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エビスとBG  作者: アカイロトウマス
1/3

切っ掛けってこんなモン

エビスとBG


バイトの賄いが、来月から無くなる事になった。

賄飯が命綱のアタシにとっては生命を脅かすほどの決定事項だ。アタシは不安な気持ちを抱え夜道を歩く。

― バイト、変えようかな………。

頭の中から泡の世界が消えない。太陽の下で生きられなくとも、人工灯の下で生きてはイケる。

アタシは無意識に街灯に引き寄せられた。群がる虫たちが天女に見え、オイデオイデを繰り返す。その時、何かに蹴つまずいた。

膝の痛みと共に失っていた意識が戻る。

魔力を失った街灯に照らされたモノはゴミ置き場に倒れたスーツ姿の男だった。この状況で最適な事は何か? 財布をスル事では無い。

アタシは左手で男の襟首を掴みビンタをかます。

ビタ! ビタ! ビタ!

右! 左! 右! 

男は左頬、右頬と叩かれるたびにカックン! カックン! していたが目を覚まさない。― まさか死体? それともアタシがビンタで殺したか? 

周囲を見渡し目撃者の有無を確認する。アタシを見たのは「ダメ!絶対」と書かれた赤い目だけだ。この歌舞伎役者ならば問題は無い………。

その時、男がフニャらな声を出す。

「大丈夫ですか~?」

優しーく、ヤラシーク尋ねるアタシ。お伽話でノビた王子の目覚めをモノにして、のし上った魚人がいたハズだ。

「す、捨てないで………」

「それは構いませんが、あなたはお金持ちですか? 」

その問いに答える前に再び動かなくなった男。動かなくなる前に「カクン」と動きがあった事をアタシは見逃さない。

“頷き”と判断したアタシは、黒いネクタイを引っ張り夜道を進んだ。荷物を引きずりながら相棒のスグルを思う。

スグルは肉体のパワーアップに余念が無い。

ビリーザブートキャンプ+腹筋400回を日課としている。髪は長くハゲでは無いが、色黒の肌が放つ光沢は隊長と同じ輝きである。

疲れ、汗で濡れた体を振り絞り、外付けの階段を上るアタシ。上り切ったら、このアパートに不似合いな緑色の扉を開け、荷物を放り込んだ。

アタシは荷物を踏み越え部屋に入る。

窓を開けると、風に運ばれるアエギ声でアタシはハタと気がついた。

― 男と、女だ。

再度、男を踏みつけ護身具を取り出した。ヒールの尖りを確認し男を見ると、足元の男からは王子様としては不審な点がいくつも確認できてしまった。

「シ。メ、シ………」

― シメシ? ああ、飯か。

諦めていないアタシは虎の子のカップラーメンを取り出す。でっかく『BEN』と書かれた蓋を開け、湯を注ぐと今度は匂いが部屋の中を漂った。

匂いに反応してか男は痙攣を始め、痙攣は激しさを増す。で、窓からの“いっちゃう!”って声と同時に男は起き上がった。

そのままラーメンをひったくると、熱さにも表情を変えずに一気に喉へと流し込んだ。

「ふー。お代わり」

男が言葉を発す。その瞬間、アタシはサンダルを叩きこんだ。


スグルと男の出会いは過激だったそうだ。

深夜に帰宅し、聞きなれない物音に気付いたスグルがトイレを開けると、尻を出している男を発見した。

すかさず蹴るスグル。

キアンプトレーニングで鍛えられた右足はしっかりと板張りの床を握り、蹴りだされた左足の踵は正確にターゲットに突き刺ささった。

放尿中は他の行動をとるのが難しいらしく、爆睡していたアタシが起きた時、男はスーツでは無くピンク色のジャージを着ていた。

昨夜は気がつかなかったが、お釈迦様のような赤い膨らみが額に見える。

「BEN、おっさん拾ってくるなんてさすがね。稲中のジョーみたい」

今日のスグルの第一声だった。晴天なのに、朝から雲行きが怪しい。

「こんなモノ、汚いだけで一円にもならないわ。止むえずジャージ貸したけど、あれ廃棄処分よ」

思春期少女のように拒否反応を示すスグル。

オカマ言葉の悪態に溜息で答え、アタシは昨夜の出会いを話した。

「普通、無視するわよ。王子様なんて宝くじの一等賞より少ないんだから」

アタシ達は男を見た。

