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無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる  作者: 緋色の雨
第二章

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36/44

無知で無力な村娘は、新たな出会いを果たす 2

 ククルの案内で、リアナ達は村の外れにある小屋の前へと到着した。

「見ての通りボロボロですが、ここなら好きに使ってくれてかまいません」

「ありがとうございます」

 お礼を言って、小屋に入ろうとしたのだが――ソフィアに腕を掴まれた。


「……ソフィアちゃん?」

 どうしたのかと目で問いかけるがソフィアは答えず、ククルを見上げる。


「ねぇ、ククルさん。この小屋は無人、なんだよね?」

「……そうですけど?」

 先ほどのことがあるからか、ククルは少し警戒した面持ちで答える。


「なら、どうして小屋の中に人の気配があるの?」

「なにを言って――」

 ククルはみなまで言わなかった。

 小屋からガタンと物音がして「やべっ」みたいな声が聞こえたからだ。


「リアナ様、ソフィア様、お下がりくださいっ」

 護衛として同行しているネクト達が、リアナ達を庇うように前に立つ。


「中にいる者、いますぐ出てこいっ!」

「うわぁ、ごめんなさいっ」

 ネクトの一喝に答えたのは、慌てた若い声。それからすぐに、いかにも村の子供と言った少年が飛び出してきた。


「……子供?」

 ネクトが戸惑うように呟いた。その横から、ククルが前に飛び出す。


「ジーク、ここでなにをしているの!」

「ご、ごめんなさい……って、ククルねぇじゃん。ククルねぇこそ、なにしてるんだよ?」

「私はこの人達の案内よ。それより、ジークは家のお手伝いをしなくて良いの? ……もしかして、サボってる?」

「ち、違うって! 家の手伝いはちゃんと終わらせたって」

「なら、ここでなにをしているのよ」

「それは……」

 ジークと呼ばれた少年は視線を彷徨わせ、ちらりと小屋の裏手を見た。それに気付いたリアナは、もしかして……と小屋の裏手に向かう。


「あっ、ちょっと」

 リアナに気付いたジークがなにか言おうとするが、

「こらっ、まだ話は終わってないわよ!」

 ククルに引き留められた。


 そんな二人のやりとりを横目に、リアナは小屋の裏手へと回り込む。そこにはリアナの予想通り、小さな、本当に小さな畑があった。


「あちゃぁ……見つかったか」

「見つかったって……ジーク、これは……」

 ククルの問いかけに、ジークが沈黙する。


「ふふっ、キミは豊作にする方法を考えてたんでしょ?」

「な、なんで分かるんだよ!?」

「私も同じことしたからだよ」

 リアナはくすくすと笑う。

 カイルの許可を得て、廃棄された畑を使って実験をしていた。リアナには、ジークの気持ちが手に取るように分かった。


「姉ちゃんも実験をしてるのか?」

「うん。育ちの悪くなった畑の土を使って、どうやったら新しい畑のように育つのか。土の精霊が戻ってきてくれるようにお祈りをしてみたり、水をたくさん撒いてみたり」

「マジかっ! それで、結果はどうだったんだ!?」

 詰め寄ってくる。ジークの顔が真剣なのはきっと、同じような実験をしているからだろう。


「結果は失敗。な~んにも変わらなかった。むしろ水を多くあげた方は腐って大変だったよ」

「そっか……」

 ジークは俯いてしまう。

