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The / Last / Command  作者: Clown
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最終章 seed of hope

「そうか……セカンダとサーディアがフォーゼスへの進軍を画策していると」

【フォーゼスの仮面王ラクシャインは交戦に応じる構え。いかがなされますか】

 メダイヲンと呼ばれる長距離通信に長けた魔物を通じ、偵察に行かせた妖鳥族のユルバハから連絡が入った。人間と魔物の相互不可侵を何とか達成させたは良いが、今度は人間同士の争いが少しずつ表面化するようになってしまっていた。魔物という共通の敵を無くした所為だろう。その一点で協力関係にあった国々は、抱えていた不和の爆弾を少しずつ爆発させていき、さしあたって最も緊張が高まったのがセカンダ・サーディアの連合とフォーゼス王国だ。

 元々フォーゼスの豊富な鉱物資源を頼りに魔物との戦争をしていたセカンダ・サーディアは、それが無くなってからというもの慢性的な鉱石不足に陥っている。特にこれからの資源として注目されているボーキサイトと呼ばれる鉱物は今のところフォーゼスでしか採掘することが出来ず、これを狙ってセカンダが戦争をしかけようとしているのだろう。

「正直、これ以上はあんまり関わりたくないな。人間同士の争いは、魔物と人間の争い以上に醜い上に、精神的に消耗する」

【獣王陛下はこれに乗じて、狼蒼族保護の名目でアシアロ山脈への侵攻許可を求めています。こちらはいかがなさいますか】

「そっちもか……ひとまず獣王にはセカンダに次の動きがあるまで待っていてもらおう。俺もそちらに向かう」

【御意】

 通信を終えると、俺は深いため息をついた。様々な思惑が絡みすぎて、最早何から手を付けて良いのか分からない。

 世界に存在する七大国を相当懐柔してきた今でも、山岳地域に住む狼蒼(ろうそう)族や森林地帯の複数の魔物を治安維持のためと称して狩っているらしいセカンダ王国。これに怒り心頭の魔獣種の王、獣王ズーディアは、隙あらばセカンダに攻め込み、これを滅ぼそうと考えている。先に手を出したのはセカンダなのだから、獣王に攻められるのは自業自得とも言えるが、これを許すと世界各地で再び魔物と人間の対立が出来上がってしまうため、これまでも何とか自制を促していた。

 サーディア王国はセカンダの腰巾着のような位置におり、常にセカンダの意向を汲んで行動するため、セカンダさえ懐柔できればサーディアは何とでもなると思っている。ただ、セカンダの現王であるクランバッハ遊撃王は魔物駆逐論者の急先鋒でもあり、これを何とかするのは至難の業だ。

 ちなみに、フォーゼスの鉱物資源を狙うのも、魔物の討伐軍を増強するのに必要だからだ。全てがここにつながってくる。いっそセカンダを滅ぼしてしまったら世界は平和になるのでは無いかと言う物騒な予想も立てたくなる。

「ところで、去年旗揚げしたって言う新興国のアハト公国ってのは、どうなってるんだ?」

 側近である鬼人族のガイストに話を振ってみたが、どうやら新しい情報は入っていないらしい。こちらはトラブルの種、とは今のところ言えないが、ある意味特殊な国でもある。

 王を立てない国として公国を名乗っている彼らは、国民が決めた数人の代表が国をとりまとめるという統治形態を取っている。代表の一人は国の立ち上げ人でもあり、事実上のトップと言うことも出来るが、この人物も相当謎が多い。

 いわく、何処かの王家の血筋を引いている、という事らしいが、少なくとも既存の国家の何処の王家にも、出奔して新しい国を旗揚げしそうな人物は見当たらない。人前にもあまり出ない所為か、肖像画のようなものも出回っておらず、何度か偵察に行かせたが結局見つけることは出来なかったようだ。

 さらには、国の領内に人間と魔物が入り交じった場所が複数あるというのも気になる。ジーヴァ王国の南にる未統治領に興った小国がアハトだが、元々は魔物が多く住んでいた場所でもあり、それ故未統治領となっていたはずだ。いかにしてそこに人間が入り込み、国を興すに至ったのか。その目的は?

