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ガラスの境界  作者: 染井 綾
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第九章手紙

 鳴り響く携帯を止め、眠たい目を擦った。今日の朝はやけに静かだなと思い、部屋を見回したが、誰も居なかった。誰もいるはずのない空間に、誰かを探している自分がいることに気付いた。誰を探しているのかなんて、誰かに言われるでもなくわかっていた。だが、自分がそうしているのが信じられなかった。俺の家に居たのはたった数日間で、その前何カ月もの間、この部屋で一人暮らしをしていたのだ。

 少し疲れが残っているのかもしれないと思いつつ、仕事へ向かう準備をした。満員電車に揺られながら、向かうのは疲労が溜まる一方だった。ここ数日がとても長かったような気分で仕事をするなんてとても久しぶりのような気がしていた。長期休みの後に学校へ向かうような感じととても似ている。

 久しぶりな気がしても、身体も頭もしっかり覚えていた。少しするとすぐに仕事モードに入ることができていた。ただ、いつもより少しだけ時間が長く感じてしまった。昼休みが遠く感じたし、終業時間なんてもっと遅く感じてしまった。それから家に帰っても、何となく時間の流れはゆっくりだった。時間が遅いと感じるのは多少なりとも違和感があった。

 家に着いて、疲れを洗い流し冷蔵庫から飲み物を取り出した。ゆっくりしようとした矢先に、携帯が光っているのに気が付いて開いてみると、一件の着信履歴が残っていた。そこに表示されていたのは、彼女の名前だった。口に運ぼうとしていた飲み物をテーブルの上に戻し、彼女にかけ直した。鳴らしてみたものの、彼女が出ることがなかった。

 今度は携帯が鳴るようにして、テーブルの上の飲み物を口に運んだ。半分ほど飲み進めた時に携帯が短く鳴った。着信ではなく、メールだ。彼女からのメールだと思って開けていた。画面を見るとそこに書かれていたのは友人の名前だった。友人からのメールだった。拍子抜けをしてしまったことに否定はできない。

だがしかし、内容に驚かされた。近々、彼女と同棲を始めると言う内容だった。彼女が居たのも知っていて、何度か飲みの席で顔を合わせたこともあった。とても明るい子で、友人ととても気が合いそうで、一緒に居て楽しそうな子だった。二人だけで居てもずっと笑っているのが想像できる。そこに、同棲と言う言葉の重みが加わって、本気なのだと思ってしまった。今までも本気だと思っていたが、再認識のような、再確認のような、胸にトクンと何かを振動させる単語だった。

友人には、探ることなく返信をしようとしたが、胸の振動はそう簡単に納まることはなかった。どこに住むのか、どの程度の将来まで考えているのか、聞きたいことは様々だったが、実際に俺が聴くことができるものは微々たるものだった。

次に携帯が鳴ったときは、長いものだった。今度は着信だ。画面を覗き込むと、彼女の名前が表示されていた。胸の振動が更に強くなるのがわかったが、電話を取らないと言う選択肢はなく、携帯を耳に近づけていた。電話越しに話す彼女の声は明るく、今日も友達にお土産を渡してきたと言う話をしてくれていた。これと言った要件がなくても、話したくなったら電話をしてしまうのはお互いだが、なぜか返事がぎこちなくなってしまっているのが自分でもわかる。彼女との電話はそう長くはない。ある程度話すと、おやすみと挨拶を交わし、電話を切った。何をそんなにも緊張していたのか、どうしてこんなにも鼓動がうるさく響いていたのか、俺にはわからなかった。電話を切る頃にはうるささがなくなっていて、その頃にはもう既に、友人からのメールは返って来ていた。

 友人からの報告のメールの返事に加えて、俺自身も近況報告して、切り上げることにした。布団に入って落ち着いて寝ようとしても、考えも胸の中も落ち着く気配がなかった。この騒がしさはどうしたら落ち着くのだろうか。目をつぶっても落ち着くことができずにいた。まるで遠足の前に寝ることができない子供のようだと思ってしまった。

 それから何をどこまで考えてから眠りに就いたのかは覚えていない。さて、これからどうするか、とおそらく昨晩考えた内容をまた通勤の電車内で考えていた。きっといつ考え直しても、どう考えなおしても同じ人の考えることの結論は同じだと思っているが、その結果を覚えていない俺はこうしてまた考え直しているし、きっと結果が出ても何回も考えてしまう。

