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無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる  作者: 緋色の雨
第二章

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無知で無力な村娘は、最強の護りを手に入れる 4

 旅のあいだはずっと、もらった資料を基に予習していたため、遅れは最小限に留まっているが……それでも、一ヶ月学園を休んだ分の遅れは相当だ。

 ミューレの街に戻ったリアナは、必死に授業の遅れを取り戻そうと頑張った。


 旅が予定より少しだけ早く終わったおかげで、試験までは数日の猶予があった。その数日間を必死に、それはもう必死に頑張り通した。

 そして――リアナの試験はなんとか終了した。

 その日の夜。

 ハッキリ言って、成績優秀者に名を連ねていられているかは微妙。この分だと、わりとヤバイかも知れない……と、ため息をついたそのとき、部屋の扉がノックされた。


「……ソフィアちゃん、こんな時間にどうかしたの?」

「うん。リアナお姉ちゃん最近忙しそうで、ゆっくりする時間がなかったでしょ? だから、パジャマパーティーでもしないかなぁって思って」

「パジャマパーティー……って、なに?」

「パジャマ姿でおしゃべりをするんだよぅ~」

「へぇ……パジャマパーティーかぁ」

「うんうん。試験も終わったし、来てくれない、かなぁ?」

「うぅん……」


 楽しそうだけど、自分はまだまだ授業の遅れを取り戻さないといけないから――と、そんなセリフが喉元まで込み上げたけれど、リアナはそれを寸前で飲み込んだ。

 なんとなく、ソフィアが寂しげに見えたからだ。

 それに、リアナはかつて、農業の改革に必死になって、妹に寂しい思いをさせた記憶がある。あの過ちを繰り返す訳にはいかない――と、微笑む。


「それじゃ、着替えてソフィアちゃんの部屋に行くね」

「……良いの? リアナお姉ちゃん、お勉強が忙しいんでしょ?」

「うん、もちろん。あたしにとって、ソフィアちゃんは大切なお友達だもん」

「……リアナお姉ちゃん、ありがとう。それじゃ、お部屋で待ってるね!」

 笑顔で走り去っていく。

 やっぱりソフィアちゃんは可愛らしいなぁ……とその姿を見送り、一度部屋の中に。

 パーティーに出るためにパジャマ――と言っても、下着で寝るクセのあるリアナは、下着の上に薄手のキャミソールという姿になって、ソフィアの部屋を尋ねた。

 しかし――


「あ、リアナお姉ちゃん、いらっしゃーい」

「リアナ、遅いよ~」

「ようやく来たのね」

「わぁ~。アリスブランドのキャミソール、着てくれてるんだね」

 ソフィアとティナは良いとして、その後に続くクレアリディルとアリスティアがなんでいるのか……と、リアナは思わず目眩を覚えた。


 別に、クレアリディルやアリスティアが苦手な訳ではない。

 けれど、ミューレ学園の理事長と先生。リアナは成績優秀者を目指しつつも、かなり不勉強な状態でテストを受けたばかり。

 ここで不合格を言い渡されたらどうしよう……と怯える。


「ク、クレア様と、アリス先生もいらしたんですね」

「もうっ、リアナ。そうじゃないでしょ?」

 クレアリディルが、ちょっとふくれっ面をする。いつものクレアリディルとは違う反応に、リアナは戸惑ってしまう。


「えっと……なにか間違いましたか?」

「間違いまくりよ。いまはプライベートなんだから、あたしのことはクレア様じゃなくて、クレアお姉ちゃんと呼びなさい」

「意味が分からないんですが……」

「実はね、このパーティーには、弟くんも呼んだんだけど」

「お願いですから、人の話を聞いてくださいっ。……って、リオン様も来るんですか!?」


 ど、どうしようと、リアナは自分の恰好を確認する。

 リアナは普通の下着だと思っているのだが――ちょっぴり大胆な下着に、薄手のキャミソールを着ているだけ。

