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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
30/93

海賊船クィーンエストリア号

 にわかに海賊船が騒がしくなった。背後から一隻の船が凄いスピードで迫ってきたからだ。

「お頭ぁ~、後ろから船が迫って来やすぜ!」

 帆の上にある高見台より、監視員の声がマスト沿いに備え付けられた伝達管を通じて、船内全体へと異常発生の報が伝えられる。

 その声に慌ただしくなる甲板上。その中央で潮風を受けながら座っている船長が声を張り上げた。

「ざわついてんじゃないよっ!」

 その一括で周囲は静まり、それぞれが次の声を待つ。

「どこのどいつだい?カロライレの戦艦でもやって来たのかい?」

 船長が訝しげに聞くと、伝達管から答えが返る。

「違ぇやす。見たことねぇ船でやんすね。…旗は付いてねぇですぜ。」

「旗がない…?そいつぁイデアメルのお偉いさんかもだねぇ。連れに来たか。」

 船長は少し考える。赤いキャプテンハットに同色のドレスを着た女性だ。

 金髪の長い髪で、前髪によって右目が隠れている。顔立ちはその荒くれた雰囲気とは違い美形であるが、左頬に傷跡が残っている。体格は荒事でも熟せそうな筋肉質で身長も高い。潮風に吹かれる中で物思いにふける姿は、船員たちの鼻下を伸ばさせる佇まいだ。

 そんな姿を束の間見せた後、船長はギロッと周囲を睨む。それに応じて船員が慌てて顔を引き締める。

「お前たちっ、多分あいつらはこないだ海で拾ったあれを取り戻しに来てるはずだ。海賊船を襲おうっていい度胸だが、海の上で舐められるんじゃないよっ!」

「イエスマァーム!」

 威勢の良い返事があがると、伝達管から声がした。

「敵、後方より接近。かなり速いですぜ!このままじゃ、尻に突っ込まれやすぜっ!」

「喧しいっ、下品なことぬかすんじゃないよ!」

 かなり焦って伝わる言葉に、船長が怒鳴りつけた。そして急ぎ甲板脇に向かって後方を確認する。

「何だいありゃぁ…。速いなんてもんじゃないね。あんたら、場合に寄ったらこのまま闘り合うよ。」

 それを聞いて船員たちは戦闘準備を行う。その間に船長は拡声器を取りだした。

「おいっ!後ろから来る船に告げる。あんたら、この船がレイラ様の『クィーンエストリア号』と知って掛かって来るんだろうね?」

 その途端、船が速度を落とし始めた。そして横に並ぶと、その甲板にヒトが出てくる。黒い衣装のヒトと、ダークエルフ。それから医師の帽子をかぶった若い女と戦士風の男。あとフードを目深にかぶった子供にキャッティアの女。

 黒い衣装とダークエルフを見て、海賊船長『レイラ』はその正体を察した。

「その姿。隠密ギルドのマスターとサブマスターだね?」

 それに対して問われた二人は頷きアウトダークエルフが答えた。

「その通りですよ~。隠密ギルドのエフェメルです~。」

 間延びした喋りに少しイラっと来たが、正直に答えたことに意外さも感じた。

「だったらそちらが噂のブリュムかい。こんなところでこんな大物に遭うとはね。…ま、予想はつくが何か用かい?」

 値踏みするような視線を送る。それに対し、交渉役のダークエルフは率直に言ってきた。

「はい~。変に言い回すよりぃ、ズバリ聞きますね~。」

 そう言うと、ダークエルフのにこにこ顔がスッと真剣みを帯び、口調を変えた。

「先日、イデアメルカートゥン城塞都市周辺でいましたよね?」

 先ほどとは全く違う殺気を込めたような突き刺さる質問口調。それを聞いてレイラは感心する。

(ほほぅ、さすがは隠密ギルドの副長。交渉でしっかり相手に威圧を掛けてくるねぇ。しかし、あたしにゃ効かないよ)

