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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
27/93

想いの果てに…(海魔戦、決着)

「か、神様か?」

 諦めていたヒト達から声がした。

 その視線の先には輝く鎧をまとったヒトらしき姿がある。

 とても小柄だが、その背にある翼がヒトでは無い事を告げる。

 ただ死んでいたかもしれない現状で、その美しく光り輝く翼を持った姿は彼らにとって、神がつかわせた救世主を思わせた。

 そんなヒト達の中で一人の女性が魅入っていた。

 シーニャである。

 その瞳に映るのは翼を広げた蒼銀の鎧。

 思わず胸がキュンとした。

 「カッコいい」と思って呟いてしまった。

 頬が熱を帯びて赤くなる。

 ピンチを救ってくれたその頼りがいのある姿に乙女心が働かない訳がない。本能で好意の対象になってしまう。

 でも己が抱くのはそのような感情だけではない。

 気付かぬ彼女の心と体は、その正体を確認できていた。

 シーニャの心はその姿に懐かしさを覚えた。

 シーニャの身体はその姿に涙が溢れ、止まらなかった。

 (どうして涙が…?)

 まだ、思考と感情が辿り着かないシーニャはここに来てようやく思い出す。

 確か義母が言っていた大陸北部を旅する強い戦士の事を。

 そしてそれが最愛の弟であるリオンであることを…。

 それを聞いて、北の情報を集めた日々…。

 その中であるキャラバンの老婆が教えてくれたこと。

 小さな体で蒼銀に輝く鎧と大きな盾、そして不釣り合いなほどに大きなランスを持ち、竜の如き咆哮を以ってその力を解放する。

 まさに今、目の前にその姿があった。


「リオンなの?」


 そう気付くまでに、その蒼銀の戦士は一度こちらを振り向いた。

 ここからでは遠すぎて、その顔は分かりづらい。

 じっと見つめられた気がした。

 それから微笑んだ気がする。

 同時に頷いたようにも見える。

 そして背を向けた時、シーニャはようやくその輝く戦士がリオンであると気付いたのだ。

 でも、すでに彼は海魔へと向かって飛んで行ってしまった。

 シーニャは叫ぶ。


「待ってぇ!行かないでリオン―――!」


 その叫びは遅すぎた。

 涙ながらに呼びかけるシーニャは、光り輝くその姿を必死に目で追い続けた。


「リオン…、どうか無事でいて…。」




「何だあれは!?」

 グフトが叫ぶ。突如現れた蒼銀に輝く鎧。再び西へと放たれた超水流を喰い止めてくれた。

 そして今、海魔に向かって突進し、迫る蛇の大軍をその大きな武器で斬り続けている。

 背に光る翼を見て、それがヒトではない事は確かだ。

 だが今はそんなことなど関係ない。多くの命を救ってくれたことに感謝するだけだ。

「正体不明だが、敵ではなさそうだな。何とも頼もしい限りだ。」

 そう感謝し、海魔への闘志を燃やした。


 もちろん、他の者達もその姿に驚きを隠せなかった。

 亜人と戦う戦士たちはおろか対する亜人たちでさえ、その蒼銀の姿を見つめる。

「何者なんだ?」

 グリフトが問うように叫ぶ。他の者達も同様の意見の中、セイルだけは思い出したような表情で呟く。

「本当だったのか…!」

 数日前に聞いた宿屋での話。

 あまりに真実味の無い話に、愉快な作り話だと決めつけていた。

 ただ愛しい彼女が喜ぶと聞いて、それに関しては触れないことにしていた。

 だが現実に今、あの防ぎようもないはずの海魔の超水流を防いでしまったのだ。そして話に出たままの蒼銀に光る翼と装備を持った戦士。

 セイルはその力を見せられ、己の未熟さに奥歯を噛んだ。


 様々なヒトの目が集まっている。だが、そんな事など今のリオンには関係なかった。姉の無事が確認できた以上、この海魔を倒すことが次なる目標である。

 ここに来るついさっきまで、彼は苦しんでいた。

 もう少しで到着と言うのに船が停まった為、船員が理由を説明にやってきた。

 その話によると、望遠筒で海魔が都市を襲っているのが確認できたという。そのため船は一旦停泊して様子を伺うことにしたらしかった。

 その報せに、リオンは思った。

 海魔の事は知っている。自分が海に投げ出された時、遠くに見えた大きな姿だ。師匠と戦っていたために、嵐になってしまったと笑いながら話された。 

 そんな師匠が度々戦っているのだが未だに倒せない相手であり、戦う理由は助けたい為だと言う。

 それほど強力な存在なのである。

 そして気付くは、都市にいるシーニャに危険が迫っているという事!

