2話 王宮調査
城は鳥籠とやらのように覆われている。
大昔、街もそれと同じように囲われていたが、他の国と争う事をしなくなった為撤去されたそうだ。
サメは大丈夫かと心配されるが、奴らは結構臆病なため、以外と問題ない。
いくつかの門のうち、俺達は正門から入った。柵なしのまっさらな状態で城を見るのは訓練兵士として以来だ。
「大きさは?」
「人魚と変わらんそうだ。だが、人魚じゃないと言っている。黒い何かだと」
一応俺の意見も言っとくか。
「んー、王族御用達の抜け道」
恐らく王族用に外までこしらえた抜け道があるだろうが、まあ、そこから入られたんじゃないかと予想してる。
「御用達の意味間違ってんぞ。だが俺も思ったよ。問題はどうやって見つけたか」
「教えてもらった。とか」
俺の軽い言葉にキレる事もせず、真剣な返事が返ってくる。
「考えたくもないな。それが事実なら、その生物に宝を盗ませた内通者がいることになる」
「抜け道を知ってる奴は?」
「限られた中級兵以上の兵士だけにしか知らされていない。俺も知らない」
「お前も中級兵なのに」
「半月足らずの小魚に教えられるはずないだろ。まぁ、俺の隊の上級兵はとても温厚な方で、よく俺にも気をかけてくださるんだ」
「上級兵と言やあ……誰か辞めたんだったか」
「ああ……先月ペテル元上級兵がな。今上級兵は九人で、必ず十人で編成されるから、王が御帰還次第、彼の部下から正式に決まるだろうな」
隊長一人>副隊長一人>上級兵十人>中級兵分からん>初級兵プランクトンぐらい。これが兵の階級だ。副隊長は隊長の補佐および代行を務める。
中級兵と初級兵はそれぞれ十等分されており、上級兵が上司としてまとめる。中級兵や初級兵にも班長だか番長的なのがいた気がするが、俺が知るわけがない。
現在お出掛け中の王様の付き添いは、隊長と上級兵三人と、代理以外の部下達だ。
どっかの国で会合する為、ド派手に出発された。おかげで早くに目が覚めた。
「候補はもう決まってるんだろ、だったらさっさと決めれば……ん?」
城の扉まで半分というところで、花壇に植えられた鮮やかな海草の傍で、侍女が二人、声を潜めて何やら話しをしていた。
謎の生物の話でもしているのかと思ったが、俺の顔をチラチラと見ている。
前職で少しばかり有名になったから……恐らく働いていないことが筒抜なのかもしれない。だとすると、働いてないことをネタに……
そこまで考えて、考えるのを止めた。働きたくなくて働かなかったんだ。その通りなんだから好きに言わせればいい。
「どうした?」
「いや」
「じゃあ、最後に目撃された場所に行くぞ」
開けてもらった扉を潜り城に入ると、見事な内装に感嘆した。
左右対称の玄関ホール。装飾に使われているサンゴや貝は見るからに質がいい。品種改良されているのだろう。
辺りを泳ぐアンコウは、一般に売られているアンコウライトとは比べ物にならないほど、暗くなりやすい室内を明るく照らしている。
「光が強いな」
「市販のとは種類自体違う希少種だからな。こっちだ」
しばらく黙って後を着いていくと、長い廊下の途中の扉で止まった。
見張っていた中級兵と相互確認したあと、彼等が開けてくれた扉は下に向かって段々と伸びていた。
「……地下牢?」
「違う。それは宿舎の方だ」
「てかさっきから思ったが『階段』なんて造って意味あるのか?」
「……まあ……あるだろ。何か」
玄関ホールにあった階段を目にした時も思ったが、装飾やアンコウのほうが気になったので敢えてスルーした。結局突っ込んだが。
俺の言葉に何とも言えない顔をしながら確かにと納得しかける兵士三人のせいで、俺まで気が抜けそうになった。
「何があるんだ?」
「宝物庫だ。俺達が国に納めた宝もここにある」
「……え? いつ献上した?」
「仮病野郎は黙ってろ」
そんなリュー君の冷たいお言葉の後、再び説明される。
一時間程前、見張りの交代に来た奴等が地下を確認しようと扉を少し開けたら、一瞬で何かが飛び出して泳ぎ去ったらしい。それで調べてみたら宝が無くなっていた、と。
一体どうやって入ったんだと思ったら、見張り中の兵士の一人が宝石を見つけて持ち場から少し離れたんだと。それに気を取られてもう一人も目を離したのだろう。単純だが結構騙される手だ。
淡い光を放つ珊瑚に照らされ下に向かって泳ぐが先は見えない。こんなに距離があって面倒じゃなかろうか。
「上の見張ってる扉も鍵かけりゃあ良いのに」
「交代の時、見張りに来た奴が下まで降りて確認するんだよ。それにそこまで厳重じゃあ、大事なものありますって言ってるようなもんだろ」
「見張りつけてる時点でそうだろ。それに城は誰も入れないのが前提だろが」
「侵入者ではない。城の関係者だ」
第三者の声にふり返る。上から無精ひげの男がのんびりと降りてきた。俺と同じ黒目に黒髪だが、髪は白髪が混じっている。尾は茶色だ。
俺はコイツを知っている。
「当然だが、このように厳重にしておく必要がある場所には、上級兵が選んだ信頼できる中級兵が宛がわれる。それなのに侵入を許した」
リューが敬礼する。俺は、勿論しない。
「ここはゼロ上級兵の管轄だが、ひとまずシシィ上級兵に任せている」
……つーことは、さっきの中級兵はシシィとかいう奴の部下か。いや、そんなことより。
「部外者にそんなペラペラと。よろしいのですか?」
「私が君を呼んだんだ。ああ、聞いてないのか」
「聞きました」
リューに顔を向けたと同時に早口で答える。何となくリューを、名前を出したら来ないだろうから黙って連れてきた奴だと思われたくない。
「お久しぶりです。アーガス副隊長」
十年前、俺を軍から追い出したコイツには。