 だから、リアナは「――そのやり方はね」といたずらっぽく笑った。


「……そのやり方は?」

「他の人に、別のやり方を教えてもらったの」

「そのやり方は上手くいったのか!?」

 物凄い勢いで詰め寄ってきた。


「うん。上手くいったよ。普通の、新しい畑なんて目じゃないくらい。物凄く、ものすっごく、豊作にすることが出来た」

「……マジか。それ、一体どうやったんだ?」

「畑の土を甦らせたんだよ」

「畑の土を……やっぱり、育ちが悪くなるのは、土が原因なのか?」

「うん。ジークくんも気付いてたんだ?」

「そうかなとは思ってた。ただ、対策が思いつかなかったんだ。土を全部取り替えるんじゃ、新しい畑を作るのと変わらないしさ」

「そうだよねぇ……」


 少し前の自分と同じような悩みを抱えていると知って、リアナは近親感を抱く。


「大雑把に言うと、古い畑で作物の生長が悪くなるのは、土の中から作物を育てるのに必要な物が減って、逆に不要なモノが増えちゃうから、なの」

「どういうことだ?」

「たとえば、土に水をあげても、見た目はほとんど変わらないでしょ? そんな風に、目に見えないモノが土の中にあるんだけど、それが増えたり減ったりしてるの」

「目に見えないモノ? そんなのがどうやって分かるんだ?」

「うぅん……それは、学園七不思議の一つ、かな」

「はぁ……?」


 ジークがなに言ってるんだ? 見たいな目を向けてくるけど、こればっかりはリアナにも答えられない。

 リオンが前世の記憶を元に説明している――なんて、知りようがないからだ。


「ひとまず、そういうモノだと思って。それで、対策なんだけど……」

「そうだよ。どうやったら、新しい畑以上に作物を育てられるんだ?」

「凄く大雑把になるんだけど、薪を燃やした灰とか、腐葉土を混ぜるとか、あとは同じ畑に、同じ作物を植え続けない、とかだね」

「……そんなんで、豊作になるのか?」

「ほとんどの畑ではびっくりするくらい効果が出るよ」

 本当は、びっくりするなんて言葉じゃ言い表せないくらい、びっくりするけどね――と心の中で呟いて、リアナは穏やかに微笑む。


「そっか、そんなことで、豊作になったんだ。そんなことで……」

 いつの間にか、ジークが顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

「……ジークくん?」

 どうしたのかと問いかけようとすると、誰かに肩を引かれた。振り返ると、ククルがリアナの肩に手を掛けている。

 その様子から、なんとなく察したリアナは無言で頷く。


「ジークくん、あたしはしばらくこの村に滞在するの。豊作にするための方法をたくさん教えるつもりだから、いつでも聞きに来てね」

 リアナはジークの元を離れ、そのまま少し離れたところまで移動。事情を知っていそうなククルへと視線を向けた。


「ジークくん、なにかあったんですか?」

「お姉さんが、少し前に口減らしに……」

「……そっか」

 色々と研究をしていたのも、リアナと同じ理由だったということ。


 ティナと同じようにグランシェス家に引き取られていれば良かったのだけれど……残念ながら、ミューレ学園にこの村の出身者はいない。


「……ねぇ、リアナさん。さっき言っていたことは本当なんですか?」

「えっと……どれのことですか?」

「ジークに話した内容のことです」

「本当ですよ。あたしの場合は、妹を助けたくて。色々頑張って、頑張って……でも、どうにも出来なくて。結局、あたしが妹の身代わりになって、グランシェス家に身売りしたんです」