 その瞬間、リオンの苦しみは消えた。

 立ち上がり装備を纏う。

 突然の行動に驚くサーシェス達に、「先に行く」とだけ伝え、甲板に出て咆哮。そのまま勢いよく飛び立った。

 空に浮かんですぐ見たのが北の壁を破壊する強力な攻撃だった。

 あれではひとたまりも無い。まさかあの攻撃に巻き込まれていないだろうか?そんな不安を抱きながら破壊された場所に向かった。

 上空から見渡すが幸いにも誰の姿も見られなかった。

 胸をなでおろし、視線を海魔に向けた時、再びあの攻撃が放たれようとしていた。

 その攻撃の向かう先を見る。多くのヒトがいる方向だ。

 そんな時だった。視力の良いリオンはある姿を捉え、思わず目を見張ってしまった。

 高い建物の屋上で動けなくなってしまっている一人の女性がいた。

 美しい顔立ちに恐怖と驚きが表れていた。

 ずっと会っていなくても、その姿を見間違えるはずがない。

 探し続けていた姉、シーニャであった。

 リオンは全速力で飛翔する。

(やらせない!)

 そう思う間に超水流が発射される。

 今いる位置から割り込める位置を即座に判断し、そこへ割り込むと盾を構える。

「ディメンションフィールド!」

 ドゥルークより教わり身に付けた如何なる攻撃をも遮断する防御障壁を最大で発動する。同時にこの世界最高の鍛冶士によって生成された盾を持って、高圧の水流を受け止めた。

 多分、どちらか一方だけであったら周囲に被害が出ていただろう。またリオンの怪力だからこそ、その水圧に圧されず済んだはずだ。

 水流が無くなり、構えを解いたリオンは振り返る。

 そこで確認したのは驚きの表情で頬を染めるシーニャの姿だった。

「無事でよかった。」

 安堵するも、リオンは再び海魔に目を向け怒りをあらわにした。

「許さないぞ、おねえちゃんを殺そうとしたな!絶対に許さない。」

 怒りで力が満ちる。一気に飛翔し、海魔に特攻をかける。

 しかし海魔の髪であるいくつもの蛇が行く手を遮る。

 数本の蛇は突撃状態で貫いたが、相手は神の領域に生きた者。そう簡単に進めることはできなかった。

「そのヒト(女神)から出ていけっ!」

 リオンは叫び、ランスを使って次々と蛇を殺して行った。

 このリオンのセリフは、かつて師匠との会話からのものである。


 すっかりドゥルークとの生活に慣れてきた頃のお話。

「リオンよ、もしもお前が海魔と戦う時があったなら、どうか忘れないで貰いたい事がある。」

 一日の戦闘稽古を終えた食事の時間。一頭の『グランドボア』を狩って、丸焼きにしたのを一緒に食べていた時だ。

 ちなみにグランドボアとは、レッドドラゴンの支配下にある『サントゥアリア諸島』のみで生息する全長3~5mもあるイノシシだ。大きな岩山をも突き破る突進力を持っていて、普通にヒトでは倒せない相手である。ただ、その肉は程よい噛み応えがあり、噛むほどに肉の旨味が増す上質の食材なのである。

「何それ?」

 肉を口に入れて噛みながら問う。その間にドゥルークも肉片を噛み千切って咀嚼する。普段、挨拶などの礼儀にうるさいドゥルークも、食事マナーについては何も言わない…。

「海魔の事だ。お前が海に落ちた時、我が戦っていた相手の事だ。」

「あ~、なんかおっきかった気がする…。」

 そう言ってリオンも手にした肉片に齧り付き、噛み千切って咀嚼する。

「ウム。あ奴は海に生息する魔獣なのだが、実際の肉体は女神なのだ。」

「え~?めがみさまぁ?何でめがみさまとおししょうが戦うの?」

「それを話すからまず聞けぃ。

 昔、この世界で神々が戦ったという話はしたな。覚えておるか?」

「…うん。」

 食べるのに夢中な様子のリオン。いつもの事なので、ドゥルークは先を進める。

「実はその戦いの前に海の女神が攫われた話があってな。その攫われた女神というのが海魔なのだ。」

「え~?どういうことぉ?」

 不思議がるリオンに笑みを浮かべ、竜は語る。

「つまり、女神が攫われて、魔物に乗り移られたという事だ。

 神とは本来精神体であり、肉体はその入れ物のようなモノだ。これは我やお前たちも・・・。」

 話が分からなくなると首をすごく捻る癖を持つリオン。難しい話はまたいずれにしようとドゥルークは話しを区切った。

「ウム、難しき部分は置くとして、要は女神の身体が乗っ取られてしまった訳である。

 攫われた際、女神の肉体が盗まれ、その精神は肉体の中のどこかで囚われているという事だ。

 そして、大戦で仲の良い兄と戦わされ、今も囚われたままこの世界の海で彷徨っている。

 だからリオンよ、もしも会う事があったら囚われた女神の事を覚えていて欲しいのだ。そして、出来る事なら助けてやって欲しい。」

「うん、何かかわいそうだから助けられるようがんばるよ。

 ところでおししょうは、よく知ってるね。」

「…ウム。ある方からその女神を救って欲しいと頼まれたのだ。」

「あるかた?」

「そうだ。我にとってはとても大事な方だ。リオンにとって姉がそうであるようにな。」

「わかったよ。おししょうにとっておねえちゃんみたいに大事なかたが言ってたんなら、僕も助けられるようにがんばるよ。」

「ウム。頼むぞ!リオン。」


 その会話を思い出し、それから何度かその話になって救い出す方法も聞いた。その方法と言うのが、まず女神の姿にさせる必要があるのだが、幸いにしてその状況に今なっている。