「あぁ、確か近くには居たかもだねぇ。」

「その時、海で少年を拾いましたよね?」

「さぁ~、どうだったかねぇ?」

「ふざけないで!あなた達が…」

 レイラの言葉に、医師の女が食って掛かってきた。しかし言葉途中でダークエルフに手で遮られると黙って俯いた。

「もう一度聞きますね。海で少年を救ってくれましたよね?」

 言い方を変えてきたことで、下手に出てきた。

「あぁ、そう言われたら確かに海に漂ってた男の子を救ったよ。いやぁ、驚いたさ、あんな幼い子が武装したまま海に浮かんでたからさ。」

 その言葉にそれぞれで反応が見えた。どうやらあの医師の女はよほど大事な存在だと見えた。

「それは感謝いたします。実はその少年はこの女性の身内でして、救助のためにここまで来たのです。返してくれませんか?」

 そう聞かれて、考えるレイラ。

 実の所、あの海域にいたのは偶然で、海魔が城塞都市に攻め込んでいると知って見物に行っていたのだ。

 そして知ったあの少年の戦闘力。うまい事にこちらへ飛んできて爆発の後、海に落ちた。そこを空かさず救出してアジトへ連れて帰ろうとしていたわけだ。

 あれだけの力を持っていることは恐るべきことであり、是非とも自分のモノにしたいと思ったわけである。

 しかし今、目の前に現れた隠密ギルドのマスターたち。普段ならば絶対に見せることないその姿を見て、あの少年が隠密ギルドの秘密兵器なのだろうと推理した。

 だとすれば、ここで恩を売っておくことは非常に良いだろう。ただし、もしも返してそのままこちらを潰されたら元も子もない。

 どちらにするべきか少し情報を得て決めようと考えた。

「まぁ、そう言う理由なら返すのはやぶさかじゃないよ。

 だがね、こっちもそれなりのお返しを貰っても良いんじゃないかと思うんだよ。何せ、あたいらは海賊だ。慈善事業などこれっぽっちも考えないんでね。」

 そう言うと、ダークエルフは胸元からコインを取り出した。その豊かな胸元から取り出されたコインに男どもの弛みきった視線が向かう。

「これで如何でしょう?」

 そう言ってダークエルフはコインを投げた。それをレイラは右手で掴み取る。そこにあったのはマガルコインだった。10000コイル分の硬貨。かなりの金額であるが、レイラにしたらこの程度かという印象だ。

「これだけかい?」

 あれだけの少年だから、釣り上げられると思った。するとダークエルフは腰から布の袋を取り出した。その膨らみは十分に硬貨が入っているとみられた。

「それは確かめてもらうためのモノ。この袋と如何ですか?」

「それは確かなんだろうね?」

「ええ、もちろん。でも、こちらも彼を引き渡して頂かないとお渡しできませんね。という事なのでここらで交換と行きませんか?

 一応言っておきますが、私たちは少年を返して頂けたらそのままこの場から去ります。当然あなた達に危害は加えませんよ。」

 そう言われてそろそろ潮時かと思った。変にごねては損が大きいだろう。なんせあちらには恐るべきブリュムがいるのだから、自分の命が危険である。 

 それに勝手気ままな海賊だけど、相手に馬鹿にされるのは気に食わない。だけど向こうはそれなりに対応してきているんだ。救った報酬としてマガルコイン数十枚。もしも紛い物だったら去り際に砲撃してやればいいだろう。

「よし分かったよ。そっちのお嬢さんを見てたら大事な子なんだね。あたいだって女だから、これ以上は野暮出来ないさ。

 おい、丁重に連れてきてやりな。」

 それを聞いて複数の男たちが船内に向かう。

「あの子だけどね、まだ意識を取り戻してなくて眠らせてんだ。

 ただね、やたら重くてうちの力自慢全員でもなかなか運べないんだよ。」

 そう言っていると、男たちが担架を運んできた。その上に横たわっているのは紛れもなく蒼銀の鎧を着たリオンだ。

「リオン!」

 医師の女が叫んだ。その顔は青褪め、じっとその少年を見ていた。

「さてどうしようかね?こっちのやつらがそちらに運ぶから、そいつに袋を渡しておくれ。

 あんたら、その子置いたら袋貰って確認するんだよ。」

 そう言うと、返事した6人が担架を再び担ぐ。そして船の間に渡るための橋板をいくつか掛けると向こうへと運んでいったのだった。

  


