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13 勇者の嫁の兄&親友による作戦会議

「えー、では会議を始める―」

 年長者ということでジークがみなに宣言した。

 場所は先生の店の奥。先生は店番しているので、場にいるのはジークとランス、シューリにあともう一人だった。

 彼女の名はフォーラ。先生の孫娘で、リューファのいま一人の親友である。三人とも同じ年で仲がいい。

 おっとりとしたお姉さんという感じで、黄色のストレートヘアを指先でくるくるさせている。

 リューファのイメージがピンク、シューリが白ならフォーラは黄色だ。

 ちなみにフォーラは祖母同様魔法の研究者で、「リヴァイアサンの稚魚を研究のために飼ってる友人」というのは彼女のことである。

「まずはみんな、集まってくれてありがとう」

 最年長者ということで音頭をとることになったジークが頭を下げる。

「大事な友達のためだからね。言っとくけど、ジーク、余計なこと言い始めたら速攻帰るから」

 シューリが釘をさす。

 ジークはあからさまにしょんぼりしたが、やむなしとあきらめたらしい。

「分かった。まず、城には報告済みだが、魔王が現れた件について説明しておく」

 真面目にクラウスと魔王の交戦について話した。シューリとフォーラも真剣に聞き入る。

「……というわけで、封印が緩んで思念体だけは飛ばせるようになったらしい。クラウスがかなりのダメージを与えたから当分出てこないとは思うが、油断は禁物だ」

「よそのアイテムまで回復のために狙ってるのか。どこまで話すかは考えるとしても、各国に警告しておいたほうがよさそうだ。陛下に進言しておく」

 近衛隊所属のシューリが言った。

 ひとしきり魔王対策会議をしたところで、本題に入った。

 これが本題じゃないのか。

「じゃあ、今日のメインに入ろう。リューファのことだ」

「婚約解消したんですって? ま、いつか言い出すんじゃないかとは思ってたわ」

 フォーラがおっとり言う。

「気づいてたんなら言ってくれよ……」

「あら。あの日に言うとは思わなかったわよ。水晶玉に面倒なことが起きるって出てたから、近寄らなかったけど」

 ランスが眉間にしわをよせた。

「警告くらいしてくれてもよかったんじゃない?」

「そもそもクラウス様が気づくべきことでしょ。大事な親友を悲しませたんだから、少し痛い目みてもらってもいいじゃない」

 ふふっと笑うフォーラ。恐い。

「気持ちは分かるけど、クラウスのやつ、見てられねーよ。王子が婚約者に好かれたいって必死になってるとか、どういう状況だ」

「今さらだね」

 シューリもたいがい冷たい。

「うん、まぁ……。でもさ、あいつもがんばってるぜ? リューファが鈍感すぎるのが問題なんだよ」

「それだけど、あそこまでベタベタされるの許してるのに、本当に自覚ないの?」

「ない」

 ジークとランスは同時に答えた。

「狩猟本能で逃げると追っかけてきてるだけだから、大人しくしてれば興味もうせる、だってさ」

「すごい理屈ね」

「僕らも複雑だよ。あれ見てるのは」

「……がんばれ」

 シューリがぽんぽんとランスの肩をたたく。

「リューファが大人しくしてる理由はクラウスも知ってる。それでも傍にいてくれるならいいんだってさ。もう泣けてくるよ。どんだけ不憫なんだ、あいつ。残念すぎる王子ってあだ名つけられるぞ」

