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無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる  作者: 緋色の雨
第一章

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成績優秀者を目指す無力な女の子 3

 一時的にヘイトのたまる展開があります。今回の話でひとまずなところまでは進みますが、ざまぁは明日の投稿からになりますので、ヘイトの持ち越しが嫌な方は明日纏めてみることをお勧めします。

 ロードウェル子爵家の子息、パトリックと口論をしてしまったリアナは、本来であれば貴族にたてついた者として、重い罰を受けるはずだった。

 そんなリアナをリオンが救ってくれたのだが、その代償としてグランシェス伯爵家は、他の貴族に付け入れられる隙を作ってしまう。

 そこまでしてリアナを助けた。そんなリオンの判断が正しかったのだと証明するために、リアナは成績優秀者を目指すことになったのだが……


 テストを受けた翌日におこなわれた歴史の授業。名前を呼ばれて教卓の前に進み出たリアナは、ライリーから不合格を言い渡された。

「そんな……」

 リアナはあまりのショックに膝からくずおれた。

 リオンの恩に報いると、クレアリディルに対してあんなに大見得を切ったというのに。一体どうすれば良いのか……頭が真っ白になって、リアナはなにも考えられなくなった。


「せ、先生! リアナはあんなに頑張ってたのに、赤点ってどういうことですか!?」

 床に座り込んでしまったリアナの横で、ティナがライリーに食って掛かる。


「おいおい、落ち着け。俺はリアナが赤点だなんて言ってないぞ。順位で言えば上位に食い込んでいる。ただ、成績優秀者には届かなかったと言ったんだ」

 成績優秀者に届かなかった。その言葉がリアナの胸に突き刺さった。成績優秀者になれなければ、来年も授業を受けるという目標はもちろん、クレアリディルとの約束も守れない。


「先生、リアナお姉ちゃんは凄く頑張ったんだよ。どうにかならないの?」

 ティナに続き、ライリーを怖がっていたソフィアまでもが先生に直談判してくれている。リアナは嬉しいやら情けないやら。俯いたまま手をぎゅっと握りしめた。


「だから落ち着けと言っているだろう。たしかにリアナは成績優秀者となるラインは超えられなかったが、かなり惜しいところまで行っている。それにリアナが、あの貴族のボンボンにからまれていた件は周知の事実だからな」

 リアナはガバッと顔を上げた。ライリーの物言いに希望を感じたからだ。


「安心しろ、リアナ。特別に補習と再テストを実施して、合格ラインを突破することが出来れば、成績優秀者になれるように申請してやる」

「ほ、本当ですか!?」

「ああ、本当だ」

「あ、ありがとうございます! ……あ、でも、補習って、あたしだけ……ですか?」

 この期に及んで、自分だけ特別扱いなのだとしたら申し訳ない、なんて思ってしまう。


「心配には及ばん。赤点の者はおらず。成績優秀者にギリギリ届かなかったのはリアナ、お前だけだからな」

「……そうなんですね」

 ホッと息を吐く。自分が一番追い詰められている状況でも他人を気遣うリアナは、どこまでもお人好しだった。

 それはともかく、幸いにして他の科目はすべて合格ラインを突破。リアナは歴史の科目の補習と再テストをクリアすれば、成績優秀者に入れることが確定した。



 その日の放課後。

 リアナはライリーの呼び出しに応じて、学園にある自習室に向かった。いままでの個人授業は、パトリックの目を避けるために学生寮の個室を使用することが多かったのだが、パトリックがいなくなったので、今回は通常通り自習室を使うらしい。

