すいません、そこは同棲ってことでどうすか。
センターが終わった記念に、3つの作品を1話ずつ更新します。これと、サスペンス&バトルの『民間委託型犯罪撲滅捜査官、略してトクソー』と、長らく完結扱いにしてきた、『魔導書使いの調伏師』の3つです。お暇があれば、どうぞ。
「ちょっ、ちょっと待って?そんなの、信じられるわけ…。」
不老不死よ?そんな非科学的な…。第一、そんなのがいたら、今頃大ニュースに…。
「もー、うるさいなぁ。事実僕は飛び下りたんだよ?しかもお姉さんの目の前で。信用してほしいなぁ。」
「でもっ…。」
ウーウウーウーウーウー ウーウウーウーウーウー
けたたましくサイレンが鳴り響く。
1台のパトカーが猛スピードで走ってきて、急ブレーキをかけて、伊織の隣に止まった。
「くぉらぁ!!またてめえか、伊織ィ!!!」
耳をつんざくほどの怒号が辺り一体を震わせる。
モン○ンのハンターがティガレックスと戦ってる時って、こんな気分なのかしら?
怒りの主は、50代くらいの、頑固親父を絵に描いたような刑事だった。
「うるさいなぁ。また誰かが通報したの?」
「あったりめえだ!!ビルから飛び降りて、辺り一帯に血を撒き散らしといて何言ってやがる!」
刑事の言う通り、辺り一帯はトマトジュースを樽ごとぶちまけたのかってぐらい、見るに耐えない状況になっていた。それに鉄臭い。あの、小銭を握り締めた後のような、不快な臭いが鼻の粘膜を容赦なく攻撃してくる。
「ったく、業者呼んで手続きして、調書書いて上に報告して、全部俺がやらなきゃなんねえんだ!おう、俺に何か言うことがあんじゃねえか!?伊織!」
刑事の怒りは収まらない。それもそのはず、怒られている当人であるはずの伊織に、全く反省の色が見られないのだ。
「僕がお願いしてるんじゃないもん。嫌なら放っておけば?」
ブチッ!
比喩ではない。本当に、ブチッという音がしたのだ。血管だろうか、筋繊維だろうか。どちらにしても体に悪いことは明白である。
「じゃかあしい!オラァ、さっさと乗れぇ!詳しいことは署で聞く!それと、そこの姉ちゃん!」
「はっ、はいっ!えっ、私?」
ほったらかしにされていたので、もう帰ろうかと思っていた矢先に、お呼びがかかった。
「わりいが、あんたにも話を聞かにゃならん。署まで同行願えるかい?」
良かった、何もしてないのにブタ箱に入れられるのかと思った。この剣幕じゃあ、私の話をまともに聞いてもらえるのか怪しいし。
「あ、分かりました。ちょっと待ってください、会社に電話します。」
プルルルルル プルルルルル
「あ、もしもし?柊です。あ、美里ちゃん?ちょっと用事ができて…。」
数分後_
「うん、うん。じゃあ今日はもう直帰ってことで…。うん。じゃあまたね。」
ピッ
「話は済んだかい、さっさと後部座席に乗ってくれ、出発するぞ。」
「あっ、はい。」
怖いおじさんだなぁ。ウチのお父さんみたい。あんまり得意なタイプじゃないなあ。
パトカーを走らせること、10分_
「着いたぜ。ちゃっちゃと取り調べするぞ。姉ちゃんは別室で待っといてくれ。」
そういって、刑事と伊織は連れだって消えていった。
私は女性警察官の方に連れられ、会議室のような場所で二人を待つことに。
10分後_
「すまねえな、待たせちまって。」
会議室に、さっきのおじさん刑事がやって来た。
「いえ、あの、彼は?」
「ああ、おい、入ってこい。」
「ふぅ~。源さん、お茶。僕、喉乾いちゃった。」
「あ?ったく、しょうがねえな。ほら、自分で買ってこい。」
刑事さんが、伊織くんに小銭を渡す。何だかんだ言っても、最後には甘やかしてしまう、おじいさんと孫みたい。
「ええ~。面倒だなぁ。」
「嫌ならやらんぞ。」
「もう、源さんのケチ~。」
「うるせえ、この野郎!」
「あの…。」
置いてきぼりにしないでよー。こっちは、突然連れてこられて、訳分からないんだから~。
伊織くんは、そんな私を気にするそぶりもなく、自販機を探しに行ってしまった。
「すまんな。アイツはああいうやつなんだ。」
「彼って、いったい何者なんですか?飛び降りたのに死なないし、飄々としてて、掴み所もないし。」
「アイツは伊織。本名かどうかも分からん。アイツは、自分のことを語ろうとしねえからな。案外、本気で忘れちまってるのかもな。」
カチッカチッ
おじさんは、タバコに火をつけながら語り始めた。
「あの、ここ禁煙…。」
「細けえことはいいんだよ。で、何の話だっけ?」
「伊織くんが、何者か分からない、ということだけ分かりました。」
「おお、そうそう。だが、これだけははっきりしてる。アイツは、俺たちとは違う。得体が知れねえ。」
おじさんの言葉には、トゲがある。単純に口が悪いのだろう、悪気もなさそうだし。
「ひどいなぁ。長い付き合いなのに。」
いつのまにか、伊織くんが帰ってきていた。
「帰ってきたのか。このまま、ふらっとどっか行っちまうかと思ったぜ。いつもみてえに。」
「僕は、きまぐれなんだよ、知ってるでしょ?源さんとは、もう何十年の仲だし。」
ん?何十年?伊織くんって、いったいいくつなの?
