医療学院の才女(待ち続けた朗報)
「えっ!イデアメルカートゥン?」
サーシャスに呼び出されたリオン。まだ就寝前だったので、軽装のリオンは上にコートを羽織って向かった。やはり日があるうちは温いが、沈むと寒くなる。そのため、たき火の近くで腰を下ろしたリオンであったが、サーシェスの言葉に寒さを忘れてしまった。
「そうです。ここからかなり離れた南の都市。そこで今は暮らしているそうです。」
そう聞いてリオンはワナワナと震えた。同時に瞳から涙が零れた。
「良かった…。やっと見つかった…。」
リオンはそのまま俯いて涙を食い止める。それまで宛もなく彷徨う日々だった1年間。
ドゥルークから聞いた町の名を頼りに向かっていたが、本当にそこにいるのか?それよりもあの後、海に投げ出されてしまっていないかと心配していた。
それが今、元気に暮らしていると聞いて希望が強く持てるようになった。その喜びで涙が溢れて、最早止まらなかった。
「良かったですねリオン。」
思わず貰い泣きするサーシェス。その横には昼間いた双子の姉弟がいた。姉の『パァム』がリオンの横に行ってその手が届くリオンの背中をよしよしと撫でている。
一方で弟の『ポォム』は不思議そうにサーシェスを見上げていた。
「何で何で何でサーシェスしゃまは泣いてるのぉ?」
そんなポォムの頭を撫でながらサーシェスは微笑む。
「嬉しいからよ。涙はね、悲しくて出る時もあるけど、嬉しくて出ることもあるの。それはね、心が震えたから出てしまうのよ。」
「ふ~~~ん。」
間延びした返事で頷くポォム。その円らな瞳がリオンに向く。
するとリオンもやっと正面を向いた。その手で撫でてくれたパァムの頭を撫でる。
「ありがとうパァム。おかげでもう治まったよ。」
するとパァムはパァッと笑顔を見せ、その後顔を赤く染めながらもじもじと身をよじった。
「それでリオン、あと少しの間は吹雪が続くけど、それまで待ってもらえますか?会いたいのは山々と思いますが、何なら友人にシーニャへ連絡させますが?」
それに対してリオンは首を振った。
「いいえ。それが分かっただけでも十分です。僕の方から会いに行きます。もう少しここに居させて頂いて、嵐が止んだら南へ向かいます。それまで厄介になります。」
「はい。どうぞ気楽に過ごしてね。」
するとパァムとポォムがリオンの下に集まる。
「に~ちゃ、お話お話お話し。」
冒険での話をしてる途中だったので、続きを聞きたがるパァムがその手を掴んでせがむ。逆の手をポォムが取る。昼間は隠れたりしていた二人だが、もうすでにリオンに懐いていた。
「はいはい、それではサーシェス様、おやすみなさい。」
立ち上がり、二人を肩の上に乗せるリオン。二人とも10キロに満たない体重なので、リオンにしては何の苦にもならない重さだった。二人も高い位置に居られてすごく喜んでいる。
「高い高い高い!」
「凄い凄い凄い!!」
そんな様子に微笑みながら、サーシェスは挨拶を送った。
「はい。おやすみなさいリオン。温かくして眠って下さいね。パァムとポォムも迷惑かけないようにするんですよ。」
「「は~~~い。」」
こうしてリオンは子供たちの相手をしながら極寒の地で寝床に着いた。
(おねぇちゃんが見つかった!)
