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na1

入浴を行う上で、5月というのはなんとも微妙な時期だと思う。

夕方の平年気温は20度未満、お湯の浸かった湯船に入るには少し暑い。かといって、暖気のこもっていない浴室にいきなり入ると肌寒さを感じてしまう。

だから我が家では、この時期の浴槽は、最初にスイッチを付けた人間の気分で決まる。

母か私か妹か、寒くなってきたように感じて、湯船に入りたいと思った人間がスイッチを入れる。

付いていようが付いてなかろうが、文句をいう人はいない。

今日は私は一番風呂だった。妹は部活で遅くなるし、母は家事を片付けてから風呂に入る。父が一番風呂になる機会はほとんどない。

なので、今日は湯船にお湯を入れることにした。お湯の中に身体を浸した瞬間、

で、髪を乾かしきって部屋に戻り、デバイスをクレードルから持ち上げる。充電はまだ完全には完了してないけど、今から使うには十分だ。

SNSを開くと、そこには色々なメッセージが送られていて、その通知が表示されている。

一番上にあるのは、サヤにシノからのメッセージだ。

[「ファンキーグルメマッピング」よかったよね!セイジくん格好良かったね!]

そこに出ていたテレビ番組の話題を見て、初めてその番組の存在を思い出した。しまった、SWATのセイジくんが出るから、今週は絶対に見ようと決めていたのに。疲れ切ってたからか。

私は慌ててその事をメッセージに認めた。

返事の代わりに、サヤから音声通話が送られてくる。私はベッドにゴロンと転がって、枕の上にデバイスを置いた。

すぐに枕のデバイスが着信を知らせた。メッセージの着信なら振動は三回程度で終わるはずだが、

「どうしたのさー!あんなに楽しみにしてたのに。録画もしてないの?」

「うー。完全に失敗だったよ……アツキくんの原宿巡り企画どうだった?」

「それがさー」

しばらく、サヤとそんな風に会話を続ける。

十分くらいすると、シノも会話に参加してきた。

「ごめんねー、ちょうどお風呂入ったところだったんだー」

「聞いてよシノ、アキったらさー」

シノが私の失態を話す、何とも耳が痛かった。

「大丈夫、私の家で録画してあるから!明日デバイスの方に移して見せてあげるよー」

「ホント!やったぁ!」

それから一時間くらい、三人で会話を続けた。今日の授業の話とか、クラスの他の人の話とか(恋バナとかね。ちなみに自分たちは恋バナについてとくと無縁)宿題の話とか、放課後遊びに行ったお店の話とか。

「そういえばあの子、イチカ。面白い子だったよねー」

「うん、学校どころかこの街に来たのも初めてっぽかったし」

「また遊びたいよね。連絡先誰も交換してないんだっけ」

「あ、そういえば聞き忘れてた……」

「もう、アキってばいろいろ忘れ過ぎ!次に学校で見かけたらちゃんと連絡先聞いといてよ!」

「はーい」

「なんかアキ、明日も忘れ物しそう。宿題とか」

「……気をつけます」

そんな風にして会話が終わる。

後は私が一人、現実の部屋に取り残される。ゴロンと部屋に転がっていると、私の体が布団と擦れて発する音だけが響く。

誰かと一緒にいられないのが、繋がっていないのが、私には耐えられない?

また話そうと思えば話せる。会おうと思えば明日にはほぼ間違いなく会える。それなのに、人との繋がりが一時的にとはいえ途切れてしまうのは、寂しいと思ってしまう。

サキもシノも、私の大切な友達だ。

特に何かきっかけがあったとかではない。中学時代同じクラスだったからいつの間にか仲良くなって、いつの間にか一緒にいる時間が増えて、同じ高校に進んで、その関係をずっと続けているのだった。

三人とも、特に部活をやっているわけでもない。ただ三人で楽しい時間を過ごしている。

他の二人は分からないが、少なくとも私は、二人と一緒にいられる時間が幸せだった。今日みたいに、他に人が増えるのも大歓迎だ。

私が、一人ぼっちの状態だ。今のような一時的な孤独でも、さっきまで人と繋がっていた状態にいたせいで、その落差が辛さを増加させる。

ん?じゃあ一緒にいられれば誰でもいいのか?もし仮にサキやシノが突然私から離れて、イチカがそのポジションに落ち着くような状態になったら?もしそれで満足できるなら、友達って一体なんなんだという話になっちゃう。

あーダメだ、一人でいるとどうしても余計なことが頭に浮かんでしまう。

ブーブー。

デバイスが着信を知らせると、反射的にそれに飛びついてしまった。サヤか、シノか、それとも他の誰かか。

メッセージを開いた瞬間。

画面の中に描かれた物が、飛び出してきたような感覚におそわれた。

それはまるで魔女の鍋のように、いろいろな色をごった煮にしたような、名状しがたいものだった。

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