成績優秀者を目指す無力な女の子 5
ライリーのお屋敷にある応接室。ソフィアの足下には拘束と猿ぐつわをされて唸るライリーに、気絶して縛られた傭兵風の男が二人。
そんなややこしい状況で姿を現したのはグランシェス伯爵家の当主補佐であるクレアリディルとエルフのアリスティア。
クレアリディルは周囲を見回し、呆れるような顔をした。
「ソフィアちゃんが物凄い勢いで飛び出して行ったって報告を受けたから来てみたら……さてさて、一体これはなんの騒ぎかしらね?」
「ご、ごめんなさい! あたしが全部悪いんです!」
たとえライリーに脅されたのが原因だとしても、事が明るみに出ればリオン達に迷惑が掛かるのは間違いない。そう認識しているリアナは、ソフィアを悪者にする訳にはいかないと思い、必死に自分のせいだと捲し立てた。
けれど――
「違うよ、悪いのはここに転がってるライリーだよ?」
「ソ、ソフィアちゃん、ダメだよ。たしかに脅されたのは事実だけど、あたし達も十分迷惑を掛けちゃってるし……」
「そう、なら、ライリーを処分しないとね」
「そう、ライリー先生を……え?」
クレアリディルがあっさりと言い放ったので、リアナは意味が分からなかった。
「……えっと、クレア様」
「ストップ。質問は後で聞くから――まずは、本人の言い分を聞きましょうか。――アリス」
「ん、分かった」
アリスが頷く。ただそれだけで、ライリーの猿ぐつわが切断されてしまった。いきなりのことに、ライリーはびくりと身を震わせた。
「お聞きくださいクレア様。私ははめられたのです!」
「ふぅん。それで?」
「……え?」
「だから、はめられたんでしょ? どんな風にはめられたのかしら?」
「そ、それは……その、ソフィア嬢が……いや、自分の成績が悪いのは俺のせいだと謀ったリアナに、ソフィア嬢が騙されたのです!」
「――なっ」
なによそれと声を荒げようとしたのだが、寸前でソフィアに袖を引っ張られた。どうしてと視線を向けると、ソフィアは無言で首を横に振った。
どうやら、ここは黙っておくのが吉だと、ソフィアは言いたいらしい。なぜそんなことを言うかは不明――だけど、まずは信じて従うことにする。
直後、クレアリディルがクスクスと笑い始めた。
「……よりにもよって、ソフィアちゃんが騙された、なんてね。もう十分よ。そこの執事、彼を部屋から運び出しなさい」
「――はっ、かしこまりました」
執事は手足を拘束されているライリーの元に歩み寄る。
「ま、待ってください、クレア様。私の話を――」
「――黙りなさい」
温厚な微笑みを浮かべていたはずのクレアリディルが、ぴしゃりと言い放った。その視線は氷の様に冷え切っている。
「どうせ、あたしや弟くんが相手なら、どうにでもなると思っていたのでしょ?」
「そ、そんなことは……」
「なければ、どうしてそんな嘘をつくのかしら?」
「嘘などついておりません。クレア様こそ、なぜ騙されている可能性を言及しないのですか」
「ありえないからよ。貴方はお父様の代から地方官をしていたから、知らなくても無理はない。けどね。ソフィアちゃん、特にいまのソフィアちゃんに嘘は通じない」
「それは……どういう?」
「教える義理はないわ。……どっちにしても貴方は終わりよ。だって貴方は、ソフィアちゃんを怒らせたのだから。死ぬまで、自分の愚かさを後悔することね」
「この、さっきから聞いていれば好き勝手言いやがって! 子供が二人で領地を経営できると思っているのか!? 俺を処罰すると後悔するぞ、この小娘が!」
本性を現したライリーが思いつく限りの雑言を並べ立てる。それをじっと聞いていたクレアリディルは、ライリーが息をつくのを待って冷笑を浮かべた。