その思いは喜びとなって、彼の心に強さをもたらせた。
所変わって、そこは巨大な防壁に囲まれた世界で2番目に大きな都市。
東は港に面し、至る所から船が出入りしている。
ここには各地の特産品が運ばれてくる他、幾つかのギルドの本部も置かれている。
気候は比較的温暖で、一年を通して過ごしやすいため、広大な面積と共に人口も多く、数十万人規模の人口は世界の2割ほどを占める巨大都市だ。そんな都市の中央には行政役所があり、その周辺にギルド本部が連なり、それよりやや東側に広大な敷地を誇る白い建物が並んでいる。
そこが『医療学院』及び『世界医療連盟』所属の医療院がある。世界でも最高の医療設備で、様々な臨床や研究がされる他、学院では医者の卵を育て輩出している。
そんな学院内で研修している学生の中で、偉才を放つ少女がいた。
激しい痛みに叫び声があがる。声の主は中年の男性だ。
つい先ほど医療院に運ばれてきた患者は42歳の商人で、酔っぱらった客と口論になり、そのまま殴り合いのケンカを始めた。その際、倒れ込んだ場所に割れた木箱の破片があり、左側首筋に深く食い込んでいる。
破片によって出血はさほどではないが、その痛ましい姿に騒然とした周囲は一気に蒼然となり、男はそのまま医療院へ担ぎ込まれたのである。
「動脈を傷つけてますね。」
医者が杭を抜こうかと触れた。しかし杭から伝わる血流の振動などを見てそう判断する。直ちに緊急手術を行う必要があった。だが、その手術は難しい物だった。
神経が通るその部位を手繰り、血管だけを縫い止めるには卓越した知識と技術が必要である。僅かなタイムロスでこの男性はたちまち失血死を迎えてしまうだろう。それに対して自信を持って行えるだけの医師が今はいなかった。このままでも男性の出血は続き、死を迎えてしまうのは明らかでもある。
緊急事態という事で直ちに院長に連絡され、学院長ヒュナンは慌ててやって来た。その姿を見て、院長ならばと誰もが思ったが、高齢のヒュナンは自分での執刀を断った。
「ごめんなさい。年老いた私では執刀は出来ないわ。」
年老いたヒュナンでは、視力の低下により短時間での血管を探り当てる自信はない。せめて傷がなかったならば挑むこともできたが、男性の出血状況を考えると時間制限は厳しい。
諦めかけた診療室。家族は神に祈り、幼い男の子が泣いている。医師たちも、己の不甲斐なさに歯を食いしばった。
だが、院長の言葉は続いていた。
「でも私が指導するから、あなたが執刀してくれるかしら?」
そこでヒュナンが指名したのは、院長と一緒に付いて来たまだ学院生の少女だった。少女はその言葉に返事すると、すぐさま手術着に着替え、ヒュナンの指導の下で手術を開始した。
「何て速さだ!」
並み居る医師たちが見守る中、手術は始まった。
患者を薬で眠らせ、暴れないように固定する。それからよく焼いた切除用ナイフで局部を切る。
迷いない一線。その手慣れた様子は研修生とはとても思えない手際の良さだった。皮膚と、筋肉の並びを把握しているかのようなナイフの入れ方。そこから血管を縫いやすいように、後で患者の負担が重くならないよう丁寧に開いていく。
そして杭を抜く。
その瞬間に飛び散る赤い鮮血。噴き出す血は少女の顔に掛かり、そのマスクや頬を紅に染める。
見ている医師たちが視線を逸らす中、少女は瞬きもせずその傷口に見入る。
吹出す血で視界は悪い。と言うよりも見えるはずもない状況だ。だが見入るのも一瞬で指を入れるとすぐに出血は止まった。
「馬鹿な!あの僅かな間で動脈を探り当てたのか!!」
少女は直ぐに専用の針と糸で血管を塞ぐとそのまま周囲の縫合に掛かる。血圧が低下していく患者を見ながら、最高速度で縫い合わせて行く少女の技術に医師たちはもう目が離せなかった。
傷口を縫い合わせながらも、細かな木の破片も見逃さずに除去していく。体内に異物を残ることは、この世界ではたまにある。だけど、その少女は一切の妥協を許さず、縫合途中でもピンセットでつまんだり、消毒を行う。
やがて皮膚の縫合を済ませて手術を終えた。一度急激に血液が抜けたが、男性は青褪めながらも呼吸をしている。僅かな手術時間により、患者は何とか一命を取り留めたと確認できた。
「よくやったわ!100点満点よ。」
指導していたヒュナンが言うと、周囲で歓声が上がる。が、それより大きな声で少女が言った。
「すぐに患者さんを暖かい所へ運んでください。」
血圧の低下で冷え始めた患者を気遣う少女。その言葉に慌てて医師や看護師が暖炉を用意し患者を温めにかかった。