爆発頭とピンクジャージは林家ピンク色師匠のように似合う。何となく、冴えない感じも同じだ。

再び訪れる沈黙、高まる緊張感。アタシは決心した。この状況はアタシが変える! だって原因はアタシだもん。

「待った! この勝負、アタシが預かった! ところであなた誰? 」

ずいぶんと時間がかかったが、やはり相手の名前は真っ先に確認すべきだ。

「俺、BGといいます」

「それで、BGさん。何で倒れていたの?」

アタシはまだお金持ちを諦めていない。

「腹減って倒れました」

あっさり、トラの子を無駄にしたようだ。アタシは決着に入る。白黒つけなきゃスッキリ出来ない。“ようだ”ではフォース不足だ。

「BG。あんた、お金持ち? 」

「いいや」

即答。

阿吽の呼吸は何かしら共通のものを意味する。尤も、アタシ達の共通点なんて言葉にはしたくない。

「最後に年齢を」

「3331歳です」

「もう充分です」

コレが沈黙の合図となった。無空間とも思われた沈黙の部屋にノックが響く。

同時に叫ぶBG。

「静かに! 」

デカイ声だったので外にも聞こえたはずだ。そうでなくとも窓は全開、壁は薄い。

「すみませーん。新聞屋でース」

BGは首をブンブンしているが居留守は無駄だ。お前は馬鹿だ。アタシは声を出す。

「なんですか? 」

「鷽月新聞でース。勧誘に来ました」

こんな時間の勧誘と嘘臭い新聞社名。こいつは怪しすぎる。

「結構です」

「そんなー、挨拶だけでもさせてくださいよー。洗剤あげるから~」

新聞屋はドアをガチャガチャする。この行為にスグルも叫ぶ。

「イラナイヨ!シツコイオトコネ! 」

爆発頭の大馬鹿は伏せたまま「黙って、静かに」を繰り返している。

その時、ガチャガチャされていたドアが開いてしまった。暴漢の侵入は非常にヤバイが、アタシ達には余裕があった。

鍵の掛ったドアぐらいスグルも開ける。ドアが緑色なのはその為だ。

「コノヤロー! 神妙にせい!」

防衛ラインを突破した新聞屋はスーツ姿のアニキだった。部屋に入り、アニキの態度が一変した。

「おらおらおらおらおらおらおらーーー」

「イッチバーン! 」

オラオラアニキをスグルが素早く迎え撃つ。馬鹿は未だに「静かに、黙って」を繰り返したままだ。

スグルの迎撃はアニキの想定外だったらしく、アニキは剛腕ラリアットをまともに喰らった。

「ピー」

病的な悲鳴をあげてアニキは吹っ飛んだ。

「今だ、今だ! 」

連呼して嬉々と逃避するBG。アタシ達もつられて部屋から飛び出した。

得物を掴み、逃げ出すアタシにアニキの咆哮が届く。

「うーっ、見つけてやる!必ずだーっ!」

妹の仇を誓う様にアニキは叫び続ける。

数分後、先頭を駆けていたBGが立ち止まった。はあはあと息を吐くBG。その姿を見ながらアタシとスグルは顔を見合せる。

眼でかわす二人だけの会話。

「知ってる? 」「知らん」

あのアニキをアタシ達は知らない。とすれば、コイツだ。

「BG、あの人誰? 」

「ああ、エビスだ」

「アンタの知人かい?」

「まあな………」

厄介者とはコイツの事だ。

「そのエビスさんとはどうゆう関係? 」

「あいつは俺を追っている」

「それは分かった。何でアンタを追いかけているのよ? 」

相棒の褐色の筋肉が、朝日を浴びて眩しく光る。

眩しさに眩んだのか、目を細めたBGはすんなり話し出した。

「俺は『エブリバディ・ハッピー・プレゼント・サービス』に所属していた」

「鷽月新聞の関連会社ね」

「ちがう。鷽月新聞社はダミー会社だ。EHPSは社会のバランスを取る事を役割とした集団だ。人間社会は不平等に出来ている。そう感じた事は無いか? 」

「アルヨ。イツモソウネ」

アタシも頷く。

アタシは自分で言うのも何だが下手なアイドルより可愛い。なのに現実は………なんでだ!

「不平等。均一でない。同じでない。あいつの方が恵まれている。アタシの方が可愛い。等々………。このような状況をどう思う? 」


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