「……身売り、なんですか?」


 グランシェス家が子供を集めているのは、教育を施すため。そう口にしたリアナから身売りという言葉が飛び出したので驚いたのだろう。

 ククルは意外そうな顔をする。


「結果的には違ってたんですけどね。あたしも、ククルさん達と同じ誤解をしてたので」

「それなのに、自分の身を差し出したんですか?」

 ククルに問いかけられて、リアナはこくりと頷いた。


「恐くは……なかったんですか?」

「恐かったです。でも、あたしには、妹を失う方が恐かったから」

 リアナは妹の代わりになることで勇気を出すことが出来た。妹の身代わりじゃなかったら、恐くて逃げ出していたかも知れない。


「そう、ですか……」

 リアナの言葉になにを思ったのか、ククルは思い詰めるような顔をした。


「そんな訳で、あたしはこの村がどれだけ大変な思いをしたか分かってるつもりです。だけど、だからこそ、あたしはそういった悲劇をなくしたい」

「……なくせると思うんですか?」

「あたしがこの村に来たのは、それが理由ですから」


 その言葉が真実か確かめるように、ククルがじっと覗き込んでくる。

 ここで目をそらせば、信じてもらえないだろう。そう思ったから、リアナはまっすぐにククルの視線を受け止めた。

 果たして――


「……小屋はジークが散らかしてるみたいなので、空き家に行ってみましょう」

 ククルの口から紡がれたのは、リアナが想像するどちらの答えでもなかった。


「ええっと……空き家は、たしか、先客がいるとか言ってませんでしたか?」

 どうしてそんな話になったのか混乱しつつも、リアナは冷静に対応する。


「実は、わりと大きな商隊で、空き家を三軒使っているんです。だから、そのうちの一件を、リアナさん達に使わせてもらえないか交渉してみます」

「ええっと、それは助かりますけど……良いんですか?」

「私は……私も、リアナさんを見習ってみようと思いました」

 やっぱりよく分からないし、ククルはぷいっとそっぽを向いて歩き出してしまう。けれど、さっきまでと比べると、ククルの当たりが柔らかくなった気がする。

 だから、リアナは弾むような足取りで、その背中を追い掛けた。




 案内に従って移動していると、前を歩くククルが足を止める。

「あの三軒がそうです」

 家が三つ建ち並んでいて、そのうちの一軒に見張りらしき二人の剣士が立っている。

 滞在しているのは商隊だって言ってたけど、ずいぶんと物々しいなぁ……と、リアナは小首をかしげる。


 ただ、そんなに暢気に考えていたのはリアナとククルだけ。家の前に立っていた剣士がこちらを向くと、ネクト達もまた、リアナの前に立った。


「何者だ!」

「わ、私は村長の娘のククルです」

「おぉ、村長の娘さんでしたか。では、後ろの者達は何者ですか?」

「実は、そのことで皆さんにお願いがあってきました」

「お願いですか?」

「はい。この人達も村に滞在することになったんですが、他に空き家がなくて。出来れば、部屋を使わせて欲しいんですが……」

「それは……警備上の問題もあります。出来れば遠慮願いたいのですが……え? はい。いえ、若い娘が二人と、その護衛のようです」

 剣士は途中で家の中に向かって話し始めた。

「――は、かしこまりました」

 剣士が玄関の扉を開くと、メイド服に身を包む金髪ツインテールの女性が姿を現した。


「あらあら、たしかに可愛らしい女の子達ですね。どこかの貴族令嬢でしょうか?」

「え? あ、いえ。あたしはリアナ。グランシェス伯爵家の……使用人? みたいな感じです。それから、こっちはソフィアちゃん」

「へぇ……グランシェス家の」


 メイドさんが一瞬だけ目を細めた。その表情に、クレアリディルと同質のモノを感じて、リアナはぶるりと身を震わせる。


「それで、その……貴方は?」

「わたくしは、リーズ商会の孫娘、リズお嬢様にお仕えするクラリーチェと申します」

 メイド服の裾を摘まんでカーテシーをこなす。その姿はクラリーチェこそが貴族令嬢ではと思うほどに優雅に見えた。


「それで、部屋を使わせて欲しいと聞きましたが?」

「はい。あたし達はこの村の農業を改革するためにやって来たんです。それで数日滞在する予定なので、出来れば部屋を使わせてくれると助かるんですが……」

 そんな風に聞きながらも、無理そうだなぁと考える。


「そうですね……護衛の方々は、隣の家。貴方達はわたくしと同じ部屋で良ければ」

「――いけませんっ!」

 クラリーチェのセリフに被せるように、剣士が声を上げた。


「あら、なにがダメなのかしら?」

「相手はどこの誰とも分からないんですよ? それをお嬢様方と同じ家、あまつさえ同じ部屋に入れるなんてありえません!」

 声を荒げる剣士に対して、クラリーチェが小声でなにかを呟く。

 その瞬間、剣士の顔が蒼白になった。


「し、失礼いたしました。し、しかし、安全を考えると、同じ家に入れるのは……」

「護衛として心配する気持ちは分かりますが、そのくらいになさい。これは決定事項なので、そのうえで護衛する方法を考えなさい」

「……かしこまりました」

 剣士がしぶしぶ頷くのを確認し、クラリーチェはリアナに向き直る。


「決定事項と言いましたけど……リアナさんはかまいませんか?」

「えっと……」

 良いですか? と、リアナはネクトに視線を向けた。


「我々はかまいません。いざという時は声を上げてください。それと、念のために、ソフィア様とは離れないようにしてください」

 ネクトの進言に頷き、リアナは再びクラリーチェに視線を戻す。


「こちらも問題ありません。それじゃ、お世話になります」

「ええ。歓迎いたしますわ。どうぞ、中にいらしてください」

 クラリーチェは踵を返し、家の中へと戻っていく。それを見届けたリアナは、ククルへと視線を向ける。


「ククルさんもありがとうございました」

「……私はなにも。……それより、技術指導をしてくださるとのことですが、具体的にはどうするつもりなんですか? 私になにか手伝えることはありますか?」

「えっと……実際に田畑を回って、あれこれ意見を言うつもりです。ただ、あたしだけじゃ説得力がないと思うので、もし良ければ……」

「分かりました。明日の朝、迎えに来ますね」

 ククルが立ち去っていく。それを見届け、リアナ達は家に上がることにした。

 

 

 とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! の一巻が十日に発売します。

 早売りなら明日か明後日くらいには……並ぶんでしょうかね。本屋で素敵なユリ表紙を見かけたら、ぜひぜひ手に取ってみてください。

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2018年 7月、8月の緋色の雨の新刊三冊です。
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