」
ポォムの声にサーシェスが振り返る。しかし、現状手を抜く事が出来ないため、微笑を見せてから攻撃を続けた。
「忙しそうだね。…それじゃやっちゃおうか。」
「うん、やっちゃおー!」
二人の気軽な会話の後、そこに濃厚な魔力が集まり始めた。その魔力に思わず手を止める一同。流石にアルダイトスさえも動きを止めている。
「えっ?パァム、ポォム?何してるの・・・?」
状況の分からないリオンが呟く。そこに降りてきたミムジアナが笑顔を見せた。
「起きたニャンね双子ちゃんたち、可愛いニャン。」
集まっていく魔力よりもその容姿に注目していた。そしてサーシェスが蒼褪める。
「まさか、二人ともあれを使う気ですか!」
そう言った瞬間、二人は呪文を唱えた。
「「われは求め訴えたりぃー
いでよー、大いなる雪のけっしょー!」」
その瞬間、二人の頭上に大きな雪玉が2つ現れる。最初は1m程の雪玉が次第に膨れ上がり、3mもの大きさまで膨らんだ。
「「フュージョーン!」」
そう叫ぶと二人それぞれ雪玉に吸い込まれるように入っていった。
そして大きな雪玉と化した二人は更に空へと浮かぶ。
そして最後の呪文を唱える!
「「きゅーきょくがったぁーい!」」
途端に二つの雪玉が横並びにゴツンっとぶつかり合わさると、その合わさった場所を中心に回転を始める。その中で次第に雪玉の姿が変わっていった。
パォムの雪玉は接合部と反対側に2つ小さめの雪玉が出て来ると、それぞれの先に細長い板のような形の氷が水平に伸びた。それはまるでスキー板を付けたような感じだ。
一方パァムの雪玉は中心から円錐の形をした氷が突き出し、接続部と反対側には帽子のような細長い円柱がやや斜めに突き出す。そこからポンポンポンと言う感じで幾つもの雪玉が撃ち出されると、それぞれが連なり左右に分かれ、ポォムの雪玉の左右に連結した。まるで腕のように伸びたその先端で小さめの氷柱が5本伸びる。
最後に付きだした氷の円錐の傍に二つの青い楕円模様が現れる。その模様が陽光できらりと光ると、回転が止まってそこに1体の大きな雪だるまが空に浮かんでいた。
唖然として見上げる一同の視線の先で、双子の声が轟いた。
「「完成っ!合体召喚戦士。」」
雪だるまが右腕を突き出す。
「「ユキっ」」
今度は左腕を突き出す。
「「ダルっ」」
最後に両腕を空に突上げた。
「「マァーーー!」」
太陽の光を背に受け、光り輝く雪だるま。否、召喚戦士『ユキダルマー』。
皆が呆気にとられていた。そこからいち早く立ち直ったのはリオンだった。
「すごいっ!カッコイイ―。」
男の子ならではの歓声が叫んだ。そしてミムジアナも珍しそうに
「すごいニャ、強そうニャ!」
好奇心旺盛なミムジアナの関心を集める。
その姿は正しく雪だるまであった。しかもスキー板を履いた足付き。
「かいぶつめー!このユキダルマーがやっつけてやるぞ!」
ポォムの声が響く。するとユキダルマーは坂道を滑るかのように加速して一直線にアルダイトスへと突っ込んで行く。そして右腕を振りかぶると
「ユキダルマー・パーンチッ!」
その頭を思いっきり殴りつけた。その衝撃でアルダイトスの頭が歪み、次の瞬間海面を転がるように吹っ飛んだ。
「まだまだぁー」
そこへ追い打ちをかける様に滑って行く。今度はそのまま両足を揃えて脚底を向けるとそのまま跳び蹴りの姿勢で突っ込んだ。
「ユキダルマー・キ―――ック!」
強烈なキックはアルダイトスの頭部を陥没させ、海中へと押し沈めた。
その強烈な攻撃力に見ている者たちは圧倒されるしかなかった。そんな中でシーニャが静かに呟く。
「すごい…。すごいんだけど…あまりに受け入れ難いわね。」
可愛い雪だるまが大きな気味悪いオオダコを圧倒する風景。現実とは言え、流石に受け入れるにはすんなりいかないモノがある。そこにサーシェスが解説に入ってきた。
「あの子たちが使える召喚魔法の一つです。コロプクルに伝わる召喚魔法で、幼い子供たちの守り神とされるユキダルマーです。実際、雪や氷の魔法を使って子供たちを邪な存在から守ると聞いていましたが、まさかあのような戦い方をするとは思ってもいませんでした・・・。」
その顔は少し悔やんでいる感じがある。サーシェス自身コロプクルの歴史と言っても過言ではなく、彼女の知る話は共に生きた者たちから教えられた事。召喚魔法には適性の無いサーシェスだけに、実際のユキダルマーは話で聞いただけの存在であった。その考えが今、尽く覆された訳である。