 休日は今まで家から出ることは少なかったのにも関わらず、朝から張り切って外出の準備をしている自分が居た。行く先はわかっているようで、どこかわからない振りをしていた。心の赴くままにと思っている自分は自分に嘘をついているのが、わかっていながら見て見ぬふりをしているが、わかっている自分がどこかにいることもわかっている気がしている。

 着いた先は頭の片隅に追いやっていた場所であった。店の外に出ている、物件の間取りを眺めていた。どこをこだわって、どこを妥協すべきかなんて考えていた。俺がひとりで決めていいものなのか。それだからと言って相談すべきなのだろうか。部屋は二人分あった方がいいとか、キッチンは使い勝手が良い方が良いのかもしれないとか、いろんなことを考えてしまっている。ひとりで決めるべきではないことはわかっていながら、言葉にするほどの度胸がないことも確かだ。断られてしまったらと言うネガティブな思考が働いている。

 もし休日の朝、彼女が俺の横で眠っていたら、どんなに幸せなのだろうか。朝俺より早く起きたら、朝食なんて用意してくれているのだろうか。俺の方が早く起きることができたら、可愛らしく、愛おしい寝顔を見て幸せをかみしめることができるのだろうか。お昼頃にはお出かけするのだろうか。また、あっちに行きたいとか、こっちに行きたいとか、振り回されてしまうのだろうか。彼女のあの笑顔によって全て許せてしまいそうな自分が居るかもしれないことは、否定することができない。

 お部屋のレイアウトは彼女に決めてもらおうか、俺が決めてもいいのだろうか。自分が知らないだけで、彼女がこだわっていることは何なのだろうか。そこは妥協して彼女に譲ってあげた方がいいのだろうか。何もわからないながらでも、できる限り彼女の要望は叶えてあげたいと思ってしまう。

 俺自身の中の完結された世界に、彼女を勝手に引き入れ、彼女がいる俺の世界を作りだしていて、それの罪悪感からか、彼女の望むことは叶えてあげようと思ってしまう。せめてもの償いなのかもしれない。このことに彼女が怒ってしまうのか、どのような反応をみせてくれるのかなんて想像もつかないのだが、それでも俺の中にある小さな世界に彼女を引き入れたくて仕方がない。むしろ、既にそうしてしまっている。

 もし、俺と同じ考えを彼女がしていたらなんて、とてつもなくゼロに近い確率の、奇跡のような確率のことを考えてしまっている。微少であれ。ゼロではないその確率に期待の輝きを持たせてしまう。そのことがいいことなのか、悪い事なのか俺にはわからない。世間一般的に良いと言われるものも、もしかしたら俺と彼女の間では悪い事なのかもしれない。とよくわからないことを堂々巡りで考えている自分がいた。

 休みの日、一日使って物件から家具、雑貨までたくさんの店を回っていたが、何を見るにしても念頭に彼女が居る限り、俺ひとりでは決めることができない。最終決定権はきっと彼女にあって選択肢を狭めることしかできないことを一日かけて思い知らされた。当初の想像通りであれば、ある程度は決定してしまえると思っていたが、俺が彼女に対して抱いている想いは、それほど軽いものでもないようだった。

 太陽が空から姿を消し、月の存在感が強くなってきたのに気づき、俺は家へ足を向けた。彼女に何をどのように話すか考えていた。何をどこから話していけばいいのだろうか。こんな時に、話下手な自分に嫌気がさしてしまう。自分の嫌いなところなんて何個も出て来るのに、彼女の嫌なところは全く出てこない。逆に出てくるのは愛おしいあの無邪気な笑顔と、たまに見せる大人っぽさだ。好きなところなんて挙げればキリがないと言うのは、とんだ過剰評価だと思っていたが、俺の場合、実際にその立場になってしまった。過剰評価でも何でもなく彼女はそれほどの人物なのだと思っている。