「あぁ、リオンっ!」

 渡ってきた海賊たちが甲板上に担架を下す。そこに横たわる蒼銀の少年にシーニャが慌てて駆け寄った。同時にサーシェスやミムジアナも向かう。

「それじゃ、これを渡しますね~。」

 凄みのある体格だが、何故か鼻の下が伸びている6人の男たち。その視線はエフェメルを見つめており、それを察したエフェメルはいつものにこにこ顔で一番手前の男に袋を渡した。

「どうぞ、確認してみてくださいな~。」

 甘ったるい声で言うと、「は~い」と腑抜けた返事が6つ帰ってきた。それを見てエフェメルはニコニコ顔を強める。

(警戒していましたけど、なんかこの子たちチョロい?)

 もしかしたら乗り込んだ途端にシーニャたちを人質にとるかと警戒していた。だが男たちは女性たちを見ては鼻の下を伸ばし、エフェメルが声をかけると更にだらしない位に締まらない顔つきになっている。

(船長が女性なのに、女性に免疫がないのでしょうかねぇ?)

 試しに胸元をわざと寄せて谷間を強調させてみる。すると面白い様に男性たちの視線が集まった。

(あ、これは確実ですね)

 そんな雰囲気を察してか、向こうでいるレイラが怒鳴った。

「お前たちっ、デレデレしてんじゃないよ!さっさと確認しなっ。」

「へ、へいっ!」

 慌てて袋を受け取った男が中を開ける。その中にある大量のマガルコインに目を白黒させた。

「お、お頭ぁー、たしかにマガルコインですぜ!」

「よし、それならこっち戻っておいで。」

 従順な男たちは変な笑みを浮かべながら向こうへ戻って行く。ただ、トーマスに向けては「ケッ」っと憎らしげな視線を送っていたが、当の本人にはどこ吹く風であった。

 ちなみにこのコインは以前リオンから預かったコインの残りで、白金の塊を崩したほんの一部である。リオン自身の救助代と考えれば全く痛いものではなかった。

「それじゃ、これで失礼しますね~。」

「あぁ、とりあえず交渉は終わりだな。」

 そう言い合った後、ギルドの船が進み始めた。それを見てレイラが笑みを浮かべた。

「それじゃここからは海賊としていただくとしようかね。」

 そう叫ぶと、砲門が一斉に向けられた。足場があるうちは、ブリュムの刃が届く心配があった。

 だがその刃が届かないのであれば、恐れる必要など無いのである。奪えるならば奪う。それが海賊だからだ。

「あ、良い忘れてましたがぁ~。」

 離れるエフェメルが風の精霊に声を覚醒させて言う。覚醒されたおかげでその辺り一帯に声が響いた。

 同時にレイラが命令を叫ぶ。

「撃てぇーっ!」

 威勢良い掛け声。だがそれに呼応して放たれるはずの発射音は一切鳴らなかった。

「どうしたんだいっ?」

 驚く船長に伝達管から報告が上がってくる。同じくエフェメルの言葉が続けられた。

「お頭っ、大砲が全部凍っちまってて使えないっス。」

「後ろから撃たれると嫌なのでぇ、砲筒は凍らせて貰ってま~す。」

「チィッ、あいつらぁ~!」

 憎しげに怒りを見せるレイラ。その横をすり抜ける様にギルドの船は離れていった。


「船長、最大速度でこの水域から離脱だ。」

 甲板からブリュムが叫ぶ。それに応じた様に汽笛が鳴り、船が一気に速度を増した。

 次第に遠ざかる海賊船クィーンエストリア号。だが向こうも海賊としての意地かこっちに旋回して追って来る。

 とりあえずは逃げ切れると算段し、皆が集まるリオンの下へ歩み寄った。

 肌の部分を触れながら診断を行うシーニャ。テキパキと確認を行っている。そんな姉にされるがまま、意識の戻らない鎧を着たままの少年。

 全身を覆うのは蒼銀の鎧。おそらくミスリル銀製だろう。また、絶対に離さないよう強く握られた槍と盾。どちらもその体に見合わない程に大きい。

(普通ならば、この身体でよく振り回せるモノだな)

