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The / Last / Command  作者: Clown
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最終章 The / Last / Command

「ここが、玉座の間ね……」

 私はゆっくりと息を整え、ここまでの戦闘で興奮しきった頭を何とか鎮めようと試みた。

 王城・セカンダを出立して早五年。幾多の敵を切り伏せ、幾多の難関を乗り越え、幾多の出会いと別れを繰り返して此処までやってきた。王城からパーティーを組んできた仲間達も、一人減り、二人減り、先日最後の一人が山中のトラップにかかって急逝した。

 悲嘆に暮れる間もなく、魔王城のある地・エンドリオンに単身乗り込んだ私。魔王の軍勢の猛攻はこれまでの比では無かったけど、全世界の希望を、そして何より仲間達の遺志を引き継いでやってきた私に、敗北という予感は全くなかった。あるのはただ、魔王の首を討ち取って世界に平和をもたらすと言う未来の予見のみ。

 そうしてたどり着いた、巨大な鉄扉。これまでと風格の違う門構えは、これが終わりへの入り口であることを容易に想像させた。複雑な仕掛けも無く、私を待っていたかのようにゆっくりと開く扉。その先に、魔王がいる。魔物どもを世に放ち、世界に混沌をもたらした者。神々に祝福された世界を、血と鉄の世界へと変貌させようとする者。

 かつて、ファスタラント王国に存在した伝説の勇者王ロマノフは、まさに命を賭して最初の魔王を滅ぼした。三十年前、魔王討伐百周年を前に全世界に向けて高らかに復活を宣言した次の魔王も、討伐隊に参加した勇者の一人によって倒された。そして十年前、魔王は三度蘇り、エンドリオンから凶暴な魔物達を世に放った。

 弱腰の現ファスタラント王に代わって、セカンダ王クランバッハが指揮を執り、世界に再び平和を取り戻すべく、魔王討伐軍が編成された。幾人もの勇者達が魔王城に送り込まれてきたけど、これまで玉座の間にたどり着けた者は一人もいない。

 私は、此処までたどり着いた幸運を噛みしめ、そして討伐を果たせなかった先の勇者達の無念を噛み潰しながら、扉の先を見つめた。全ての元凶、魔王。その最初の姿を、この目にしっかりと焼き付けるべく。怒りと、嫌悪と、そして曲がりなりにも魔物達を統べる王に対する僅かばかりの敬意をもって。

 巨大な空間が、目の前に広がった。

 まるで神殿のような豪奢な室内は、天井が高く、採光用と思われる窓が天井に近いところに並んでいる。窓にはステンドグラスが嵌められ、それこそまるで教会の中のような雰囲気が漂っている。

 大理石で出来た床や柱は磨き込まれ、取り込まれた光を淡く反射してまるでそのものが輝いているように見える。

 そして、魔王城とは思えない幻想的な光景の中、最奥の玉座に鎮座するのは、凶悪なる魔王……

「……って、あれ?」

 私は目を疑った。そこには、確かに立派な玉座がある。この幻想的な光景には似合わない、漆黒の本体に真っ青なビロードの背当てが貼られた玉座だ。その後ろには、これも漆黒の巨大な剣が堂々と飾り付けられている。

 なのに、肝心の魔王がそこにはいない。道を間違えたのかしら? でも、ここまでにある部屋は一通り調べ尽くした。残りはこの部屋しか無いはずだ。それとも、何処かに隠し部屋が?

