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The Law of the World  作者: k2taka
第1部
13/93

リオンの正体

【第4章】 

 コロプクルの葬儀は遺体をこの地へ還すことである。

 リオンとエフェメルが遺体を並べ、双子がこの辺りで摘んできた雪氷花を添える。

 数にして58ものコロプクルの遺体が並べられた。

 そしてサーシェスがその者達皆を氷りつかせ、巨大な氷の墓標を作り上げた。

 隣には折れずに残っていた槍を地に突き刺し、そこに大量の花を添える。

 それは魔獣に呑まれてしまったイップスたちの墓。40人への思いをその墓標に込めた。

 一通りの供養が終わると、最後に祈りを捧げる。

「永遠なるこの凍土の地にて、安らかなる眠りを…」

 サーシェスがそう祈りを捧げる両脇にて、双子が声を合わせて祈る。

「「どうか、やすらかにおねむしてくだちゃい。」」

 そう言う双子の声が届いてくれればと願いながら、祈り終わった5人は地上へ出る。

 魔獣によって開けられた大穴から己の手で凍てつかせた街を眺めるサーシェス。様々な思いを抱きながらも、最後の長としての使命を果たすために地下の町を氷で閉ざす。

 たくさんの命が生まれ、そして育んできた。

 思えば苦難は多かったが、皆で支え合い、そして築いてきた。

 そんな一つ一つの思い出を噛みしめながら、やがて町は地下に閉ざされた。

 永久凍土と化した集落。今ここに、ペルルークの町がその灯を消したのだった。


「さて、それじゃあ行きましょうか。直に吹雪が来るでしょうから…。」

 暫く瞑想したサーシェスが顔をあげて言った。

 その言葉にリオンはそう双子を抱き上げた。そして…、

「サーシェスさんも肩に上って下さい。」

 言葉と同時に掌を差し出す。

 思わぬ申し出にサーシェスは戸惑う。

 言ったリオンも照れるが、決して年寄り扱いした訳ではない。

「結構霊力を消費したでしょうし、僕らの歩幅に合わせるのは大変でしょう。」

 この申し出に素直に応じた。掌に一言断って乗り、そのまま右肩に座る。

 左肩にはパァムが座り、ポォムは頭の上に乗っかった。

「重くありませんか?」

 サーシェスが気を利かせたが、実質コロプクルの体重はどれだけ太っていても20キロも無い。パァムとポォムは10キロないし、サーシェスもそれより少し重い位だ。

 筋力が異常発達したリオンには全く苦にはなっていなかった。

「全然問題ないですよ。」

 リオンが声量に注意して伝える。そんな横でエフェメルが指を咥えて見ていた。

「いいなぁ~。」

 その声にサーシェスがエフェメルに移ろうとした。でも、彼女の考えは違うモノだった。

「違いますよぉ~。私もリオン君に抱っこしてほしいなぁ~って思ったんです。」

 流石にそれは無理だと判断したのだろう。それ以上は追及せぬまま、5人は南へと旅立った。

 そんな中、サーシェスは振り返る。そしてしばらくじっと長年過ごした凍土を見つめていた。

(ありがとう。そしてさよなら、私の半身…)



 南へ向かって5日目に南の集落へ辿り着いた。

 そこで長老に事情を話し、一晩泊めてもらうことにした。

 長老たちも今まで直接会ったことがなかったらしく、その小柄さはもちろん、3人の美貌や可愛さに目を白黒させていた。

 同じくダークエルフの妖艶さにも男たちが鼻の下を伸ばしていた。


 夕刻からは集落をあげての宴会となった。

 集落の子供仲良し3人組はすっかりパァムとポォムに夢中だった。

 最初は二人とも人見知りが激しいためになかなかリオンから離れなかった。

 だけれどそこは子供同士。ミキの微笑ましい態度にだんだん懐いて、今では5人で楽しく遊んでいる。

 一方で美しいサーシェスに次々と人々が挨拶する。

 流石は毅然として対応しているが、彼女とてこうして他の種族と話し合うのは初めてである。緊張しているが、リオンとエフェメルが隣でいることで、何とかその姿勢を保っている様だった。 