「伊織くんって、歳は?」
「そうだねえ、忘れちゃったなぁ。少なくとも、いとおかしって、言ってた時代から、生きてるかな?あの頃から、こんな姿だったけどね。」
少なくとも、1000歳以上!?青年みたいな見た目なのに。信じられない。
「こいつは、不老不死なんだよ。まあ、さっきのを見たなら、分かるだろうけどな。」
あのスプラッタは、忘れようと思っても、忘れることはできないだろうなぁ。衝撃的すぎるもん。
「何で、そうなったのかは、分かんないけどね。生まれたときから、そうだったんじゃない?」
アハハ~と笑いながら、話してるけど、結構すごいことだよ、伊織くん!
「けっ、見た目もちっとも変わらねえしよぉ。」
「源さんは、小皺が増えたよね?」
「うるせえ!」
子供か!さっきから子供か!目の前でうるさいよ、いい大人が!
心の中で盛大にツッコんでいると、
「さて、相談なんだが…。」
急に真面目な顔をして、おじさんが語り始めた。
「こいつを、引き取ってはくれねえか?」
「はい?」
寝耳に氷水ぐらいの勢いだ。急に引き取れだなんて、捨て犬じゃないんだから。
「こいつは、今は住むところもなく、仕事もせず、フラフラしてばっかりでよ。このままじゃいけねえってんで、あんたに、色々教えてやってもらえねえか、とね。」
「いやいや、おじさんが引き取れば、万事解決でしょ?長い付き合いなんだし。」
「いやだね、めんどくせえ。大体、俺には家族がいるんだ。無理に決まってるだろう。」
私だって無理だわ!この自己中!
「なあ、頼むよ。」
「あのですね、これは、その…いわば同棲でしょ?お金もかかるし、何より、伊織くん本人が、嫌がるでしょう?」
そうよ。彼氏いない歴イコール年齢の私には、荷が重すぎるのよ。伊織くんだって、嫌に決まってる。それなりに容姿には…いえ、かなり容姿には自信があるけど。あくまで比較級よ?周りの人に比べて、だけど、かなり美人だし、スタイルもいいと思う。でもやはり、彼の好みもあるし…。って何考えてんのよ、私!
「ボクは別にいいけど?」
「はえっ!?」
「お姉さん、面白いし。それに、地面で寝るの、飽きちゃった。」
「というわけだ、頼んだぜ?姉ちゃん。」
おいおい、なんだなんだ。私の意見は完全無視か。でも、断れる人たちじゃない。ええい、腹くくったら!
「分かりましたよ…。でも、これだけは言っときます。伊織くん、私はあなたを、常識ある人間にしてみせます!」
「やだ。」
ちょっとぉ!?なに、即座に拒否ってくれてんのよ?
「今更、変わるわけないじゃん。大体、ボクは早く死にたいの。やるだけ無駄じゃない。」
「あーもー!また、そんなこと言って!そんな子に育てた覚えは、ありませんよ!」
「育ててもらってないし。」
「何か…親子みてえだな…。」
「「違うッ!」」
「お、おう…。でもよ、てめえが声を荒げるなんざぁ、いつぶりだよ?ちったぁ、感情取り戻してきたんじゃねえのか?」
「…。違うし。」
伊織の目は、なんだか悲しみを浮かべているように見えた。
「じゃあ、こいつのこと、よろしく頼むぜ。」
「はーい…。送っていただき、ありがとうございました。」
「じゃあね、源さん。」
「迷惑かけんじゃねえぞ?」
ブロロロロ
源さんは、車で私たちを、家まで送り届けてくれた。私たちは部屋に戻り、電気をつける。
「伊織くん、ここに住む以上は、私の言うことに、従ってもらいます。そのつもりで…って!なに勝手に冷蔵庫開けてんのよ!」
「いいじゃない、喉乾いたし。これだから、生きるのはイヤなんだ。あ、この中で眠れば、死ねるかな?どう思う?」
「うるさーい!!そんなこと聞くなぁ!!」
これからの生活に、一抹どころか、百抹千抹の不安を覚える、綾乃であった。