表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Law of the World  作者: k2taka
第1部
19/93

激戦の始まり

【第5章】

 場所は変わって、ここはイデアメルカートゥン城塞都市。この惑星エアルスのほぼ中心にある大都市。地形的にも、周囲を海で囲まれ、北のオルハノコス大陸と何とか繋がっている島である。

 元々ここには街どころかヒトの棲家さえも無かった。だが神々の時代より、この地の南には祠があった。

 その祠が悪魔を封印している場所であり、近くに寄りつく者はいなかったのだ。 

 だが、666年のハーヴェンクロー事件によって厳重に警護が必要と考えられた結果、この地に街を作ることになった。

 かつての状況からこの地を治めようとする王はいなかった。その代りに各ギルドがこの地に集まり、ギルド長や医療機関などの特殊機関、それに教会などが幾度もの協議重ねた結果によって街が作られた。

 いわば完全自治体制で街は成り立っているのだ。

 そしてそれぞれが意見を出し合って作った結果、王や貴族による偏見や思想が無い自由さと、自己のみならず他者の平和を考えた規制や法律を基にした住み易い街は、これほどまでの巨大都市へと成長することが出来たのだ。

 そんな大都市の中央部には巨大な塔が建っている。行政役所やギルド本部などが立ち並ぶ中、一際その存在を示す塔はこの都市のシンボルであり、議会などを行う議事堂だ。そして今そこでは定例会が行われていた。


 ホールとも言えるほどの広い部屋。高い窓から差し込む日光と所々に置かれたランプの灯りによって部屋全体が見通せる明るさになっている。その中心は大きな輪を画く様に机と椅子が並び、そこにギルド長たちが列席している。またその背後にはそれぞれの幹部や筆記者が並んで腰を下ろしていた。

 先日の商業市における経済報告やいくつかの反省点が語られた後、街の治安状況を語り合い、それから特記事項などが報告されていく。

 特に問題を定義することなく進む中、慌ただしいノックの音が会議を中断させる。

 ノックの返事も無く扉は開かれ、そこには都市の警護を預かる戦士ギルドの男が息を切らせて立っていた。皆の注目を集める中、男は敬礼をして叫ぶ。

「火急の報告があり、議会中に失礼いたしますっ!」

 その言葉にその男の長である戦士ギルドマスター グフトがぎろりと睨んだ。

「どうした?」

 静まり返った部屋に、男が緊張を孕んで叫ぶ。

「南西海岸より魚型亜人の群れが上陸!その数5,000。北へ向けて進軍しております。」

「なんだとっ!」

 たちまち静寂は喧騒に変わった。グフトは直ちに男へ言い放った。

「ギルド全軍に通達。至急戦闘準備を行い、待機中の内500名は30分後に祠の南側へ向け出立。

 他の者は1時間後に出撃し、海岸沿いから奴らを叩く。

 尚、警備兵及びバラック大隊1000名は街の守備に就け。急げっ!」

「ハッ!」

 男は敬礼の後で引き返していく。その後を見る間もなくグフトは、隣席のメンバーに言った。

「防衛戦は我らが出させて貰う。数は5,000と言うが、魚の群れは北の橋道にも確認されている。念のため都市防衛に1,000残すが、よろしく頼む。」

 その言葉にグフトより若い褐色肌の男が言う。

「祠防衛に我々も参戦しよう。遠距離からの攻撃で亜人の接近を拒みたい。」

「そうだな。よろしく頼む。では我らは出る!街の防衛、よろしく頼む。」

 そう言って二人が扉に向かい、その後ろを戦士ギルドと『ハンティングギルド』の面々が追って行く。


『ハンティングギルド』とは、狩りを生業にする者たちのギルドで、特筆すべきはその弓術である。

 狙い澄ませて射る矢の命中率は見事な物である。また遠距離に対する視野が広く、相手の急な動きも牽制することが出来る。近接主体の戦士たちにとってはありがたい援護者である。


 そして防衛部隊が去った議会室で、残った者たちが動きを見せる。本部の無いギルドからは支部長が参加しており、隠密ギルド支部長『アルフェーサー』は背後の部下に逐一情報収集及びここへ報告するよう指示した。

 また、医療学院のヒュナンは院内の負傷者受入準備と同時に、防衛部隊の為の『野戦医療班』を出動させる。

 戦闘で負傷した者を早急に治療するための部隊だが、そのためには瞬時の判断力や迅速な治療が出来なければならない。そして何より、敵が亜人である場合は最悪の場合、己の命をかける必要がある。奴らはヒトを襲うためにいるので、中立や降伏などは受け入れてなど貰えないからだ。

 そのためこのメンバーに選ばれた者は遺書を書いておく。医療に携わる者としての誇りを持ち、他者のために己の命を懸け、そして無事にこの部隊で仕事を全うできた者は、医師として一流の称号を得ることが出来る。