「手術は治療の手段の一つであって、再び生活できるようにしてあげるのが医者の勤めよ!患者さんが無事に退院されるまで気を抜いてはだめよ。」
慌ただしく動く医師たちにヒュナンが注意を促した。そう、例えどんな見事な手術を行っても、その後の経過が悪ければ、容態が悪くなることもある。この医療院に来られた以上は、出来る限り元の生活に戻れるようにしてあげる様に、全員で治療にあたるのが、この医療院のモットーである。
そんな中、横たわる患者さんに向かって少女シーニャは再起を祈った。
「お見事だったわね。シーニャ。」
手術後の洗浄などを行ってから、院長室に呼ばれたシーニャを待っていたのは、部屋の主でさっき手術の指導を行った学院長ヒュナンと、その愛弟子で少女の義母となったネビュルがいた。その義母から受けた言葉にシーニャは驚きの色を見せた。
「お義母様、お戻りになられてたのですか!」
長い紺色の髪を揺らせながら、駆け寄るシーニャ。そんな養女を温かい目で見つめるネビュルはウインクしながら応じる。
「ええ。さっき帰ってきたわ。そうしたら、あなたが執刀してるって聞いてね。先生から満点だなんて、もう卒業間近ね。」
喜ぶ義母とその恩師も笑顔を見せる傍らで、シーニャは首を振る。
「そんなことありません。まだまだいっぱい勉強する事があります。」
シーニャは決してお世辞や社交辞令は言わない。特に医学に対する熱意は二人からしても異常に思える程だ。
「いいえ。もう貴女に教えることはほとんどないわ。これからは自分で色々な経験をしたり、研究することで技術を進歩していくのよ。」
院長が言う。その言葉は正しく卒業認定であった。流石にそれ以上の言葉を慎むのはシーニャも分かっている。それで素直に「はい」とだけ返事した。
「それにしても、少し見ないうちにまた綺麗になったわね。あれから何人を泣かせたのかしら?」
「な、帰って早々に何を仰ってるんですか?!」
顔を紅く染めながら怒る養女。実際、シーニャは美しくなっていた。
ここに来た時は今にも死にそうな暗い少女だったが、ここに来て自らの目標を定めた少女は、誰もが目を引くようになる。
元々可愛い少女だった。卵のような輪郭に白い肌。パッチリとした黒い瞳と、艶やかな小さい唇がバランスよく配置されている。スタイルも良く、性格に至っては誰にでも優しく、それでいて何事にも一生懸命な美少女。
そんな彼女の心を射止めようと今まで何人もの男性が言寄っていた。でも…、
「ごめんなさい。私は恋をする訳にはいかないんです。」
この言葉が世の女性たちに大人気で、戦士ギルド十傑に入るセイルさえも振った言葉だった。
こうしたシーニャへの告白ははネビュルが旅立った半年前以降も続いている。今ではそんな鉄壁の美女を誰が落とすかの賭けさえしているくらいだった。
「正直、私はそんなことをする資格がありません。助けられる命を助けることが、私の使命なんですから。」
毅然とした態度で、そうはっきりと告げるシーニャ。彼女にとってリオンを救えなかったことを忘れたことなど一度だってない。守ろうとして守れなかった最愛の義弟。今でも彼の可愛い笑顔が思い出され、心が締め付けられる。
そう告げた娘を見て、ネビュルはスッと院長に視線を投げかけた。それは、これから始めますよという合図である。その合図にヒュナンはこれから少女がどの様な態度を見せるかを、年甲斐もなくワクワクしていた。
今回の旅で思いもよらず入手できたとびっきりのニュース。既に話を聞いているヒュナンは微笑みを付けて頷く。それを確認して、義母は一度咳をしてから語り始めた。
「ところで、最近の大陸中の情報はきちんと入手してるのかしら?」
話が変わったことでシーニャは頭の中を切り替えた。そして少し考えて答える。
「えっと、特に大きな事件は起こっていないと思います。お義母様が出られてからでしたら、モルタネントとベルグシュタッドが争って、結局大きな戦争にはならなかったことと、シュラハティニア大陸北部で『ディアボルディア』軍と亜人軍が激突した2件ですね。」
『医療に専念し過ぎてはいけない。きちんと世間の動きも知っておきなさい』
こちらに来て暫くして、養母から教えられた言葉だ。自分の視野を広げると共に、何が自分の未来に関係して来るか分からない。だからこそ、様々な知識を得なさいと教えられたものだ。
そのために街の新聞を必ず読むことを教えられていたので、それを確かめていると考えた返答だったのだが、ネビュルの話は全く違ったものだった。