「ところで、こんなに暑い中でも大丈夫なんですか?」
シーニャの問いにサーシェスは頷く。
「はい。召喚されるとその周囲を特殊な魔力結界が生じて、気温などによる環境の影響を受けません。逆に召喚された方は周囲へ影響を与えます。だからこそ召喚魔法は強力な魔法なのです。」
そんな会話のうち、海中へ沈んだアルダイトスがなかなか浮上しない事にポォムが業を煮やす。
「くっそー、逃げたかな?」
だがパァムがそれを正した。
「ううん。海中でいるよ。…!いけないっあのまま下から船を狙うつもりだよ。」
感知能力に優れているため、アルダイトスの姿が海中でも姿が影となって認識できる。その認識は同化しているユキダルマー内でポォムにも共有できた。
「ひきょー者め、そうはさせないぞっ。」
ポォムは両腕を海面に突き出す。するとユキダルマーの5本の指の様な氷柱が腕の一番先にある雪玉を覆い、先端が鋭いつららとなった。
「行けっ、ツララパーンチッ!」
両腕のツララが発射されると、二つが海中に潜る。勢いよく射出されたツララパンチはそのまま伸びるアルダイトスの腕を貫き、切り落として行った。
思いもしない攻撃に腕を失くしたアルダイトスは逃げようとする。しかしツララパンチはそのままアルダイトスの大きな瞳を貫き倒した。
ツララパンチはその後海上へ飛び出すと、そのままユキダルマーへと向かい、元在った腕へと戻った。そして再び手に姿を変えると、両手を空に突上げる。
「「勝ったぁ―――!」」
ちょうど骸となったアルダイトスが海上に浮かびあがり、船では喜びと安心の声が上がった。
「よし、このまま向こうもやっつけて来るよ。」
ポォムが叫ぶと、ユキダルマーは海賊船の方へと向かって滑るように飛んで行く。その姿はまた何とも言えないモノがあるのだが、今最も頼れる存在なので、「よろしくねー」と応援したシーニャたち。
「何にしても、助かったよ。」
安心からか、それまで立ちっていたリオンがふらつく。するとすかさずシーニャがその体を支えようとしたが、リオンは重さで巻き込んでしまうと察して踏んばった。その結果、倒れることはなかったが、シーニャに抱きしめられることとなる。
「リオン、大丈夫?」
心配そうな声。それにリオンはニコ~っと笑って見せた。あまりの笑顔にそれを見ていたミムジアナが訝しむ。
「どうしたニャン?リオン。」
女性3人に見つめられる中、リオンは懐かしげに言う。
「おねえちゃんの匂いだ…。」
それを聞いてハッとした表情を見せるシーニャ。同時にミムジアナとサーシェスは視線を交わすと微笑んだ。
今ここでようやく姉弟は巡り会えたのだ。
「うん。…ごめんねリオン。あの時助けてあげられなくて…。」
海に落ちて行った弟の姿を今でも覚えている。それこそが彼女にとって一生の悔いだ。
だけど弟はそんな姉に言う。
「ううん。でもおかげで色んな経験をしたし、こうしてまた会えた。…ただいま、おねえちゃん。」
笑顔で言われ、シーニャは瞳に涙を浮かべて笑顔で応じる。
「うんっ!おかえりなさい、リオン。」
それから二人は互いに抱き合った。
溢れ出る涙。漏れ出す嗚咽。
でも、それは互いに存在を確かめ合う結果であり、決して悲しみは感じなかった。
そして、もう絶対離れないと言う思いが互いを強く抱きしめあわせていた。
そんな二人に当てられて、ネコミミ少女と小さな女性は溢れる涙を堪えられずにいた。
「良かったニャンね~。ホント良かったニャン…。」
「ええ。良かったですね。おめでとうリオン。シーニャさん。」
そんな感動の向こう側で、ユキダルマーの超魔法が炸裂していた事など、気付く訳がなかった。
シーゴブリンの船団はまだ数十隻残っている。ある程度広がっているが、全長8m弱のユキダルマーからすれば、十分な射程範囲だった。
「まとめてやっつけるぞ!」
「あれを使うのね。」
ポォムがいうと、パァムが合いの手を打つように言った。そしてユキダルマーが海賊船横に辿り着くと、甲板上のエフェメルに気付く。
「エフェメルおねえちゃん、一気に倒しちゃうから落ちないようにしてね。」
「え?パァムちゃんですかぁ~?」
「うん。」
「ぼくもいるよ。」
「ポォムちゃんもぉ!お二人が雪だるまになっちゃったんですかぁ!?」
「これは魔法だよ、おねえちゃん。」
「あとはぼくたちに任せて。」
焦って尋ねるエフェメルに双子がそれぞれ気軽に返す。そして両腕を前に突き出すユキダルマー。その間に魔力が急速に集まっていく。そして数秒後、