 そのエフェメルの近くには酒を持って男たちが群がる。明らかにスケベ心丸出しな男連中である。

 その向こうでそれぞれの奥さんや母親が、冷たい視線を送っているのに気付きもしないで…。

 でもエフェメルはそれなりに場数を踏んでおり、そういう場面に慣れているので、簡単にあしらわれる男性陣を見ながら、女性陣は笑っていた。

 そうして楽しい時間は過ぎていく。

 夜も更けた時、パァムとポォムは慣れない旅に疲れてウトウトしており、サーシェスもそろそろ気力の限界なのか、瞼が落ちかけていた。

「姉さん達はそろそろ休んだ方が良いですよ。」

 エフェメルが言い、その言葉に長老が宴の終わりを告げた。


 用意してくれた部屋にサーシェスたち3人が通される。

 双子を運ぶために、エフェメルもそちらへ付いて行った。

 そしてリオンは長老と話をする。流石に今回のことは驚いていたが、これから寒くなることには頭を悩ませていた。

「彼女たちをここで住まわせることは出来ないの?」

 リオンの問いに長老は首を振る。

「無理じゃよ。ワシらだけなら何とかなるかもしれん。だがここはバトリスク領であり王家が収める土地。やはりヒトでなければ厳しい生活になると思う。

 それとじゃ、魔獣が問題じゃ。魔獣に襲われるとなればワシらでは守ってやれんし、ワシらとて被害は被りたくはないのじゃ。何とかしてやりたいのじゃがな…。」

 その意見には最もだなと思い、言葉は返せなかった。

 そこへエフェメルが再びやってきた。3人がぐっすり眠った事を伝えると、長老に酌をしながら自分も呑む。

「ダークエルフは酒に強いのかの?」

「う~ん、強いかどうかは分かりませんがぁ、私は慣れてるために飲めちゃうんです~。」

 艷っぽく言うエフェメル。その横で子供のリオンはミルクを飲みながらきょとんとするが、長老はふぉっふぉと笑う。

「ところでこれからイデアメルに行こうと思うんですが、このまま南に進めますかね~?」

 エフェメルの問いかけに、長老が渋る。

「フム…、今は無理じゃな。ちょうど巨人たちが動いている頃じゃ。この時期は何かと気が立っておるから触らぬほうが良いな。」

 ここから山脈を避けて南に下ると、イデアメルカートゥンへ最短一直線で行ける。その道を西風商団は進んだのだが、それは寒い時期を迎えていたからだ。この暖かくなった時期は『巨人』たちが活動を始める。


『巨人』―ヒトたちとは異なり、野生動物たちとも一線を置く存在。

 小さい者は身長3メートルで、最大は100メートルを超すと言われている。

 色々と種族系統もあるが、全体的に普段は至って温厚。しかし気まぐれな性格は、ちょっと横をすり抜けただけでも執拗に追いかけてくることがある。

 そうなればその巨体と怪力で簡単に命を落とすことになってしまう。

 50メートルを超す巨人であれば、若いドラゴンさえも倒してしまうそんな生物なのだ。


「それじゃあ今は南に行かない方が良いですね~。う~ん、結構遠回りになるかなぁ?」

 脳内で世界の地図を辿るエフェメル。そして違う情報を聞いてみた。

「他の道なんかは大丈夫ですかね~?」

 お酌をしながら、長老に尋ねる。幾分色仕掛け気味な対応と、酔いが回っていることから長老は得意げに語りだす。

「フ~ム、さらに南に進んだ『オースドーン城』では、最近亜人との戦闘が激しいと聞いておるのぅ。何でも魚の格好をした亜人が海から来ておって、イデアメルに通じる『橋道』を占拠しておるとも聞く。この近隣から南に進むのはお薦めできんなぁ。」