「やっぱりそんな所ね。私は新聞紙面の話だけじゃなくて、今から話題になりそうな話を聞いてるのよ。」
そう言われて言葉を失うシーニャ。普段から勉強第一で、食後の合間などに新聞を読む程度だったから、そうした世間の話題には疎い。おしゃれの話や恋話などとは特に無縁で、それを指摘されて少ししょげると、ネビュルは肩をすくめた。
「貴女が医学に直向きなのは嬉しいけど、少しは色んな事を見る余裕も欲しいわね。何が自分の未来に繋がるか分からないし、ましてやこんなすごい情報を聞き逃しちゃうんだから。ねぇ先生。」
そう振られて手を口元に寄せて笑うヒュナン。そんな二人を前に取り残された感じの少女が慌て始める。
「すごい情報ですか?」
「そうよ。今回の旅の中で、とある酒場の主人から教えてもらった内容があるの。このお話は、絶対聞かなきゃ損だと思ったわ。まだまだそんなに知られていない内容なんだけど、やっぱり情報は仕入れようとするべきよねぇ。」
「うぅぅぅ・・・。」
ものすごく勿体ぶってみせる。その様子に次第にシーニャの瞳が震えだした。
「ウフフ、聞きたい?」
シーニャは潤んだ瞳でコクコクと頷いた。そんな可愛い仕草に義母は上機嫌で話し始める。
「じゃあ教えてあげるわね。貴女、今北の方で噂になってる戦士の話は聞いたことあるかしら?」
「北の方・・・、いえ。知りません。」
首を左右に振ったシーニャを見てから、養母は続ける。
「ちょうど一年前に現れたらしいんだけど、東から西に向かって旅してる凄腕の戦士の話よ。
何でもバンデッドゴブリンを一人で倒してしまったらしいわよ。」
その言葉に少し驚くシーニャ。彼女は生態系の勉強もしていたため、亜人たちについても勉強をしている。ゴブリンと言っても巨体で、完全に別の生態と思って良い存在。決して一人で討伐は出来ない事ではないが、それはある一定の戦闘レベルを有するとかつて耳にしたことがある。
「それからね、ウインダーマイルに2,000もの亜人軍が押し寄せたって話は聞いたかしら?」
「えぇ、そんな!ぶ、無事だったんですか?」
勉強好きなシーニャにとって、その町は一度は行ってみたいと強く願っている町である。そんな街のニュースも知らなかったのだと反省しつつ、その安否が気になって仕方ない。
「あらあら。こんな大ニュースも知らなかったのね…。ま、つい最近あったみたいだから仕方ないかな…。とりあえず、町は無事よ。そしてその亜人の大軍をその戦士は一人で壊滅させてしまったのよ。」
それには目を大きく開いて驚くしかなかった。そんな、無茶苦茶な強さを持つ戦士がいるとは聞いたことがない。知っている限りのどれだけ強い人でも、そう戦士ギルドの誰であろうともそれは出来ることではなかった。
「大袈裟な話ではないんですか?」
そこにネビュルが言い返した。
「ウインダーマイルの兵士たちが皆目撃したんだから本当よ。」
「信じられませんね。その戦士ってヒトなんですか?」
この言葉には、さすがに二人とも開いた口が塞がらなかった。ヒュナンなどは
「それをあなたが言っちゃダメよ。」
と呟いた。
その言葉が気になったところで、母が言葉を被せる。
「ヒトよ。…そしてここからが問題なんだけど、その戦士ってまだ10代の少年なのよ。」
さらに驚き、シーニャは首を振る。
「そんな、有り得ません。そんな若い子が如何なる人種であろうと、そこまでのスタミナや筋力があるなんて考えられません。」
医学書を読みあさったシーニャは、様々な人体について記憶している。もしそうなら今までの医学書が全て書き直されなければならなくなる。
「そうね。普通じゃないわよね。何でもその少年はレッドドラゴンに育てられたらしいんだから。」
「レッドドラゴン?!」
その存在も知っている。ポトラマにいた時から聞いた世界最強の生物の名前。ヒトにとって畏怖される存在だ。そんな存在に育てられた少年。もしかしたら新しい人種なのかもしれないと、学者魂が疼きだした。
「そんなに凄い子なら、是非とも会って、色々と聞きたいですね。」
そんなやる気を見せた少女の姿。
しかしその姿は学者としての姿にしか見えず、ため息をついたネビュルは確信に迫った。
「そうよね。興味出るわよね…。
で、その少年はある目的があるらしいの。」
「目的ですか?」
シーニャが食い入るように尋ねる。
「ええ。何でも少年はヒトを探してるらしいのよ。」
「へぇ~、そんなすごい少年の探してるヒトも何だか興味をそそられますね。」
そう言った瞬間、ヒュナンが吹き出して笑い出した。
突然のことに驚くシーニャと、一方でそれを非難する愛弟子。