「貴方の言うとおり、あたしや弟くんだけじゃなにも出来ない。だからこそ、信頼の出来る有能な人材が必要で、そのためのミューレ学園。その学園を荒らす貴方は害悪でしかないわ」
「――くっ。……俺の不祥事が明るみに出れば、グランシェス家にとって痛手なはずだ」
「呆れた。歴史の先生をしているクセに、その程度のことも分からないなんて。……はあ、もう十分よ。連れて行きなさい」
「――はっ、かしこまりました」
執事が即座に担ぎ上げ、いまだに喚き続けるライリーを部屋から連れ出していった。それを見届け、クレアリディルはため息をつく。
「……アリス、悪いんだけど、ライリー達を護送してくれるかしら?」
「もちろん。どこが良い?」
「弟くんに気付かれない場所ならどこでも良いわ」
「ん、それじゃ行ってくるね」
アリスは馬車の手配をすると退出。その後、執事が残った傭兵風の男二人も運び去り、この場にはソフィアとリアナ、それにクレアリディルの三人だけとなった。
「さて、待たせたわね。リアナ、脅されたとか言ってたわね。なにがあったか話しなさい」
「は、はい」
この期に及んでは嘘をつくことも誤魔化すことも出来ない。リアナは実はと前置きを一つ、自分がライリーから脅迫を受けたこと。そして、リオンに迷惑を掛けられないと考え、どうすれば良いか分からなくなっていたところ、ソフィアに救われたことを打ち明けた。
「騒動を起こしたのはあたしで、ソフィアちゃんは助けてくれただけなんです。だから――」
罰を受けるのは自分だと続けようとした。けれど、そのセリフを口にする機会を失ってしまった。ソフィアがぎゅっと、リアナに抱きついてきたからだ。
ソフィアはリアナの身体にしがみつきながら、クレアリディルへと視線を向けた。
「クレアお姉ちゃん、リアナお姉ちゃんは悪くないよ?」
「……ええ、分かっているわ」
クレアリディルがソフィアに優しく微笑みかける。そして、リアナに対しても、優しい眼差しを向けてきた。エメラルドグリーンの瞳が、リアナを静かに見つめる。
「リアナ。貴方は立派に、自分に価値があると証明して見せたわ。だから、その発展途上の胸を張りなさい」
「発展途上は関係ないですよね!? ……って、え? 成績優秀者のこと、ですか?」
リアナを脅すために不正を働いたのだとすれば、実は合格していた可能性は十分に考えられる。けれど、いまこのタイミングで言われるのは意外で……リアナは少し戸惑った。
そんなリアナに対して、クレアは「成績の話じゃないわ」と首を横に振る。
「本当のことを言うと、成績優秀者になるかならないかは重要じゃなかったの」
クレアリディルはウェーブの掛かった銀髪を掻き上げ、とんでもないことを口にする。
「重要じゃない……って、グランシェス伯爵領を豊かにするための人材、なんですよね?」
「そうよ。だけど、言ったでしょ。貴方が成績優秀者にならなくても、他に優秀な人間はこれからいくらでも見つかるわ。わざわざ厄介事を抱えている貴方を助ける理由にはならない」
「じゃ、じゃあ……成績優秀者になったら、あたしが迷惑を掛けた事実をなかったことにしてくれるっていうのは嘘だったんですか?」
「嘘じゃないわ。成績優秀者になれば、それを理由に周囲を黙らせるつもりだったもの」
「なら、どうしてあたしを……」
成績優秀者という肩書きが、パトリックの件と釣り合わないのであれば、クレアリディルが自分を助ける理由はないはずだと困惑する。
「理由は二つあるわ。一つは、さっきライリーに言ったこと。あたしや弟くんが必要としているのが、ただ優秀な人材じゃなくて、信用できる優秀な人材だということ」
「……あたしのことを、信用できるって思ってくださるんですか?」
「貴方は弟くんのために、危険を顧みずに貴族に噛みついた。今回も、弟くんを護るために自分を犠牲にしようとした。貴方は間違いなく、信頼できる女の子よ」