 俺が彼女の携帯に電話をかけて、彼女がでることはなかった。よくあることではないが、たまにそのようなことはある。友達と遊んでいたり、会社の飲み会だったり、事情は様々だが何もなく電話に出ないことはないので、邪魔してしまっては悪いと、何回もかけることはしない。お互いにお互いの生活があるのだ。それに、彼女も俺からの着信履歴に気付いて大丈夫な状況になり次第、折り返しの連絡をくれる。だからそれほど心配はしない。

 その日、彼女からの折り返しはなく。俺は次の日を迎えた。夜になると彼女から電話がきた。ちょうど電話に出ることができない状況だったので改めて折り返すと、彼女が少し眠そうな声で「もしもし」と応えてくれた。

 電話を掛けるまで、何を言おうとかどんな言い回しが良いかとか、たくさん考えていたのにも関わらず、眠そうに応える彼女に「声が聞きたかっただけ」と返すのが精一杯だった。明日もお互いに仕事で朝が早いことを理由に、おやすみと言う挨拶だけ交わして、電話を切った。この電話で彼女は何か思ったのだろうか。女の人はカンが鋭いとよく言われているが、どれほどなのだろうか。

 その次の日も、その後も、何日経っても彼女に何も話すことはなかったし、どんな家具がいいとか、間取りはどのようなものがいいとか、その類に関することを聞くことはなかった。それは俺の勇気がなかったからとか、仕事が忙しかったからとか、言い訳ならいくらでも思いついたが、それ以上にお互いの生活がある上で、こうして関係が保たれているだけで、胸が満たされていることに気付かされた。

 一体、それがいいことなのか悪い事なのかはわからない。きっと結婚願望の強い女性からしてみたら、こんな男はもどかしくて仕方がないのかもしれない。もっと言えば、結婚願望が無い女性からしてみると、都合の良い男でしかないのかもしれない。彼女がどちら側にいるのか、俺が知る由もないが、どっちに居て欲しいとも思っていない。どっちに居たとしても、彼女は彼女であって代わりの人なんてこの世に存在しない。彼女から結婚や同棲の話をもちかけられる確率はほんの僅かだろう。それでも俺は提案することを止めた。

 それがこれから吉と出るか凶と出るか。今の俺は全く知らない。それでもいい。物理的に遠くからでも彼女を一番近くで支えることができるのであれば、それで構わないと思ってしまった。いずれかは、結婚を視野に入れて同棲をしたりしようと言う考えはあるものの、今のところは何もせず、彼女の仕事が落ち着いたり、俺の仕事が安定するまで、ゆっくり焦ることなく待つべきなのかと思っている。

 ただの甘えなのかもしれない。ただの言い訳なのかもしれない。それでも、それでいいと思った。言い出すほどのことではないし、言いだすにしても、どちらかが今の生活を諦めてしまわないといけないことになる。異動願を出すにしても今、このタイミングではお互いの仕事のタイミングが悪い。

 もし、俺が彼女を養うとして、都会に呼ぶとして、都会で便利に暮らすことはできても、彼女が友人と離れてしまうのは言うまでもない。生まれ育ったあの地を出ていかなければならない。俺が提案するにしてはあまりにも身勝手過ぎる。きっと俺はこれから、都会に残るか、元居た地に戻るか選択を迫られるのだろう。そこで、最優先は仕事内容や仕事の条件だとしても、きっと彼女を第一に考えることはない。きっと彼女も同様だ。

 それはお互いにわかっていることで、お互いにお互いの生活を侵害しないことで成り立っている関係であると言うのは、きっとどこかでわかっていながら、なかなか言葉にして確認できないことだと思う。心のどこかで、口にすべきだはない事だと思っているのだ。言葉にしてしまうことで、少なからずこの関係が崩れてしまうことがわかっているので、それを恐れているのかもしれない。

 もし仮に、いろいろと考えた末、あの地に戻って仕事をした方がいいと思えたのなら、そのときはきっと、彼女と同じ屋根の下で生活をすることを望むだろう。彼女もきっと容認してくれるものだと思っている。

 今までの考察はあくまでも俺の世界の中での話だ。この話が実際にどこまで彼女に通用するのかはわからない。彼女も彼女の中に世界が存在していて、その中に俺は入れてもらえているのかでさえ、確認する術がない。もしかしたら、違う人が我が物顔でその世界を支配しているのかもしれない。もし、そんな人が居るなら彼女の生活の中心はその人であるべきだし。俺が関与していい問題ではない。それにも関わらず、俺がこうして隣にいることに意味を感じられなくなってしまうかもしれないが、それはまた俺の世界での話しであるだけであり、彼女の世界の価値観とは全くの別物である。