「まぁ、こっちは後回しでも良いか。ひとまず喫緊の問題はセカンダと獣王だ。ガイスト、遠征の準備を頼む」

 黙礼のみを残して準備に向かうガイストを見送り、俺は玉座に深く腰掛けた。先代の魔王の後を継ぎ、現魔王としてエンドリオンに君臨して十数年。最初の十年は人間世界と魔物世界の相互不可侵を各国に徹底させるために動き続け、そこから先は細々と起こる人間と魔物のトラブルを仲裁するなど、およそ魔王という肩書きとは遠い役割を演じてきたが、ここに来て再びきな臭い動きが多くなってきている。ほとんどはセカンダがらみだが、魔物達の勢力でも、獣王ズーディアのような極端な例を除いても、南極の氷雪王やゼクセン王国に近い竜王領の魔物達は、人間に対してあまり良い感情を持っていない。

 世界中に魔物と人間の戦争を引き起こす種が眠っている。それは、ほんのちょっとしたきっかけでも芽を出し花開くほど、成長の早い種。

「……やっぱり、難しいよな、先代様よ」

 俺は、自ら手にかけた先代の魔王のことを思い出す。冗談のようなリボン満載の真っ赤なドレスに身を包んだ、まるで幼女のような外見の魔王。先々代の魔王の血を飲んで自ら魔王となったと語った彼女は、百年かけて魔物と人間の争いを止めようとしていた。そんな彼女を、私怨によって勇者となった俺が殺した。悔恨にさいなまれた俺は、彼女の血を飲んで魔王を継いだ。彼女の遺志を継ぎ、世界に融和をもたらすために。

 実際にやってみて、それがどれほど大変なことか、身にしみて分かった。魔物と人間の争いを止めるためには、どちらか一方を説得しても意味が無い。双方が納得できる形に持って行くのに、十年かかった。それも、先代の魔王が作った足場を借りて、十年だ。何度も途中で諦めようと思ったが、そのたびに彼女に切り落とされた右腕の断面が痛んだ。これくらいで諦めるのか、そう言われているようだった。

「難しいなぁ……」

 つぶやき、残った左手で顔を覆う。俺は、この先どうすれば良いんだ。

 そのとき、メダイヲンが突然の来客を告げた。

【城門前に来客一名。通しますか、通しませんか】

「……この忙しいときに」

 様々なものに水を差された気分で、俺は不機嫌な顔をする。

 かつては難攻不落と呼ばれたエンドリオンの地理的条件はかつてと大して変わってはいない。それでも中にはこうしてふらりとここまで辿り着いてしまう人間もいる。とは言え、大抵の人間は魔物狩りをしているうちに迷い込んだり、腕試しにやって来たりと、厄介ごとの塊みたいな連中だ。

 普段なら関わらないのだが、今回は何となくつきあってみる気になった。色々と憂さ晴らしをしてやろう、という気持ちも働いたのかも知れない。

「通してくれ。玉座の間まで案内を」

 しばらくすると、重々しく門扉が開き、玉座の間に涼しげな外気が入り込んだ。最近はこもりきりだったから、久しぶりに新しい空気を吸い込んだ気がする。俺は玉座から腰を上げると、来客を迎え入れた。

 やって来たのは、一人の男だった。軽装の鎧に剣を提げただけの、およそここまで辿り着くには心許ない装備しか身につけていない。しかも無傷で立っている。よほどの実力者か、それとも俺も知らない抜け道でもあるのだろうか。

 大体ここまで来る人間は目つきの鋭い肉体派が多いのだが、彼はどちらかというと学者風の優しい目つきをしている。口髭を生やしてはいるが全体に若そうで、三十代くらいだろうか。多分俺とそう変わらないだろう。

「突然の訪問にも関わらず、迎え入れて頂き恐縮です。アハト公国代表、アーノルド・ブランシェと申します」

 片膝をつき、頭を垂れる男。少し驚いたが、噂をすれば影というやつか。目の前の彼が新興国であるアハト公国の代表であるらしい。礼節を知る男のようなので、取り敢えず安堵した俺は、同じく自己紹介に入る。

「ようこそ、アーノルド公。俺はエンドリオン領主のアレスだ。魔王、といった方が通りは良いかな?」

 少し動揺させてみようと言うくらいの気持ちで魔王と名乗ったが、アーノルドは全く意に介した様子は無い。なるほど、それを承知でやって来た、という事らしい。ならば、話は簡潔にいきたい。

「さっそく用件をお聞きしよう。ここまで来たと言うことは、それなりの覚悟があってのことだろうから」

「そうですね。では、単刀直入にお話しします」

 アーノルドは真剣な顔でこちらを見た。見た目は優男に見えるのに、瞳には一切揺るぎの無い強い意思が感じられる。いっそ老成していると言っても良いかも知れない。どんな人生を歩めばこんな光を宿すのかと思えるほどに。

 そして、彼は意外な言葉を紡いだ。

「私たちのアハト公国と、親善国家となっていただきたいのです」

「親善国家?」

「アハトはまだ出来て間もない小さな国家です。後ろ盾とは言いませんが、エンドリオンとの友好がなれば、周辺国に対して私たちの存在をアピールできると考えています」

 しっかりとした口調で言うアーノルドだが、俺にとってその提案は今ひとつ理解できないものだった。人間の国家同士で友好関係を結ぶのなら分かるが、基本的に魔物しかいないこのエンドリオンと友好関係を結ぶメリットが、アハトにあるのだろうか。

