無知で無力な村娘は妹を救いたい 1
本日二度目の更新です。
最新話から来た方はご注意ください。
学生寮にあるリアナの部屋。リアナは不安げにカイルを見つめた。
リオンが噂のような悪人ではなく、リアナが酷い目に遭っていない。それを知って安堵したはずのカイルが『お前まで酷い目に――』と口にしたからだ。
「お前までって……どういうこと?」
「いまのは……その、忘れてくれ」
「そんなの出来るはずないでしょ! どういうこと!? アリアになにかあったの? ねぇ、そうなんでしょ、お父さん! お父さんってば!」
席を立ったリアナはカイルの肩を掴み、その身を激しく揺する。
「おちっ、落ち着けっ。分かった。話す、話すから!」
「……だったら早く教えて。一体なにがあったの?」
「アリアが再び発作を起こしたのだ」
「やっぱり……っ」
妹のアリアは幼少期から病弱で、たびたび発作を起こして倒れることがあった。そして、発作は倒れるたびに酷くなっている。前回の発作よりも酷い発作が起きたのだとしたら……
「……アリアは、アリアはどうなったの?」
「幸いにして、一命は取り留めた。今すぐどうと言うことはないが、次の発作は乗り越えられないかもしれない。いや、たとえ次を後超えられたとしても、その次は……」
「……あぁそんなっ。アリア――っ」
自分が慰み者になってでも助けようとしたアリア。そのアリアがもう長くないと聞かされたリアナはふらふらとあとずさり、自分の椅子にへたり込んだ。
「すまない。お前には黙っておくべきかとも思ったのだが……」
「うぅん、教えてくれてありがとう」
リアナが一生お屋敷から出ることがなければ、知らない方が幸せだったかもしれない。けれど、リアナの役目はミューレ学園で身に着けた知識を各村に伝えること。
いつか必ず、村を救うために凱旋するつもりだった。
もしそのとき、すべてが終わっていることを知ったら、リアナは一生悔やみ続けただろう。
「しかし、リアナはどうするつもりだ?」
「え、どうする……って?」
「リオン様は噂のような悪人ではなかったのだろう? だとすれば、村に帰ることを願えば、帰れるのではないのか?」
「それ、は……」
幸いと言うべきか、カイル達は数日滞在した後、村に送り帰されることになっている。リオンにお願いすれば、リアナも学園を自主退学して帰ることが出来るかもしれない。
もし許されれば、アリアがいつか亡くなるその日まで側にいることは出来る。
けれどその場合、自分の力でアリアや両親、そして村のみんなを救うという夢は諦めることになる。様々な知識を身に付けるという目標を達することが出来なくなってしまうから。
だけど……このままでは、夢を叶える前にアリアが死んでしまう。
アリアの側にいて夢を諦めるか、夢を目指してアリアの側にいることを諦めるか。どちらにしてもアリアを救うことは叶わず、夢も完全な形では叶えることが出来ない。
「……リアナ、良く聞きなさい。お前はもう、十分すぎるほど、わしら――とくに、アリアのために尽くしてくれた。もう、自分の幸せを追いかけても良いんだぞ?」
気遣ってくれているのだろう。諭すようにリアナを見るカイルに対し、リアナはきっぱりと首を横に振った。
「違うよ。あたしはアリアはもちろん、お父さんやお母さんも大切。だから、あたしは自分の幸せを犠牲にしてる訳じゃないよ。ただ……ミューレ学園に通い続けることは、レジック村みんなのためになるって信じてるの。だから、どうすれば良いか分からなくて……」
「そう、だったのか。なら、後悔しないように考えなさい」
「そう、だね……」
カイルが村に帰るまでに、リアナは身の振り方を考えなくてはいけない。どうすることが正しいのか、リアナは必死に思いを巡らせた。
生徒の親達は学生寮の空き部屋で一泊。寮の食事や大きなお風呂、更には足湯などなど、農民には決して味わうことが出来ないような体験をして幸せそうな顔をしている。
そんな中で開催されたのは授業参観。
親に授業風景を見せつつ、農業を始めとした知識の有用性を伝える。そうして、自分達が村に凱旋したとき、各種技術の実践を村に取り入れやすくするための下地を作る。