「一度この議会を閉じよう。そして各者が出来る最大の事を成そう。ただし、各機関はこの場所に数名の者を残しておくこと。随時情報の提供・収集を心掛けてほしい。」

 今期議長となった歴史ギルド支部長『ニルベス』の言葉で議会は閉会し、次々とヒトが出て行った。

 そんな中、隠密ギルド支部長アルフェーサーは懐から一枚の紙を取り出し、それを見つめる。そこに掛かれているのはイデアメルカートゥン周辺の地図で、今回の事に付いて整理をしていた。

 アルフェーサーのギルドでの役割は『戦略家』だ。様々な情報を集め、それを吟味して勝利を得るための道を作り出す。今回の襲撃に対して様々な想定を立てる。

 このイデアメルカートゥンのある地は完全な島と言って良い。オルハノコス南部にあり、サントゥアリア諸島と線引きされるのは北にある『橋道』の為である。オースドーン城の南から繋がったこの橋道は、幅3キロ長さ590キロの正に路で、両端は海に面している。温かい気候だけに海水浴も可能だが、主には連絡路として使われる。この路を渡る時、途中で宿泊できる集落がある。大概の者は船で都市へとやってくるが、今でも路を利用する者はいる。

 だが最近、この路に亜人が出現するようになっている。それが今回の敵である魚型の亜人だ。最近姿を見るようになったこの亜人は、1メートル50センチほどの緑の魚に、ヒトの様な腕と脚が付いている容姿だ。

 鎧は無いが、鱗に覆われており、その鱗が鎖帷子のような役目を持っている。また手には銛を装備しており、それを用いて攻撃してくる。水陸両方にて活動可能で、海でのスピードは風に乗った帆船を軽く超えるほどだ。

 また陸地においてもその戦闘力は高く、尾ひれによる薙ぎ払いは重装備の戦士を吹っ飛ばす力がある。また、正面からだと面積が狭く、刺突しにくい。

 結構厄介な敵であるが、それが数で来るとしたらそれなりの損害を覚悟する必要がある。グフトの事だから上手く戦うとは思うが、それなりに時間が掛かると思われる。

 とにかく祠は何としても守らなければならない。ここにはかつてこの世界を脅かした悪魔が封印されている。それが解かれるようなことになれば…、世界的大惨事が起こることは明白である。

(今回の亜人たちが祠を狙っているのは確かだ。とすれば、どこで食い止めるかという事だな。)

 今までも祠を狙って攻め入る亜人はいた。しかしその全てを尽く防いできた。時には数万と言うゴブリンが攻めてきたこともある。だけど都市のギルドが集結して退ける事は出来たのだ。


 今回は今までになかった新しい種族だから緊張していると、アルフェーサーは自分なりに分析する。

 行うことは、南から押し寄せる魚たちに対して祠の防衛だ。南西にある祠の海岸側に魚共の進行を食い止める壁を作り、一方で都市からまっすぐ上陸してきた地点へと赴き、上陸を防ぎながら、先に向かった亜人の全てを叩き潰す。

 この都市においては、城壁が守ってくれており、更には戦士1000名を含めて、その他多くの戦闘ギルドがいる。何より、魔術ギルドや教会の結界が、この都市への侵入を阻むだろう。

 いうもの防衛戦のようにうまく行くと推測できる。だが、何か頭の片隅に拭いきれない不安がある。その不安感を解明するべく、地図を取り出して情報を整理するのだ。

(南西は海岸線だから、そこから上陸してきた…。北の橋道にも魚の亜人がいるが、何も報告がないので動きは監視続行。南側は黄道と断崖絶壁。西側の見張りからも連絡はない。だとすれば威力偵察か?)

 赤い瞳を机上の図面に落としながら思案する。

 そこに背後にいた精霊通信係から声が掛かった。

「支部長、エフェメル様に報告完了しました。」

 この事態をギルマスに報告するため、一緒にいるサブリーダーエフェメルへ報告させたのだ。

「ご苦労。」

 瞳をそちらに向けて労いをかけ、再び目を戻す。するとその者が言葉を続けた。

「それと、ギルマスからの伝言です。祠全方位を警護しておけとの事です。」

「全方位?・・・!」

 語られた言葉に眉を顰めたが、ふと思い出す事があった。

 それは伝えた人物がよく行う作戦。それに気づき地図を確認すると、祠周囲を指でなぞりながら見渡す。そして気づき、そこに残っていたニルベス議長に向かって言う。

「ニルベス殿!念のため祠周辺を固めさせてほしい。」

 慌てた様子で顔を見せる歴史ギルドの支部長。一瞬何が?と顔をするが、戦略家たるアルフェーサーの言葉に周囲を見る。そこには丁度、戦闘系ギルドの一つ『剣術ギルド』のマスター『オトバ・コジュウロウ』がいた。