「あら~、それは困りますねぇ。」

 そう言いつつ、実の所エフェメルは既にその辺りの情報を掴んでいた。ギルドの情報収集と、精霊を使って世界各地の情報を掴めるようにしているのだ。

 敢えて聞くのは、確認という意味合いもあるが、リオンにそういう事を教えておこうと思ったからだ。

 『情報』という目に見えないものの有用性を少年はまだ知らない。だからこそ、その方法をこれから教えていこうと思っている。

 エフェメルがそう思ったのは、単に彼の気を引きたいだけではない。

 あのモルティメントを倒した彼は、近いうちに世界中で名を知られる存在になるだろう。でもそれは彼にとって良い面と悪い面に繋がる。

 出来る限り危険を回避するためにも、情報を得る手段を身につけさせたいと長い経験で感じていた。

「それなら一旦東に行こうかなぁ~。かなり遠い距離を進むけど、姉さん達に合わせて少しずつ行くしかないですね~。」

「うむ、それが一番安全じゃろうな。気を付けてお行きなされよ。」

 そう言うと長老もすっかり酔った様でうつらうつらと舟をこぎ出した。それを見て、3人も眠りにつくことにした。


 そしてその夜・・・、

「エ、エフェメルさん!何で僕の隣入ってくるんですか!」

「だって、あっちは3人にぐっすり寝て貰えるよう広く使って貰ってるんですよぉ。

 私寝るトコないのでご一緒しましょ~。」

 そう言ってリオンの隣に潜り込むエフェメル。何気ない口調の様であるが、その目は只ならぬ真剣さを感じさせている。

「だったら僕のとこ譲りますから。僕は床ででも寝れます!」

 リオンは慌ててベッドから降りようとする。でも、もちろんのようにエフェメルはその腕を掴んで逃がさない!

「いけません!こんな寒いとこで床で寝たら病気になってしまいます。ですから一緒にくっついて、あったかくして眠りましょ~♪」

 優しげな言葉と裏腹に、ダークエルフの瞳が怪しく輝く。そして獲物を逃がさぬように抱きしめると、そのまま横になって毛布を被る。

 こうなってはもうリオンは逃げられない。力任せに振りほどくわけにいかず、観念した。

 諦めて眠ろうとしたのだが、エフェメルの荒い鼻息や異様な視線を感じてなかなか眠ることが出来なかったリオンだった。



 翌朝、少し眠たげなリオンと気力十分なエフェメル、そして幾分体調を取り戻したコロプクル3人が集落入口に立つと、住人全員が見送りに来てくれた。

 すると、サーシェスは懐から『護符』を数枚取り出して長老に渡す。

 集落の四方に張ることで、術に比べて少し劣るが寒さを凌げるとのことを聞き、長老や集落のヒト達は大いに喜んだ。

「代わりという訳ではないが、昨晩の話で長旅になるじゃろう。だからこれを使って下され。」

 そう言って一台の馬車をリオンたちに譲ってくれた。これからの事を考えると、それはすごくありがたい贈り物であった。

 そして馬車に帆を張り、集落にある幾つかの食料を分けてもらえた。操舵は、西風商団のミューに習ったリオンと経験のあるエフェメルが交互に行うことにした。

「それではお元気で!」

 また会えることを互いに誓い、一行は東へと旅立った。



「馬車を貰えてすごく助かりましたねぇ~。」

 エフェメルが呟く。それにリオンも頷く。

「そうですね。この先を思ったら移動速度が違いますね。」

 後ろの荷台は、集落の人達によって簡易な生活スペースが出来ており、座席だったところはベッドのように寝具が敷かれている。その上で、サーシェスと双子が大人しく座っている。

 不慣れな馬車の中、サーシェスは妙に緊張しているが、逆に双子は移り変わる外の景色を見ながら、楽しんでいた。

「リオン君、馬車の手綱さばき上手ですねぇ。経験あるんですか?」

 エフェメルがすぐ交代できるようにとリオンの横に座りながら見ている。彼女から見て、無闇に馬を走らせる様子もなければ、遅すぎもせず、程よい速さで進めるその腕前は、大したものだと感心していた。

