シーニャの卒業、そして旅立ち
ついに出会えた姉シーニャと弟リオン。
束の間の再開から、事態は再び二人を引き裂いた。
そんな悲しみの姉弟に女神が救いの手を差し伸べようとした時、
天空より巨大な赤き竜が舞い降りた。
【第6章】
蒼天の空より舞い降りた紅の竜王。その偉大なる姿は見るヒト全てに威圧を与える。
今はヒトと同じ背丈である女神ティリュースよりも存在感を感じさせた。
そして空中から声をかける。
「空より声を掛けることはご容赦を。地上に降りる場所が無い故、このまま言葉を交わしたい。」
「ええ、構いませんわ。」
「感謝する。まずは無事復活されたことに祝福を。此れにて我も肩の荷が下りる。」
女神相手にへりくだらぬ辺り、流石は竜王だと皆が思う。
「ありがとう。ここまで一番手間を掛けさせたのは貴方ですもの。そう言って貰えると本当に嬉しいわ。」
女神もまた、知り合いが表れたように気軽な会話を交わしている。そして先ほどの言葉に対して理由を尋ねる。
「それで、先ほど止めたのはどういう意図があっての事でしょうか?」
少しご機嫌を損ねたように尋ねた。そうわざと振舞って見せたのだが、竜王にはお見通しであった。
「自身が最もお解りであろう。神である貴女様は悪魔に捕われていた事によって、その力が不安定な状態となっている。そんな中で力を行使すればさらに弱めてしまう。
ましてや神がヒトの世にて力を振えば、その反動で悪魔の封印が弱まる。
これはこの世の理として定められた真実である。
そして肉体を持つ貴女様を今も悪魔どもは狙っている。貴女様に何か起こればこの世界が亡びることになってしまいますぞ。」
その話にヒトが皆驚き、納得してしまった。ここで女神に願う事は、より最悪に事態を引き起こすことになるのだと…。
「故に我はこうして貴女様を守護し、安全なる地へ送るために参った。ここは従って頂きたい。」
レッドドラゴンの言葉に、ティリュースは押し黙る。そしてその手を握るヒトへ目を向けた。
泣いている。
先ほどからずっとその瞳から涙が止まらなかった。触れることでその思いが如何に強いかが分かる。
幼き頃に過ごしたところから、離れ離れになって絶望の中を暮した日々。そして無事を知って喜び、やっと会えたと思った矢先にこのような事態になってしまったのだ。
その無念はどれほど計り知れない事だろうか。所詮はヒトと言ってしまえばそれまで。
しかし彼から助けられた身としては、その思いを汲んでやりたいと思って仕方ない。
だからこそ、女神は問うた。
「確かに、この世界を壊す要因となってはなりません。
されど、この身を助けてくれた彼を見捨てておけるでしょうか?今ここで哀しみに暮れるこの娘を突き放しても良い事でしょうか?
何より、その救ってくれた者は貴方の弟子ではないですか?赤き竜の王よ。」
そう言うと、レッドドラゴンは頷いた。
「そうである。リオンはこのドゥルークが手塩に育てた英知あるヒトだ。故に如何なる苦難もモノともせぬであろう。」
心配するだけ無駄だと言うレッドドラゴン。世界最強というこの竜が言うのだからと納得する空気の中、シーニャが反発した。
「だからって、放っておく訳にいかないじゃないですか!」
その言葉に視線が集まる。
「たとえどんなに強くなっても、リオンはリオンなんです。まだ少年なんです。具合が悪い時だってあるでしょう。寂しいって思う時だってあるでしょう。そんな気持ちでいるあの子を放っておく訳にいかないじゃないですか。」
最強と呼ばれる竜王に対して物怖じせぬ態度に、周囲のヒトは慌てた。特に戦士ギルドの面々などは事情が分からぬ故、「何言ってくれてるの!」という感じで非難の目を向ける。
ヒュナンとネビュルに至っては驚きはしたが、ここまで我慢してきたシーニャを思えば、その言葉は仕方ないと表情を曇らせた。
他の者たちは固唾を飲んで見守るしかできなかった。シーニャの思いは分かるが、レッドドラゴンが怒りはしないかとヒヤヒヤしている。
そして女神はシーニャに微笑を向けると、レッドドラゴンの顔を見た。
「言われちゃいましたね、ドゥルーク。」
親しみある呼びかけ。その言葉にレッドドラゴンはジッとシーニャを見返してから周囲を見渡し、すぐ近くの廃屋の上に降りる。
その巨体からは想像できぬ程に繊細な動きで廃屋が崩れる事無く着地し、再びシーニャに顔を向ける。
