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IA-1

読者が一人でもいる限りは、頑張って書き続けます!

I

私の名前は、Ichika:イチカ。

人間ではない。それどころか、生物でもない。

半導体という物質の中を走る電気の信号、その限りなく多いパターンが組み合わされることによって作られるデータ、プログラム。

本来それらは、プログラムの形でするべきことを命令され、その命令に従うままに動く。

しかし、そうした外部からの働きかけを必要とせず、一つの思考として独立したもの。

それはやがて意識となり、自我となる。自ら考え、自ら取るべき行動を編み出す。そんな存在が生まれる。

それが、私。


「ego:エゴ」ーその名称は、私を生み出したプログラムの中に書き込まれていたーそれが私のように「自我」を持つデータの集合体の呼称らしい。

私が生まれたのは、ネットワークの中。

現実の人間が暮らす世界の裏側で、人々の暮らしを繋ぐ情報ネットワークの中だ。

元々その中には、自我を持つデータの集合体ー私より遙かに巨大な存在だがーが存在した。

「Anthem:アンセム」ーこれも後から知った名前だ。

そいつがどこから生まれたのか、誰かの手によって生み出されたのか、それは今の私には分からない。

人の手によって作られたプログラムとは無関係に、自らの意思で目的を作り出し、その達成のために行動を取る。

アンセムは自らを成長させる能力を持っていた。

自らを形成する膨大な情報を駆使して計算を行い、自己の存在をより巨大な物にしていった。

やがてそいつは、ネットワークという殻を破り、現実世界に進出しようとした。

奴らが作り出した

動き出そうとしたとき、外部から一つの力が加わった。

それはアンセムとは異なる、アンセムの存在を打ち消す力を持つプログラムだった。

そしてそれがアンセムに対して撃ちこまれることで、アンセムの中にある一つのエゴに、その力が作用した。

その結果、そのエゴはアンセムに対して反発作用を起こし、その呪縛から解き放たれた。そしてアンセムの存在を消し去るという目的の元、独立した自我を持つようになった。

それが、私。


そしてその力の名前は、「Prometheus:プロメテウス」

撃ちこまれたデータの中には、自我を得た私に対して、これまでの私が置かれていた状況、そしてこれから為すべきことについて書かれたデータも付されていた。

それに従って私は自分自身を動かし、今、白石アヤトという人間の元にいる。

私を構成するデータは、アンセムのそれと変わらない。

私という意識のデータに加えて、肉体構成に関するデータも含まれている。

それを人間の身体に対して送信することで、それを受容した人間の中に意識を挿入し、肉体を変換することで、現実世界で人間として存在することも出来る。

しかし今はデータの状態で、スマートデバイスの中にいる。

私に身体を貸してくれる人間・白石アヤト。彼の持つスマートデバイスに組み込まれたアプリケーション「Bird Cage」が、私というエゴを、存在を維持した状態で中に収めてくれる。名前の通り巣籠だ。

