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童話パロ

姫と王子 ―星々の導き―

作者: 葡萄鼠

七夕は過ぎてしまいましたが、【童話パロ企画】で唐突に思いつき仕上げました。第2弾。ちょっとうまくう童話のパロになっているか不安ですが……。楽しく読んでもらうことができれば満足です!

 初夏の爽やかな風が生温く変わり始めるころ。余計に暑さを増す存在が、変わらず私にひっついて周る。


 一人の女が仕事をの手を休めずにカタンカタタ……と機械の音だけが響く中、ひょっこり男が現れた。

「なあ、(おり)

「なに」

「そろそろ星渉りの日だし、どっか行かないか?」

 男はウキウキと声を弾ませながら言うが、織と呼ばれた女はバッサリと斬り捨てる。

「面倒くさい。っていうか、夜まで仕事だしそんな暇はない」

「!!」

 目に見えて男は驚き、そして意気消沈した。

「……なんでだよ。そりゃあ、明確に休日だって決められている日でもないし仕事もあるんだろうけどさぁ」

「わかってるなら聞かないで」

 女は一度も男の方を向くことなく、手元に集中している。

 この二人の関係は今の所ただの親しい友人(もしくは知人)止まりのようで、男の一方通行のようだ。

「あ、でも仕事は夜までなんだよな? だったら織の仕事が終わってからでいいから会おう!」

「え――…」

「いっぱい食べる物も、飲み物も、おつまみも、お菓子も用意するからさ!」

 男の必死な誘い…もという食欲に織の心は簡単に動いた。

「……仕方ないわね」

「よし、決まり! じゃあ、また迎えにくるからさ!」

 先ほどまでの落ち込みっぷりが嘘のように足取り軽く、男は「何作ろうかな~。冷やし中華だろ? ああ、でも担担麺も好きだしなー」と、早速約束の日のメニューを楽しそうに思い浮かべている。



        ❀



 そして約束の星渉りの日――


 織が仕事をちょうど終えた時、男が満面の笑みを浮かべて現れた。

「織、迎えにきたよ!」

「はいはいはい」

 いつもはクールな顔を今日ばかりはこの後の御馳走を思い浮かべているせいか、小さな笑みを浮かべて男の方へ向かう。

「で、彦。今日のメニューは?」

「メインが冷やし担担麺。前にスープがないのが難点だって言ってたから、暖かい面に冷たいスープをかけてもよし、つけてもよし、で食べれるようにしてみた。後は一口サイズのおにぎりを数種類、野菜は十種類用意して温野菜にした。スープはビシソワーズで、おかずは魚のすり身で作った団子入りの煮っ転がしと小龍包。デザートは果肉たっぷり色々シャーベットに、生クリーム控えめフルーツたっぷりミニケーキだよ」

 男…彦がずらずらと並べていく数々のメニューに、織は嬉しそうに微笑みながらも最初の一言は感動でも喜びでもなかった。

「――和洋折衷ね」

「織の好きなもの詰め込んだからね」

 そんな反応も予想していたのだろう。彦は終始笑顔で今にもスキップしそうなほど明るかった。織が誘いにのってくれたことが余程嬉しいらしい。

「まあ、これぐらいしてもらわなきゃ、何のために今まで手塩にかけたのかわからない」

「手塩にかけられた覚えはないんだが……」

「あら、誰のおかげでここまで料理が上達したと思ってるの?」

「――ほかならぬ織様のおかげでございます」

「あら、わかっているならいいのよ」

 日も完全に降りた夜の道を、織は意気揚々と、彦は少し落ち込みつつ日此の家へと向かう。



「っぷは―――!! やっぱり最高ね! この広々とした縁側で上も下も星に囲まれながらの食事は良いわね」

 織は縁側に座り、用意されていた大量の料理を口にしながら満足気に頷く。彦といえば、大人しく織の給仕係に徹して飲み物を注いだりお皿に料理を盛り付けたりしている。

「ああ、美味しい料理に綺麗な星たち―――完璧ね」

「それはようございました」

「ええ、幸せよ」

 彦の若干の皮肉をこめた言葉にも気づかずに、織は上機嫌で相槌をうつ。

「ああ、そういえば。短冊に願いを書いて笹につるすと願いが叶うんだっけ?」

「まあ、そういうことになってるらしいけど」

 ある程度織の箸が落ち着き、彦も腰を下ろして自ら作った料理を食べながら返事をする。

「そんな程度で叶う望みなんて、たかがしれてるわよね」

「夢があっていいじゃないか」

「昔…というか、子どもたちは別にそれでもいいのよ。でもいい年の大人になって、望みなんてそう簡単に叶いやしないこともわかった人たちが神頼みという名の人任せは見ていて片腹痛いわ。それに、本当に叶えたい願いや望みは自分の力で叶えてこそでしょう。他者の力で叶えてもらったっても意味がない」