「フム、そのように我へ文句を言うヒトは二人目だ。
なるほど、お主がリオンの姉であるか…。」
「はい。リオンの姉シーニャです。」
物怖じせず、まっすぐに見つめて応えるシーニャ。
内心では怖い。それはもちろん世界で最も畏怖された存在だ。怒りを買えばものの数秒もかからず殺されるだろう。
しかし自分の大事な弟であるリオンに対し、あまりな対応を見せられては引き下がれない思いがある。救い、立派に育ててくれたことには感謝しているが、それらしく大事にして欲しいと思った。
対してレッドドラゴンであるドゥルークは思う。
(なるほど。純粋なまでのリオンを不思議に思っていたが、この娘を見れば解った。確か二人で滅びた村にて生活していたと言っていたはず。全てをこの娘が差配しておったのだろう…。だからこそ知らぬのだな、成長したリオンを。)
見合う間で、ティリュースが問いかけた。
「ドゥルーク、直接は手出しできませんが幾つか手助けはしても良いのでは?」
その声にドゥルークは視線をそちらへ移した。
「フム…。大切な存在を想う気持ちか…。海賊如きにやられるあ奴ではないが、その想いは解らぬでもない。お前たちが助けに向かうと言うのであれば、それを止める理由は無い。
して海の女神よ。如何なる助力を考えておられるのか?」
その問いかけにティリュースは微笑みのまま空いている右手をシーニャの額にかざした。すると手に輝きが生まれ、ほんの数秒で光は収まった。
「貴女に我が加護を授けました。これによって貴方は海で如何なる困難にも遭遇することは無いでしょう。そして彼を探すにあたり、願えば彼の居場所を特定できます。これでどうか彼を救ってあげて下さい。」
「あ、ありがとうございます。」
シーニャは思わぬことに感情がついていけなくなった。咄嗟に出た感謝の言葉であったが、自分が加護を頂いて良いのかという思いが生まれる。
実際、今回の女神救出に携わった訳でなく、自分はリオンを助けてほしいと願うだけの存在だ。それも海の神を崇拝するトリトン教信者でもないため、その恩恵を授かった事に戸惑うしかない。
実際過去において、神の加護を得ると言う事例はほとんどない。既に神によってこの世界が作られている以上、日々暮らせることに感謝するべきだとどの信仰においても教えにある。そう考えれば、こうして女神自身が降臨していること自体異常な事なのである。
「あの、私なんかが授かってよろしいのでしょうか…?」
思わず出た問いかけにティリュースは朗らかに笑う。
「はい、貴女の彼を思う気持ちは私の心に感動を与えました。本来であれば彼に与えるべきかもしれませんが、私は貴方に授けて良いと思えましたので、これに関しては問題ありません。
その力によって、貴女と彼をこの海が守りますからね。」
シーニャは再び涙を流し、感謝を述べた。
「本当にありがとうございます。これで必ずリオンを救います。」
「はい。期待してますね。」
そう話し終えた後、ティリュースはドゥレークへ向いた。
「これならば問題ないでしょう?」
「貴女様が直接関わらないならば問題は無かろう。娘…いやシーニャよ。心配はいらぬと思うが、海の上で迷わぬように迎えに行ってやってくれ。」
「はい。竜王様も、リオンがお世話になりました。お救い下さったこと、改めて感謝申し上げます。」
「ウム、では女神様。そろそろ参ろう。長居しては奴らに気取られる。」
「はい…。それでは参りましょう。
皆様方、おかげでこうして海に戻ることが出来ました。この感謝を私は忘れません。皆様にどうか幸あらんことを。では。」
そう言うと、ドゥルークが右手を差し出す。そこにティリュースが乗ると赤い翼が羽ばたき、そのまま西へと飛んで行ってしまった。
あとに残されたヒト達は唖然としながらその姿が見えなくなるまで見送ったのだった。
「さて、それじゃ少し早いけど卒業ね。」
女神と竜王の去った港で、ヒュナンが呟いた。その声に皆が我に返る。
「え?」
言われたことにきょとんとするシーニャ。そんな愛娘にネビュルが肩に手を置いて言う。
「ここまでちゃんと迎えに来てくれたんだから、今度はあなたが迎えに行く番でしょう。」
そう言われて、シーニャは決心する。
「はいっ。先生、お義母様、お世話になりました。」