「以前、キャラバンに乗せて貰っていたことがあるんで、その時教わりました。」

「へぇ~、キャラバンですかぁ・・・、リオン君、ちょっと尋ねますけどそのキャラバンは西風商団ていうとこじゃありませんか?」

 キャラバンと聞いて、つい先日入手したある事件が思い出された。

 ある町へ亜人の大軍が押し寄せたお話。

 絶体絶命なその町を前にして、突如現れた一人の戦士。

 その戦士が亜人全てを殲滅したという。

 その情報をもたらせたのが、その時街へ避難したキャラバン 西風商団の関係者であった。

 キャラバンに関わり、それほどの強さを誇るヒトとすれば、他に思い当たらない。

「あれ?知ってるんですか?」

 エフェメルはこれを聞いてやっぱりと納得した。

「えぇ。最近噂になってるキャラバンですから。亜人が攻めて来た時に避難したらしいんですが、この先のウインダーマイルという町で有名なんですよ。」

 その言葉に、リオンはハッとしてから口を紡いだ。

(やはりそうですか。その態度はバレバレなんですよ、リオン君)

 そう思う一方で、どうしようと困った横顔にキュンキュンしてしまう困ったダークエルフ。

「ま、その時になったら考えるとしましょ~。今はとにかく、西へですよ~。」

 こうして一行を乗せた馬車はウインダーマイルへと向けて走る。



 それから十日が過ぎて、リオン達は文芸の町ウインダーマイルに近づく。

 だけど一行はここに入ることを避けることにした。本当は宿屋などでゆっくり休ませてあげたいが、不安材料があるためそうは出来ない。

 まず考えられるのは、サーシャスたちである。コロプクルは人見知りが激しい。なのに物珍しさから人だかりが発生し、サーシェス達に要らぬ気苦労を掛けて休まるどころか、疲れが増すことが予想される。

 しかもここは知識の町。その珍しさから、場合によっては双子が連れ去られてしまう可能性もある。

 それに先日の話で分かったが、リオンがこの近郊で戦ったため、彼自身が町中で目立ってしまう可能性がある。

 あの時リオンは正体を見られてはいないものの、西風旅団の誰かからの情報で、正体がばれる可能性は非常に高い。ならばそこに入ったら確実に騒動のもととなるだろう。

 実はこの話は予想通り、町に入る時点で、リオンの特徴が兵士たちの間で知られているのだ。

「本当は不足している物を購入しておきたいんだけどなぁ。」

 そうリオンが呟く。するとエフェメルが得意げに言った。

「フッフッフ~。ならばこのエフェメルおねーさんに任せなさい!」

 胸を張ってそう言うと、サーシェスが不安そうに聞く。

「何をするつもりなの?」

「ムフフフフ~、私がギルドのサブリーダーという事をお忘れですか~?ちょっとその辺りで止まってリオン君。」

 指示を受けて馬を停める。

 すると降車し地面に手を着いて『精霊通信』を始めるエフェメル。大地の精霊を伝って交信しているのだ。

 やがて立ち上がると、そのまま馬車に戻ってくる。席に着きながらエフェメルは言った。

「それじゃあ町を過ぎた後ゆっくり進みましょ~。そうすれば、向こうから来てくれますからぁ。」

 そう言ってニコニコと笑う彼女の言葉に、今は素直に従うしかなかった。


 エフェメルの言うとおりだった。

 ウインダーマイルの防壁を過ぎると、一台の馬車が迫って来た。それを見てエフェメルが手を振る。

やがて2台の馬車は並ぶと町の見張りから見えない様、林の中で停車した。

「ご苦労様~。」

 サブリーダーらしからぬ軽い挨拶の後、向こうの荷台から4人の男たちが降りてくる。皆商人風の姿だが、操舵席から降りてきた女性は少し違っていた。

 深くフードの付いたローブを着る長身の女性。その身長はエフェメルよりも高い。そしてフードを取ると、白い長髪の女性だった。まっすぐに切りそろえられた前髪の下には鋭く赤い瞳がある。整った顔立ち、エフェメルやサーシェスほどではないものの、魅力のある綺麗な女性だが、特徴は頭上にあった。