 織はつまみを口にしながら、そう独り言のようにぼやく。

「―――それでも、他者の力を借りたくなるときはある。俺はそうだ」

「例えば?」

「俺は将来好きな人と結婚したい。でも、それは一人じゃ叶いっこない望みだ。必ずもう一人、相手が必要で。彼女が同意してくれて、一緒になることを望んでくれなければ駄目だ」

「ああ、なるほど。確かにその場合は望みを叶えるのに他者の力も必要だけど、そこまで持っていくのは彦自身の力の見せどころよ」

 織は謎解きに一つの答えを得たような、子どものように無邪気に笑いながらそう言う。

「ふふ……。でも、当分は無理そうね。こーんなこぶ付きがいるんじゃ結婚までの道のりは遠いわよ」

「――だな」

 そんな織の反応に、いつものことだが彦はどうしても落ち込んでしまう。

「あーあ、私にも人間たちのお話しに出てくる彦星様みたいな運命の人がいたらなぁ」

「……ここにいるだろ」

「ん? 何か言った?」

 ぽつりと零れた本音は、織の耳に届くことはなかった。

「いいや、何も」

「そう」



        ❀



 そして夜も大分更けてきた頃。

「織、いい加減そろそろお開きに……」

 そう言いながら片付けを終えた彦が織のいる縁側に近づくと、小さな寝息が聞こえてきた。

「――寝たのか」

 穏やかな寝顔はとても気持ちよさそうで、見ているこっちまで何だかホッとする。

「ったく、こんな無防備な顔晒しやがって。こっちの気も知らないでいい気なもんだよ、本当に」

 彦はそっと眠る織の額に手を伸ばし、かかっていた髪を優しくのけて撫でた。

「お前が恋に臆病なのは知ってるよ。それでも俺はお前が笑って傍にいてくれるだけでいいんだ。お前といるとドキドキするし、安心感と充足感に満ち溢れるんだ。それは恋なんてものじゃない。世界の誰よりもお前を、織を、愛しているんだ」

 そっと紡がれた愛の告白。そこには確かな熱と真摯な響きがあった。

「――なんて、お前が寝ている時に言っても意味がないのにな」

(ホント、俺の意気地なし)

 溜め息を一つついて、彦は織が起きないようにそっと体を抱え上げて寝室に移動して横にした。

「――おやすみ、俺の織姫様。どうか、良い夢を……」





 足音一つたてず彦が静かに部屋から出て行ったあと、織はそっと閉じていた瞼を開いた。

「……バカ。気づいてるわよ、とっくの昔に」

 そう、小さく呟いた。

「誰があんな誘うように無防備でいたと思ってるのよ」

(キスの一つでもしなさいよ、この……」

「意気地なし―――――」




 暑い夏の夜。紫紺の空に煌めくのは、数多の星粒。そして特別明るく輝く二つの星。星の川を挟んで強く輝く星たち。まるでお互いの存在を光あふれる世界でも埋もれないように、相手に気がつかせるようにキラキラと輝いてみえる。


 






❀side:織❀


 愛しい、愛しい、私の半身。川に橋がかかるこの日がいつも、二人の運命の日。一年に一度のこの日を励みにいつも頑張ってきた。それでも、中々想いを伝えることができないままいくつもの時を超えてきた。

(――でも、ね)

 ふっと、織は微笑みを浮かべた。

(私はただ従順な、大人しいお姫様なんかじゃないの。追うより追われたい。ねえ、貴方は私を捕まえられるかしら? 私を縛る者はなにもない。貴方も私を縛れないのよ? ――でもね。もし、貴方が私を捕まえられたときは、縛られてあげてもいいかな。 一応私だって、貴方の事、好きだもの。そう、1年に1度の逢瀬じゃ我慢できないくらいに。世界中の誰よりも、貴方を愛してる。 でも、貴方がこの想いを聞けるのは、私を捕まえた時だけ)



 ―――私を捕まえてごらん。私だけの……彦星様。





❀side:彦❀

 愛しい、愛しい、俺の半身。川に橋がかかるこの日がいつも、二人の運命の日。一年に一度のこの日を励みにいつも頑張ってきた。それでも、中々想いを伝えることができないままいくつもの時を超えてきた。

(――でも、な)

 ふっと、小さく笑って星を見る。

(俺はお前のことを愛しているんだ。この想いも覚悟も半端なものじゃない。そろそろ俺も本気をだしてみようと思う。一度捕まえたら、嫌だと言っても絶対に離してやらないからな。今はこの追いかけっこを楽しむだけでいい。でも、今まで振り回された分今度は俺がお前を捕まえて愛を囁いて離してやるものか)


 ―――まっていろ、逃がしてなんかやらないからな。……俺だけの織姫様。


閲覧ありがとうございます。


誤字・脱字・アドバイス・感想など、何かしら頂ける場合にはぜひとも感想フォームにてお願いいたします。

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文法上誤用となる3点リーダ、会話分1マス空けについては私独自の見解と作風で使用しております

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