クレアリディルが穏やかに微笑む。試されていたかのようだが、リアナが抱いたのは信頼されて嬉しいという感情で、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「ありがとうございます。これからも、クレア様の信頼に応えられるように頑張ります」
「ええ。期待しているわ。でも、理由は二つあると言ったのを忘れていないかしら?」
「そうでした。もう一つはなんでしょう……?」
「もう一つはそれ、よ」
クレアリディルはイタズラっぽく笑って、リアナの腰の辺りを指差した。そこには、いまだに甘えたモードなソフィアが抱きついている。
「……ソフィアちゃんが、どうかしたんですか?」
「どうかしたのは貴方。他人を拒絶していたソフィアちゃんの心を開いたでしょ?」
「えっと……あたしは、特になにも」
謙遜ではなく、心からの言葉。
たしかに、どういう訳かソフィアに凄く気に入られているが、リアナは別になにもしていない。しいてあげるのなら、出会った頃にリアナから声を掛けたくらいである。
それを伝えると、クレアリディルは少し考えるような素振りを見せた。
「……ソフィアちゃん、もしかして?」
「うぅん、ちゃんと打ち明けたよ。ソフィアには、心を読む恩恵があるって」
「……そう。なら良かったわ」
再び、整った顔に優しい表情を浮かべた。その様子から、クレアリディルがソフィアを大切にしているのが良く分かる。
「ソフィアちゃんに慕われている貴方には教えておくわ。ソフィアちゃんは今でこそグランシェス家の養子となっているけど、以前はソフィア・スフィールと名乗っていたのよ」
「スフィールって……え、まさか!?」
リアナは目を見開いた。地理で最初に習ったのが、グランシェス伯爵領。そして次に習ったのがその周辺。西にはスフィール伯爵領が存在しているのだ。
「そのまさかよ。事情があって、一部の人間しか知らないことだけど、ソフィアちゃんはグランシェス家の養子になる前から伯爵令嬢よ」
「それがどうして、グランシェス家に?」
「……それは、いつかソフィアちゃんの口から聞きなさい。ソフィアちゃんが塞ぎ込んだ原因だから、あたしからは教えられないわ」
「そうですか、分かりました」
そういうことなら聞かない方が良いと思ったのだが、リアナのお腹に顔を埋めていたソフィアが、「そのことなら、もうリアナお姉ちゃんに話したよ」と言った。
「あら、そうだったのね」
「え、あれ? えっと……あっ」
リアナは、先日ソフィアから聞かされた言葉を思い出した。
『ソフィアのお父さんが、リオンお兄ちゃんの家族に酷いことをしたの。ソフィア、それが許せなくて、お父さんに手を上げちゃった』
まず、ソフィアの父親――つまりはスフィール家の当主が、リオンに酷いことをして、ソフィアが親子喧嘩をして飛び出してきた、みたいなことを考えた。けど、違う――と、リアナはすぐに自分の予測を否定した。なぜなら、スフィール家の当主は殺されている。
リアナは、ライリーから習った歴史を思い返した。
グランシェス家の当主と長男が、過激派を名乗る者達に殺された。それを知ったスフィール家の当主が、クレアリディルを保護した。けれど、それで過激派を敵に回し、スフィール家の当主までもが殺され、その妻は心を病んで離れに引っ込んでしまった。
それが、つい最近習ったばかりの歴史。
けれど、当主と長男は貴族同士の権力争いで殺されたとクレアリディルは言っていた。そして、スフィール家の当主は、リオンの家族に酷いことをしたとソフィアは言っていた。
更に言えば、ソフィアはそんな父が許せなくて、手を上げてしまったと言った。それに対して、リオンは凄く悲しげに、それはいけないことだと言ったらしい。
