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The / Last / Command  作者: Clown
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第一章 The / Last / Command B

→みおくる



「……俺は……魔王を倒せば全てが終わると思っていた。その後のことなんか、何も考えちゃいなかった」

 今までの俺の、浅はかな思考回路。いや、それでもこの旅を通じて、仲間達の理念や理想を一緒に感じて、少しは魔王討伐の動機付けを明確に出来たはずだった。だが、魔王を倒したその後どうするかなんて、かけらも考えてはいなかった。

 だから、魔王の言葉は俺にとって衝撃ですらあった。少なくとも、魔王は今後の人間と魔物のあり方を考え、それを実行しようとしている。未来を見据えた行動というものを、皮肉にも敵であったはずの相手から教えられた。

「今でも、俺はお前を倒すべきじゃないかと思っている。でも、お前の話が本当なら、俺たち人間と魔物の間に何ら変わりは無いし、共栄も出来るかも知れない」

「……本当に」

「ん……?」

「本当に、そう思ってくれるのか?」

 顔を上げると、先ほどまでの緊迫した空気から一転して、何処か戸惑いがちな表情の魔王がいた。妙にそわそわしているのは、恐らく此処まで同意をしてもらえる人間が一人もいなかったからだ。どう対応して良いのか、考えあぐねているのだろう。

 その様を見て、俺は確信した。以前の魔王がどうかは知らないが、少なくとも今の魔王は今後の両者の行く末を真剣に考えている。そしてそれが意味するところは、現状の魔王統制下にある今の魔物達が、人間と敵対することを是としていないと言う事。もし此処で俺が魔王を倒してしまったら……その時、たがの外れた魔物達がどのような暴走を示すか、全く予想がつかない。

 永遠の闘争の火ぶたを、俺自身が切ってしまうところだったかも知れない。

「少なくとも、お前はそう思っているんだろう? 魔王」

「う……うむ、そうじゃ。そうじゃとも」

「なら、後は俺たちがどう応えるかだ」

 言ってしまって、俺は胸の中の靄がすっと晴れたのを感じた。具体的にどうすれば良いのかは、見当もつかない。魔王の言うとおり、ゼイラム陛下に勇者の派遣をやめさせるよう進言するのも一つの手だが、一勇者の言葉が王の行動を左右するとも思えない。勿論、何もやらないよりはマシかも知れないが、もっと効果的な方法を用意した方が良い。

 そこまで考えて、俺は思わず笑ってしまった。ほんのついさっきまで、目の前の魔王を倒すことで頭がいっぱいだったのに、今はその魔王の言葉にのって共生の道を探ろうと躍起になっている。

 その張本人は、未だに落ち着かない様子で俺の目の前をうろうろしていた。魔王の威厳などあったものでは無い。良くこれで魔物達を統率できたものだと思うが、あのお茶汲みの魔物を見る限り、調教力はそれなりに高いのだろう。

「しかし、ゼイラムを初め、国王達には軒並み総スカンを食らってしもうたしのぅ……妾が自ら赴いて説得するのは効果が薄そうじゃ」

「むしろ、態度を硬化するんじゃないか? いきなり攻撃を食らう可能性もある」

「そうじゃのぅ……前回は側近の魔物に書状を持たせて行かせたのじゃが、命からがら逃げ延びてきおった」

「まぁ、そりゃそうだろうな……」

 いきなり魔物が城の中まで進入してきたら、否が応でも緊張が高まるだろう。十年前の魔王復活が全世界的に盛り上がったのは、そう言う経緯があったかららしい。

「そうなると、やはりお主が頼みの綱じゃな」

「いや、寄っかかりすぎだろ、それは」

「そうは言ってもじゃな……」

 例えば、俺と魔王で共同声明文を出す……のは恐らく俺が魔王側に寝返ったと思われるだけだろう。魔王が白旗を掲げる……それこそ国王軍が大挙して魔王城に押し寄せるだろう。いっそ俺が凱旋して王の座を……勇者王ロマノフじゃあるまいし、王族でも無い人間が王になれるとは思えないか。