 長い耳があるのだ。白い髪から突き出る白く長い耳。そして根本の方はピンク色をしていた。それはまるでウサギのような耳だった。

「お疲れ様ですエフェメル様。ご注文の品々をお持ちしました。そのまま移し入れてもよろしいですか?」

「うん。ありがとうね『ピニュ』。皆もありがと~。それじゃあよろしくね。」

 エフェメルがお礼の言葉と共にウインクを投げかける。それに対して男たちは頬を染めながら、

「ウイィ~スッ!」

と、威勢の良い声を出してから荷を下ろし始めた。

 突然の騒動に幌の中からサーシェスがリオン達の横にやってくる。

「何事なのですか?」

 サーシェスの言葉にエフェメルが応じる。

「ああ、このヒト達はウチのウインダーマイル支部の子たちですぅ。さっきこのピニュにお願いして、必要そうな物を用意してもらったんです~。」

 そう言うと傍らに来ていたウサギ耳の女性が一礼した。

「ピニュと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」

 毅然とした姿。真面目な人物だとリオンは感じた。でも、そのウサギの耳はどうしても気になった。それに気づいたピニャがリオンの方に向いて、ピクピクと耳を動かした。

「これは本物の耳です。」

 突然の行動に驚かされたが、一先ず納得した。


 ウサギ耳のヒトと言えば『獣人系』で『バーナリー』と呼ばれる種族がいる。

 長身で軽やかな身のこなしをするこのヒト達は、高い山をも跳躍で跳び越えてしまうと言われる。

 また、狩人としても一流の腕前という卓越した身体能力を有する。

 性格をあげると、彼らは他の種族に対しては特に思いは無いが、自分たちの種族に対しては高い誇りを持っている。

 だから種族の悪口に関しては些細な事で、しかも呟く程度だとしても、その長い耳で捉えられ、次には酷い目に合う覚悟をしなければならない。


「すみません。初めて見たから。」

 リオンが謝る。でもピニュは首を振った。

「構いません。この耳は我ら部族の誇り。初見であれば見てしまうのも仕方ないでしょう。」

 そうしていると、リオンの肩に双子が乗っかってきた。

「兄ちゃ~、何か何か何かいっぱい~。」

「兄ちゃ、怖い怖い怖い。」

 それまで寝ていて、突然積み込まれる荷物の音に涙目でやって来た双子は、リオンを拠り所に来たみたいだった。そんな二人を優しく撫でながら説明するリオン。 

 その横でエフェメルがピニュに伝えた。

「ああ、やってもらって悪いんだけどぉ、この子たちが怖がるからそっとしてあげてね~。」

 部下に対して申し訳なさそうな言葉。でも、ピニュは驚いた顔のままじっと双子を見つめている。まるで他のことなど気付かないように…。

「ピニュ?どうしたのぉ?」

 心配げなエフェメルの声にやっと我に返ったピニュ。その慌てぶりは先ほどまでの毅然とした様子からは考えられない姿だった。

「も、申し訳ありません。あ、あのぉ、エフェメル様。そちらのプチ可愛い生物は一体…?」

 聞き慣れない言葉を発したピニュに対し、エフェメルは笑顔で伝える。

「可愛いでしょ~。サーシェス姉のとこのパァムとポォム。コロプクルの可愛い双子ちゃんですよ~。」

 そう言ってなぐさめる様にポォムの頭を撫でる。それを見て衝撃を受けたようなピニュがフルフルと震えている。

「突然で怖かったんですかぁ?ゴメンねぇ、怖がらせて~。」

 そう言うエフェメルの後ろから、突然姿を消すピニュ。

 リオンは何事かと見ていたが、次の瞬間には後方から男たちの悲鳴が聞こえた。 