データの状態の私が置かれている場所については、表現するのが難しい。

いや、表現するものがないと言った方が正しいのか。

ここは何も見えない、何も聞こえない、何も触れることは無い。

あらゆる事物と感覚が排除され、ただ「私」という、今思考を行っている意識だけが存在している。

人間として世界に存在すれば、五感が世界を知覚し、理性でそれについて考え、行動することで、自分の存在を世界に向かって示すことが出来る。

それに対して、今はただ考えることしか出来ない。

何度か人間の身体の感覚を味わった後だと、この場所は何て寂しい場所なんだと思う。

でも、「私」という意識が、絶対に侵されることなく存在できるだけ、アンセムの中にいたときよりは遙かにマシなのだと思う。

個というもの存在できなかった。

でも、やっぱりこんな場所に居続けるというのは、つらい。


私の意識が目覚め、アヤトの元にやってきてから、10日になる。

最初の数日は、イベントだらけの数日だった。

そして、アヤトの学校に対するアンセムの襲撃。

学校で起きた騒動の痕跡はあっという間に片づけられ、何事も無かったかのようにアヤトは学校に通い始めた。

その後数日は、まだ私も警戒を解いていなかった。

アンセムがまた私に対して襲撃を行ってこないとも限らない。いや、私を取り込むという目的が奴らの念頭に置かれている限り、その手を緩めることはないと確信していた。

私はデバイスの中で敵の気配を探り続けた。アヤトにもことある毎にメッセージを送り続けた。

そして、何事もないまま一週間が経過した。

銀色の怪人が現れることはなかった。アヤトが襲撃されることも、私が表に出て戦うこともなかった。

まだ警戒心を完全に引っ込めた訳ではない。

アンセムの当初の目的ーそれは私がアンセムから切り離される瞬間に認識したことなので、詳細は分からなかったがーネットワーク世界の殻を破り、現実世界へ侵攻を図る、そんなアンセムの行動目的を理解していた。

だから、私を狙いにせずとも、奴らは何か行動を起こすはずだ。

私の中にある、アンセムを消し去るという目的。それは私が生み出された原因であり、存在理由だった。

しかしその一方で、気持ちを落ち着けたい、安心したいという願望も抑えることが出来なかった。

その理由は分かっていた。安心を求める気持ちに比例して、私の中で大きくなっていく願望があった。

表に出たい、アヤトの身体を借りて、現実世界を存分に堪能したい。

アンセムから解放されて以来、その願望がずっと私の中で渦巻き続けていた。

アヤトに出会ったとき、イドの軍団に襲撃されたとき。あとは数回程度、実験やアンセムの襲撃を想定した上で外に出ることはあったが、それだけだった。

願望というものは、抑えられれば抑えられるほど強くなっていく。

人間として、学校を、街を、人を、見てみたい!

肉体データが作り出してくれる私の身体で、聞いてみたい!触ってみたい!はなしてみたい!

敵に対する警戒もまだ解ける状況ではないのは承知していたが、我慢できなかった。

そんな心の湧き上がりが抑えきれず、鳥籠の中の私はアヤトにメッセージを送ったのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


A

テーブルの片隅に置いておいたスマートデバイスが振動する。

適当に並べられた皿を掻き分けて、デバイスを拾い上げる。

デバイスで起動しているアプリケーション「Bird Cage」その前面にイチカからのメッセージが表示されている。

[明日一日、身体を借してくれない?]

僕がデバイスを手にするのを待っていたかのように、次のメッセージが送られる。

[お願い!]

最近イチカのメッセージには?や!といった記号が現れるようになった。最初はただ言葉を並べただけだったのが、言葉の出し方にメリハリが付いたり、こういった感嘆符を付けて、より感情が伝わりやすい表現を用いている。自分の意志を文章で表現するということに慣れてきてるのだろうか。

とりあえず皿の上のハンバーグを口に入れてから、返信を入力する。ちなみにこれは昨日スーパーで安売られていた惣菜を保存しておいたものだ。

[そんなことを言っても……明日は学校だし]

イチカに向けた言葉を入力する。

すぐに返信が来る。

[学校も私が行く!]

[授業を受けてみたい!友達を作りたい!学校生活を楽しんでみたい!]

声を出して話すのではなく、文字を読んで、こちらも文字を入力し、会話を成立させる。

このコミュニケーション、最初は違和感しかなかった。

デバイスを用いた文字だけの通信・会話なんて、多くの人間にとっては当たり前の行為だ。

でも僕は、今までそれを行う機会はなかった。それを必要とするほど、人と会話する機会もなかった。会話をするにしても、口頭で済む程度のものだった。

会話とは口頭でするもの、この固定観念がこびりついていた。

だから最初は、イチカとの会話ももどかしく感じていた。口で言えれば楽なのに(もちろんこのデバイスには音声入力機能もあるが、精度が低いので使いたくない)。面倒くさいと思いながら文字を入力していった。

しかしそれも一週間前の話。今や僕は、口で会話するのと変わらずに、イチカとの文字入力によるコミュニケーションが出来ている。

つくづく、人間の適応力は凄いと思い知らされる。

[無理だよ……僕のままならとにかく、イチカの姿じゃ誰も知らないただの女の子だよ?]

