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無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる  作者: 緋色の雨
第一章

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成績優秀者を目指す無力な女の子 6

 本日、Mノベルスより『この異世界でも、ヤンデレに死ぬほどあいされる』が発売されました。

 むちゃくちゃエッチな全年齢対象のラノベですが、良ければお手にとってください!

 

 パトリックのやらかした一件に対処するため、リアナ達生徒は学生寮にある一室に集められていた。今日はいつもの制服姿に加えて、薄い化粧やアクセサリーでその身を着飾っている。

 なお、アクセサリーや化粧品はアリスブランドと呼ばれる、アリスティアの作った商品で、学生達は格安で使用することが出来る。

 貴方達には、アリスブランドの広告塔になってもらう――とはアリスティアの言葉。

 リアナ達は当初、その言葉の意味を理解できなくて、使用を遠慮していた。けれど教育を受けることで、その意味を少しずつ理解。いまでは、積極的に化粧品を使用している。


 ――そもそも、リオンに対する貢ぎ物として選ばれた娘達はもとから、村娘としては顔立ちが整っていた。そんな娘達が、サラサラの髪とつやつやの肌を手に入れ、この時代ではありえないレベルの化粧を施し、美しい洋服やアクセサリーを身に着けている。

 リアナ達はいま、この世界において屈指の美少女集団と化していた。


 ちなみに、美少女へと変貌したのはともかく、なぜそんなにおめかしをしているのか。それは、パトリックがやらかしたことに対処する必要があったからだ。

 パトリックがやらかしたこと、それは――グランシェス伯爵領の村々に、ミューレ学園やリオンの悪い噂を流しまくるという所業だった。

 その内容は、リオンが領地のお金を使って贅沢三昧をして、更には集めた子供達に虐待をしているという根も葉もないデマ。

 だけど、情報伝達速度が遅いこの世界において、村人が真実を確認する術はない。言葉巧みに騙された村人はデマを信じ、各地で暴動寸前にまで発展しているらしい。


 その対策として、リオンは娘達の親を呼び寄せることを決断した。いわく、授業参観をして、親の理解を得る作戦――らしい。

 リアナがクレアリディルから任されたのはその先駆け。生徒を纏めて、ケンカ腰でやってくるであろう親たちと対面し、その誤解を解いて怒りをなだめるというもの。


 失敗をしたら暴動になりかねない大役を任されたのだが……気負っている生徒は一人もいない。非常に重要な役割でありながらそんな態度でいられるのは、やるべきことが明確で簡単。

 自分達が虐待なんてされていなくて、充実した日々を送っている。その事実を、家族に説明して信じてもらうだけだからだ。


 ――という訳で、リアナ達が待機する隣の部屋――学生寮のホールには、デマを信じて暴動を起こそうとしていた、リアナ達の家族がやって来ている。


「見ろよ、この豪華なお屋敷を!」

「やっぱり、領民から集めたお金で贅沢三昧というのは本当だったのよ!」

「娘は、俺の娘はどこだ!」

 隣のホールから怒鳴り声が聞こえてきた。


 貴族にそんな口を利くなんて殺される――といった感じの心配はしていない。最初に相手に言いたいことを言わせてから、リアナ達が登場して説得を試みる。そのあいだに村人達が言ったことは不問にすると、事前にリオンから聞かされているからだ。