二人に向かって深々と頭を下げる。そして顔を見せ合い微笑むが、それまで過ごした日々が思い出されて涙がこぼれる。
それをネビュルが抱きしめて言う。
「こら、せっかくの旅立ちに泣いちゃダメでしょう。そしてリオンを助けたら帰って来なさい。私はずっとあなたの母親なんだから。」
そう言うネビュルもまた涙に濡れた声だった。
「はい、必ず戻って来ます。」
そして離れた後、ヒュナンが自分の帽子をシーニャに被らせた。
「急だからあなたの卒業証明の帽子はこれで良いわね。
さぁ、新たなる医師シーニャ・E・ヒスリナ。その知識と技術を以って、ヒトに救いを与えなさい。
卒業おめでとう。」
「ありがとうございます。」
ヒュナンに握手を求められた後、抱き付いた。
「元気で暮らすのよ。」
「はい、本当にありがとうございました。」
これからシーニャが向かうのは海賊たちのいる場所。下手をしたらもう会えないかもしれない。
だけど彼女は決心をしたのだ。であれば、あとはきちんと見送ってあげるだけだ。
二人は別れを済ませると笑顔を見せ合い、そしてシーニャは踵を返した。
振り返ったシーニャの前に、ニコニコ顔のダークエルフがいた。
「シーニャちゃんおめでとうですよ~。さてそれでは参りましょうかぁ~。」
「え?エフィーさんどこへですか。」
「どこって決まってるじゃないですか~。リオン君迎えに行くんでしょ~?
あれ?まさか違うんですかぁ?それじゃ私がリオン君を頂いちゃ…イタッ!」
エフェメルのお尻を叩くサーシェス。そしてシーニャに向き直すと双子と共に願い出た。
「何おバカな事言ってるの!
シーニャさん。リオン救出に私たちも同行させて頂きますね。」
「そんな、危険な場所なんですよ。」
「それを言うなら、ここまでずっと危険な旅でした。でもリオンのおかげでここまで来れたのです。今度こそ、お手伝いさせてくださいませ。」
「にーちゃ、おむかえおむかえおむかえ~。」
「ねーちゃといっしょいっしょいっしょ~。」
「ありがとうございます。とても心強いです。」
「あ~、姉さんズルいですよ~。シーニャちゃん、私も一緒ですからね~!」
お尻を擦りながらエフェメルが主張する。そんな彼女を笑いながら迎えるシーニャ。
「はい。エフェーさんは頼りにしてますから。」
「うふふ~、さすがシーニャちゃん、わかってますねぇ~。」
そう言ってシーニャを抱き締めるエフェメル。その後ろから更に声がかけられた。
「あたいたちもご一緒していいかニャ?」
ミムジアナとトーマスであった。実際二人の目的地はここであったのだが、トーマスが言い出した事であった。
「あいつと一緒にいると、たのしい。」
「トーマスがこんな事言うのはスゴイ事ニャン。あたいもリオン好きだから、是非ともお手伝いしたいニャン。」
「助かります。是非ともお願いします。」
そうしてパーティーが出来た。サーシェス達3人にエフェメル、そしてミムジアナとトーマスが加わり、全部で7人。
「私も行こうか。」
ここでセイルが名乗り出た。だが、それをガダンが追従する。
「だったら俺も行きたいよ。海賊相手にするんでしょ。だったら俺も行ってみたい。」
さらにリーケンも名乗り出る。
「なら俺も行こう。海の上では我が槍術の神髄をお見せできる。」
血の気の多い戦士たちが名乗り出ると、他の戦士たちも手を上げ始めた。
戦いたいと言う者がいる半面、シーニャを始め、綺麗所がいっぱいなので、ご一緒したいと思う男たち。
しかしその目論見は一喝によって砕かれる。戦士ギルド長グフトが叫んだ。
「戦士ギルドは街の復興及び防衛せよ!同行することは許さん。速やかに作業にあたれ!」
その怒声にほとんどの戦士たちが作業へと戻って行った。それでも残る者はいる。十傑の者たちだ。
「荒事になる場所へ向かうんだ。一人くらいは同行した方が良いでしょう。」
セイルが言う。もちろんその言葉は間違いではない。
「確かにそれはあるかもだが、先程ギルド長で相談した結果、戦士ギルドは都市の復興支援と防衛にあたると決めた。もしも今、亜人たちに攻められたらこの町はどうなる?我らはこの都市を守る義務がある。」
こう言われては反論は出来ない。だけど、恋心を持つセイルは続けた。
「しかし、この都市を助けた彼の救助も大切ではありませんか?海賊のもとに向かうにも、せめてもう一人前衛職の者がいても良いのでは?」