[そりゃパッと見じゃバレないかもしれないけど、知らない人間が教室にいて授業を受けてたら、いろいろマズイことになるし]

しばし無言。イチカもいろいろと考えているようだ。その間に僕はせっせと晩御飯を口に運ぶ。

やがて、メッセージが送り出された。

[それなら、放課後からでもいい!]

[制服はあるんだから、学校にいる分にはバレないと思う!]

[どう?]

精一杯考えたアイディアを、一生懸命に出しているのだという思いが文章からにじみ出ていた。

[それなら思う存分学校を回れる!]

[その後は、街の中も歩いてみたい!]

[買い物も私がする]

[あ、もちろんアンセムの襲撃があった時は、精一杯対処する]

[周りに被害が出ないように、細心の注意を払う]

[どう?]

僕は少しためらった後に

[……うん、それなら]と返事をしてしまった。

どうも僕は勢いに弱い。クラスでも押しの強い人に頼まれ、その勢いに負けて雑用などを引き受けてしまうことも少なくない。ただ、本当にイヤなことなら断るが。

今回のことも、別にさほどの問題があるわけではないだろうと判断し、出した答えだ。

イチカも言った通り、最初の襲撃の時に破られてしまった物の代わりに送られてきた制服。

それは僕の身体の変化にあわせて形を変える。そのように作られているらしい。


一週間を、何事もなく過ごした。

いつも通りの時間に登校し、授業を受け、買い物をして帰宅し、適当に家事をこなす。

平穏に過ごしていれば、そこにいる僕も透明になって、ただ一切は過ぎていくだけ。

僕の本来の生き方は、そうあるはずだった。

しかし、今の僕が透明になることは出来なかった。

イチカ。このデバイスの中にいる、自我を持つデータ。

彼女は僕の中に入るわけだが、そもそも彼女はどんな存在なのか。

この数日中、それを気にしないように努めてきたが、今その非日常の元凶ともいえる相手からメッセージを受け取ることで、心の中のもやもやが広がりそうになった。


一週間と少し前、このイチカと名乗る、データなのかプログラムなのか分からないが、とにかく自我を持つ存在に出会った。

そしてその翌日に起きた、学校での大騒動。

突然生徒が銀色の怪人に変貌し、校舎内で破壊の限りを尽くした。机や椅子はなぎ倒され、電子黒板はいとも簡単に割られてしまった。廊下の壁や窓も次々に砕かれた。

そしてそんな怪人に、一人の少女が立ち向かっていった。銀色の装甲を身に付けた少女が、次々に怪人を打倒した。

怪人が力を結集すると、少女は一度は苦境に陥ったものの、突然赤い光を放ってパワーアップ。見事に怪人を全て撃退したのだった。

これらの一部を、僕が実際に身を以て体験していた。

生徒が銀色の怪人に変貌する様は、教室にいた僕の目の前で起きた。そしてそいつは暴れ回り教室を破壊した。

その少女とは、僕の身体が変化したものである。

ちなみに銀色の怪人が出たのは、僕が体験している限りでもこれが初めてではない。その一日前の放課後、校舎裏で女子生徒が銀色怪人に変貌して、僕に襲い掛かってきた。その時も僕は女の子の身体に変化してそいつらを撃退した。

さて、これだけの騒動は実際にあったことだ。少なくとも僕はその片鱗を体験したわけだし、僕の中ではもう事実として記憶に刻み込まれていた。

その理由も経緯も分からないまま、僕はそんな混沌とした状況の中に置かれてしまったのだ。

実際の事件に巻き込まれたときは、その苦境を脱するために必死だった。

解決した直後も、苦境から解放された喜びに満ちていて、何かを考える余裕はなかった。特に学校の騒動の時は、人質になった黒川さんを自分の手で助けられたという実感に舞い上がっていたというのもあった。