 そしてすぐにピニュが戻ってくる。その素早さはエフェメルが振り返る一瞬の事であった。

「あ、あのぉ~エフェメル様。」

 そして恐る恐る呼びかける。その声に振り向くエフェメルに、もじもじとわき見しながらピニュは小声で言う。

「で、出来ましたら、そのぉ~。わ、私もお二人にナデナデ~って申しますか、触れさせて頂けたらなぁ~ってお、思ったりしちゃってるのですが…。」

 だんだん弱弱しい言葉。でも、それを察したエフェメルは、リオンの左肩にいるポォムを抱きあげる。その行動にまたも震えるピニュ。そんな彼女の前にポォムが差し出された。

「ピニュは可愛いモノ好きだったよね~。だからハイ。」

 円らな瞳に見つめられて真っ赤になるピニュ。でも、人見知り激しいポォムは突然知らない人が目の前に現れ、次第にグズり出した。

「あれ?」

「エフェメルっ!人見知りするポォムをいきなりそうしたら泣き出すのは当たり前でしょう!」

 サーシェスが叱る。

「えっ?あ、そうだった。ごめんポォムぅ。」

 そして元に戻されるポォム。でもピニュは自分を見て泣き出したので、嫌われてしまったと思ってしまう。そのショックはがっくりを肩を落してよく分かる。

 そんなピニュの姿にリオンが右肩にいるパァムに声をかける。

 それを聞いてコクコクと頷くパァムを抱くと、リオンはピニャに声をかけた。

「ピニャさん、パァムがその耳に触ってみたいって言ってるんですが、よろしいですか?」

 突然の事に驚くピニュとエフェメル。

 実はバーナリーは耳を触られることを嫌う。ちょっと昔、エフェメルが触ろうとしてきつく叱られた経験があった。

 だからエフェメルが止めようとした矢先、

「はい。喜んで!」

 ピニャから聞いた事も無い優しく嬉しそうな声がした。それを聞いてリオンがパァムを差し出す。

「どうぞ抱いてあげてください。」

 その言葉に仰け反る様な衝撃を受けるピニュ。そして本当にいいのかと数度確認しながら、ゆっくりとパァムを抱き上げた。

 するとパァムが耳に手を伸ばす。ピニュはうっとりするような顔で立てていた耳をたらんと垂らせた。

 ピニュの頭を覆うように被さる白い耳。それはふさふさした毛で覆われており、パァムはそっとその耳に触れた。

「ふわふわ、ふさふさ~。」

 そう言って撫でる。その度にピニュの顔が高揚しうっとりした表情を見せる。

 そして知らぬうちにギュッとパァムを抱き締めたピニュは、そのまま夢心地の様な感じで時間を過ごしたのだった。


 一通りの工程が終わり、惜しまれつつ(ピニュ一人に)も再び馬車は走り出す。

 あれからピニュがパァムやポォム、それにサーシェスのためにクッションを用意させた。長い旅なので、固い板の上では辛いだろうと言うその心遣いに3人は感謝している。今もその上でゆったりとしていた。

「いやぁ~、まさかピニュの可愛いモノ好きがあれほどとは思わなかったわ~。」

 そう言いながら手綱を握るエフェメル。

 その横でリオンは遠くを見ていた。勿論索敵目的であり、今の所は特に異常は見られなかった。

「ところでリオン君、ちょっと聞いてもいいかしらぁ?」

「はい。何ですか?」

 あっさりと尋ね返すリオン。エフェメルはまっすぐ前を見つめながら言葉を綴る。

 その言葉に、いつもの間延びした感じはなかった。

「あまり聞いてほしくないかもだけど…、君の力について聞きたいの。

 そのレッドドラゴンから授かった力…。正直、私は貴方がモルティメントを倒した時の力を見て、貴方をドラゴンかと思ったの…。あの瞬間は心から怖かったわ。…今は大丈夫だけどね。