そこから考えられる答えは――まさかっ! と、そんな思いで、腰にしがみついているソフィアに視線を向ける。すると、ソフィアはリアナを見上げ――天使のように微笑んだ。
「えへへ、殺っちゃった」
「ホントに殺っちゃったのっ!?」
天使のような顔で、なんて恐ろしいことを口にするのよ。パトリックさんに迫られて怯えていたソフィアちゃんはどこに行っちゃったのよ――と愕然とした。
だけど――
「違うよ? ソフィアが怯えてたのは、パトリックさんじゃないよ?」
「え? でも……」
実際に、リアナの後ろで震えていた。あれが笑いをかみ殺していたなんてことはありえない。もしあったら、リアナは人間不信になっていただろう。
「大っ嫌いなパトリックさんを殺したいって思ったけど、それをしたらまたリオンお兄ちゃんに怒られるかもしれないって。だから、どうしたら良いか分からなかったの」
「そ、そんな理由だったの!?」
悪意あるパトリックに怯えていたと思っていたら、殺したら怒られるから、どうしようも出来なくて怯えていたと言う。完全に予想外すぎて、リアナは呆気にとられてしまった。
そして、そんなリアナに向かって、ソフィアは無邪気な追い打ちを掛ける。
「そうして悩んでいたソフィアだけど、リアナお姉ちゃんに言われて吹っ切れたんだよ?」
「え、あたし、なんて言ったっけ……?」
嫌な予感が……と冷や汗を流す。
「リオンお兄ちゃんは、ソフィアを心配してくれてるだけ。ソフィアのしたことは間違ってない。自分でもきっとそうしていた――って、リアナお姉ちゃん、言ってくれたじゃない」
「……あ゛」
思わずうめき声を上げた。
リアナは、ソフィアがリオンのために父親と喧嘩して、リオンに叱られたのだと思っていった。だから、そんな風に言った。
だけど……
リアナが無自覚に伝えてしまったのは、理由があれば親殺しも許されると言うこと。
自分の何気ない一言が、ソフィアを吹っ切れさせてしまった。それを理解して、口から魂が出てきそうな心境。だけど、ここでソフィアを止めないと取り返しのつかないことになる。
「ソフィアちゃん、あのね、あのときは知らなくてあんな風に言っちゃったけど、どんな理由があったとしても、その……」
リアナの予測が正しければ、スフィール家の当主であるソフィアの父がグランシェス家の当主や長男を殺したことになる。
そんなの許されるはずがない。けど、それでも、親を殺すなんてダメだと思った。
「ありがとう、リアナお姉ちゃん」
「ど、どうしてそこでお礼を言うの?」
「リアナお姉ちゃんも、リオンお兄ちゃんと同じように、ソフィアのことを心配してくれてるから。だから、ありがとう、なんだよ?」
「いや、そうじゃなくて、あたしが言いたいのは……」
過ぎたことはともかく、もう人を殺しちゃダメだよと言うことだったのだけれど、ソフィアはそんなリアナの内心を知った上で無邪気に微笑む。
「無駄だよ。ソフィアは心が読めるんだから。リアナお姉ちゃん、事情を知ったいまでも考えが変わってないよね? あたしでも、きっとそうしていた……って」
「――むぐっ」
たしかに、リアナはそう思っている。
もちろん、カイルは絶対にそんなことをしないと思っているけれど、もしも平民のために立ち上がってくれたリオン様やその家族を殺めたら……と、そんな風に思ってしまったのだ。
「えっと、ええっと……でもね、その……ク、クレア様ぁ……」
リアナは情けない声で助けを求めた。ソフィアを妹として可愛がっている。クレアリディルなら、きっと上手く諭してくれると思ったからだ。
だけど――
「ふふっ、二人はすっかり仲良しなのね」
「いや、そうじゃなくて、ですね。ソフィアちゃんのこと、止めてください!」