「黄金のリンゴもあげたのに気付いてもらえないしねえ」

「あらら。『世界一美しい女神へ』って書かれてたっていう黄金のリンゴでしょ?」

 ギリシャ神話ではそんなエピソードがある。詳しく知りたい人は調べてみよう。

「クラウス様とっては世界一の女性にあげたのにね。それでどうしたの?」

「リューファにそれで装飾品作らせてつけさせるって。自分の瞳と髪の色の宝石入れて」

「そんなもんつけさせられるのがどういうことか分からないってなぁ……」

「私でも分かるな」

 シューリがあきれる。

「……ここまでリューファが気づかないっていうのは異常ね」

 フォーラがつぶやいた。

 ジークが手を打つ。

「異常といえばさ、クラウスが魔王と対峙した時の様子も変だったんだよ」

「どんなふうに?」

「闘争心むき出し」

「それは宿敵と会えばそうなんじゃないの?」

 シューリもフォーラもなにがおかしいのかと首をひねる。

「そういう意味の敵意じゃなく……なんていうかな、そう、好きな女がとられそうになった時の男の反応」

「は?」

 女子二人は顔を見合わせた。

「魔王は『招かれざる魔女』じゃなかった?」

「そうだよ。けどなぜかリューファをとられるもんかっていう感じだった」

「『勇者の嫁』であるリューファは浄化魔法の才能がある。弱点として狙われる可能性はあるわ。そういうことなんじゃないの?」

「うーん……戦法的にはそうかもしれないけど……」

「会ったばかりでリューファが浄化魔法使えるっていうのも、『勇者の嫁』だっていうのも分かるかな?」

 ランスがたずねる。

「『招かれざる魔女』が思念体を飛ばせるようになったのは今日が初めてじゃないでしょ。前から飛ばしてて、情報収集してたんじゃない?」とフォーラ。

「いや、知らないみたいだったよ。あれは知っててやった行動じゃないと思う。リューファが妨害魔法使ったら驚いてたし。だからこそ妙だと思うんだよ」

 フォーラは考え込んで、

「まさかと思うけど……『招かれざる魔女』が男性だってことはないかしら?」

「ええええええ?!」

 三人とも叫んだ。まさかの仮説。

「『招かれざる魔女』だよ。魔女って言われてるじゃないか」

「あくまで俗称よ。本名も詳細も分かってない。なにしろ昔のことだもの。シンデレラのガラスの靴やパンドラの箱みたいに誤訳……誤って伝わってしまったってことはありえるわ」

「『招かれざる魔女』が男なら、クラウス様が嫉妬心むき出しにしてたのも分かる……分かるけど、ずいぶんとっぴな説だね」

 ここにきての魔女男説。全員うなるしかなかった。

 会ったことは会ったが、思念体であって男女どちらかかも分からないほどぼやけていた。そこまでは力が回復していないのだろう。だとしてもすごい仮説である。

「魔王が嫁を狙ってるってなれば、あいつなにしでかすか分かんねーぞ。オレ、無理。逃げる」

 恥も外聞もなく、かっこよく逃亡宣言する長兄だった。

「『勇者』と魔王が嫁の取り合いとか……これ悲劇? 喜劇?」

「喜劇じゃないの」

 あきれてるシューリ。

 フォーラがまだ思案しながら、

「もう二つ気にかかることがあるのよ」

「なに?」

「リューファの鈍さ。あれはなにか意図的に恋愛感情を封印してるように見えるわ」

「意図的に? どうして?」

「理由は分からない。でもあそこまで頑ななのはそうとしか思えないわ。なぜだかはいくらきいても言わないでしょうね。……それと、もう一つはクラウス様の方も」

「あいつもか?」

 ジークがこれ以上はやめてくれと音をあげる。

「リューファの鈍感も異常なら、クラウス様の慎重さも度を越してると思わない?」

「思う」

「あれもなにか理由があって異常なまでに慎重になりすぎてたんじゃない? 嫌われるのが嫌だからって、度が過ぎるでしょ。自制心が強い人なのは知ってるけど、だからこそ恐いのよ。あんまり押さえつけるぎると反動がすさまじいわ」

 ジークとランスが、主君がブチ切れて大地をえぐったあの光景を思い出し、震えあがった。

「無理。僕も逃げる」

「それで発散されたんならいいけど、長年かかってたまってるでしょ。もっと別の形で爆発してもおかしくないわ。私はそれが恐い」

「俺も恐い。というわけでシューリ、オレと結婚してくれ。一緒に逃げよう」

 そろそろプロポーズしたい病が限界だったようだ。

 シューリがゆらりと立ち上がった。フォーラがのんびりと、

「シューリ、やるなら店の外でにしてね」

「分かってる。ちょっとツラ貸せジーク」

 男装の麗人はガタイのいい年上の男をひきずっていった。

 ドカー――ン。

 ジークがお空へ消えたところで、会議はお開きとなった。

 まさかその頃予感が的中し、『勇者』が爆発して嫁を無理やり結婚させてるとはだれも思っていなかった。

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