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商人を舐めてはいけない


 口から心臓が飛び出るかと思った。

 落ち着け、まずは落ち着こう。

 トムは答えなくてもいいと言ってた。

 でもなんか喋らないと肯定と思われるな。


「どうしてそう思ったか聞いても?」


「まず一つ、君は記憶喪失らしいが、それなのに以前の記憶についてまったく興味がないどころか、自分の身元を調べようともしない。色々考えてみたけど、この場合最も可能性が高いのは、記憶喪失ではない、だろうね」


 ごもっともー。


「続いて君の魔術だが、あれはきっと魔術ではないと思う」


「というと?」


「魔術は万能ではない。魔力を使った技術であって、法則がある。三本の矢を作って魔力切れ、これはまあいいとしようか。だが次の日にはナイフや金貨を作り、身体強化までやってのけた。矢三本分と同じ魔力量なら、ナイフ一本も作れはしないはずだよ」


 俺は今、名探偵に追い詰められていく犯人の気分だ。

 あいつらなんで最後は自白しちゃうんだ?といつも思っていたが、今なら理解し合える。

 この追い詰められていく気分はしんどい。

 早く楽になりたいとさえ思ってしまう。


「そのことから、君のさっき言った、魔術は一日三回。これは本当なのだろうね。だがその三回は使用する魔力量に関係なく、三回」


「そして、君が馬車でパズにした質問」


 俺なんか言ったっけ?


「確かこうだ。『パズさんって魔法使えます?』」


 …この男、なんちゅう記憶力してやがる。


「君の使っているのは魔術ではない。魔法なんだろう?」


 今、ふと恐ろしい考えが浮かんだ。

 まさか、トム、あんた、サバイバーじゃないだろうな?

 少し探りを入れてみる。


「異世界人はみんな魔法が使えるんですか?」


 ちらりと出口を確認。

 扉は閉まっている。

 剣は受け付けに預けてしまった。。


「この世界には、わかっているだけでも、過去二回、異世界人が大量に現れたことがあるらしい」


 思い出した、確か、第三回なんちゃらかんちゃらって最初に言ってた気がする。


「異世界人は不思議な力、道具を持ってして、異世界人同士で殺し合ったらしい。彼らの力は凄まじく、また多様であった。そして時にはこの世界の住民にも牙を向けた」


 ゴクリ。

 ほとんど喋っているのはトムなのに、俺の喉が渇く。

 そういえば、この紅茶飲んじゃったけど、毒とか入っていないだろうな?


「その中には、魔法使い、を自称する異世界人がいた」


 トム、恐ろしい推理力だ。


「という噂だね。僕も実際に見たことがあるわけじゃないから」


「質問に答える前に、一ついいですか?」


「どうぞ?」


 俺はフーと息を吐き、聞かなければいけない質問をした。


「トムさんは、異世界人ですか?」


 緊張度MAXの俺を尻目に、トムは笑って言った。


「僕は正真正銘、この世界の住人だよ、なんならいろんな人に聞いてみるといい」


 そんなアホな質問したらこっちが疑われるわ!

 でもまあ信じよう、トムは王都に来るまでに俺を殺すチャンスはたくさんあったはずだしな。


「信じましょう。トムさんの言う通り、俺は異世界人です」


 言っちまったよ。

 俺の負けだよ、名探偵トム。

 自白でもなんでもしてやんよ。

 ル~ルル~ル~。


「ですが、このことは他言無用でお願いします」


「それは勿論、約束するよ」


「トムさんって実はすごい人なんですか?」


「ハハッ、商人は情報量と人を見る目が大事だからね」


「俺が異世界人ってばれると、何かマズいことってありますか?」


「基本的に異世界人の情報は昔から隠されているみたいだからね、一部の人しか知らないみたいだけど、貴族や王族に伝わったら、何かしらの動きはあるだろうね」


「というと?」


「異世界人は稀に貴重な最先端の技術や情報を持ってるんだ。キラ君は何かないの?」


 俺は少し考えてから、


「ないですね。」


 と苦笑して答えた。


「建築技術とか、薬の調合方法とか、なんでもいいんだけどね」


「そうゆー専門知識を持ってる人って、異世界人でもかなり少ないと思いますよ」


 ニコニコ顔ポーカーフェイスのトムさんが、少し残念そうな顔をした。


「そんな残念そうな顔しないでくださいよ、もしかしてなんか期待してました?」


「まあ正直期待してたね」


 とトムが笑う。

 でもトムの狙いや思惑が少しわかってきた。

 彼は俺を利用して金儲けがしたかったのだ。

 さすがは商人。


「でも収穫はあったよ。君が魔法使いだとわかったからね。王都を囲む壁は見ただろう?」


「あんなの嫌でも目につきますよ」


「あれは魔法で作られたらしい」


「!!ってことはもしかして!」


「おそらく君の魔法で作った物は消えないと思うよ。それどころかもっと大規模な物も作れるかもしれないね」


 なんと!!


