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 顔が熱い。まるで心まで溶けてしまうくらい。どきどきと高鳴る鼓動は早く、喉がカラカラで上手く気持ちが声にならない。

 私、愛原イチゴは一世一代の愛の告白をしようとしてる。

 緊張するけど大丈夫きっと大丈夫。

 勇気を出さなきゃ。


「田中君!」


「何?」


 喉元まで出かかった言葉を声にしようとした。けど私の憧れの人、田中義明君は恋心を粉々に砕いた。


「オレ女と付き合ってる暇ないから」


 もうどうしよう何も言えなかった。

 田中君が走り去る背中を見つめるけど目の前が滲んで見えない。フラれたのにそれでもカッコいいと思ってしまう私は馬鹿なんだと思う。

 さっきまで浮かれていたのが嘘みたいに気分はドン底、何もする気になれないよ。気付けば体育館裏にたどり着いていて、私はしゃがみ込んで泣いた。恋がこんなに辛いものなら知りたくなかった。


 もしも恋愛の神様なんかが居たら殴っちゃうんだから。


「それは困るね」


 えっ……と思い。顔をあげると、アイドルも裸足で逃げ出す位に目鼻立ちの整った青年がいて、きょとんとしてしまう。


 この人、誰……?


「君の恋愛を見守っていた神様だ。良かったらツキさんと呼んでくれ」


「かっ神様っ!?」


 確かに平安時代にタイムスリップしたような姿をしている上に、空に浮いてる。あまりにも現実味が無さすぎて、私の涙はいつの間にか引っ込んでいた。


 どうしよう本当の神様だ。


「イチゴ、いきなりで驚くかもしれないけど、もし君が良かったらオレのお嫁さんになってくれないかい」


「い、嫌です」


 どうしていいか分からず、私は一目散に逃げた。


 だって神様だよ。それも本当のやつ。


 しかも神様が私の恋路を何から何まで見てきたと想像したら、恥ずかしくて穴に入るどころか埋まりたくなったわ。

 田中君を思ってニヤニヤした顔とか全部見られてたってことでしょう。


 信じられない最悪の気分だわ。


 そのうえ失恋した直後に告白してくるなんてデリカシーが無い。これが夢であったら良かったのだけど、そんなに簡単にはいかなかった。


 次の日、学校に行って私は唖然とした。だって神様がうちのクラスに転入してきた上に、私の隣の席になるなんて思わなかったから。


 なんてことなの神様助けて! って、しまった相手が神様だった。


 つまり私に救いはない。


 いくら顔が良くて、私の心をなんでも分かってくれる存在でも、これはないよ。


 ちょっと泣きそう。


 相手が神様で上手く破談をするにはどうしたらいいのかな。真剣に考えなきゃ。だって私フラれたけどまだ田中君のことが好きなんだもん。


「まだ未練があるのかい」


「人の心の中読まないでください。それから私に構わないでください」


 そっぽを向けば、体育の授業中の田中君が見えて、悲しい気持ちになった。きっと田中君は三年で、最後の夏だから部活に集中したいのかも、だとしたら私は何を見てきたんだろう。自分の気持ちを押し付けようとして、そうなる前に田中君に断られて、勝手に泣くとか、これじゃあ私面倒な女だ。

 しゅんとした私に神様はニッコリと笑った。


「君は本当に田中が好きだね」


「貴方は田中君に嫉妬しないの?」


「それはないな。だって彼はオレより子供だからね」


 そっか神様は長生きだから田中君は子供に見えるのね。


「イチゴ、君は必ずオレのものにしてみせる。だから覚悟しておいてね」


「手を掴んで見つめても、私は好きにならないからね」


 ツンとすました顔をしたけど、思ったよりずっとしっかりしてる掌は大きくて、少しだけドキドキしちゃった。田中君とは正反対の性格である神様と、果たして恋人になれるかと考えてみても、よく分からなかった。ただ分かることは神様は私と田中君の事に関して何も言わないということだけだった。

 なんでなんだろう。普通恋をしたら浮わつくものなのに、神様にはそれがない。それに気になるのは、私のことを嫁に欲しいと言った癖に、田中君に夢中な私を咎めたりしないのよね。


「まったくもって謎だわ」


「もしかしてオレのこと?」


「そうよ。貴方の考え方がまったくもって分からないの。だって私を咎めないじゃない」


「それはイチゴが幸せなら嬉しいからだよ。この年頃の子は悩んで育つものだからね。納得いくまで考えるといいよ」


 なんか突然子供あつかいされて納得がいかない。それから神様は本当に私のことが好きなのかしら。

 どうしてもそこが気になってしまう。それに心がもやもやする。こんなこと初めてで私は戸惑った。って、いけない神様と私は関係ないのに、それ以上考えちゃだめだわ。

 今はとにかく授業に集中しなくっちゃ。勉強に意識を向ければあっという間に時間は過ぎていった。

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