 今まで、彼女の世界の中心部に俺意外の男が存在していると思ったことはなかった。それが彼女の中ではどれほどいけないことなのか、彼女の中での規則に当てはめてみることは、俺にはできない。俺には俺の規則がもう既に出来上がっていて、それ抜きで何かに対して考えていくことは不可能である。


 あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。ひとりで家具や物件を見回った挙句に、彼女にそのことを切り出せずに休日を過ごしていた。俺の一番近くに彼女がいてほしいと思っていた。その当時はそれが俺の一番の望みであり、それ以外は何も望まないと思ってしまっていた。それは今でも後悔していない。今ですら微かにそう思っているからだ。心のどこかでそうしてしまいたいと思っているからだ。

 あれから何も変わらず、俺は人の多い都会の中ひとりで過ごしていた。大人になって新しく出会った人と距離を縮めることはこれほどにも難しいことだっただろうか。

何も考えずにいつの間にか仲良くなってしまっていた幼かったあの頃とは、何もかもが少しずつ確実に変わってしまっていることに、その場面に直面する度に気付かされている。変わろうとしなくても変わってしまっている自分に戸惑いが生まれないはずがなかった。それが悲しみの感情を生むのか、喜びの感情を生むのか、直面してみなければわからないが、喜びの中にも微かに悲しみが混ざってしまっていることは、否定できない。

その後、彼女に会ったのは、友人の結婚式であった。何でもなくいつも通りの会話であった。主役である二人が眩しく見えることはなかった。それが良い意味であるのか、悪い意味であるのかはわからない。そして、久しぶりに会った彼女に以前考えていた話をすることはなかった。周囲の友人から、少なからず結婚を煽られたが、そうされたからと言って急ごうと思うこともなかった。

そう言ったものを成長と呼べずに変化と捉えてしまうのは、多かれ少なかれ俺自身の性格上の問題はあると思うが、それでも俺の中で大切にしておきたいと思えるものがあるのは、何にも代えることができないほどの誇りであった。

 それが彼女であるのは、誰かから見たら安定しないものなのかもしれない。僅かなものに見えてしまうのかもしれないが、俺にとっては近くにいた期間も遠くなってしまった後でも、変わらず大切なものとして俺の中にある。

誰にも消すことのできない、上書きすることができない、大切な記憶であり思い出である。彼女を思い浮かべる度に悲しい気持ちになることはないが、言葉に当てはめることができるような感情になるわけでもない。

 俺の人生の分岐点はきっと、あの地を出たことなのだろうと思っていた。それから生活のいろんなものが変わってしまったような気がして、そう思っていた。そうではないと言い切ることも難しいが、分岐点と呼ぶほどでもなかったのかもしれない。

だからと言って彼女との出会いだとか、彼女と付き合ったことが分岐点と言う程、盲目にはなっていない。俺という一人の人間の人生の中で、とても素敵な人が現れてくれて、俺が生み出せないような色で俺の人生を彼女が色付けてくれている。

これからの人生、彼女以上の人が現れないとは言い切ることができない。だが、彼女以上の人が現れないかもしれないと言う気持ちはないわけではない。

 彼女の人生に、俺は何色を与えることができたのだろうか。彼女ひとりでは見ることができない色を見せることができたのだろうか。確認しようと思うものでもないが、少し気になってしまうものではある。

彼女が自らの力で羽ばたこうとしている時、俺は止めることすらできない。見守っているだけである。もし、疲れて戻ってきた時にはいつでもゆっくりできるように、居場所を作ってあげることしかできない。

 俺が誰かにしてほしかったことを彼女が俺に望んでいるかはわからないが、彼女がもし望むことがあるのであれば、そっと手を差し伸べてあげたいと思うだけだ。今どんなことをしているのだろうか、と考えるのは少なからず寂しさを帯びてしまう。