それが、リアナ達生徒に課せられた使命で、みんなはそれを実践しているのだが……リアナは朝から元気がなく、失敗ばかりしていた。
どうすれば良いのか、どうしたら良いのか……それさえ見つけることが出来れば、リアナは走り出すことが出来る。だけど……いまのリアナはそれが分からない。
答えの出ない袋小路にはまり込み、ずっと泣きそうな顔をしていた。
そうして、暗い表情のまま授業を受けること半日。昼休みになって、それぞれが親を連れて食堂へと向かう。リアナもそうするべきだと席をったのだが――
「リアナ、ちょっと来てくれ」
廊下に出たところでリオンと出くわした。
「……え、リオン様? あたしになにか用ですか?」
「良いから、ちょっとこっちにこい」
リオンが有無を言わせぬ様子でリアナの手を掴んだ。そうして、カイルへと視線を向けた。
「娘を借りていくぞ」
「え? はぁ……それは、もちろん、かまいませんが……?」
「ティナ、カイルさんの案内を頼む」
リオンが側にいたティナへと合図を送った。
「お任せください、リオン様。……リアナも、こっちは大丈夫だからね」
リアナの様子がおかしいことに気付いているのか、ティナは目配せを一つ。「こっちです、カイルさん」とカイルを食堂の方へと引っ張って言ってしまった。
「ほら、リアナはこっちだ」
「え、あの……?」
「良いからついてこい」
良く分からないが、リオンに腕を引かれてついて行く。そうして連れてこられたのは、近くにある自習室。先日、ライリーに愛人になれと迫られた場所だった
「リ、リオン様、まさか……」
「あぁ、リアナを見て、居ても立ってもいられなくなってな」
「ふえぇっ!?」
まさかとは言ってみたものの、実際にそうだとは夢にも思っていなかった。驚いたリアナが壁際にまで後ずさるが、リオンはその距離を容赦なく詰め寄ってきた。
そして――
「リアナ、俺の目を見てくれ」
どん……と、リオンが壁に手をついた。まさに壁ドン。至近距離からリオンに顔を覗き込まれて、リアナは真っ赤になった。
「あ、あぁぁっ、あの、リオン様!? ダ、ダメです。アリス先生達に怒られます!」
「アリスが怒る? 馬鹿言うな。俺がリアナを放っておいた方があいつは怒る」
「えぇっ!?」
リオンの恋人と噂のアリスティア。他にもソフィアやクレアリディル。ミリィといった恋人らしき存在がいる。たしかにそれだけいる時点で今更かもしれない。
けれど、そんなそうそうたるメンバーのハーレムに自分が入るなんてありえないと焦る。
「リアナ、頼む。お前の気持ちを教えてくれ」
「そ、それは……その、えっと……その……きゅ、急に言われても困ります」
真っ赤になりながら、消え入りそうな声をこぼした。
「分かるよ。それだけ落ち込んでいるんだ。よほど辛いことがあったんだろう。でも、俺はリアナのことが心配なんだ。いや、俺だけじゃない。ソフィアやティナ達も心配している。だから、なにをそんなに落ち込んでいるのか、リアナの気持ちを教えてくれ」
「……………………へ?」
リアナは思わず間の抜けた面をさらした。
しかし、それも無理はないだろう。ハーレムに勧誘されていると思ってテンパっていたら、落ち込んでいる自分を見て心配されていた。
自分がとんでもない誤解をしていることに気付いてしまったのだから。
「……なんだ、そんな顔をして。やはり、俺じゃ頼りないか? クレアねぇやアリス、もしくはソフィアの方が相談しやすい内容であれば、代わりに呼んでくるけど」
「い、いいいえっ、大丈夫です!」
心を読めるソフィアはもちろん、アリスティアやクレアリディルも、事情を説明すると、どんな勘違いをしていたか気付かれそう。そう思ったリアナは慌てる。
――それになにより、アリアのことは本当に悩んでいる。どうするのが正しいかまだ決めかねているけれど、一度リオンに話してみようと思った。
「その、あたしには病弱な妹がいるんです」
リアナがぽつりと口にした瞬間、リオンは目をわずかに見開いた。それはほんの些細な変化だったけれど、いまだ壁ドンをされている状態のリアナには気付くことが出来た。