「コジュウロウ殿、お願いできますか?」

 腕を組み座っていたコジュウロウの細い眼がニルベスを見据え、それからアルフェーサーに向けられた。それを確認してアルフェーサーは語る。

「あくまで念のためなのですが、多くの兵で攻め込む隙に、逆方向から目的地へ少数精鋭を送り込む作戦があるのです。」

 コジュウロウは態度を変えず、重く太い声が尋ねる。

「・・・ダーケルハイトの作戦か?」

「はい。あの時我々が行ったのは向こうの威力偵察でしたが、亜人たちがあの方法を取らぬとは限りません。デュリュヴ(悪魔信仰者)にとって祠の破壊が目的であると考えられる以上、魚の亜人たちだけでなく、ゴブリンなどによる他方角からの強襲が考えられます。

 特に、北側の森。あそこならば視界の悪さから大量のゴブリンが隠れ進むことが予想できます。」


 ここであがった『ダーケハルトの作戦』とは、かつてギルド長会議で斥候を送るという意見を受け、ギルドマスターブリュムの発案で行われた作戦である。

 ここよりはるか西の『シュラハティニア大陸』西部に作られたゴブリンたちの城ダーケルハイト城。その偵察に陽動役とした1,000名が暴れ、その隙に総勢20名の斥候を送り込んだ。

 結果、城の構造や生息する亜人たちの戦力が確認できたのだった。

 それまでこの世界では陽動を用いた戦いは存在していなかった。力と力による正面からのぶつかり合いが戦争とされていた時代。魔法なども、そうした力比べの助力のように思われていたほどだ。

 それだけにこの陽動作戦は、その有効性から様々なギルドや国で用いられるようになった。

「分かった。我らが向かおう。」

 コジュウロウが立ち上がる。それに倣って後ろにいたメンバーも一斉に向かう。

「伝令はお任せする。」

「分かりました。」

 去り際にコジュウロウが言うとアルフェーサーが頷く。その要請に後方の者へ目配せして伝令係を用意させた。


 『剣術ギルド』…世界中に支部を持つ戦士ギルドと比べ、そのギルド人数は1,000名弱と小規模ではあるが、個々の戦闘力は非常に高く、上位者20名は戦士ギルド十傑に劣らぬほどと言える実力者ばかりである。特にギルドマスターである『コジュウロウ』は、世界中で最強と謳われる『世界十傑』の一人に挙げられる。

 このギルドはその名の通り、刀剣のみを扱う者しかいないが、その剣技は多種にわたり、1対1においても、1対多においても怯むことは無い。

 ひたすらに剣術の追及を求める彼らは心の修練に重きを置いているため、諍い事を行わない人格者のギルドとしても人々から一目置かれている。


 既に戦士ギルドより500の戦士とハンティングギルドのおよそ300名が送られているが、彼らは南側から来る魚の亜人に集中するだろう。そこを突いて他の方角より別の亜人が祠を潰すようなことがあってはならない。

 その防衛として強力な剣術ギルドが祠の守備に入ることは、アルフェーサーにとっては期待以上の配置だった。ハンティングギルドにこちらの推測と剣術ギルドが向かうことを告げて、監視役として数名回してもらうよう要請する。これでひとまず準備はできた。

 だが、未だに脳裏には靄がかかった感じが否めない。

(現状はこのまま監視…、注意すべきは海から来る亜人の数が計り知れん。これはかなり長期戦になるかもしれないな)

 そう締めくくった後、地図を懐に戻した。

 今日の夜には配置が完了し、守りは固まるだろう。予想される魚の亜人たちの進行速度からして戦闘開始は明日の夕刻。それから亜人たちがどう動くのか?また、都市周辺で異状などないか?

 考えなければならないことは山ほどある。だが、それを行うにはここは不向きだ。

 アルフェーサーは一旦考えをやめると、伝令者を残してギルド支部へと帰って行った。

 

 そして明くる日の太陽が沈みかけた時間に、祠から南西3㎞の位置で防衛軍と亜人が激突。同時に海岸近くでも戦士ギルドが陣地を敷いて、海から上がってくる魚の亜人たちへ攻撃を開始した。

 後に語られる『イデアメル海の激戦』が開始されたのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

今回から5章となりました。


リオン達が冒険する傍らで、世界も様々な動きがあることを知って貰えたらと思って書いてみました。

イデアメルカートゥンという事で、シーニャの事が気になる方もいらっしゃると思いますが、そこはお話が進む中でご確認して頂けたらと存じます。


今回は短い内容でしたが、次回またリオン達の冒険になります。

エフェメルが離れ、代わりにミムジアナとトーマスを迎えた一行のお話、お楽しみ頂けたらと思います。


ではまた次回です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