 ただし、その内容を聞いたリアナ達は、なんとも言えない表情を浮かべている。

 自分達を心配しての言葉だとは分かっているが、リオン達に詰め寄る姿が、この学生寮に来た日の自分達を見ているようで恥ずかしかったからだ。


 そうして羞恥に耐えていると、ほどなくリオンから合図が送られてきた。それを確認したりアナは他の生徒達と頷きあい、扉を開いてホールへと足を運ぶ。

 生徒達の登場にざわめく親達を横目にリオンの背後へと整列する。リアナは最前列に父親の姿を見つけて嬉しいやら恥ずかしいやら。

 ……いや、やはり嬉しい――と、リアナは思った。色々あったけれど、一時はもう二度と会えないと思っていた父と、こうして再会することが出来たのだから。


「どうだ、お前達の娘はちゃんと、元気でやっているだろう?」

「……娘? なにを言っているんですか?」

 リアナの父、カイルが皆を代表するように口を開いた。どうやら、この集団の中に、自分の娘がいると思ってもいないようだ。

 そんな中、クラスメイトの一人が前に進み出ると、カイルの隣にいた男の手を掴んだ。


「お父さん、私だよ」

「まさか……ルミナか!?」

「うん、久しぶりだね」

「おぉお、ルミナ!」

 親子が再会の抱擁を交わす。それを切っ掛けに、一組、また一組と親子が再会する。そんなさなか、リアナはリオンに手招きをされて隣に、カイルと向かい合うように立った。


「ほら、あんたの娘のリアナだぞ」

「……お父さん、久しぶりだね」

 カイルと目が合ったので微笑みかけた。しかし、リアナの父であるカイルは、そんなリアナの微笑みには答えず、リオンに半眼を向けた。


「リオン様、このように美しい娘を私の娘だなどと、いくらなんでも無理があるのではないですか? 私の本当の娘に会わせてください」

「……はぁ?」

 リアナは呆れ声を上げてしまった。リアナの心境はまさに、あたしと目が合ったばかりか、声まで聞いたのになに言ってるの? だった。

 しかし、そんなリアナの呟きは聞こえなかったようで――


「ええっと、彼女がリアナ、あんたの娘なんだけど?」

「はっはっは、なにをおっしゃいます。うちの娘は髪がボサボサで、肌は小麦色に日焼けしていて、もっと……そう、がさつで野暮ったい田舎娘――がはっ!?」

 カイルは腰を折ってくずおれた。怒りにまかせたリアナが思わず、ソフィアの見よう見まねの回し蹴りを放ってしまったのだ。


「ぐぉおぉ……このがさつな態度は、まさか……リアナ、リアナなのか!?」

「うっさいっ! 顔や声で分からなかったのに、蹴られて気付くってどういうことよっ!?」

 ちょっとでも父との再会に感動した自分が馬鹿だったと真っ赤になる。周囲からの――特にリオンからの同情するような視線が物凄く恥ずかしかった。

 しかし、とうのカイルの方はいまだに信じられないといった面持ちだ。


「……どういうことだ。リアナ、お前がどうしてそのような恰好をしているのだ? もしかしてそれは、愛人に与えられる証かなにかなのだろうか?」

「ち、違うよ。これは、ミューレ学園の制服だよ!」

「ミューレ学園?」

 なんだそれはとばかりに首を捻る。そんなカイルの姿を見たリアナは、その説明もまだだったんですかという意味を込めてリオンに視線を向けた。


「この建物を見て、俺の噂をすっかり信じてしまったようでな」

「あぁ……」

 リアナは思わず苦笑いを浮かべる。


「お父さん、それに他のみんなも聞いて!」

 リアナは自らの役割を果たすべく、フロア全体に聞こえるように声を張り上げた。カイルはもちろん、娘との再会を喜んでいた者達もリアナに注目を始める。


「みんなの村で、リオン様の悪い噂が広がってるらしいね。でも、それはみんな嘘だから」

「……嘘? お前はリオン様の噂がすべて嘘だというのか?」

「うん、悪い噂はぜぇんぶ、嘘だよ」

 カイルの問いかけにきっぱりと答えるが、皆の反応は思わしくない。それどころか、リアナに疑いの眼差しを向けてきた。


「ならば、このお屋敷はなんだというのだ。どう見ても贅の限りを尽くしているではないか」

「この建物は、みんなが思ってるほどお金は掛かってないんだよ。もちろん、大きな建物だから、安いなんてことはないそうだけど、コストパフォーマンスは凄く良いんだって」

「……なにを言っているんだ?」

 コストパフォーマンスという言葉が理解できなかったのか、困惑するような視線が集まるが、リアナはかまわず話し続ける。