 そう言えば、この一見幼女にしか見えない魔王は、どうやって魔王を襲名したのだろうか。ロマノフ陛下に倒された魔王に子供がいたという話は聞かないし、そもそもこれほど人間に近い姿の魔物は見たことが無い。魔人という種族が人間に近いが、彼らとて額に角を有する点で人間とは決定的に異なる。今の魔王には角さえないし、その他の身体的特徴のどれをとっても人間にしか見えない。

「なぁ。お前は、どうやって魔王になったんだ?」

「……? どうやってと言われても」

「魔王に血族がいるという話は聞かないし、どう見ても人間にしか見えないお前がどういう経緯で魔王になったのか、ふと気になってな」

「うーむ……」

 魔王はしばらく難しい顔で唸っていたが、ややあって呟くように口にした。

「妾は、元は人間なのじゃが……」

「……へ?」

 思わず、間抜けな声が漏れる。今、なんて言った? 元は人間? ただの人間が、どう言う経緯を辿ったら魔物達の王になり得るんだ?

 いや、聞き違いかも知れない。もう一度、確かめる必要がある。

「お前が、元は人間だったって?」

「そ、そうじゃ……歴とした人間の女の子だったのじゃ」

「だったら、なおさら聞きたい。どうやって魔王になった?」

 今度こそ元は人間だったことを強く主張する魔王に、さらに突っ込む。魔王はさらに困った顔になった。どうやら相当口にしにくい事実であるらしい。そうなると余計に興味が湧いてくる。

 しばし押し黙る魔王。だが、俺の視線と沈黙に耐えかねたのか、泣きそうな顔になりながら話し始めた。

「……魔王の血肉は、喰らうものを魔物へと変えるのじゃ」

「人間を……魔物へ?」

「人間以外でも何らかの変化を来すらしい。妾は、先代の魔王の血を飲んでこの力を得たのじゃ」

 とんでもない話が飛び出し、俺は困惑し始めていた。何より、今の話は魔王がしていた話と反する。魔物のほとんどは、自然に進化した存在だったはずだ。それらを統括する魔王とて、元を正せばそう言った魔物の一種族に過ぎない。そんな魔物がいるのなら、その魔物を食した生物はすべからく魔物へと変化してしまう。中には同種の魔物を食べたことがある人間もいるかも知れない。だが、これまで人間が魔物に変わってしまったという話など聞いたことが無い。

 そんな俺の表情を見て何らかの誤解が生じていると感じたのか、魔王が慌てて補足する。

「正確には、一部の魔物が持つような特殊な力を得るという事じゃ。先代の魔王を初めとする、所謂『レックス・サタニカ』と呼ばれる種族は希少種で、非常に長命なのに反して生殖可能な年齢の幅が狭いのじゃ。じゃから、己の種を少しでも広く受け継がせるため、血肉を喰ろうたものの体に同化して生きながらえようとするのじゃ」

「じゃあ、正確には半分人間、半分魔物と言うことか。だから外見は人間と同じなのか」

「そういうことじゃ。長命な点も受け継ぐため、血を飲んだときの外見のまま百年以上も過ぎてしもうた……」

 百年。予想されたことだが、こんな姿をしていてもやはり魔王は俺よりも遙かに長い時間を生きてきたらしい。

 そして、益々疑問が募る。血を飲んだときの外見のまま、と言う事は、彼女が魔王の血を飲んだときはほんの小さな子供だったと言うことだ。そんな子供が、如何にして魔王の血を飲むなどと言う機会に巡り会ったのか。

 俺の半ば期待に満ちた眼差しから、魔王はあからさまに顔を背けた。どうやらそれ以上は本当に話すことがはばかられるらしい。だが、此処まで聞いたからには最後まで話してもらう必要がある。