戦いで相手と接近戦を挑む者を前衛職と言う。戦士はその最もたる職で、シーニャたち一行を見れば、トーマスとミムジアナがそれに当たり、エフェメルはどちらかというとサポートしながら前衛も熟す魔法剣士だ。シーニャと双子がいる以上、守りを固める必要もあった。
「ああ、戦士であればそう思うだろう。」
「でしたら――」
「だから我々の役目ではないのだよ。セイル。」
セイルの言葉を塞ぐように言葉を重ねたグフト。それによってセイルは口を紡ぎ、視線を横に移した。
「ここは我々に任せて貰おう。エフィー、船を手配してくれ。」
黒い装備に身を固めた女性がいた。色白で、マフラーから覗く目は鋭い。
隠密ギルドのマスター『ブリュム』であった。
「私が一緒に行こう。それで文句はあるかな?」
「…いいえ。お任せします。」
横目で見つめながら問うブリュムに、セイルは観念したように首を振った。
そしてブリュムはシーニャに寄って、声をかけた。
「私が同行させて貰うが、良いかな?」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします。」
かつて世話になった隠密ギルド。そこでシーニャががんばれたのも、このブリュムが色々と気遣ってくれたおかげである。それはこちらに移住してから、教えて貰ったり、自分で気付いたりした。世間では冷酷と言われるが、シーニャにとったら頼れるお姉さんの一人でしかなかった。
「マスタ~、近くでうちの船がいましたので呼びました。すぐに来れるみたいですよ~。」
「分かった。それではシーニャ。準備をして、すぐに向かおう。」
「はい。それではみなさん。リオン救出、よろしくお願いします。」
「「「「「オーッ!」」」」」
その掛け声と同時に沖から1隻の船が現れた。港が使えないため、乗客船の小舟を使っていくつかの物資と、乗客船から馬車を載せた後、東へ向かって船は進みだしたのだった。
イデアメルカートゥン城塞都市から東へ。ティリュースから受けた加護によって、シーニャはリオンのいる方角を感じ取れているが、依然としてその距離は遠かった。
こちらの船は隠密ギルドが所有する船で、最新の技術と精霊魔法、そして女神の加護によって問題なく、そして非常に速い速度で進んでいる。
しかし、海賊たちの乗る船もまた速かった。それは正に海で生きる者たちと思わせるに十分な動きであった。
この世界において海洋技術は、ヒトが誕生して文化を築き始めた頃に、ドワーフの手によって船が開発された。最初は木を削って船という形をしていたが、それから間もなくして風を受けて進むと言う帆船の技術を取り入れる。
やがてヒトが世界中に住みだし、船が出来て約50年ほどで大型帆船が製作された。
それから暫くは大きな発展はなかったが、820年にドワーフが蒸気機関を発見し作り上げた。その6年後にヒトとドワーフによって蒸気船の開発が開始され、842年に完成。帆船より速く、大量の荷物を運べることから次第に蒸気船が開発されていく。
それから100年以上経った981年現在だが、1隻が途方もない費用と年月がかかるため、世界で10隻も無く一般普及に至っていない。
だが隠密ギルドではその任務上、世界中を移動する必要性から1隻を所有している。更に改良を加えて精霊によって風の魔法を帆に当てて進む。蒸気と魔法による風の力によって世界最高の航海速度を所有しているのがこの船である。
一方の海賊たちの主流は帆船だ。どれだけ風を読んで上手く船を走らせているとしても、こちらの速度が上である。なのに、その差はあまり変わらない感じを受けるシーニャ。
「まだ追いつけないのでしょうか?」
焦りが滲み出ていた。その様子にエフェメルが諭すように言う。
「慌てちゃダメですよ~、シーニャちゃん。こっちは確実に追っている訳なんです。それに追いついても、そのまま救えるかどうかは難しいですよ~。」
「どうしてですか?」
焦るままにきつい感じで問い返すと、ブリュムが答えた。
「陸地と違って海上の戦いは難しいんだ。船を見つけたらそこからすぐに砲撃戦で大砲や魔法を撃ちあい、接近したら船に乗り込んでの白兵戦になる。
その場合、船の上では経験がものを言う。限られた足場に波によって揺れる足下。バランス感覚が悪いと陸でどれほど強くても、すぐに倒されてしまう。