 聞いた話でその戦闘力は知っている。エフェメル自身からなので間違いはない。だからこそ、その存在に未だ信じがたいモノがある。

 顔を見れば聞いた年相応に幼さ残る普通の少年だ。160cmと年齢的には大きい方だろうが小柄で、やや痩せ気味かと思う体格をしている。

 だが何よりその顔にある大きな傷痕は目立ってしまう。その深い2つの傷痕は幼い少年を一人の戦士だと主張しているようだった。

 そしてシーニャの診断していた手が止まる。

「シーニャちゃん、どうですかぁ?」

 リオンを挟みシーニャの対面で膝を付いているエフェメルが問う。

「はい。眠っているだけの様で特に問題は無さそうです。疲労回復のための睡眠でしょうから、目を覚ますまで待つしかないですね。」

 それを聞いて一安心する一同。だが、再会したシーニャの表情は優れなかった。今にも泣きそうだが泣けないといった難しい表情。エフェメルの目には様々な感情の精霊が行き来している。会えた喜び、安心、意識無い事への不安、ここまで苦労させてしまった事への悲しみ、その他いろいろな感情が巡り巡って整理できないのだろうと思った。

「…それじゃ、リオン君は一先ずシーニャちゃんがついてあげて下さいね~。」

 エフェメルが言うと、他のメンバーは二人から離れた。その言葉の意図をそれぞれが察したからである。

 そんな皆に感謝しながら、シーニャは眠る少年の頬に手をそっと差し伸べた。

「お帰りなさい、リオン…。」

 ようやく整理ついたのか、シーニャは笑みを浮かべる。その頬に一筋の涙が零れた。


 あれから半時間ほど海賊船の追撃は続いた。

 海賊船の横側に大砲は並んでいるため、砲撃はなく距離も開く一方。

 やがて諦めたのか、海賊船が泊まった。

 「追撃止まりました。」

 報告を受けて安心する一行。互いに笑みを見せ合っている。

 そこに更なる報告が入った。

「海賊船向こうに多数の船影を確認。…『シーゴブリン』です。」

 その報に皆が海賊船へ目を向けた。停まった海賊船へ次々と中型の船が押し寄せている。その船に乗っているのは紛れも無く緑の肌を持つ小さな亜人。海で活動する『シーゴブリン』たちだ。

「おい、船を近づけろ。」

 トーマスに狂気が走る。だがそれをミムジアナが止める。

「駄目ニャン!今はリオン救出が先決ニャ。早く街に戻るのが一番だニャ。」

「だったら俺を下ろして逃げろ。奴らを野放しには出来ん。」

 亜人殲滅を目指すだけに、その思いは変わらなかった。ミムジアナは困った表情でブリュムたちを見る。

「どうしますかぁ?マスター。」

 伺うエフェメル。普通であればこのまま去るのが一番だ。襲われているのは海賊であり、行う事は奴らと同じ。ここで沈むも自業自得だろう。

 だけど彼らはリオンを拾ってくれた恩がある。例え悪いことをしているとしても、さっき接した時の印象は悪い感じではなかった。

 そしてやはり憎むべきは亜人であり、海魔のいない今、奴らをのさばらせておく理由など無い。

 その考えはやはりブリュムも同じであった。シーゴブリンが最近その勢力を増しつつあることも聞いていたし、あの船長が奴らの増加に使われる事は、同じ女としても許し難い。そう考えてシーニャに声をかける。