 さりげなく話を誘導してみる。

「何故、魔物の国であるエンドリオンを選んだ? 隣には人間の国もあるだろうに」

「何故かと言われると、難しいですね。敢えて言うなら、その魔物の国の領主が人間だから、でしょうか」

 そういう彼の目に挑発めいた色が浮かんだのは、恐らく勘違いでは無いだろう。どうやってかは知らないが、彼は俺が元人間であることを知っている。そして、それを理由にこことの友好を結びたいという。それが意味するところは、多分それほど俺の予想と外れてはいないだろう。

「人間と魔物の共存する多種族国家同士の友好。望んでいるのは、これかな?」

「ご慧眼に感服します。私たちアハトは、人と魔物の共栄を目指す国家として成立しました。私も代表を名乗ってはいますが、数いる代表の一人です。十名いる代表のうち、人間は私も含めて三名のみ。後は叢精(そうじよう)族、鬼人族、妖鳥族などの、所謂魔物の代表です」

「なるほど。現在国を形成していない種族が集まって、単一の国家を作っているのか」

 彼が挙げた種族は、いずれも国を形成するほど数のいない魔物達だ。彼らが寄り集まって一つの国を形成する事で、他種族の国家と拮抗しようと言うことか。そして恐らく、それを成し遂げた立役者は、このアーノルドだ。

 しかし、何故この男はそこまでして魔物を取り込み、人間と共生する国家を作ろうと考えたのだろう。俺は、その根源を問いただすことにした。

「何故、アハトを作ろうと思った?」

「それは、あなたの尽力を知って、少しでもあやかろうと」

「嘘だな。俺が活動を初めて十数年。特に成果が出たのはここ数年の話だ。その短期間で、それだけの他種族をまとめ上げることが出来るとはとうてい思えない。立ち上げは、少なくとももっと以前からだったはずだ。違うか?」

 そう言うと、アーノルドはにやりと笑った。何処か悪戯っぽくもある表情は、今までの老成した顔と違い、まるで少年のそれだった。

 その奇妙なギャップを、俺は経験したことがある。

「まさか……お前も、なのか」

 俺のつぶやきに呼応するように、彼は立ち上がってこちらに近づくと、腰に下げていた一振りの剣をこちらに差し出した。手にとって、俺は驚嘆した。それは、ファスタラント王国で聖剣として登録されていながら行方不明になっている伝説の剣、エクリプスだ。実物を見たことが無い俺でも、それが本物だと分かった。内包されている強い魔力は、今も全く衰えることを知らない。

 この剣が行方不明になったのは、もう百年以上前とされている。その間彼がこの剣を持っていたのだとしたら。

 その推測を肯定するように、アーノルドは頷いた。

「僕も、魔人族の血を飲んでいます。僕に協力してくれたのに、むざむざ見殺しにしてしまった、彼女の血を。国を立ち上げたきっかけも、それです。ここまで来るのに、百年もかかってしまいましたが」

 そう言って、彼は寂しそうな顔をした。きっかけは違えど、彼も俺や先代の魔王と同じ道を歩み、そして一つの結果を出した。それが、アハト公国。人間と魔物が共存できる国。それはまさに、先代の魔王が望んだ理想の世界だったのでは無いか?

 俺は、思わず泣きそうになった。先代の魔王も、アーノルドも、百年という年月をかけて世界の均衡のために尽力している。たった十数年で泣き言を言う自分はどうだ。まだ、やれることがある。あるじゃないか。

 俺は準備にでていたガイストをもう一度呼びつけ、二つの書面を作らせると、エクリプスとともにアーノルドに手渡した。アハト公国との友好を受け入れる旨と、もう一つ。通商および越境に対する相互の許可証だ。

「俺は今まで、自分一人で世界を背負い込んでいる気になっていた。でも、それはただの奢りと甘えだったんだと、今は思うよ。これから先、エンドリオンは全面的にアハト公国を支援する。いつでも尋ねてきてくれ」

「恩に着ます」

 書面を受け取ると、アーノルドは一礼し、そのまま踵を返した。振り返らず、そのまま玉座の間を出て行こうとする。扉がゆっくりと閉じ、彼の姿が見えなくなりそうになったとき、俺はもう一度声をかけた。

「今度は、一緒に呑みながら語ろうか」

 その声に、アーノルドは止まって少しだけ振り返る。表情は見えないが、彼がゆっくりと首肯するのは見えた。俺はそれだけで満足すると、すっかり準備を終えたらしいガイストにむけて言った。

「よし。じゃあ、俺たちも一仕事するか!」

 久しぶりに晴れやかな気分で、俺は荷物を担いだ。これから先、どんな未来が待っているかは分からない。アハト公国の成功は見事だが、世界が一触即発の爆弾を抱えていることには変わりない。ただ少し、ほんの少しだけれど、そこに希望の光が見えた気がする。世界は、変われる。変わっていける。その希望を胸に、俺はまだまだ歩いて行ける。

 この世界の果てまでも、きっと。





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