「たとえば、あの窓に使われているのは透明なガラスなんだけど……金貨数十枚でも買いたいって人はいるらしいよ」

「――金貨数十枚っ!?」

 親たちが一斉に驚きの声を荒げる。ここにいる親たちの年収をすべて併せても買えるかどうか分からないのだから、驚くのは無理もないだろう。

 だから――


「あのガラス、ここにいるみんな作り方を習ってるんだよ。そのうち、レジック村のみんなにも、作り方を教えてあげるからね」

 続けられたリアナのセリフを即座に理解できる者はいなかった。たっぷり数十秒ほど経って、ようやくカイルが目を見開いた。


「ま、待て、リアナ。いま、なんと言ったのだ?」

「だから、ガラスの作り方を習ってるから、覚えたらみんなにも教えてあげるって」

「……いや、いやいや。作り方を習っているというのは……理解できる。しかし……」

 カイルが思い浮かべたのは、リオンがガラスなるモノの作り方を発見し、それを量産して販売するという商売をするために娘を集めたというケース。

 そうであれば、作り方は部外秘のはずだと考えたのだ。


 村長として、ほかの者よりも少しだけ学のあるカイルはその可能性に至り、更にはリアナが秘密を護れるか、この場で試されているのかもしれないと危惧する。

 そして、もしそれが事実であれば、リアナが秘密を打ち明けてしまった時点で、ここにいる者全員が生きて帰れなくなる――と、カイルは肝を冷やす。


「習ったのはガラスの作り方だけじゃないんだよ。他にも小麦を豊作にする方法とか、あたし達が着てるような服の生地の作り方なんかも習ったの」

「なっ、そんな技術まで……」

 ちなみに、カイル自身も、村の畑に灰や腐葉土を混ぜるように指示されているのだが、呪い程度の認識しか持っていない。ゆえに、知らないあいだに娘がとんでもない機密情報を扱っている――と、カイルは冷や汗を掻いた。


「そうそう。それでね。いますぐ役に立つ、豊作にする方法が――」

「まっ、まままっ、待つんだリアナ!」

 カイルは思わずリアナの口を塞いだ。「なにひゅるの――っ」と突然のことに怒ったリアナが、カイルの手のひらに噛みついた。「ぎゃああっ」と、カイルは慌てて手を放してしまう。


「な、なにをするんだ、リアナ!」

「それはこっちのセリフよ! せっかく、豊作にする方法を教えてあげようとしてるのに、口を塞ぐってどういうことよっ!」

「リ、リアナ!」

 とっさに遮るが、リアナは秘密を守るつもりがないと宣言してしまった。「い、いまのは違うんです!」と、カイルはリオンに向かって許しを請う。


「……良く分からんが、授業参観は明日からの予定だし、部屋もそれぞれ用意してある。積もる話もあるだろうから、ゆっくり話すと良い」

「――は? えっと、それだけ、ですか?」

「うん? あぁ、俺は席を外すから……そうだな、後の説明はそれぞれに任せる。それと、娘を心配するあまりに口にした言葉はすべて不問にするから心配するな」

 リオンはそういって、フロアから立ち去っていった。それを、リアナ達生徒は一斉に頭を下げて見送る。だけど、いままさにリアナが失言したと思っていたカイルは呆気にとられた。


「……ど、どういうことだ?」

「あのね、リオン様に頼まれたの。お父さん達が悪い噂を信じているから、誤解を解く手伝いをして欲しいって」

「い、いや、それもそうだが……リアナ、さっきの色々な作り方は、秘密にするように言われていたのではないのか?」

「……秘密? うぅん、そんなことないよ。むしろ、あたし達が、村のみんなに伝える役目を負っているんだよ?」

「は、はぁ……?」

 お前はなにを言っているんだといった面持ちのカイルを見て、リアナは苦笑いを浮かべた。


「そうだよね、普通はそういう気持ちになるよね。あたしも最初は同じような気分だったよ」

「……なら、すべて事実だというのか?」

「うん。ひとまず……そうだね。色々案内しながら説明してあげる」

 リアナがそういって歩き始める。カイルは、ほかの者はどうするんだろうと周囲を見たが、それぞれが個別に自分の娘と話しているのを見て、リアナの後を追いかけることにした。



「しかし、本当に立派なお屋敷だな。勝手に歩き回っても叱られないのか……?」

 ホールを出て廊下へ。そして目的地に向かって歩くリアナの後を追いかけてくるカイルが不安そうな声を上げる。それである事実を思い出したリアナはイタズラっぽい笑みを浮かべた。