 ドゥルークが戦う時はいつも途中で海底に逃げられてしまい、この姿まで戻すことが出来なかったらしい。

 そしてこの体形こそが、女神ティリュースを操るモノが表面に現れているのだ。後はそれを女神と引き離して叩くのみ…。と、簡単に言われたがそれこそが最終防衛なので難しい。

 すでに場所は把握している。あの蛇の髪に隠された額に1mほどの赤い石があるのだ。それを引き抜いて壊すだけなのだが、そうはさせまいと蛇が邪魔をしてくる。

「くっそー、面倒だなー。」

 次々と襲い掛かる蛇の群れを斬り付けるリオン。その蛇一匹ごとが自分の身体を丸呑みできる太さがあり、変な角度から攻めてきたりして攻めあぐねている。

 そんな中で突如蛇が退いたと思った瞬間、右側から太い触手が薙いで来た。ハサミを閉じ、力いっぱい打ん殴る感じだ。

(くっ避けられない!)

 広い面積を有するため、気付くのに遅れたリオンは防御姿勢をとった。ディメンションフィールドを展開し、盾で衝撃を受け止める。

「うわっ!」

 その衝撃に潰される事はなかったが、思いっきり吹っ飛ばされてしまう。その小さな体はさっきの超水流のような高速で飛行し、議事堂の潰れたタワーに突っ込んだ。

「リオンっ!」

 遠くで見ていたシーニャが叫ぶ。そしてすぐに階下へ降りて助けに行こうとしたが、そこに医療院の看護員がやってきた。

「シーニャ先生、新しい患者さんです。子供のお腹に鉄の棒が刺さって危険な状態なんです。ネビュル先生は他の手術中なのでお願いします。」

 切羽詰った様子から、急を要すると感じた。でも、さっきのリオンを見て今すぐにでもリオンを助けなきゃという思いがある。

 医者としてと、シーニャ個人としての葛藤する思いで体がすくんでしまった。

 そして一度リオンの方を見る。

(私にとって、大事なのは…)

