第二章 Vinushka F
Flag B
「……魔王は、すぐに息を引き取った。最後まで、にこりともしなかったのぅ」
「そうか……」
俺は魔王フレイアに、玉座の下に隠された霊廟に招かれていた。そこには、先代の魔王・アルディアスの亡骸と、彼の姉の亡骸が安置されている。姉の亡骸は、魔王の遺言で祭壇の上に祈りの姿のまま安置されることになったそうだ。腹から上が失われ、断面から墓標の如く背骨が突き出している様は見ていて痛々しいが、先代の魔王にとってはそれが自らへの戒めとなっていたらしい。
彼女の昔話からは、当時の彼女たちの様々な苦悩が垣間見れた。特に勇者王ロマノフの帰還は、当事者達に取ってみれば永遠の別れを意味する。そう考えると、彼女の今のある種楽観的な性格が、そう言った苦悩の反動ではないかと思えてくる。
千年の孤独にも耐える、と彼女は言ったようだが、この百年は恐らく彼女にとっても辛い年月だっただろう。そう思って彼女にそれとなく聞いてみたが、
「んう? いやー、意外に楽しかったぞ? 部下は皆忠実じゃし、よく城内で『種族対抗・脱走者捕縛ゲーム』をして遊んだものじゃ」
「え、なにそれ楽しそう」
という具合で、それほど苦でもなかったらしい。それでも、やはりロマノフ王のことを思い出すと、今でも辛いという。
「お父様の訃報を聞いたとき、妾はこの身を捨ててでも会いたいと思った。じゃが、妾はこうなることも覚悟して魔王となる道を選んだのじゃ。何より、その時にはもう、妾もこのエンドリオンにいる魔物達を支える王として確固たる礎を築いておった。妾一人の身ではなくなっておったからのぅ」
寂しげな表情を見せる彼女は、その時だけ年相応の少女に戻ったようだった。これまで魔王として、人間との共存を図るために尽力してきた彼女は、人並みの少女時代を送ることも出来ずここまでやってきた。それを思うと、自分のこれまでの経緯が、まるでちっぽけな物に見える。
思わずそう漏らすと、彼女はくすくすと笑って言った。
「ここに辿り着いた残りの九十九人は、皆己のことを相当尊大に評しておったぞ。お主だけじゃ、そんなに自分を卑下するのは」
「く……」
俺もそんな性格だったらどんなに楽だったことか。だが、魔王はひとしきり笑った後、やわらかな笑顔のまま俺の手を取って言った。
「じゃが、だからこそお主は妾を支えてくれようとしたのじゃろう? だから……妾はそんなお主で良かったと思う」
その笑顔でそんな台詞は卑怯だ、と思いながらも、俺は照れ隠しに祭壇の方を見た。
祈りを捧げ続ける亡骸と、その前に横たわる哀しき魔王の亡骸。彼らの遺志は、素晴らしい形で昇華されようとしている。それで過去の人間の犯した罪が赦されるわけでは無いだろう。初代の魔王が成してきた罪が赦されるわけでも無いだろう。だけど、それらの罪の上に、新たな道を敷くことは出来る。そこを歩んでいくことは、出来る。そう、俺は思っている。
魔王は、俺の手を取ったまま、霊廟の出口へと歩き出した。俺も、ゆっくりと歩調を合わせて歩き出す。扉の前で、俺と魔王はほんの少しだけ後ろを振り返った。静謐が、早く行けと言わんばかりに背中を押した。
俺たちは顔を見合わせると、希望へと続く出口の扉を、開いた。
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