だからまずは近づき、様子を見ることになる。」
「それじゃ、リオンをどうやって!」
更に声を荒げたシーニャだが、エフェメルがその唇を指で抑え言葉を止めた。視線を向けると、ウインクしてみせる。
「だめですよ~。こうしてみんなでリオン君を助けに来てるんです。ただ闇雲に向かって行ってもこの船が沈められてはダメなんですよ~。
まずは落ち着きましょ~。そして方法を考えましょ~。」
ふと、昔を思い出すシーニャ。確か初めて会った時もこうして言い聞かされた思い出がある。
「いいですかぁ?今はまず情報を得る事なんですよぉ~。生死不明でも、その海域は船がよく通る為に誰かが見たり、助けたりしてるかもしれないです~。
私は情報を集めるのがお仕事だから、聞いたらちゃんと教えますからぁ、それまでは諦めずに待ちましょ~。」
リオンを海で見放してしまった事で絶望に陥っていた中、エフェメルに助けられ、そう言ってくれた。結局情報は得られず違う道を選んだのだが、今こうしていられるのもエフェメルが常に励ましてくれたからだ。
だから、今もその言葉に従おうお思った。
「…はい、すみません。それとありがとう、エフィーさん。」
あの時と同じく接してくれる事にも感謝する。それに対してエフェメルはにっこり笑う。
「いえいえ~、解ってくれておねえさんは嬉しいですよ~。」
落ち着いたシーニャを見て、ブリュムも少し微笑みを浮かべた。あの当時のシーニャに情報を与えてあげられなかったのに、きちんとこちらの手伝いを熟した少女なのだ。エフェメルに感化されて大事に見守っていたから、こうして良い方向に向かってくれたことは素直にうれしい。
そして自分たちで探しきれなかったリオンと言う少年が現れ、不甲斐なさ半面、シーニャと会えて喜んだ矢先にこのような事が起こり、ブリュムは自らこの救助作戦に名乗り出たのだった。
「とりあえず、向こうの船とはおよそ半日近くの差があるんだ。速度はこちらが上なのだから、数日のうちに捉えることは出来るよ。
それにしてもこのまま東に向かうと『カロライレ王国』領海だ。カロライレ半島を迂回して自分たちのアジトに戻っているのだとすれば、それまでに追いついておきたいな。」
イデアメルカートゥン城塞都市から東に向かうと、同じオルハノコス大陸南東部にある半島に着く。その半島は『カロライレ王国』が治めており、比較的温厚な国風である一方、その海域では頻繁に戦闘が行われている。
その理由は半島の東に小さな島の群島があり、そこが海賊たちの拠点とされているからだ。近いためか王国の海に近い集落が強奪の被害に遭っている。
そう言った行為に対し、王国では戦艦を建造して海賊への警戒に務めている。
「カロレイラ海軍には悪いが、戦ってくれると足止めになる。それを期待して今は追うとしよう。」
「はい。」
不安は拭えないが、シーニャは頷いて従うことにしたのだった。
そんな中、コロプクルの双子には異変が起きていた。船に乗った途端にまた眠っていたのだが、突如その体が白い球となっていた。
「ニャンだこれ?ニャニが起こってるニャー!」
最近は遊び相手になってるミムジアナが叫んだことでその事態を知る一同。
そこにサーシェスが現れて、嬉しそうな表情を見せた。
「ようやく、成熟体に入りました。」
「成熟体かニャ?」
首をかしげるミムジアナに頷くと、エフェメルに顔を向けるサーシェス。
「エフィーには以前話しましたね。二人が第一次成長期に入ると。」
それを聞いて思い出すエフェメル。たしかモルタネント城下町で聞いた話だ。
「たしか双子ちゃんがぁ、魔法が使えるようになるって事でしたよねぇ?」
「ええ、そうよ。コロプクルは第一次成長期に入り、眠ることで体内の魔力が安定し、そして魔法が使えるようになる。その成長期の終わりにこうして白い雪となるのです。
その結果、これまでとは違って容姿にも変化があります。今暫くはこのままそっとしてあげて下さい。近いうちに新たな二人の姿を見られるでしょう。」
「ホントニャのかニャー!それはとっても楽しみニャンニャー。」
「可愛い双子ちゃんだけに、たのしみですね~。」
ミムジアナが尻尾を大きく振って楽しみにしてる隣で、エフェメルはにやにやと妄想に更ける…。
そしてそこにいたシーニャが興味深そうにその白い球を観察する。