 瓦礫の中に叩き込まれたため、無事で済まないと思ってしまう。

 心配で心が乱れ、今の自分ではとてもじゃないが手術などできないと思った。

 それで申し訳ない思いを持ちながら、看護員にそれを伝えようと決めた時、咆哮が上がった。

 それは竜の叫び。

 都市の中央で叫ばれたことで、都市中にその咆哮は轟いた。

 そして壊れた議事堂から光り輝く姿が現れる。

 それを見てシーニャは感じた。リオンがこちらを見たと。

 その直感通りに、リオンは視線をシーニャに向けた。

 心配させてしまったと思った。だからこそ、大丈夫だという意味を込めて、咆哮し気合を入れ直したのだ。

 それを汲み取ったシーニャは頷く。そしてその顔は医師としての表情となった。

「な、何ですか今のは…?」

 咆哮によって怖がる看護員。そこにシーニャが声をかける。

「大丈夫、さぁ、救いに行きましょう。」

「あ、はい!」

 そう言って足早に階下へ向かうシーニャ。最早彼女に迷いはない。

 ただ、その心はリオンの無事を祈り続けていた。



「心配かけちゃったなぁ。カッコ悪いや。」

 ダメージなど無く、瓦礫を払いつつ海魔を見るリオン。シーニャの手前、カッコつけたいと思っていたのに、思わぬ攻撃を受けてそう思った。

「それにしても厄介だなぁ。あの額に隠れた石を壊すのに、どうしようかな…。」

 そう呟いた時だった。突如背後から声が聞こえた。

「き、君!」

 その声に背後を見る。するとそこには震えながらこっちを見ている気弱そうな青年がいた。

「どうしたの?危ないよお兄さん。」

「ぼ、僕はここに取り残されてしまって…、ってそんな暇じゃなかった。

 君は海魔を倒す方法を知っているのかい?」

「うん。」

 青年の慌てた問いかけに平然と答えるリオン。すると青年は更に驚いた表情で願いを申し出た。

「教えてくれ。どうしたら海魔を倒せるんだい。」

 その勢いにリオンも驚いたが、その前にハッと感付いた。そして「ちょっとごめんね」と言って青年を左肩へ担ぎ上げると、一気に翼を広げて空に飛ぶ。

「うわぁぁぁ、と、飛んでるぅぅぅぅぅぅぅ」

 いきなりの事で悲鳴を上げる青年であったが、ちょうどさっきまでいた場所に水球が撃ち込まれ、議事堂の上階にある塔は砕け落ちた。

「お兄さん、海魔を倒せるの?」

 リオンは尋ねる。担いだままなので後ろ向きな会話になるが、青年は応えた。

「あ、あぁぁ、僕は、そんな力はないよ。

 …だけど、そのために自分がどうすればいいかを考えることが出来る。

 僕のせいで、たくさんのヒトを死なせてしまった。申し訳ないと思うし、さっきまで泣き崩れていた。

 でも、それじゃ何もならないんだ。

 だから僕は考えたいんだ。考える事こそ僕の仕事だから。」

 そこには強い意志があった。リオンは青年を見直した。

「考えるかぁ~、僕には難しいことだなぁ…っと。」

 そこに逃げたリオンへ海魔の水球の魔法が飛んでくる。だが、ヒトを一人担いでいようがリオンは平然と避けていく。

「じゃあさお兄さん。今から話すから考えてくれるかな。あの海魔を助ける方法を。」

「助ける?」

 倒そうというのに助けるという言葉を聞いて青年は訝しんだ。だが、そこからリオンが話し始めた内容を聞いて納得する。

「お師匠がいうには、額に赤い石があって、そこを女神さまと引き離せば女神さまの精神が戻るはずだって言うんだけど…。」

 一通りの話の後、青年は少し考えてから問う。

「一つ尋ねるけど、女神さまの身体じゃない足や腕は攻撃しても構わないのかい?」

「う~ん、ダメージは女神様自身が受けちゃうらしいけど、あの女神さまっぽくない足や腕は破壊しても良いって教えられてるよ。」

 それを聞いて、青年は下に広がる海魔や戦士たちの配置を確認した。そして2、3度頷くと力強く返答した。

「よし、それなら手はある。」

「ホント?」

 空で水球を避けながら、二人だけの作戦会議が始まった。


「グフト様!」

 呼ばれて振り向く戦士長。だが、真後ろの部下たちは誰も声をかけた訳でなく互いに見合っている。

 そこに上空からヒトが下りて来た。思いも寄らない登場に驚く一同。

 降りて来たのは気弱そうな青年で、確かアルフェーサーが褒め称えていた青年だ。

「君は!生きていたのか!!」

 思わず肩を叩いて声をかける。その勢いに肩を痛そうにするスーヴェルは直ぐに上を見上げて叫んだ。

「リオン、暫くはお願いするよ。その間に作戦を進めるから。」

「うん、よろしくお兄さん。」

 頭上から聞こえた声は、あの輝く蒼銀の鎧だった。その発せられた声がまだまだ幼い少年の声だったことにも驚いたが、状況が状況だけにスーヴェルへ視線を向け直す。

「作戦とは何だ?」

「はい、先程あの翼の少年から情報を貰いました。海魔を倒し、女神さまを助ける作戦です。」

「何だとぉ!」

 驚く戦士たちを前に、スーヴェルは自信に満ちた笑みを浮かべた。


 リオンが海魔の攻撃を引き付ける間に、作戦は開始された。

 グフトの指示によって一人の指揮官が城壁へ向かって駆け出す。

 一方で前方の亜人を倒す戦士十傑の5名を後方へと下がらせた。

「ちぇ、せっかくこれからって言う時に。」

 そう愚痴るガダン。しかし、亜人の能力は高く、それぞれが押してはいても楽勝と言う感じではなかった。

 命令に従って下がった所で亜人たちは追ってこなかった。そこに、上空から勢いよく飛んできたリオンが全てを突進で貫き、再び舞い上がっていく。

「うへぇ、何だよあいつは!」

 自分たちとの戦闘力の違いを目の当たりにして十傑達は戦慄を覚えた。

「…聞いた話だが、レッドドラゴンに育てられたらしい…。」

「まじかよ!」

 セイルが語ると、4人の視線が一斉に向かった。それに率直な感想を述べるのはやはりガダン。それとは別に古参のグリフトにしたら、別の意味でも驚いた。

「まさかセイルの口からそのような話を聞けるとは思わなかったな。」

 寡黙で現実主義なセイルだけに、戦士ギルドでは噂話を信じないことで有名だ。そんな彼の口から、最も信じがたい話が出たのだ。同じくライダンとて驚きを隠せない。そんな二人にセイルは悔しそうにしてみせる。