 半ば困惑していると、突然目の前の玉座が重い音を立てて後ろに移動した。私はびっくりして後ろに下がると、鞘から剣を抜き払った。そのまま眼前に構え、玉座がぴたりと止まるまで待つ。どうやら玉座の下に隠し部屋があったみたいだ。玉座が移動した下から、光が漏れている。

 このまま進んだ方が良いのかしら、と思っている間に、光の一部が途切れた。少し遅れて、こつこつと足音が聞こえてくる。全身の筋肉が、強ばった。あれが隠し部屋として、やっぱり城の最深部であることには変わりない。という事は、この足音の主が、魔王に違いない。

 少しずつ大きくなる足音。やがて、ゆっくりと姿が明らかになる。恐怖のアイコンとしての魔王。一体、どんな姿をしているのかしら。そう思って待っていると。

「……え?」

「……あ」

 出てきたのは、巨大な獣の姿でも無く、不気味な怪物の姿でも無く、至って普通の人間の姿だった。身長は私より頭一つ分くらい高いけど、それでも普通の人間の範疇だ。大仰な鎧とマントをしているけど、他に身体的な特徴は無い。強いて言えば右腕が無いのが気になるけど、それだけだった。

 これが、魔王?

 私の疑惑の視線を受けて、その人物は何となくばつの悪そうな顔をした。顔立ちも、普通の人間の男と変わらない。人間の年齢で言えば、だいたい二十歳くらいかしら。そこそこの美青年だけど、何処か間が抜けてるようにも見える。

 そこまで考えて、はっと我に返った。何を考えているのかしら、私は。それに、まだこれが魔王と決まったわけじゃ無い。もしかしたら、一足先にやってきた私の知らない勇者かも。

 でも、その期待はもろくも崩れ去った。

「しまった。もうここまで辿り着く勇者が来ちゃったのか。もっと早く墓参りに行っとけば良かったよ」

 そう言って、後ろ頭をかく人物。玉座が自動的に戻ると、その人物はさも当然の如く玉座に腰掛け、足を組んで頬杖をついた。

「エンドリオンへようこそ、勇者。魔王アレスだ。よろしく」

「うそ……」

 思わず口に出して呟いてしまった。目の前に座っているのは、どう見てもただの人間の男だ。確かにここにいるからには相当の実力者には違いないけれど、魔物達を統べる王としての威厳は、彼には無いように見える。何より、ここまで人間に近い魔物を、私は見たことが無い。

「それにしても、今は女の子も勇者になれるんだ。時代は変わったなぁ」

「ふざけないで! あなた、本当に魔王なの? 普通の人間にしか見えないんだけど!」

「まぁ、元は普通の人間だから、あながち間違っても無い」

「……え?」

 彼の口から、さらっと出た言葉。元は普通の人間、ってどういうこと? 普通の人間が、どうやったら魔王になるって言うの?

 疑問符だらけの私に、彼は苦笑したようだった。おもむろに立ち上がり、玉座の裏に飾り付けられた漆黒の大剣を取り上げる。彼の身長と同じくらいありそうな大剣を軽々と振り回すと、それを手にしたまま彼はもう一度玉座に座り直した。

「まぁ、信じるかどうかは君次第だ。ただ一つ、お願いがある。事を構える前に、一つ昔話を聞いてはくれないか?」

「昔話?」

 怪訝な顔をする私に、彼はすっと目を細める。その表情の奥に、呑み込まれそうなほど深い感情が宿っているのが垣間見えて、私はどきっとした。見た目は私と大して変わらないのに、まるで何十年もの間修羅場をくぐり抜けてきたような、そんなプレッシャーを感じる。

 本物なのかも知れない。どんな事情かは知らないけれど、彼は本当に元は人間で、その後魔王として生まれ変わった。これから語られる物語は、そんな彼の過去の一端なのではないか。漠然と、そんな予感がよぎった。

「そう、昔話だ。そして、これを聞いた後、改めて君の答えを聞かせて欲しい」

「答え……?」

「そう、答えだ。それでも俺を討ち果たすか、それとも互いに協力するか」

 そうして彼は……魔王アレスは、ゆっくりと語り始めた。過去を、歴史を、繰り返される悲劇を。

 そして、最後に彼は、私に向けて、問いかけた。


「さぁ、どうする?」


 私は────  





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