 だから知っておきたいのよ。その力がどう言うモノなのかをね。」

 するとリオンはハッとしてから口籠った。そんな少年を横目で確認すると、エフェメルは深く呼吸した。

「私がギルドの人間だからって心配しないでね。それは他言無用と言ってくれたら私は例えギルマスにだって言わない。それは誓うわ。

 でもね、私はこれから一緒に旅する中で、もしもその力がリオン君に制御できない事があったらって事を心配してるの。」

 いつもの軽口でなく、しっかりした口調は信頼に値する言葉だった。でも、リオンにしたら言い難いことがある。それを躊躇しているのだ。


 それから1分の静寂。エフェメルは諦めのため息を吐いた。

「言えなくても仕方ないわねぇ。でも、近いうちに少しは話してね~。

 このまま何も無ければいいけどぉ、もしもって時に後ろの3人に何かあっては嫌だからねぇ。」

 そう言って終わりにしようとした。

 でも、リオンの口から小さな言葉が呟かれた。

「…力の暴走はしません。…この力は僕自身の力だから。」

 その言葉にエフェメルは視線を向けた。

 俯いたリオンが苦笑いをしている。そして言葉は続く。

「エフェメルさんは知ってるでしょ。僕が孤児だったってこと。」

「・・・ええ、詳しくは知らないけどぉ、シーニャちゃんからぁ義理の弟だってことは聞いたわ~。」

「そうです。僕もおねぇちゃんと血が繋がっていないことは分かっていました。でも、それでも良かったんです。別にそれで何かがあるわけじゃなかったから。」

 するとリオンは空を見上げた。穏やかで温かい晴天だった。

「でも、僕がヒトじゃないって知ったらおねぇちゃんはどう思うのかな?」

「え?」

 その言葉にエフェメルは驚いて馬車の速度を落とす。そして馬が停まったのを確認してからリオンに振り向いた。

「それってどういう事なの?」

 視線の先でリオンはしょぼくれた。やがてその口から真実が語られる。

「師匠から言われました。僕はヒトの種族ではないと。

 10歳を迎えた時、真の姿が目を覚まし、その為にこの傷が出来ました。」

 顔に刻まれた深い傷跡を触れるリオン。その言葉にエフェメルは衝撃を受けた。同時に一つの単語が思い浮かぶ。

「・・・『幻獣』?」

 その単語にピクンとしたリオン。そして悲しそうな笑みを浮かべた彼はコクンと深く、ゆっくりと頷いたのだった。


『幻獣』―字の如く幻の生命体を指す。この世界ではまず目にする機会など無い存在で、希少であり貴重な生き物。過去、その存在は確認されていない。ただ、ある教団の聖書にこう記されている。

『この世で最も勇ましく、この世で最も猛き存在。その力は天地をも破壊し、神をも殺すことが出来る。その存在を幻獣と言う。』

 慈愛と出産の神『キュルナー』を崇めるキュルス教団において記されている。

 勇猛果敢な戦士たちには敬わられる一方で、神殺し故に一部の神の信者たちからはその存在は忌み嫌われる。それほどまでの力を有するだけに、噂でありながら、その存在を畏れるヒトは多い。

 その幻獣と呼ばれる種族は、かつて神を殺した際に傷を受けたことから、身体に深い傷を持っているとされる。つまりリオンは該当するわけであるが、これはかなり古い情報であり、今では知らないヒトばかりだ。

 その理由は過去において、傷を持つ人たちを糾弾するという悲惨な事件を巻き起こし、その結果罪なきヒトを死に至らしめたとして、今では禁句となった。


「僕は中でもドラゴンとヒトの混血である『ドラゴニクス』と呼ばれるモノらしいです。だから師匠は言いました。あまりヒトに知られるなと。知られればきっとお前を殺そうとするヒトが現れ、誰もがお前を忌み嫌うだろうって。」

 そんなことを言う彼は寂しそうだった。そしてエフェメルは言葉を飲む。まさかこんな話を聞くことになるとは思っていなかったからだ。

 彼女の考えでは、てっきりドラゴンから特殊な術を受けていると思っていた。だからその代償に何かがあると考えていたのだ。

 しかし、事の次第はそれ以上に深刻な話だった。

 こんな話を普通はしても笑われるだけだ。でも、彼はもうその力を見せつけ、周囲に晒してもいる。

「ヒトの手に負えない力」

 ヒトが最も警戒するモノである。となれば、この情報は決して他に漏らす訳にはいかないと思った。そうなれば最後、彼はどのような人生が待っているかは手に取るようにわかる。

 自分もこのヒトの世界では異質な存在だ。でも、きちんと仲間は存在するし、受け入れてもらえる。

 だけどリオンは…。

 そう考えると言葉は出せなかった。今更ながら聞くべきではなかったかと思う。

 でも聞かなければならなかった。

 そして知ってしまった以上は何と答えるべきか?

