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The / Last / Command  作者: Clown
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第三章 Replicant Truth G

→たちきる



 僕は、それでも断ち切ることを選んだ。

 過去の一切を、ここで。

 斜めに振り下ろされた剣が、母の胸を切り裂いた。噴き出す血が、僕の顔を彩る。オクタヴィアが殺された、あの時のように。

「……そう……選んだのね……」

 膝から崩れ落ちた母は、ゆっくりと仰向けに倒れた。朱に染まる母の顔は、苦痛でも苦悶でも無く、ただただ哀しい表情を描き出す。それを見て、僕の心は揺らいだ。目の前で死に往く母の姿が、オクタヴィアの姿と重なる。

 そしてその後ろに、彼女の首をはねた近衛兵の姿も。

「く……ッ」

 それらの幻影を振り切るように、僕は首を横に振る。ここで揺らいではダメだ。僕にはまだ、成すことが残っている。

 倒れた母の横に膝をつき、血染めの頬に触れる。僕は母が嫌いなわけでも、憎いわけでも無い。ただ、必要だっただけだ。全てを断絶させ、新たに仕切り直すために。

 おびただしい量の出血にも関わらず、母は僕の手に触れると、しっかりとした口調で言った。

「……お行きなさい、あなたの選んだ道を。何があろうと、振り返らずに」

 母の、最期の言葉。僕が頷くと、母は心なしか笑って見えた。

「さようなら、母様」

 僕は立ち上がり、振り切るように前を向いた。これ以上ここにいてはいけない。剣をしっかりと握り直し、走る。寝室から出るとこちらに向かってきている女中がいたが、血塗れの剣を持つ僕を見て悲鳴を上げ、その場にへたり込んだ。それに構わず、僕は弟のいる寝所を目指す。

 廊下を進むと、女中の悲鳴に気付いてか何人かの兵士が向こうからやってきた。僕は剣を掲げ、躊躇うこと無く兵達の方へ突っ込んでいく。突然襲いかかる僕に対応できず、兵達の首が飛んだ。奥にいた一人が何とか一撃を受け止めるが、流石に聖剣と名がつくだけのことはある。次の一手が相手の剣ごと胴を薙ぎ、二つに分割した。

 驚愕の表情を浮かべながら絶命する兵を捨て置き、更に加速する。最早静かに事を運ぶのは困難だ。迅速に片付けなければ。

 だけど、目の前の彼はそれを許さないようだった。

「……ラヴェル宰相補」

「無茶な行動はお控え下さいますよう、お願いしましたな、アルシド第一皇子」

 弟の寝所の前に仁王立ちしているのは、かつて近衛兵長を務めていた時代に着用していた深い紅の鎧に身を包んだラヴェルだった。僕が行動を起こしてから、それほど時間は経っていない。用意周到にここまで来れるはずは無い。

 つまり、読まれていたと言うことか。いずれこう言う行動を起こすと。

「自分のなさったことを理解しておいでか、第一皇子。これが国家転覆を謀るも同義の大罪であると」

「転覆なんてものじゃないさ、宰相補。僕が望むのは、仕切り直しだよ。ゼロス王の血を絶やし、もう一度やり直すのさ」

「それを転覆というのです、第一皇子」

 細身の剣を抜き払い、こちらに向けて翳すラヴェル。静かな闘気は老いてなお少しも鈍っていない。まともに打ち合って僕が勝てる要素は何処にも無いだろう。だけど、それでも止まることは出来ない。

「……なら、止めてみせてよ」

 腰を落とし、一気に攻める。横に構えた聖剣を真っ直ぐに薙ぐが、ラヴェルは剣で受けることも無く、まるで剣の軌道を最初から読んでいたかのようにするりと躱す。続けざまに振るう一撃も僅かな体捌きで躱され、次の一手を踏み込む直前にはラヴェルの姿が霞のように消え去る。

 同時に僕の体は宙を舞い、廊下に叩きつけられた。何とか受け身を取ったものの、一瞬息が詰まって視界がぼける。あの時と同じだ。僕は何とか起き上がろうと首をもたげたけれど、そこから先に動くことが出来なかった。

 首筋に突きつけられた、凍えるような銀の煌めきを前にして。

「これで、よろしいかな」

「…………」

 凍えるような冷たい声で、僕を見下ろすラヴェルが言う。きっと彼にとっては児戯にも等しい時間だったのだろう。睨み付ける僕にも動じず、ともすればこのまま首をはねる事も厭わぬような気迫。大抵の者なら、これだけで戦意を喪失するだろう。

 けれど、僕は引けない。この道を進むと決めた。母をこの手に掛けてでも、この国の、王の血族は根絶やしにする。僕も含めて。

 横たわったまま、僕は右腕を振り上げた。聖剣の切っ先が、向かい合うラヴェルの首筋をとらえる。でも、僅かに届かない。

 そしてその僅かな差は、無限に等しい断絶。

「……残念ですぞ」

 刃は強靱な一撃にはね飛ばされ、そして僕の胸に、死が突き立った。

 鼓動を封じられた心臓から血液が溢れ、痛みを感じることも無いまま、僕の意識は急速に喪われていく。目の前が白く、そして黒く塗りつぶされていき、全てが闇に没した。

 最後に、引き延ばされた時間の最後の瞬間に、オクタヴィアの姿が見えた。

 真っ白なドレスを着てこちらを振り返る彼女は、困ったような顔で、でも少しだけ笑って、言った。

 こんなところまで追いかけてくるなんて、あなたって莫迦ね。

 あぁ、そうだ。僕は莫迦なのさ。間違った歴史を、自分一人で修正できると思って母親まで手に掛けた、大莫迦なのさ。

 だから、一緒に連れて行ってくれないか。君と僕が共に歩んで行ける、そんな世界へ。

 彼女が、頷いてくれたような気がした。僕は、久しぶりに笑顔で────




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