「……勝負しよう」

「な……しょ、しょうぶ?」

「そう、模擬戦だ。魔王が勝ったら、俺は魔王の望むとおりに全力で働く。もし俺が勝ったら、魔王は俺が知りたいことを話す。どうだ?」

「う……も、もし断ったら?」

「俺は南の島でロハスな生活を満喫することにする」

「うぐぐ……」

 魔王としても、人間社会との架け橋として動く存在が欲しいはずだ。長い間待ち望み、歴代の勇者に断られ続けてきた身としてはなおさら。自分を人質に取るような真似はあまり褒められたものでは無いが、仕方ない。

 しばらく本気で考え込んでいた魔王だが、ややあってパチンと指を鳴らした。

 すぐさま先ほど茶汲みをさせられていたのとは別の魔物が、大ぶりの剣を掲げてやってきた。魔王はその剣を受け取ると、一降りして眼前に構える。

 黒い刃だった。ミスリルの輝きとは対になるような、光を一切反射しない漆黒。刃渡りは八十センチメートル程度で俺の持つものとほぼ同等だが、幅が広く、刃先が手斧のように広がっている。一見してかなりの重量がありそうだが、小柄な魔王は軽々と片手で扱っている。恐らくは先ほど話していた、受け継がれた魔王としての力なのだろう。

「……い、一回だけじゃからな! 妾が勝ったら、約束通りこき使ってやるからな!」

 そう言って、大剣をぶんぶん振り回す魔王。照れ隠しか何かの類いに見えなくも無いが、得物が得物だけにはっきり言って怖い。

 俺は静かに頷くと、自分もミスリルの剣を正面に構えた。模擬戦とは言え、相手は魔王。なめてかかれば後塵を拝する事になる。彼女もその様子を見て我に返ったのか、真剣な面持ちで大剣を改めて構えなおした。

 す、と周囲の音が消える。互いに集中力を高め、相手の出方を窺う。恐らく、決着はすぐにつくだろう。最初に見た奇妙な魔法のことを考えると、総合力ではまだ魔王の方に分があるように思うが、相手が剣を持ち出してきたと言うことは、剣による勝負が主体となるだろう。それなら、互角以上に戦える自身がある。

 空気が、変わった。魔王の足が、僅かに横にずれる。ゆっくりと、腰が沈んだ。俺も合わせるように重心を落とす。そして、次の刹那。

「…………!!」

「オオオォォォォッッッッ!!」

 無言の気迫で疾風の如く迫る魔王の剣に、雄叫びとともに振り抜かれた俺の剣が交差する。ゴキン、と言う鉄塊がぶつかり合うかのような無骨な音が響き、互いの剣が反作用で所有者ごと弾け飛ぶ。すぐに体勢を立て直し二撃目を放つが、魔王はすぐさま後方に飛んで切っ先から逃れた。さらに追い打ちを掛けるべく相手の懐に飛び込んだが、魔王は大剣を正確に俺の軌道の先に置いている。

 即座に剣を胸元に寄せて両手で構えたが、容赦なく打ち込まれた一撃で俺は真上に吹っ飛ばされた。あまりの衝撃に剣を持つ両手がしびれる。一瞬重力を感じなくなると、今度はそのまま地面に吸い寄せられる。そこへ、魔王が驚異的な跳躍力で飛び込んできた。横薙ぎの一閃を再び剣の腹で防ぎ、さらに後方へ吹き飛ばされた俺は、着地の勢いを剣と床の摩擦で殺しながら、その反動を利用して魔王の元へ飛んだ。

 二人の視線が、交錯する。そして、銀と黒の奔流がぶつかり合い、

 身の毛もよだつ音を引き連れて、二つの剣が、折れた。


「「あ……」」


 静寂の中で、魔王の声と俺の声が重なった。根元の近くでポッキリ折れた剣。魔王の剣の材質が何かは知らないが、少なくともミスリルは普通の金属では無い。神に祝福された、は比喩でしか無いが、しかしその比喩を少なくとも適正と感じるに足るだけの強度を持っている。剣として鍛えるのに熟練の刀鍛冶でも一年は費やすと言われるそれが、これまでの劣化があるとはいえこうも易々と折れるとは。