「以前ネビュル様の付き添いで出た時、立ち寄った宿屋で聞かされた話です。レッドドラゴンに育てられ、バンデッドゴブリンを瞬殺できる少年の話でした。

 その時は到底宿屋にある与太話と思ってたんですが、目の当たりにしては否定も出来ないですね。」

 この話にシーニャが関わることは伏せておく。下手に言ってガダンなどに知られたら、ふられた話がギルド中に蔓延するのが目に見えているからだ。

「なんにせよ、今はこれ程心強い味方はいない。そして我々は戦士ギルドの戦士だ。我々のできる限りを尽くすとしよう。」

 そうグリフトが締めくくり、4人は呼応してマスターの指示通りに動き出した。


「さて…、女神さまもう少しご辛抱下さい。」

 スーヴェルが右手を挙げた。それを合図に近くに居た戦士がたいまつを大きく振り回した。

 そのたいまつの火を合図に、防壁や隔壁にある弩弓から鉄球が撃ち出された。

 普通の鉄球ならば大砲で撃ち出しても良いだろうが、この鉄球はごつごつと棘が付いた鉄球だった。その棘が大型海洋生物のぬるっとした皮膚に効果があるから使用している。

 それら鉄球は撃ち出されると、放物線を描く様にして海魔の背へと落ちて行く。しかし、鉄球の衝撃にビクともしないのが海魔の甲羅である。今や計8本の細い針みたいな脚が伸びてその体全体を支えているのである。その頑強さは鉄壁と言っても過言ではない。

 ましてやせっかくの棘付き鉄球である。細かい傷は付くかもしれないが、大した成果が期待できるとは思えなかった。

 それでも鉄球は次々に落とされた。その広い背に落ちた鉄球の幾つかは地面に落ちるが、甲羅のくぼみに棘が刺さって引っかかってしまう鉄球がほとんどだった。更に撃ち込まれる鉄球の棘が絡み合って、甲羅の上に鉄球が増えていく。

 僅か1個の鉄球ならば大したことないだろうが、一つだいたい10kgの鉄球が10個、20個、50個、そして100個をと増えたことで、海魔の身体に1000kg=1tもの重圧が課せられる。

流石の海魔も、t単位で重圧を掛けられるとその細い足に負担が掛かってくる。

 そして尚も鉄球は積まれ、合計3tもの錘が海魔にかかった。

 ずしりと細い針のような脚に重みがかかり、尖った先端が瓦礫の中に深く刺さる。

「よし、戦士団前へ進んでください。」

 スーヴェルの声にたいまつが回る。その合図で前衛を任される戦士たちがそれぞれの脚に向かって進む。その手には棍棒やハンマーなどの鈍器があった。

 やがて集まった戦士たちが一斉に脚に向かって鈍器を叩きつける。


 基本剣や棒などは攻撃を受けても、自然と力が抜ける様に傾けたり動かせたりすることで折れずに済む。しかし先と柄の部分を固定されると衝撃は逃げずに刀身自体の損傷は激しい。

 更に重量を掛けて刀身に縦の力が入っている状態であれば、横からの攻撃には脆いという法則がある。

 故に戦士たちの横からの攻撃は、海魔の脚を破壊する事が可能であった。

「落ちて来るぞぉ、離れろっ!」

 合計8本の脚が折られ、その巨体が支えを失って地面に伏す。それまで飛び回るリオンに集中していただけに、突然足を奪われ海魔がそれは見事にバタンと地面に伏せた。

「今です!」

 伏せて土煙が立つ中、スーヴェルがすぐさま指示する。最後のたいまつの合図に、離れていた戦士たちが一斉にその巨体に群がった。

「付与魔法の仕える方は、氷の付与を。」

 その指示に氷の付与を得た武器を持った戦士たちが腕と残った脚に群がる。すでに変色していた脚はたちまちに切断され、長く太い腕の触手も、いくつもの氷の付与された武器によって海水が凍り、その凍った部分を断つことで、最後には切り落とされた。

 背には未だに棘付きの鉄球が残り、手も足も無ければ海魔の身体は身動きが取れない。残るは頭部の赤い石であるが、そこには何本もの蛇の髪がいた。女神自身は落ちたショックで動けない様だ。

 だが蛇たちは明らかに女神の身体を奪ったモノである。即座に周囲へ威嚇と攻撃を始めた。

「蛇には攻撃が通じます。最終段階ですみなさんっ!」

 スーヴェルの作戦によって、戦士たちは大きな被害も無く海魔を地に伏せさせたのだった。


(なぜこんな事になった?)

 海魔の本体である悪魔が思った。これまで好きなように弄ってきたこの女神の身体が、脆弱なヒトによって地に伏すという屈辱を受けている。

 しかも自分にとって芸術的な腕や足が尽く破壊され、残るはこの側近たち(蛇)だけである。

 最早この女神の身体とは離れることになると予想した。

(良い身体だったが、こうなっては仕方ない・・・)

 そしてその悪魔は考える。自分は絶対に倒されない自信があるからだ。

(では最後のこの身体を楽しませて貰おうか…)