「ん? あぁ……たしかにそうね。ダメよ、ソフィアちゃん。スフィール家の一件は揉み消すのが大変だったんだから。殺るのなら、もっと上手く殺りなさい」
「そうです――って、違いますよね!?」
クレア様のことは信じてたのに――っ! と、リアナは絶望の眼差しを向けた。
「リアナ……良く聞きなさい。このあいだも言ったけど、弟くんの理想は素敵だけど、理想だけで世の中は回らない。ときには、冷酷な決断を下すことも必要なのよ」
「そんなことは……」
「ないと思う?」
「……いえ」
子供が口減らしに売られるのは、そうしなければ皆が共倒れになってしまうから。大多数を救うためには、一部を犠牲にすることも必要。
それは悲しいけれど、農民にとっては当たり前の考えでもある。
リアナはそれが嫌だから抗い、皆を助けようとするリオンの考えに感動したのだが……クレアリディルの言っていることを理解できない訳ではない。
ただ、リオンの姉であるクレアリディルから、そんな言葉を聞いて少し悲しくなる。
「そんな顔をしなくても、弟くんの考えを否定している訳じゃないから安心しなさい。ただ、理想に至るまでには、綺麗事だけじゃ済まないってこと」
「……それは、分かります。でも、ソフィアちゃんがしなくても……」
「そうね。ソフィアちゃんである必要はないわ。だけど、あたしもソフィアちゃんはその役をしたいと、自らの意志で前に進んだ。それを、貴方が止めるのが正しいと言えるかしら?」
「それは……でも、今回の件は騒ぎになりますよね?」
ライリーの一件が表沙汰になれば、間違いなくリオンの管理責任が問われる。そして、パトリックがつけいる隙となるだろう。
そう思ったのだけれど、クレアリディルはクスクスと笑った。
「グランシェス家とスフィール家の件、どうして表沙汰になっていないのか考えてみなさい」
「……え? それって、まさか!?」
「パトリックの件は無理だったけど、今回の件が明るみに出ることはないわ。そうね、ライリーはグランシェス領の誰も知らないどこかに派遣されたことになるでしょうね」
翡翠の瞳を細め、冷たい微笑みを浮かべる。その言葉に隠された意味を理解して、リアナはゴクリと生唾を飲み込んだ。
グランシェス家の暗部。それに触れて恐怖を抱かなかったと言えば嘘になる。だけど、どちらかと言えば、ソフィアがお咎めなしと分かってホッとした気持ちの方が強かった。
「えへへ、だから、リアナお姉ちゃん大好き」
ソフィアがリアナに抱きつく力を強める。いきなりどうしたんだろうと、そこまで考えたリアナは、自分がずっと心を読まれていたことに気がついた。
「……嫌だった?」
「嫌じゃないけど……困ったりはするかも」
嘘はなにも悪い嘘だけじゃない。村に残してきたアリアについた嘘のように、相手を思い遣る嘘も存在している。それが通用しないのは困るなぁ……と、リアナは思ったのだ。
なぜだか、ソフィアはリアナの胸に顔をこすりつけて嬉しそうにしているが。
「……というか、ソフィアちゃんって貴族だったんだよね?」
「そうだよぉ?」
「あたし、こんな風に、普通に接しても良いのかな?」
クレア様に接するみたいにした方が良いのかなと、リアナは少し考えた。その瞬間、ソフィアが少し不安そうな顔で、リアナの顔を見上げてきた。
「ソフィアはいままで通りが嬉しいんだけど……ダメ、かな?」
「うぅん、ダメじゃないよ。……分かった。これからもよろしくね、ソフィアちゃん。それと、助けてくれてありがとう。本当は、あんまり無茶して欲しくないんだけど……」
「言ったでしょ。リアナお姉ちゃんのことは、ソフィアが護るって」
「……だよね。分かった。なら、ソフィアちゃんのことは、あたしが全力で護るね」
ソフィアに比べたらなんの力もないリアナだが、それでも精一杯、友達を護ろうと誓う。
「ふふ、本当に仲良しね」