 だが、魔王の剣も折れてしまった以上、模擬戦としては引き分けだ。いや、当然魔法戦で再開する可能性もあるが、彼女の様子を見るとすぐさま襲いかかってくる様子も無い。そう思い、手っ取り早く終戦を取り付けようと魔王の元へ歩き出した瞬間、

「ああああぁぁぁぁッッッッ!?」

「!?」

 魔王が突然大声を上げた。何事かと思って彼女の方を見ると、彼女は折れてしまった黒の大剣を手に涙目でオロオロしている。

「お、折れた……お父様から受け継いだ剣が……お、折れ……」

「お、おい、大丈夫……か?」

 狼狽しきった声の魔王に、何故か酷く悪いことをしたような気分になった俺はなるべく刺激しないように声を掛けた。魔王はかわいそうなくらい半ベソの表情で縮こまり、剣の破片を拾ってくっつけようとしている。当然、くっつくはずも無い二つの金属は魔王が手を離すと同時に床にたたきつけられ、寂しく金属音を響かせるのみ。

 余程大事にしていたものなのか……それなら大事に取っておけよとも思ったが、そもそも折れること自体が想定外だったのだろう。ミスリルと相打つほどのものなのだから、余程の業物に違いない。

 しかし、その後の魔王の呟きが、そんな陳腐な感想をあっさりと吹き飛ばした。

「うぐ……ひっく……ロマノフお父様との最後の思い出が……」

「…………な、に?」

 ロマノフお父様?

「お、おい。今、なんて言った? ロマノフ……お父様?」

 俺の言葉に、魔王はびくっとした表情でこちらを見た。あ、と口を両手でふさいだが、時既に遅し。しばらく目をそらして黙りこくっていたが、やがて無駄と悟ったのだろう。魔王は両目に涙を一杯にためながら一気に吐露した。

「妾のお父様は、お主達が敬愛する勇者王、ロマノフ・ディス・ファスタラントじゃ!」

「な、なんだってぇぇぇぇッッッッ!?」

 まさかそんなはずは、と身構えた上でなおその衝撃は大きい。確かにそれなら小さな子供が魔王の血を飲むなどと言う機会を得た事にも符合する。魔王を倒したその人の子供なのだから。だが、それでも疑問は尽きない。

「妾の本当の名は、フレイア・デア・ファスタラント。ロマノフお父様の三番目の子にして王位継承権第三位……のはずだったのじゃ……」

「はずだった……?」

「穏健王アルスラは次男坊で、上にアルシドと呼ばれる嫡男がおったことは知っておるかの?」

「いや……」

 初耳だった。ロマノフ王の子は穏健王アルスラただ一人であり、そもそもフレイアという名も聞いたことが無い。いや、王家に都合の悪い系譜は秘匿されているという噂も聞いたことがある。つまり、アルシドと言う人物と目の前の魔王フレイアは、何らかの理由で王家にとって都合の悪い人物と言うことになる。

 勝手な想像を、しかし肯定するように魔王は首肯した。

「アルシドは王位継承権第一位であったが、廃嫡されたのじゃ。実の母親を手に掛けたという罪でな」

「……!!」

「理由は定かでは無いが、錯乱していたという話もある。その時、母の腹の中にいたのが……妾じゃ。何とか取り上げられた妾じゃったが、未熟な状態で生まれた妾は病弱で、ことあるごとに病に伏せる状態じゃった」