「これって、雪ですか?」
「はい。我々コロプクルは雪の精霊に近い小人族。なのでこの珠は雪で出来ています。」
「溶けたりはしないですか?」
「大丈夫です。この雪の珠は二人の魔力によって出来ていて、外部からの攻撃を防ぐためにこのようになっているのです。よほどの攻撃でなければ壊れませんので、普通に持つことも可能です。」
「なるほど…。とても興味深いお話ですね。」
知識欲旺盛なシーニャは初めて見るコロプクルの種族性に興味を抱いた。
「うふふ。」
「どうかしたか?」
突然含み笑いをしたサーシェスにブリュムが問う。
「あ、いえ…。シーニャさんが興味深そうに双子を見ている姿が、リオンが初めて二人を見ていたのと同じ様子でしたので、思わず笑ってしまいました。」
「なるほど。…詳しくは知らないが、やはり義理でも姉弟として育ったから、そう言うとこは似るんだろうな。」
「そうですね。…早く会わせてあげたいと思います。」
「あぁ。わたしもそう思うよ。」
二人の会話の先で、シーニャはエフェメルたちと話しながら珠となった双子を見ていたのだった。
それから2日が過ぎ、既に半島を南下して迂回していた。
実はこの時、リーブルサイドで心配していたこの惑星『エアルス』の北半球と南半球を隔てる『黄線』を通らなければならなかったのだが、船自体特殊な加工で断熱していたのと、コロプクルの三人用に火鹿のマントを用意していたことで、特に問題なく黄線の熱い中を進むことができたのだった。
更に一日が過ぎて、遂にその船影を船の監視員が捕えることが出来た。
「船影目視確認。」
慌ただしくなる船内。船長が戦闘態勢を取らせると同時に、ブリュムへと確認する。
「それではこれより最大船速であの船の真後ろに付けます。砲撃などされた時はひとたまりもありませんからね。そして真横に移動したら呼びかけてください。」
「わかった。呼びかけに応じない場合は私とエフィーであちらへ潜入。そしてリオンを救い出すとしよう。
その間に向こうの砲撃から離れて待機。場合によっては離脱も視野に入れておいてくれ。」
「了解しました。」
船長は話を終えると乗員たちに命令を指示する。
同時にブリュムがシーニャ達に作戦を伝える。
「それでは、これより救出作戦に入る。
最初はこの船で接近し、向こうと交渉を試みる。そのうえでリオンを開放してくれるなら、多少の代価は支払うとする。
しかし、向こうは海賊だ。そう簡単にこちらの意見を聞くとは限らない。
決裂した場合は私とエフィーで潜入。サーシェス殿は奴らの船を足止めしてくれ。」
「了解しました。」
頷き答えるサーシェス。幾分緊張しているようだが、その肩にエフィーが手を置いて「大丈夫ですよ~」と解している。
「そして船は直ちに離脱。砲撃には十分注意して射程距離外にて待機。
もしもこちらの船に相手が乗り込んだ時は、ミムジアナとトーマスで撃退してくれ。」
「わかった。」
「了解したニャ!」
二人が同時に返事した。
「そして私とエフィーがリオンを救出した際は、最悪海中に飛び込む。それを船で拾って貰ってここから離脱とする。
以上の作戦で行こう。厳しいようなら一度交代することも視野に慎重に行くぞ。」
そう締めくくって最後の会議を終える。
今日まで3日間、それぞれで話し合って決めた作戦だ。シーニャだって一緒にリオンを救いに行きたいと思うが、自分が行けば足手まといになるのは分っている。だからこそ、信頼できる二人に任せて、自分は負傷者が出たら手当てすることにした。
「大丈夫ですよ~。きちんとリオン君に会わせますからね~。」
エフェメルがにこやかに言ってくれたことで、シーニャは頷き、前を進む海賊船へ顔を向けた。
感じられるリオンの存在。
(今度こそ、きちんと向かい合ってお話するんだ。だから待ってて、リオン!)
そう強く念じる中、作戦は開始された。
お読み頂きありがとうございます。
いよいよ6章ですが、シーニャの冒険が始まったという感じです。
はたして海賊からリオンを救い出せるのか?という所はまた次回という事で…。
最近少し忙しい身になっておりまして、思うように文章を書く時間が作れないのですが、
自分自身、ご飯食べながらもこんな内容にしてもいいな~って考えてますので
次回もまたしばらくお時間をください。
それではまた次回まで。




