第8話 段々畑だよ全員集合
今日は凄いもの見ちゃった。段々畑だよ。もー、山の上から下までずーっと。旅の道連れ州知事のおっさんによれば高さによって作物の種類は違うらしい。へえ。トウモロコシは下、ジャガイモは上、とかそんな感じかな。びっしり石が積み上げられていて、「日の御子様」のお力がいかに行き渡っているか分かる。
それでもって、みんなよく働くの。小さな子供まで。土地も作物もすべて「日の御子様」のものであって、私有は認められていないけどね。でも貧乏な人なんていないって。親のない子供でも、働けない年寄りでも、周りの人がちゃんと助け合うって。いいよね。凄いよね。
これで美味しい果物と、美味しいお肉と、ついでに美味しいお魚なんてあれば言うことなしかな。いやいや気候はちょっといただけないかも。日中の日差しはきついのに、朝夕は寒い。北州で着ていた木綿の貫頭衣では寒くて、毛織り物なしでは辛い。
空は、青い、というより群青色?とにかく北州の空よりもずいぶんと濃い色をしている。でもきれいだと思う。虹なんか出たら神々しいだろうね。山道を歩きながら空を見上げる。
「お嬢様、どうぞ」
「小鳩」が私の好物の炒った落花生を差し出す。一緒に旅をしていても、「小鳩」のことは今ひとつよく分からない。とにかく無口な女性なの。分かっているのは「大顔」の姪だということくらいかな。似てないねえ。彼女は私が神殿に入ったら北州に戻る予定。夫と子供が待っているからね。落花生を食べながら、「小鳩」に話しかけてみる。
「小鳩はさあ、この旅をどう思ってる?付いてきてもらって、迷惑だった?」
「とんでもないことです。毎日新しいものを見て、初めてのものをいただいて、楽しゅうございます」
そんな風に見えないから尋ねたんだけどね。「小鳩」は毎日が死ぬほど退屈だったと話し始めた。恋人に振られて、適当な人と一緒になり、子供もいて、食べるには困らない。でも退屈で仕方がなかったと。このままずっと旅していたいとまで言い出した。ちょっと、待ってよ。
「そんなこと、無理と分かってはいるのですが、望んでしまうのですよ」
「小鳩」は寂しそうに言った。