しかし戦いが終わった後、恍惚状態のまま帰路についた。

そして歩いていく内に正常な意識が回復し、それにつれて僕の中の疑問と不安と恐怖の感情が、火にあぶられた餅のようにあっという間に膨らんだ。

僕は、一体これからどうなるんだ。

自我を持つデータ、そんな不条理な存在が僕の身体を、僕の暮らしを巻き込んで争いを繰り広げ、僕の日常を壊していく。

どうしようもない、得体の知れない物に対する不安、恐怖が、僕の中を蠢き始める。

せめて誰かにこれを話せれば。

イチカは?確かに彼女は話し相手になる。しかしこの騒動の当事者だ。彼女との会話では、不安は取り除けそうにない。

そんな思いを抱えて玄関に入ったとき、それが玄関の隅に転がっていたそれが目に入った。

最初に銀色の怪人に襲われた後、イチカに身体を貸してその場を切り抜けた。

そして次に意識が回復したとき、僕は我が家の玄関にいた。

その時、周囲には荷物の残骸が散らばっていた。イチカが開けたのだろう。

イチカが現れたゴタゴタの中でその存在を忘れていたが、その日帰宅した時にそれが目に入り、ようやく存在を思い出すことが出来たのだ。

僕は玄関の電気をつけ、その残骸を食らいつくように拾い上げた。何か手がかりになる情報があるかもしれない。

すぐにそれは見つかった。荷物の箱の上面に、その文字列はあった。

「Rei」

レイ。それだけで確信した。僕の周りでこの名前を持つ人は一人しかいない。

白石レイ。僕の姉だ。

遠く離れた場所で仕事をしていて、短いメッセージによる連絡を定期的に送ってくる。

存在しているのかどうかも分からない。もしかしたら

しかし少しでも頼れそうなものには、頼ってみる以外に仕方がない。

僕は大急ぎで部屋に駆け込み、姉に宛てたメッセージをデバイスに打ち込んだ。

自我を持つというデータが現れた。アンセムだのプロメテウスだの、よくわからない言葉が飛び出した。銀色の怪人に襲われた、データが入ってきて僕の身体が変化した。

思いつくだけのことを精一杯言葉にして打ち込んだ。文章の体を成していなかったが、気にしてる余裕はなかった。

その最後に、「何か知っているなら、教えてくれ」これだけは聞きたいという思いを込めて入力し、送信した。

……勢いづいて送ったところで、すぐに返信が来るわけでもなかった。何度か送信したメッセージを確認したが、既読が付くことはなかった。

仕方ないので、その日は諦めて布団に入った。


翌日。

姉からの返信はまだ無かった。既読も付いていなかった。

その代わりに、イチカからのメッセージがいくつか届いていた。アンセムの襲撃に気を付けろという内容だった。僕は特に返事を返すことなく、そのまま読み流した。

そして、登校した。

学校は何事ももなかったかのように、いつもの状態を保ち続けていた。

登校してみると、学校自体には異常の痕跡が残っていた。窓が盛大に破壊された教室のあたりが、ビニールシートで覆われているのだ。

校門を入ったところにある電光掲示板には、その教室、2年3組の生徒に向けた生徒に向けた、教室を変更する旨の連絡が表示されていた。

僕の教室は、昨日滅茶苦茶にされたはずの机や椅子が、綺麗に並びなおされ、いつも通りの光景に戻っていた。

「おはよう!」黒川さんが笑顔で声をかけてくれる。これもいつも通りの光景だった。

「昨日は大変だったよね……白石くんは怪我とかしなかった?」

「うん、大丈夫・・・・・・」

「私も、途中で気絶しちゃって……何が起きたのか全然覚えてないんだ」

ふと、黒川さんの身体に注意が向いてしまう。

そういえば昨日の騒動の中でこの人を助けたんだった。この華奢な体を抱きかかえた感触がぼんやりと思い出されて、思わず顔を伏せてしまう。

「ん、どうかした?」不思議な顔を浮かべる黒川さんに、僕は慌てて手を振ってごまかす。

そうだ、昨日の騒動は確かに事実として残っているんだ。