「「ブリザードバスター!」」
二人の声が叫ばれると、腕の間から巨大な魔力が迸った。
その魔法は広範囲魔法。荒れ狂う大吹雪に指向性を持たせた結果、範囲内の敵を凍て付かせ吹飛ばす。また荒れ狂う氷雪は全て氷の刃であり、触れた者は全て切り刻んでしまう。シーゴブリンたちへ放たれた吹雪は全てを絶命へと導き、戦闘は終了したのだった。
シーゴブリンの脅威が去って、海賊船では負傷者の手当てや船内の修理が直ちに開始された。レイラもそれなりに負傷していたが軽傷程度であり、元々頬に傷があるため、傷痕を気にする事もなかった。
だが、数名の船員が命を落とした。その事が彼女の心を痛める。
ひとまず死んだ魂たちに脱帽し祈った後、ブリュムたちに礼を述べた。
「あんたたちのおかげで何とか凌げたよ。心より感謝するよ。この通りだ。」
脱いだままの帽子を胸に、深く一礼するレイラ。その姿勢は貴族然とした立ち振る舞いであった。
それに言葉を返そうとエフェメルが言葉を発する前に、ブリュムが珍しく前に出る。
「いや、気にしなくて良い。亜人共は我ら共通の敵だ。」
そう言って頭を上げる様に言う。言葉に倣ってレイラは再び帽子を被ると、船とユキダルマーを見た。ユキダルマーは既に自分たちの船へと向かっている。
「それにしても、スゴイ戦力さね。あれほどの力があったらあたいたちじゃとても敵いそうもないねぇ。」
「ああ。よくぞ味方でいてくれると思うよ。」
するとレイラはさっきまでのシリアスな表情を一変させた。
「さて、命を救われたんだ。このままさよならってのはあたいの主義に反する。良かったらあたいたちのアジトに来ないかい?歓迎するよ。」
その申し出には流石に応じられないと思った。恩があるとしても、そこで寝首を掻かれるかもしれないという危機感が働く。それ位でなければ隠密などやっていられない。
「あぁ、ホント今回はあたいの礼だよ。絶対に寝首を掻いたりなんてしないさ。見た所、どうやら船がトラブルみたいじゃないかい?修理場所だって貸すよ。」
やたらと世話を焼こうとする。だが、それでも決断は出来ない。そこでレイラからもう一声送られた。
「あ~、仕方ないねぇ。あたいらの旗に誓ってあんたたちには手を出さない。だからあたいたちからの礼と思って受け取っておくれよ。」
海賊にとって命や財宝は大事だが、それ以上に海賊旗はシンボルとして大事にしている。自分たちが海賊を始めた時からその想いや契りを込めたみんなの象徴。それを無碍にすることは、自分は海賊ではないと言っているモノだ。その旗に誓うと言った以上、海賊ならば信頼しても良いだろう。
もしも裏切るようなことがあれば、旗に誓うと言ったくせにと世界中に教えてやれば良い。自分たちの誇りを自ら汚すようなことを海賊は嫌うのだから。
「それならば厄介になろうか。エフィー、向こうにそう連絡してくれ。」
こうして1時間後、2隻の船は並んで海を進むのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
あれよあれよと30話まで参りました。作者本人としては、もっと短く終わる気がしておりましたが、色々と書いているうちに変更されてここまで来れました。
もちろんお読み下さる方々がいる事が、一番の励みです。
なのでお読み下さる方々には心より感謝しております。
さて今回は正直、やりすぎちゃいました…(反省)。
正直私は思い付きで行動しやすい人間です。
それで、今回も双子の召喚に関しては別の事を考えていたのですが、「こういうの面白そうだ」という思い付きが働き、終いにロボっぽくしてみようという感覚から今回の内容となりました。
数年後に読み返してどう感じるかは分かりませんが、今回出したユキダルマーは満足しました。
同時に姉弟の再会をここに入れました。
こちらは予定外でしたが、余り長々と会わせないというのは嫌だな~って思ったのと、のこる後編のお話全体を二人で行かせることにしてみようと考えた次第です。
ここまで離れていた二人の時間が、これからまた一緒に動き出すという流れ、個人的に楽しみになっております。
ともかく、もう少しこの第1部は続きますが、これまで作っていた内容を変えて自分の納得いく物語にしたいと思っております。
そして、読んで下さる皆様が楽しんで頂けたら幸いです。
ではまた次回まで~。