 という訳で、リアナは自習室の扉をノックし、返事を聞いてから部屋の中に入った。


「お待たせしました、ライリー先生」

「うむ。良く来たな。まずは席に座るが良い」

「はい、さっそくノートを出しますね」

 ライリーが立つ横の机に座ったリアナは、いままでの授業の内容を纏めたノートを取り出す。けれど、ライリーにそれは必要ないと言われてしまった。


「えっと……ノートを使わないんですか?」

 リアナは、自分の真横に立つライリーを見上げる。

「うむ。ノートを見ても無駄だ。お前はこのままだと合格できない」

「え? ……ど、どうしてですか?」

 もしかして、合格ラインギリギリというのは嘘で、本当はもっと酷い成績だったんだろうかと焦っている。リアナはどこまでも無垢でお人好しな女の子だった。


「リアナ、お前が合格できない理由は簡単だ。このままなら、俺が合格させないからだ」

「えっと……それは、当然ですよね? 先生が採点するんですから」

「……はっ。ここまで言っても分からんとは。お前は本当に見た目通りにお人好しだな」

「え、あの……ライリー先生?」

 ライリーの手が背後から回され、リアナの頬を撫でた。自分の父と同じ年頃のライリーに撫でられたリアナは、気恥ずかしさと戸惑いを持ってライリーを見上げる。


「リアナ、お前は物凄く頑張っているな」

「え、えぇ、どうしても成績優秀者になりたいので」

「成績優秀者となって、リオン様の役に立つ、だったか?」

「それもありますけど、クレアリディル様と約束したんです」

「ほう。クレア様とか?」

「パトリックの件でリオン様にご迷惑を掛けてしまったので、自分を助けてくれたリオン様は間違ってないって証明しなくちゃいけなくて」

「なるほどなるほど。それならばなおさら、なにがなんでも合格せねばならんな」

「そう、なんですけど……」

 リアナはここに来て急に恐くなった。父のように思っていたライリーが、ギラギラとした瞳でリアナを見下ろしていることに気がついたからだ。


「あ、あの、ライリー先生?」

「なんだ?」

「いえ、あの……補習をしてくださるんですよね?」

「うむ。特別な補習をしてやる。合格にして欲しければ動くなよ」

 言うが早いか、リアナの頬をさわさわと撫でていた手が首筋へと滑り落ち、更にその下へと向かおうとした。その瞬間、怖気を感じたリアナは椅子から転げ落ちるように逃げた。

 そうして別の机に手をついて立ち上がり、驚いた顔でライリーを見る。


「ライリー先生、なにをするんですか!?」

「なにを……だと? なんだ、まだ分かっていないのか。合格されて欲しければ、俺の愛人になれと言っているのだ」

「――なっ!?」

 予想もしていなかった言葉にリアナは硬直する。


「なに、悪い話ではないぞ。俺はこう見えて、グランシェス家に昔から仕える官僚でな。それなりに権力もある。俺のモノになるのならあれこれ手を回してやろう」

「そ、そんなこと受けるはずがないでしょ!?」

「良いのか? 俺の申し出を断れば、お前は成績優秀者にはなれない。そうなって困るのはリアナ、お前ではないのか?」

 たしかにその通りだった。成績優秀者になれなければ、自分の手でレジック村や妹を救う夢はもちろん、自分を助けたリオンの正当性を証明することすら出来なくなってしまう。

 だからと言って、はいそうですかと従う理由もないのだけれど。


「リオン様に訴えます」

 リアナはきっぱりと断言して、クルリと踵を返した。

「……またリオン様に迷惑を掛けるのか?」

 自習室から出ようとしたリアナの背中に、無視できない一言が投げかけられた。だからリアナは足を止め、ライリーの方へと振り向いた。


「リオン様に迷惑って……どういう意味ですか?」

「分からないのか? 貴族のボンボンと揉めたことで、リオン様に迷惑を掛けたのだろ? ならば、この一件が明るみに出て、なぜリオン様に迷惑が掛からないと思うのだ」

「それは……」

 パトリックが編入してきたのは、学園の闇を暴くという名目だった。

 それなのに、パトリックを一方的に退学にした後、教師が生徒を脅して愛人にしようとしていたなどという事実が明るみになれば、リオンはきっと窮地に立たされる。

 もちろん、そうならない可能性もあるけれど……リアナはパトリックと口論して、リオン達に多大な迷惑を掛けたばかり。ライリーの言葉を無視することは出来なかった。


「……分かりました。この件は誰にも言いません。その代わり、先生もあたしのことは諦めてください。それで……良いですよね?」

「良いはずがないだろう。お前が選べるのは、リオン様にすべてを話して迷惑を掛けるか、成績優秀者になれずに迷惑を掛けるか、俺の愛人となってリオン様の役に立つかの三つだけだ」

「――なっ! あたしがリオン様に話したら、先生だってただじゃ済まないんですよ?」

「それがどうした。お前がその選択肢を選べない以上、それは脅しにもなっていないぞ」

「~~~っ」

 リアナは悔しさのあまりに唇を噛んだ。


「リアナ、なにもそんなに嫌がることはないだろう。お前だって、俺のことを憎からず思っていたんじゃないのか、ん?」

「あたしは……先生がお父さんと似てるって思ってただけです」

 たしかに熱血の先生に対して、好意は抱いていた。だけどそれは、父親に向けるのと同種で、異性として見たことはなかった。なのに、そんな風に言われて戸惑ってしまう。


「ふむ。そういえば、親子ほどに年が離れているか。だがそれがどうした。俺はれっきとした男で、お前は年頃の女。なにも問題はあるまい。それになにより、お前は慰み者にされる覚悟で来たと言ってたじゃないか」

