一人の運転士と8人の乗客
中々飲み込めない事態に苛立ちを隠せない乗客
様々な職業や名前を確認するために
元教師中村伝が立ち上がる。
スマホを取り出した男は
『チェッ』と舌打ちをしてスマホをしまった。
その男へ高橋真弓は詰め寄り
『突き飛ばすなんて酷いじゃ無い』
『あんたが何時までも
運転士の前にボーッと立ってるからよぉ…』
『私はアンタじゃ無いわ
高橋真弓と言う
れっきとした名前があるんですからね!!』
『おお おお怖いねぇ
気の強い姉ちゃんだ』
『貴方 私が名乗ったのよ!
貴方も名乗りなさいよ』
『まるで、言い掛かりだな!
あんた…あの日か?』
『バッバッカじゃ無いの?デリカシーの無い男ね!!』
延々と続きそうな
言い合いに
一人の男が口を挟む
『もう…それ位にしたらどうだね?
いくら言い合っても事態が改善される訳ではあるまい
ここは…
礼儀として名乗っておこう。
私は…中村伝元教師だ
今は定年を迎えて
悠々自適な老人じゃ』
中村は定年を迎えたとは言えまだまだ若々しく
ロマンスグレーの髪も
キッチリと手入れしてある。
流石に年長者にこの様に出てこられると
毒気を抜かれたのか?
『私は高橋真弓と言います。米子空港の売店に勤めてます。』
『俺は…太田浩一
東京でIT関係の会社を経営してる。』
そこで…中村伝は車内の中央に歩み出し
『何だか理解の及ばない事態に我々は巻き込まれた様だ。
どうだろう…
ここは一つみんな自己紹介しないか?
全く対応が出来ない中で
名前も分からないというのは…何かと不便だからな。』
流石に元教師…
あっという間に車内の不穏な空気を沈めてしまった。
『私は運転士の片桐勇と言います。
只今…何とか連絡を取ろうとしてます。
もう暫くお待ちください』
と運転席に戻り…
連絡を取ろうとした。
それを制する様に
中村は…
ソコのお嬢さん?
と指名した。
指名された女性は
『私は広島で看護師をしています。
白石佳江と言います。
境港へは観光に来ました』
中村は涼しい顔でベンチシートへ腰かける
サラリーマンへ向かい
『最後は貴方です』と
指名した。
そのサラリーマンは
ゆっくりと立ち上がり
『私は…中々巷には出回る事の無いモノを取り扱う
悪魔堂…営業部主任
カモメと申します。』
と恭しく挨拶をした。
先ずは何を優先すべきか?
車内の人間模様をお楽しみ下さい。