 深い意識の中で、悪魔は暗い笑みを浮かべた。


 大きな顔がある。美しい女神の顔だ。

 その目は伏せ、口は微かに開き、厚い唇が艶やかな印象を与える。

 だが、その頭部にある髪の毛は何本もが絡み合って蛇と化していた。その蛇によって、ヒトである戦士たちは苦戦する。だが、彼らの強みは連帯性である。

 一人が蛇の攻撃を凌ぎ、引き付けている所に脇から攻撃する。基本的なパーティーとしての陣形で幾つもの集団がそれぞれに蛇と戦っている。

 その中でもやはり十傑の5人は秀でていた。鉄壁のライダンとグリフトが囮となって蛇の注意を引き、その隙にリーセンやガダンが果敢に攻める。セイルはその状況によって付与魔法をかけたり、タンクである2人に回復の時間を与えたりする。

 見事な連携で他のパーティーより早く討伐する。

「それにしても、数が多い…って言うか復活してんじゃんか!」

 ガダンが周囲を見て叫んだ。

 髪は切られてもまた生えて、少しの時間で再び蛇が形成される。幾ら倒したところで一行に減った感じがしない訳であった。

 流石にこれで意欲を保つのは大変だと感じるが、グリフトは笑いながら愚痴を跳ね除ける。

「たまにはこういう実践練習も良いなって思えっ。増えるならそれ以上の速度で倒し続けるだけだ!」

「ホント、グリフトのおっさんは熱すぎるぜ。」

 ガダンとて戦う事は仕事であるために嫌ではない。しかし、こんな化物が次から次へと湧き出る現状に、終わりはあるのかと言いたかったのだ。そんな不満など考えるだけ馬鹿らしいほどに、歴戦の戦士は戦闘狂であった。

「しかし、こうも続くと疲労によってこちらが不利になるぞ。」

 リーセンが蛇を躱しながら言う。するとセイルがリーセンの躱した先で、蛇の目に剣を突き立てて倒す。

「そこも計算付くでしょう。彼が向かってますから。」

 そして視線を向ける先で、宙を裂く様に次々と空中の蛇を貫いたリオンが、女神の額へと辿り着いた。


(あのおにいさん、言ったとおりにしたな。すごいや!)

 考える事で作戦を作り、それをみんなで行動するという事を知ったリオン。そしてあれだけ面倒な海魔を身動きできないようにしたのだ。

 その見事な采配を素直に感嘆したリオン。そしてここからは自分の役目である。

 作戦中は囮として海魔の注視を受け続け、スーヴェルの言った通りに女神が地面に伏したここからは、リオン自身が赤い石を剥がす役目を引き受けていた。

 なにせこの赤い石の厄介な所は、引き離す時にあるのだ。

 戦士たちが活路を作ってくれた中、目的である赤い石の前まで来たリオンは、その石を見る。

 血のように紅く、丸い石。縦の楕円形で長い所で1m程もある。それが女神の額に填まり、周囲は爛れていた。

「女神さま、痛いだろうけど助けるからガマンしてね。」

 リオンはそう言うと赤い石の一番広い部分に手をかけた。

 その背後から蛇が襲い掛かろうとしたが、セイルの剣によって切り落とされる。

「君の背後は守る。だから安心して作業してくれ。」

「ありがとう、お兄さん。」

 石に向いたまま、少年が礼を言う。その声にセイルは驚き、再び来た蛇を斬った。

(なるほど、彼女の弟と言うだけあって純心そうだ)

 実はまだセイルは信用していなかった。超常なる力を持つだけに、もしかしたら海魔の仲間ではないかという疑念があったのだ。それはヒトとしてどうしても「疑う」という感情を持つだけに拭いきれない。だから間近に来てそれを確かめようとした。石を掴むその背後は無防備だから、怪しければ自分が斬ることも考えていた。

 そんな彼に無邪気な声が返された。その声にシーニャの優しさを感じた。だからこそ、彼に任せても良いと思ったセイルだった。

 後方に心配のなくなったことで、リオンは「ごめんなさい」と言いながら額と石の間に指を突き入れる。

 それによって気を失っていたかのようだった女神がビクンッと震えた。

 だけど構う訳にいかなかった。今こそこのチャンスに助けなければ、もうずっと助けてあげられないと思った。

 そこには師匠の思いがあった。師匠の話を聞いて海神たちの思いも聞く事が出来た。

 兄と引き裂かれ、挙句は戦わされたという悲しみ。

 もし自分であれば絶対に嫌だ。

 おねえちゃんと戦うなんて絶対嫌だ。

 だからこの悪魔は許せない!

