車内にて⑤
中村も嗚咽の声をあげることさえ忘れ
白石さえも竹野友子を侮蔑の表情で見詰める
高橋真由美は
『私や片桐さんには
どんな過去があるというのですか?』
『お二人には暴かなければならない過去等有りませんよ。』
『ならば…私や片桐も契約の資格はあると思ってても良いのですね?』
『それは…
違います。』
『何故?どうしても塚本さん一人に重荷を負わせるつもりですか?』
『貴女が疑問に思う事は
もっともです。
それは…貴女が自分の魂を他人と比較したことが無いからなのですよ。
今見たでしょ?感じたでしょ?
人間の醜さ、浅ましさを
しかし…彼らの魂がくすんでいたり汚れていたり…
況してや汚い訳では無いのです。
ただ…己の置かれた立場、状況、環境に流され
魂に傷が出来てしまった
と、言うだけなのです。
美しい魂は
厳選しなければいけません。
一つ喩えとして
川原に転がる丸い石ころ
を思い浮かべて下さい。
それは…長い年月を掛けて角がとれ、
あの丸い形になります。
あの形を見て嫌悪感を抱く人は少ないでしょう?
でもいくら洗っても磨いてみても…喩え外観全てが変わったとしても…
川原の石に変わりはないのです。
決してサファイヤやルビーやエメラルドには
況してやダイヤモンドにはならないのです。
ですから手に取って眺め
楽しむ事は出来ますが
決して…
契約の対象とはなりません』
『それじゃあ…
やはり…我々の運命は
塚本君に委ねなければならないのか?』
『そうですよ中村さん…
この場に塚本さんが
居るからこそ
契約を結びませんか?
と、申し上げているのです』
暫くの沈黙の後…
『塚本くん?
どうだろう?…契約を…
いや!
私の命は構わないのだが
将来のある
翼くんには少し酷だとは思わないか?
高橋さんにしても
将来がある…
片桐君にも家庭があるだろう?
白石さんや竹野さんには
やり直すチャンスも
必要だ
ここは…
一つ…君には申し訳なく思うが
悪魔…いやカモメさんと契約を結ぶ事は出来ないか?』
塚本に翼と太田以外の視線が降り注ぐ
10個の視線に耐えきれず
塚本は足許に視線を落とした。
次回もお楽しみください




