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働きたくないで魚ざる  作者: 水燈
王宮バイト編
5/17

5話 二人の兵士

 声のした方を見れば、兵士が二人こっちに向かって泳いできた。

 先程いたやつらとは違う、茶色い髪をした初級兵の人魚と、その後を黒い髪をした訓練兵の人魚が追う。


「これは……盗まれた王冠!? 見つかったのですか!?」


 俺の顔と盗まれた王冠を交互に見ながら、上官に話すような喋りで訪ねてきた。俺兵士ですらないのに。


「今お前らの仲間が犯人を追っかけ回してるよ。まあ捕まえても何か分かるとは思えないが」


 捕まえた! さあ吐け! って言っても吐けるのはスミぐらいだろうしな。


「しかし、これを見つけて頂いただけでも大手柄ですよ! お見事です!」

「どうも」


 茶髪の人魚が黄色い尾を振りながら興奮したように褒めやがる。黒髪の白い尾の方は何も言わない。それは良いとして。

 俺は辺りを見渡した。彼ら以外、視界に兵士は映るがどれも遠くの方で忙しそうに泳いでいる。この場所にいるのは俺達三人だけとなる。興奮冷めやらぬ黄色い人魚が、両手を俺の前に突き出した。


「早速、副隊長にお持ちしましょう!」

「ああそうだな。確か会議室にいるんだよな?」

「はい! 他の上級兵の方々も集まっております」

「そうらしいな。ちなみに、俺が来てることは皆さん知ってるはずだから、一緒に行っても怒られたりしないよな」

「はい! 俺達は勿論、皆ニコラスさんが無事事件を解決してくださると信じておりました!」

「本当か! そりゃあ嬉しいなあ。




犯人にそこまで褒められちゃあ」


 俺は剣を抜いた。


「――え? ま――!!」 


 俺の刃を、黄色い人魚は腰に差していた剣で止めた。惚けようとしたようだが、そんな暇がないと察したのだろう。


「……ご自分が何をなさっているが分かっているのですか?」

「お前、『末』の初級兵士だろ」


 胸に描かれたマークに俺が尋ねた。しかし返事は求めていない。


「俺が来ていることはお三方以外は知らない。何故お前等が知っているんだ?」

「それは……偶然知った奴から聞いて……だから皆知っていると勘違いしたんです!」


 もう一人の白い人魚は動かない。あわよくば、このまま俺の勘違いで通すつもりのようだ。

 左手にある王冠をしっかりと抱えながら黄色い人魚を見た。


「名前は何だ?」

「……クラベルト初級兵です。それよりも早く剣を」

「よし、クラベルト。『末』から鍵をパクってあの蛸に持たせたのはお前だな」

「……」

「合鍵でも使ったか。いやそれより、ずいぶんと賢い蛸だな。言葉を理解する魚は喜ばれるが、食欲が減るから俺は好きじゃない。あれもそうなのか? それで後で回収しやすいよう、宿舎裏に隠すよう言ったのか?」

「だから! 俺じゃあ」

「クラベルト初級兵」


 俺は笑った。


「その殺気は兵士じゃないぞ?」


 そう言ってる途中、後ろに回り込んだ白い人魚が凄まじい殺意を放って俺に切りかかってるなあと感じた。勿論避けた。

 すぐさま白い人魚の横に並んだ黄色人魚ことクラベルト君の顔は、先ほどの殺気にぴったりの顔をしていた。剣を構えた二人を交互に見る。


「いつからお気付きに?」


 クラベルト君は笑って質問する。良い質問だ。


「お前らが泳いできた時からとっくに……と、言いたいとこだが、俺が王冠持ってるのに気づいた瞬間、『クソッタレ』みたいな面してたからカマかけてみた。大成功」


 腕に王冠を通しピースサインをしながら、さりげなく愛刀を握る位置を確認する。

 正直、ここは逃げるべきだと思う。何故かは知らないが目的は王冠だ。これを持ったまま戦うのは面倒すぎる。

 しかし、こいつ等の階級と力は比例していない。訓練兵ぶった白い人魚には、スピードも戦闘のセンスもあると思われる。クラベルト君よりこっちの方が危ない。追いつかれるとか以前に、背中を向けたら最後、得物をブン投げられてやられる。避ける自身はあるが、避けてスピードダウンしたところをクラベルト君にギャーされるのがオチだ。

 何よりも、兵士の所まで逃げ切って助かったにはならない。兵士姿のこいつ等と王冠を持ったフリーター。「そいつが犯人だ! 捕まえろ!!」とでも叫ばれてみろ。詰む。

 俺が来ていることを知らされていないのが裏目に出ている。いや、顔知られてないんだから結局は同じか。


「ニコラスさん。大人しくそれ渡して頂けませんか?俺等、結構急いでいるんですよ。ほら、侵入者を捕まえなきゃいけないので」


 白々しい。白々しいぞクラベルト君。今ここでその台詞をいうのかクラベルト君。やれやれのポーズが癪に障るぞクソ野郎。


「その混乱に乗じて逃げるつもりだろ、真犯人。何故これを欲しがる」


 傷も多く、宝石も一つ外れているが、素人目でもかなりの値打ちと分かる代物だ。その手の人魚に売れば本当に働かなくても済む。

 しかし、元は人間の王の物だ。だから国に納めた(と、かつて話しあったのをさっき思い出した)。この王冠の故郷が滅んだかどうかは知らないが、船の朽ち具合からかなりの年月が経っていた。いくら貴重な物とはいえ、何でそんな物を今更と言ってしまいたくなる。


「俺が欲しい訳じゃないですよ。あ。勿論こいつでもね。とあるお方がどうしても必要だと」

「どうしてここにあると知っていた」

「さあ? 雇われただけなので」


 これ以上教えてくれるつもりはないようだ。示し合わせたかのように構えてくる。

 ……よし。ムカつくから、戦おう。

 王冠を回収する為に、不信生物の蛸は囮も兼ねていたようだ。今、視界のどこにも兵士は見えない。

 兵士が来たらアウト。コイツ等に倒されても勿論アウト。やっつけるなら兵士がやって来る前でなければいけない。早めにケリをつけなければ。

 奴らは同時に海水を蹴った。

 最高なのは、リューかアーガス殿が最初に来てくれることだ。

 頼むぞ。


―――――


同時刻:中庭上海。リュート


「誰か! 副隊長に知らせッ、グエッ!!!」

「リュート中級兵!!!」

「そっちに行ったぞ!! 待ちやがれえぇぇええ!!!」


―――――


同時刻:会議室。アーガス


「ぶぃっくしゅ!」

「副隊長。よろしければこちらをお掛けください」

「ああ……済まないね。ハル上級兵は見つかったか?」

「……申し訳ありません。未だ捜索中です」

「またか。しかたない、会議を始めるぞ!」

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