 リオンの気持ちが指先から女神へと伝わる。

 

 薄暗い闇の中、女神は心の中の深い位置で囚われていた。

 最初は泣き叫び、兄と闘い、酷い事をしてしまったことで心が折れた。

 それからは長い長い地獄のような日々。

 自分の身体を弄ばれ、更には自分の身体で酷い行動を行われる状況。

 もう、消えて無くなってしまいたかった。

 だけど、囚われた心はそれも出来ず、やがて感情を切り離すことで成り行きを見るだけになっていた。

 そんな女神ティリュースに熱が感じられた。

 見えるのは自分を捉える悪魔本体である石を掴む少年。

 呼び起こされてティリュースは叫んだ。

「ダメ、離しなさい。それを掴んだら、貴方が囚われてしまう。」

 自分の辛さを他者に任せるなどと言う事を、海の女神は許容できなかった。海の女神は人々を包み込む豊かな女神。それも小さなヒトの子にさせるなど許し難い事であった。

 だが、その少年は力を入れて引き剥がす。

 肉に絡みついた石。ぶちぶちと繊維が切れる音が聞こえ、痛みだって感じる。

 でも、こんな自分を救おうとしてくれる思いが嬉しかった。

 石が剥がれるにつれて自分を捕らえている呪縛の黒い糸も切れていく。

 自由になる己の心。

 だが、そのせいで待っているのはこの少年の心が捕えられるという現実。

 そんなティリュースの気持ちも知らず、今、長き呪縛であった赤い石が女神の額から外れ、ティリュースの心も自由を得た。

「ダメ――――――っ!」


(では、頂こうか)

 剥がされた途端、その悪魔は一気にリオンの身体にまとわりついた。

 それまで単なる赤い石だったのに、石は粘着質な物質となってリオンの身体を覆う。

「むっ!」

 蛇が消え、終わったと思った矢先に、リオンの身体に赤いものが纏わり付いて、セイルは戦闘態勢を崩さなかった。

 逆に、女神の髪が美しき月の光を受けて輝くモノと変わる。戦士たちはすでに武器を下ろし、その頬を染めながら美しい女神を見ていた。

 その近くで、未だ戦闘は続いている。

 悪魔はリオンの身体全体を覆い尽くすと、ほくそ笑んだ。そしてリオンへ語りかける。

「さぁ、我がものとなるがいい。」

 こうして相手の身体を奪うのがこの悪魔『ペクト』の能力であり、生きるための手段であった。

 ペクトは元々弱い魔物であった。他者へ害を与えられるような存在でなく、自我の感情を持っていない粘着体質の生物だった。

 だがある時、彼は禁忌を犯してしまった。それは、知恵ある存在を食べること。

 一切の感情など無い彼が、食事と思って吸収したモノ。それは瀕死にあった悪魔だった。

 悪魔と言う存在は戦いを好み、己を強くするために殺し合う。その犠牲となった悪魔がすぐ前に現れ、分からないまま獲り込み、吸収した途端、体内に自我が生まれた。これが悪魔『ペクト』の誕生であった。

 それからペクトは様々な事を試し、自分の能力を確認していった。だが残念な事に、自分自身がいかに弱い存在であるかという事だけが理解できた。

 しかし彼には特別な力があった。相手に乗り移るという力である。その存在を獲り込み、その心を屈服させることで、相手の身体を意のままに操ることが出来る。

 そこでペクトはまず魔物などを獲り込んだ。自我の無い動物などは苦労なく取り込み、それまで乗り移ったモノの能力を付け加えることが出来た。つまり、海魔でいうと、女神の身体に蛇や甲殻類の甲羅などを加えた能力である。その媒体となるのは自分の粘着質の身体であり、大量の魔力であったが、強い生物と同化することで次第に進化することが出来た。

 やがてペクトは神と言う存在を知る。その世界に君臨する最高位の存在。そして美しいという感情を持った。

 ペクトが悪魔として最も強かったのはその欲望だった。己の欲望を果たすため、ペクトは考えた。そして手に入れるための標的となったのが、心優しく疑う事を知らない海の女神ティリュースだったのだ。

 ペクトはティリュースと言う女神を観察し、策を練った。

 彼女に親しい弱い蛇に乗り移り、ティリュースに近づいた。そして海神の力が及ばない陸に上げる為、木の実が食べたいとねだってみせた。

 ティリュースとしては兄である海神から海から出ると危険だと聞かされていたが、いつも親しくしている蛇の頼みなので、木の実を獲るくらいならと蛇を抱き上げて陸に上がったのだった。

 そして海から離れて森の中に入った時、ペクトはチャンスとばかりに蛇を自らの粘着質のものに作り変えてティリュースの身体を覆い尽くす。

 抱いていた事で逃げる事の出来なかったティリュース。しかも思いもしない突然の事だったから不覚を取り、その後肉体を蹂躙された。覆われた状態では抵抗のしようも無く、やがて精神体に接触を許し、全てを奪われた。

 美しい女神の身体を手に入れて、ペクトはその溢れるほどの強大な魔力に歓喜した。欲望は更に深くなり、女神の心と肉体を汚した。悲しむティリュースの姿に悦び、負の感情がペクトをさらに強力な悪魔へと進化させる。

 その結果、海魔と言う存在が誕生したのだった。

 その後起こった神魔大戦において、海神トリスタンと対峙した。流石に海全てを支配する神だけあって勝てそうになかったが、この身体を傷つけることがティリュース自身を傷つけると脅し、何とか死を免れた。

 代わりに封印を施されてしまったが、666年のハーヴェンクロー復活によって自由を手に入れた。

 最早肉体を失ったトリスタンには何もできず、唯一面倒なレッドドラゴンから逃げながらここまで生きて来た。

 