「……リオン様?」
「あぁ……いや、なんでもない」
リオンは頭を振って、リアナから離れた。そうして咳払いを一つ。「それで、その妹がどうしたんだ?」と尋ねてきた。
「実は発作を起こして倒れたって。以前から発作を起こすことがあったんですけど、少しずつ症状が悪化しているようで。次は危ないって……」
「そう、だったのか。なら、すぐに会いに行ってやらないとな」
リアナの話を聞き終えたリオンがさも当然のように言い放った。その言葉が予想外で、リアナは目を見開いてリオンの顔を見つめた。
「……どうした、そんな顔をして。見舞いに行きたいんだろ?」
「いえ、それは……行きたいとは思っていますけど……」
「なら、なにを迷うことがある。妹が大切じゃないのか?」
「――大切に決まってるじゃないですか! ……大切だから、悩んでいるんです」
反射的に声を荒げてしまってから、恥じ入るように声のトーンを落とした。自分がなんの非もないリオンに八つ当たりしていると気がついたからだ。
「ごめんなさい。でも、妹が大切だから、どうしたら良いか分からないんです」
「……大切だから、どうしたら良いか分からない?」
「はい。その……あたしがここに来たのは、妹の身代わりだったんです」
「……身代わり。あぁ……俺の慰み者にされると思ってたからか」
リオンが苦笑いを浮かべる。
リアナとしても、悪い噂の絶えない当主代理に妹を任せられないと思った――なんてぶっちゃけられない。ましてや、リオン様のことを知ったいまは、そんなこと思ってませんよ――なんて、パニクったティナの二の舞になるつもりもないと無表情を貫いた。
「あたしは、領民みんなの幸せを考えてくださっている、リオン様の構想は素晴らしいと思いました。だから、リオン様に一生ついていこうと思ったんです」
「だから、村に帰ることを躊躇ってるのか?」
「少し違います。あたしがリオン様についていこうと思ったのは、リオン様の考えが妹の幸せに繋がると思ったから。あたしは妹やみんなのために、ミューレ学園で学んでいるんです」
「……なるほど、二律背反、か」
「え、なんですか、それは?」
聞いたことのない言葉に首を傾げる。
「大雑把に言うと、相反する二つの命題が両立している状態だな」
「矛盾みたいなものですか?」
「大雑把に言えばそうだ。リアナは学園で学び続けることが妹のためだと考えている。そして、妹の側に駆けつけることもまた妹のため。どちらも妹のため。だけど同時に、どちらもも妹のためにならない行為でもある……だろ?」
「……あ、そうです。その通りです」
自分の悩みを正確に言い当てられ、リアナはコクコクと頷く。
「そう言うのは、どっちかって考えた時点で袋小路だ。そういうときはブレイクスルー、その枠組みから抜け出して答えを見つけるんだ」
「……枠組みから抜け出す?」
「ああ。という訳で――行くぞ」
「……へ?」
どこに? なんて当たり前のセリフを吐く暇すらなかった。リオンに手を掴まれ、有無を言わせぬ勢いで自習室の外へと連れ出されてしまったからだ。
「あ、あの、リオン様?」
廊下を引きずられるように歩きながら、事情を伺おうとする。
けれど――
「悩んでるなら、まずはお見舞をしてから決めろ。――ミリィ!」
「こちらに」
「――うわぁっ!?」
一体いつの間にそこにいたのか、すぐ隣で返事をするミリィに気付いて飛び跳ねる。
「カイルさんを呼んできてくれ。それと、馬車の用意を」
「かしこまりました」
勢いに飲まれたリアナは口を挟めない。そうしてあれよあれよと状況は進み、いつの間にかリアナは、リオンやカイルと共に馬車に乗せられていた。
本日二度目の宣伝ですが、『この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される』Mノベルスで全年齢対象ですが、全年齢対象では限界と言って良いほどエッチな作品となっています。
ヤンデレとエッチと感動の物語。
そっち系が好きな人は、良ければお手に取ってみてください。