 透けてはいないけれど、色々なラインはくっきり出てしまっている。

 こんな姿でリオン様に会うなんて……と慌てふためくが――


「まぁ、逃げられたんだけどね」

 続けられたクレアのセリフに、リアナはふえ? と間の抜けた顔をする。


「リアナ、いま、ちょっとだけ残念に思ったでしょ?」

「そ、そんなこと言ってませんよっ!?」

「でも、思ってはいるのよね?」

「そ、そんなことは……」

 恥じらいつつ、視線を横に流す。

 リアナの色気のある仕草に、クレアリディルがクスクスと笑った。


「隠さなくて良いじゃない。妹のために入学してきた貴方が、目標をみんなのためにって昇華させたのは、弟くんが切っ掛けなんでしょ?」

「ち、違いますよ。リオン様だけが特別なんじゃなくて、あたしはクレア様のことだってっ」

「あら、あたしは切っ掛け的な意味で言っただけで、特別とか言ってないわよ?」

「も、もうっ、クレアリディル様なんて知りませんっ」

「ちょっと、呼び方がさっきより硬くなってるじゃないっ」

「ぷいっ」

 リアナは口で言って視線を逸らす。

 そうして逸らした先で、アリスティアと目が合った。


「ちょいちょい」

 アリスティアに手招きをされて、膝立ちでにじり寄る。

「……なんですか?」

「あのね。アリスブランドのお店に、『アリスのおすすめ』ってあるでしょ?」

「あぁ……はい。あたしが着ている下着も、そのおすすめを買ったんですけど?」

「うんうん。そのおすすめね。実は……リオンが好きそうな服ばっかり選んであるの」

「……え、それって?」

「あたしのおすすめなら、きっとリオンも見とれちゃうよ。だぁかぁらぁ……その恰好で夜這いをかけたら、リオンだって誘惑できちゃう、かも」

「も、もうっ、アリス先生までっ」


 リアナはふくれっ面になる。

 だけど、この様子だと、この場でテストの結果を言われることはなさそうだな……と、リアナは少しだけ安堵した。


 でもって、この二人はリオン様のことを好きだって宣言しているのに、どうして他の人を焚きつけるようなことを言ってるんだろうと疑問に思う。

 よもや、この世界の実姉と前世の実妹が、リオンの倫理観を順番に破壊していくために、まずは義妹をくっつけよう――なんて計画しているとは夢にも思わない。

 リアナは今後も二人に焚きつけられ……もとい、応援されることを、いまはまだ知らない。


「ねぇねぇ、リアナ。それより、旅先のことを教えてよ」

 ティナが詰め寄ってきた。

「そんなこと言って、ティナはダンケ村のことが知りたいだけでしょ?」

「そんなことは――なくは、ないけど」

 いまだ素直になりきれない。

 だけど、少しだけ素直になったティナを見て微笑ましく思う。


「そう言えば、ウェンツくんが、ちっともティナに似てなかったよ」

「え? あ、あぁ……弟に会ったんだ。でも、似てなかったって、顔のこと?」

「うぅん、性格の方だよ。姉ちゃんは絶対モテないだろ――とか、可哀想だから、俺が嫁にしてやろうか――とか。いかにも、村の悪ガキって感じだったよ~」

 リアナの自称苦労話に、部屋にいるみんなが沈黙する。


「あ、あれ? え、その……悪ガキって、その、本気で悪口を言ってる訳じゃないよ? あたしの村でも、そんな感じのことを言う子は一杯いたし……えっと、ごめん」

 あたしだって、妹の悪口を言われたら怒るもんね。失敗だったね――と反省する。


「ね、ねぇ、リアナ。そのときのこと、詳しく教えてくれないかな?」

「え? それは、良いけど……えっと。そうそう。結婚なんて出来ないって言われたから、十年経っても貰い手がいなかったら相談するって言ったかな」

「ええっと……それって、いや、うん。それから?」

「あとは……いつかミューレ学園に行くって言うから、楽しみにしてるよって答えたよ」

「……楽しみにしてるの?」

「うん。何年後だろうね? そのときまでに、あたしは教師になれてるかな? 知ってる子が生徒になって、あたしが教師として教える。すっごく楽しみだよ!」

「あは、あはは……」