「それ、は……」

 たしかにその通りだ。あの日、名乗りを上げたリアナは、妹を護るために、慰み者になるつもりだった。あの日のリアナなら、きっとライリーの言いなりになっていただろう。

 だけど――脳裏に浮かぶのは、学生寮のエントランスホールで、みんなが幸せになる世界を作るといったリオンの姿。いまのリアナは、愛人になるなんて考えられないと思った。


「は、なんだ、お前。もしかしてリオン様に惚れているのか?」

「ちっ、違います! あたしはただ、リオン様の助けになりたいって、そう思って……」

「はん。口ではなんとでも言えるだろ。まったく、どいつもこいつも、リオン様、リオン様と。そんなに、あの優男が良いのか?」

「だから、違いますっ!」

 自分でも、どうして意固地になって否定するのか分からなかったけれど、リアナは真っ赤になって違うと捲し立てた。


「どうだか。……まあ、どっちにしても無駄だ。リオン様のまわりには、信じられないくらい、外見も身分も育ちも良い娘が集まっているからな。お前では相手にされまい」

「――そんなこと、貴方に言われなくても分かってるわよ!」

 ミューレ学園で知恵を授かったとは言え。リアナが村娘であることに変わりはない。リオンの周りに美少女が揃っていなくても、自分が相手にされるはずがないことは理解している。

 なのに、それを他人に指摘されたリアナは声を荒げてしまった。


「ふん。どっちにしても、無駄だと理解しているのなら良いだろう。叶わぬ望みなど捨て、俺のモノになれ。そうすれば、お前がリオン様の元で働けるよう手を回してやる」

「そんなこと……」

 受けられるはずがないという拒絶の言葉は、喉でつっかえて出てこなかった。クレアリディルとの約束を果たさなければ、リオンにも迷惑が掛かると、そう思ったからだ。


「ふむ。どうしても嫌なら、今回は一晩だけでもかまわんぞ。どうせ、このような機会はこれから何度でもあるのだからな」

「一晩……」

 一晩我慢すれば、リオンの恩に報いることが出来る。

 クレアリディルに失望されて、リオンの恩にあだを返して、一生後悔するくらいなら、一晩だけ従ってしまえ……と、ライリーが囁く。

 リアナは――ぎゅっと瞳を閉じた。


「くくっ、ようやく覚悟が決まったようだな」

ライリーが目を閉じるリアナの両肩を掴んだ。すぐ側で、ライリーの息づかいが感じられる。そして次の瞬間、ライリーに押し倒される。

 ――そんな未来を想像して、リアナはライリーを突き飛ばした。


「くっ、お前……」

 声を荒げようとしたライリーだが、リアナを見てその言葉を飲み込んだ。

 ――リアナは、無知で無力な村娘は、その身を犠牲にすることでしか大切な人を護れないと思っていた。だけど、ミューレ学園で様々な知識を学んで、そうじゃないと知った。

 ……はずだったのに、これじゃなにも変わらない。どんなに頑張っても、村娘は村娘。そんな事実を突きつけられた気がして、リアナはボロボロと泣き出してしまう。


「――ちっ! 今日の補習は止めだ!」

 ライリーが吐き捨てるように言う。それが意外で、リアナは顔を上げた。


「勘違いするなよ。お前が成績優秀者になる手段は一つしかない。だが、俺はお前を無理矢理愛人にしたい訳ではないからな。明日まで待ってやるから、そのあいだに覚悟を決めてこい」

 それを受け入れることなんて出来なかったけれど、一秒でも早くここから逃げ出したい。そんな衝動に駆られたリアナは自習室を飛び出した。




 どうすれば良いのか。なにが正しくて、なにが間違っているのか。それどころか、自分がなにをしたかったのか。訳が分からなくなったリアナは、ふらふらと辺りを彷徨った。

 そして気付けば、校庭にある小さな畑の前に立っていた。


 ミューレの街とは名付けられているが、完成しているのは街の中心のみ。大きな表通りの向こうにはなにもなく、遠くには地平線が見える。

 地平線には真っ赤な太陽が沈み、空高くには夜が広がり始めていた。そしてそのあいだ、昼と夜の境界線が美しい紫色に染まっている――マジックアワー。

 どこまでも美しい空の下、リアナは止めどなく涙を流していた。

 美しい空も、実りに実った畑も、いまの自分にはふさわしくない。まるで、自分だけが美しい世界からはじき出されたような錯覚を抱く。

 やっぱり、村娘である自分には、みんなを救うことは出来ない。全部無駄な努力だったんだと、リアナが世界を呪おうとしたその瞬間――


「……そんなところでどうしたの、リアナお姉ちゃん」

 幻想的な光を浴びて金髪を煌めかせるソフィアがリアナの前に現れた。

 

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