「シーニャ。君はリオンを見ててくれ。あのシーゴブリンはあのまま放置しておく訳にいかない。

 海賊に加勢して奴らを倒すが、君はここでリオンを看ていてくれ。サーシェス殿とミムジアナはここで二人を守ってほしい。」

「・・・分かりました。」

「分かったニャ。トーマス、絶対暴走しちゃ駄目ニャよ。」

 サーシェスとミムジアナが応答した。だが、シーニャは心配する。何より、海から来たゴブリンは、かつての自分たちを襲った奴らそのものだからだ。

 そこに気付いたエフェメルがシーニャの頭に手を置き撫でる。

「大丈夫ですよぉ。かつてシーニャちゃんたちの住んでた島を襲った奴らかもしれませんが、おねえさんが仇をとって来てあげます~。」

 そう言われてシーニャはリオンを見た後、エフェメルにしっかりと頷いて見せた。

「はい。よろしくお願いします。」

「はい~、おねえさんにまかせなさ~い。」

 やり取りが終わるとブリュムが叫んだ。

「船長っ、今から私たちは海賊船に加勢して亜人たちを倒す。君たちは私たちを海賊船に送った後、速やかに離脱して周囲哨戒しながら待機していてくれ。」

「了解しました。マスターご武運を!」

 命令を受けた船は旋回して海賊船へと向かうのだった。


 海賊船では既にゴブリンたちの侵入を許していた。

 向こうを追うだけ追ったが、もうこれ以上は無理かと思っていた時、思わぬ方向から奇襲を受けたのだった。物見が隠密ギルドの船に注視してしまったことから船周囲の警戒が疎かとなり、小型船で寄ってきたシーゴブリンに船の壁をよじ登られたのだ。

 いきなり甲板に現れたシーゴブリンに驚く海賊たち。即時倒したが、その方向から無数のシーゴブリンが乗った船が押し寄せていた。

 大砲を使おうにも凍らせられたままで、既にこれだけ近づけさせてしまったら逃げようもない。海賊たちはそのまま戦闘に入った。

「くそぉ、あれを拾ったのが厄日だったってのかい!」

 レイラが叫びながらも、襲い掛かってきたゴブリンに一太刀浴びせる。彼女は右手にサーベル、左手に大き目のナイフを逆手に持ち、周囲の船員と共に溢れ来るゴブリンを倒していく。

 だが、その状況は劣勢であった。その理由として、シーゴブリンはかなり強いのである。小柄な体格ですばしっこく、その身軽さゆえに海上でのバランスに問題を受けない。そして良い装備持っていたりする。理由として商船を襲う中で良い商品を強奪することが理由に挙げられる。

 陸にいるゴブリンは大体決まった地域にいるが、シーゴブリンは海の上を自由に移動する。そしてゴブリンならではの繁殖力によって、巨大な集団となっているのだ。

 ある意味脅威の集団として徘徊しており、海賊とも何度かやり合っている。

 ただこちらには大砲を積んでいるために、砲撃によって奴らの接近を許さずすぐに逃げていくのがいつもの事だ。

 なのに今回大砲は使えず、獲物を追う事に集中し過ぎたためにこのような事態となってしまった。

「登ってくるための梯子を落としなっ!」

 甲板端にいた船員が梯子の綱を斬る。それによって梯子と共に何匹ものゴブリンが海面へ落下。その梯子に群がっていた小舟まとめて転覆に成功する。

 しかし梯子は1本ではなかった。登ってきた1匹がロープを下すと、それを頼りに壁を走って登ってくるのだ。身軽なだけにその移動速度は速い。

「クッ、キリがないねぇ…。」

 場合によっては船員たちを海へ逃がすことも考えるが、数十隻の小舟に囲まれているため、身動き取れないまま殺されてしまうだろう。

「根性で押し返すよっ!お前たち、気張りなっ!!」

 サーベルを振るってゴブリンを切り倒す。その横から手斧を振り下ろしてくるゴブリンがいたが、左のナイフをその柄の部分に宛がい防ぐ。そのまま絵に沿ってナイフを滑り下ろして握る指を切り落とすと、痛がるゴブリンの顔にサーベルを突き刺す。そこに逆方向からゴブリンが襲い掛かってくると、後ろ回し蹴りで薙ぎ払う。

 レイラがこの船の船長をやっているのは紛れもなく実力であり、大小二つの片刃を使った戦闘が彼女のスタイルだ。

 もちろん他の船員だって実力はある。エフェメルにチョロいと思われていても、いざ戦いとなったら勇猛果敢に敵を叩き潰す。だからこそ、未だにゴブリンにやられた者はいないが、問題はやはりスタミナである。

 無数に上ってくるシーゴブリン相手に疲労は彼らの動きを鈍らせる。

「ぐわぁー。」

 波の揺れで足に踏ん張りがきかなくなった船員が背後からの攻撃に反応できず肩を斬られてしまう。倒れる仲間を救おうとするが、そこから次第に形成は押し込まれるようになってくる。船内でも砲撃口から侵入したゴブリンによって攻撃を受ける。