「お父さん。一つ誤解してるみたいだから、面白いことを教えてあげるね」

「……面白いことだと? なんだそれは」

「ここ、リオン様のお屋敷だと思ってるでしょ?」

「もちろんだが……それがなんだというんだ?」

「違うよ。ここはリオン様のお屋敷じゃないよ」

「リオン様のお屋敷じゃない? なら、ここはなんだというのだ?」

「ここは――あたし達生徒が暮らす学生寮だよ」

「……………………は?」

 クスクスと笑うリアナに対して、カイルは間の抜けた表情を浮かべた。それを見て、自分のちょっとしたイタズラが上手くいったとリアナは笑いつつ、とある部屋の前で足を止めた。


「それで、ここがあたしの部屋、だよ」

 扉を開け放って、カイルを部屋の中へと案内する。

「……いや、お前……いくらなんでも、これはないだろう。もしかして、そういう体で俺達を説得するように脅されているのか?」

「違うってば。ほら、あたしが村から出るときに着てた服もあるでしょ」

 この状況で脅されているもなにもないのだが、信じられないのも無理はないと、リアナはクローゼットにしまっていた服を取り出して見せた。


「たしかにお前の服のようだが……」

「服があるからと言って、あたしの部屋とは限らない? 言いたいことは分かるけど、この場であたしが嘘をつく理由なんてないでしょ? 他に誰もいないんだし」

「……それは、そうだな。なら……本当に、ここで暮らしているのか?」

「うん。それもあたしだけじゃなくて、ミューレ学園の生徒はみんなここで暮らしてるよ」

「……はぁ、もはやなにがなにやら分からん」

 カイルは思わずといった感じで、側にあった椅子に腰を下ろした。リアナはそれに併せ、テーブルを挟んで向かいの席へと腰掛けた。


「お父さんの気持ちは良く分かるよ。でも、リオン様は噂のように悪い人じゃないから」

「……そう、なのだろうな」

「あれ、それは信じるんだ?」

「もし噂通りの人物なら、面と向かって暴言を吐いた時点で殺されていただろう」

「……あぁ、そうだね」

 リオンは絶対にそんなことはしない。でも、カイル達はそれを覚悟の上で、リアナ達の心配をしてくれたのだと気付いて熱いものがこみ上げてきた。


「しかし、ますます持って分からん。噂が間違っているというのなら、なぜあのような噂が流れているのだ?」

「うん、それなんだけど……」

 リアナは詳細は伏せて、リオンをおとしめようとしている者がいることを打ち明けた。


「噂はその者達が流したというのか? しかし、悪評は何年も前から流れているぞ?」

「そっちは良く知らないんだけど、リオン様はお手つきになったメイドの子供だから……」

 正妻の血が流れていない次男が優秀だと、困る者がいたという話。リアナはこの学園で学んだことやメイド達の噂話から、その可能性に思い至っていた。


「なるほど、そういうことか。では、リアナは本当に酷い目に遭わされていないんだな?」

「うん。それどころか、美味しいご飯に、暖かい部屋。お風呂にまで入れるし、凄くすっごく幸せな毎日を送っているよ」

「そう、か……良かった。本当に良かった……」

 カイルが手で顔を覆って、どこか泣きそうな声で安堵の言葉を繰り返した。どうやら、カイルはようやく、リアナが幸せに暮らしているのだと理解してくれたようだ。

 安堵すると同時に、カイルがどれだけ自分を心配していたのかを理解する。


「……お父さん、心配掛けてごめんね」

「いや、良いんだ。お前をここに送り出したのは俺だからな。本来なら心配する権利もないのだろうが……お前まで酷い目に遭っているかと思うと、いてもたってもいられなかったのだ」

「……え?」

 力ないカイルの独白に、リアナはびくりとその身を震わせた。そうして、「いまのって、どういう意味?」と視線を向けると、カイルは苦渋に満ちた顔をしていた。

 

 

 大事なことなのでもう一回。

 本日、Mノベルスより『この異世界でも、ヤンデレに死ぬほどあいされる』が発売されました。

 むちゃくちゃエッチな全年齢対象のラノベですが、良ければお手にとってください!

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