     ☆



 元気に過ごしていますか。その笑顔の裏に寂しさを隠していることはないですか。仕事も、友達関係も、家族のことも、何事も順調ですか。

何か困っていませんか。少しでも困ってしまって、悩んで立ち止まってしまっていることがあれば、何でも言ってください。何かできることがあるか、協力できるのかはわかりませんが、少しでも楽になってくれれば、僕は嬉しいです。

僕は変わらず、昔から特に変わらずに過ごしています。もしかしたら、少しばかり変わってしまっているのかもしれませんが、それはきっと大きな変化ではないと思います。少なくとも僕たちの関係に影響が出るほどの変化ではないと思います。

今ではあなたの笑顔に振り回されていた、あの頃が少し懐かしく思えてしまいます。そんなに遠い過去ではないはずなのに、思い出しては懐かしくなります。

また、以前のように外でゆっくりお酒を飲んだりしたいですね。

どんなことを話そうか、と考えてみますが、改めて何かを話そうと思うと、言葉にするのは難しいです。それをさらに文字に起こすような能力は僕にはないようです。そのような能力は僕よりあなたの方が断然、スムーズにできることでしょう。なので、僕が望むのはひとつだけにします。

あなたが僕の隣で、リラックスしてお酒を飲んでくれることです。

もし、一緒に御酒を飲みつつ、ゆっくりすることができたら、その頃には月や星に手が届くようにしておきます。なので、どの星がいいのか、考えておいてください。

今の僕には、まだあなたの現状を聞いてしまう勇気がありません。以前よりも連絡を取る頻度が減ってしまっているだけなのに、そのような心境になってしまっているのが、とても不思議です。

今、僕とあなたの間の距離はどのくらいですか。その間に壁はありますか。あなたの方から僕のことを見ることはできますか。

こんなメールが何通も送信できずに、僕の携帯には保存されています。今まで書いたメールは送れずにいくつも貯まっていっています。今回のメールが一番本心を書くことができているかもしれません。こうして段々、自分の気持ちに気付かされています。

今まで書いた文章を読み返すこともなければ、書き終えた文章をいまさら、送ることもないと思います。だからと言って、今になってそのメールを消そうと思うこともありません。きっとあなたへ見せる日が来るかもしれません。きっとあなたが読みたいと言ってくれる日がくるかもしれません。そんなありもしない希望を微かに胸に抱きながら書いている僕は、誰かから見れば、きっと惨めで寂しいものかもしれません。

いつかあなたから、何気ないメールが来るのを待っている反面で、もしメールが着ても開くのが怖くなってしまう気がしてしまっています。そして、もし開いたとしても、どのような文章を送ればいいのか、どのような距離感で話していいのか、わからなくなってしまっていると思います。

今ですらそうなので、これ以上時間が空いてしまったら、もっとわからなくなってしまう気がします。

もし、この文章があなたに届いているのであれば、きっと少なからずリアクションをしてくれていることでしょう。それはあなたの本心なのか、優しさなのか。俺には判断する術がありません。なので、きっと自分の都合よく本心だと思い込んでしまうことでしょう。

つい先日、面白い本を読みました。寂しいような悲しいような内容でしたが、どこか強く、微かに光を感じました。そんな微かな話でさえも、なかなか伝えられることができなくなったことが、僕たちの間に距離が出来てしまったことを、表しているような気がします。

まだまだ書きたいことはたくさんありますが、僕の少ない知識では、当てはめる言葉が見当たりません。ただ、この前読んだ本の言葉を借りるのであれば「当時はそんなこと微塵も感じられなかったし、気づくことなんてそこに居なくなってしまったずっと後になるだろう」だと思います。その状況下に居ると、感じられないことがたくさんあると思いますが、きっとこうして書いている僕のことを羨む僕も、きっと居るのかもしれません。

僕の言っていることが矛盾だらけで、何も軸を持つことができていないのは、充分に承知ですが、そんな拙い文章でも伝えたいほど、あなたに対するメッセージがたくさんあります。

たくさんあるにも関わらず、何も言葉にできずに、こうして書いている文章も的を射ることができずに、ずっと同じところを巡ってしまっています。

そんなことは自分でもわかりながら、どうしようもできずに、こうして重ねている文字が増えていくことに心を痛めてしまっています。

自分勝手ではありますが、ここで終わりにしたいと思います。お身体には気を付けて、何かあればいつでも連絡をください。いつでも、どんなものでも待っています。

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