「ちくしょう、ここまでかね…。」

 船に上がられること自体許せないのに、それ以上に仲間を傷つけられることが許せないレイラ。だが今この状況では、戦況をひっくり返すことは不可能だと察していた。

(せめて、こいつらを逃がしたやらないとね・・・)

 そう思いながらまた1匹を切り倒す。するとその視線の先にさっきまで追っていた船が見えた。しかもこちらに接近してきている。

「おいおい、まさかこんな時に仕返しかね?」

 背筋を冷たいものが走った。だが、もし許されるならあっちにこいつらを拾って貰えないかと願った。

「あんたたち、海飛び込んで、向こうに拾って貰いなっ!」

 咄嗟に叫ぶ。だがその言葉に誰も従おうとしなかった。

「何言ってんですか。この船と船長捨てていけないでしょう。」

 船員たちは自分たちの船長の気質を分かっていた。船長は口は悪いし、自分たちを馬鹿にするけど、絶対に見捨てたりしないヒトだ。自分たちの為なら命を懸けて守ってくれる。

 何より、この船を絶対に捨てたりしない。自分たちの家と共に沈もうとするヒトだ。だから例え命令でも、それに従う気はなかった。 

「この馬鹿たちが…、こうなったら死ぬ気でやるよ!」

「イエスマァームッ!」

 劣勢だが互いに声を張り上げる。それによって鼓舞され、海賊たちは一時的に盛り返す。

 そこへ隠密ギルドの船が横切っていく。ゴブリンたちの居る方とは逆側だが、すれ違いざまに3人のヒト影が飛び乗ってきた。

「何の用だい?追いかけた仕返しにでも来たのかい?」

 交戦しながらもそう問いかけると、先ほど交渉をしていたダークエルフの声がした。

「あらあら~、まだ大丈夫そうですね~。亜人たちなので、加勢に来たんですがぁ、いりませんでしたかぁ~?」

「余計なことを…」

「ありがてぇー!よろしくお願ぇしやすぜ!」

 憎まれ口を叩く最中に船員たちが喜びの声を上げた。おかげでレイラの声は相手に通らなかった。

「一時休戦という事でよろしく頼む。」

「ハーイ、了解しました~。」

 そう返事が聞こえた途端、甲板上で黒い風が駆け抜けた。一瞬の事で誰もその動きを見えなかったが、何が起こったのかはすぐに分かった。さっき飛び乗ったばかりの黒い装備の女性が、今は甲板の向こう端にいたからだ。

 そして彼女が通った道筋で崩れ落ちるシーゴブリンたち。僅かな間で甲板にいたほとんどのゴブリンが切り殺された。

 そして後方には黒い大きな斧を振り回す戦士がいた。大きな体躯、それに似合うほど大きな戦斧は一振りでゴブリンを数体薙ぎ払う。

 もう少しで当たりそうになった船員が文句を言った。

「オウ、危ねえじゃねぇか!気ぃつけろ。」

 すると男はギロっと睨み返す。あまりの殺気に身を仰け反らす船員。

「邪魔だ。俺に近寄るな。」

 そう言うと男は再びゴブリンを蹂躙していく。

「・・・何だありゃ…、あぶねぇ奴だ…。」

 冷や汗をかく船員。そんな隙をついて背後からゴブリンがナイフを突き入れる。そこをエフェメルのレイピアが手首を切り落とし、返す刃でゴブリンの首を刺し殺す。

「危ないですよ~。船長さんの周りでいてくださいね~。」

 エフェメルがニコニコ顔で言うと、そのままゴブリンたちをレイピアで貫いていく。その様子に船員はゴクリとつばを飲み込み、言われるまま船長の護衛に向かう。

 あっという間の事だった。先ほどまで劣勢だった状態が、すでに甲板は一匹のゴブリンの姿も見えない。

「船長、船内も加勢させてもらうぞ。」

 ブリュムがそう言うのに対し、あまりの強さに驚くレイラは頷くしかできなかった。


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