 あまりに情報も知識も不足した事情に、エフェメルは言葉を作れなかった。


 そんな二人に入ってきたのは優しい声だった。細く白い手がリオンを後ろから抱きしめた。リオンが視線を移すと、サーシェスが背中にもたれていた。

「リオン、気にすることはありませんよ。貴方は貴方です。」

 その言葉にリオンは俯く。

「だけど、僕は嫌われる存在なんですよ。」

「いいえ。そんな事、まだ言われた訳ではないでしょう?

 貴方は危険に晒された私たちを放っておきましたか?

 今まで会ったヒト達に酷いことをしてきましたか?

 そんな事はありません。貴方は私たちをその力で救ってくれました。私たちにとって貴方はとてもとても優しい人なのです。そして大事なヒトなのです。」

 そしてサーシェスは体を離すと前に回り込んだ。俯くリオンの手に座るとその顔を優しい瞳が見上げる。

「他人がどう言っても、貴方の生き方は貴方自身が決めて行っているのです。

 少なくとも、私は貴方を義理堅く、心優しくて頼りがいのある素敵なヒトだと思っています。だから決して私は貴方を嫌ったりできません。

 それはパァムとポォムも同じはずです。だって、この旅を一緒に行きたいと言ったのはあの二人なんですから。

 ですからリオン。自信を持ってください。

 例え世界中が貴方を嫌おうとも、私たち3人は絶対に何があっても貴方を信じ、貴方の友で有り続けますから。」

 その言葉にリオンの顔が破顔した。大粒の涙を流し、嗚咽を漏らす。

 そんな少年の手を摩りながらサーシェスは優しく微笑み続けた。

「!わ、私だって絶対リオン君を嫌ったりしないですよーっ!私はリオン君が大好きなんですからぁ~。」

 そう言って泣くリオンに抱きつこうとするエフェメル。しかし、その行く手をサーシャスが掌を向けて遮る。ここは抱き締めるべきだという思惑を止められて、エフェメルは愚痴る。

「も~、サーシェス姉は私の邪魔をしようとするんですから~。

 だけどまぁ、さっきは流石年長者の言葉ですから、良いこと言ったです。

 そして泣いてるリオン君はおね~さんのこの胸で優しく癒してあげるです~。

 さぁリオン君、おね~さんの胸に飛び込んでくるですよ~!」

 そう言って両手を広げて迎え入れる準備をした。

 だが、そこにやって来たのは冷たい冷気を纏ったにっこり顔のサーシェスだった。

 その額には怒りが浮かんでいる。

「エフィ~ィ、誰がお年寄りですって?」

 触れてはいけない事に触れたことに気付くエフェメル。慌てて両手を前にして謝る。

「わ、わ、そんな事言ってないです。でも姉さんはもうろっぴゃんーーーーッ!」

「エフィーっ!!」

 口を氷漬けにされるダークエルフ。

 そんな二人の横で、流石にリオンが笑った。

 口元を凍らされた涙目エフェメルと、怒り心頭でいつもと違うサーシェスが共にリオンを見た。

 視線の先で、少年は腕で涙を吹き払い、笑顔を見せる。

 その無邪気な笑顔に二人は居住まいを正す。

「ありがとうございますお二人とも。そうですね。僕は僕らしく生きると決めたんです。

 だからこれからもそうしていくよう頑張ります。これからもよろしくお願いします。」

 その晴れやかなる声に二人も笑顔を戻した。

 解呪したエフェメルが、最後にこう付け加えて、一行は再出発した。

「リオン君、貴方の大事なシーニャちゃんだって、きっと貴方の一番の味方でいてくれるはずですよぉ。」


いつもありがとうございます。

この回に関しては、何度か考え、そして書き換えたりした内容です。

私としても、なかなかに難しいリオンの正体でして、またお話が進むにつれて書き換えるかもしれません。

ただ今回で、この5人がお互いに大事な仲間となっていくきっかけになればという思いで導入してみました。


それでは、これからパーティーを組んだリオンの旅をお楽しみくださいませ。

失礼いたします。

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