「あ、その、ごめんなさい」
クレアリディルとの会話中だったことを思い出して恐縮する。
「良いのよ。ソフィアちゃんと仲良く出来る子は貴重だから」
「……そう、なんですか?」
「ええ。心を読めるソフィアちゃんにうわべの――気遣いという名の優しさは通用しない。そんなソフィアちゃんの心を開くことが出来るのは、ごくごく一部の人間だけなのよ」
「……なる、ほど?」
リアナとしては、妹と似た可愛い女の子がいたから仲良くしたいと思っただけ。それを評価されても……と、困惑してしまう。
「分かってないみたいね。でも、そういう貴方だから、ソフィアちゃんに気に入られたのかもしれないわね。これからも、ソフィアちゃんと仲良くしてあげてね」
「それは、もちろんそうしたいですけど……」
ライリーの件が闇に葬られるのだとしても、リアナが騒ぎを引き起こした事実は変わらない。なんらかの責任を取らされるのではと心配する。
「大丈夫よ。貴方はもう立派なあたし達の仲間よ」
「それじゃ、学園には……」
「もちろん、いままでと変わらず通ってもらうわ。それに、貴方が困ったときは、あたし達が助けてあげる。その代わり、あたし達が困ったときは、貴方が助けてちょうだいね?」
「クレア様……はい、クレア様やリオン様のために全力で頑張ります!」
レジック村や妹を救うためには、リオンについていくのが一番。そう考えているリアナは、力強く頷いた。そんなリアナを前に、クレアリディルが微笑を浮かべた。
「そう言ってくれると信じていたわ。それじゃ、さっそくだけどお願いするわね」
「…………へ?」
「実はパトリックが領内であれこれやってくれちゃって困ってるのよ。だからそれを解決するために、信頼の出来る生徒が必要だったの。もちろん、協力してくれるわよね?」
意味深な表情。まるでいままでのやりとりはすべて、その要求を通すためだったと言わんばかりの雰囲気。その言葉を聞いたリアナは――
「ありがとうございます、クレア様」
深々と頭を下げた。
「……ふぅん、どうしてお礼を言うのかしら? あたしは別に、お礼を言われるようなことをした覚えはないのだけれど?」
問いかけられたリアナは顔を上げ、クレアリディルをまっすぐに見据える。そんなリアナの視線を受け止めるクレアリディルは、どこか楽しそうな顔をしていた。
「あたしは、リオン様やクレア様にご迷惑を掛けたことを後悔していました」
「そのことなら、貴方は自分の価値をあたしに認めさせたことで不問にすると言ったわよ?」
「ええ。でも、あたしが迷惑を掛けた事実は変わりません。だから、あたしに名誉挽回の機会をくださったことが嬉しくて。だから、お礼を言ったんです」
「……ソフィアちゃんが気に入るはずだわ。貴方もいつか、あたし達と姉妹になるかもしれないわね」
「……えっと、その姉妹というのは?」
前にも言われたけれど、貴族の養子と言うことなのだろうかと首を傾げる。
そんなリアナに返ってきたのは「ソフィアちゃんの部活のメンバーのことよ」と意味の分からない答えが返ってきた。
「ひとまずそっちの説明は後。まずは、パトリックの件ね」
「そ、そうでした。一体なにが起きているんですか?」
「実は、パトリックがグランシェス伯爵領の各地で暴動を起こそうと扇動しているのよ」
それを聞いたリアナは、自分もパトリックを殴っておけば良かったと悔やんだ。
明日、28日『この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される』の一巻がMノベルスより発売となります。ヤンデレのお話というか、かなりエッチなお話(全年齢対象)ですが、興味がある方はぜひ手に取ってみてください。
早ければ、既に本屋に並んでいると思います。