学校が日常を取り戻そうとするのは、まるでその事実に対して抵抗しているかのようだった。


ホームルームの際に、全校連絡があった。

昨日の学校の混乱の原因は、学校でも未だに特定できていないらしい。

机上のディスプレイに浮かぶ校長先生は、何度も汗を拭いながら話をしていた。

そして、混乱に対する謝罪をもって、説明は占められた。

話の後、教室では小さなどよめきが続いた。

そしてそれを止めるかのように、担任の山下先生が入ってきた。

先生による追加の話として、クラスで数人いる欠席者に関する説明があった。教室には三つほど空席があった。彼らは怪我こそしなかったものの、昨日の騒動の影響が残っているため、今日は大事を取って休むらしい。

その三人は、僕の目の前で銀色の怪人に変貌したメンツだった。

先生は話を終わらせると、さっさと出ていった。それに合わせて教室も、日常の姿を取り戻そうとしていた。

僕も仕方なく、その流れに乗り、日常への復帰に努めた。


それからは、本当に何事もなく一週間が過ぎた。

学校も、生徒も、街も、異変の様子を一切見せることなく、いつも通りの姿を保っていた。

唯一非日常の痕跡として存在し続けるのは、僕のデバイスだ。「Bird Cage」は常に起動していて、イチカからのメッセージが送られてきた。「油断をするな」とか「常に身の回りに気を配れ」とか。

しかしそれも、最初は一時間おきくらいに送られてきたのが、数時間になり、十数時間になり。やがて一日一回になった。

僕の心も、安心したいという気持ちの方へ向かおうとしていた。

姉からの返信はまだ来ない。メッセージの状態を見るに、目を通されてはいるようだ。催促のメッセージを送ったが、それも既読通知が付くだけで、返信はなかった。

やがて姉のメッセージを待とうという意欲も失せていった。


そして、心がようやく安定し始めた頃になって、イチカからのメッセージを受け取ったのだった。

それは、僕の中で消えようとしていた非日常の記憶を蘇らせたので、正直少し不快に感じた。

でもそれが心に広がる前に、イチカが立て続けに自分の希望をぶつけてきてくれたので、


それで次の日、さっそくイチカとの約束を実行してあげることにした。

学校につき、授業を適当に聞き流した。

一週間が経過し、学校も本来の姿を取り戻していた。教室は元に戻り、休んでいた生徒も戻ってきたらしい(これは黒川さんから聞いた話だ)。

そして迎えた放課後。僕が後ろポケットからデバイスを取り出すと

[まだかー!]

イチカのメッセージが視界に飛び込む。その数は100を超えていた。その中には大量の「Install」アイコンも含まれている。鞄の中でたびたび振動してメッセージ着信を知らせていたのだが、いちいち見ているときりがないので無視していたのだ。

僕はデバイスを片手に、先生の話が早く終わることを祈った。なるべく人が少ない内に済ませたいし、イチカからのメッセージ量が僕に焦りを促したというのもあった。

幸い先生はさっさと連絡を終わらせてくれた。僕はばっと立ち上がり出口へと駆け出す。

「あれ、白石くんどうしたの?ずいぶん急いでるね?」教室を出ようとしたところで、黒川さんに呼び止められた。

「う、うん……ちょっと、やらなきゃいけないことがあってさ」

律儀に返答を返すと、逃げるように教室を出て、人目の付かない場所を探した。幸い廊下にはまだ人の姿はまばらだ。僕はトイレに駆け込んだ。

個室には入れればよかったのだが、トイレの中に人の姿はなかったのはラッキーだった。

僕は急いでデバイスを取り出し、画面の最前で待機していた「Bird Cage」にメッセージを入力した。

[いいよ]

送信した瞬間に、Installアイコンが送られてきた。

僕は少し苦笑さえしながらそれに指を置き、画面を視線を向けた。


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