 悪魔であるが故に、上位者である者から命令されては従わない訳にいかない。それでこうしてヒトの街を攻めた訳であるが、まさかここで女神の身体を捨てることになるとは思わなかった。

 だがそれはいいと思った。すでにやり尽して、飽きていたからだ。

 代わりにあのレッドドラゴンの眷属らしき存在が手に入る。これによって暗い海の底でいる必要は無く、逆にこの者を使ってレッドドラゴンを操れるかもと欲が出た。

 そんな事を思いながら、蒼銀の鎧を覆い尽くした。

 しかし、ここでペクトは知る。

 今覆い尽くした蒼銀の鎧。鎧であるためにその隙間から肉体へ接触できると睨んでいた。

 なのにまとわりつくことは出来ても、その肉体に接触が出来ない。それで更に魔力を注いで侵入を試みるが変わらない。

「何故だ?何故獲り込めないのだ。」

 そう呟いた時、蒼銀の鎧は言った。

「この鎧は破邪の鎧。邪な精神攻撃とかは一切効かないよ。」

「なんだとっ!」

 それを聞いて離れようとしたが、既に遅かった。

 覆い尽くした状態でリオンは光る翼を広げて飛翔する。そしてペクトを連れて海上へと出た。

「貴様っ!何をする気だ?」

 するとリオンが平然と答えた。

「決まってるでしょ。悪者退治だよ。」

 そう言った途端、蒼銀が吼えた。

 怒れる竜の叫び!

 その声にペクトの粘着な体が緊張して固くなった。そしてリオンは言う。

「僕も痛いけど、ちゃんと消さないとダメだって師匠から言われてるからね。

 それじゃ、バイバイ。」

 固まったペクトを纏わせたまま、リオンは自らに魔力を爆発させた。


 それは爆熱の魔法『フレアヴァースト』。限られた空間内に高密度の魔力を投じて大爆発を起こし、対象を灰燼と化すリオンの持つ最強の魔法。

 無属性な魔力故に相手が悪魔であろうとも、この魔法を前にしては抗うことは出来ない。肉体はおろか、精神体までも消滅させる威力を持つからだ。

 今回は自分に纏わせたままで行う必要があった。なぜならその悪魔は逃げるのに長けた性質をしているからだ。

 だからこそ誰もいない海上の空へ向かった。あのままでは町自体に被害が出るし、誰かに移られても厄介だ。

 そして咆哮によって動きを固めた今、ペクトに逃れる術は無くなった。

 覚悟を決めて自ら周囲に魔法を発動する。高密度な魔力がリオンを覆い尽くしたペクトをも包囲する。

「よせっ!やめろっ!お前まで死ぬことになるぞっ!」

 慌てるペクト。だが、リオンは静かな声で言った。

「僕にはやらなきゃいけない事がある。だから絶対に死なないよ。」

 その言葉に一切の計算は感じられない。自分が助かる方法があっての攻撃と思っていたが、全くその考えは無いようだ。

 なぜなら、リオンのそれは信念だから。絶対助かると信じて疑わない何の根拠もない考え。

 それは悪魔であるペクトには理解できない概念であり、もはや抗う手段は潰えた瞬間だった。

 そして大爆発が起こった。


 大きな爆発だった。肉体などの物質を構成する素となる原子単位での破壊を目的としたその爆発はペクトと言う悪魔の存在を尽く消し去った。

 そしてそこには翼の生えた鎧が残った。そう、リオンである。

 ただ、その鎧の輝きは黒ずんでいた。無理もない。あれだけの大爆発の中に晒されたのだから。

 だが何故無事なのか?

 それはその鎧の素材にある。そもそもこのフレアヴァーストはリオンの持つ巨大なランスで相手を突き刺し、そして唱えている魔法である。

 その素材である『ミスリル銀』は特殊な金属で、それ自体が魔力を帯びており、強度な魔法防御力を備えているのである。更にそれをこの世界最高であるドワーフ鍛冶士『メッド』によって特殊な付与呪術を備えながら作られた超級の逸品なのである。

 だからこそ、リオンの魔力を受けて、大爆発を耐えたのだった。

 それほどまでの武器と鎧だけに、自らの魔法で死ぬことはなかった。だけど、それは装備の話である。

 突如翼が薄くなり、そして消えた。

 当然のことながら、翼の無いリオンは次第に重力によって落ちて行く。

「あれれ・・・、力が入んないや…。」

 当然である。数日前から船酔いで食事も摂れていなかった状態から、身体に過度な負担を与える『竜騎士』モードでの戦闘。

 挙句は自らの魔力を使い切るほどの大魔法と、それに対抗する鎧の魔力食い。いかに『ドラゴニクス』という特殊な人種であろうとも、リオンはまだ子供なのだ。力尽きたリオンはそのまま意識を無くし、そして夜の海原へと墜落した。


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