「先生。笑っちゃダメです。」
「ええ、ごめんなさい。」
ひとまずヒュナンが落ち着くのを待つ。その間に不安を感じたシーニャが尋ねる。
「何か隠してますか?」
ビクッとする二人。それを見逃すシーニャではなかった。
「やっぱりお二人で何か隠してますね。…まさか、その少年を私に紹介しようとしてるんですか?」
先にあった恋愛などの流れから、そう考えてしまった少女。
でも、流石にその発想はなかったふたりは更に大笑いしてしまった。
「あははは、シーニャ…、それは流石に無いわよ。そもそもそんな必要なんてないんだから。」
そうヒュナンが言った言葉に、シーニャがまた驚きを見せた。
「ああ~、も~先生ったら。あ~あ、もうこうなったら仕方ないわね。そろそろ本題に入るわ。」
師に攻めるような視線を見せた後、ネビュルは背筋を伸ばして表情を引き締めた。
そして咳払いを一つ…、
「コホン、・・・シーニャ、ここからが本当に大事な話になります。しかと聴くのですよ。」
そう言われてシーニャも居住まいを正した。
「私は直接会っていませんが、先ほど言った、その少年を泊めた宿の主人が教えてくれました。
少年は数年前にある島で育ち、とある事件によって姉とふたりで過ごしていたそうです。」
シーニャはそれを聞いてピクッと身を震わせた。
話は続く。
「そしてある日、知り合った冒険者たちに船で町に連れて行かれる途中、その少年は船から落ちてしまいました。」
「え・・・・・?!」
時が止まったように動きを止めるシーニャ。目が大きく見開かれる中、ネビュルの言葉は更に続く。
「そんな少年が行き着いたのがノナグレシー島。レッドドラゴンの住む島だったのです。
それからはレッドドラゴンに育てられたみたいですね。」
そこまで話すと、シーニャの顔は明らかに狼狽えていた。全身は震え、両手を口元に添えた状態で、見開かれた黒い瞳を義母に向けていた。
「そ、そんな・・・で、でも、まさ・・・か・・・?」
その視線を真正面から見据えてネビュルは最期の言葉を伝えた。
「貴女の事ですから、もう気付いているでしょう。
少年の名前はリオン。そして探しているのは彼が生き別れた義姉。
つまり、あなたですよシーニャ。」
その途端シーニャは雷に打たれたような衝撃を全身に感じた。ワナワナと震え、呼吸が早くなる。心音は異常なほど高鳴り、そして瞳が涙で溢れた。
「生きてる・・・。リオンが…生きてる。」
そう呟くのに対し、ネビュルは頷いた。
「そうよ。リオンは生きていたの。そしてあなたを探しているのよ。
…きっと貴女の想いが天に通じたのよ。良かったわね。」
「!…クスン、ぅぁぅ・・・ヒッ・うわあああぁぁぁー!!」
養母の言葉を皮切りに、シーニャは顔を両手で覆った。そして僅かに嗚咽が流れると、たちまち大声で泣き始めた。
その鳴き声は院長室から周囲の事務室や病室までも響いたが、院長も義母も泣きじゃくる少女を止めはしなかった。
まるで今まで溜めていた悲しみを吐き捨てるように、かつてリオンと二人で泣いた時のように、シーニャは膝を付き、溢れる涙を両手で押さえながら大声を上げ、少女は涙枯れるまで泣き続けたのだった。
「よかったわね。うんうん、良かったわね。」
かわいい教え子の姿にヒュナンはハンカチであふれる涙を拭う。
そしてネビュルは泣き崩れる娘の横に寄り添い、そっとその肩を抱いて一緒に涙を流してあげたのだった。
何となく続けて書いて、早くも10話です。
お読みくださってる皆様、ありがとうございます。
今回、ようやく重要人物であるシーニャを登場させることになりました。
また、この登場によってリオンの目的地が変更しました。
さてここで一応説明しておきますが、この世界の魔法にも治療などの魔法はあります。
しかしその性質は、一時的な止血や体調改善などの簡単なものであり、酷い外傷などを治癒させるなどとすれば、かなり高度な魔法となり、ヒトでは未だに扱えるものが限られている状態にしています。
だからこそ医療という分野が必要であり、日進月歩で進化しています。
さて今後ですが、ペルル―ク編ももうすぐ終わります。
そこから、これまでの旅とは違う形でシーニャへの旅は続きます。
どういう風になるかは今後のお楽しみという事でお願い致します。
(前回既にフラグ立てちゃったのですが…
では最後に、お礼を。
ここまでお読み下さりありがとうございました。
今後もできる限り続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。