 最早何に驚いて良いのかも分からない。王家の長男が母殺し。しかも、身ごもった母を殺した。そして、そこから取り上げられた未熟な娘。

 ロマノフ王が、直接魔王の討伐に向かった真の理由が、ようやく垣間見えた。

「お父様は、魔王の血のことを知っていた。じゃから妾をつれて無謀とも言える旅に出たのじゃ」

「そして、見事に魔王を討ち果たし、その血を娘であるお前に与えた」

「……結局、お父様も私欲のために先代の魔王を討ち果たしたのじゃ。妾は、その罪滅ぼしをしているに過ぎぬ」

「自分の身を犠牲にしてまで、か?」

「成人を迎えることすら難しいと言われた妾が、ここまで生きながらえたのじゃ。残された時間や力を魔物達のために使うことを、犠牲とは思わんよ」

 魔王フレイアは、そう言って笑った。外見の年齢相応の、快活な笑顔だった。恐らくは、心の底からそう思っているのだろう。先代の魔王が率いてきた、そして今は彼女が率いている魔物達のために、彼女は人間であった過去を押しやって、俺たちとの交渉の余地を推し量ってきた。

 始まりは一人の人間の私欲だろう。だが、彼女はそれを見事に昇華した。人間と魔物、それぞれが互いに反発すること無く、共生できる道を模索する。それは、世界のあり方を変えるということ。その行く末をしっかりと見定めると言うこと。

 今までの俺には、到底及びもつかなかったこと。

 だからこそ。

「……分かった」

「ん?」

「俺も、私怨のために此処まで来た。それを思いとどまらせる機会を、お前はくれた。だから、俺もその恩に報いようと思う」

 きょとんとした表情をしていた魔王だが、やがて泣きそうな笑顔に変わる。俺は照れくさくなって微妙に目をそらしたまま右手を差し出した。その手が、おずおずと握られる。

 これで、良かったのだろう。人間と魔物の共生。それが本当に実現できるかどうかは分からない。だけど、互いに対立する二つの勢力から、同じ目標を掲げる一組がここに生まれた。これは、そのまま実例になる。

 人間と魔物、ともに世界に生きるための。



「あぁ、有名な話だが、眉唾なんじゃないか?」

「そうですか……結構信憑性のある文献だと思ったのですが……」

「まぁ、いろんな話がごっちゃになって伝わるなんて事は、良くある。特に、魔王の話は数が多い上にどれも伝聞でしか無いから、尾ヒレの一つや二つはつくだろう」

「そうですよね。ありがとうございました。また立ち寄ります」

「おぅ、またな、詩人のにぃちゃん」

 私はため息をつきつつも、司書の男に手を振って図書館を後にした。ここでも私の求める真実は明らかにならない。

 魔物達による被害が著しく減少してから、およそ十年になる。散発的に旅人が襲われることもあるが、たいていは空腹の魔物の仕業か、大人しい魔物にちょっかいを出した人間の自業自得の結果だ。

 勇者の公募も廃止されて久しく、ファスタラント王が獅子王ゼイラムから白鳳王アヴァロンに継承されてからは魔物の討伐隊も解散された。魔物の驚異は去ったとの判断だが、その裏には魔王、そして魔王とつながりを持つ謎の青年との密談があったとの噂がある。

 魔王のなりはまるで子供のようだが、驚くほど理知的で聡明であったという。また、青年は交渉術に長け、魔王と白鳳王の対話にも第三者としてかなりの役割を果たしたと。

 どんな内容の密談だったのかはもとより、本当にそれが魔王であったのかも定かでは無いが、事実人間は今や魔物の脅威に怯えること無く、安寧の生活を謳歌している。魔物という共通の敵がいなくなったことで国同士の軋轢は増したが、それを調整するために青年が裏で動いていたという話だ。だが、何故かその存在について誰も口を割ろうとしない。

 その後、誰も魔王の姿を見ることはなかった。魔王城のあるエンドリオンには何人も立ち入らず、彼の地は暗黒の地となっている。魔王はそこにいて、今も魔物達を統率し、静かに暮らしているという。

 そして、青年も行方をくらまし、ただ調律された世界だけが残った。

 誰も、彼らを知らない。

 ただ、彼らの残した世界だけが、緩やかな時の流れを歩んでいく。


 静かに。

 ただ、静かに。



Flag B→第2章Vinushkaへ

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