「そこで僕から提案があるんだ」


「なんでしょ?」


「君の悩みの解決に力を貸そう。その代わりに、たまにでいいから、僕のために魔法を使ってほしいんだ。勿論、この件は君と僕の二人だけの秘密だ」


「悪くないんですけど、その前にトムさんが知っておいた方がいい情報があります」


「何かな?」


「異世界人は全部で百人いるらしいです。そいつらはみんな変な神様から不思議な力をもらってるはずなんですけど、その目的はサバイ……異世界人同士百人で殺し合いをさせるためです」


「神、か…。その殺し合いは、絶対に避けられないのかい?」


「神は、俺たちが殺し合いを続けるように、ルールを追加することがある、と言ってました。最初の追加は一年後だそうです」


 願いが叶う、という部分は隠しておこう。


「ルール?どんなものかはわかるかい?」


「異世界人同士がお互いを認識できるように、だったかな?」


「なるほど、つまりこの一年の間は黙ってさえいればお互いを認識できない、と。この一年間でどれだけ準備を整えられるかが勝負というわけだね」


「そういうことです。状況次第では王都から逃げ出すことも考えないといけないと思います」


「なるほど。他の異世界人の情報も集めた方が良さそうだね」


「危険じゃないですか?少なくても一人、王都付近にいますよ?」


「え、本当かい?」


「王都に来る途中、盗賊の死体があったじゃないですか。あれやったの、おそらく異世界人です」


「なぜ、そう思うんだい?」


「小屋の中に落ちてたもの、覚えてます?」


「ああ、あの金属の筒かい?」


「はい。あれは薬莢といって、異世界の兵器です。銃という、目にも留まらぬ速さで弾丸を飛ばす兵器です」


「盗賊の体や、壁に開いた穴はその銃を使った結果だと?」


「はい。銃にもいろいろな種類がありますが、一秒間に十発程連射できるものもあります。壁の穴はそれでしょう」


「恐ろしい兵器だね。キラ君の魔法で作れないかなあ?」


「構造がわからないのでイメージできないんですよね……。あ、やっぱり駄目でした」


 一応作ろうとはしたが、しっかりとしたイメージができないと作れないみたいだ。

 ていうかトムめ、なんてものを作らせようとしやがる。


「もしかして鬼蜘蛛スーツは銃対策かい?」


「はい、躱すことが前提なので軽量で、なおかつ銃弾を通さない装備を探してたら辿り着きました」


「なるほどねえ。じゃあそのズボンはもしかしてサラマンダーズボンかい?」


「良く分かりましたね」


「オーガスパイダーの糸は火が弱点だからね。サラマンダーの素材でカバーできれば火は怖くなくなる。なかなか考えているね」


 あ、いや、すんません、そこまでは考えてなかったっす。


「でもまだズボンしかないんですよねえ」


「なるほど、そこは僕にまかせてよ。火耐性のある軽い上半身の装備を探してみるよ。オーガスパイダースーツも、お金を受け取ったら僕が代わりに買ってきてもいいよ。そうすれば君は目立たないだろう?」


「本当ですか!?ありがとうございます」


「そのかわりに、例の提案を受けてくれないかな?」


「時々トムさんのために魔法を使うんですよね。いいですよ」


「交渉成立だね。他の異世界人についても何かわかったら教えるよ」


「気をつけて下さいね、銃は俺の魔法と違って、明らかに戦闘用のギ…ものです。感づかれたら殺されるかもしれませんよ」


「無茶はしないでおくよ。キラ君も気をつけてね」


 トム。

 なんていいヤツだ。

 パズもクリスもそうだが、この世界にはいいヤツが多い。

 俺が元いた世界とは大違いだ。

 もしかしてこれがサブギフト『仲良し』の効果なのか?


「で、さっそく作ってもらいたいものがあるんだけど、新しい馬車が欲しくてね、…」


 ……いいヤツのはずだ。

次話明日18時に更新します。

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