車内では②
対応の遅さに苛立ちを隠せない男
さて情況が把握できない不安だけが募っていく
その微笑ましい親子の会話を
その横で聞いていた青年が微笑みながら
『僕…良かったな…』
『うん!!』と翼は元気よく返事をした。
青年は
『おおっ!元気の良い返事だ!僕?…名前は?』
『たけのつばさ!!
お兄ちゃんは?』
『お兄ちゃんの名前はな?塚本淳ってんだ!
いいかな?
つ、か、も、と、じ、ゅ、ん』
『何をしてるの?』
名古屋の方で大学生をしてる。』
『すごぉ~い
イッパイ勉強してるんだね?
お母さんが大学にはイッパイ勉強しないとなれないって言ってたもん!』
塚本淳は軽く苦笑いを浮かべた。
受験勉強は確かにした…
しかし…大学に入ってからはバイトに追われ
単位を落とさない様にすることが
全てを占めていた
大学生が休みに入り
二泊三日の旅行に来ていた。
名古屋駅から東海道新幹線を乗り継ぎ山陽新幹線を岡山で伯備線に乗り換え
昨日は米子のビジネスホテルに停まった。
一応宿泊代を浮かせる事も考え
リュックの中には
最低限の装備は入っている。
塚本淳は…
またも竹野翼に微笑みを返し
敢えて現実とのギャップは口にしなかった。
母の竹野友子が…
『すみませんねぇ
この子が失礼な事ばかり』
『いいえ…
何も失礼な事などはありませんよ』と
翼の頭越しに大人の当たり障りの無い会話を交わした。
塚本淳の隣に座るサラリーマンが
クピリとペットボトルの水を口に含み
コクリと喉を鳴らした。
さて時間を元に戻すとしよう…
全く覚えの無い車窓から目が話せない車掌の片桐と
高橋真弓
暫く経っても次の車内放送も行われて無い
遂に一人の乗客が
高橋真弓を押し退け
片桐に詰め寄る。
よろけた真弓にチラリと視線を投げ掛けただけで
片桐に向かい
『何の状況説明もないとはどういう事だ』
『誠に申し訳御座いませんいくら呼び掛けても
米子駅どころか
主要な連絡先にさえ応答が無いのです。』
『それならそれでキチンと乗客に説明をする
義務があるだろ?』
片桐はうつむき加減で
運転席のしきりとも云えない扉を開けて
客室に出てきた。
『お客様大変申し訳ありませんがもう暫くお待ちください
主要な駅との連絡が取れ次第事態の収拾ははかれると思います。』
先程の男が少し声を荒げ
『だから!事態を今何があったのか?
それを説明しろと言っているんだ!』
『誠に申し訳ありません…何が起きたのか
何が起こっているのか?
何が起ころうとしているのか?
私には見当すらつかないのです。』
と片桐は苦悶の表情で答えた。
『話にならん!!』と
片桐に詰め寄る男はスマホを取り出し
連絡を取ろうとしたが
ディスプレイは何も反応しなかった。
携帯は全員使えないのか
まだまだ状況をつかみきれない乗客
ただ…時間だけが流れて行く