 なにやら目がうつろになっている。


「しっかりしなさい、ティナ」

「クレア様、私の弟が、天然小悪魔の毒牙に……」

「手遅れよ。それより、いまから慰める方法を考えておきなさい」

「そ、そうですね。弟の心を癒やす方法を今から考えておきます」


 クレアリディルとティナがなにやら話し合っている。

 それを、なんの話だろうと、人ごとのように見守っていたリアナは、誰か説明してくれないかなと視線を巡らせて、ソフィアと目を合わせた。


「ソフィアちゃん」

「ねぇねぇ、リアナお姉ちゃん。旅でどんなことがあったか、ソフィアに教えて欲しいなぁ」

 べったりくっついて、無邪気におねだりしてくる。ソフィアちゃんも一緒にいたはずなのに――と、リアナはやっぱり複雑な気持ちになる。


「リアナお姉ちゃん、ダメ……かな?」

「……ダメじゃないよ。そうだね、どんなことが聞きたい?」

「んっと……旅は、その、楽しかった?」

「そう、だねぇ……大変なこともあったけど、凄く楽しかったよ」

 ソフィアちゃんが一緒だったから――と、心の中で付け加える。


「そ、っかぁ……」

 ソフィアは、なぜか複雑そうな顔をした。

「……ソフィアちゃん、どうかしたの?」

「うん。その……ソフィアが一緒でも、リアナお姉ちゃんは楽しかったのかな、って」

「ソフィアちゃんが?」


 だから、あたしの側にはソフィアちゃんが――と考えたリアナは、思い違いをしていることに気がついた。

 リアナにとっては、同行していたのはソフィアだけど、ソフィアにとっては赤の他人。ソフィアは、リアナの同行者に焼き餅を焼いているのだ。

 それに気付いたから、リアナはソフィアの頭を撫でつけた。


「そんなの、当たり前に決まってるよ」

「当たり前……なの?」

「うん、もちろんだよ」


 同行していた相手は、リアナが気付かないくらいソフィアにそっくりだった。

 なにより、ここにいるソフィアが、リアナの大切なお友達であることに変わりはない。そんなソフィアと旅をして楽しくないはずなんてない。

 そう思った瞬間、ソフィアが抱きついてきた。


「えへへ、だから、リアナお姉ちゃんって好き!」

「もう、ソフィアちゃんは相変わらず甘えただなぁ」


 むぎゅ~と抱きついてくるソフィアが、妹みたいで可愛いと思う。

 思うのだが……むぎゅ~とキャミソール越しに押しつけられる胸は、どう考えてもリアナより二サイズは大きい。

 身体は二回り小さいのに……と、何度目か分からない敗北感を味わう。


 ――と、そのとき、リアナは再び言いようのない違和感を覚えた。それがなにかと考えていると、ソフィアがリアナから離れて立ち上がる。


「ソフィアちゃん?」

「リアナお姉ちゃんにプレゼントがあるの。用意してくるから、学園の中庭で待っててくれないかな?」

「え、中庭――って、ソフィアちゃん?」

 言うが早いか、ソフィアは部屋を飛び出して言ってしまう。慌てて部屋から顔を出すが、既にソフィアの姿は見えなくなってしまっている。


「学園の中庭って……なんの用事だろう?」

 良く分からないけど、さすがにこの格好ではいけない。なにか上着を羽織ってから行こうと、クレアリディル達に外出を伝える。


「あ、リアナ、ちょっと待ちなさい」

「はい?」

 クレアリディルに引き留められて振り返る。


「後で伝えようと思ったんだけど、先に言った方が良さそうだったから。いま伝えておくわ。貴方の試験の結果だけど――」

 

 

 新作『二度目の聖者はサードライフを謳歌する』の連載を開始しています。

 誰もが当たり前のように持つ精霊の加護がない。そんな理由で、どれだけ努力してもステータスが最小限しか上がらない。そんな報われない日々を送っていた冒険者セツナ。

 彼は弟子の裏切りによって、その長く不遇な人生に幕を下ろした……はずだったが、祭壇の機能によって転生。それが二度目の転生であることを思い出す。

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